Fate/cross wind   作:ファルクラム

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亜種特異点 ■■■■■■■■■■・■■■
第1話「暗闇からの手招き」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の話をしよう。

 

 彼はマルセイユの優秀な船乗りだった。

 

 否、天才、と言っても良かったかもしれない。

 

 風を読み帆を操り、波を見て舵を切り、星を眺めて進路を定め、多くの部下を統率するカリスマ。

 

 およそ、船乗りに必要な全ての能力を、彼は備えていた。

 

 だからこそ先代の船長が不慮の事故で死んだとき、尊敬する船主から、若くして大型商船の船長にも抜擢された。

 

 また、彼は私生活も充実していた。

 

 彼には幼馴染で、美しい恋人がいたのだ。

 

 互いに想い合っているいる2人は、彼が次の航海から戻ったら、晴れて結婚する予定だった。

 

 誠実で真面目な彼の周りは、常に多くの人々の笑顔で溢れ、幸せに満ちていた。

 

 仕事、愛。

 

 全てがうまく行っている。

 

 彼の人生は、正しく順風満帆その物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングを終えた藤丸立香(ふじまる りつか)は、流れる汗を首にかけたタオルで拭い、大きく息を吐いた。

 

 運動をこなした後の軽い倦怠感とそう快感によって包まれる。

 

 カルデアに来るまで、あまり積極的に運動などしてこなかった立香だが、最近では時間があれば体を動かすようにしている。

 

 レイシフト先では、どのような戦場が待っているか分からない。

 

 場合によってローマの時みたいに、国をまたいで移動しなくてはならない事も有り得る。

 

 マスターと言えど、体力は必須だった。

 

「お疲れ様でして先輩。スポーツ飲料をどうぞ」

「フォウッ フォウッ」

「ああ、ありがとう、マシュ」

 

 ボトルを差し出す後輩に笑顔を向けつつ、中身を少し多めに煽る立香。

 

 肩に駆けあ上がってくるフォウの毛並みを感じながら、喉越しに感じる清涼感が、高ぶった気を静めてくれるようだった。

 

「先輩、既に正午を過ぎています。この後、凛果先輩も誘って、食堂へ行きませんか?」

「ああ、そうだな・・・・・・・・・・・・」

 

 言いかけて、

 

 立香はふと、思い出したようにマシュを見た。

 

「みんなは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかける立香に、マシュは俯きながら首を横に振った。

 

「そっか・・・・・・・・・・・・」

 

 後輩のその態度に、状況を察した立香も嘆息する。

 

 事が事だけに、簡単に割り切る事が出来ない。

 

「難しいよな。やっぱり」

「ええ」

「フォウ・・・・・・」

 

 ロンドンでの戦いが終わり、数日が過ぎていた。

 

 かつてない激戦を潜り抜け、帰還を果たしたたカルデア特殊班は、次のレイシフトまでの間、つかの間の平穏を享受していた。

 

 現在、ロマニ・アーキマンやレオナルド・ダヴィンチをはじめとした後方支援スタッフが、急ピッチで獲得した聖杯の解析、及び次の特異点の絞り込みを行っている。

 

 戦場での戦いは特殊班の仕事だが、戦いが終われば、今度は後方支援スタッフの戦いが始まる事になる。

 

 前線で特殊班メンバーが体を張る分、それ以外の業務は彼らの領域となっている。

 

 特殊班メンバーが前線で心置きなく戦えるのは、彼等の支えがあるからこそ、とも言えた。

 

 とは言え、

 

 先のロンドン戦における熾烈な戦いは、特殊班メンバーに深い傷を残していた。

 

 敵の首魁、魔術王ソロモンまで姿を見せた戦いで、カルデア特殊班は壊滅寸前まで追い詰められた。

 

 多くのサーヴァント達が、戦場に倒れ、消えて行った。

 

 特に、これまで特殊班を影から支えてきた、衛宮士郎の存在が失われた事が大きかった。

 

 その体のせいで、これまで大ぴらに戦いには参加できなかった士郎だが、要所においては陰ながら特殊班を支援してきた。

 

 その士郎が死んだ。

 

 失った物の大きさは計り知れず、心に空いた穴を埋めるには、時間が足りな過ぎた。

 

 中でもやはり、精神的ダメージが大きいのは、士郎の弟妹である、衛宮響、クロエ・フォン・アインツベルン、そして朔月美遊だった。

 

 士郎の死後、3人の子供たちの落ち込み具合は、それはひどい物だった。

 

 響は一見すると普段と変わらないようにも見えたが、少しでも目を離すとぼうっとしている事がある。

 

 クロエは表面上、普段通り振舞っているように見える。しかし、ふとした表紙に、寂しげな表情を見せる事も多かった。

 

 そして、

 

 最も落ち込んでいるのは美遊だった。

 

 彼女の中で、記憶が完全に再現されたわけではない。

 

 しかし、だからこそ、なのかもしれない。

 

 自分も知らなかった大切な兄が、自分の為に最後まで戦い、そして散って行った。

 

 その事実が、美遊の中で処理しきれない感情となって渦巻いているのが判る。

 

「士郎さんの存在が、響さん達にとって、如何に大きかったかが判ります」

「ああ。考えてみれば、今ままでも、影から俺達を助けてくれてたんだよな」

 

 オルレアンで、ローマで、オケアノスで、そしてロンドンで。

 

 カルデア特殊班がピンチに陥った時、士郎は必ず助けに来てくれた。

 

 立香達からしても、士郎は大切な恩人だったのだ。

 

「俺が、彼の代わりに慣れるとは思っていないさ」

「先輩・・・・・・」

「けどさ。彼の代わりに、みんなを支えてあげる事くらいはできると思うんだ」

 

 何も、最前線で剣を振るだけが戦いではない。

 

 士郎のように、みんなの為に戦う事は出来ずとも、みんなが戦えるように支えることはできる。

 

 自分の戦い方とは、そうした物なのだと、立香は最近では考えるようになっていた。

 

「さあ、みんなも誘って飯にしよう」

「そうですね。私、凛果先輩達に声を掛けてきます」

「フォウッ!!」

 

 フォウと共に駆け去って行くマシュの背中を、立香は笑顔で見送る。

 

 そうだ。

 

 いつまでも落ち込んでばかりいられない。

 

 ここは、リーダーである自分が率先して歩き出さないと。

 

「さて、じゃあ行くか」

 

 先に食堂に向かうべく、顔を上げる立香。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正しくこの世の春だった。

 

 誰もが、彼を愛し、誰もが彼を祝福した。

 

 幼馴染の男は、彼の婚約者に想いを寄せていたが、2人の想いを知って身を引いてくれた。

 

 船会社の先輩会計士は、彼の実力を認め、船長となる彼の下で、喜んで働くと言ってくれた。

 

 そして、

 

 婚約者の少女は、彼と結ばれる日を心待ちにしていた。

 

 幸せだった。

 

 彼こそはまさに、フランス1、否、世界1の幸せ者だった。

 

 やがて、その日はやってくる。

 

 彼はその日、婚約者と結婚する事になっていた。

 

 皆が祝福してくれる中、

 

 彼と婚約者は、共に幸せの一歩を踏み出そうとした。

 

 何も心配はいらない。

 

 これから輝ける未来が待っている。

 

 誰もが、そう思っていた。

 

 まさに、

 

 誓いの言葉を告げようとした瞬間だった。

 

 突如、式場に雪崩れ込んでくる秘密警察。

 

 否応なく逮捕される彼。

 

 戸惑う間、すら、彼には与えられなかった。

 

 幸せの絶頂にあった花婿は、頂から引きずり倒され、踏みにじられ、縛られる。

 

 いったい、何が起きたのか?

 

 誰1人として理解できないまま、彼は引き立てられていく。

 

 必死に追いかける花嫁。

 

 何かの間違いだから。すぐに戻って来れるから。

 

 そう言って、花嫁を安心させようとする彼。

 

 だが、

 

 その姿は徐々に小さくなり、やがて灯が消えるように、見えなくなっていくのだった。

 

 

 

 

 

 皿を洗う手も、気が入らずにそぞろとなる。

 

 地に足が着いていない。

 

 今の心の在り方を一言で表すなら、正にそんな感じだった。

 

 ロンドンから戻ってきてから、自分の心は、どこか別の時空をさ迷っているように思えてならなかった。

 

 朔月美遊(さかつき みゆ)は、視線を虚空にさ迷わせる。

 

 メイド服を着込んだ少女は厨房に立ち、皿洗いに勤しんでいた。

 

 思い浮かべられるのは、あのロンドンの戦いでの最後。

 

 自分たちを助けてくれた弓兵(アーチャー)の少年、衛宮士郎。

 

 彼は間違いなく、美遊の兄だった。

 

 より正確に言えば、「並行世界における美遊の兄」なのだが。

 

 彼と接し、彼と話した事で、その記憶が僅かながら蘇ってきた。

 

 もっとも美遊からすれば、士郎の存在は「どこか別の世界にいる初対面の兄」でしかない。

 

 彼との間には、美遊自身には何の思い出も存在しない。

 

 しかし、

 

 自分を助けてくれた兄。

 

 自分を育ててくれた兄。

 

 自分を守ってくれた兄。

 

 そして、

 

 自分の幸せを願ってくれた兄。

 

 その全てが、温かい感情として、美遊の中に存在していた。

 

 簡単に割り切れる物ではなかった。

 

 だが、

 

 その兄も、もういない。

 

 また、自分を、

 

 自分たちを守って、逝ってしまった。

 

「お兄ちゃん・・・・・・・・・・・・」

 

 呟く美遊。

 

「大丈夫?」

「え?」

 

 声を掛けられて振り返ると、そこにはジングル・アベル・ムニエルとアニー・レイソルの2人が立っていた。

 

 どうやら解析作業を一時中断して、休憩に来たらしかった。

 

「さっきから声かけてるのに、全然返事しないから、どうしたのかと思ったよ」

「あ、す、すみません」

 

 慌てて皿を置く美遊。

 

 だが、

 

 置き方が悪かったのか、更は流し台から滑り落ち、床に当たって砕け散った。

 

 甲高い音と共に、床に散らばる皿の破片。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

「ちょ、ちょっと、大丈夫ッ!?」

 

 慌てたアニーが、厨房に駆けこんでくると、床に散らばった破片を集め始める。

 

 その姿に、美遊も我に返って掃除を始めた。

 

「手、切らないように気を付けてね」

「はい」

 

 落ち込んだように返事を返す美遊。

 

 本当、どうかしていると自分でも思う。

 

 こんな事で、ここまで取り乱すなんて。

 

 もっと、しっかりしなくては。こんな事で、次のレイシフトが始まったりしたら、みんなの足を引っ張る事にもなりかねなかった。

 

「すみません、アニーさん、ムニエルさん。ご注文ですよね。すぐ、作りますから」

「気にしないで」

「そうそう、ゆっくりで良いからな」

 

 そう言って、優しく笑うアニーとムニエル。

 

 2人の気遣いも、今は有難く感じてしまう。

 

 ともかく、もっと気合いを入れ直そう。

 

 そう思って、厨房に向き直った美遊。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お願い・・・・・・どうか・・・・・・届いて・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 突如、聞こえてきた声。

 

 慌てて振り返るも、周りにはアニーとムニエルの2人しかいない。

 

「どうしたの、美遊ちゃん?」

「今、のは・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊の様子に、怪訝な面持ちで顔を見合わせる2人のカルデア職員。

 

 気のせい、か?

 

 そう思った、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お願い・・・・・・どうか、早く・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まただ。

 

 今度は、はっきりと聞こえた。

 

「これは、いったいッ!?」

 

 美遊が叫んだ瞬間、

 

 その視界が突如、

 

 漆黒の闇に、呑み込まれる。

 

「あッ!?」

 

 とっさに、逃げる事すらできない。

 

 口を空ける闇。

 

 その中に飲み込まれる少女。

 

 手を伸ばすが、指先は虚空を掻き、何も掴む事が出来ない。

 

 やがて、

 

 美遊の意識は暗転して行った。

 

 驚いたのは、アニーとムニエルである。

 

 彼らが見ている目の前で突然、美遊が意識を失い倒れてしまったのだから。

 

「美遊!!」

「美遊ちゃんッ どうしたの!!」

 

 慌てて、倒れた美遊を抱き起すアニー。

 

 しかし、美遊は呼びかけに答える事も無く、ぐったりと目を閉じている。

 

 一見すると、眠っているだけのようにも見える。

 

 だが、これが異常である事に気付かない者など、カルデアにはいない。

 

 つい数秒前まで元気に話していた人間が突然、意識を失ったのだから。

 

 と、

 

「ん・・・・・・美遊?」

 

 小さな声に導かれて振り返ると、そこには暗殺者(アサシン)の少年が立っていた。

 

 衛宮響(えみや ひびき)が、怪訝な面持ちを向けてきている。

 

 普段の英霊としての恰好ではなく、サイズを合わせたカルデア制服を着ている所を見ると、どうやらムニエルたち同様、食事をしに来たらしかった。

 

 だが、

 

「美遊ッ!?」

 

 倒れている美遊の姿を見て、その幼い表情には一瞬にして緊張が走る。

 

「美遊ッ!!」

 

 駆け寄って呼びかけるも、響の声にすら、美遊の反応は無い。

 

 響は強張った顔で、ムニエルとアニーを見た。

 

「これ・・・・・・何した?」

「判らないんだ。話していたら、急に倒れて」

 

 困惑した様子でムニエルも答える。

 

 実際、何がどうなっているのか、彼にも皆目見当がつかなかった。

 

「と、とにかく、医務室に運んで、司令代行に診てもらいましょう。響君も手伝って!!」

「んッ!!」

 

 アニーに促され、美遊の身体を持ち上げる響。

 

 完全に意識を失っている美遊は、何の抵抗も示さない。

 

 だが、

 

 美遊を抱えて食堂を出ようとした時だった。

 

 入口の扉が開き、盾兵(シールダー)の少女が、血相を変えて飛び込んでくるのが見えた。

 

「大変ですッ 先輩が!!」

 

 マシュの声が、更なる混乱の引き金となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルデアの医務室に運び込まれたのは、美遊だけではなかった。

 

 彼女が眠る隣のベッドでは今、特殊班のリーダーである立香が横になっていた。

 

 その2人を交互に診察したロマニが、難しげに顔を上げたのは、心配した一同が集まって、暫くした頃の事だった。

 

「どうなの、ロマン君?」

 

 心配顔で尋ねる藤丸凛果(ふじまる りんか)

 

 対して、ロマニは嘆息を返す。

 

「いや・・・・・・正直、お手上げだ。いったい、なぜこんな事になったのか、さっぱりだ」

「ちょっと、もっとまじめにやりなさいよッ あんた医者でしょッ」

 

 食って掛かったのはクロエである。

 

 彼女もまた、友達やマスターの異常とあって、居てもたってもいられずに駆け付けたのだ。

 

 だが、クロエの抗議を受けても、ロマニは緊張感が抜けるような態度で肩を竦めるしかない。

 

「そんな事言われても、本当に理由が判らないんだ。2人とも、特に何か疾患を抱えている訳でもないし、外傷がある訳でもない。本当に、ただ『眠って』いるだけだからね」

 

 こう見えて(本当に「こう見えて」だが)ロマニは元々、カルデア医療部門のトップだったのだ。医療方面の知識については、前所長のマリスビリー・アニムスフィアからも信頼されていた。

 

 その彼が判らないと言っている以上、本当に原因は不明なのだ。

 

「一つ、言えることがあるとすれば、『夢』だ」

「夢?」

「フォウ?」

 

 ロマニの説明によると、立香と美遊の脳波の波形は、睡眠時で言うところの「レム睡眠」に近いらしい。

 

 これは即ち、眠りながらも2人の脳は半覚醒に近い状態にあり、夢を見ている可能性が高いそうだ。

 

「じゃあ、2人は、本当に寝ているだけ? 放っておけば起きるの?」

「いや、残念ながら、そう簡単には行かないだろうね」

 

 凛果の問いかけに答えたのは、医務室に入って来たレオナルド・ダヴィンチだった。

 

 彼女もまた、今回の事態を受け、聖杯解析の仕事を一時的にストップして、真相究明に動いてくれていた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、何か判ったの?」

「うん。館内の監視カメラから、2人が倒れた瞬間が映っていた」

 

 美遊は厨房で、立香はマシュと別れた直後に廊下で、それぞれ意識を失って倒れた。

 

「2人が倒れたのは、全く同じタイミングだった。それこそ、コンマ数秒に至るまで、ね。それから・・・・・・」

 

 言いながら、ダヴィンチが差し出した資料を、ロマニが受け取ってザッと目を通す。

 

 と、

 

 司令代行の表情は、みるみる内に険しい物へと変わっていくのが判った。

 

「・・・・・・・・・・・・これは」

「何々?」

 

 凛果、響、クロエの3人が、横から覗き込む。

 

 だが、紙面上には、何やらよく分からない数字の羅列が書かれており、それが何を意味しているのかはさっぱりだった。

 

「2人が倒れた瞬間、2人の周囲には、異常な魔力反応が検出されている」

 

 紙から顔を上げたロマニは、緊張を孕んだ表情で言い放った。

 

「事情については不明だが、これだけは断言できる。立香君と美遊ちゃん。2人が置かれている状況は、何らかの魔術的要因による物と思われる」

 

 魔術的要因。

 

 すなわち、美遊と立香は何らかの魔術を受けた事により、強制的に眠らされている、と言う事になる。

 

「まさか・・・・・・ソロモンが?」

「フォウッ」

 

 凛果が、震える声で呟きを漏らす。

 

 先のロンドンでの戦いで姿を現した敵の首魁、魔術王ソロモン。

 

 その存在が真っ先に浮かぶのは、当然の事だった。

 

「それは判らない。けど、可能性としてはあるね」

 

 答えるダヴィンチの表情にも、険しさが宿る。

 

 ともかく、

 

 2人が夢を見ているだけだとすれば、これ以上、打てる手は少ない。

 

 後は、2人が自然と目覚めるのを待つしかない。

 

 そんな中、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響はジッと、眠る美遊を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 罪状は「国家反逆罪」だった。

 

 当時、フランスはロシアとの戦争に敗れ、絶大な権勢を誇った皇帝が失脚。地中海にあるエルバ島に追放されていた。

 

 しかし、フランスを欧州随一の強国に押し上げた一代の英雄の人気は今なお絶大であり、密かに皇帝の復権を狙っている者も数多い。

 

 現政権は、そうした皇帝派の動向に、常に神経を尖らせていた。

 

 彼は、その皇帝と密約を取り交わし、皇帝をエルバ島から脱出させるための手助けをする密書を交わした。と言う密告状が、警察へと届けられた事が逮捕のきっかけだった。

 

 その手紙自体には、彼も覚えがあった。確かに以前、港で会った人物から手紙を預けられ、あて名の人物に届けるように依頼された。

 

 しかし、その人物と接触したのは死んだ前船長の指示であり、彼には全く身に覚えのない物。勿論、手紙の内容は知らないし、密告状の筆跡にも覚えがなかった。

 

 話を聞いた検事は、間違いなく冤罪だと判断し、すぐに釈放できるよう尽力する事を約束してくれた。

 

 その上で、検事は言った。

 

 皇帝からの密書には、彼にとって非常に不利となる内容が書かれている。こんな物を残しておいては無実の罪が確定してしまうだろう。だから、早々に処分してしまった方が良い。それに、そもそも密書自体が無くなれば、告発もまた無効となるのだから。

 

 そう告げると検事は、手紙を暖炉の火の中へと放り込んだ。

 

 彼は喜んだ。

 

 ああ、これで大丈夫だ。何も心配はいらない。

 

 自分の罪はすぐに晴れる。帰りを待つ父や、婚約者のところへ戻る事が出来る。

 

 本当に、何も心配はいらないんだ。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が裁判無しで、監獄に送られたのは、その翌日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかも、

 

 送られたのは、政治犯などの重犯罪者が、終身刑にされる死ぬまで閉じ込められる魔の島、監獄島「シャトー・ディフ」だった。

 

 

 

 

 

第1話「暗闇からの手招き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亜種特異点 罪過無間監獄シャトー・ディフ

 

 

 

 

 

 




はい、と言う訳です、突然ですがオリジナル特異点です。

と言うか、オリジナル監獄塔イベント、ですかね。

原作の監獄塔イベントを見て、これを再現するのは「無理」と判断しました。たぶん、書いても後々、必ず矛盾が出るのは間違いない。

でも、今後の事を考えればエドモンは出しておきたかったので。

それならいっそ、配役だけしてストーリーは自分で考えよう、と言う事にしました。

幸い、漫画版FGOの「シャトー・ディフ」や、「モンテクリスト伯」の漫画(森山絵凪先生)は持っているので、資料には困らないだろうと判断しました。

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