Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第12話「将星集う」

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 最後に残った骸骨兵士を斬り倒したセイバーは、腰の鞘に長剣を収める。

 

 その後ろ姿を、清姫は冷ややかな目で見つめていた。

 

「行くんですの?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかける声に、答える沈黙。

 

 判り切った事を聞くな、と言う態度。

 

 相変わらず、とっつきが悪い。

 

 それにしても、

 

 周囲を見回しながら、清姫は嘆息する。

 

 その視線の先には、骸骨兵士の残骸がそこかしこに散らばっている。

 

 殆どが、セイバーの剣による物だった。

 

 遅れてきたとは言え、やはり大した戦闘力である。

 

 残敵掃討は、ほぼセイバー1人でやったに等しかった。

 

「行く前にせめて、安珍様にお顔ぐらい見せたらどうです?」

「無用だ」

 

 清姫の言葉に、セイバーは素っ気なく答える。

 

 やはり、慣れ合う気は無い、と言う事か。

 

「強情ですわね」

 

 そんなセイバーの態度に、清姫はやれやれとばかりに肩を竦める。

 

 群れるのを嫌い、孤高に戦い続ける剣士。

 

 だが、

 

「そんなに、あの子の事が苦手ですの?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 清姫の質問に答えず、歩き出すセイバー。

 

 それはこれ以上の会話を嫌ったからか? あるいは図星を差されたからか?

 

 いずれにせよ、

 

「顔に似合わず、随分とお人良しのくせに」

 

 呟いた清姫の言葉が空気に触れた時、既にセイバーはその場を立ち去った後だった。

 

 

 

 

 

 こうして、

 

 フランス残党軍とジャンヌ・オルタ軍の決戦は、カルデア特殊班の介入もあり、辛うじてフランス残党軍の勝利に終わった。

 

 ジャンヌ・オルタは残った兵力を纏めて、自らの本拠地であるオルレアンへ撤退。体勢を立て直す事になる。

 

 だが、

 

 勝利したフランス残党軍もまた、手放しで喜べる状態ではなかった。

 

 勝ったとはいえ、半数近い兵力を失ったフランス残党軍は、事実上壊滅状態に陥り、組織的戦闘力を喪失している。

 

 更に残る半数の内、1割は戦意喪失して逃亡、2割は負傷により戦線離脱を余儀なくされている。

 

 ジルは残った兵力をかき集め、どうにか軍の立て直しを図ってはいるが、こうも被害が大きい状況では、再編までに相当な時間がかかる事が予想された。

 

 加えて、

 

 仮に再編成が済んだとしても、フランス残党軍がどれほどの戦力になる事か?

 

 撤退したとは言え、ジャンヌ・オルタ軍は、主力をほぼ温存する事に成功している。

 

 次に戦えば、勝ち目がない事は明白だった。

 

「やっぱり、次は俺達だけで戦った方が良いな」

 

 夜、

 

 焚火を囲みながら、立香は一同を前にそう告げる。

 

 カルデア特殊班は現在、砦から離れた場所で野営をしていた。

 

 本来なら、戦の功労者である立香達は、砦に入ってゆっくり休む事も許されるはずである。

 

 しかし砦は今、負傷兵の治療や軍の再編でごった返している。そんな場所にノコノコと顔を出す事は、却って邪魔になるだろう。

 

 加えてジャンヌの事もある。

 

 殆どの兵士は、ジャンヌとジャンヌ・オルタの区別がついていない。下手をすると物理的な危害を加えられることも考えられる。

 

 以上の事を鑑みて、野営する事にしたのである。

 

《賛成だね》

「フォウー」

 

 答えたのは、カルデアにいるロマニだった。

 

《これ以上、彼らに犠牲を強いるのは得策ではない。オルレアンには、僕らだけで行くべきだ》

 

 フランス残党軍は確かに奮戦し、ワイバーンを独力で仕留める程に洗練された戦術を編み出すに至っている。

 

 しかし、それもある程度数が揃っていればこそだ。

 

 兵力が激減した彼らに、これ以上期待はできなかった。むしろ、今後の事を考え、無駄死には避けてほしかった。

 

「・・・・・・ジルは、納得しないでしょうね」

「ジャンヌさん」

「フォウ・・・・・・」

 

 ポツリと呟くジャンヌ。

 

 彼女はジルの人となりを、一番よく理解している。

 

 寡黙だが責任感が強く、そして誰よりも勇敢で思慮深い。

 

 そんなジルが、祖国の命運を人任せにするとは思えなかった。

 

 彼は必ず来る。

 

 それが判っているだけに、ジャンヌは辛かった。

 

「フォウ・・・・・・」

 

 悩むジャンヌを気遣うように、寄り添うフォウ。

 

 その毛並みを、ジャンヌは優しく撫でてやる。

 

「後の問題は、ジークフリートさんですね」

 

 話題を切り替えるように告げるマシュ。

 

 先の戦いで呪いを受け負傷したジークフリートは、今は立香達の野営地に運び込んでいる。

 

 正直、容体は良くない。

 

 こうしている間にも呪いは進行しているのだ。

 

 意識を失う事も何度かあった。

 

 今はとりあえず落ち着きを取り戻し眠ってはいるが、早急に何らかの手を打たないと、数日の内には消滅を免れないだろう。

 

《それなんだけど、朗報があるよ》

 

 ロマニが少し弾んだような口調で言う。

 

 どうやら、明るいニュースがあるようだ。

 

《凛果ちゃん達が南部地方の平定に成功した。数日の内には合流できるだろう》

 

 ロマニの言葉に、立香とマシュは笑顔を浮かべる。

 

 どうやら、凛果たちも無事なようだった。

 

《その際、凛果ちゃんは聖人のサーヴァント1人と、契約する事が出来たらしい。彼と共に、そっちに向かっているって》

 

 ジークフリートの解呪には、聖人が2人いる。

 

 凛果たちが来てくれれば、その条件が揃う事になるのだ。

 

「頼むぞ・・・・・・凛果」

 

 立香は、こちらに向かっているであろう妹を想い、小さく呟くのだった。

 

 凛果たちとの合流。

 

 それが済めば、いよいよ敵の本拠地であるオルレアンへと進撃する事になる。

 

 その事を、立香は改めて自分の中で確認するのだった。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 フランス残党軍との戦いを終え、オルレアンへと帰還したジャンヌ・オルタ。

 

 彼女は軍の再編をデオン達に任せると、自身はその足でオルレアン城へと向かった。

 

 このオルレアンは、ジャンヌ・オルタが占領して以来、生きている人間は1人も存在しなくなっている。

 

 全て骸骨兵士とワイバーンの群れが跋扈している魔の都と化している。

 

 後は、彼女たちのようなサーヴァントだけである。

 

 そんな中、城に入ったジャンヌ・オルタは、玉座には向かわず、地下へと向かう。

 

 暗い螺旋階段を、彼女が鳴らす靴音だけが鳴り響く。

 

 ここはかつて、彼女が虐殺を行った場所。

 

 異端審問官のピエール・コーションや、自分を裏切った国王シャルル7世。更には諫言したシャルルの側近たちを無惨にも処刑した場所でもある。

 

 それゆえだろうか?

 

 一歩、地下へ向かうごとに凍えるような冷気が立ち込め、重苦しい空気に満たされていくようだ。

 

 あるいは、

 

 ここで殺された者たちの怨念が、そうさせているのかもしれない。

 

「おお、ジャンヌ。お戻りでしたか」

 

 出迎えたのは、ジル・ド・レェであった。

 

 むろん、フランス残党軍を率いている騎士ジルではない。

 

 魔術師(キャスター)としてジャンヌ・オルタに仕え、フランス滅亡の手助けをする狂気の存在。

 

 それが、目の前にいるもう1人のジル・ド・レェだった。

 

 その顔を見て、ジャンヌ・オルタはつまらなそうに鼻を鳴らしながら声を掛ける。

 

「どうかしら、新人の様子は?」

「上々です。今日も、近隣の村へ狩りへと出かけました。程なく戻る事でしょう」

 

 今回の出陣に先立ち、ジャンヌ・オルタは新たな狂化サーヴァントを2騎、召喚している。

 

 南部地方でマルタが討ち取られたのは痛かったが、それでも既に空いた穴を埋められるだけの戦力は整えつつあった。

 

 其れと合わせて、ジャンヌ・オルタが最も気がかりにしている事を尋ねる。

 

「例の物、できたんでしょうね?」

「もちろんでございます」

 

 ジャンヌがここをわざわざ訪ねた理由が判っていたのだろう。ジルは淀みない調子で答える。

 

 この地下室は今、ジルが工房として利用している。

 

「ご命令とあれば、今すぐにでも動かす事は可能です」

「そう」

 

 ジルの説明を聞きながら、ジャンヌ・オルタは内心でほくそ笑む。

 

 これで、こちらの体勢は完全に整った。

 

 先の敗戦など、正直なところジャンヌ・オルタにとっては小さな瑕疵に過ぎない。

 

 言わば、決戦兵力が完成するまでの時間稼ぎ、お遊びの一環だった。

 

 本命の戦いはこれから、と言う事になる。

 

 少女の脳裏には、先の戦いでのことが思い浮かべられていた。

 

 取りあえず、ジークフリートを撃破できたことは大きい。これで、如何にしようが、ジャンヌ・オルタの優位は覆らない。

 

 フランス残党軍も壊滅した。

 

 となると残る脅威は、

 

「カルデア・・・・・・・・・・・・」

 

 低く呟くジャンヌ・オルタ。

 

 自分の前に立ちはだかった少年の顔が、思い浮かべられる。

 

 魔術師としては未熟の極み。

 

 今のジャンヌ・オルタならば、一瞬で縊り殺す事もたやすいだろう。

 

 だが、油断はできない。

 

 あの男は、たった数人の戦力で、ジャンヌ・オルタ軍の攻勢を押し返し、フランス残党軍の窮地を救っている。

 

 加えて、南方制圧に向かったマルタの霊基消滅も気になる。恐らく、あの男の片割れである、もう1人のカルデアのマスターにやられたのだろう。

 

 状況は、間違いなくジャンヌ・オルタが有利。

 

 しかし、

 

 いくつか、不穏な種が芽生え始めているのも事実だった。

 

 その時だった。

 

「良くない状況みたいだね」

 

 突如、暗がりから聞こえてきた声に、振り返るジャンヌ・オルタとジル。

 

 視界の先に広がる闇。

 

 その先を見通す事は出来ない。

 

 だが、

 

 そこに確かにある、人の気配。

 

「・・・・・・・・・・・・ああ、あなたですか」

 

 相手の存在を察知し、ジャンヌ・オルタは嘆息気味に告げる。

 

 正直、気分の良い相手ではない。

 

 むしろ、もし立場が違えば、真っ先に殺していてもおかしくは無いだろう。

 

 しかし、こんなのでも協力者の1人であり、ある意味「スポンサー」の代理人とでも言うべき存在だ。

 

 それ故に、ジャンヌ・オルタとしても、無碍にはできないのだった。

 

「苦戦しているようなら、手を貸してあげても良いけど?」

 

 含み笑いを浮かべた言葉。

 

 その声に、ジャンヌ・オルタは不快気に眉を顰める。

 

 だが、それに対しては何も言わず、代わりに視線を背ける。

 

「無用です。あなたの手など、借りるまでもありません」

「あ、そう」

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に対し、相手はあっさりと引き下がる。

 

 どうやら本気で助勢するつもりはなく、単なる言葉の綾として出た物らしかった。

 

「ま、せいぜい頑張ってよ」

 

 鳴り響く靴音が、相手が踵を返した事を示している。

 

「我が主は君に期待している。その期待を裏切るような真似だけはしないでくれよ」

 

 それだけ言うと、相手は再び闇の中へ溶けるように消えていく。

 

 後には、立ち尽くすジャンヌ・オルタとジルだけが残されていた。

 

「ジャンヌ?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 声を掛けるジル。

 

 しかしジャンヌ・オルタは答えずに立ち尽くす。

 

 その胸中には、言いようのない苛立ちが募っていた。

 

 良いだろう。そこまで言うならやってやる。どっちみち、あんな奴の手など、初めから借りる気など無かったし。

 

 その為の準備は、既に万端整っている。

 

「来るなら来なさい。最高の絶望を味合わせてやるわ」

 

 暗い瞳で呟くジャンヌ・オルタ。

 

 地下室には、彼女の声が陰々と響き渡っていた。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 南部に行っていた凛果たちが、立香達と合流。久しぶりに、カルデア特殊班全員が勢ぞろいした。

 

 驚いたのは、出発前に比べてメンバーが大幅に増えていた事だろう。

 

 マリー・アントワネット、アマデウス・モーツァルト、聖ゲオルギウス。

 

 そして、今はまだ戦線離脱中だが、竜殺しの大英雄ジークフリートもいる。

 

 サーヴァントは皆、一騎当千の実力者である。

 

 数においては圧倒的にジャンヌ・オルタ軍が勝っているが、中核戦力は少なくとも互角に持ち込めたと考えてよかった。

 

「お帰り、凛果。無事でよかったよ」

「まあね。兄貴も」

 

 互いの顔を見た藤丸兄妹は、そう言って笑みを交わす。

 

 確信はあった。

 

 離れていても、お互いに無事だろう、と言う。

 

 だからこそ、そこに「安堵」は無い。

 

 2人にとってこれは、あくまでも「当然」の事に過ぎなかった。

 

 と、

 

「まあッ!! まあまあまあ!!」

 

 突如、背後から聞こえてきた声に、思わず凛果はつんのめるような姿勢になる。

 

 そんな凛果を追い越すように、王妃様は突撃すると、立香の背後にいた少女の手を取った。

 

「あなたが、ジャンヌ・ダルク様よね。ぜひ、一度お会いしたかったの!!」

「は、はあ、その、恐縮です」

 

 突然の事に、思わずたじたじになるジャンヌ。

 

 そんな聖女の手を取り、マリーはキラキラと目を輝かせている。

 

「ど、どうしたんだよ?」

「あ、あー・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねる立香に、凛果は苦笑気味に頬を掻く。

 

 実のところ、こうなる事を凛果は予想していた。

 

 ここに来るまでの道中、マリーから散々聞かされたのだ。彼女がジャンヌ・ダルクの所謂「大ファン」だと言う事を。

 

 その為、うっかりご本人が来ている事を喋ってしまったが運の尽き。

 

 ここに来るまで、さんざんジャンヌへのあこがれを語って聞かされたのだ。

 

 それはもう、途切れる事無く。

 

「ん、マリー、疲れた」

「うん、すごかった」

 

 響と美遊も、げっそりした調子で呟いている。

 

 何と言うか、ここに来るまでの苦労が偲ばれる光景である。

 

 マリーに悪気は無い。

 

 否、むしろ善意の塊であると言っても過言ではないだろう。

 

「ま、あの無邪気さこそが、マリアの最大の魅力だからね」

「言う前に止めて、お願い」

 

 笑いながら肩を竦めるモーツァルトに、響が脱力気味にツッコむ。

 

 何はともあれ、

 

 こちらも態勢は整いつつある。

 

 次は決戦になるだろう。

 

 人理定礎を掛けた最初の任務。その最後の戦い。

 

 言わば、これからのカルデアの運命を占う上で、最も重要な戦いが始まる事になる。

 

「・・・・・・負けられない、絶対に」

 

 低く呟く立香。

 

 と、

 

「ん」

「うん?」

 

 袖をクイクイッと引っ張られ振り返ると、響が澄んだ瞳で立香で見つめてきている。

 

「きっと、大丈夫」

 

 静かに告げる、少年の言葉。

 

 対して、

 

「・・・・・・ああ、そうだな。きっとそうだ」

 

 立香もまた、笑顔で返すのだった。

 

 

 

 

 

第12話「将星集う」      終わり

 

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