「来ませんね。」
「そうだな。黒子のことだから時間厳守を心がけているはずなんだが…。」
司波兄妹は自宅のリビングで訪問者を待ち続ける。
「お兄様。私、紅茶を淹れてきますね。」
「あぁ、頼む。」
「では、僕の分もお願いします。外は寒かったので熱い紅茶がいいです。」
突然、二人だけの空間に聞き覚えのある声がした。
「!?」
「…」
司波兄妹は突然の訪問者に息を飲んだ。だが達也は常識はずれの訪問者に苦言を呈す。
「黒子、その出方はやめろ。深雪が驚いてしまう。」
「すいません。今のところ見張られている様子はありませんが慎重を期してこうなりました。でも、この家の防犯能力は高いですね。僕でも手間取りました。」
「あっさり、その防犯システムを破っているくせに嫌味か?」
「そう思うなら、防犯システムを見直したほうがいいでしょう。僕クラスの人はそうそういないと思いますが、深雪お嬢様の身に何かあったら大変です。」
達也はそれを聞いて必ず防犯システムを見直し、テツヤにリベンジすると誓った。そして、紅茶で一服したテツヤはすぐに本題へと入った。
「今回、突然の訪問申し訳ありません。実はお二人に報告したいことがありまして、まずはこの資料を見てください。」
そういうと、テツヤは紙の資料を二人に手渡した。二人は受け取った資料をしずしずと眺めた。そして、長い沈黙のあと達也は口を開いた。
「つまり、お前は俺にブランシュの討伐を手伝えということか?」
「…すいません。勘違いさせてしまいましたね。実はこれ事後報告書なんです。」
「事後報告書だと?」
「はい。」
〜回想中〜
「…流石に疲れました。」
黒子はそう呟く。
「いや、なんでまたここにいるのだよ。おかしいのだよ。」
「すいません。僕、たくさん返り血を浴びてしまったので。あっお風呂ありがとうございます。」
「答えになっていないのだよ。じぶん家で浴びればいいのだよ。」
「無理です。僕ん家は都会のど真ん中にあるんです。目立ってしまいます。」
緑間はため息をついた。
「…もういい。それで首尾よく終わったのか?」
「はい。緑間くんのおかげでブランシュは内部分裂を起こしてたくさんの離反者が出ました。お金の切れ目は縁の切れ目とよく言ったものですね。どんなにカリスマがあっても部下を食わすことのできないリーダーには誰もついていきません。」
「それでブランシュ内部のコアな者を炙り出したということか。流石なのだよ。」
「任務も幾らか楽になりました。本当にありがとうございました。」
緑間はテツヤの手腕を評価し、テツヤは緑間の功績に感謝の言葉を送る。
「しかし、いくらなんでも十数人の死体は目立つだろう。どうする気なのだよ。」
緑間は一つ懸念事項を呟く。
「その辺は抜かりなく、明日のニュースでわかると思いますが、全てブランシュの内紛で片付くと思いますよ。」
「どういうことなのだよ。何か細工でもしたのか?」
テツヤの言葉に自信が感じられ、緑間は首を捻った。
「はい。実はブランシュ内部に公安のスパイがいまして、利用させて貰いました。」
「?」
「そもそも公安はブランシュをマークしていました。目的は言わずもがな。ですが、本来公安はブランシュが第一高校に襲撃することを黙認する気だったんです。」
「!?」
テツヤの告げた事実に緑間はひどく驚いた。
「もし、魔法科高校の生徒たちの身に何かあったならば世論は魔法師に同情します。そして、公安は一気に反魔法組織を検挙して一掃し、ついでに自らの勢力拡大を狙っていたんです。」
「なるほど。理に適っているのだよ。だが、それとどう関係するんだ。」
緑間はテツヤの説明に理解を示しながらも、更に分からないといった表情をした。しかし、テツヤの一言で表情が一変する。
「わかりませんか。つまり、僕はそんな公安に遠慮する必要がないということです。」
「まさか、お前。」
「えぇ、ブランシュのアジトに踏み込んだ時、やはり公安のスパイが複数いました。ブランシュの幹部たちを暗殺した後、あえて彼らを拷問して死体を大きく損壊させておきました。そして、タイミングをはかって警察に連絡しました。公安はこう考えるでしょう。ブランシュにスパイがバレて拷問され、ブランシュの上層部が司一ごと口封じを行なったのだと。わざわざ複数人の犯行に偽装させましたしね。」
テツヤの説明に緑間は思わず一言。
「…お前恐ろしいな。」
「そうですか?これでも抑えたつもりなんですが。ですがこれで公安もしばらくおとなしくなるでしょう。」
そう言いながら、テツヤの表情は冷静を保ちながらも苛立ちを含んでいるように見えた。
「お前絶対、怒ってるだろ。」
「当たり前です。本来なら襲撃の事実を知った時点で行動を起こすべきものを。それを怠ったのですから、自業自得です。」
「まぁ、仕方ないか。もう一つ疑問があるのだよ。もともと幹部クラスは赤司からの情報で分かっていたのだよ。わざわざ、ブランシュから金を巻き上げる必要があったのか?無論暗殺のレベルは上がるが黒子なら問題なくこなせたと思うのだよ。」
緑間は一つ目の疑問に加えて、もう一つ質問をテツヤに投げかけた。
「よく気がつきましたね。流石、緑間くんです。本当の事を言うと必要なかったです。」
「おい!」
「ですが、やる価値はありました。おかげでブランシュの上層部が資金を引き上げたと見せ掛けられましたから。」
「…」
緑間はまだ何か隠していると直感した。そして、続きを話せとテツヤに迫る。すると、テツヤはしぶしぶ本当の理由を話した。
「それもありますが、本当の目的は資金の調達です。」
「はっ?」
「だって、裏工作にはものすごくお金が掛かるんです。例えば、赤司くんの情報網は信頼性が高い反面もの凄く高いんです。」
緑間はテツヤの様子を見て嘘を話していないと分かるものの、更なる疑問を持った。
「だが、お前には主がいるんだろう。そこから貰えばいいじゃないか。」
「確かに主から資金は貰っています。ですが、全て主のポケットマネーから出ているんです。僕は主がひもじくなっている姿を見たくないのです。」
緑間はテツヤの主を知らないものの、その様子を思い浮かべてなんだか気の毒に思えた。
「まぁ、なんだ。黒子も大変だな…。」
「ええまぁ。」
緑間はそれを最後に切り出した。
「しかし、もうこれっきりにしてほしいのだよ。」
「えっ、何を言っているんですか?これからも僕はあなたを頼りにするつもりなんですが。」
テツヤは緑間の言葉に驚き、今後の予定を話した。
「もうこんな危ない橋をわたるものか!」
「緑間くんは既に共犯です。僕ともう一心同体、運命共同体なんですよ、緑間くん。」
必死に抵抗する緑間にテツヤは説得を試みる。
「絶対、もう協力してたまるか。離せ黒子!」
その日の夜、緑間の心からの悲鳴があたりに響きわたった。
〜回想終了〜
「とにかくブランシュは僕が壊滅させました。しかし、まだエガリテが残っています。僕が頼みたいのはエガリテのことなんです。」
テツヤは達也に本日訪問した理由を話し始めた。そして、あらかじめ持ってきていた記録キューブを達也に渡す。
「これは…」
「エガリテの構成員と詳しい情報です。これを使ってエガリテを救って貰いたいんです。」
そう言い出したテツヤに達也は心底分からないといった表情をしながら、疑問をこぼす。
「お前はなぜ俺に頼む。それにエガリテがどうなろうとお前に関係ないだろうが。」
達也の疑問はもっともだとしながらも、テツヤは一息で言葉を紡ぐ。
「確かに僕はエガリテと何の関わりもありません。ですが、彼らはブランシュに騙されただけなのです。…僕は今までたくさんの人を殺してきました。しかし、人を助けたいと思う心だけは捨てていません。そこだけは何があろうと守っていくつもりです。どうか、僕の願いを聞き入れて貰えませんか。」
テツヤの様子に感じ入ったのか深雪もテツヤに同調し、兄に頼み込んだ。
「お兄様、私からもお願いします。」
「深雪・・・。」
愛する妹からのお願いに達也はあっけなく陥落した。
~後日談~
「そう言えば黒子、エガリテはどうするつもりなのだよ?」
緑間はふっと思った疑問を口にする。
「僕は知り合いに頼もうと思っています。今回、借りを作っておくのも悪くないなと思いますし。」
「借りを作る?貸しを作るではなくてか?」
緑間はテツヤの言葉にはてなが広がる。
「えぇ、実はその知り合い僕のことを危険視してくるんです。今回、彼に借りを作ることで精神的優位を与えて、暴走しないようにコントロールしようと思いまして。それにエガリテに関わっても何も旨みはありませんし、何よりめんどくさいので。」
「黒子の置かれている状況は知らんが、大変なのはよくわかった。」
そう言うと、興味を失った緑間は作業に戻った。
お金が無くなってひもじい真夜様を想像するとよくわからないものがこみ上げてきます。