Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第15話「躊躇いなく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒太子エドワード。

 

 フランス百年戦争が開戦するきっかけを作ったイングランド王エドワード三世の嫡子。

 

 戦場においては常に漆黒の甲冑を身に着けていた事から「黒太子」の異名で呼ばれる事になる。

 

 16歳の時に参加した「クレシーの戦い」においては重装歩兵部隊を率いて最前線に立ち、多くの敵将を撃破。およそ3倍の兵力差を覆し、イングランド軍に勝利をもたらしている。

 

 この戦いで見事な武勇を示したエドワードは、父から正式に王太子(次期国王)として認められたと言われている。

 

 また25歳の時には「ポワティエの戦い」において、自らイングランド軍を指揮。またしても数的劣勢を覆して勝利を収めると、百年戦争初期におけるイングランド軍の勝利を決定的な物とした。

 

 百年戦争初期の主要な戦いに参加したエドワードは、ほぼ全ての戦いにおいて負け無しだったと言われている。

 

 45歳で病を得て病没するエドワード。

 

 結局その後、フランスが反攻を開始するのは、彼の死から53年後の1429年。救国の乙女ジャンヌ・ダルクの登場を待たなくてはならなかった。

 

 もし、エドワードの寿命があと10年長ければ、フランスと言う国家その物が消滅、ないし、現在よりも規模を大幅に縮小されていたかもしれない。

 

 その黒太子エドワードが今、

 

 新たなカルデア特殊班のサーヴァントとして、マスターである藤丸立香を守るべく剣を構えていた。

 

 

 

 

 

 対峙する、黒と黒。

 

 黒太子エドワードとジャンヌ・ダルク・オルタ。

 

 片やイングランド軍王太子として初期百年戦争に参戦、イングランド軍勝利を決定付けた剣士(セイバー)

 

 片やフランス軍を導く聖女として後期百年戦争に参戦、劣勢の状況を覆しながらも最後は火刑に散りながらも、フランスを勝利に導いた復讐者(アヴェンジャー)

 

 百年戦争に因縁がある両者が今、時空を超え、再びフランスの命運を決する戦場で相まみえていた。

 

「・・・・・・時間が無い。マスター、指示を」

 

 立香を守るように立つエドワードが、剣の切っ先をジャンヌ・オルタへと向ける。

 

 既にその体は、立香を通してカルデアから送られてきた莫大な魔力が充填されている。

 

 単独で戦っていた頃とは訳が違う。

 

 今やエドワードは、完全に全力発揮可能な状態になっている。

 

 戦機は既に満たされていた。

 

 頷く立香。

 

「頼むセイバー・・・・・・いやエドワード」

 

 その視線が、呪旗を構えるジャンヌ・オルタを見据える。

 

「終わらせてくれ」

「承知ッ!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 エドワードは手にした剣を翳して駆ける。

 

 一瞬で、距離を詰めるエドワード。

 

 対抗するように、ジャンヌ・オルタも呪旗を構えて迎え撃つ。

 

「ハッ たかがマスターを得たくらいで、良い気になるんじゃないわよ!!」

「果たして、それはどうかなッ」

 

 振り上げる剣閃。

 

 横なぎの旗。

 

 激突する両者が、魔力の粒子を散らす。

 

 次の瞬間、

 

「グゥッ!?」

 

 苦悶の声と共に、後退したのはジャンヌ・オルタの方であった。

 

 呪旗を構える手に衝撃が走り、思わず顔をしかめる。

 

 以前、対峙した時とは違う。明らかに威力が上がっている一撃を前に、ジャンヌ・オルタは困惑を隠せずにいる。

 

 対して、エドワードは剣を構えなおす。

 

「さあ、終わらせるぞ」

 

 低い呟きと共に、再びジャンヌ・オルタに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 エドワードとジャンヌ・オルタが戦闘を開始。

 

 戦いはいよいよ、佳境へと突入しつつある。

 

 そんな中、ジャンヌ・オルタと交戦していたマシュが、立香の下へと駆け寄って来た。

 

「先輩、ご無事でしたかッ!? あれは、セイバーさん?」

 

 ジャンヌ・オルタと戦っているエドワードを見て、マシュは驚きの声を上げる。

 

 以前共闘した時は、あれだけ愛想が無かったエドワードが、まさか立香の下について戦っているとは。

 

 マシュならずとも、驚くと言う物だろう。

 

 だが、呆けている暇は無かった。

 

「マシュ、ファブニールをどうにかして足止めしよう。とにかく、少しでも時間を稼ぐんだ!!」

 

 シールダーであるマシュは防御主体のサーヴァント。進撃する邪竜を単騎で押し留めるだけの戦力は持ちえない。

 

 清姫も共同で攻撃を仕掛けているが、それでも火力不足は否めない。

 

 しかし、時間さえ稼げれば、ジークフリートが合流してくる事が期待できる。

 

「判りました、このマシュ・キリエライトにお任せください!!」

 

 勇ましく言い放つマシュ。

 

 そのまま大盾を手に駆けだす。

 

 それを追うようにして、立香も邪龍を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 繰り出される槍の穂先。

 

 鋭い突き込みは、その一撃一撃が致死となる。

 

 ヴラド三世は手にした巨大な槍を巧みに操り、息もつかさない程の連続攻撃を仕掛けてくる。

 

 対して、

 

 対峙する少年は流れるような動きで、その全てを回避。

 

 手にした刀を振り翳して、懐へと飛び込む。

 

「んッ!!」

 

 繰り出される横なぎの一閃。

 

 だが、

 

 切っ先が捉える前に、ヴラド三世は大きく後退する事で響の剣閃を回避する。

 

 切っ先は、僅かにヴラドの鼻先を霞めるにとどまる。

 

 舌打ちする響。

 

 対して、ヴラドは口の端を釣り上げて笑う。

 

「やるではないか小僧。だが、まだまだ踏み込みが甘いぞ!!」

 

 言い放つと、槍を大上段に構えるヴラド三世。

 

 次の瞬間、

 

「攻撃とは、このようにする物だ!!」

 

 振り下ろす。

 

 打ち下ろされた一撃。

 

 その攻撃が容赦なく、大地を叩き割る。

 

「んッ 何て、威力ッ!?」

 

 飛び散る破片を跳躍して回避しながら、辛うじて後退する響。

 

 着地すると同時に再び刀を構えなおす。

 

 だが、

 

 ヴラド三世は、響に体勢を立て直す間を与えずに攻め立てる。

 

「そら、足元が疎かになっているぞ!!」

「ッ!?」

 

 とっさに飛びのく響。

 

 間一髪、足元から出現した杭が、響を霞める形で突き立つ。

 

 ヴラド三世の異名でもある「串刺し公」。

 

 オスマントルコ軍の兵士数万を串刺しにして国境線に並べたと言う恐怖伝説。

 

 吸血鬼ヴラド。

 

 その伝説を再現した光景が、そこにあった。

 

 次々と地面に突き立てられる無数の杭。

 

 響はその全てを回避していく。

 

 だが、

 

 地面から突如として出現する杭。

 

 それらは容赦なく、少年暗殺者の集中力を奪い去っていく。

 

 何しろ、攻撃は足元からやってくるのだ。気配を読み、回避するには極度の集中状態が必要となる。

 

 全力で回避運動を続ける響。

 

 だが、そのせいで極度に視野が狭まっていた事は否めない。

 

 そして、

 

「余を忘れる事はまかりならんぞ!!」

「ッ!?」

 

 突如、耳を打つ不吉な声。

 

 振り返れば、槍を振り上げるヴラド三世が、響のすぐ目の前に立っていた。

 

 林立する杭の群れを目晦ましにして、響のすぐ至近まで接近していたのだ。

 

「んッ!!」

「遅いッ!!」

 

 響が防御を整えるよりも早く、ヴラド三世は横なぎに槍を振るう。

 

 その一撃が、響の左肩を直撃。大きく吹き飛ばした。

 

「グッ!?」

 

 地面に転がる響。

 

 それでも、どうにか体勢を立て直そうと、膝を突いて立ち上がろうとした。

 

 次の瞬間、

 

「そこまでだ」

 

 低い声と共に、その喉元に槍の穂先が突き付けられた。

 

 切っ先は、響の喉元に僅かに食い込んだところで止まっている。

 

 完全にチェックメイトだった。

 

 

 

 

 

 エドワードがジャンヌ・オルタと交戦を開始し、立香達がファブニールの追撃を開始した頃、

 

 動きは戦線の後方。

 

 カルデア特殊班の天幕で起きていた。

 

 ここでは今、ジャンヌとゲオルギウスが、ジークフリートに掛けられた呪いの解呪に当たっていた。

 

 ジャンヌ・オルタの呪いは強力であり、聖人2人掛かりでも解呪には思いのほか手間取っていた。

 

 それでも、どうにか解呪の目途が立ちそうになった、矢先の事だった。

 

 近付いてくる気配を察し、護衛に当たっていたマリー・アントワネットは顔を上げた。

 

「あら、懐かしい顔が来たわね」

 

 涼やかな声に導かれるように、供をしているモーツァルトも顔を上げる。

 

 その視界の先には、こちらに向かって歩いてくる2人の人影があった。

 

「あれは・・・・・・・・・・・・」

 

 声を上げるモーツァルト。

 

 可憐な容貌をした剣士と、漆黒の出で立ちをした処刑人。

 

 先の砦における戦いで姿を見せたセイバーとアサシン、シュヴァリエ・デオンと、シャルル・アンリ・サンソンだ。

 

 近付いてくる2人。

 

 対して、

 

 マリーは落ち着いた調子で、デオンとサンソンを迎える。

 

「2人とも、久しぶりね。まさか、こんな形であなた達また会う事になるとは思わなかったわ」

 

 静かな口調で告げるマリー。

 

 対して、

 

 先んじて声を上げたのは、デオンだった。

 

「お久しぶりです、王妃様。このような形での再会となってしまったのは、私としても残念でなりません」

 

 聊か、苦渋を滲ませたようなマリーの言葉。

 

 デオンは生前、マリーと親交があった人間の1人である。

 

 マリーは見目麗しいデオンに対し、特注のドレスを送ったと言う逸話がある。もっとも、シュヴァリエ・デオンの性別については諸説ある為、それがいかなる意味を持っていたのか、今となっては推し量る事は出来ないが。

 

 一方、

 

「やあ、マリー・・・・・・マリア、僕の事は憶えていますか?」

 

 やや芝居がかった口調で尋ねるサンソン。

 

 対して、マリーも口元に笑みを浮かべて応じる。

 

「ええ、勿論。わたしが踏んづけた足は大丈夫かしら?」

 

 マリー・アントワネット。その生涯最後の言葉は「ごめんあそばせ」だったと言われている。

 

 これは、彼女がギロチンで処刑される直前。その執行人の足を踏んでしまった事に由来している。

 

 そして、その処刑執行人こそが今、目の前にいるシャルル・アンリ・サンソンなのだ。

 

 言わばサンソンは、マリーが生前、最後に言葉を交わした人物であると言える。

 

「ねえマリア、僕の断頭はどうでした? 君の為に最高の処刑を用意したんだ。あの時の君は絶頂してくれたかい?」

 

 笑顔で尋ねてくるサンソン。その姿には狂気の片鱗が見て取れる。

 

 やはりと言うべきか、デオンもサンソンも狂化が施されているようだ。

 

「耳を貸すんじゃないマリア」

 

 見守っていたモーツァルトが、警告するように叫ぶ。

 

 彼の立場からすれば、思い人であるマリーを処刑したサンソンは、憎悪の対象である。決して許す事が出来ない。

 

 そのサンソンが、マリーに対して寄りにもよって処刑の事で言い寄る姿は、吐き気すら催す光景だった。

 

 対して、モーツァルトの姿を見たサンソンも、露骨に嫌な表情を浮かべる。

 

「邪魔をするなアマデウス。貴様如きが、この僕の想いを」

「するに決まっているだろう。君のような変態に、これ以上マリアを好きにさせてたまるものか」

 

 睨み合う両者。

 

 互いの視線が、空中で火花を散らす。

 

 そんな中、デオンがマリーに視線を向けながら前へと出た。

 

「どうか、降伏して道をお開けください、王妃」

 

 静かな口調でなされる、降伏勧告。

 

 それをマリーは、黙って聞いている。

 

「よもやあなたも、我ら2人を相手に勝てるとは、思っていないでしょう? それとも、そこの楽士に何か期待しているのですか? だとしたら無駄な話です」

 

 デオンはモーツァルトを差しながら告げる。

 

 確かに。

 

 デオンは一時期、竜騎兵(ドラグーン)部隊の隊長を務めた程の武人だ。可憐な容姿とは裏腹に、その武勇は比類ない物がある。

 

 一方のサンソンは、武人として名を成した記録は無い。しかし処刑人と言う立場上、多くの人間をその手にかけている。ある意味「人を殺す」事に長じていると言えるだろう。

 

 対してマリーは、王宮で蝶よ花よと育てられた「お姫様」にすぎない。生粋の武人と処刑人相手に勝てるとは思えない。

 

 だが、

 

「お気遣いありがとう、デオン。あなたは相変わらず優しいのね。でも・・・・・・」

 

 言いながら、

 

 マリーの中で魔力が高まっていくのが判る。

 

「今は私も騎兵(ライダー)のサーヴァント。そのような気遣いは無用よ」

 

 そう告げると、マリーは背後に立つモーツァルトに振り返る。

 

「あなたは下がっていて、アマデウス」

「そうさせてもらうよ。ただ、援護は任せてくれたまえ」

 

 信頼する友人に頷きを返しつつ、マリーは再びデオンとサンソンに向き直る。

 

 その口元には、涼し気な笑みが浮かぶ。

 

 やがて、

 

 最大限に放出された魔力が、彼女を光り輝かせる。

 

「さんざめく花のように、陽のように!!」

 

 可憐に響く美声。

 

 天上の音にも匹敵すると思える調べ。

 

 その声に答えるように、現れたのは一頭の馬だった。

 

 ただの馬ではない。

 

 たくましくも美麗なその馬の体はガラスによって構成され、見る者を魅了する美しさがある。

 

 マリーはその馬に飛び乗ると、足を揃えて横座りする。

 

 これこそがマリー・アントワネットの宝具「百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)」。

 

 栄光あるフランスの王権を象徴した宝具である。

 

 英霊・宝具は星の数ほどあれど、これほどまでに美しい宝具を操るのは、マリー・アントワネットをおいて他にいないだろう。

 

 それ程までに、人々を魅了する姿だった。

 

「さあ、行きますわよ」

 

 自身の宝具の上で、微笑みながらマリーはそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首筋に突き付けられた槍の穂先。

 

 あとわずか、ヴラド三世が力を込めれば。響の喉元は斬り裂かれる事になる。

 

「終わりだな小僧。自身の未熟さを後悔しながら座に帰るが良い」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 告げられる処刑宣告。

 

 刃が怪しく光り、殺気が滲みだす。

 

 旦夕に迫る、少年の運命。

 

 そんな中、

 

 響の脳裏には昨夜、マリーから言われた事が浮かんでいた。

 

『本当に守りたいと思ったその時は、決して迷っちゃだめよ。あなたが迷えば、あなたが守りたいと思う子にも危険が及ぶことになるのだから』

 

 躊躇えば、大切なものが奪われる。

 

 響にとって、大切な物。

 

 それは、たった1人の小さな少女。

 

 彼女を守る為なら、自分は全てを捨てる事ができる。

 

 だがらこそ、

 

 今ここで、倒れる訳には、

 

 いかないッ!!

 

「ッ!!」

 

 次の瞬間、

 

 突き込まれる刃。

 

 だが、

 

 それよりも一瞬早く、響は首を横に大きく逸らしてヴラド三世のやりを回避する。

 

 首筋を霞める刃。

 

 血が一瞬、噴き出る。

 

 だが、

 

 浅い!!

 

「んッ!!」

 

 背筋を思いっきり逸らし、その勢いで足を振り上げる響。

 

 つま先が蹴り上げられ、ヴラド三世の顎を捉える。

 

「グゥッ!?」

 

 思いもしなかった一撃を受け、唸り声をあげて体をのけ反らせるヴラド。

 

 そのまま蹈鞴を踏むように数歩、後退する。

 

 その間に立ち上がり、刀を構えなおす響。

 

 だがヴラド三世も戦場で名を馳せた武人。すぐに体勢を立て直す。

 

「おのれ小僧ッ!!」

 

 掲げる腕。

 

 同時に、杭が一斉に地面から乱立する。

 

 あらゆるものを刺し貫かんとする地獄の光景。

 

 対して、

 

 響は刀の切っ先をヴラドに向けて構えながら、

 

 その幼い双眸は、揺らぎ無い湖面のように静かに見据える。

 

 そして、静かに呟いた。

 

「・・・・・・無形の剣技」

 

 同時に、

 

 幼き暗殺者は地を蹴る。

 

 再び始まる、ヴラドの猛攻。

 

 次々と突き立てられる杭の群れ。

 

 しかし、響は流れるような動きでその全てを回避していく。

 

 先程までのように、余裕の無い動きではない。

 

 まるで、ヴラドが次にどこを攻撃するのか、全部わかっているかのように、攻撃をよけ、回避し、飛び越える。

 

「小癪な!!」

 

 更に攻撃の密度を上げるヴラド。

 

 一斉に突き立てられる杭が交錯し、屹立し、天をも貫かんと突き上げられる。

 

 その様は、まるで逆さに降る嵐さながらである。

 

 だが、

 

 響はその全てをかわしていく。

 

 無形の剣技。

 

 数多くの剣術を収め、それらを複合的に組み合わせる事であらゆる戦況に対応可能となる。

 

 そこに剣術特有の「型」は存在しない。

 

 しかし、型が存在しないからこそ、どのような型にも瞬時に変化する事ができる。

 

 言わば「超実戦型戦術スキル」。

 

 今の響には、ヴラドの動きが手に取るようにわかっていた。

 

 そして、

 

「んッ!!」

 

 跳躍。

 

 同時に刀を横なぎに一閃、突き上げられた杭の穂先を、斬り飛ばすと空中でキャッチする。

 

「これをッ!!」

 

 掴んだ穂先を、槍投げの要領でヴラドへ投げつける響。

 

「喰らえッ!!」

 

 切っ先を真っすぐ向けて、ヴラド三世に飛んで行く穂先。

 

 対して、

 

「そんな物かァァァァァァッ!!」

 

 槍を振るい、飛んできた穂先を打ち払うヴラド。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、これで、終わりッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、

 

 ヴラドの集中が途切れた瞬間、

 

 そこを見逃さない。

 

 響は一気に懐に飛び込んだ。

 

 目を見開くヴラド。

 

 だが、

 

 もう、遅い。

 

 鋭い、横なぎの一閃。

 

 交錯する両者。

 

 一瞬、

 

 戦場に沈黙が支配する。

 

 次の瞬間、

 

 ヴラド三世は、地に膝を突いた。

 

「見事、だ・・・・・・・・・・・・」

 

 その体から光の粒子が立ち上る。

 

 響の一撃が致命傷となり、現界を保てなくなったのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 自身の勝利を確信した響。刀を血振るいして鞘に戻す。

 

 そんな少年に対し、ヴラドは口元に笑みを浮かべる。

 

「先へ進むが良い。そなたの、護るべき者の為に、な」

 

 そう告げるヴラド。

 

 対して、響も思うところあって振り返る。

 

「最後に、一つ言いたい」

「このザマだ。できれば手短に頼む」

 

 そう言っている間にも、ヴラドの体は崩壊している。

 

 もう数秒も待たず、消滅してしまうだろう。

 

 そんなヴラドの目を真っすぐに見て、響は言った。

 

「この間、ごめん・・・・・・吸血鬼って、言って」

 

 響のその言葉に、

 

 今にも消滅しかけているヴラドは、少し驚いたように目を見開く。

 

 確かに、初めの対決の時、響はヴラドに対して「吸血鬼」と言う言葉を使った。

 

 その言葉を聞いたヴラドが激昂したのを覚えている。

 

 確かにヴラド三世は吸血鬼のモデルとなった人物ではあるが、しかし当人は決してその事実を受け入れていたわけではない。むしろ、消し去りたいと思うほどの事実だったのだ。

 

 響は図らずも、彼の逆鱗に触れてしまった。

 

 だから、どうしても謝っておきたかったのだ。

 

 対して、

 

 ヴラド三世は呆気に取られた表情をした後、

 

 その口元に笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・良い子だ」

 

 その言葉を最後に、消滅するヴラド三世。

 

 それを確認すると、響は踵を返す。

 

 戦いはまだ、続いている。

 

 今はただ、自分が守るべき者の為に走るの身だった。

 

 

 

 

 

第15話「躊躇いなく」      終わり

 


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