陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第六章・第四節〕

 どんよりとした曇り空を待ち望む者などそうは居ないのだろうが、この場合の彼女達と中嶋はその例外だった。

起床ラッパより早く起き出した陸奥と仲間達は、天気予報に合わせて昨夜から泊まり込んでいた中嶋と共に軍装(今はそう言わないそうだが)に身を固めてバスに乗り込み、横須賀の防衛隊埠頭を訪れていた。

日本の港で米軍の艦艇を見るのは如何にも奇異な光景だったが、中嶋によれば、

「現代のほとんどの日本人にとって、当たり前の眺めなんですよ」

との事だった。

それでも陸奥にとっては簡単に受け入れ難い現実であったし、仲間達も不安そうにしている者、唇を噛んでいる者など様々で、気の強い皐月などは頻りに米艦を睨みつけている。

「皆落ち着いてね、例え車の中でも余り目立つ事をしては駄目よ」

陸奥がそう声を掛けると、皆が声を揃えて「はーい」と返事をする。

じきにバスは横須賀地域総監部と表札の出ている建物の前を通り過ぎ、そのまま岸壁に向かう。

 

「あの娘ですね?」

妙高が指差す先に、灰色のずんぐりした艦影が見えていた。

その横まで乗り付けたバスが艦の前で立っている斑駒と上級士官と思しき男性の間近に停車すると、最前席に座っていた中嶋が振り返って声を掛ける。

「皆さん、気分の悪い方などはおられませんか?」

しかし陸奥を始めとして誰も声を上げる者はなく、全員がひたと彼を見詰めている。

「それでは直ちに下車致しましょう」

 

先頭に立った中嶋がバスから降り立つと件の二人が中嶋にさっと敬礼したので、彼の方がその士官よりも上官なのだと判る。

陸奥が彼から一歩引いて気を付けをすると、仲間達は命じる迄もなくその横にキビキビと整列してくれる。

それを横目に確認して中嶋にちらと視線を投げ掛けると、目で肯った彼が

「こちらが本日お世話になる『とおとうみ』の篠木艦長です」

と男性を手で指しながら皆に紹介する。

陸奥が敬礼して

「宜しくお願い致します」

と挨拶すると、仲間達が後に続いて繰り返す。

「よろしくお願い致しますっ!」

「こちらこそ宜しくお願いします。ご覧の通り余り余裕のある艦では無いので、演習海域に着く迄少々不自由な目に遭わせてしまうかも知れませんが、困った時は遠慮なく言って下さい」

篠木が真っ白な歯を見せてそう言ってくれたので、少し不安そうだった仲間達にも笑顔が戻る。

「時間を節約する為にも皆さんには直ちに乗艦して頂きます。訓練用の服装も積み込み済みですので、艦上で着替えをお願いします!」

斑駒も少し緊張している様で、何時もよりもやや早口になっている。

「それではこちらへどうぞ。支援艦『とおとうみ』へようこそ!」

篠木が先に立って誘ってくれ、中嶋を先頭に斑駒を最後尾にして一同付き従う。

陸奥も若干は緊張しながらも、弾んだ気持ちで舷梯を昇る。

 

「この娘は今何を思ってるんでしょうねぇ」

飛龍が艦側をピタピタ叩きながら話し掛けて来る。

「あたし達と同じよ、今は何も感じてないし考えて無いわ。後になって今日の事も思い出すかも知れないけど」

「もし寿命を全うして天国に行ったら、海の上の思い出だけを持って行くんですよねぇこの娘――」

「そうね、でもそれが船としての幸せなのかも知れないわよ?」

陸奥がそう応じると横合いから妙高が、

「もしかしたら船の神様の様な方がおられて、辛い思いをした私達を憐れんでこんな姿にして下さったのでしょうか?」

と口を挟む。

「きっとそうですよ! だから一杯楽しい事しなきゃ♪」

飛龍は我が意を得たりとばかりに笑顔を弾けさせるが、果たしてそうだろうかとも思ってしまう。

 

「あたしには良く判らないけど、もし神様の為さった事だとしたら、本当にあたし達を憐れんだだけなのかしら――。ひょっとしたら、神様はもっと別の事も考えておられたかも知れないわね」

 

陸奥がそう言って笑みを浮かべると、彼女は少し眩しげな顔をして港に休む大小様々な船達に目を走らせた。

 

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