Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第5話「はぐれサーヴァント」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが、立ち尽くしていた。

 

 味方も、

 

 そして敵もまた、同様に。

 

 自然、皆の注目は集中する。

 

 この状況に、困惑するなと言う方が無理な話だろう。

 

 敵味方、双方が立ち尽くして、状況を見守っている。

 

 対峙する2人の少女。

 

 互いに手には旗を持ち睨み合う。

 

 その顔。

 

 その姿。

 

 その存在。

 

 片や白で、片や黒。

 

 しかし、

 

 どちらも「ジャンヌ・ダルク」その物である。

 

「そんな、ジャンヌ・ダルクが、2人?」

「ん、パチモン?」

「フォウッ!?」

 

 困惑する立香と、首をかしげる響。

 

 双子か? それとも影武者か?

 

 だが、ジャンヌ・ダルクに双子がいたなどと言う記録は無いし、影武者なら互いに争っているのもおかしい。

 

 どちらかが偽物、という可能性も考えられるが、片や「竜の魔女」として悪名を轟かせ、片やその竜の魔女の攻撃を真っ向から防ぎきるほどの実力者である。

 

 偽物、などと言う安易な言葉では語れない気がする。

 

 つまり、どうあっても、この状況の説明がつかないのだ。

 

 唯一、

 

 最も納得のいく説明があるとすればただ一つ。

 

 すなわち「どちらも、ジャンヌ・ダルク本人」だと言う事だ。

 

 と、

 

 そこでカルデアのロマニが通信を繋げてきた。

 

《いや、有り得る話だ》

「どういう事だ、ドクター?」

「フォウ?」

 

 尋ねる立香に、ロマニは説明する。

 

 要するにサーヴァントとは英霊の「写し身」みたいな物であり英霊本人がその場にいる、という訳ではない。本来なら「英霊の座」にいる存在を、サーヴァントと言う「枠」に収めて召喚し現界させる段階で、世界の中に「写し」ているのだとか。

 

 それを考えれば、同じ英霊であっても違う霊基として、同時期に召喚される事は有り得る話なんだとか。

 

 勿論、本来ならば起こる可能性の低い、極めて特殊な例である事は確かだが。

 

 と、

 

「・・・・・・あなたは、何者ですか?」

 

 白いジャンヌの方が、黒いジャンヌに硬い口調で問いかけた。

 

 緊張に満ちた眼差し。

 

 自身と同じ存在に対する糾弾とも言うべき問いかけ。

 

 それに対し、

 

「・・・・・・クッ・・・・・・クックックックックックッ」

 

 黒いジャンヌの口からは、くぐもった笑い声が漏れ出した。

 

 徐々に大きくなる笑い。

 

 哄笑に変わるまで、それ程の時間は必要なかった。

 

「何て滑稽なのッ!? 何て哀れなのッ!? あまりの可笑しさに頭が狂ってしまいそう!! こんな小娘に、この国の人々は自分たちの命運を預けていたなんてッ!! 何て喜劇なんでしょう!! ねえジルッ あなたもそう思うわよねえ!! ねえジルッ ジルったら!! ああ、そう言えば、今日は連れて来ていないんでしたね!!」

 

 我を忘れるほどの狂気を見せつける黒いジャンヌに、思わず白いジャンヌや立香達は息を呑む。

 

 暫く哄笑を続ける黒いジャンヌ。

 

 ややあって真顔に戻ると、真っ向から白いジャンヌを睨みつけた。

 

「なぜ、こんな事をするのか、ですって? それはこちらの質問です。あなたこそ、なぜ私の邪魔をするのです? あれだけ裏切られ、罵られ、辱められ、最後には惨めに火炙りにされておきながら、なぜまだ、こんな国の人々の為に戦うのですか? あなたもジャンヌ()なら、共にこの国を亡ぼすべきでしょう!!」

「そんな、私はッ!!」

 

 言い募ろうとする白いジャンヌ。

 

 だが、黒いジャンヌは、聞く耳持たないとばかりに掌を掲げる。

 

「いずれにせよ、貴女の存在は目障りでしかありません。ここで消えてもらいます」

 

 言い放つと同時に、再び黒い炎が生まれる。

 

 対抗するように、白いジャンヌは手にした旗を掲げる。

 

 だが、

 

 先程、黒いジャンヌの攻撃を防いだことで、既に魔力は枯渇寸前まで着ている。もう一度、同じ攻撃を受けたら防ぎ切れないであろうことは明白だった。

 

「さあ、死になさいッ!!」

 

 黒いジャンヌの攻撃に備え、響達も戦闘態勢を取る。

 

 それに合わせて、ヴラドとカーミラも構えを取った。

 

 次の瞬間、

 

 地面から沸き立つように起こった炎が、黒ジャンヌ、ヴラド、カーミラを包み込んだ。

 

「ぬッ!?」

「これはッ!?」

 

 驚きの声を上げる、ヴラドとカーミラ。

 

 黒いジャンヌの攻撃によるものではない。その証拠に、彼女も纏わりつくように迫って来る炎を払うのに躍起になっている。

 

「いったい、何が・・・・・・・・・・・・」

 

 そう呟いた。

 

 次の瞬間、

 

「よそ見してんじゃないわよ!!」

 

 飛び込んで来た人影が、手にした槍でカーミラに襲い掛かった。

 

 対抗するように、自身も強化した爪で打ち払う。

 

「あら惜しいわね。あとちょっとだったのに」

「お前はッ!?」

 

 自身に斬りかかって来た少女を見て、カーミラはうめき声を漏らす。

 

 異様な少女だった。

 

 着ている服は派手な模様で、ヒラヒラした可愛らしい印象がある。

 

 だが、その出で立ちは異様だった。

 

 頭には捩じれた角、背中には蝙蝠の羽、お尻からは長いしっぽまで飛び出ている。

 

 まるで、悪魔のような出で立ちをした少女だ。

 

「その姿、見ているだけでイライラするわ。酷い頭痛がする」

「それはこっちのセリフよ。よくも私の前にノコノコと顔を出せた物ねッ」

 

 のっけから、険悪ムード全開のカーミラと少女。

 

 一触即発の雰囲気が、再び戦機を映し出す。

 

 だが、

 

「退きましょう。今ここで戦っても勝ち目は薄いです」

 

 苦悩と共に告げるジャンヌ。

 

 確かに。

 

 ほぼ万全に近いサーヴァント3騎に加えて、ワイバーン達も活発に攻撃を繰り返してきている。

 

 今ここで戦っても勝機は薄い。最悪、全滅も有り得る。

 

 退くなら、敵が炎に巻かれている今しかなかった。

 

「おのれ、逃がすかッ!!」

 

 槍を地面に突き刺すと、魔力を込めた腕を一振りする。

 

 次の瞬間、大地が血の色に染まる。

 

 吹き上がる悪意。

 

 同時に、大地が一斉に隆起し、無数の杭が地面に突き立った。

 

 ヴラドの「串刺し公」たる所以。

 

 押し寄せるオスマントルコの大軍に対抗する為に、捕虜にした2万の兵士を全員串刺しにして国境線に並べたという、血塗られた伝説。

 

 それと同じ光景が、目の前で展開されていた。

 

 もし、この杭の群れに捉えられれば、一瞬にして串刺しにされ、無惨な躯を晒す事になっていただろう。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・逃げたか」

 

 舌打ちするヴラド。

 

 彼の攻撃が完全に発動する前に、カルデア勢は全員、効果範囲から離脱してしまったのだ。

 

 既に見回しても姿は見えなかった。

 

「まあ、良いでしょう」

 

 そう告げたのは、黒いジャンヌだった。

 

 剣をしまい、旗を折りたたむ。

 

「どのみち、いずれは対決する事を避けられないのです。ならば焦る必要はありません。それよりも、放り出してきた戦線の方が気になります。一旦、そちらに合流するとしましょう」

 

 そう言うと、踵を返すジャンヌ。

 

 とは言え、

 

 カルデア、

 

 そして「あの女」の存在。

 

 これで少し、面白くなってきた。

 

 自分に逆らう者を全て殺しつくし、このフランスと言う国そのものを嬲り殺しにする。

 

 その時はもう、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、振り切った」

 

 周囲の気配を探り警戒していた響は、呟きながら刀を鞘に納める。

 

 追ってくる敵の気配はない。どうやら、黒いジャンヌ達を振り切る事には成功したようだ。

 

 その言葉に、一同は安堵する。

 

 追撃の手が鈍ってよかった。もし追手が掛かっていたら、被害は免れなかったところである。

 

 こうして、一同が無事に逃げおおせたのは何よりだった。

 

 怪我をした美遊や響には、立香と凛果が手分けして回復魔術を掛けている。

 

 時間を掛ければ、戦力の回復は容易だろう。

 

 と、

 

 ここまで一緒に撤退してきたセイバーが、立ち上がって踵を返すと、そのまま歩き出した。

 

「あの、セイバーさん、どちらに行かれるのですか? せめて回復だけでも・・・・・・」

 

 問いかけるマシュ。

 

 対して、セイバーは足を止めると、僅かに振り返る。

 

「・・・・・・慣れ合うのはごめんだ」

 

 それだけ告げて、歩き出すセイバー。

 

 と、

 

 そこへ、響への治療を中断して立香が歩み寄った。

 

「今回は色々とありがとう、助かったよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 笑顔で告げる立香に対し、

 

 セイバーは無言のまま振り返らない。

 

 ただ、再び歩き出す直前、低い声で口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・・・借りは、いずれ返す」

 

 それだけ言うと、セイバーは一同を残して歩み去って行くのだった。

 

「兄貴、良いの、行かせちゃっても?」

「フォウ・・・・・・・・・・・・」

 

 美遊に回復魔術を掛けてやりながら、片にフォウを乗せた凛果が尋ねてくる。

 

 引き留めて、協力してもらった方が良いのではないか? と言いたいのだろう。

 

 だが、

 

 立香は振り返ると、笑みを浮かべて言った。

 

「嫌がる所を強制しても仕方ないだろ。それに、あの言い方なら、また会えるかもしれないし」

「・・・・・・それは、まあ」

 

 兄の能天気さに呆れつつも、凛果は苦笑して納得する。

 

 随分と気の長い話のようにも思えるが、立香が言うと本当に現実になりそうな気がしたのだ。

 

 と、

 

 一緒に逃げて来た白いジャンヌが、一同を見回して口を開いた。

 

「改めまして。先ほどはありがとうございました」

 

 白いジャンヌは、そう言って頭を下げる。

 

 その仕草一つ一つに、どことなく気品と美しさを感じる。

 

「私はサーヴァント、ルーラー。真名はジャンヌ・ダルクです」

 

 やはり、

 

 と立香達は思う。

 

 彼女もまた、ジャンヌ・ダルクなのだ。

 

 否、

 

 その出で立ちや行動、存在感から見れば、彼女の方こそが真の意味でジャンヌ・ダルクと言えるだろう。

 

 ところで、

 

「ルーラーって?」

「『裁定者』のサーヴァントです。7大クラスの他にいくつか存在しているエクストラクラスの1つで、特に他のクラスに対して強い影響力を持つクラスです」

 

 尋ねる凛果に、美遊が丁寧に説明する。

 

 確かに。

 

 ルーラーは聖杯戦争に何らかの異常性が認められると聖杯自体が判断した場合、召喚される事が多いという。その為、全サーヴァントに対し強制権を持つ令呪「神明裁決」や、サーヴァントの真名を無条件で知る事ができる「真名看破」と言った、特権に近い能力を持っているのだとか。

 

「ですが・・・・・・・・・・・・」

 

 ジャンヌは言いにくそうに顔を伏せる。

 

 そんなジャンヌの表情を伺うように、響が覗き込んだ。

 

「ん、ジャンヌ、お腹すいてる?」

「い、いえ、そう言う訳ではないのですが・・・・・・」

 

 ずれた質問をする響の頭を撫でつつ、ジャンヌは顔を上げる。

 

 その表情は、相変わらず晴れないままだ。

 

 そこで、美遊が何かに気付いたように口を開いた。

 

「もしかして、魔力が枯渇しているんですか?」

 

 美遊の目から見て、ジャンヌが非常に弱っているように見えたのだ。

 

 まあ、つまり、響が言う「腹が減っていた」と言うのも、あながち間違いとも言い切れない訳である。正解でもないが。

 

「恥ずかしながら・・・・・・」

 

 ジャンヌは俯きながら、自分の現状について説明する。

 

 なんでもマスター無しで召喚された彼女は、ルーラーとしての権限の殆どを持っていないのだとか。

 

 それどころか魔力供給の手段も持たない為、殆ど力を発揮できない状態だという。

 

 先程の戦いでは黒いジャンヌの攻撃を何とか防ぎ切ったが、もしあそこで追撃されていたら、確実に敗北していた事だろう。

 

「それならジャンヌ」

 

 そんなジャンヌを見て、立香が口を開いた。

 

 今のジャンヌが置かれている状況を解決する手段が、一つだけある。ならば、決断するのに躊躇う理由は無かった。

 

「俺と契約しないか?」

「え?」

 

 立香の物言いに、一瞬キョトンとするジャンヌ。

 

 その可能性を考えていなかったせいで、一瞬呆気に取られてしまったのだ。

 

「あ、そっか。それなら魔力の問題は解決するよね」

 

 名案を聞いて、凛果も手を打つ。

 

 確かに。

 

 立香や凛果の魔力は、カルデアの電力を変換して作られ、直接送り込まれている。つまり、2人と契約したサーヴァントは、マスターを通じて莫大な魔力を振るう事ができる。

 

 立香か凛果、どちらかと契約できれば、ジャンヌの魔力問題は解決できるのだ。

 

 だが、

 

「いえ、それは・・・・・・・・・・・・」

 

 立香の申し出に対し、ジャンヌは躊躇いを見せる。

 

 何か彼女の中で、どうしても踏ん切りがつけられない部分があるのかもしれない。

 

 と、その時だった。

 

「あ、やっと見つけましたわ」

「いやー ごめんごめん。この子と合流するのに時間かかっちゃったわ」

 

 木々を分け入る形で、2人の少女が近づいてくるのが見えた。

 

 1人は、あのカーミラに斬りかかった少女である。ヒラヒラした衣装は、どこかステージで歌うアイドルを連想させる。

 

 そしてもう1人は、なぜか和装の少女である。

 

 こちらも美しい少女だが、先のアイドル少女同様、頭には小さな角が見られた。

 

「まったく、ジャンヌが飛び出していった時はどうしようかと思ったわよ。ちょっとは周りの事も考えなさいよね」

「ご、ごめんなさい」

 

 アイドル少女に説教され、しゅんとなるジャンヌ。どうやら、何かに集中すると回りが見えなくなるタイプらしい。

 

 と、

 

 そこで、アイドル少女が振り返る。

 

「あんた達が、この子を助けてくれたのよね。取りあえず、お礼を言っておくわ」

 

 そう言って笑顔を見せる少女。

 

 その出で立ちの異様さとは裏腹に、闊達な印象のある少女である。

 

 だが、

 

「私の名前はエリザベート・バートリ。一応、ランサーって事になるわね。よろしく」

「エリザベートッ!? それって先程の・・・・・・・・・・・・」

「フォウッ ンキュッ」

 

 マシュが驚いて声を上げる。

 

 そう、

 

 エリザベート・バートリは、先程交戦したカーミラの原型になった存在。

 

 元々はハンガリーの伯爵夫人であったが、夫が戦争で外征中に、領内の少女たちを集め、拷問の末に殺害、その生き血を浴びる事で若さを保とうとした伝説がある。

 

 だが、

 

 こうして闊達にしゃべるエリザベートからは、そうした陰惨なイメージは無かった。

 

「んー・・・・・・」

 

 響が少し首をかしげてから言った。

 

「エリザ? エリちゃん? どっちが良い?」

 

 いやそれ、確定なのかい。

 

 てか、それ今聞く事か?

 

 空気を読まない響に全員が心の中でツッコミを入れる中、

 

 エリザベートはにっこりと笑って答える。

 

「どちらでもOKよ。やっぱり、アイドルには愛称は必要よね。ファンとの距離を縮めるのも、アイドルとしての役目よね」

 

 意外と、ノリノリだった。

 

 と、

 

 もう1人の和装少女の方が、いつの間にか立香にすり寄り、その両手を包み込むように握りしめてきた。

 

「あ、あの、何か?」

 

 困惑して尋ねる立香。

 

 対して、和装少女は熱っぽい瞳で立香を見上げると、つややかな声で言った。

 

「ああ、お会いしとうございました。安珍様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり何を言い出すのか?

 

「あの、俺は立香って名前なんだけど?」

「はい、分かっております。安珍様」

 

 まったく分かってなかった。

 

「再開できる日を、この清姫、幾千秋とお待ち申し上げておりました。ああ、それが、このような異邦の地にて夢叶うとは・・・・・・感激のあまり、息の音も止まりそうな思いでございます」

 

 いや、あなたもう死んでるからね。

 

 一同が心の中でツッコミを入れる。

 

 とは言え、どうやらこの和装少女の真名は「清姫」らしい。

 

 恋焦がれる安珍和尚との再会を夢見ながら、裏切られたと知るや否や、その身を化け物と化してまで追い詰めた末、寺の鐘の中に隠れた安珍を焼き殺し、自身も入水自殺したという伝説を持つ悲劇の女性。

 

 何と言うか「元祖ヤンデレ」とでも言うべき存在であろうか?

 

 クラスは・・・・・・いちいち聞くまでも無いだろう。

 

 この話が通じない感じは狂戦士、バーサーカーに間違いない。

 

 一応の会話はできる事から、ある程度「狂化」のランクは低いらしかった。

 

「んー・・・・・・清姫・・・・・・」

 

 響は少し首をかしげてから、清姫を見て言った。

 

「取りあえず『きよひー』で良い?」

「何ですの? その適当感は?」

 

 ジト目で響を睨む清姫。

 

 何と言うか、バーサーカーに冷静にツッコまれるアサシンと言うのも、なかなか稀有だった。

 

 

 

 

 

 一通りの挨拶が終わったところで、

 

 改めて現状、および今後の方針について話し合う事になった。

 

 ともかく現在、

 

 あの黒いジャンヌ・ダルク。

 

 あえて、こちらのジャンヌとの混同を避けるために、「ジャンヌ・ダルクを反転させた存在」として、以後は「ジャンヌ・ダルク・オルタナティブ」。略称で「ジャンヌ・オルタ」と呼称する事にした。

 

 彼女がいる限り、人理崩壊は防げない。

 

 ならば、やるべき事は初めから決まっていた。

 

「オルレアンに乗り込み、ジャンヌ・オルタを倒します」

 

 ジャンヌの言葉に、一同は頷きを返す。

 

 ジャンヌ・オルタが、この特異点の中心。すなわち、聖杯の所持者と見て間違いない。

 

 ならば、フランスの解放と聖杯の回収、そして特異点の修復は全て、ジャンヌ・オルタを撃破できるか否かに掛かっている。

 

「あの、立香、やはりここは私が・・・・・・・・・・・・」

 

 言いかけるジャンヌ。

 

 どうやらやはり、自分1人でこの問題を解決しようと考えているらしい。

 

 フランスを危機に陥れ、多くの人々の命を奪っているのは、他ならぬジャンヌ・ダルク。

 

 ならば、ジャンヌ本人がそのように思うのも無理からぬことだろう。

 

 だが、

 

「いや、ジャンヌ。これはもう、俺達みんなの問題だよ」

 

 そんなジャンヌを制するように、立香は言った。

 

 そもそも、フランスを介抱したいジャンヌと、人理修復を目指す立香達。互いの利害は一致し、目的を同一としている。

 

 ならば、互いにバラバラに戦うよりも、共に戦った方が良いだろう。

 

「ん」

 

 響は、迷うジャンヌの手を取る。

 

「何を?」

 

 戸惑うジャンヌの手を引く響。

 

 そして、もう片方の手で立香の手を取ると、互いの手を握らせる。

 

「握手」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 一瞬、呆気に取られる立香とジャンヌ。

 

 そんな2人を、茫洋な目で見つめる響。

 

 どうやら、少年なりに2人を取り持ちたいと思っての事らしい。

 

 そんな響を見て、

 

「フッ」

「フフ」

 

 互いに笑みを向け合う立香とジャンヌ。

 

 何となく気恥ずかしい気分ながら、たったこれだけの事で、自分たちの間にあった溝が埋まってしまったかのようだった。

 

「これから、よろしく頼む。ジャンヌ」

「ええ、こちらこそ、立香」

 

 そう言うと、互いに手をしっかりと握り合うのだった。

 

 

 

 

 

第5話「はぐれサーヴァント」      終わり

 

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