Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第8話「忘却の少年」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、確かな情報なのか?」

「確認は取れていない。だが、仲間が目撃したのは確かだ」

 

 問いかける立香に、目の前に座った男は神妙な顔つきで頷きを返した。

 

 レジスタンスの拠点を出て数日。

 

 別の拠点がある街にたどり着いた立香達は早速、情報収集に取り掛かった。

 

 ある意味、こちらの状況は暗殺に向かったジェロニモたちよりも深刻であると言える。

 

 こうしている間にも、ラーマの命は刻一刻と削られているからだ。

 

 何としてもシータを見つけ出し、接触しなければならなかった。

 

 幸いな事に、ジェロニモが先んじる形で手配りをしてくれたおかげで、立香達が到着する頃には、粗方の情報収集はレジスタンス兵士たちが済ませておいてくれたと言う。

 

 おかげで情報収集も、思ったよりスムーズに進める事が出来た。

 

 それによると数日前、奇妙なケルト兵士の一団が、西へ向かうのを見た、との事だった。

 

 おかしなな話である。

 

 ケルトの勢力圏は大陸の東側である。西に向かっては方角が逆となる。

 

 エジソンの勢力圏に攻め込むと言うのであれば話は分からないでもないが、その一団は少数であり、とてもではないが戦闘に耐えられるものではなかったらしい。

 

 しかも、

 

 その一団の中央には、まるで神輿のような鉄の格子で出来た護送用の檻が引かれていたと言う。

 

 そして、その中にいたのは、およそこの世の物とは思えないほど美しい少女だったらしい。

 

「それが、シータなんじゃない?」

「ああ。可能性はあるな」

 

 妹に頷きを返す立香。

 

 その一団が、捕えたサーヴァントを護送する為の部隊だとすれば、問題はシータはどこに連れていかれたのか、と言う事だ。

 

「他に、何か情報は無いのか? たとえば、奴らがどこに向かった、とか」

「ああ、それなら」

 

 立香に促され、男は棚から地図を取り出してテーブルの上に広げる。

 

 覗き込む立香達に対し、男は西海岸の一点、海の上に浮かぶ小さな島を指差す。

 

「ここだ。ここに連中は、大規模な牢獄を作り、捕虜を収容しているらしい」

「アル・・・・・・カトラズ」

 

 乏しい英語知識で、書かれた言葉を読み取る立香。

 

「先輩、ここは」

「ああ、マシュ。俺にも判るよ」

 

 戦慄している後輩に頷きを返す立香。

 

 その程度の知識は、流石に立香も持っている。

 

 アルカトラズ。

 

 そこに存在する、恐らくは世界で最も有名な監獄がある場所。

 

 確かに、捉えた人間を収監しておくのに、これほど有効な場所は無いだろう。

 

 その時だった。

 

「立香さんッ 凛果さんッ 大変です!!」

 

 話の腰を折るように、部屋に飛び込んで来たのは美遊だった。

 

 冷静な少女は、珍しく慌てた様子を見せている。

 

「美遊ちゃん、どうしたの?」

「そ、それが、ナイチンゲールさんが、また・・・・・・」

 

 美遊の報告に藤丸兄妹は、

 

 顔を見合わせ、

 

 揃って嘆息する。

 

「またか」

「みたいだね」

 

 これで何度目だ?

 

 否、彼女が狂戦士(バーサーカー)であり続ける限り、何度でも同じことが繰り返されるだろう。

 

「仕方がない。マシュ、美遊、頼む」

「はいッ」

「了解です先輩ッ」

 

 立香の指示を受け、飛び出していくマシュと美遊。

 

 何とか間に合ってくれればいいが。

 

 まったく。

 

 戦いでのことならともかく、こんな事で祈りたい気分になるとは思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 その部隊は、ケルト軍の斥候部隊だった。

 

 数日前、アメリカ軍が北部戦線で敗れ、大きく戦線後退した事により、この街の近辺にもケルト軍の部隊が出没するようになったのだ。

 

 彼らは目に着いた街を襲い、徹底的な殺戮を繰り広げて行く。

 

 この街もまた、ケルト軍に見つかった時点で、そうなる運命のはずだった。

 

 だが、

 

 彼らはすぐに後悔する事になった。

 

 よりにもよって「彼女」がいる街を襲った事を。

 

 街に突入しようとしたケルト人の前に立ちはだかった軍服姿の女性。

 

 ナイチンゲールは怯む事無く、ケルト人兵士たちの間に飛び込むと、彼等を殴りつけ、掴み上げ、引き裂いていく。

 

 果敢に挑みかかる兵士もいる。

 

 だが、その全ては、一瞬の後に無意味と化す。

 

 自身に振り下ろされた刃を打ち砕き、槍を叩き折り、飛んできた矢を掴んで投げ返す。

 

 まさに重戦車の如き猛撃振り。

 

 彼女の進撃を止め得る者など、この戦場には存在しない。

 

 ただ

 

 1つだけ。

 

 重大な、そして致命的な事実があったりする。

 

「ぬオォォォォォォ、き、貴様ァ!! よ、余がいる事を忘れておらんかァァァァァァッ!?」

 

 悲痛な叫びを発するラーマを、背中に負ったままである、と言う事を。

 

 改めて確認するが、

 

 現在、インドの大英雄にして、大神ヴィシュヌの化身であるラーマは、クー・フーリンの呪いの槍を受け、心臓がつぶれている状態。

 

 ほんのちょっとの衝撃で死に至ってもおかしくはない状態だ。

 

 当然、絶対安静、

 

 な、筈なのだが、

 

 ナイチンゲールは一切合切、徹頭徹尾、情け容赦なく全力で突撃を敢行。ラーマを背負ったままケルト人たちを投げ飛ばしていた。

 

 それも、今回だけではない。

 

 ここに至るまでの戦闘で全て、ナイチンゲールは先陣を切って突撃している。

 

 言うまでも無く、ラーマを背負ったまま。

 

「いい加減にしろォォォォォォッ て言うか、降ろしてくれェェェェェェ!!」

 

 情けない声で叫ぶラーマ。

 

 だが無論、そんな事で止まる婦長殿ではなかった。

 

 そんなナイチンゲールを援護するように、上空を飛ぶイリヤがルビーを振るう。

 

《何と言うか、ヒドイ絵面ですね。人類全てが涙する悲劇的な光景ですッ》

「暢気な事言ってないで、助けないと!!」

 

 言いながら、魔力弾を放つイリヤ。

 

 少女の放つ魔力弾は強力で、ケルト兵達は成す術も無く吹き飛ばされていく。

 

 更に、その足元では、エリザベートが槍を振るってケルト兵士をなぎ倒す。

 

「ああもうッ バーサーカーってほんとにッ!!」

 

 無造作に振るった槍の一撃が、ケルト兵士の頭を叩きつぶす。

 

 ナイチンゲールの暴虐ぶりに嘆息しつつも、槍兵の竜娘は己の役割を忘れずに戦い続ける。

 

 更に、そこへ変化が到来する。

 

 飛び込んできて、手にした聖剣を一閃する白百合の剣士。

 

 美遊だ。

 

 銀の一閃が、槍を持ったケルト兵士を、槍ごと斬り捨てる。

 

 更に視線を向ければ、マシュが大盾を振るって敵兵を纏めて吹き飛ばすのが見えた。

 

「待たせたな、みんなッ 一気に押し返すぞ!!」

 

 報せを聞いて戦線に駆け付けた立香が指示を飛ばす。

 

 と、

 

「り、立香ァ 凛果ァ た、た~す~け~て~く~れ~~~~~~!!」

 

 世にも情けない大英雄の叫びは、果たして何に対する物なのか。

 

 そんな叫びにも構わず、突撃していくナイチンゲール。

 

 嘆息する立香。

 

 目的を果たす前に、ラーマの命運が燃え尽きない事を祈るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、

 

 立香達別れ、西へと向かったジェロニモたち別動隊は、ケルト軍の兵士の目から逃れるようにして潜行する事数日。

 

 ケルト支配下に置かれてるワシントンを見渡せる位置まで到達していた。

 

 ここまで来るのに、ケルト軍に悟られた様子はない。

 

 ネロを除けば、ほぼ全員が潜入や暗殺に長けたメンバーで固めた甲斐があった。

 

 途中、止むを得ざる戦闘を数回こなしたが、その全てにおいて敵を全滅させていた。

 

 間違いなく、ケルト側にジェロニモ達の動きは悟られていないはずだった。

 

「皆、準備は良いな?」

「オッケー。ここまで来て、まだ決まってない奴なんていないって」

 

 問いかけるジェロニモに、ビリーが軽口で応じる。

 

 緊張した様子はない。

 

 とは言え、

 

 ここから先は、完全にに敵地だ。いつ、どこで会敵するか分からない以上、警戒しておくに越した事は無かった。

 

「良いか。作戦は、ネロの宝具でクー・フーリンと女王を取り込み、その内部において敵を殲滅する。良いな」

「うむ、任せるが良い」

 

 ネロは純白の衣装に包まれた大きな胸を反らし、自信満々に頷く。

 

 彼女の宝具ならば確かに、敵を完全に内部に取り込み、尚且つ弱体化させる事が出来る。

 

 ある意味、暗殺向けの宝具であると言える。

 

 ネロの宝具に取り込んだ上で、クー・フーリンと女王を封殺する狙いだった。

 

 そんな中、

 

 クロエはふと、傍らに立った弟に視線をやった。

 

「ヒビキ・・・・・・・・・・・・」

 

 そっと、呟く弓兵少女。

 

 脳裏には、昨夜の光景が思い出されていた。

 

 

 

 

 

 パチパチと、乾いた枝が勢い良く燃える音が響く。

 

 周囲に喧騒は無く、ただ燃える火の音だけが、闇の中を照らし出していた。

 

 火の灯す明かりが、少年暗殺者の横顔を照らし出す。

 

 響は普段通りの茫洋とした瞳で、ただジッと、炎を見詰めていた。

 

 遠くでは何かの獣の鳴き声が聞こえてくる。

 

 近付いてくる気配はないが、北米には肉食の獣も多い。

 

 特に灰色熊(グリズリー)は、日本の羆をも上回る巨体と怪力を誇っている。

 

 下手をすればサーヴァントであっても危ないかもしれない。

 

 それでなくとも、現状は暗殺作戦の為に潜行している身。無駄な戦闘は避けなければいけなかった。

 

 背後で、土を踏む音が聞こえたのは、響が少しうとうととし始めた時だった。

 

「ん、クロ?」

 

 顔を上げた響の目には、呆れ気味にジト目をした姉の顔が映り込んだ。

 

「あんた、今、寝てたでしょ」

「・・・・・・・・・・・・寝てない」

「よだれ」

 

 指摘され、慌ててごしごしと口元を拭う響。

 

 ややあって、視線を姉へ向ける。

 

「何?」

 

 わざわざ夜中に会いに来たのだ。何か話があるのだろうと推察する響。

 

 そんな弟に、クロエはクスッと笑って見せる。

 

 クロエは今、トレードマークの一つとも言うべき赤い外套を脱ぎ、インナーだけの恰好をしている。

 

 クロのチューブトップとピッタリとした短パン姿の少女は、それだけで蠱惑的な印象があり、弟の響から見ても、ある種の妖艶さを醸し出していた。

 

 大胆に露出した、褐色の二の腕やお腹、太腿が、およそ子供らしからぬ色気を醸し出し、思わず響は自分の頬が紅潮するのを感じた。

 

 クスッと笑うクロエ。

 

「あらあら、初心なのね。可愛い」

「クロ、うるさい」

 

 からかうような姉の口調に、ムッと声を発する響。

 

 そんな弟の隣に腰かけるクロエ。

 

 暫く、姉弟は揃って、燃える炎を見詰める。

 

 どれくらい、そうしていた事だろう。

 

「ヒビキ」

 

 クロエはそっと、弟に語り掛けた。

 

「あんた、何を隠している訳?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかけるクロエ。

 

 対して、響は無言。

 

 ただ、茫洋とした瞳を炎へ向け続け、姉を見ようとしない。

 

 クロエは構わず続ける。

 

「違和感はあったのよね。何しろ、あたしはあんたの事を殆ど覚えていない。あんたが弟だって事くらいは憶えているけど、それ以外事は殆ど朧げ。まるで消しゴムか何かで消されたみたいに、あんたに関する記憶だけ虫食いになっている」

「・・・・・・・・・・・・・」

「最初は、召喚の影響とか、並行世界の影響とかいろいろあって、そうなっているのかと思っていた。けど、違った。そうじゃなかった」

 

 きっかけは、この世界に来て、イリヤに再会した事。

 

 イリヤは美遊やクロエの事はしっかりと覚えていたのに、響の事だけは全く覚えていなかった。

 

「いや、違うわね。あれは憶えていないんじゃない。『最初から知らなかった』時の反応だわ」

 

 これはおかしい事だ。

 

 同じ姉弟で、クロエは響の事を覚えていて、イリヤは全く知らないと言う。

 

 いったい、どういう事なのか。

 

 そして、目の前にいる「衛宮響」と言う名の少年はいったい何なのか。

 

「で、考えたわ。もしかすると、あたし達の中で、ヒビキ(あんた)に対する記憶だけが、どんどん消されて行ってるんじゃないかってね。で、イリヤは完全にあんたの事を忘れてしまい、そもそもあの子の中じゃ、あんたは最初から存在しなくなってしまっている。たぶん、放っておいたら、あたしの中でも、あんたの存在は消えてしまうんじゃないかってね」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 尚も、沈黙を守る響。

 

 だが、

 

 その表情に、僅かな陰りがある事を、クロエは見逃さなかった。

 

「あら、図星?」

「・・・・・・・・・・・・ん、ノーコメント」

 

 相変わらず、嘘が下手な弟に、弓兵少女は呆れるやら苦笑するやら。

 

 だが、どうあっても響は、それ以上口を割る気は無いらしい。

 

「ミユから聞いたわ。監獄塔でのこと」

 

 あの戦いで響は、過去最強の敵、アヴェンジャー「巌窟王エドモン・ダンテス」と対峙した。

 

 追い詰められ、美遊や立香も含めて、風前の灯火と化した響達。

 

 その時、響が見せた、全く新しい戦姿。

 

 盟約の羽織・深月。

 

 そして、その状態から繰り出した「鬼剣・千梵刀牢」は、圧倒的な力で蹂躙しようとしていた巌窟王の攻撃を押し返し勝利を掴み取った。

 

 だが、響のあの力が、果たしてどこから来たものなのか。

 

 復讐に燃え滾る最強の反英雄。その攻撃を押し返すほどの力を、目の前の少年が持っているとは、到底思えなかった。

 

 ならば、

 

 突くべき答えは、限られている。

 

「あんた、何を犠牲にして戦っているのよ?」

 

 鋭い質問を、弟に容赦なく叩きつけるクロエ。

 

 響は、何か大事な物を捨てながら戦っている。

 

 クロエには、そう思えてならなかった。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響は何も告げず、ただ、その場から立ち去ろうとする。

 

「待ちなさいよッ まだ話は終わってない!!」

 

 追いすがるクロエ。

 

 だが、

 

「ん・・・・・・どうせ、話しても、意味ない、から」

 

 どこか諦めたような、

 

 受け入れたような、

 

 そんな平坦な口調で話す響。

 

 ひどく抑揚を欠いた声音は、常の少年からは考えられないくらいだった。

 

 だが、

 

「・・・・・・ミユは、どうするのよ?」

 

 その問いかけに、響は足を止めた。

 

 クロエは、そこへ更に続けた。

 

「あんた、ミユの事、好きなんでしょ? 勿論、友達としてじゃなくて、女の子としてさ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響と美遊が惹かれ合っている。

 

 それは、本人たちの遺志をも超えた、何かの運命に引き寄せられているとしか思えない物だった。

 

 だが、クロエには確信があった。

 

 響と美遊は、何か2人にも判らない物によって結び付けられていると。

 

 だが、

 

 それに対してヒビキは答える事無く、そのまま闇の中へと溶けるように去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 嘘を吐くのは下手なくせに、本当に隠したい事は死んでも隠し通そうとする。

 

 そんな弟の決意を感じ、クロエは嘆息する。

 

 単なる意地などではない。

 

 響はもっと、自分の心の深いところに、何かを抱えている。そう思えてならなかった。

 

 いったい何を考えているのやら。

 

 だが、響が戦う毎に、周りが彼の事を忘れて行く。

 

 この考えに、クロエは確信にも似た考えを持っていた。

 

 いったい、なぜそうなったのか? なぜ、そうならざるを得なかったのか?

 

 それはクロエにも判らない。

 

 しかし、それでも、この目の前の弟が、自分の中から消えてなくなるのだとしたら?

 

 それは、クロエにとっても・・・・・・

 

「行くぞ」

 

 ジェロニモの低い声で、意識は現実に引き戻された。

 

 どうやら、作戦開始の時刻らしい。

 

 頷き合う一同は、息を殺したまま街の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワシントンの街中は、閑散としていた。

 

 後に世界有数の大都市であり、政治機構の中心ともなるはずの大都市が、まるでゴーストタウンと化している。

 

 その理由については、もはや察する事すら必要あるまい。

 

 ケルト軍による圧制により、住民たちは皆、息を潜めて暮らしているのだ。

 

 流石の野蛮さでは人語に落ちないケルト人たちも、自らの支配権の住人全てを殺し尽くせば、翻って自分の首を絞める事になる、と言う考えくらいはあるようで、勢力圏内での殺戮行動は控えているようだ。

 

 とは言え、ある意味、彼等を取り巻く状況はより過酷であるとも言えた。

 

 言ってしまえば、盗賊の大集団が癒えの中で同居しているような物である。

 

 略奪、暴行は当たり前。備蓄はあるだけ奪われ、女と見れば攫って行って凌辱される。

 

 勿論、少しでもケルト人の機嫌を損ねれば、容赦なく命を奪われる事は言うまでもない。

 

 住民にできる事は、恐怖に縛られ、家の中で縮こまっている事のみ。ただ、嵐が自分達に襲い掛かってこないように。

 

 街がそんな状況である為、響達は容易に街の中心地へと入り込む事ができた。

 

「ロビン、偵察状況は?」

「ああ、問題ねえ。俺の探った限りじゃ、でかいサーヴァントの反応は2騎。こいつが恐らく、(キング)女王(クイーン)と見て間違いないんじゃないですかね」

 

 隠ぺいに優れたロビンが、既に先行して情報を集めてきている。

 

 暗殺対象である、王と女王の所在確認は、作戦の必須条項だった。

 

「で、どうやら連中、この先の大通りでパレードをやるらしいぜ」

「パレードッ!?」

 

 素っ頓狂な声とともに、目を輝かせたのは嫁王事、ネロ・クラウディス陛下だった。

 

「それはけしからんッ じゃなくて羨ましい!!」

「ん、ネロ、それ、逆」

 

 自他ともに認める目立ちたがりなネロは、本音も隠さずに叫ぶ。

 

 しかし、けどそれは同時に、チャンスでもあった。

 

「なら、そのパレードで、一番目立っている奴がいたら、それが王と女王って事で良いんじゃないかな?」

「うむ、その通りだ、ビリーよ。パレードは主役が目立つ為にあるのだからな。余も生前は、何度もパレードを行った物よ。数万の兵士が列を為して行進し、それをローマ中の住民たちが囲んで歓声を上げる。あれは気持ちよかった」

 

 当時の事を思い出したのか、うっとりするネロ。

 

 それはさておき、これで作戦は決まった。

 

 まず、ロビンの宝具で身を隠してパレードに近づく。

 

 王と女王の姿を確認したらネロの宝具を展開。内部に2人を取り込んで、包囲殲滅する。

 

 出し惜しみは一切なし。最大限の戦力で、一気に片を付ける。

 

 予想通りと言うか、ケルト軍の主力は大半が西の戦線に張り付いているらしく、ワシントンに駐留しているのは近衛軍の一部と警備部隊のみ。しかも、今はそのほとんどがパレードに参加していると言う。まさに、襲撃するチャンスだった。

 

「行くぞ」

 

 ジェロニモの言葉に、頷く一同。

 

 同時に、ロビンは宝具であるマントを風に靡かせた。

 

 

 

 

 

 パレードは大歓声に包まれていた。

 

 花吹雪が舞い、楽曲が高らかに演奏される。

 

 居並ぶ住民たちは、皆、笑顔を浮かべて、ケルト軍の行進を眺めている。

 

 居並ぶ兵士たちは全員が武装し、その凶悪な戦姿を見せつけている。

 

 ただ、それでも今だけは、整然と整列して行進に勤しんでいる辺り、クー・フーリンやメイヴの指揮が行き届いている証拠だった。

 

 だが、

 

 それが上辺だけの事なのは、言うまでも無いだろう。

 

 ケルト人は、一皮むけば獣欲をむき出しにして住民に襲い掛かってもおかしくはない。

 

 そして住民たちは、そんな恐怖に怯え、作り笑いを顔に張り付かせている。彼等からしてみれば、パレードに参加して歓声を上げなければ即、死に直結する事になるのだから必死だ。

 

 そんな中で1人、心の底からこの状況に悦楽を貪っている者がいる。

 

 今回のパレードの主役の1人であり、パレードの発起人でもある女王メイヴだった。

 

「みんな~!! 今日はメイヴとクーちゃんの為に集まってくれてありがとう!! この国は永遠王の国!! 私とクーちゃんの、私とクーちゃんによる、私とクーちゃんの為だけの国よ!!」

 

 まるで、後に現れる大統領の名演説を皮肉ったかのような声に、歓声はさらに強まる。

 

 声のシャワーとでも言うべき歓声を総身に浴び、メイヴは微笑みを浮かべる。

 

 このパレード自体、彼女の虚栄欲を満たすために企画した物だった。

 

 一方で、クー・フーリンはと言えば、どこか投げやりな感じにそっぽを向いている。

 

 無理も無い。本質的に戦士な彼からすれば、こんな虚栄と華美だけを取り繕ったようなパレードはお呼びではあるまい。

 

 実際、メイヴがパレードの案を持ちかけた時、クー・フーリンは心の底から面倒くさそうな顔をしていたが、そこを何とかお願いして付き合ってもらっている。

 

 とは言え、こうして付き合ってくれている辺り、彼もなかなか付き合いが良かった。

 

「二十四時間奉仕する事を光栄に思いなさい!! 二十四時間隷属する事を歓喜に思いなさい!! 正義も、名誉も、栄光も、全てわたし達の下へ!!」

 

 まさに幸せの絶頂、とばかりに叫ぶメイヴ。

 

 この瞬間こそが光り輝いていると、彼女は自覚していた。

 

 だからこそ、

 

 自らのすぐそばまで迫っている凶刃に、彼女達は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ、行け、セイバー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、鳴り響く声。

 

 同時に、

 

 「何もなかったはずの空間」から、突如として、人影が躍り出る。

 

 純白の花嫁衣装に身を包んだ、白薔薇の剣士。

 

 ネロ・クラウディウス。

 

 高まる魔力を、剣先より迸らせる。

 

「狂王、そして女王よッ その首、もらい受ける!!」

 

 言い放つと同時に、ネロの宝具は解き放たれた。

 

 

 

 

 

第8話「忘却の少年」      終わり

 


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