陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第七章・第七節〕

 「只今戻りましたぁ~」

船室の水密扉が開かれ、相変わらずやや緊張感に掛ける口上を口にしながら龍田が現れる。

彼女に続いて朧、皐月ら駆逐艦達が口々にそれを復唱しながら現れ、最後に長良が扉を潜ってスイと横に避ける。

と、その後ろから凛々しい顔立ちの中年女性が姿を現したので、それと同時に陸奥が立ち上がって敬礼すると、全員がそれに倣ってサッと敬礼する。

「艦長殿、有難うございました!」

彼女の良く通る声に続いて全員が声を揃えて一斉に礼を述べる。

「有難うございました!」

 

その女性――観測艦『くみはま』の艦長である宮咲――はふっと表情を緩めて笑顔になり、

「こちらこそどう致しまして。さぁ座って楽にして頂戴、斑駒も入りなさい」

と背後に向かって声を掛けると自分はツカツカと歩を進め、ごく自然に上席に腰を下ろす。

声を掛けられた斑駒が扉を閉めて着席すると宮咲は改めて微笑み、横に座った皐月に向かって質問する。

「本艦の中はどうだったかしら?」

「す~ごく綺麗で、ちゃんと人数分の寝台があってびっくりしちゃったよ!」

その飾り気のないハキハキとした物言いに宮咲は満足気に頷き、

「この娘達を案内するのは本当に楽しい経験でしたよ?」

と、陸奥や赤城らの顔を見廻しながら相好を崩す。

 

「誠に申し訳ございません、艦長殿自らご案内頂くなど勿体無い限りです。何か失礼などありませんでしたでしょうか?」

赤城が会釈しながらそう言うと、彼女は更に目を細めて口を開く。

「とんでもない♪ さっきも言いましたがこんなに素直な良い娘達を案内して回るのは初めてです。余り大声では言えませんが、一般開放や体験イベントにやって来る人達の中には不愉快としか言い様の無い人物も結構いるんですよ? 本当に何時もこんな可愛い娘達が来てくれれば良いのに」

しみじみとそう言うと隣の皐月に手を伸ばし、その頭を愛おし気に撫でる。

「……皐月ちゃん良かったね。良い娘だって……」

霰にそう言われた皐月は真っ赤な顔をしながら必死に言い返す。

「な、何言ってんだよ! 言われなくったってボ、ボクは良い子だよ! あ、霰は本当にバカだなぁ」

とは言ったものの皐月はカチコチになっており、傍目に見るとまるで宮咲が何やら術を使って皐月を固めてしまった様だ。

 

(でも皐月ちゃん嬉しそうだわ♪)

 

彼女のはにかんだ口許に白い歯が覗いているのも何とは無しに微笑ましい。

「艦長殿、まだ長く掛かりそうでしょうか?」

結局加賀はそれが一番気になっているのだった。

「いえ、後一1時間強と言うところでしょう。皆さんの様な戦闘艦艇と違って本艦は足が遅いですから、随分お待たせしてしまいましたね」

宮咲がそう言うと赤城が慌てて言い添える。

「何を仰いますか! 私共の方こそこうしてお邪魔している身でありながら、図々しい事を申しまして重ね重ね申し訳ございません」

 

(ダメよ加賀ちゃん⁉)

 

咄嗟に加賀の視線を捉えた陸奥は、目で彼女を制止する。

赤城はこの手の紋切り型の遣り取りは非常にそつが無く良く気が付くのだが、ちょっとした感情の機微には少々無頓着なので、気が短く自尊心も強い加賀の癇に障る事をしばしば何の悪気も無く口に出してしまう。

 

(あたし達の間だけなら良いけど、艦長さんの前でケンカは良くないわ)

 

陸奥が目で語り掛けた事をどれ位理解してくれたものか分からないが、とにかく彼女は不服そうながらも矛を収めてくれる。

「この後皆さんには別室に移動して頂き、着替えをお願いします。先の演習の折とは違う装備ですからちょっと要領も必要ですので、少し早目に行きましょう」

斑駒がそう言うと宮咲が笑いながら、朧に向かって問い掛ける。

「貴方達を艦艇戦闘服姿で海上に出させたそうね♪ 恰好悪くて嫌だったんじゃない?」

そう問われた彼女は困った様な顔になり、少々言葉を選びながら応える。

「確かにその――恰好良くは無かったですけど――頑丈で合理的だなって思いました」

それを聞いた宮咲は再び目を細めて、

「本当に――ちゃんと気遣いが出来るのねぇ、同じ歳恰好の今時の娘達には貴方達艦娘を会わせたくは無いわね♪」

と何気なく言葉を続けるが、陸奥をはじめとする仲間達は聞き慣れない呼び方に反応する。

 

「あの艦長殿、今私共の事を何とお呼びになりましたか?」

皆の先陣を切って妙高が質問すると彼女はまた笑顔になり、その聞き慣れない言葉の所以を語ってくれる。

「ああごめんなさいね。実は貴方達の事を私達――W会って言うんだけど――そのメンバーの間で艦娘って呼んでるのよ。艦隊娘かまたは艦艇娘の略称って言う意味なんだけど」

「艦隊娘ですか――」

赤城がそう復唱しながら陸奥と加賀の顔を交互に見比べる。

 

(もうっ、赤城ちゃんたら性懲りも無く!)

 

どうしてこうも一々悶着が起きそうな事ばかりするのだろうか?

仕方が無いので加賀が噛み付く前に自ら噛み付いておく事にする。

「あら赤城ちゃんたらなあに? まるであたし達は娘じゃないとでも言いたそうな顔ね?」

途端に彼女は焦った様な顔になり、先程迄とは打って変わって歯切れの悪い受け答えをする。

「いや待って下さい陸奥さん、そのぉ――そこ迄と言う訳では無いんですが、何と言いますか――」

「ほら、やっぱりそう思ってるんじゃない! 隠したってダメよ、ちゃ~んと顔に書いてあるんだから」

正直な彼女は反射的に自分の顔に手をやってしまう。

陸奥はニヤニヤ笑いながら、

「序でに言うと『まぁ私は別ですけどね』って言うのもちゃんと書いてあるわよ♪」

と追い討ちを掛ける。

「す、済みません陸奥さん! 只今の態度は撤回致しますからどうかご勘弁下さい!」

とうとう白旗を上げた彼女は頬を染めて俯いてしまう。

すると、正に得たり賢しとばかりに満足気な顔をした加賀が口を開く。

「それはさておき、私達自身自分達のことを何と名乗れば良いものかと思っておりましたから、それらしい呼び名を考えて下さるのは有り難いです」

「それは良かったわ♪ 私達も貴方達の事を話題にするたびに『戦没した旧海軍の艦艇の記憶を持つ女性達』なんて一々言ってられないと思ったからなのよ」

宮咲も彼女の内心が伝染ったのか、満足そうな顔で応じる。

 

「艦娘だってぇ♪」

「何かちょっと良いよね♪」

蒼龍と飛龍が顔を見合わせて笑みを交わすと、長良も嬉し気に同調する。

「私も賛成です! 『私、艦娘の長良です』って自己紹介出来るの良いですよね!」

他の仲間達もいかにも愉しげな様子で口々に言い合うのを見て取り、陸奥は宮咲に向かって言をあげる。

「艦長殿有難うございます。皆気に入った様ですし、差し支えなければ私達にも使わせて頂いて宜しいですか?」

「もちろんです。 まぁ防衛隊公認と迄は行かないでしょうけど、定着したらいいなとは思ってたから♪」

彼女が笑顔で肯うと、『艦娘』達は一段とさんざめく。

 

その様子を陸奥と宮咲は期せずして同じ様に眺めやった末に、互いの顔を見る。

「それにしても、やっぱり不思議としか言い様が無いわね。陸奥さんが連合艦隊旗艦だった事は確かに知ってはいるけど、こうして女性の姿になった貴女もちゃんとリーダーの資質を備えてるだなんて」

「私如きには随分過分なお言葉ですわ、艦長殿」

「でも、お仲間は皆そう思ってはいない見たいよ?」

彼女の言葉に子の日が真っ先に反応して声を上げる。

「うん、陸奥さんが皆の旗艦だよ!」

「はーい!」

「その通りです!」

と、皆口々に同意するのを聞くと、嬉しい反面少々気恥ずかしい。

おまけに例によって蒼龍と飛龍が混ぜっ返してくる。

「それにリア充で~す!」

「羨ましいでぇ~す♪」

「もう、何言ってるのよ二人とも!」

「まぁ、リア充なんて言葉知ってるの?」

残念ながら陸奥もどういう意味か知っていた。

「はーい」

「毎日充実してると思いまぁ~す♪」

「まぁ、そう言えばそうだったわね。確か貴女一人だけは民間の方に保護されていたのよね、ひょっとしてその時に愛を育んだのかしら♪」

「艦長殿、あの娘達の言う事は聞き流して下さいね」

陸奥がそう応じると宮咲も笑いながら、

「ええ分かってるわ。でも貴女方艦娘と人間の男性とのロマンスだなんて、とっても夢があるじゃない♪ 私もちょっと期待してしまうのよ、一緒になって冷やかそうなんて思ってないから安心して頂戴」

とさらりと応じておいて、陸奥の気持ちを汲んでくれたものかその場をサッと切り替えてくれる。

 

「さあ、何時迄もお喋りしていたいけどそうも行かないわね。斑駒、そろそろかしら?」

話を振られた斑駒も仕事の時の顔付きをすると、

「はい艦長! それでは皆さんこれから別室に移動して、そこで今回の海上捜索任務用の装備に着替えて頂きます。先程も申し上げました様にちょっとコツが要りますので注意して下さい。では早速移動しましょう!」

そう一息に言ってキビキビと立ち上がる。

仲間達もいちいち声を掛ける迄もなく全員が一斉にサッと立ち上がり、椅子を収納位置に戻し始めるが、それを見た宮咲がまた感に堪えない様子で口を開く。

「本当に素晴らしいわ――。今の若い娘達は厳しく訓練されないとこれが出来ないのに、自然にそれが出来るなんて」

 

今時の日本国民や特に若い女性がどうなのかはともかく、仲間達を誇らしいと思うし彼女達が大好きだと素直に思える。

それはそれとしても、その『好き』に微妙に異なる意味があってそれは一体何が違うのか、相変わらず陸奥にはそこが良く理解出来なかった。

 

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