「意外ですね。」
「何がなのだよ。」
いつものように緑間の家にお邪魔していたテツヤの発した言葉は不思議と部屋の中に響き渡った。
「いえ、緑間くんは九校戦をご存知ですか?」
「勿論、知っているのだよ。全国にある九つの魔法科高校の対抗戦なのだよ。」
「端的に言うとそうなりますね。補足をするならば、全国から魔法師の卵達を集めて競い合い、交流をすることで魔法師社会全体の活性化が目的と言えますね。無論、各々の学校の威信も絡んできますが。」
テツヤの問いは緑間にとっては当たり前の常識であり、短くも適切に意味を捉えていた。テツヤは軽く補足を加えたが。
「で、それがどうしたのだよ。」
「じつは九校戦は毎年裏で多額の賭博がおこなわれているのですが、今年は第一高校が圧倒的優勢で利益が見込めないのです。それなのに去年と変わらず賭けがおこなわれるようで、どうしてかなと思いまして。」
テツヤは疑問を緑間にこぼして不可思議に感じられる賭博の開催の事実に、二人はゆっくりとその理由を考察してみる。
「それは毎年の恒例行事であるから。もしくは利益が今年も見込めるからだろう。」
「今年も利益が見込める?賭けになってすらいないのに?」
緑間の仮説に納得できないテツヤは反論する。
「案外、胴元が第一高校を妨害して、賭けの結果を操作するかもしれないのだよ。」
「まさかそんなわけないじゃないですか。」
「だよな。」
「「ハハハハハ…。」」
「「ん?」」
二人が馬鹿げた考えだと笑いあった後、何かが違うと感じ、深く考察し始めた。
「…よく考えたらやりそうです。むしろ、毎年やっていたかも知れません。」
「…よく考えなくても黒子の業界は頭のおかしい奴ばかりなのだよ。」
「はい?」
「…。」
二人の理由は微妙に食い違っていたが、そこが重要ではない。今、すべきことは、
「まぁ、とにかく調べた方が良さそうですね。」
「そうだな。とりあえずできるところからやってみるか。」
「…いつになくやる気ですね、緑間くん。もしかして、前回の報酬に納得してもらえましたか?」
緑間の様子を見て、テツヤはブランシュ事件により支払われた報酬の額に満足して頂けたかを問いかけた。
「悪くはなかったな。ずっと欲しかったカスタムパーツが買えたし、改良ができたのだよ。」
「それは良かったです。」
テツヤはその感想を聞き、素直に喜んだ。また、彼の脳裏には緑間の情報戦における能力向上は違う意味でも歓迎すべき話だと思えた。
「それはそれとしてよく賭博のことについて知っていたな。…まさかお前。」
やはり、緑間は報酬うんぬんの話を大っぴらに続けるのは気恥ずかしいのか顔を若干赤らめながらも話題の転換を試みる。だが、その転換が重大な疑惑をテツヤに抱く。
「人聞きの悪いこと言わないでください。僕だってそこまで落ちぶれていません。そもそも、賭博は僕の年齢では違法です。法に触れるおこないはよくありません。」
「今更だと思うのは気のせいなのか?」
「気のせいです。」
「…分かった。では、なぜなのだよ。」
実際、テツヤが賭け事をしていても何ら違和感がないように緑間は思えた。なんせそれ以上に法に触れるおこないをしてきていることを緑間はよく知っている。しかし、テツヤがきっぱりと否定した以上、そのことを問いただす必要は皆無であり、緑間は改めて疑問を口にする。
「賭博は大金が動くのでいつも注目しているんです。金の流れが分かればキナ臭い情報が手に入ることはよくある話なので。」
「なるほど。」
この答えは自然と手をポンと叩く動作ができるくらいテツヤらしい。現状、キナ臭い情報は資金以上にテツヤは求めている。
「それに、今年は僕も無関係ではいられませんからね。」
「もしかして九校戦に参加するのか?」
「はい。どうやらスピードシューティングの選手に選ばれたみたいです。本当は魔法より実弾の方が得意なんですが。こっそり実弾使ってはダメですかね。」
「いや、駄目だろう。会場に持っていったら混乱するのだよ。」
緑間はテツヤが九校戦に参加することに驚いた。しかし、それ以上に実弾を会場に持っていきたいと発言するテツヤの物騒さに呆れ、諦めろと理由つきで説得をする。
「そうですか?魔法と実弾どちらを使用しても大して威力は変わりませんよ。当たればどちらも致命傷ですし。」
「そんなもんか。」
「はい。」
テツヤの発言は緑間の意識をそらすためにしたものと緑間は理解している。だが、そのテツヤの発言により、銃の所持が禁止されるのならば、魔法師もさらに厳重に管理されるべきではないかと反魔法師的な考えがどうしても緑間の頭に浮かんでしまう。その考えを振り払うためにそこで話題を終了させ、新たな会話の糸口が必要となった。
「そういえば黒子は魔法師としてどの程度の評価なのだよ。」
「そうですね。可もなく不可もなくといったところでしょうか。特に苦手な魔法もありませんし、そこそこ優秀な魔法師といったところでしょうか。ですが、僕は魔法系の部活に入っていないので、今回選ばれたのは数合わせでしょうね。」
「…まぁ、頑張るのだよ。応援はする。」
緑間はテツヤが偶々代表の席を獲得しただけとはいえ、選手ならば人事を尽くすべきだと考えている。生半可な結果を残すような奴ではないとも思っているが。
「ありがとうございます。では、言質を取りましたし、早速協力お願いします。」
「これは?」
「九校戦のチケットと期間中の宿泊先です。これで緑間くんも九校戦を生で観戦出来ます。」
テツヤは内心で緑間の協力が必要だと考えていた。まさか、本人から協力を申し出てくれるとは驚きだ。そして、自身のコネで手に入れていた九校戦のチケットと宿泊セットを緑間に与える。
「まてまて、会場まで行って応援しに行くとは言っていないのだよ。何を企んでる?」
急な話の展開に緑間は慌てた。
「ちょっと、お願いがあるだけですよ。」
テツヤは緑間にお茶目な表情を見せた。すると緑間は諦めて期間中のスケジュールの整理を始めた。だが、急にディスプレイを眺めていたテツヤの表情に険しいものが見え始めた。
「ん、また何かあったのか?」
「いえ、連絡が来ただけです。」
緑間は何でもないように作業に戻るが、内心でじっとディスプレイを睨みつけるテツヤの様子を伺った。
文章の書き方を少し変えてみました。こんな感じでよろしいでしょうか。