Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第20話「守護者VS魔術王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソロモン

 

 旧約聖書に登場する、古代イスラエル王国の第3代国王。

 

 かのダヴィデ王の息子に当たる人物。

 

 イスラエルを最も繁栄させたと言われる、偉大なる中興の祖。

 

 ダヴィデ王と、王の家臣だったバト・シェバの妻が不義を行った末に誕生したソロモンの王位継承権は当初、低い物であった。

 

 しかし父の死後に起きた王位継承問題において兄を打倒したソロモンは、イスラエル王に就任する事になる。

 

 王位を継承したソロモンは、内政と外交に尽力し、イスラエルの発展に貢献したと言われている。

 

 またソロモンは、人類に初めて「魔術」と言う概念を齎した事でも有名である。

 

 神と契約し、天使や悪魔を使役しうる指輪を継承したほか、72柱の魔神を使役したとも伝えられている。

 

 まさに全ての魔術師たちの頂点であり、「魔術王」と呼ぶに相応しい、冠位(グランド)の名を持つ、究極の英霊の1騎である事は間違いなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・まさか、こんな段階で『本命』登場とはな」

「本命って・・・・・・まさかッ!?」

 

 発言したアンデルセンの言葉に、立香は驚愕の反応を示す。

 

 以前、魔術協会での探索の後で語った、アンデルセンの考察。

 

 聖杯戦争、その大本である「英霊召還」の本来の目的。

 

 「強大な一つの存在に対し、最強の7騎を召喚して戦う」と言うありかた。

 

 だとすれば、

 

 今、ゆっくりと歩いてくる存在こそ、この人理焼却における真の黒幕と言う事になる。

 

 しかし、

 

 迫りくる圧倒的な存在感。

 

 世界を賭しても尚、天秤が釣り合わないほどの魔力。

 

 それら全てが、事態の肯定を指し示していた。

 

「カルデアは時間軸から外れた存在故に、誰にも見付ける事の出来ない拠点となった。あらゆる未来、全てを見通すわが目をもってしても、カルデアを観る事は難しい」

 

 言いながら、

 

 嘲笑が響き渡る。

 

「だからこそ生き延びている。無様にも、無惨にも、無益にも。決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだに無の大海を漂う哀れな子船。それが、お前達カルデア。燃え尽きた人類史に残った僅かな染み、私の事業に唯一残った、私に逆らう愚者の名前よ」

 

 ソロモン王を名乗る人物は、そう告げると、居並ぶ全てを圧倒するように佇んだ。

 

 血色の肌に整った顔立ち。

 

 全てを見透かすような、知性を感じる双眸。

 

 しかし、その眼差しからは、王としての威厳はあるものの、伝説に語られるような慈愛は無く、ただ只管、冷徹と侮蔑に溢れているように思えた。

 

「申し訳ありません、我が王よ。あなた様にまで、ご足労戴く事になろうとは」

「良い、所詮は、些事よ」

 

 恭しく膝を突くアヴェンジャー、キャスター、アサシンの3人。

 

 対して、ソロモンを名乗る男は、取るに足らないと言わんばかりに、見向きもせずに答える。

 

 その視線の先では、

 

 身構える、カルデア特殊班一同の姿があった。

 

「ソロモンとは、また随分なビッグネームのお出ましじゃ、ねえか」

 

 モードレッドは剣の切っ先を下げながら、挑発的な口調で告げる。

 

 玉藻の回復魔術のおかげで、モードレッドの傷もだいぶ癒えている。今なら、多少戦うくらいはできるだろう。

 

「テメェもサーヴァントって訳か? そんで英霊として召喚され、二度目の生とやらで人類滅亡を始めたってオチか?」

 

 問いかけるモードレッドに対し、

 

 ソロモンは淡々とした口調で告げた

 

「それは違うなロンディニウムの騎士よ。確かに私は英霊だが、人間に召喚される事は無い。貴様らのような無能者とは違い、私は死後、自らの力で蘇り、英霊に昇華したのだ」

 

 聖杯戦争におけるサーヴァントは、魔力供給をするマスターの存在があって初めて成立する。

 

 だが、英霊ではあるが、同時に生者でもある。

 

 それが今のソロモンだとすれば、確かに魔力供給源であるマスターは必要ないだろう。

 

「私は私の意志で、私の事業を始めた。愚かな歴史を続ける塵芥。この宇宙で唯一にして最大の無駄である、お前達人類を一掃する為に」

「そんな事を、させるかッ」

 

 叫ぶ立香。

 

 9割がた虚勢である。

 

 しかしそれでも、

 

 カルデア特殊班のリーダーとして、敵の首魁を前に臆する事だけは許さなかった。

 

 震える膝を押さえつけ、乾く唇を噛み締めながら、

 

 それでも立香は、ソロモンを睨みつける。

 

 しかし、

 

 そんな立香の、ガラスの如き心底を見透かしたように、ソロモンは言い放った。

 

 誇るでもなく、奢るでもなく、

 

 淡々と、事実を告げるように。

 

「できるさ。既に私は、その手段を有している。何より、お前達の世界は、既に時を超える魔神たちによって滅ぼされている」

《馬鹿なッ!!》

 

 立香よりも先に、反応を示したのはカルデアにいるロマニだった。

 

《伝承とあまりに違うッ ソロモン王の使い魔は、あんな醜悪な肉の化け物のはずが無い!!》

「哀れだな。時代の先端にいながら、貴様らの解釈はあまりにも古い。七十二柱の魔神は受肉し新生した。だからこそ、あらゆる時代に投錨できるのだ。言わば魔神たちは、この星の自転を止める為の楔と言う訳だ」

 

 ロマニの言葉を、現下に否定するソロモン。

 

「そして天に渦巻く光帯こそ、我が宝具。『誕生の時きたれり、其れは全てを修めるもの(アルス・アルマデス・サロモニス)』に他ならぬ」

「あれがッ!?」

 

 言いながら、天を仰ぐマシュ。

 

 今も、霧の彼方にうっすらと、天の光帯を認める事が出来る。

 

「あの光帯一条一条が、聖剣の熱線。貴様らが先程まで遊んでいたアーサー王が持つ聖剣を、幾億にも重ねた規模の光。すなわち、『対人理宝具』と言う訳だ」

 

 対人理宝具。

 

 すなわち、あれこそが、ソロモン王にとって人理焼却を行う為の要と言う訳だ。

 

「父上の聖剣の数億倍だと・・・・・・それで時代を焼き払おうってのか、テメェ!?」

「さて、それを見る事も出来ない貴様に応える気は無いな」

 

 吼えるモードレッドを鼻で笑い、ソロモンは腕を翳す。

 

「さて、そちらの質問には答えた。次はこちらの番だ、カルデアよ」

 

 言いながら、

 

 ソロモン周囲の空間が一斉にはじけるのが見える。

 

 魔力が、高まっているのだ。

 

 来る。

 

 誰もが、そう思った。

 

 ソロモンはここで、カルデア特殊班を全滅させる気なのだ。

 

「ドクターッ 早くレイシフトを!!」

《いや、駄目だ。空間が邪魔してッ 君達がいる場所までアンカーが届かない!!》

 

 急かすようなマシュの言葉に、ロマニは悲鳴交じりの返事を返す。

 

 この場は既に、ソロモンの支配領域と化している。その為、如何に最先端の技術力を誇るカルデアと言えど、抗する事が出来ないのだ。

 

 ソロモンはその事を見越して、姿を現したのだ。

 

 自らの手で、カルデア特殊班を殲滅する為に。

 

 響は、刀の柄に手を掛けながら、ソロモンを睨みつける。

 

 このままでは、全滅する。間違いなく。

 

 ならば、どうする?

 

 この場にいる皆が、既にボロボロの状態だ。まともに戦える者など、1人もいない。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 チラッと、傍らに立つ美遊に目を向ける。

 

 躊躇うべきじゃ、ない。

 

 切り札を切るなら、今しかない。

 

 そう決断した。

 

 その時だった。

 

「やめておけ」

 

 少年の肩が、優しく、制するように叩かれる。

 

 振り仰ぐ先には、

 

 真っ直ぐに前を見据えた、兄の姿があった。

 

「ん、士郎?」

「自分の誓いを忘れるな。お前の(それ)は、こんな所で使うべきじゃないだろう」

 

 戒めるように、

 

 それでいていたわるように、兄は弟に優しく笑いかけると、ゆっくりと前に出る。

 

「それに、言ったろ」

 

 向かう、視線の先。

 

 そこに佇む、ソロモンの姿。

 

「俺が、全部終わらせるって」

 

 言い放つ士郎。

 

 対して、

 

 ソロモンは侮蔑と共に笑い飛ばす。

 

「今更、抑止如きが出てきたところで、私は止められん」

 

 先にはアヴェンジャーにも言われた事。

 

 だが、

 

「悪いが、俺が見ている物は、お前じゃない。もっと先にある物だ」

「ほう」

 

 落ち着き払った士郎。

 

「ロマニ、聞こえるか?」

《・・・・・・ああ、聞こえるよ》

 

 呼びかける士郎に対して、ロマニは少し躊躇うように答えた。

 

 彼には判っているのだ。

 

 これから、士郎が何をしようとしているのか、を。

 

「時間は俺が稼ぐ。その間に、レイシフトの準備を始めろ」

《士郎君・・・・・・》

「チャンスは必ず作る。タイミングを、見誤るなよ」

 

 前に出る士郎。

 

 その手に、

 

 黒白の双剣が握られる。

 

 既に切り札である宝具は使用してしまっている。再度の展開は不可能。

 

 どう考えても、士郎に勝ち目は無い。

 

 だが、それがどうした?

 

 宝具は確かに最強の切り札だが、所詮は戦うための一手段に過ぎない。

 

「本当に必要なのは、何の為に戦うのか決断する事。そして、決してとどまらない事だ」

 

 対して、

 

 ソロモンは冷ややかな目で士郎を見据えると口を開いた。

 

「フム、良かろう。ちょうどよい座興だ。相手をしてやろうではないか」

 

 余裕を見せる、ソロモン。

 

 次の瞬間、

 

 士郎が仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒白の剣閃を掲げて斬りかかる士郎。

 

 消耗し、摩耗し、既にその霊基は崩れかけている。

 

 今、この瞬間に消滅したとしても不思議はない。

 

 しかし、

 

 それでも尚、

 

 死の淵にあって、

 

 抑止の守護者、

 

 否、

 

 子供たちの誇るべき「兄」は駆ける。

 

 自らが守るべき者たちを守るために。

 

 対して、

 

 世界を破壊せんとする王は、

 

 その腕を虚空に一振りする。

 

 同時に出現する、無数の魔力球。

 

 目を剥く士郎。

 

 次の瞬間、

 

 魔力球は、向かってくる士郎目がけて一斉に射出された。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちする士郎。

 

 とっさに回避を選択して方向転換。ソロモンの側方に回り込むようにして駆ける。

 

 だが、

 

「無駄だ。その程度でかわせるものか」

 

 魔力球を誘導し士郎を追撃するソロモン。

 

 着弾した魔力球が次々とさく裂し、爆炎が戦場を彩る。

 

 対して、

 

 士郎はひたすら回避に専念。反撃のタイミングを伺う。

 

 爆炎が視界を塞ぎ、士郎の姿が見えなくなる。

 

 次の瞬間、

 

 立ち込める煙の向こうで、

 

 魔力が弾けた。

 

「ぬッ」

 

 一瞬、目を見開くソロモン。

 

 同時に、

 

 煙を突き抜けるように、1本の矢が、ソロモン目がけて撃ち放たれた。

 

「フンッ」

 

 対して、ソロモンは一瞬にして前面に障壁を展開する。

 

 着弾する矢。

 

 内蔵した魔力がさく裂し、爆炎が躍る。

 

 だが、

 

 吹き上がる炎は、ソロモンへは一切届かない。

 

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)の魔力放出をまともに受けて、障壁は小動すらしていない。

 

 これほどの障壁を詠唱無しで展開できる事が、既にソロモンの魔術師としての恐ろしさを如実に物語っていた。

 

 だが、

 

 ソロモンが障壁を展開した隙を突くようにして、士郎が駆ける。

 

 同時に、自身の周囲に複数の剣を投影。

 

 ソロモン目がけて一斉射出する。

 

 自身に飛んで来る切っ先。

 

 その全てを、

 

「脆いな」

 

 ソロモンは、腕の一振りで粉砕してしまう。

 

 その口元に浮かべられる薄笑い。

 

 士郎の攻撃を全く寄せ付けず、圧倒的とも言える存在感を見せつける。

 

 だが、

 

 駆けながら、士郎の双眸は真っ直ぐにソロモンを捉える。

 

 同時に、

 

 両腕を交差させるように構える。

 

 その手に握られた黒白の双剣。

 

 

 

 

 

鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ むけつにしてばんじゃく)

 

 

 

 

 

 詠唱と共に、

 

 士郎は双剣を投擲する。

 

 

 

 

 

心技、泰山ニ至リ(ちから やまをぬき)

 

 

 

 

 

 回転しながら、ソロモン目がけて飛翔していく干将・莫邪。

 

 対して、

 

 ソロモンは微動だにすらしない。

 

「たかが剣を投げたぐらいが何だと言うのだ?」

 

 言いながら、飛んできた干将と莫邪を弾く。

 

 だが、

 

 

 

 

 

心技、黄河ヲ渡ル(つるぎ みずをわかつ)

 

 

 

 

 

 

 再度、剣を投擲する士郎。

 

 やはり、剣は回転しながら飛翔する。

 

「何をしようと言うのかね? 無駄な事を」

 

 対するソロモンは、もはや侮蔑を隠そうともせずに剣を弾く。

 

 だが、

 

 

 

 

 

唯名、別天ニ納メ(せいめい りきゅうにとどき)

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 士郎は仕掛けた。

 

 三度(みたび)、干将・莫邪を投影する士郎。

 

 同時に、

 

 活性化された魔術回路に呼応し、剣が巨大化する。

 

 否、

 

 其れだけではない。

 

「ぬッ!?」

 

 そこで初めて、ソロモンが(微かにだが)眉をひそめた。

 

 先に弾かれた剣。

 

 2対4刀の干将と莫邪が、

 

 尚も地に落ちる事無く、宙に飛び続けているではないか。

 

 回転するそれらは、一斉に方向を変え、ソロモンへ切っ先を向ける。

 

 同時に、

 

 士郎本人もまた、大剣化した干将・莫邪を構えて距離を詰める。

 

 3方向から迫る刃。

 

 回避も、防御も不可能。

 

 

 

 

 

両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら ともにてんをいだかず)!!」

 

 

 

 

 

 互いに引き寄せる性質を持つ双剣「干将・莫邪」の特性をフルに活かした絶技。

 

 其の名も「鶴翼三連」。

 

 飛来する3対の刃。

 

 回避も、防御も不可能な剣閃。

 

 だが、

 

「無駄だ」

 

 あざ笑う、ソロモンの声。

 

 次の瞬間、

 

 3対の刃は、王の身を切り裂く事無く、その全てが打ち砕かれた。

 

「無駄、無駄、無駄、無駄ッ 貴様の全てが無駄の塊だなッ 抑止の守護者よ!!」

 

 ただ1人、

 

 魔術王のみが、無慈悲に立ち続ける。

 

「貴様の役割は既に終わったッ 生き汚く足掻く様は、滑稽でしかないな!!」

 

 その口より、容赦ない哄笑が叩きつけられる。

 

「消えるが良いッ 役立たずの守護者よ!! この私が焼却する世界と共にな!!」

 

 勝ち誇る魔術王。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、お前がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 ソロモンの背後に立った士郎。

 

 その手には、

 

 握られた、大ぶりな拳銃。

 

 装填された魔弾は、必中必殺を期すべく、既に照準を魔術王の心臓へと向けられている。

 

「貴様ッ」

 

 呻くソロモン。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

Unlimited Lost Works(無/の剣製)!!」

 

 

 

 

 

 放たれた銃弾は、

 

 真っ直ぐに飛翔。

 

 真っ向から、ソロモンの心臓を刺し貫いた。

 

 次の瞬間、

 

 無数の剣が魔術王の身体を内側から食い破り、刺し貫いた。

 

 

 

 

 

第20話「守護者VS魔術王」      終わり

 


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