Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第10話「傷だらけの生還」

 

 

 

 

 

 

 

 

 凛とした、

 

 それでいて清純なる姿。

 

 純白のドレスの上から白銀の甲冑を着込み、手には黄金の剣を携えている。

 

 戦装束と呼ぶには可憐な、まるで白い花のような少女の出で立ち。

 

 セイバーから霊基を引き継ぎ、自らサーヴァントとしての力を手に入れた美遊。

 

 その姿は、騎士王が持つ1つの可能性。

 

 選定の剣を抜き、王となる事を定められた彼女が、まだ姫騎士と呼ばれていた頃の姿。

 

 未来に理想を持ち、希望を掲げて旅立ったばかりの頃の姿だ。

 

 その静かな双眸は、迫りくる狂戦士を真っ向から睨み据える。

 

「これ以上は、許さないッ」

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 美遊の静かな声にバーサーカーの咆哮が答える。

 

 巨大で凶悪なバーサーカー。

 

 小柄で可憐な美遊。

 

 ある意味、全く正反対の出で立ちをした両者が、視線をぶつけ合う。

 

 両者の殺気が、空中でぶつかり弾けた。

 

 次の瞬間、

 

 同時に、地を蹴った。

 

 剣を振り翳す美遊。

 

 斧剣を振るうバーサーカー。

 

 互いの刃が、

 

 激突する。

 

 次の瞬間、

 

 バーサーカーはのけぞるようにして蹈鞴を踏んだ。

 

 対して、

 

 美遊の方も、僅かに体勢を崩している。

 

 だが、

 

 体勢を立て直すのは、美遊の方が速い。

 

 素早く剣を返すと、バーサーカーに向かって斬りつける。

 

 逆袈裟に駆けあがる一閃。

 

 その一撃が、バーサーカーの肉体を捉える。

 

 斬線が確実に刻まれる。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮を上げるバーサーカー。

 

 その肉体からは、鮮血にも似た黒い霧が噴き出る。

 

 今度こそ、バーサーカーは大きく後退を余儀なくされた。

 

 まさか、と思う。

 

 体格にして、バーサーカーの10分の1にも満たない美遊の一撃が、バーサーカーに対して、ついに有効な打撃を与えたのだ。

 

 苦悶に体を震わせるバーサーカー。

 

 その機を逃さず、美遊は畳みかけた。

 

 

 

 

 

 ところで、

 

 なぜ、美遊は急にセイバーのように戦う事ができるようになったのか?

 

 なぜ、サーヴァントのような姿になったのか?

 

 あの時、

 

 消える寸前だったセイバー。

 

 既に消滅が確定していた彼女は、それでも尚、自らのマスターを守りたいと願った。

 

 だが、自分が直接戦う事は、もうできない。

 

 ならば、どうするか?

 

 セイバーが行ったのは、「霊基の譲渡」だった。

 

 すなわち、マシュが自身の中にいる英霊との間に行った事と、全く同じことをセイバーと美遊は行ったのである。

 

 これは、誰にでもできると言う訳ではない。

 

 セイバーと美遊。

 

 共に聖杯戦争を戦い、硬い絆で結ばれた主従だったからこそ、辛うじて成功したのだ。

 

 勿論、本来であるならば、それだけでは成功しないだろう。

 

 だからこそ、美遊は自分の中にある「聖杯」の力を使ったのだ。

 

 聖杯の力で自らに、セイバーの霊基を移すように願った結果、彼女自身が剣士(セイバー)となって戦う事ができるようになったのである。

 

 とは言え、セイバー自身が既に弱っている状態だったため、完全な霊基譲渡ではなく、どちらかと言えば「霊基複写」に近い形となった。

 

 その為、美遊の能力と姿は完全にセイバーと同一ではなく、セイバー自身の「可能性の一つ」としての姿と能力が再現されたわけである。

 

 

 

 

 

 猛攻を仕掛ける美遊。

 

 振り下ろされた斧剣が大地を砕く中、白き百合の騎士となった美遊は、巧みに回避して剣を振り翳す。

 

 斧剣の軌跡を見切り、紙一重で回避。

 

 小柄な少女は、自身の間合いに踏み込む。

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 迸る剣閃。

 

 闇を斬り裂く銀の光が、バーサーカーに襲い掛かる。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮を上げるバーサーカー。

 

 その胸元から、鮮血の様に黒い霧が噴き出すのが見えた。

 

「やったッ!!」

「ん、まだッ!!」

 

 喝采を上げるマシュの横で、アサシンが警戒するように声を上げる。

 

 美遊の剣は一撃を入れる事には成功したものの、致命傷には程遠い。

 

 その証拠に、バーサーカーは自身の傷を物ともせず、再び美遊に襲い掛かっている。

 

 振り下ろされる斧剣。

 

 その一撃を、

 

 美遊は剣を振り上げて対抗する。

 

 異音と共に、両者の剣が弾かれる。

 

「■■■ッ!!」

 

 短い咆哮と共に、剣を引き戻しにかかるバーサーカー。

 

 対して、美遊も次の攻撃に備えて体勢を戻そうとする。

 

 だが、

 

「クッ・・・・・・・・・・・・」

 

 腕に走る痺れと痛み。

 

 巨腕から繰り出される強烈な一撃は、美遊に着実なダメージを蓄積させていく。

 

 そもそも、いかに英霊化したとは言え、美遊の筋力ではバーサーカーに敵わない。

 

 正面から撃ち合えば、押し負けるのは必定である。

 

 それでも尚、状況を拮抗させているのは、強大な腕力で襲い掛かってくるバーサーカーに対し、美遊は筋力、剣速、タイミング。全てを最高の形で同期させることで、辛うじて対抗している状態である。

 

 もし、条件が何か一つでも欠ければ、その瞬間、美遊は容赦なく斬り捨てられるだろう。

 

 それでも、

 

「まだ、まだァ!!」

 

 振り抜かれる剣。

 

 同時に、バーサーカーも剣を振り下ろす。

 

 互いの剣戟が激突し、火花を散らす。

 

「ッ!?」

 

 受けきったものの、僅かに後退する美遊。

 

 受けるタイミング僅かに遅かったため、バーサーカーが繰り出す衝撃を完全には相殺しきれなかったのだ。

 

 体勢を崩す美遊。

 

 そこへ、

 

 いち早く立ち上がったバーサーカーが襲い掛かる。

 

 巨体が大地を揺らしながら、突撃してくる狂戦士。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮と共に、振り上げられる斧剣。

 

 対して、美遊はまだ地に膝を突いたまま立てないでいる。

 

 轟風と共に振り下ろされる斧剣。

 

 やられるッ!?

 

 そう思った次の瞬間、

 

 横合いから音速で駆けてきた少年が、間一髪のところで斧剣の下から美遊を救い出した。

 

 美遊を抱えたアサシンは、そのまま勢いを殺しきれずに地面を転がる。

 

 しかし、

 

 抱えた美遊だけは、決して放そうとしなかった。

 

 ややあって、顔を上げる2人。

 

「あ、ありがとう」

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 礼を言う美遊に、少年はやや顔を背けて答えた。

 

 そんなアサシンの態度に、美遊はキョトンとした顔を向ける。

 

 見つめ合う2人。

 

 その視線の中に、何かはよく分からない感情が入り混じる。

 

 しいて言いうなら、懐かしいような、そんな心地よい感情。

 

 まるで、昔の友人に、久しぶりに会ったような、そんな感覚だった。

 

 だが、呆けているのもそこまでだった。

 

 尚も執拗に追いかけてくるバーサーカー。

 

 その前に立ちはだかったマシュが、構えた盾で斧剣の一撃を防ぎ、2人を守る。

 

「ん、終わらせよ」

「ええ」

 

 アサシンが差し出した手を、美遊はとって立ち上がる。

 

 剣を構える2人。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 同時に、咆哮を上げるバーサーカー。

 

 辛うじて攻撃を防ぎ切ったマシュが押し返したのだ。

 

 だが、当然ながら、その程度では押し留める事は出来ない。

 

 再び体勢を立て直しにかかるバーサーカー。

 

 だが、

 

「お願いしますッ!!」

 

 振り返って叫ぶマシュ。

 

 同時に、

 

 アサシンと美遊は地を蹴った。

 

 先行したのは、敏捷に勝るアサシン。

 

 瞬きする間すら超越して、間合いをゼロにする。

 

 目の前に迫った少年を、狂相で睨むバーサーカー。

 

 だが、既にアサシンは攻撃態勢に入っている。

 

「んッ!!」

 

 真一文字に振りぬかれる刀。

 

 その一閃が、バーサーカーの喉元を斬り裂く。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 苦悶の咆哮を上げるバーサーカー。

 

 ここに来てようやく、大ダメージが入った。

 

 だが、

 

 それでも尚、巨大なる英雄は倒れない。

 

 全身の激痛に襲われながらも、それでも両足を踏ん張って耐える。

 

 しかし、それでも動きは確実に止まった。

 

 だからこそ、

 

 最後の一手に賭ける。

 

「美遊ッ!!」

 

 振り返りながら叫ぶアサシン。

 

 その視線の先では、

 

 手にした剣の切っ先を真っすぐに構えた、美遊の姿があった。

 

 地を蹴る美遊。

 

 同時に魔力を放出して、加速度を上げる。

 

 バーサーカーも、突撃してくる美遊に気付き、迎撃しようと斧剣を振り翳す。

 

 だが、もう遅い。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 突き込まれる切っ先。

 

 その一撃は、

 

 立ち尽くすバーサーカーの心臓を、確実に刺し貫いた。

 

 一瞬の静寂が、戦場にもたらされる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ややあって、剣を引き抜く美遊。

 

 同時に、

 

 バーサーカーの巨体が、轟音を上げて地に倒れた。

 

「・・・・・・・・・・・・やった」

 

 その様子を背後で見ていた立香が、声を上げる。

 

 マシュ、アサシン、そして美遊。

 

 3人が力を合わせ、巨大な英雄を撃ち倒したのだ。

 

 その時、

 

 通信機が鳴り響き、カルデアとの回線が繋がった。

 

 同時に、ロマニの声が聞こえてくる。

 

《遅れてすまない。こちらもようやく、レイシフトの準備が整ったッ 世界が崩壊する前に脱出しよう!!》

 

 言っている内に、周囲の光景が崩れ始める。

 

 本当に、この特異点Fが崩壊し始めているのだ。

 

「先輩ッ!!」

 

 駆け寄ってくるマシュ。

 

 その後ろから、アサシンと美遊も続いて駆け寄ってくる。

 

 それを立香は、笑顔で迎える。

 

 苦難の連続で、マシュ達には本当に苦労を掛けてしまった。

 

 勿論、まだ何も終わっていない。

 

 レフの事。

 

 世界の事。

 

 考えなければならない事は山のようにある。

 

 だがしかし、今はただ、生き残れた幸運を、共に分かち合いたかった。

 

 次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟く、不吉な咆哮。

 

 驚いて振り返る一同の視線の先で、

 

 倒れたはずのバーサーカーが、再び立ち上がっている様子が映し出される。

 

《まずいッ バーサーカーはまだ死んでないッ 来るぞ!!》

 

 悲鳴じみたロマニの警告。

 

 見れば、アサシンや美遊によって受けた傷も、殆ど塞がっている。

 

 ほぼ完全復活と言っても過言ではない。

 

 再び、斧剣を振り翳して向かってくるバーサーカー。

 

 その凶悪な視線は、

 

 最後尾を走っていたアサシンと美遊を捉える。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちしながら、前へ出て刀を構えるアサシン。

 

 レイシフトまであと少し。

 

 だが、バーサーカーが追い付く方が早い。

 

「美遊、行って!!」

「でもッ」

 

 逡巡する美遊を守るように、アサシンは前へと出る。

 

 これ以上は、防ぐことはできない。

 

 だが、

 

 せめて、

 

 彼女だけでも。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・・・・詰めが甘いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろされた斧剣が弾かれる。

 

 足を止める、幼き少年少女。

 

 その2人を守るように、立ち出でる背中。

 

 手に握りしは、

 

 黒白の双剣。

 

 アサシンと美遊を守るように、

 

 既に消え去ったはずの男が、向かい来る暴虐の前に敢然と立ちはだかっていた。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

「ここは抑える。行け」

 

 干将・莫邪を構えながら、アーチャーが振り返らずに告げる。

 

 その身は、アサシンとの戦いで瀕死。

 

 そもそも、現界する事すら既に不可能。この場にいる事すら非常識と言っても過言ではない。

 

 だが、それでも彼は立ち続けた。

 

 己の大切な物を守るために。

 

「アーチャーさん・・・・・・どうして?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねる美遊。

 

 だが、アーチャーは答えない。

 

「行け」

 

 短くそれだけ言うと、

 

 黒白の双剣を構えて、バーサーカーに挑みかかる。

 

 その後ろ姿を、美遊は不思議そうな眼差しで見つめる。

 

 アーチャーとは、彼がセイバー陣営に組み込まれてから、何度か顔を合わせている。

 

 セイバーの配下となった3騎の中では、比較的理性を保っており、セイバーのいわば「右腕」的な立ち位置にいた。

 

 だが、それだけである。

 

 彼がなぜ、こんな風に自分たちを守ってくれるのか、美遊には理解できなかった。

 

 理解できないと言えば、自分の傍らにいるアサシンの少年もそうだ。

 

 少なくとも美遊は、この少年に見覚えは無い。

 

 だが、

 

 彼らを見るたびに、何かが胸の内から沸き立つような思いにとらわれるのだ。

 

 まるで、自分の中にある何かが、そう訴えかけて来ているような感覚。

 

 と、

 

「行こ、美遊」

「え、ええ」

 

 手を引かれるまま、美遊は走り出す。

 

 そんな彼女の後を走るアサシンは、最後に少しだけ振り返って、アーチャーを見やる。

 

 交わる視線。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頼んだぞ

 

 

 

 

 

 ん、判った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンと美遊が遠ざかるのを見て、アーチャーは再び前を向く。

 

 これで、良い。

 

 これでもう、自分には思い残す事は何もない。

 

 あとはこの命尽き果てるまで、戦い続けるのみ。

 

 向ける視線の先には、最強の英霊が立つ。

 

 あれだけの激戦を潜り抜けて尚、その存在には一切の衰えが無い。

 

 瀕死の弓兵1人、縊り殺すくらい訳ない事だろう。

 

 だが、

 

 アーチャーは躊躇う事無く立ちはだかる。

 

「お前が攻めて、私が守る。奇しくも、『あの時』と同じだな、バーサーカー」

 

 静かに告げるアーチャー。

 

 その口元には、皮肉げな笑みを浮かべている。

 

「だが、あの時とは明らかに違う事が、一つだけある」

 

 咆哮を上げるバーサーカー。

 

 斧剣を振り上げ、不遜な弓兵に向かって襲い掛かる。

 

「今の貴様には、守るべき何物も存在しない」

 

 黒白の双剣を構え、

 

 アーチャーは駆ける。

 

「だがッ!!」

 

 距離を詰める、アーチャーとバーサーカー。

 

「私には、あるッ!!」

 

 次の瞬間、互いの剣戟でもって斬り結んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い、旅路だった。

 

 ような気がする。

 

 いっそ、全てが夢だったような気さえ、した。

 

 目を開きながら、立香はぼんやりとそんな事を考えた。

 

 と、

 

「おはようございます。先輩」

 

 傍らから聞こえてきた声に、立香は振り返る。

 

 そこでようやく、自分がベッドで寝ていた事を知る。

 

 レイシフトとは、本人の魂が肉体から抜けてタイムスリップするような物だという。つまり、レイシフト中、意識は対象となる時代に飛んでいるが、肉体は変わらずカルデアにあり続けたのだ。

 

 恐らく、管制室での惨事がある程度落ち着いたので、カルデアの職員が運んでくれたのだろう。

 

 振り返った立香の目には、柔らかく微笑む後輩の姿があった。

 

「マシュ・・・・・・そうか、無事だったんだな」

 

 あの管制室の大惨事で、瀕死の重傷を負っていたマシュ。

 

 ひょっとしたら、レイシフトが終わったらマシュは死んでしまっているのではないか、という想いがどこかにあった。

 

 だが、それは杞憂であったらしい。

 

 マシュは五体満足な姿で、立香の前に座っていた。

 

「先輩のおかげです。先輩があの時、私の手を握ってくれたから」

 

 そう言うと、マシュは立香の手を取る。

 

 あの時、立香がマシュにしてあげたように。

 

 その温もりが、生きている実感を立香に伝えてくる。

 

「ありがとうございました、先輩」

「マシュ・・・・・・・・・・・・」

 

 辛い初陣を、共に乗り切った2人は、そう言って微笑み合う。

 

 と、

 

 そこで立香は、気になっている事を尋ねた。

 

「そう言えば、凛果は?」

 

 一緒にいたはずの凛果。

 

 大切な妹の安否は、立香にとって真っ先に確認しなくてはならない事だった。

 

「わたしなら、ここだよ」

 

 聞きなれた声に導かれて、振り返る立香。

 

 その視線の先には、立香を挟んでマシュとは反対側に座る妹の姿があった。

 

「もう、兄貴、寝すぎ。そのまま起きないのかと思っちゃったよ」

 

 口を開けば飛び出す憎まれ口。

 

 間違いなく、妹の凛果の物だった。

 

「でもま、こうしてまた、無事に会えたから何よりだよ」

「ああ、お互いな」

 

 そう言って、笑い合う藤丸兄妹。

 

 立香はベッドから身を起こし、状態を確認する。

 

 問題は無い。

 

 起きたばかりでまだ頭がぼーっとするが、それ以外に異常は見られなかった。

 

 自分の状態が確認できたところで、立香は最も気になっていた事を尋ねた。

 

「所長は、どうした?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねた立香に対し、凛果とマシュは顔を見合わせると、揃って首を横に振る。

 

 できれば本当に、

 

 あれだけは幻であってほしかった。

 

 断末魔の悲鳴を上げて、カルデアスに飲み込まれていくオルガマリー。

 

 信じていたレフに裏切られ、殺された彼女の無念は、計り知れない物があった。

 

「・・・・・・そうか」

 

 力なく頷く立香。

 

 助けられなかった。

 

 その想いに、打ちひしがれる。

 

 もし、

 

 あの時、もっと手を伸ばしていたら、あるいは助けられていたかもしれない。

 

 そう思うと、猶更だった。

 

 だが、

 

「自分を責めないでよ、兄貴」

 

 そんな立香の様子を見て、凛果が話しかけた。

 

「あの状況じゃ、誰も所長を助けられなかったはずだよ。兄貴のせいじゃない」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 妹の気遣いが身に染みる。

 

 だが、

 

 それでも尚、立香は思ってしまう。

 

 もっと、何かできる事があったのではないか、と。

 

 それがいかに不毛な事だと知りながらも、考えずにはいられなかった。

 

 と、

 

 その時、扉が開き、誰かが入ってくる気配がした。

 

 振り返る立香。

 

 そこで、

 

「え・・・・・・・・・・・・」

 

 絶句した。

 

 なぜなら、

 

 入ってきた人物は2人。

 

 その2人に、立香は見覚えがあった。

 

 だが、同時に、この場所にいるはずがない人物でもあったのだ。

 

「おじゃまします」

「ん、立香が、起きたって聞いた」

 

 声を掛けて部屋の中に入ってくる人物は、この中でもひときわ小柄な体格をした少年と少女。

 

 アサシンと美遊。

 

 あの炎上した街で、共に戦った戦友たちだった。

 

「その・・・・・・実は、レイシフトが終わってカルデアに戻ると、なぜかお2人も、いつの間にか、一緒にこちら側にいたんです」

 

 驚く立香を察して、マシュが苦笑気味に説明する。

 

 どうやら、レイシフトに巻き込まれた影響ではないか、との事だったが、詳細な事はよく分かっていないらしい。

 

 美遊もアサシンも、今はそれぞれ、特異点Fで着ていたような英霊としての恰好ではなく、立香や凛果と同じ、カルデア制服の身を包んでいる。もっとも、小柄な2人の体格に合うサイズの服が元々カルデアにあったとも思えない。2人のレイシフトに合わせて、大急ぎで用意したのだろう。

 

「そっか・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな2人を見て、立香は微笑む。

 

 色々と重苦しい事の連続で、気が滅入りそうになっていた。

 

 だが、

 

 こうして2人が共にカルデアに来てくれた事は、立香にとっても嬉しい事だった。

 

 ベッドから立ち上がる立香。

 

 そのまま歩み寄ると、手を差し出した。

 

「改めて、よろしくな」

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 差し出された手を、キョトンとした顔で握り返すアサシン。

 

 そこでふと、思い出したように立香は言った。

 

「で、そろそろ教えてくれても良いんじゃないか、君の名前?」

 

 言われて、

 

 皆が思い出す。

 

 そう言えば、まだアサシンの真名を聞いていなかったのだ。

 

 どうやら、当のアサシンもそれは一緒らしい。タイミングを外したせいで、名乗るのをすっかり忘れてしまっていた。

 

 改めるように、立香の目を真っすぐに見るアサシン。

 

 そして、

 

「・・・・・・・・・・・・衛宮響(えみや ひびき)

 

 淡々とした声で、自己紹介する。

 

「ん、よろしく」

 

 

 

 

 

第10話「傷だらけの生還」      終わり

 

 

 

 

 

特異点F「炎上汚染都市冬木」 定礎復元

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人、カルデアの廊下を歩くロマニ。

 

 本当に、大変な事になった。

 

 レフ・ライノールの裏切り。

 

 オルガマリーをはじめとして、多くの犠牲者。

 

 世界の崩壊。

 

 あまりに過酷な運命を前にして、眩暈さえしてくる。

 

 だが、

 

 たとえ瞬きする一瞬たりとも、彼には呆けている暇などなかった。

 

 恐れていた事態が、ついに起きてしまったのだ。

 

 それも、予想を遥かに超える最悪の形で。

 

 ならば、恐れずして立ち向かわなくてはならない。

 

 幸いにして、マシュをはじめ、カルデアには戦えるサーヴァントが3人いる。

 

 マスター候補である立香と凛果兄妹も、無事に特異点Fを乗り切ってくれた。

 

 まだまだ未熟な彼等だが、しかし、その可能性には大いに期待できるだろう。

 

「・・・・・・負けるわけには、いかないからね」

 

 誰にともなく呟くロマニ。

 

 その足が、ある部屋の前で止まった。

 

 専用のカードキーを差し込んで、ロックを解除すると、周囲に誰もいない事を確認してから足を踏み込んだ。

 

 部屋の中は殺風景で、机と椅子、そしてベッド以外は何もない。

 

 そのベッドの上で、

 

 胡坐をかくようにして、静かに目を閉じている人物が1人。

 

 対して、ロマニは苦笑しながら声を掛けた。

 

「やあ、調子はどうだい? 君の気持も分かるが、まだ無理はしないでくれよ」

 

 気さくに声を掛けるロマニ。

 

 対して、

 

 相手はゆっくりと、目を開いた。

 




オリジナルサーヴァント紹介




衛宮響(えみや ひびき)

【性別】男
【クラス】アサシン
【属性】中立・中庸
【隠し属性】人
【身長】131センチ
【体重】32キロ
【天敵】??????

【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:E 幸運:B 宝具:C

【コマンド】:AAQQB

【宝具】??????

【保有スキル】
〇心眼(真)B
1ターンの間、自身に回避状態付与。

〇??????

〇??????

【クラス別スキル】
〇気配遮断:B
自身のスター発生率アップ。

〇単独行動:C
自身のクリティカル威力をアップ。

【宝具】
??????

【備考】
 特異点Fにおいて、藤丸凛果の声に応じる形で召喚されたサーヴァント。小柄で表情に乏しく、何を考えているのか判らないところがある。言動にもやや幼さが感じられるが、その戦闘能力は本物。敏捷を活かした戦術を得意とする。英霊化した美遊に対し、何か思うところがある様子。





朔月美遊(さかつき みゆ)
【性別】女
【クラス】セイバー
【属性】秩序・善
【隠し属性】地
【身長】134センチ
【体重】29キロ
【天敵】??????

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:A+ 宝具:B

【コマンド】:AAQBB

【宝具】??????

【保有スキル】
〇直感:B
スターを大量獲得。

〇??????

〇??????

【クラス別スキル】
〇対魔力:B
自身の弱体耐性をアップ

〇騎乗:C
自身のクイックカードの性能を、少しアップ。

【備考】
 元々は冬木市にある旧家出身の少女。朔月家が用意した「小聖杯」として聖杯戦争に参加した彼女は、そこでセイバー「アルトリア・ペンドラゴン」と出会い、共に戦う。特異点の崩壊後も、セイバーの願いによって生かされ続けた彼女は、セイバーの消滅の際、彼女の霊基を受け継ぐ形で英霊化する。その姿は、アルトリア・ペンドラゴンの若き日の姿を模している。



アサシンの真名発覚。
ナニーソーダッタノカー!!(爆

それにしても、

イリヤ、クロ:133センチ
美遊:134センチ
ジャック:134センチ
ナーサリー:137センチ
ジャンヌ・リリィ:141センチ
ネロ:150センチ
小ギル140センチ
アナ:134センチ
ステンノ、エウリュアレ:134センチ

響、背ちっちゃ!!(爆

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