陸奥と僕のこと改   作:Y.E.H

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〔第十章・第二節〕

 異変が起きたのは、環礁迄後一時間強という頃だった。

「あっ!」

という瑞穂の叫びに全員が一斉に立ち上がる。

 

「どうしたの瑞穂ちゃん⁉」

陸奥の声に、瑞穂は虚空を見詰めながら慎重に応える。

「海上に白い人影の様なものが出現しました。――今のところ一つだけです――続いて現れる様子はありません。どう致しましょう、もう少し接近致しますか?」

反射的に中嶋に向かって声を上げる。

「それよりも、見逃がしが無い様環礁全体を監視すべきだと思います!」

陸奥の進言に彼は素早く頷いて見せ、鸚鵡返しに直ぐ指示を発する。

「瑞穂さん、そのまま高度を維持して下さい。環礁内での出現状況に十分注意して監視を継続願います」

「はいっ!」

きびきびとした彼女の諾意を聞きながら、中嶋は言葉を続ける。

「皆さんお聞きの通りです。出現したのが米艦なのか或いは長門さんか酒匂さんの何れかなのかは不明ですが、これで我々の接近が知られたと見て間違い無いでしょう。只今以降、何時でも離船可能な様に最終確認をお願いします。可能な限り環礁に接近したいと考えていますが、あく迄も状況次第です」

「はいっ!」

全員が一斉に返事をすると、早速交代で用を済ませながら装備の再確認を行う。

ウェットスーツと救命胴衣以外に無線や信号弾、飲料水なども携行する予定なので、それらも一つ一つ念入りに確認して行く。

そうして全員の確認が終る頃、瑞穂が落ち着いた様子で告げる。

「環礁内に他の人影らしきものが現れました。――皆、白っぽい姿です。――数は――全部で五、六――いえ七です。最初に出現したものと合わせて七です」

「七体ですか――駆逐艦、潜水艦以上の米艦に長門さん酒匂さんを合わせた数と一致しますね」

赤城が皆の顔を見回しながら言うと、それを受けて中嶋が瑞穂に問い掛ける。

「つまりその内一体は潜水艦であり、二体は長門さんと酒匂さんだと考えられる訳です。どうですか、何かそれが分かる様な手掛かりや特徴がありそうですか?」

「――いえ、今のところこの距離から判る様な特徴などはありません。やはりもう少し高度を下げて見ませんと――はっ、あっ、お待ち下さい!」

「どうしましたか⁉」

彼の鋭い問い掛けに、宙を睨んだ瑞穂は慎重に返答する。

「一体が消えてしまった様です――高度を下げて確認致します」

「お願いします――」

全員の緊張が高まり、船が波を切る音だけが暫くの間その場を支配する。

「――――申し訳ありません、消えたのではありませんでした。海面上に僅かに頭だけを出して航行している様です。しかし波頭とほとんど見分けが付かず、接近しなければ判りませんでした。どうやらこちらに向かって来る様ですが、如何致しましょう?」

「そのまま追跡して下さい、触接を絶やさぬ様にお願いします。おそらくそれが潜水艦と見て間違い無いでしょう」

それだけ言うと中嶋は振り返り、斑駒(父)に小さく頷いて見せると改めて艦娘達を見る。

その表情に込められていたのは、彼女らが嘗て見た戦に赴く兵達のあの顔に浮かんでいた決意と同じものだった。

「これより全員離船位置に移動して下さい。号令あり次第直ちに離船し、任務を遂行のこと。何か質問は?」

その問い掛けに、艦娘達は沈黙で応える。

「では行きましょう!」

その声と共に全員が素早く舷側に向かい、間も無く舷梯設置位置横に集合する。

隊毎に分かれて待機したのはほんの僅かな時間だけで、程無く船尾から駆け足でやって来た警備官の口から、例の潜水艦と思しき敵が環礁の切れ目に向かっている旨の報告がある。

報告を受けた斑駒(父)からは直ちに船足を落として舷梯を展開可能にする様指示が出され、同時に中嶋が艦娘達に向き直って口を開く。

「舷梯展開出来次第、陸奥隊、妙高隊は離船し任務行動を開始のこと。長良隊は追って指示ある迄離船待機」

「はいっ!」

全員がきびきびと応じるのが聞こえたかの様にすぅっと船足が落ち、警備官達が海面に向かって舷梯を降ろす。

待つ程も無くその固定が終わり、斑駒(父)が中嶋と艦娘達にさっと敬礼する。

「離船準備完了です、皆さんのご無事を祈ります!」

「有難うございますっ!」

「妙高隊、離船せよ!」

妙高が素早く中嶋の前に進み出て敬礼すると、

「妙高隊、離船致します!」

と告げて躊躇いなく舷梯を降りて行く。

そのまま滑る様に彼女は船を離れて行くが、まるで見えないロープで繋がれているかの如くそれに続いた高雄、朧、赤城らもまた次々に離船し、あっという間に四名全員が離船を完了する。

「陸奥隊、離船せよ!」

 

(待っていたわ、この瞬間をずっと!)

 

「陸奥隊、離船致します!」

敬礼した陸奥は振り返って龍田、初春、子の日、加賀の顔を一瞥すると、素早く舷梯を下りて海面に足を踏み出す。

そして全く遅れること無く四名が後に続き、五名全員が海面上に降り立つのに三十秒と掛からなかった。

「それじゃ皆、気を引き締めて行くわよ⁉」

「はいっ!」

 

(待ってて姉さん、今直ぐ迎えに行くからね!)

 

抑え様の無い全身の昂ぶりと共に、戦艦としての獰猛な本能の様なものが自分自身の中に頭をもたげつつあるのに気が付いた陸奥は、高揚感と一抹の胸騒ぎとを同時に感じ取っていた。

 

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