陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第十五章・第八節〕

 彼女の身体が輝き始めた時、仁はひどく動揺したものの、それ以上に、まるで雷に打たれたかのような衝撃を感じて立ち竦んでいた。

口元にだけ微かな笑みを見せる陸奥の瞳の奥からは、あの底知れぬ深い哀しみの色が拭い去られていたからだ。

(これが――これが、本当の救いなんだ――、僕が見たかった、救われたむっちゃんなんだ!)

その強いカタルシスと高揚感に押し包まれた彼は、取り乱すことすら忘れて茫然としていたが、まるでその代りとでも言うように、今まで泰然としていた長門が感情を露わにする。

「陸奥っ! お前は――、行ってしまうのだな! 天上へと――、旅立つのだな!」

そう叫んで陸奥の両肩を掴んだその目からは、急速に大粒の涙が溢れだし、頬を伝っていく。

「ごめんなさい、姉さん……。でも、今日まで本当にありがとう、姉さんとこんな風に会えて、あたしは幸せだったわ」

「何を言うか! 礼を言わねばならんのは――、この私の方だ! 本当に――ありがとう陸奥よ――、お前の姉でいられたことこそが――未来永劫、私の宝だ!」

そう言葉を交わして二人はひしと抱き合うが、それはまるで、号泣する長門を陸奥が抱き締めているかのようだった。

「陸奥さん!」

仁の傍らから子の日が飛び出して、彼女にしがみつくと、陸奥は長門と抱き合った腕を緩めて振り返り、そっと甲板に膝をつきながらその肩を抱く。

「子の日ちゃん、あなたと会えて本当に嬉しかったわ……。思い出をいっぱい、ありがとう」

慈愛に満ち満ちたその声に、彼は身震いしそうになるが、愛らしい顔を涙でクシャクシャにした子の日は、今日までずっと我慢し続けてきた言葉を初めて口にした。

「陸奥さん――、行っちゃいやだ! 子の日を――置いて行かないで⁉」

陸奥の瞳にも見る見る涙があふれ、彼女をしっかり抱き締める。

「ごめんね――、何時までも傍に居てあげられ無くて、ほんとにほんとにごめんね……。あたし、待ってるから――、子の日ちゃんのこと、待ってるからね」

「そんなの――いや……。子の日は――陸奥さんと――仁と――姉さまと――、一緒がいいの――、みんな一緒がいいの……」

「その様なことを言うてはならぬ――、陸奥殿の後ろ髪を――ひいてはならぬ――、我らは、家族ではないか――」

涙を零しながら、初春が懸命に言って聞かせようとするが、最後まで言葉を続けられずに泣き崩れてしまい、陸奥が腕を広げて彼女をも抱き寄せる。

「二人とも、ほんとにごめんね……。二人のこと、散々振り回したあたしが、こんな風に、二人を置いて行ってしまうなんて――」

「陸奥殿に――罪なぞ――ござりませぬ――、我ら姉妹は――数多の幸を――頂きましたに――、なんの――なんの――」

声を詰まらせながらも、懸命に応えようとする初春のその姿に耐え切れなくなった仁は、進み出て膝をつこうとしたが、一瞬早く、すっと横合いから進み出る者がいた。

「そんなことないですよぉ~、陸奥さんも、二人から一杯幸せを貰ったと思いますよぉ♪」

この場には似つかわしくないほどに飄々としてはいるものの、龍田の声音はどこまでも優しい。

「龍田ちゃんの言う通りよ――、一緒に居られて、ほんとに幸せだったわ」

「さあ、陸奥さんを一緒にお見送りしましょうねぇ~」

二人の肩を抱きながら明るくそう言った彼女だが、その頬には、次々に涙の零れた跡が刻まれていく。

「ありがとう龍田ちゃん、あなたに会えて、とっても嬉しかったわ」

「陸奥さん――、龍田のことも、待っててくださいますかぁ?」

「当たり前じゃない――、龍田ちゃんが来てくれるの、待ってるわね」

そう言う陸奥と抱擁を交わした龍田は、さらりと身を屈めて初春と子の日に腕を回すと、二人を小脇に抱えるようにして後ろに下がり、入れ替わるように皐月が飛び出してくる。

「陸奥さあぁんっ! ――」

もっと何かを言うつもりだったのかも知れないが、それだけしか言えずに陸奥の首に抱きつくと、ただただ泣き出してしまった。いつもであれば、皐月に突っ込みを入れるのは霰の役目なのだが、その霰も何かを言おうとして唇を戦慄かせたのみで、膝をついて啜り泣きはじめる。

「皐月ちゃん――霰ちゃんも――メだよ――陸奥――さん――がぁ――」

朧がべそを掻きながら一生懸命に二人を窘めようとするものの、彼女も堪え切れずにさめざめと泣き出す。

「みんな、ほんとにありがとう……一緒にいられて、本当に楽しかったわ……みんな、大好きよ」

三人に腕を回した陸奥がそう声を掛けると、彼女らの後ろから、長良が精一杯気丈な声をあげる。

「みんな――あんまり泣いて悲しんだら――、陸奥さんだって、心配で天国に行けないよ⁉ もう少しだけ頑張って――、みんなでお送りしなきゃ――」

それを耳にした皐月が、頻りに嗚咽を洩らしながらも、健気にしがみついた腕を緩めると、微笑んだ陸奥は三人に話し掛ける。

「みんな本当に偉いわね――、これからも、長良ちゃんのいう事ちゃんと聞いて仲良くしてね……。あたし、いつもみんなのこと見てるから」

彼女らが頷くのを見て取った長良が、三人に腕を回して立たせてくれるので、陸奥も立ち上がって長良の肩に手を掛け、

「ありがとう長良ちゃん――、あなたに会えて、本当に嬉しかったわ……。一杯頑張って支えてくれて――、本当にありがとう」

「そんな――、支えて頂いたのは長良の方です――。陸奥さんが――居てくださったから――、頑張れたんです――、ほんとに……」

そこまで何とか言葉を繋いだものの、彼女もまた胸が痞えたのか、言葉に詰まってしまい、陸奥の肩口にきゅっと顔を埋める。

だが、ここでもやはり芯の強さを見せた長良は、わずかな抱擁だけを交わすと体を離し、ぐいっと拳で涙を拭うと、まだ少し上ずってはいるものの、落ち着いた声で別れの言葉を告げる。

「最後まで、本当にありがとうございます。天国までの道中がどんなものかは判りませんが、くれぐれもお気をつけて! いつの日にか、長良は必ずお傍に参ります」

さっと敬礼すると三人を伴って後ろへ下がった彼女を待ちかねていたように、大きな丸い瞳を潤ませた酒匂が、陸奥の手を強く掴んでくる。

「ぴゃあぁぁ、陸奥さん! 酒匂もね⁉ 天国に行ける? 陸奥さんのところに行けるの?」

「もちろんよ、酒匂ちゃんもきっと来られるわよ」

「でもね、酒匂の体はね、危なくて人間が触れないって言ってたよ⁉ だから、引き揚げられないんだって……。みんなが陸奥さんのところに行っちゃったら、酒匂は一人ぼっちになるの?」

痛ましげな瞳で訴える彼女だったが、陸奥が応えるまでも無く、仲間達が放ってはおかなかった。

「馬鹿を言うな! この私が、酒匂を一人残して行ったりするものか! 何があろうと、お前より先に陸奥のもとへ行ったりはせんぞ⁉」

「何も心配しなくていいわ、私達はあなたを置き去りにしたりしないから、安心してね……。だから今は、陸奥さんにちゃんとお別れの挨拶しましょ」

長門と妙高がかわるがわるそう言うと、やっと彼女も笑顔を見せたが、その拍子にたまった涙がつつーっと筋を引いて零れ落ちる。

「陸奥さん、お空のうえから、酒匂のことちゃんと見ててね! お姉ちゃんに会えたら、陸奥さんのお話しするからね! 一杯優しくして貰ったって、お話しするね!」

「ありがとう、酒匂ちゃん――、矢矧ちゃんに早く会えるといいわね」

「うん!」

笑顔でそう応える彼女の腕に手を添えた妙高は、優しい笑みを浮かべていたが、その瞳には涙が溢れていた。

「妙高ちゃん、あなたにはいろいろ助けて貰ったわね――、本当にありがとう」

「やめてください、助けて頂いたのは私の方です。もしも陸奥さんにお話しできずにいたら、きっとこの姿で陸の上に居続けることが、心底苦痛になっていたと思います……。今、こんなに心静かにお見送り出来るのは、何もかも陸奥さんのお蔭です」

「妙高ちゃんの口からそんな言葉が聞けるなんて、本当に嬉しいわ……。これからも、姉さんやみんなのことよろしくね」

「はい、もちろんです! 早速と言ってはなんですけど――」

急に言葉を切り替えた彼女は、後ろを向くと、いつの間にそんなに泣き腫らしていたのかと訝るほど、赤い目を更に赤くした高雄の腕をつかんで、陸奥の前に引っ張り出す。

「ほら、ちゃんと高雄ちゃんの口から言わなきゃ駄目よ?」

「そうですよ、今言わなければ後々まで悔やまれますわ」

傍らから瑞穂も、彼女の肩に手を掛けながら言葉を添える。

「どうしたの、高雄ちゃん?」

「――陸奥さん――、私――ごめんなさい! 本当に済みませんでした――」

泣きながらそう言った高雄は、陸奥にきつく抱きつく。

「なあに、あたし、高雄ちゃんに一体どんな非道いことされたのかしら?」

「私――、ずっと意地張ってました――、何となく、陸奥さんに負けたくなくって――最初は私のこと――振り向いてくれたのにって――、そう思ったら――何だか悔しくて……」

「いやね、高雄ちゃんたら――、あたし、そんなことちっとも気にしてないわ♪ だから、謝ったりしないで……。それよりも、これからは仁のこと傍で支えてあげてね、お願いよ?」

「そんなの無理です! 陸奥さんの代わりなんて、私にはできません――、仁さんには、やっぱり陸奥さんしかいません――、私なんかじゃ駄目なんです……」

「誰かの代わりになるなんて、誰にも出来ないわ。あたしはあたし、高雄ちゃんは高雄ちゃんよ。だから、高雄ちゃんのやり方で、仁や皆を支えてあげてくれたらいいの」

「――――はい、私頑張って見ます……。ですから、天上から見守っていて下さいますか?」

「ええ、もちろんよ!」

「良かった……、ほっと致しましたわ、高雄さん」

陸奥と体を離した高雄に、瑞穂が微笑みかけるが、彼女の瞳からもまた紅涙が幾筋も流れ落ちている。

「瑞穂ちゃん、あなたが来てくれて本当に嬉しかったわ。あなたのお陰で気付けたことや、助けられたことも一杯あって……」

「私如きがそんな――、おこがましい限りですわ。私は、陸奥さんや皆さんが私を見つけて頂いた日のことを、この身がある限り忘れません。陸奥さんも、どうかお気をつけてくださいませ」

「ありがとう瑞穂ちゃん――、皆のこと、よろしくね」

「はい――」

そこまで落ち着いて話していた彼女は、最後の最後で声を詰まらせ、涙を溢れさせると陸奥と固く抱き合うが、やがて静かに腕を緩めると背後を振り返って、待っている赤城らに声を掛ける。

「申し訳ございません、時は限られておりますのに――、失礼を致しました」

「それこそ、気になさることではありませんよ瑞穂さん!」

赤城は泣きながらでも普通に喋れるようで、常とかわらぬ様な張りのある声を出すが、蒼龍と飛龍はどうやら限界だったらしく、溢れる涙で頬を濡らして陸奥に抱きつく。

「陸奥さん、陸奥さぁん!」

「ほんとに、ほんとにこれでお別れなんですかぁ⁉」

「そうよ、二人とも今日まで本当にありがとう♪ 二人がいてくれたお陰で、毎日とっても愉しかったわ……」

「でも、やっぱりわたし達――」

「陸奥さんが居なかったら、寂しいですよぉ!」

「あたしもよ――、みんなと別れるのはやっぱり寂しいわ……。でもね、永遠に一緒でいられるわけじゃないわ、こんな風になってみてはじめて分かったけど、会うは別れの始まりって、本当なのね」

「陸奥さんの仰るとおりだと思います。それに、我ら四名は最後までこの地上にとどまって、数多の仲間達を迎え、そして送り出すのだと覚悟しております」

「赤城ちゃん……」

「再びこの日本に帰還してよりこの方、多くのことを学んで参りましたし、確かに我らが失った長い年月の間に、科学技術は長足の進歩を遂げておりましたが、それでもなお、深海に横たわる我らの船体を引き揚げることは、容易ならざる事であることも良く分かりました」

「申し訳ありませんが、陸奥さんのもとに罷り越しますのは、随分先のことになりそうです。私達に何ができるのかは判りませんが、少なくとも、その時間だけは十分にありそうです」

「加賀ちゃん――、そんなことまで考えてたのね……。ごめんね、あたしは、自分のことだけで精一杯になってて……」

「やめてくださいよぉ~」

「それで自然に、皆も居心地良くなっちゃうのが陸奥さんなんですから~、赤城さんも加賀さんも、理屈っぽ過ぎるんですよ」

「ごめんなさいね? 飛龍さんほどお気楽で無くて」

飛龍は笑顔で加賀に言い返そうとしたが、不意に胸が詰まってしまったらしく言葉が痞えてしまい、無言で強く抱きついてくる。

「ありがとう、思い出を一杯ありがとうね……。あたし、皆のこと見てるからね」

傍でしゃくりあげていた蒼龍も、堪え切れなくなった様に抱きつくので、陸奥は片腕を回して二人をしっかり抱き締める。

やがて、彼女らがそっと体を離すと、静かに待っていた赤城とも抱擁を交わす。

「赤城ちゃん、皆のことよろしくね」

「陸奥さんのようには到底参りませんが、この身の微力を絞り尽くして、長門さんの杖となる所存ですので、どうかご照覧ください。それに――」

「それに――、なあに?」

「私もいつかは、何処かの殿方に、胸を焦がす様になるのでしょうか?」

「あら、当たり前じゃない♪ もっとも、赤城ちゃんに釣合うような、器の大きな方が現れないとね」

「では、それも併せてご照覧くだされば幸いです」

「ええ、楽しみにしてるわ」

そして、最後に陸奥は加賀と抱擁を交わす。

一瞬口を動かしかけた彼女だが、結局何も言えずに、俯いて涙を浮かべる。

「しっかりして、加賀ちゃん――、もう一息頑張るんでしょ? 結果を見せて頂戴ね?」

「陸奥さん――、私――」

言い掛けた彼女は、そのままひしと陸奥に抱きつき、初めて会ったあの日のように大粒の涙を零す。

「本当は、傍にいて頂きたかった――、いつも近くにいて、相談に乗って頂きたかった――、お別れしたくありません――、胸が張り裂けそうです……」

「ごめんね――、傍にいられなくて本当にごめんね……。あたし、必ず加賀ちゃんのこと見てるからね――、目を離さないからね……」

そう言い交わした二人は、そのまま抱き合ってすすり泣くが、暫しの後腕を緩めた加賀は、ぐっと感情を堪えるように静かに最後の挨拶をする。

「陸奥さん――、天上に赴かれましたら、最早、この地上でお会いすることの叶わぬ皆さんに、どうかよろしくお伝えくださいませ」

「分かったわ――、必ず伝えます」

艦娘達の後に待っていたのは斑駒親子だった。

船長は感情を抑えて落ち着いた顔つきだったが、娘はとっくに限界を超えていたらしく、涙でグショグショの顔で懸命に気を付けをしている。

「陸奥さん、こんなに早くお別れするのは残念でなりませんが、どうかお気をつけて」

「はい、色々とありがとうございました、船長殿」

「ほら天音、しっかりご挨拶しなさい」

「い――言われなくても――致しますっ! む――陸奥さん――、短い間でしたが――本当に、あり――あり――……」

何とか言葉をつなごうとしたものの、それ以上何も言えなくなってしまった彼女は、顔を覆って泣き出してしまったので、陸奥が近寄ってその手に掌を重ねる。

「駒ちゃんには、本当に一杯お世話になったわね……。これからも、皆のことよろしくお願いね、あたし、駒ちゃんのこと絶対に忘れないわ」

「陸奥さん――、わたし――」

斑駒はそれだけを口にするのが精一杯で、あとは、陸奥に抱きつき号泣するばかりだった。

「申し訳ありません、未熟な娘をお赦しください」

しかし、そう言った斑駒(父)の目にも涙が光っている。

「いいえ、これが、駒ちゃんなんだと思いますから――、だからこそ、信じられるんです」

「ありがとうございます……。皆さんとお会いできて、娘は本当に幸せ者です」

笑顔を見せた父に肩を抱えられた娘は、それこそびしょ濡れの顔のまま、なんとか敬礼するとまた泣き出してしまい、横にいた中嶋も苦笑している。

「副長殿、本当に、一方ならずお世話になりました。そのうえ、私達のことを親身になってご配慮頂き、感謝の言葉もありません。今後もどうか、皆のことをよろしくお願い致します」

「いえ――お礼を言うべきは私の方です。何がとは、分けて申し上げられないほど助けていただきました……。陸奥さんのご期待に沿えるかどうかは分かりませんが、どうか、行く末を見届けていただければ幸いです」

そう静かに言い切った中嶋は、つと顎を引いて敬礼し、陸奥も無言で答礼する。

敢えて感情を廃した挨拶を交わした彼は、きっぱりと未練を振り払うようにさっと一歩下がり、陸奥の前を空ける。

 

「むっちゃん……」

 

「葉月……」

 

二人はそれだけを言って口を噤んでしまい、どれほどの間か黙って見詰め合っていたが、やがてどちらからとも無く歩み寄って、静かに抱き合う。

「――ほんとに、無責任なんだから……。唾だけつけて放ったらかしてくだなんて、最悪よ」

「葉月がいてくれるから、安心して出来るのよ」

「知らないわよ――、私の幸せっぷり、天国から指銜えて見てればいいわ」

「あらあら、そううまくいけば良いんだけど」

互いの憎まれ口とは裏腹に、二人は力を込めて抱き合い、静かに嗚咽を漏らす。

そして再び見つめあうと、これもまた、とても静かに別れの挨拶を交わす。

 

「さようなら、元気でね――、あたしの、一番大切なお友達……」

 

「どんなところかは知らないけれど、いつまでも安らかでありますように、わたしの親友……」

 

二人の別れに目を奪われ、胸が一杯になっていた仁は、次が自分であろうことを想像するのすら忘れていたので、陸奥が振り返って己を見詰めた瞬間、心臓が止まりそうになってしまう。

 

 

「……仁……」

 

 

その、仄かに潮の香りを帯びた優しい声は、

余りにいとおしかった。

 

 

 

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