陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第九章・第五節〕

 翌日から、瑞穂と蒼龍・飛龍・赤城・加賀らが交替で進路の索敵を行うことになった。

まだ早過ぎると言えばそれ迄だが、敵に空母がいる事も考えれば相手に先んじておく事も重要との認識で全員が一致したのだ。

とは言え明日の払暁には一〇〇浬以内に迄接近する予定なので、明るい内に進路を警戒出来るのは今日だけともいえた。

 

「相手も同じ様に警戒してますかね~?」

飛龍が足をぶらぶらさせながら陸奥の方を見て声を上げる。

昨日は水槽の上だけだったが、今日はそれに加えて張り出し屋根の様な天幕も張って貰ったので、仲間達は全員椅子を持ち出して水槽の周りに集まっていた。

「こちらの様に組織だった行動を取ってるとは考え難いわねぇ。それに、姉さんや酒匂さんも混じってる訳だから尚更難しいんじゃないかしら?」

「そうなると、あく迄もサラトガが単艦で警戒しているか、それを物理的に近くに居る米艦に直接伝える程度、と言うのが有り得る処ですかね」

陸奥の言葉を受けて赤城が推測を纏めて見せる。

「サラトガですか――私、少なくとも一糸報いてやる積もりです」

高雄が拳を握り締めてきっぱりとした口調で決意を述べると、長良も同調する。

「そうですよね! ラバウルでは随分酷い目に合わせてくれましたからね」

「二人共、意趣返しにばかり感けて逆に竹箆返しを喰らう様な体たらくだけは駄目よ?」

と加賀が釘を刺したので陸奥は思わず身構えてしまうが、妙高は水槽を挟んだ反対側で霰や皐月らと何やらお喋りをしており、今回は無反応だった。

「それより~潜水艦が居るんですよねー。どっちかって言うと、そいつをこてんぱんに叩きのめしたくないですか~?」

龍田の瞳から尋常ではない邪気が溢れ出しているのは、やはり恨み骨髄と言う奴なのだろうか?

「そんなの言う迄もありませんよ先輩! 昔は騙し討ちにあって不覚を取りましたけど、今度は最初っから居るのが分かってるんですから一切手加減しませんよ⁉」

「そうだよ、絶対返り討ちにしてやるんだから! ねぇ長良ちゃん⁉」

「だからぁ! 子の日は何回言ったら分かるの? 『長良さん』でしょ⁉」

「ほほほ子の日や、長良殿が笑って許して下さる内にしておくのじゃぞ♪」

「だから許して無いし笑っても無いってば! 初春もどこ見てるのよ⁉」

「おおこれはしたり、妾としたことが不覚でござりましたの」

「むぅ~何っか馬鹿にされてる気がするんだけどぉ――」

口を尖らせた長良の顔は何とも言えない味があり、思わず仲間達から笑いが零れる。

「でも、潜水艦ってどんな風なんでしょうか? 雷撃してくる時に海面上に顔も出さないんでしたら結構手強いですよね」

「そうよね、もし高雄ちゃんの言う通りだったらあたし達には為す術も無いわね。そうなったら貴方達だけが頼りよ?」

陸奥がそう言って長良や駆逐艦達の顔を見遣ると、今迄妙高と喋っていた皐月がたんっと立ち上がって拳を突き上げて気勢を上げる。

「任せといてよ! ボクがみんなを守ってあげるからね!」

「そうです! アタシ達がいる限り、潜水艦如きには絶対手出しさせません!」

と朧も同調するが、皐月の袖を引っ張った霰が冷静に突っ込む。

「……潜水艦、舐めちゃダメ。皐月ちゃんも朧ちゃんも飛行機さえ居なきゃ怖いもの無し、って思ってるでしょ……」

「そうよねぇ~、航空攻撃出来ないってのが凄く歯痒いんですよぉ――何でなんでしょうねぇ?」

水槽の上で宙を見詰めながら蒼龍が口を挟むが、その言葉に空母達と瑞穂が激しく同意する。

だが、その点ばかりは誰にも答え様が無かった。

航空偵察は何の苦も無く出来るのだが、何故か肝心の攻撃が出来ないのだ。しかも、他の艦娘からはもちろん空母からも艦載機の姿が見える訳では無いし、複数の艦載機を飛ばせる筈の彼女達が何故か一度に一方向の偵察しか出来ないなど判ら無い事が多い。

「まぁでも、裏を返せばあたし達も航空攻撃を心配しなくて済む訳だから、吉凶相半ばってとこじゃないかしら?」

「陸奥さんの仰る通りだとは思いますが――それでも、やはり残念ですね」

赤城は昔日の航空戦隊の活躍を思い出しているのか、遠くを見る様な瞳で呟く。

「赤城さんは忘れてしまったのかも知れないけれど、私はあの悪夢が二度と繰り返さないと思うだけでとても気が楽になるわ。陸奥さんは相半ばと仰ったけど、私にとっては吉そのものです」

加賀のとても正直な感想を聞いた飛龍が、指の腹でそっと眼尻を拭う。

辛く悲しい記憶を胸の奥に抱えているのは皆同じなのだ。

そしてどれ程の年月になるのか見当も付かないが、それと向き合って行かなくてはならない。

 

(あたしは幸せなのかしら……)

 

少なくとも自分には、この辛い記憶を我が事の様に案じてくれるだけでなく、陸奥がそれから解放される為になら自ら犠牲を払うことさえ厭わ無いと言ってくれる仁がいる。

そして彼の願いは、間もなく現実の物となるかも知れないのだ。

 

(この機会を見送ったりしたら、さすがに皆に申し訳無いわよね……)

 

とは思ったものの、それで自分の中の迷いがすっきり消えてくれる程簡単な話しでは無かった。

 

「そうなりますと、やはり最も警戒すべきは潜水艦と言う事でしょうか。しかしながら、現実に環礁の内外で接敵する際は皆さんは概ね最大戦速で行動する訳ですよね? 潜水艦ではそれを追尾するのは不可能なのではありませんか? その――私を除いてと言うことですが」

幾ら瑞穂の船足が遅いと言っても、潜水艦が浮上航行でもしない限りは追い付かれたりしないだろう。

「そう云う事ことになると思うわ。先回りして密かに待ち伏せ出来なければ、その娘の雷撃もまぐれ当たりを期待するしか無い筈よね?」

そう言う陸奥に対して皆頷いて同意を示すが、妙高だけは考え込む様な顔付きで意見を述べる。

「私達について言えば陸奥さんの言われる通りで間違い無いものと思います。ですが、敵も直ぐにその不利には気付くのでは無いでしょうか?」

「そうであれば、少しでも我々を待ち伏せ出来そうな機会を狙って来るという事ですよね? 環礁の水路を抜ける時などは要警戒と言うことですか?」

「高雄さんの言われる通りだと思います。水路を抜ける時はアタシ達が露払いしながら進入しましょう!」

朧がそう言うと、瑞穂も頷きながら補足してくれる。

「その為には、やはり敵の行動を事前にかつ正確に把握しておかなければなりませんね。密かに環礁の外に出て待ち伏せされたりしたら大変危険ですよね」

が、その時もっと危険な事態が有り得ることに陸奥は気が付いてしまう。

考えを纏めて口に出そうとするが、僅かに早く龍田が相変わらず酷く陰険そうな目付きをしながら口を開く。

「うふふぅ~奴ら見たいな悪辣な輩は、もっと嫌らしい事を考え付くに決まってますよぉ~? すばしこく動き回る私達を追い掛けるより、もっと狙い易い的を探す筈ですよね~」

「龍田さん、どういう意味ですか? 我ら以外に潜水艦の標的になり易い何かがあると言う事ですか?」

赤城はまだピンと来ていないらしい。

だが仲間達の内幾人かは判ってしまった様で、その中から真っ先に飛龍が声を上げる。

「待って下さいよ! それってまさかその、敵が狙って来るのは――」

「つまり、本船だと言うことですね」

 

全員の背後から響いたその声に、艦娘達は一斉にそちらを振り返る。

そこには何時の間にか、どうやら彼女達に飲み物を持って来てくれたらしいペットボトルを抱えた娘を従えて斑駒(父)が立っていた。

 

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