Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第3話「東西分断」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いですか、ドクター・ラッシュ。患部は清潔に、そしてベッドは床に敷き詰めない。本来なら、決して彼等を不潔な地面に寝かせてはなりません」

 

 戦いが終わった後、大量に増えた戦傷者の治療の傍ら、ナイチンゲールは軍医に対して看護指導を行っていた。

 

 ケルト軍の奇襲により、一時は混乱を来したアメリカ軍の野戦病院。

 

 特にフィン、ディルムッド両雄による攻勢は凄まじく、あわや戦線崩壊寸前まで追い詰められた。

 

 しかし、途中から参戦したカルデア特殊班の活躍により、どうにか押し返す事に成功していた。

 

 ベッドに寝かされた大量の一般兵士の姿は、サーヴァントには勝てない事を如実に表した形である。

 

 ましてか、相手はケルトの大英雄。

 

 たとえ最新の武器を持とうが、千の軍勢を揃えようが、ただ1人の英雄には敵わない。

 

 カルデア特殊班が居なければ、この場は全滅していたとしてもおかしくなかっただろう。

 

「嘔吐剤や瀉血で毒素を吐き出すとか、塩化水銀を飲ませるとか、そういう時代遅れの治療をやったら、あなたに治療が必要なほど殴り飛ばしますので、そのつもりで」

 

 立香の考えに共感したナイチンゲールは、間もなくこの場を離れる事になる。

 

 その為、最低限の看護知識を軍医たちに教え込もうと考えたのだ。

 

 だが、ナイチンゲールの教えに対し、軍医は難色を示す。

 

「し、しかし、その医療は最新の・・・・・・」

 ズドォン

 

 軍医が言い終える前に、ナイチンゲールの拳銃が火を噴く。

 

 弾丸は、軍医の頬を霞める形で、飛び去って行ったが、彼を震え上がらせるには十分だった。

 

「この銃とその治療、どちらが最新ですか? 二度言わせないでください」

「わ、判った!! 判った!! 判りました!! ノー・モア・最新銃!!」

 

 ホールドアップするドクター・ラッシュ。

 

 因みに、現代でこそ「名医」と呼ばれる医者のカテゴリーは多岐にわたるが、医療黎明期、最も腕のいい医者の条件は「いかに素早く、患者の手足を切断できるか」と言う一点に絞られていた。

 

 まともな医薬品すら無いような時代。ちょっとした掠り傷ですら命取りになりかねない。患部が壊死する前に、可能な限り素早く負傷部位を切り取る必要があったのである。

 

 技術同様、医療も日進月歩である。

 

 後の時代に生まれ、より発達した医療・看護知識を持つナイチンゲールからすれば、この時期の医療知識は殺意すら覚えるレベルだろう。

 

 まあ、

 

 だからと言って、イチイチぶっ放されては堪らないが。

 

「それから、老若男女、人種や身分の区別なく治療は行うように。区別するべきは治療の優先順位だけです」

 

 最も優先すべきは、重傷患者で助かる見込みのある者。軽傷者は後回し。

 

 そして、助かる見込みのないと判断された者は放置する。

 

 現代にも通じている「トリアージ」の概念。

 

 非情のようにも聞こえるが、戦争や災害が起これば医薬品や医療機器は否が応でも不足する。更に言えば、時間が経てば経つほど症状も悪化して行く事になる。助かる見込みのない者に時間や物資を投入して死なせてしまえば、その人物に使った全てが無駄になってしまい、本来なら助けられるはずだった命まで失わせてしまう事になりかねない。

 

「それが守られなければ、私の銃弾はたとえ5000キロ離れていても、あなたの眉間を貫きます」

 

 其れだけ言い残すと、ナイチンゲールはテントを去って行く。

 

 その様子を見て、ドクター・ラッシュはホッと息をついた。

 

「行ったか。いや、しかし若いのにしっかりした看護師だったな。それに、ヨーロッパ辺りから来たのだろうか? 人種の区別も無く、などとそうそう言えるものではないだろうに・・・・・・まあ、銃は勘弁してもらいたいが」

 

 嘆息と感嘆の混じり合った言葉を、既に見えなくなったナイチンゲールの背中に投げかける。

 

 ベンジャミン・ラッシュ

 

 アメリカ合衆国建国の父の1人。

 

 医者であり、作家であり、教育者であり、人道主義者でもある。

 

 白人優先主義、人種差別主義が一般主流だったこの時代。自らの助手にアフリカ系黒人を登用して重宝するなど、当時としてはひじょうに先進的な思想を持っていた人物。

 

 生まれた時代こそ違えど、ナイチンゲールと想いを同じくする「同士」とも言える人物と言える。

 

 ラッシュとナイチンゲール。

 

 このような特異点でなければ、決して出会わなかった2人。

 

 たとえ、特異点が修正されれば消えてしまう儚い関係だったとしても、

 

 今この瞬間、運命が交錯したのは奇跡だったのは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

「ん、ナイチン来た」

「フォウッ フォウッ」

 

 テントから出てくる姿を見て、子供たちが顔を上げた。

 

 本当は、もっと早く出発するはずだったのだが、ナイチンゲールが、軍医に看護知識をレクチャーすると言ったので待っていたのだ。

 

「あの、ナイチンゲールさん、さっき銃声が聞こえたんですが?」

「気のせいです」

「いや、気のせいじゃないでしょ」

「空耳です」

 

 美遊とクロエの言葉をばっさり切り捨てつつ、ナイチンゲールは待っていた立香の前へと進み出た。

 

「お待たせしました立香。それでは参りましょう。この国を蝕む、病巣を排除する為に」

「あ、ああ」

 

 若干、苦笑気味に頷きを返す立香。

 

 頼もしい仲間が加わったと思う反面、聊か、扱いに困るのも確かだった。

 

 思えば、これまで仲間になったバーサーカーは、清姫やアステリオスなど、比較的、話の分かる者達ばかりだった。そう考えれば、ある意味でナイチンゲールは、実にバーサーカーらしいバーサーカーと言えるかもしれません。

 

「じゃあ、まず、どこに行くべきだろうか?」

「そうですね・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねる立香に、ナイチンゲールが答えようとした。

 

 その時、

 

 

 

 

 

「お待ちなさい、フローレンス。持ち場を離れる事は許さなくってよ」

 

 

 

 

 

 突然、呼び止められて振り返る。

 

 一同が視線を向けた先には、小柄な少女が、険しい視線を向けて佇んでいた。

 

 まるで西洋人形を思わせるその少女は、先程、アメリカ軍を指揮していた少女である。

 

 その傍らには、ディルムッドを狙撃して、響を援護した、あのスナイパーの少女も立っていた。

 

「バーサーカーであるあなたが勝手な行動を取れば、戦線は混乱する事になるわ。判るでしょう」

「いいえ、判りません」

 

 詰問口調で告げる少女に対し、ナイチンゲールはバッサリと切り捨てるように答えた。

 

「私の役目は人々を治療する事。そして兵士たちを治療する為の根源が見つかりそうなのでそれを探しに行くだけです。それを邪魔するのは、たとえ誰であろうと許しません」

「もっともな理由ね。けど、王様は認めないわよ」

 

 王様、とは、このアメリカと言う国にそぐわない呼び名だった。

 

 (少なくとも体面上は)民主主義を掲げるアメリカに「王」は存在しない。いるのはあくまで国家最高指導者である大統領だけなのだが。

 

 だが、脅しをかける少女に対して、ナイチンゲールは平然とした態度で言葉を返す。

 

「王様? そんな人物に私を止める事などできません。より、効果的な根幹治療の提示があるなら話は別ですが」

 

 案の定と言うか、ナイチンゲールは意見を変えようとしなかった。

 

「ん、ナイチン、強い」

「うん。王様程度じゃ相手にならない」

 

 やれやれと、肩を竦める響と美遊。

 

 たとえ神であっても、ナイチンゲールの行く手を遮る事はできないのではなかろうか。

 

 と、

 

 そんなナイチンゲールを牽制するように、銃士の少女が前に出た。

 

「エレナ女史。ここは私が」

「良いわ、ミス・キメラ。あなたこそ下がっていなさい。流石にフローレンスと戦えば、あなたも無事では済まないでしょ」

 

 言われて、キメラと呼ばれた少女は、低頭しつつ下がる。

 

 そんな2人のやり取りを見ながら、マシュが何かに思い至ったように声を掛けた。

 

「あの、もしかしてあなた方もサーヴァントなのですか?」

「ええ。その通りよ。もっとも、わたし達は既にマスターを決めてしまっているから、そちらに協力はできないのだけど」

 

 言ってから、少女は改めて立香達の方へと向き直る。

 

「申し遅れたわね。私の名前はエレナ・ブラヴァツキー。『ブラヴァツキー婦人』と名乗った方が判り易いかしら? まあ、今は若い頃の姿で召喚されたのだけど。結婚すると姓が変わるから面倒よね」

 

 やれやれと名乗って苦笑する少女。

 

 エレナ・ブラヴァツキー

 

 19世紀のウクライナ人。

 

 しかし、その活動地域は一つの国に留まらず、世界中を飛び回ったとされる。

 

 極めて近代に生まれながらも、先進的なオカルト思考を持ち、神智学の祖とも言われている才媛。

 

 特に、太古の昔、インド洋に存在したとされる幻の大陸「レムリア」の存在を信じ、調査の過程で高位存在である「マハトマ」、更にはその集合体である「ハイアラキ」とも接触したと言われる。

 

 もっとも、エレナ自身の研究では、レムリア大陸はインド洋ではなく太平洋にあったのでは、とされているが。

 

 極めて近代に生まれながら、魔術師の到達点である「根源」への可能性を見出した天才魔術師である。

 

「彼女はキメラ。まあ、本人がそう名乗っているだけなのだけど」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 言われて、キメラと呼ばれた少女は黙したまま佇む。

 

 名乗りを終えたエレナは、改めてナイチンゲールに向き直る。

 

「さあ、何度も言わせないで。戻って兵士たちの治療をなさい」

「それこそ、何度も言わせないでください。今は根幹治療をこそ優先すべきです」

 

 どこまでも平行線をたどる、ナイチンゲールとエレナ。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・仕方ないわね」

 

 嘆息するエレナ。

 

 バーサーカーと言う特性。そしてナイチンゲールの性格を考えれば、言う事を聞かないであろうことは容易に想像できたこと。

 

 だからこそ、

 

 エレナはここに来る前に手を打っておいた。

 

「任せたわよ、カルナ」

 

 言いながら、

 

 エレナは視線を、立香達の背後に向ける。

 

 果たして、

 

 振り向いた先には、

 

 いつの間に現れたのか、鋭い目付きをした、痩身の男がこちらを向いて佇んでいた。

 

 一見するとただの優男のようにも見えるが、その総身より発せられる存在感は、次元が違うレベルに達している。

 

「不意打ちだ。悪く思え」

 

 言い放つと同時に、

 

 男の身体から、莫大な量の炎が噴き出す。

 

「先輩ッ!!」

 

 マシュが前に出て大盾を掲げるのと、男が炎を放つのは、ほぼ同時だった。

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

 次の瞬間、

 

 視界全てを焼き尽くすほどの炎が、マシュの防御ごと、全員を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 視界の先で立ち上った炎を、3人の人物が渋面と共に眺めていた。

 

「参ったね、グリーン。一足遅かったみたいだよ」

「そうみたいっすね・・・・・・つーか、何すか、そのグリーンって?」

 

 ややげんなりした調子で尋ねる青年に、その傍らに立った少年が笑顔で答える。

 

「コードネームだよ。緑だからグリーン」

「じゃあ、オタクのサンダーってのは?」

「格好いいじゃん、雷。それに僕の銃の名前でもあるし」

「・・・・・・そうですかい」

 

 付き合ってられんとばかりに、肩を竦めるグリーン。

 

 まったく、アウトローと言う連中は、お気楽で困る。

 

 どうにも同類扱いされているらしい自分の立場については、諦念するしか無いようだ。

 

 とは言え、状況はあまり楽観もしてられない。

 

 今、アメリカ大陸を舞台に争う者たちの中で、自分たちが最も弱小である。

 

 だからこそ、カルデアの来訪を察知した時点で接触を図ろうとやって来たのだが。

 

 一歩遅く、カルデアの身柄はアメリカ軍によって抑えられてしまったのだ。

 

「仕方がない。取りあえず、連絡員からの情報を待とう。捕えたって事は、彼等もすぐには殺す気は無いだろうし」

「だな。うまく行けば接触の機会もあるだろうさ」

 

 頷き合う2人。

 

 元より、劣勢の自分達である。作戦通りに行く事などありえない以上、常に次善、三善の策は考え行動しなくてはならなかった。

 

「君も、それで良いよね、ピンクちゃん?」

「良い、けど・・・・・・何でわたし達だけ色で呼ばれてるんですか?」

「ですよねー、何か適当感たっぷりなんですけどー?」

 

 不満を漏らす青年と少女に、少年は誤魔化すようにアハハーと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラガラと言う、耳障りな音で、立香は目を覚ました。

 

 うっすらと開ける視界を見れば、どうやら車の荷台か何かに寝かされていたらしい。

 

「兄貴、目が覚めた?」

「ああ、ここは?」

 

 覗き込んで来た妹に答えつつ、周囲を改めて周囲を見回す立香。

 

 周りにはマシュ、ナイチンゲール、響、美遊、クロエと言ったサーヴァント達の姿がある。

 

 全員、拘束もされていなければ、武装解除もされていない。

 

 逃げようと思えば逃げれなくも無いのだが。

 

 しかし、

 

「起きたのは結構だけど、下手な気は起こさないでね」

 

 前の席に座っているエレナが、くぎを刺すように告げた。

 

 女史の隣には、彼女の護衛でもある少女、キメラが佇んでいる。

 

 そして、

 

 荷台の入り口には、門番のように痩身の男が立っている。

 

 その正体はインドの大英雄にして、太陽神スーリヤと、人間の姫クンティーとの間に生まれた、半神半人の戦士カルナ。

 

 インドの叙事詩「マハーバーラタ」において、主人公アルジュナの終生のライバルとして登場する。

 

 生まれながらにして母に疎まれ、川に捨てられると言う悲劇に遭いながらも、誠実な人々によって拾われたがために、自身も清廉な武人へと成長していく。

 

 やがて数奇な道程を経て、異父弟であるアルジュナとの運命の対決へと向かっていく。

 

 清廉にして誠実。

 

 己の全てでもって、全ての他者を救おうとした「施しの英雄」。

 

 インドの歴史においては間違いなく最強の一角であり、その実力はギリシャの大英雄ヘラクレスとも互角に渡り合えると言われている。

 

 この場にいるカルデア側のサーヴァント全員が束になって掛かっても、返り討ちに遭う可能性が高かった。

 

「機械兵士には、マスターを優先的に狙うように命令してあるわ。カルナは、マスターだけは狙わないって言う拘りがあるみたいだから動かないだろうけど」

「それは誤解だ、ブラヴァツキー」

 

 エレナの説明口調を遮るように、カルナが口を開いた。

 

「俺とて状況次第ではマスターを優先する。もっともその場合はマスター殺しを良しとする道理と信念、そして覚悟を示す必要がある。例えば、そうだな。命令する者が、自らの命と引き換えにする、と言うのであれば考慮する用意がある」

 

 それは実質的にマスター殺しを真っ向から否定しているに等しい。

 

 堅物な上に融通も利かない。

 

 もし、こんな奴が通常の聖杯戦争に召喚されでもしたら、さぞかしマスターは気苦労を募らせることだろう。

 

「ほらね。まあ、それでもあなた達が逃げられない事には変わらないのだし、良い子で大人しくしてなさい」

「いったい、何が目的なんだ?」

 

 カルナと言う大英雄がいる以上、エレナたちは立香達の生殺与奪を完全に握っている事になる。

 

 それでも殺さないと言う事は、何か目的がある事が判る。

 

 尋ねる立香。

 

「それは、王様に会ってからのお楽しみ。きっと驚くわよ、あなた達」

 

 そう言うとエレナは、意味ありげに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 道すがら、エレナはアメリカ大陸における現状を伝えてくれた。

 

 今、アメリカ大陸の西側は、彼女らが戴く「王」が統治するアメリカ合衆国となっている。

 

 彼らは元々、イギリスを相手に独立戦争を戦っていたのだが、そこへ突如、現れたケルト軍によって、敵であるイギリス軍諸共に蹴散らされてしまったのだ。

 

 ディルムッドやフィンの登場によってある程度は予想していたが、どうやら今回、アメリカ大陸にはケルトの英雄たちが現界しているらしい。

 

 となれば、アメリカ軍の苦戦も頷けると言う物。

 

 ケルト兵達は、1人1人が英霊として召喚されてもおかしくもない猛者達。おまけに全員、己の命すら厭わない、リアルバーサーカーとでも言うべき連中だ。

 

 陣形を組んで相互に連携、援護を行い、火力を集中する、言ってしまえば「お行儀の良い戦い方」に慣れたアメリカ兵士ではひとたまりも無かった事だろう。

 

 言わば現状のアメリカは、西側を統治するアメリカ合衆国と、東側を実効支配するケルト軍と言う、いわば南北戦争ならぬ「東西戦争」と言う様相を呈していた。

 

 

 

 

 

 やがて、エレナに連れてこられた一同の目の前に、西洋風の城塞が見えて来た。

 

 どうやら、あれがアメリカ合衆国の「王」がいる城らしい。

 

「ホワイトハウスはケルト人に占領されちゃったしね。まあ、ケルト人が相手なら、こういうのもありじゃない」

 

 苦笑しつつ肩を竦めながら、エレナが城の中へと入っていく。

 

 そこへ、門衛替わりの機械歩兵が、エレナを認め挨拶をしてきた。

 

《お帰りなさいませブラヴァツキー夫人、ミスター・カルナ様。大統王がお待ちです。すぐにおいでください》

「ありがとう。すぐ行くわ」

 

 機械兵士にも丁寧に返事をするエレナ。

 

 だが、

 

「だ、だいとうおう? な、何それ?」

「フォウ?」

 

 凛果と、肩に乗っかったフォウが、唖然とした調子で首を傾げる。

 

 大統領ではなく、大統「王」と来た。

 

「何か、馬鹿っぽいネーミングね」

「い、いや、それは・・・・・・」

 

 ストレートなコメントをするクロエに、やや躊躇いがちに窘める美遊。

 

 とは言え、歯切れが悪い当たり、美遊も感想は同じらしい。

 

 そんな一同の反応に、エレナも苦笑する。

 

「まあ、気持ちは判るんだけど、でも、そこが彼の良いところなのよね。わたし達にはできない発想だし」

 

 一方、

 

 城塞を見上げていたナイチンゲールが、目を細めて立ち尽くしている。

 

「ん、ナイチン、どした?」

「いえ。ここに、彼女たちの雇い主がいる訳ですね」

 

 漲る殺気を隠そうともしない婦長。

 

 下手をしなくても、このまま殴り込む勢いである。

 

 だが、

 

「やめておけ」

 

 彼女の背後に、牽制するように立つ影。

 

「それは悪手だぞナイチンゲール。もう暫く、その撃鉄は休ませてやれ。世界の兵士を癒そうと言うなら病巣を把握しろ。それとも、お前は短絡的なのか?」

「その間にも兵士たちは死んでいく。それでも耐えろと言うのですか?」

「そうだ。慣れる事無く耐えてくれ。お前には難しいだろうが、これも試練だ」

 

 諭すように、インドの大英雄は告げる。

 

 対して、ナイチンゲールはカルナと真っ向から対峙する。

 

 たとえ相手が世界最強の大英雄だったとしても関係ない。我が道を阻むなら殴り飛ばして押し通る。

 

 一触即発の状況の中、それでもカルナは冷静に言葉を紡ぐ。

 

「それとも、長期的な治療は主義にもとるか? だとすれば、手の施しようが無いのはどちらだ? お前の方か? それとも、この大地か?」

 

 ナイチンゲールとは対照的に、カルナからは一切の殺気が出ていない。

 

 だが、

 

 それでも大英雄の実力をもってすれば、やろうと思えば一瞬でナイチンゲールを取り押さえる事も、命を奪う事も不可能ではない。

 

「私の治療が間違いだとでも?」

「そうではない。間違いは誰にでもある、と言う事だ。自身の考えが絶対だと信じたとき、人間は破滅する。お前がここで無為な死を迎えれば、それこそ意味がなかろう」

 

 まるで僧侶が禅を説くように語り掛けるカルナ。

 

「何事にも順序がある。ここで一時の敵を倒したとしても、更なる悪が栄えるだけかもしれんぞ」

 

 病気の根治治療を目指すならば、病巣の一か所のみを見ても意味はない。病態全てを見て把握し、何を切除すれば最も効果的か、見極める必要がある。

 

 カルナが言いたい事は、そういう事だった。

 

 ややあって、

 

 ナイチンゲールから殺気が消えた。

 

「・・・・・・判りました、ならば一時、この銃口はしまっておきましょう」

 

 殊勝な事を言うナイチンゲール。

 

 だが、

 

 カルナは嘆息をもって迎える。

 

「まったく、これ以上ないほどの虚言だな」

 

 銃はいつでも抜けるようにしてある。

 

 まったく信用できない婦長の発言に、大英雄は一層の警戒を強めるのだった。

 

 

 

 

 

 城は、内部も古典的な作りだった。

 

 石造りの廊下と壁。

 

 アメリカの国旗が、いっそ違和感となって映る程である。

 

 そこで、謁見の間と思われる場所に通された立香達は、しばし待たされることとなった。

 

「うう、緊張してきたね。いったい、誰が来るんだろう?」

「フォウッ フォウッ」

 

 凛果が、そわそわした調子で尋ねる。

 

 ここまでもったい付けられたのだ。期待と不安が入り混じるのは判る。

 

 一方で、立香はどこか、不安を抱えていた。

 

 いや、不安と言うより何と言うか、

 

 漠然と「イヤな予感」がしていたのだ。

 

 と、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおお!! ついに、あの天使と対面する時が来たのだな!! この瞬間をどれほど焦がれた事か!! ケルト共を駆逐した後に招く予定であったが、早まったならそれはそれで良し!! うむ、予定が早まるのは良い事だ!! 納期の延期に比べれば大変良い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、響き渡る大音声が、一同の度肝を抜く。

 

 その様子に、流石のエレナも呆れて嘆息する。

 

「はあ、歩きながらの独り言は治らないのね。もう少し小声でやってくれないかしら?」

「独り言ッ!? あれがッ!?」

 

 仰天する立香。

 

 明らかに壁越しにしゃべってるのは判るのに、まるで応援団の大号令のように、鼓膜がたわむほどの声量だ。

 

 正直、人間の声とは思えない。

 

 声だけで魔獣とも渡り合えそうである。

 

 だが、

 

 扉を開けて入って来た「大統王」の姿は、

 

 ぶっちゃけ、斜め上のサーヴァントユニバースまで突き抜けていそうな感じだった。

 

 逞しい体躯に青いスーツ。肩にはなぜか、光る電球が設置されている。

 

 ここまでは良い。

 

 まずは良いッ

 

 本当に良い!!

 

 良いからッ

 

 良いと言う事にしとけッ

 

 でないと話が進まん。

 

「率直に言って、大儀であるッ!! みんな、初めまして、おめでとう!!」

 

 なぜなら、

 

「もう一度言おう、大儀である!!」

 

 なぜなら、

 

「我が名はトーマス・アルバ・エジソン!!」

 

 そう名乗った人物の、

 

 首から、

 

 上が

 

「このアメリカ合衆国の『大統王』である!!」

 

 真っ白いライオンの顔をしていたからである。

 

 

 

 

 

第3話「東西分断」      終わり

 

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