Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第9話「ザ・ロック」

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 アルカトラズ監獄。

 

 サンフランシスコ沖2・4キロの海上に浮かぶ小島に建てられた監獄。

 

 ザ・ロック、監獄島などとも呼ばれる。

 

 元は船乗りの為の灯台を設置場所として活用されていたが、南北戦争開戦の機運が高まると、島の軍事的価値に目を付けた北軍側により軍事要塞化されて行く事になる。

 

 戦争中、実際に戦闘が行われた事は無かったが、南部連合軍がサンフランシスコ湾に侵入するのを防ぐ、抑止力としての役割を果たした。

 

 やがて南北戦争が終結すると、軍事要塞としての価値は急激に下落。代わりに、その地理的条件により監獄としての役割を果たす事が多くなっていった。

 

 当初は軍事刑務所としての意味合いが強く、軍律違反を犯した兵士や、捕虜となったインディアンが主要される事が多かった。

 

 しかし時代の変遷とともに、通常の刑務所としての色合いが強くなっていく。

 

 あの悪名高い「禁酒法」時代には、多数のギャングが収容された。有名なシカゴマフィアのドンである、アル・カポネが収監されていた事でも知られている。

 

 難攻不落、脱獄不可能とも言われるアルカトラズだが、過去には14回、36人もの脱獄騒動が起きている。

 

 その大半が捕縛、処刑、あるいは逃亡中に溺死したが、中には看守に捕まらず、また遺体も発見されなかった者も僅かながらおり、それらの人物は無事、脱獄に成功したとも言われている。

 

 本来なら、独立戦争当時には存在しないはずのアルカトラズ監獄。

 

 それが今、目の前に存在している事からも、この世界がいかに特異であるかを物語っていた。

 

 

 

 

 

「ここが、アルカトラズか」

 

 マシュがこいでくれた小舟を降り、立香は呟いた。

 

 目の前に見えるのは高い崖。更にその上には、城壁のような壁が島全体を囲むようにしてグルリと聳え立っている。

 

 この光景を見るだけで、この場所がいかに絶望的な場所であるかが伺える。

 

「監獄か。つい最近も似たような体験をしたけど・・・・・・」

「立香さん・・・・・・・・・・・・」

 

 苦笑気味に呟く立香を、気遣うように美遊が声を掛ける。

 

 あの監獄塔における、絶望的な記憶は、今も生々しく2人の記憶に残っていた。

 

 対して、立香は少女の頭をポンと叩き、笑いかける。

 

「もう大丈夫、心配いらないさ」

 

 言いながら、視線を巡らせる立香。

 

「それに・・・・・・・・・・・・」

 

 その視線の先で、

 

「このままじゃラーマが保たない」

「・・・・・・そうですね」

 

 2人が生暖かい視線を向けた先には、ナイチンゲールの背に負ぶわれたラーマがぐったりしている様子が見て取れた。

 

 無理も無いだろう。

 

 ただでさえ、とっくの昔に死んでもおかしくないほどの傷を負っていると言うのに、底に来て、ナイチンゲールが彼を背負ったまま委細構わず、敵陣目がけて特攻していくのだから。

 

「迅速に行動しましょう。既に要看護者の容態は危機的状況にあると判断します」

 

 対して、シレッとした調子で告げるナイチンゲール。

 

 そこで、全員が思った。

 

 もし、この場に響が居たら、こう言っただろう。

 

『ん、だいたいナイチンのせい』

 

 その時、

 

 ふわりと言う空気と共に、天使が立香達の下へと舞い降りる。

 

「戻りましたー」

《いやー予想通りですね。中はケルト兵でいっぱいでしたよ》

 

 空を飛ぶ事が出来るイリヤに、先行して偵察をお願いしたのだ。

 

 本来、この手の役割は響かクロエの担当だが、2人とも暗殺部隊に加わっている為、空を飛べるイリヤに偵察を頼んだのだ。

 

「兄貴」

 

 戻ってきたイリヤを見て、凛果が立香の肩を叩く。

 

「下からイリヤちゃんのスカートの中を覗いたりなんて・・・・・・」

「す、するわけないだろ!!」

《ちなみに、イリヤさんの今日のパンツは白ですから》

「ルビーッ!! 何ばらしてんの!!」

 

 ぎゃんぎゃんと騒ぎまくる一同。

 

 突入を前にして、何とも緊張感に欠ける感じだった。

 

 とは言え、イリヤが偵察してくれたおかげで、何とか敵の配置には目星がついた。

 

 後は仕掛けるのみである。

 

「行くぞ」

 

 立香の号令に、頷く一同。

 

 その言上げる先に、絶望を齎す監獄が聳え立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆炎が迸る。

 

 轟音とともに吹き飛ばされた壁が崩れ、ケルト兵が慌てた調子で振り返った。

 

 もうもうと立ち込める煙。

 

 その中から、

 

 前衛を担当する、白百合の剣士が飛び出した。

 

「はァッ!!」

 

 気合一閃。

 

 少女の振るった聖剣により、ケルト兵3人が一瞬で斬り捨てられる。

 

 絶命する兵士を飛び越え、美遊は更に前へと斬り込む。

 

 対するケルト兵達もさる物。

 

 轟音を聞きつけて次々と、兵士たちが集まってくる

 

 剣を構え直す美遊。

 

 同時に、刀身に込めた魔力を振り被る。

 

「これで、決める!!」

 

 剣を振り下ろす少女。

 

 刀身より迸る、金色の剣閃。

 

 その一撃が強力な魔力放出となって、ケルト兵達に襲い掛かる。

 

 たちまち、ケルト兵の陣形は崩れ、吹き飛ばされる。

 

 一部の兵士は、屋根の上に上がって、美遊目がけて矢を放とうとする。

 

 だが、

 

「危ないッ ミユ!!」

 

 その前に、親友の危機を救うべく、天使の少女が空を駆ける。

 

 イリヤは飛翔して屋根よりも高い位置に陣取ると、手にしたルビーに魔力を込めれ振るう。

 

「弾速最大、散弾!!」

 

 ステッキを振るうイリヤ。

 

 放たれた魔力弾はイリヤを中心にして放射状に拡散。屋根の上に陣取った弓持ちのケルト兵を包み込むように直撃した。

 

 たちまち、撃ち抜かれる兵士や、屋根から転げ落ちる兵士が続出する。

 

「イリヤ、ありがとう」

「ううん。どういたしまて、だよ」

 

 微笑み合う少女たち。

 

 こうして共に戦うのは、少なくとも美遊にとっては初めてのことだが、気持ち良いくらいに息があった連携だった。

 

 まるで、ずっと共に戦ってきたかのような一体感。

 

 言葉を交わさずとも、美遊とイリヤは互いにどう動けば最適かが判っているかのようだった。

 

 そんな少女たちを忌々しく思ったのか、監獄の中から次々と兵士たちが湧き出してくるのが見える。

 

 だが、

 

「任せなさいッ」

 

 飛び出したのはエリザベートだ。

 

「トップアイドルを差し置いて目だとうったって、そうは行かないわよッ ジュニアは黙ってバックに着きなさい!!」

「いえ、別に私達はアイドルじゃ・・・・・・」

 

 呟く美遊を無視して前に出たエリザベートが、大きく息を吸い込む。

 

 同時に、魔力を込めた。

 

「あ、危ないッ」

「ふぇッ!?」

 

 美遊はとっさに、傍らのイリヤを抱えて後方に飛びのく。

 

 エリザベートが、己の「声」を解放したのは同時だった。

 

 竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)

 

 音波砲の如き、強烈な一撃が、ケルト兵達に襲い掛かる。

 

 まさしく悪竜の息吹、とでも言うべき。

 

 溜まらず、吹き飛ばされる兵士達。

 

 一方で、味方の被害もバカにはならない。

 

「う・・・・・・相変わらず・・・・・・」

「み、ミユ、こんな人たちと一緒に戦ってきたの・・・・・・」

 

 鳴り響く耳鳴りに耐えながら、少女2人は態勢を何とか立て直す。

 

 美遊のとっさの判断で直撃は免れたものの、被害が馬鹿にならない事には変わりなかった。

 

 しかし、奇襲に成功したカルデア側が全体的に優勢なのは動かない。

 

 立香は、本来なら自分を守る最後の盾であるはずのマシュも前線に出し、戦線を押し上げにかかる。

 

 この戦いに、「守り」は要らない。

 

 可能な限り全戦力を投入し、戦線を食い破る。

 

 勿論、ラーマを背負ったままのナイチンゲールも参戦する。

 

 ラーマを背負ったまま敵陣に飛び込み、

 

 ラーマを背負ったまま敵兵をなぎ倒し、

 

 ラーマを背負ったまま、敵兵を引きちぎり、

 

 ラーマを背負ったまま、周囲を飛び跳ねて敵を翻弄する。

 

 ・・・・・・正直、ちょっと自重してほしかったが。

 

 しかし、そのおかげで、ケルト軍側は戦線の構築すら叶わず、室においては圧倒的に隔絶しているサーヴァント達に蹂躙されていく。

 

 元々、監獄施設と言う事もあり、前線部隊に比べて兵の配置も少なかったのだろう。

 

 こうなると、カルデア特殊班の敵ではない。

 

 このままなら制圧も時間の問題だろう。

 

 そう、思った時だった。

 

 突如、

 

 沸き起こる轟音。

 

 衝撃。

 

「な、何よ、これッ!?」

 

 前線にいたエリザベートが、思わずその場でよろけて倒れる程の衝撃が、地面を揺るがした。

 

 激震が、監獄全体を襲う。

 

 ケルト兵達も、1人残らずその場で手折れる。

 

 まるで、地の底で眠っていた竜が、突如として目を覚ましたかのような衝撃。

 

 次の瞬間、

 

 大地に亀裂が走る。

 

 まるで、島その物が割れるかのような勢い。

 

「みんな、退けッ!!」

 

 一瞬早く、奔る立香の指示。

 

 同時に、サーヴァント達が後退する。

 

 マシュが立香を、美遊が凛果を、それぞれ抱えて後退する中、

 

 衝撃が止み、一瞬、静寂が訪れる。

 

「凛果さん、お怪我はありませんか?」

「うん、ありがとう、美遊ちゃん」

「フォウッ」

 

 凛果とフォウを降ろしつつ、剣を構え直す美遊。

 

 マスター達を守るように、マシュも盾を構え直す。

 

「い、いったい、何があったの?」

「判りません。しかし、最大限の警戒を」

「グッ い、良いから、余を、降ろせ」

 

 息も絶え絶えなラーマを無視して、衝撃が襲ってきた方向を凝視するナイチンゲールとイリヤ。

 

 やがて、

 

 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ 

 

 大きな足音と共に、立ち込める煙を裂いて、

 

 1人の男が姿を現した。

 

 上半身に衣服を身に着けておらず、筋骨隆々とした体躯を惜しげも無く見せつける男。

 

 褐色色の肌と相まって、どこか凶悪極まりない鈍器を連想させる。

 

 しかし、短く刈った金色の髪と、ワイルドさはあるものの整った印象があり、どこかビリーたち同様アウトロー的な悪漢めいた感じがする。

 

 男は周囲を見回すと、その凶暴さを隠そうともしない相貌をカルデア特殊班に向けた。

 

「で、こいつは何の騒ぎだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は、自身を取り囲むように布陣した特殊班のメンバーをジロリと見渡した後、フンと鼻を鳴らす。

 

「お前ら、アレだろ。カルデアとかいう。まさか、本当に来るとはな」

 

 やれやれとばかりに首の骨を鳴らす男。

 

 その時、立香の腕に嵌めた通信機が成り、カルデアにいるダ・ヴィンチがマイクに出る。

 

《気を付けな立香君。その男はサーヴァントだ。それも、かなりの実力者と見た》

「ああ、それは俺にも判るよ」

 

 ダ・ヴィンチに答えつつ、立香は喉を鳴らす。

 

 男の実力が圧倒的な事は、素人の立香にも気配で伝わってくる。

 

 例えるなら、あの大英雄ヘラクレスと対峙した時と同じような感覚が立香を襲っていた。

 

「一応、名乗っとくか」

 

 そんな立香を見ながら、男は凄みのある笑みを浮かべて行った。

 

「俺の名はベオウルフ。一応、ここの獄長をやってる。で、お前等の目的はなんだ?」

 

 ベオウルフ。

 

 イングランド最古の叙事詩に登場する主人公であり、勇者であり王。

 

 若かりし頃に巨人グレンデルを素手で殴り殺し、復讐に来た、その母親をも討ち取ったと言う逸話がある。

 

 老いて尚、盛んな英雄は、人々を苦しめる悪竜の存在を聞きつけると、老境の域に達していたにもかかわらず、老いた身を押して出陣。我が身と引き換えに悪竜を倒す事までやってのけている。

 

 又、王としても安定した治世を敷き、人々の安寧を守り続けた。

 

 戦場にあっては武勇を誇り、治世にあっては民を慈しんだ、正に英雄の中の英雄とも言える人物である。

 

「・・・・・・救出だ」

 

 ベオウルフの問いかけに答えたのは、ナイチンゲールの背から強引に下りたラーマだった。

 

「いけません。動いては・・・・・・」

「良い」

 

 掴んで制止しようとするナイチンゲールを、ラーマは振り払う。

 

「余を背負っていては、そなたは十全に戦えぬ。己の役割を果たす為に最善を尽くせ」

 

 苦し気に、

 

 しかし毅然として大英雄は言い放つ。

 

 自分がナイチンゲールの枷となっている。

 

 ならば、自らを切り捨てる事に何のためらいも無かった。

 

「そう、心配するな・・・・・・」

 

 言いながら、愛刀を呼び出して柄を手に取るラーマ。

 

「瀕死のこの身だが、守るくらいはできる」

 

 言いながら、ラーマの視線は真っ向からベオウルフを睨み据える。

 

「そなたに恨みは無いが、余のシータを返してもらうぞ」

「シータ? ・・・・・・ああ、この間、連れてこられた女か」

 

 どこか納得したように、頷くベオウルフ。

 

「やけに厳重に連れてこられたと思ったら、こういう事だったのか」

「貴様・・・・・・・・・・・・」

 

 囚われた妻を想い、魂を終え上がらせるラーマ。

 

 放っておけば、すぐにでも斬りかかりそうな勢いだ。

 

 だが、

 

「あの女なら、この牢獄の最下層に捕らえてあるぜ」

 

 ラーマが斬りかかる前に、ベオウルフはあっさりとシータの居場所を暴露してしまった。

 

「安心しな。兵士の連中にも手を出すなって厳命しておいたからよ。一切手は触れてねえ」

「良いのか、そんなあっさり言っちゃって?」

 

 恐る恐る問いかける立香。

 

 こうもあっさりと目的を達してしまった事に、聊か拍子抜けの間すらあった。

 

 だが、

 

「良いんだよ。別に隠せとも言われてねえしな。それに・・・・・・」

 

 言いながら、

 

 ベオウルフは自分の両手に二振りの剣を呼び出して構える。

 

 武骨な剣だった。

 

 柄尻同士を鎖で連結したその剣は、1振りが大剣ほどもあり、ベオウルフは、それを軽々と振り回している。

 

 しかも、右手に握った剣は、刃が明らかに機能しておらず、剣と言うより最早、棍棒に近かった。

 

「タダじゃ、ねえからな」

 

 すなわち、ここを通りたければ、俺を倒していけ、と言う事らしい。

 

「・・・・・・やるぞ、みんな」

 

 立香の声とともに、各々、武器を構える特殊班のサーヴァント達。

 

 ここまで来た。目指すシータの居場所まで、あと一息なのだ。

 

 次の瞬間、

 

 両者、同時に動いた。

 

 

 

 

 

 強烈な踏み込みは、大地を割る勢い。

 

 ベオウルフは、両手に装備した2本の剣を掲げて斬りかかってくる。

 

「オォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 右手に持った、棍棒の如き剣を振り翳す。

 

 「鉄槌蛇潰(ネイリング)」と呼ばれる、ベオウルフが持つ佩刀の1振り。

 

 前述した通り刃は無きに等しく、斬撃よりも打撃の為の剣であると言える。

 

 振るわれた一閃。

 

 迎え撃つはマシュ・キリエライト。盾兵の少女。

 

 ベオウルフがもたらす破壊的な一撃を、掲げた盾で弾く。

 

 だが、

 

「まだまだァっ!!」

 

 すかさず、左手の剣を返すベオウルフ。

 

 「赤原猟犬(フルンティング)」と呼ばれる、もう1振りのベオウルフの佩刀。

 

 常に敵を追尾する特性を持ち、その全ての攻撃が最適解へと導かれる魔剣。

 

 ベオウルフの一閃が、防御直後のマシュを直撃する。

 

「キャァッ!?」

 

 防御の上からでも、体勢が崩れる程の一撃がマシュを襲う。

 

 思わず、膝が崩れ掛かるマシュ。

 

 だが、

 

 そんな盾兵少女を守るように、

 

 白百合の剣士が宙を舞う。

 

 空中で、体を大きく捻り、引き絞ったバネを解放する事で、強烈な横一線を繰り出す美遊。

 

 閃光の如く、空中を走る聖剣の一撃。

 

 だが、

 

「フンッ!!」

「あッ!?」

 

 ベオウルフが振り上げた「鉄槌蛇潰(ネイリング)」の一撃が、美遊の剣閃を弾く。

 

 空中で弾かれ、錐揉みする美遊。

 

 しかし、それでもどうにか体勢を立て直し着地に成功する。

 

 そこへ、追撃するべく斬り込んでくるベオウルフ。

 

 だが、

 

「やらせないわよッ!!」

 

 槍を振り翳しながら、斬り込んだのはエリザベートだ。

 

 背中の羽を羽ばたかせ、低空飛行しながら刃を繰り出す。

 

 既に、先の戦闘で宝具を使ってしまっているエリザベートは、切り札を欠いているに等しい状態。

 

 自然、接近戦に頼らざるを得ない。

 

 迎え撃つ、ベオウルフ。

 

「オッラァァァ!!」

 

 繰り出される衝撃。

 

 対して、槍をとっさに立てて防ごうとするエリザベート。

 

 だが、

 

 激突の瞬間、

 

「キャァァァァァァ!?」

 

 エリザベートは大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「エリザッ!!」

「フォウッ!!」

 

 凛果とフォウが悲鳴に近い声を上げる中、

 

 美遊が可憐な双眸を鋭く細め、ベオウルフを睨みつける。

 

 次の瞬間、

 

 ドンッ

 

 衝撃音と共に、白百合の剣士が斬りかかる。

 

 魔力放出を利用した突撃で一気に間合いの中へと入ると、ベオウルフ目がけて聖剣を斬り上げる。

 

「オォッ!?」

 

 奇襲に近い美遊の攻撃に、虚を突かれた形のベオウルフが思わずのけ反って回避する。

 

 だが、

 

「まだッ!!」

 

 美遊はすかさず、剣を返す。

 

 この点、ベオウルフよりも体躯が小さい事が功を奏している。

 

 大英雄が体勢を整える前に、横なぎの剣閃を繰り出す美遊。

 

 対して、ベオウルフの防御は間に合わない。

 

 少女の剣が、鋼の如き肉体を切り裂く。

 

「グッ!?」

 

 手ごたえはあった。

 

 さしものベオウルフも、思わず声を出す。

 

 舞い散る鮮血。

 

 だが、

 

「もう一度ッ!!」

 

 剣を構え直そうとする美遊。

 

 この程度では大英雄を屠るには足りない。

 

 それが判っているからこそ、追撃を駆ける。

 

 だが、

 

「調子に、乗るなァ!!」

 

 とっさに「赤原猟犬(フルンティング)」を手放すベオウルフ。

 

 その、砲弾の如き拳が、

 

 容赦なく美遊の顔面を殴り飛ばした。

 

「あァッ!?」

 

 吹き飛ぶ少女。

 

 そのまま地面に叩きつけられる。

 

 だが、

 

 美遊は弾む体をどうにか制御。

 

 膝を突きながらも、再び体勢を整える。

 

 対してベオウルフ。

 

 美遊によって受けた傷から流れる血を掌で拭うと、その鮮血を舐め取る。

 

「どうやら、接近戦じゃテメェがピカイチらしいな。だが、まだ甘い」

「クッ」

 

 挑発にも等しいベオウルフの言葉。

 

 戦意を失わない美遊。

 

 その時。

 

「ミユ!!」

 

 上空から戦列に迸る声。

 

 見上げれば、天使の少女が、魔力を込めたステッキを振り翳す。

 

砲射(フォイア)!!」

 

 撃ち放たれる魔力砲。

 

 波の兵士なら一撃で倒せるほどの魔力を込めた。

 

 だが、

 

「フンッ!!」

 

 ベオウルフの肉体に当たった瞬間、けんもほろろに弾かれる。

 

「ウソッ 何あれッ!?」

《チート臭いですね、あの筋肉ゴリラ》

 

 まさか、魔力砲を肉体で弾かれるとは思っていなかったイリヤが愕然とする。

 

 だが、

 

「それなら、これでッ!!」

 

 すかさず、戦術を切り替える。

 

 一撃で倒せないなら、搦手で攻める。

 

 この切り替えの早さは、クロエと通じるものがある。

 

「散弾!!」

 

 再び振るわれたイリヤのステッキから、極小の間六弾が無数の撃ち放たれる。

 

 1発1発の威力は高くない。

 

 しかし、放射状に放たれた魔力弾には、足止めと目晦ましの効果が期待できる。

 

 一瞬、

 

 塞がれるベオウルフの視界。

 

 その隙を突き、

 

 狂気の天使が駆ける。

 

 動きを止めたベオウルフに、殴りかかるナイチンゲール。

 

 対して、

 

 晴れた視界の中で、至近迫るナイチンゲールを見て、ベオウルフはニヤリと笑う。

 

徒手空拳(ステゴロ)か、面白ェ!!」

 

 言い放つと、自らも剣を投げ捨ててナイチンゲールを迎え撃つ。

 

 交錯する拳。

 

 たちまち、乱打戦が始まる。

 

 ナイチンゲールが殴りかかれば、ベオウルフがそれを防ぎ、

 

 ベオウルフが反撃に出れば、ナイチンゲールが両腕を交差させてガードする。

 

 互いにクラスは狂戦士(バーサーカー)

 

 互いに小手先の戦術などいらぬ。

 

 真っ向からぶつかり合う力と力の勝負こそ、狂戦士(バーサーカー)の華と言えよう。

 

「オラァッ!!」

 

 繰り出されるベオウルフの拳。

 

 ナイチンゲールはとっさにガード姿勢に入る。

 

 だが、

 

 その強烈な拳の一撃が、ナイチンゲールのガードの上からでもダメージを入れる。

 

「クッ!?」

 

 思わず、うめき声と共に膝が折れそうになるナイチンゲール。

 

 そもそもベオウルフは、巨人グレンデルを倒すのに、武器を使わず素手で戦っている。

 

 つまり、武器を使わない素手での白兵戦こそ、大英雄ベオウルフの真骨頂だった。

 

「オラオラオラァ!!」

 

 たちまち、ラッシュに入るベオウルフ。

 

 対して、

 

 ナイチンゲールも退かず、前へと出る。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 津子込まれる手刀。

 

 刃にも似たその一撃が、

 

 ベオウルフの腕を切り裂く。

 

 だが、

 

 同時にベオウルフの拳が、ナイチンゲールを殴り倒した。

 

「グッ!?」

 

 地面に叩きつけられるナイチンゲール。

 

 対して、

 

 ベオウルフは、己の傷を見てニヤリと笑う。

 

「なかなか良かったが、惜しかったな」

 

 健闘を称えるベオウルフ。

 

 対して、

 

「いいえ」

 

 ナイチンゲールは、首を横に振る。

 

「私の役目は病巣を切除し、患者を救う事。それが出来ない以上、私の負けです」

 

 そう言って、目を閉じるナイチンゲール。

 

「あとは、任せましたよ」

 

 語り掛ける、

 

 自身の、

 

 背後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーマ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せよッ」

 

 大英雄は、渾身の力ととともに、自らの剣を振り翳す。

 

 その動きに、ベオウルフは完全に虚を突かれた。

 

 死に体だと思っていたラーマが攻撃に参加するなど、完全に予想外だった。

 

 ラーマは動けない訳ではなかった。

 

 ナイチンゲールの治療と応急処置が功を奏し、短時間であるならば動く事も不可能ではなかった。

 

 とは言え、本格的な戦闘への参加が危険である事に変わりはない。

 

 だからこそ、立香は一計を案じた。

 

 ラーマには体力を温存しておいてもらうと同時に、いざと言う時、切り札として参戦してもらうと。

 

 そして今、

 

 ベオウルフの目の前に、インドの大英雄が剣を振り翳して迫る。

 

「余はシータを取り戻すッ その為ならばこの命、いくらでもくれてやる!!」

 

 魂の如き、大英雄の叫び。

 

 次の瞬間、

 

 ラーマの剣が、頭上で回転を始める。

 

 同時に刃から発せられる炎。

 

 ベオウルフはとっさに防御姿勢を取る。

 

 だが、

 

 遅い。

 

 インドの大英雄の視線が、鋭く射抜く。

 

羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!!」

 

 己の命をも削る、乾坤の一擲。

 

 いかなベオウルフと言えど、耐えられる物ではない。

 

 次の瞬間、

 

 ラーマの剣は、ベオウルフの身体を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

第9話「ザ・ロック」      終わり

 




ヒロインXの宝具強化がしたくてガチャぶん回すも、30連を15回、呼符含めて単発30回以上回して一回も掠らない。

運営に殺意を覚える。

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