1
戦いは終わった。
主を追うように、タラスクが姿を消していく。
体を構成していた魔力が途切れ、大気に溶けるように。
その表情は厳ついながらも、どこか安堵しているようにも見えたのは、気のせいだったのだろうか?
その様子が、ここリヨンでの戦いのフィナーレとなった。
タラスクの消滅に伴い、その上に乗っかっていた響もまた、地上へと降り立つ。
既に周囲に、他の敵の気配は無し。
リヨンの戦いは、カルデア特殊班の勝利に終わったのだ。
「・・・・・・・・・・・・ん」
刀を鞘に納める響。
そこへ、駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
「響、大丈夫?」
心配顔の美遊。
対して、
「ん、問題ない」
そう言って、響は無表情のまま親指を立てて見せる。
その脳裏には、先程まで刃を交えていた聖女の事を思い出していた。
マルタは確かに強敵だった。
だが、
響にはどこか、彼女が自分を止めてほしかったように思えていた。
あるいは、こんな殺戮は彼女の本意ではなかったのかもしれない。
その証拠に、どこか捨てセリフめいた言葉まで残している。
いずれにせよ、消滅してしまった彼女に問いただす事は出来ない。今はただ、南部地方を平定できたことだけを喜ぶべきだった。
それに、ちょっと良い想いも出来たし。
心の中で、そんな事を考える響。
つい先ほど、偶発的に遭遇してしまった美遊の恥ずかしい姿。
視界いっぱいに広がった美遊の白いパンツ。
そして、顔面に押し付けられたお尻の感触。
まあ何と言うか、
ちょっと柔らかかった。
元々が小学生だから、肉付きはまだ薄い。とは言え、その肢体は、将来に大いに期待できる可能性を秘めている。
と、
「・・・・・・・・・・・・何考えてるの、響?」
「ん、別に」
見れば、美遊がジト目で響を睨んできている。
慌てて視線を逸らす響。
どうやら、何を考えているのかモロバレだったらしい。
少年を非難がましい目で睨む美遊。だが、その顔がほんのり赤くなっている事は見逃さなかった。
と、その時、
「おーい、美遊ちゃん、響!!」
手を振りながら、こちらに駆けて来るマスターの姿があった。
どうやらタラスクの消滅を見て、マルタの撃破に成功したと判断したのだろう。
その凛果の背後からは、一緒に駆けて来るエリザベートの姿も見える。どうやら戦闘中、ちゃんと凛果を守ってくれていたらしかった。
そして、
そんな凛果たちとは別に、近づいてくる一団があった。
男女3人の組。
1人はタラスクに直接斬りかかった、甲冑の騎士。
1人はゆったりした衣装を着た、楽士風の優男。
最後の1人は、ミニスカート風のドレスを着た、可憐な少女。
ジャンヌ達に出会った時もそうだったが、こちらはまた、輪をかけて奇妙な取り合わせの集団である。
そして、
気配から察する。
新たに現れた3人もまた、響達と同じサーヴァントであると。
「ありがとね。おかげで助かったわ」
「いーえ。間に合ってよかったわ」
礼を言う凛果に対し、代表者と思われる少女は笑顔で応じる。
あのタラスクを操るマルタ相手に一歩も引かず、響達が反撃するきっかけを作った少女である。
彼女もまた、ただ者ではない事が伺えた。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はマリー、マリー・アントワネット。クラスはライダー、と言う事になるわね」
「え、マリー・アントワネットって・・・・・・」
流石に、その名前には凛果も聞き覚えがあった。
見れば、美遊も驚いたように目を見開いている。
マリー・アントワネット。
18世紀に存在したフランス王妃。
元はハンガリー女大公マリア・テレジアの娘(十一女)。
ルイ16世の妻として、激動の革命時代を生き、最後には断頭台の露と消えた悲劇の女性。
しかし、
目の前で笑顔を浮かべる少女からは、そんな陰惨な印象は無い。
どこまでも可憐に咲き誇る、花のようなイメージだ。
「んー・・・・・・・・・・・・」
と、
そこで何事かを考えていた響が、ポムッと手を打つと、マリーを指差して言った。
「ん、お菓子の人」
「響、その認識はどうなの?」
マリーを称した響の言葉に、美遊がツッコミを入れる。
確かに、マリー・アントワネットの有名な言葉として「パンが無ければお菓子を食べればいい」などと言う物がある。
それは長く「高慢な王侯貴族としてのマリー・アントワネット」を象徴しており、財政難によって貧困に喘ぐフランス国民が、マリーに怒りをぶつけるきっかけにもなったとされる。
しかし、近年の研究では、それはマリー自身が言った言葉ではなく、同時期に刊行された小説の登場人物が言ったセリフであったとされている。国民はそれを、マリーの言葉と誤解してしまったのだ。
そもそも、本来のマリー・アントワネットは財政再建に積極的で、彼女自身大変な倹約家であったと言う記録も残っているくらいである。
それでなくても、当時のフランスは既に大国。王妃とは言え、1人の人間が散財したくらいで財政が傾く事はあり得なかった。
言わばマリーは、風評被害で悪者にされてしまったような物である。
と、
響は短パンのポケットから何かを取り出すと、マリーに向かって差し出した。
「ん、食べる?」
「あら、何かしら?」
受け取るマリー。
それは、出撃前にみんなで食べていた煎餅だった。おやつ代わりに持って来ていたらしい。
一口食べて、パリパリと咀嚼するマリー。
「パンとも、クッキーとも違う。変わった味ね。けど好きよ、こういうのも」
「ん、何より」
煎餅の感想を聞き、満足そうに頷く。
その様子を、一同は唖然として見つめている。
「何って言うか、シュールだよね」
「同感です」
凛果と美遊が、嘆息気味に2人のやり取りを見詰めている。
マリー・アントワネット。
どう考えてもケーキとか洋菓子とかが似合いそうなフランス史上最も有名な王妃殿が、日本の煎餅を美味しそうにパリパリと食べている光景は、アンバランスの極みと言ってよかった。
と、
「あー、マリア。お楽しみのところを悪いんだけど、僕らもそろそろ自己紹介しても良いかな?」
「あ、ごめんなさいアマデウス(パリパリ)つい、夢中になってしまって(パリパリ)」
「・・・・・・取りあえず、それ置いたらどうだい?」
そう言うとマリーは(煎餅を食べながら)言い出した楽士風の男を差して言った。
「こっちは私の古くからのお友達で、アマ(パリパリ)デウスよ。モーツァルト(パリパリ)って言た方が、通りがいいかしら?(パリパリ)」
「だからマリア、それを・・・・・・まあ良いや、取りあえず初めまして、カルデアのみんな。ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトだ。よろしく」
これは、流石に知らない人間はいないだろう。
アマデウス・モーツァルト。
古典派音楽の代表的な存在であり、若くして多くの栄光を手にした天才音楽家。音楽に興味が無い人間でも、名前くらいは知っているだろう。
そしてもう1人。今度は騎士の方が前に出た。
「私はゲオルギウス。こちらのお二方に比べれば、あまり有名どころとは言えませんが、お見知りおきを」
控えめにそう言って、笑いかけてくる騎士。
とは言え、
有名じゃない。
などと、謙遜も甚だしい。
聖ゲオルギウスと言えばバチカンのローマ法王庁にも認定されている聖人の1人であり、英語名では「セント・ジョージ」の名で知られる、竜退治で有名な騎士でもある。
何ともそうそうたるメンツだった。
聞けば、マリー達3人もまた、このフランスに召喚されたサーヴァントだと言う。
そこでフランスを荒らし回る竜の魔女のうわさを聞き、このリヨンまでやって来たのだとか。
「それで、聞けばあの『ジャンヌ・ダルク』が竜の魔女として蘇り、暴れまわっているそうじゃない。そこで、こうして仲間を集めながら旅をしていたの」
煎餅をパリパリと食べながら説明するマリー。
成程、大体の事情はジャンヌ達と同じらしかった。
《なるほどね》
そんな一同の会話に割って入るかのように、通信機の向こうでダ・ヴィンチが口を開いた。
《どうやらジャンヌや彼女達は、正規に召喚されたサーヴァントらしい。それに対して、先程倒したマルタや、前に戦ったカーミラ、ヴラドはジャンヌ・オルタが不正規に召喚したサーヴァントなのだろうね》
ジャンヌ・オルタとしては、自分たちの妨害の為にサーヴァントが正規召喚される事は予測できていた。だからこそ、ジャンヌ・オルタは自分の手ごまと成り得る英霊をサーヴァントとして召喚したのだ。
《それと、先程のマルタを解析して分かったんだが、どうやら彼女には「狂化」の術式が施されていた形跡がある》
「えっと、じゃあバーサーカーだったの? ライダーじゃなく?」
ダ・ヴィンチの説明に、首をかしげる凛果。
幻想種である竜をあれほど見事に乗りこなしていたのだ。てっきり、マルタのクラスは
《少し違うね。彼女は確かにライダーだった。その上から「狂化」を施されていた形跡がある。つまり、「バーサーク・ライダー」と言う言葉が、一番ピッタリだと思う》
成程。
つまり、通常の英霊召還では手ごまを増やせないと踏んだジャンヌ・オルタは、あえて「狂化」を施す事で、英霊達の本来持つ在り方を捻じ曲げ、手ごまにしていたのだ。
「さて、自己紹介も済んだところで、今後の方針を決めたい所だね」
「そうね。南部地方は平定できたけど、これで終わりってわけじゃないし」
モーツァルトの言葉に、マリーも頷きを返す。
今回の戦いでマルタを撃破し、ジャンヌ・オルタ軍の一角を突き崩せたことは大きい。
これで、これからの戦いはだいぶ楽になる事だろう。
と、
「ねえ、マリー。よかったら、わたし達に力を貸して」
「はい?」
手を差し伸べる凛果。
対してマリーは、不思議そうに首をかしげる。
「一緒にオルレアンに行って欲しいの」
そう言うと、凛果は笑いかけるのだった。
2
激突する剣戟。
魔力の光が迸り、互いに火花を散らす。
ジークフリートとジャンヌ・オルタ。
2騎のサーヴァントは互いに退かず、応酬を続ける。
その様は、人智を遥かに超えた、神々の激突と言っても良かった。
「はァァァァァァ!!」
振り被った大剣を、真っ向から振り下ろすジークフリート。
対してジャンヌ・オルタは、手にした旗で斬撃を受け止め、押し返す。
ジークフリートの長身が揺らぐ。
そこへ、すかさず連撃を仕掛けるジャンヌ・オルタ。
左手に握った細剣を、真っ向からジークフリートの胸元へと繰り出す。
鋭い刺突。
だが、
その剣閃は、
切っ先は、胸元で受け止められ、1ミリもジークフリートに刺さってはいなかった。
「チッ!?」
舌打ちしつつ、間合いを取ろうとするジャンヌ・オルタ。
すかさず反撃に出るジークフリート。
突撃しながら、大剣を横なぎに振るう。
対して、跳躍するように後退するジャンヌ・オルタ。
ジークフリートの大剣は、ジャンヌ・オルタの鼻先を霞めて駆け去って行った。
「・・・・・・・・・・・・成程。伝説の通りですね」
着地しながら、ジャンヌ・オルタはジークフリートを睨みつける。
対抗するように、大剣を構えなおすジークフリート。
「『
英雄ジークフリートの伝説をとつとつと語るジャンヌ・オルタ。
確かに、絶対的な防御スキルを持つ以上、こと接近戦においては、ジークフリートに敵う英霊はほとんどいないだろう。
だが、
それでも尚、ジャンヌ・オルタは退く事をせず、旗と細剣を構えている。
対するジークフリートも、慎重に大剣を構えて対峙する。
油断はできない。
一騎打ちは、ジークフリートの方が有利に進んでいる。
しかし、いかに攻め立てても、未だに有効と言える一撃を加える事が出来ないでいる。
ジャンヌ・オルタは、際どいところでジークフリートの攻勢を防ぎ止めているのだ。
しかも、未だにお互い、宝具も使っていない状態である。
切り札をどのタイミングで使うか。
勝負の分かれ目は、そこにあった。
ジークフリートとジャンヌ・オルタが激突している頃、
後方のフランス軍砦は、さながら野戦病院の様相を呈していた。
前線で負傷した兵士が次々と運び込まれる。
全身血だらけの兵士たちは医務室だけでは収まり切らず、兵員室、果ては廊下にまで無造作に寝転がされる。
床と言う床に血だまりが出来、うめき声が砦全体を満たす。
放置されたまま息絶える兵士も、1人や2人ではない。
まさに、地獄の如き様相。
否、そんな生易しい物ではない。
そこから始まるのは、命の取捨選択。
ともかく、助けられる命だけを優先。手遅れと判断した者に関しては容赦なく放置される。
足りないのだ。
時間も、医薬品も、人手も、何もかも。
死ぬ人間に構っている暇は無い。ともかく、最速、最優先で助かる人間だけを救わなくてはならなかった。
生者の呻き声と死者の腐臭が入り混じる砦内部。
そして、
事態は最悪の方向へと動く。
誰もが負傷者の移送と治療に躍起になっている中、
巨大な影が、砦の上空に舞った。
「敵襲ゥゥゥゥゥゥ!!」
絶望を告げる叫び。
一部のワイバーン達が、最前線を迂回する形で、砦の上空まで攻め込んで来たのだ。
直ちに、迎撃に出る守備兵達。
ジルはこれあるを見越し、最低限の兵力は砦内部に残しておいたのだ。
弓を持った兵士たちが城壁の上に上がり、上空の竜目がけて次々と矢を放つ。
しかし、効かない。
矢は確かにワイバーンに当たるのだが、その硬い体表に阻まれて弾かれてしまうのだ。
そうしている内に、急降下してくるワイバーンの群れ。
その口に、炎が迸る。
そのまま兵士たちを焼き払うつもりなのだ。
「た、退避ィィィィィィ!!」
指揮官が叫ぶが、最早手遅れ。
攻撃態勢に入るワイバーン。
次の瞬間、
「はッ!!」
手に聖旗を掲げた乙女が、飛び込むと同時にワイバーンの胴を薙ぎ払った。
強烈な一撃を受けて吹き飛ばされるワイバーン。
そのまま失速して地面に叩きつけられる。
間一髪のところで兵士たちの危機を救った少女。
手にした旗を真一文字に振るい、群がるワイバーンを威嚇する。
「今のうちに、早く!! ここはわたし達が押さえますので、体勢を立て直してください!!」
ジャンヌは言いながら、手にした聖旗で更にワイバーンを打ち倒す。
まさに、ほんの数か月前まで、フランス軍の希望の象徴だった姿がそこにある。
だが、
「ヒッ」
1人の兵士が悲鳴を上げる。
湧き上がる恐怖は、あっという間に伝染した。
「りゅ、竜の魔女だァ もうこんなところまでッ!!」
「に、逃げろッ 殺されるぞ!!」
背を見せて逃げていく兵士。
その様子を、ジャンヌは立ち尽くして眺めている事しかできない。
手にした旗を、力なく握りしめる。
仕方のない事、と割り切っている。
敵軍を率いるのはジャンヌ・オルタ。言わば、彼女自身でもある。
ジャンヌとジャンヌ・オルタを見極める事など、不可能なのだから。
「ジャンヌ・・・・・・・・・・・・」
「私は大丈夫です、立香」
気遣うように声を掛ける立香。
対して、ジャンヌは振り返らずに答える。
これは、覚悟してたことだ。ならば、振り返る事は許されない。
群がる翼竜。
その眼前に、和装の少女が立ちはだかる。
「はッ!!」
扇子を鋭く振るう清姫。
その一閃が、空中に炎を巻き起こし、複数の翼竜を一時に巻き込んで焼き尽くしていく。
ワイバーンの放つ炎など比較にならない。
清姫の火力は、蹂躙しようと不用意に近づいて来たワイバーンを、片っ端から返り討ちにしていた。
「安珍様ッ 敵がまだ来ますわ!!」
手にした扇子を振るう清姫。
魔力は空中を走り、炎となって吹き上がる。
上空のワイバーンに纏わり付く炎。
翼竜は苦悶の悲鳴を上げて、地上へと落下していく。
しかし、翼竜は次々と湧いて出てくる。清姫やジャンヌ達が奮戦したとしても、全てを倒しきるには時間がかかるだろう。
それでも、サーヴァント達は一歩も引かずに戦い続ける。
「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」
魔力を込めた盾を大上段から大ぶりに振るうマシュ。
その一撃が、骸骨兵士を真っ向から叩き潰した。
その後方に立つ立香。
「マシュ、負傷している兵士のみんなを守る事が優先だ。無理に攻めなくて良いからな!!」
「フォウフォウッ!! ンキュ!!」
「了解です先輩。全力を尽くします!!」
頭の上にフォウを乗せながら指示を出す立香に、マシュは答えながら前に出る。
同時に、手にした大盾を横なぎに振るい、今にも迫ろうとしていた外交兵士2体を同時に叩き伏せる。
目を転じれば、ジャンヌも聖旗を振るい、ワイバーンを叩き落している。
立香との仮契約により、殆どの力を取り戻したジャンヌ。相変わらずルーラーが持つ特権スキルは使用できないが、漲る魔力は彼女の戦闘力を底上げする一助となっている。
3騎のサーヴァントが武を振るう事で、砦内に侵入しようとしていたワイバーンや骸骨兵士たちが押し返され始めていた。
同時に動ける兵士達も個々に反撃を開始している。
おかげで、辛うじて戦線は維持できそうだった。
《良いぞ。敵の勢いが弱まってきている。もう一息だ!!》
「フォウッ キュー!!」
カルデアでナビゲートするロマニの弾んだ声が聞こえてくる。
カルデア内では徐々に減っていく敵の様子が、モニター内の反応として映し出されていた。ロマニたちはそれを俯瞰的に眺める事により、前線の立香達をサポートできるのだ。
数では劣っていても、敵に対して優位が取れる。カルデア特殊班の強みはここにある。
戦闘は正面戦力だけで決まる訳ではない。優秀なバックアップ勢がいて、はじめて発揮できる力もあるのだ。
「安珍様!!」
自身の生み出す炎で骸骨兵士を薙ぎ払いながら、清姫が声を掛けてきた。
「ここはわたくしに任せて、安珍様はジャンヌやマシュと共に前線の方へ行ってくださいまし。そちらはまだ、戦いが続いているようです」
「いや、清姫、でも・・・・・・・・・・・・」
言い淀む立香。
ここでの戦いは、まだ終わっていない。清姫1人では聊か難があるようにも思えるのだが。
「ご安心くださいまし。わたくしもすぐに参りますので」
そう言って笑う清姫。
しかし、
たとえ笑顔であっても、どこか有無を言わさぬ感じを見せている。
「先輩、ここは清姫さんにお任せした方が賢明だと思います」
「マシュ・・・・・・」
「フォウ」
確かに、マシュの言う通りだ。
ここの敵はだいぶ少なくなってきている。
ならば、ここは清姫に任せ、自分たちは敵の本丸であるジャンヌ・オルタを叩く方が得策だろう。
「判った。ここは頼むッ!! 行くぞ、ジャンヌ、マシュ!!」
2人を連れて駆け去って行く立香。
その背中を見送りながら、清姫は微笑む。
否、
ほくそ笑む。
「さあ、これでわたくしの舞台は整いました。愛する夫の為に体を張って戦うのは妻としての務めですわ」
いや、夫じゃないし、妻じゃないし。
何ともツッコミどころ満載なセリフを告げる清姫。
だが不幸な事に、この場には彼女にツッコミを入れられる存在は誰もいなかった。
そんな訳で、下心丸出しな欲望と共に、清姫は殿戦を介しするのだった。
戦いは終局へと向かいつつある。
激突するジークフリートとジャンヌ・オルタ。
大剣と呪旗が激突し、衝撃波が周囲に撒き散らされる。
一瞬の拮抗。
競り勝ったのは、
ジークフリートの方だった。
「グッ!?」
下がりながら膝を突くジャンヌ・オルタ。
やはり接近戦では、セイバーの方に分があるようだ。
眦を上げた視線には、憎悪の色が躍る。
「おのれ・・・・・・やはり厳しいですね、このままでは」
「・・・・・・・・・・・・」
苦し気に声を発するジャンヌ・オルタ。
対してジークフリートは、無言のまま大剣を正面に構える。
ここで一気に、勝負をかけるつもりなのだ。
「終わりだ」
大剣を振り翳すジークフリート。
そのまま一気に駆けようとした。
次の瞬間、
「・・・・・・・・・・・・さあ、それはどうでしょうね?」
魔女が囁く不吉な言葉。
口元に浮かぶ、不気味な笑み。
同時に、
視界いっぱいに、炎が吹き上がった。
「これはッ!?」
呻くジークフリート。
黒色の炎は、まるでこの世全てを喰らいつくすかのように燃え盛る。
その炎の先で、
呪旗を掲げたジャンヌ・オルタが、細剣を振り翳して佇む。
「これは・・・・・・憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮・・・・・・」
とっさに仕掛けるべく、前に出るジークフリート。
だが、
もう遅い。
大剣の間合いに入る前に、ジャンヌ・オルタの宝具が発動する。
「
詠唱同時に、突き出される無数の杭。
それらの攻撃が、
ジークフリートの肉体を、一斉に刺し貫いた。
第10話「吹き荒れる憤怒」 終わり