陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第四章・第六節〕

 全員の顔を見渡した中嶋が、

「皆さんで自由に話し合って頂いて構いませんので、良く考えて見て下さい」

と言ってもなかなか進んで話す者が居ない。

陸奥が何か言わなければと思っていると、それを察したかの様に中嶋が再度口を開く。

「皆さんもまだ戸惑っておられるかも知れませんね、それでしたら少々お手伝いをお願いする事に致しましょう。渡来さん、ちょっとよろしいですか?」

「あ、はい、何でしょう?」

「横で話を聞いておられて、渡来さんが何か感じた事や皆さんに聞いて見たいと思われる事があればお聞かせ願えませんか?」

そう振られた彼は少しの間考える様な顔をした後に、遠慮がちながらも口を開く。

「そうですね、何も大した事は言えないんですが――、皆さんはこうして人の姿で陸に上がってお仲間と再会出来たことや、まだ再会出来ずにいるお仲間がおられることをどう感じていますか?」

仁らしい心遣いを感じさせる質問だと思った陸奥は、自分なりの答えを用意しながら仲間達の顔を見回す積もりだったが、待つ迄も無かったらしい。

 

「こんな風に皆と再会出来て、その上人間の暮らしを経験してるなんて本当に信じられない事ばかりです」

長良の飾り気のない言葉は、それだけに彼女のとても素直な感想であることを物語っていた。

更に彼女に続いて、

「僕も毎日びっくりする事ばっかりだよ!」

と皐月が元気よく声を上げる。

ところが、そう言った後で少し俯き加減になると、

「でもぉ――何だかちょっぴり悪い様な気がするなぁ」

と少々歯切れ悪く呟いてちらっと歯を見せる。

 

(皐月ちゃんも良い子だわ♪)

 

少し言葉を濁したものの、彼女はまだここにいない仲間達を思うと、自分達が陸の上に上がっている事を申し訳ない気がすると言っていた。

「朧ちゃんと霰ちゃんが来てくれた時凄く嬉しかったし、ここに来て姉様に会えた時には思ったの。ああこれが幸せな気持ちなんだって」

子の日がそう言うと高雄が少し腰を浮かせる様にしながら、

「もし出来る事なら、私が自分で愛宕達を呼びに行きたいんです。一日も早くあの子達を暗い海の底からこの日の当たる場所へ救い出してあげたい……」

と溢れ出しそうな感情を何とか抑え込むかの様に続ける。

「高雄ちゃん、あたしも同じ気持ちよ。一日でも早く姉さんの処に飛んで行きたいわ」

陸奥が正直な思いを口にすると仲間達は皆一様に頷いたが、妙高だけは表情を微妙に翳らせながら、迷いを口に出す。

「私も妹達に早く会いたいと思いますが――、でもちょっと心配もあるんです。もしこんな風に人の姿になって心と言う物を手に入れて人間の様な生活をする事を良しとしない仲間が居るとしたら――って。私の様な者が思い悩んだ処で仕方無いのかも知れませんが」

その言葉を聞いて陸奥も少し心配になってしまう。

 

(もしも姉さんが女の姿になって陸の上で暮らす事を望まなかったら――、そうしたらあたしはどうすれば良いのかしら?)

 

仲間達も皆そんな不安に染まったらしく、難しい顔をして黙ってしまう。

一体どんな考えを持っているのか事前に聞く事が出来るのならともかく、この姿になって再会しなければ何を考えているのか聞くのは無理なのだ。

確かに妙高の言う通り悩んだところで結論は出ないのだろうが、それ故に余計悩ましく感じてしまう。

 

と、初春がコホンと上品な咳払いを一つしておもむろに口を開く。

 

「もし妾が未だ水底(みなそこ)に横たわっておる身でありましたなら、例え斯様な女性(にょしょう)の姿となる由を望んでおらずとも、凡そ理不尽な殺生に手を染めるよりは余程ましじゃと思いましたろう。尤も妾の望みを申しますなら、さしずめ陸奥殿の様に程良う熟れた女性(にょしょう)化生(けしょう)しとうござりましたがの♪」

 

彼女の雅やかな物言いは堅くなりがちな仲間達の気持ちを解きほぐす効果があるらしく、皆の表情が目に見えて和やかになる。

くっきりとした眉を八の字にしていた妙高も、

「初春さんの言う通りですね。例え望まない結果になろうとも、妹達に拭い難い罪を犯させるより遥かに良いと私も思います」

と笑顔を浮かべた。

 

これを潮時と心得たのか赤城が言を揚げる。

「どうやら皆の気持ちもまとまったやに思いますがどうでしょう? 我等は挙げて同胞(はらから)の探索に協力するという事で宜しいのでは?」

そう言いつつ彼女は陸奥の顔を見たものの、陸奥としてはまだ肯う訳にはいかない。

「そうね、もうこれで意見が出尽くしたんだったらそれで良いと思うけど、でも加賀ちゃんはまだ何か言いたい事があるんじゃないかしら?」

そう振られた加賀は、やはりほとんど無表情ではあるものの目元にはっきりと笑みを浮かべて陸奥を一瞥すると淡々と切り出す。

 

「陸奥さん有難うございます。私が気になるのは、この遣り方が本当に最善なのかどうか今の私達では判断出来ない事です。敢えて失礼な言い方をしますが、上手に丸め込まれて利用されていても右も左も判らない私達にはそれを見破る術が無いのです」

 

彼女の直截かつ辛辣な言葉にさすがに仲間達は騒めいたが、陸奥が落ち着いている為かそれは大きくはならずすぐに収まり始める。

 

「加賀さんの言う事も判らないでは無いのですが――、それでも我等は皆こちらに世話になっている身の上でありますのに、余りに不穏当な言い条ではないでしょうか?」

赤城は言葉を選びながらも加賀を咎める様に不服そうな表情を露にする。

ところが、加賀が何か言う前に意外な方向から声が上がる。

「あらぁ~、例えお世話になっててもイヤな事はイヤって言わなきゃ駄目ですよぉ~?」

龍田は相変わらずのんびりした調子で赤城にツッコミを入れて澄ました顔をしている。

「龍田さんが私の言いたい事を言ってくれた様ね。赤城さん、嫌な物言いをする様だけれど、引け目や負い目を感じて口を噤んでしまえば私達はまた帝国海軍が犯した失敗の轍を踏むことになるわ。そうは思わない?」

 

彼女の言葉は容赦が無いものの明瞭で曇りがない。

赤城は何か言おうとしたが言葉に詰まってしまい、困った様な目で陸奥を見る。

「赤城ちゃん、そんなに困る事無いわ。加賀ちゃんだって防衛隊の方達が信用出来ないとか利用し様としてるって決めつけてる訳じゃ無いのよ?」

そう言いながら仁を見た陸奥だったが、既に彼の方がこちらを見ていた。

 

(やっぱり♪)

 

嬉しくなって彼への視線に思いを込める。

 

(そうよね仁?)

 

彼は小さく目で頷くと、相変わらず控えめな言い方ではあるがしっかりと意見を述べてくれた。

「皆さんからそんな意見が出るのはやっぱり凄いなと正直に思います。僕はまだ太平洋戦争時のことは上っ面しか知りませんが、加賀さんの言う様に疑って掛かるのを止めてしまった結果ここにいる皆さんが辛い思いをする事になったんだと理解してます。大したことは出来ないかも知れませんが、現代についての必要な知識や民間人の立場での見方とか、何かお手伝い出来る事が有るんじゃないかと思ってます」

 

陸奥は喜びが込み上げて来るのを抑え切れない。

 

(ちゃんと通じてるわ! 間違いないわよね仁!)

 

自然に顔が綻んで来てしまい、何とか平静にし様とするものの自分では押さえ切れない。

 

(さっきだって――)

 

食事が終わった時の事をもう一度噛み締める。

中嶋が全員に話したいことがあると言うので別の建物に移動する時、仁はさっと駆け寄って来るなり、

「さっきはごめんね。皆可愛くて元気な娘ばっかりだからつい舞い上がっちゃって――」

と少し小声で照れ臭そうに謝ってくれた。

にも関わらず、彼が自分を気に掛けてくれていた事を知ってとても嬉しかった筈なのに、何故かその時は素直に喜べずにプイとそっぽを向いて、

「そんなの知らないわ!」

と言ってしまった。

なのに、それだけ素っ気なく突き放して見せても彼はパッと笑顔になり、

「じゃあまた後でね!」

と言って再びさっと離れていったのだ。

 

(あたしが嬉しかったの判っちゃったのね♪)

 

それも気持ちが通じ合っている証拠なのだと改めて思う。

 

「私達がどれ程の助けになるのかは何とも言えませんが、一つはっきり言える事があります。そこにおられる中嶋副長はとても信頼出来る方です。皆さんの疑問や不安を正面からぶつけて行ける方だと思いますよ」

葉月が巧みに補足すると中嶋も笑顔を見せて、

「お二人とも有難うございます。皆さんに申し上げておきますが、我々の言動に疑問や不安を感じたら今の加賀さんの様に遠慮なく言って欲しいと思います。我々が信用出来ないと思った時はきっと渡来さん塔原さんが相談に乗って下さると思います。ですから全て納得した上で決めて下さい。今日この場で結論が出なくても構いませんので」

と言うと改めて全員を見廻し、最後に陸奥、赤城、加賀の順に顔を見る。

 

(あらっ?)

 

どうしたことか加賀が戸惑った様な表情をして俯いてしまう。

 

(加賀ちゃんどうしたのかしら)

 

ひょっとすると中嶋に対して余り辛辣な事を言い過ぎたと後悔しているのかも知れない。

そう思った陸奥はさ程深く考えずに皆との議論に戻った。

 

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