1
戦況は、僅かずつだが変わりつつあった。
いまだに数ではジャンヌ・オルタ軍が優勢。多数のワイバーンが空を乱舞し、骸骨兵士が血を埋め尽くしている。しかも、切り札である邪龍ファブニールも健在である。
しかしヴラド三世、ファントム・ジ・オペラ、カーミラ、謎の黒騎士と、主力である狂化サーヴァントが4騎も脱落している。
対してカルデア特殊班はエリザベートこそカーミラとの相打ちで脱落したものの、黒太子エドワードが戦線に加入し戦線は維持できている。
数の優位を活かしきれないまま消耗を重ねているジャンヌ・オルタ軍と、猛攻を防ぎ切り、粘り強く戦線を維持しているカルデア特殊班。
勢いは確実に後者にあった。
そして、
戦線の中央においては激突する2騎のサーヴァントは、まさに凄まじいの一言に尽きた。
長剣を構えて斬り込むセイバー。
迎え撃つアヴェンジャーも、呪旗を振るって打ち払う。
黒太子エドワードと、ジャンヌ・ダルク・オルタ。
片やイングランドの王太子。
片やフランスの聖女。
違う時代とは言え、互いに百年戦争を駆け抜けた者同士が、時空を超えて再び激突している様は、異様であると同時に壮観であると言えた。
長剣を振り翳して駆けるエドワード。
圧倒的な速度で迫りくる様は、漆黒の怒涛とでも称すべき凄まじさである。
その向かう先。
ジャンヌ・オルタは呪旗を両手で構えて待ち受ける。
「ハァッ!!」
間合いに入ると同時に、長剣を真っ向から振り下ろすエドワード。
対抗するように、ジャンヌ・オルタも呪旗を振り上げるように繰り出す。
激突する両者。
火花が飛び散り、衝撃が周囲に惜しげもなく拡散する。
ぶつかり合う剣と旗。
互いに力と力がぶつかり合う鍔競り合い。
黒太子と竜の魔女は、互いに一歩も引かずに睨み合う。
先に動いたのは、
「フッ!!」
ジャンヌ・オルタだった。
旗を手にする腕を強引に振り抜き、エドワードを振り払いにかかる。
強引な押し込みに対し、後退するエドワード。
攻めるジャンヌ・オルタに対し、あえて無理押しせずに受け流す。
そこへジャンヌ・オルタは斬り込んでいく。
「もらったッ!!」
呪旗を大きく振り翳すジャンヌ・オルタ。
風を受けて旗が大きく靡く。
だが、
迫る魔女の姿を見て、エドワードの双眸が鋭く光る。
次の瞬間、
「・・・・・・掛かったな」
低い呟きと共に、逆に間合いを詰めに掛かる黒太子。
これにはジャンヌ・オルタも虚を突かれた。
「なッ!?」
思わず絶句する竜の魔女。
眼前に迫る黒太子の剣閃。
ジャンヌ・オルタはとっさに攻撃をキャンセルし、回避を選択する。
だが、突撃のベクトルは、そう簡単には変えられない。
迫る刃。
逆袈裟に奔ったその一撃は、
とっさに掲げたジャンヌ・オルタの腕を斬り裂いた。
迸る鮮血。
「ぐッ!?」
ジャンヌ・オルタは痛みを噛み殺すように声を絞る。
対して、エドワードは更に追い込むべく、流れるような動きで再度、剣を振り翳す。
「このッ 調子に、乗るなァァァ!!」
接近するエドワード。
対してジャンヌ・オルタは薙ぎ払うように腕を一閃。空間を炎で埋め尽くす。
「チッ」
これにはエドワードも、舌打ちせざるを得ない。
流石に攻め切れないと感じたエドワードは、後退してジャンヌ・オルタの炎を回避。再び剣を構えなおす。
その間に体勢を立て直すジャンヌ・オルタ。
だが、その顔には、明らかな焦りと疲労が浮かんでいた。
「・・・・・・やってくれますね」
憎々しげな声が、エドワードに突き刺さる。
一見すると互角に見える、両者の戦い。
しかし戦況は、確実にエドワードに傾きつつあった。
このまま行けば、あと数手でエドワードの勝利となるだろう。
エドワードは冷めた目でジャンヌ・オルタを見据える。
「どうした? 取り繕う余裕も、もうなくなって来たか?」
「黙れッ!!」
余裕の態度を見せるエドワードに対し、激昂するジャンヌ・オルタ。
互いの視線が空中でぶつかり合う。
「この私を追い詰めた事は流石です。ですが・・・・・・・・・・・・」
言っている内に、
周囲の魔力が高まっていくのを感じる。
息苦しいほどに高められる圧力。
大気その物が悲鳴を上げている。
「それも、ここまでです!!」
吹き上がる炎。
恩讐の黒き火焔が、剣を構えるエドワードを包囲する。
「宝具かッ!?」
叫ぶエドワード。
次の瞬間、
ジャンヌ・オルタの腕が鋭く振られる。
「
次の瞬間、
突き立てられた無数の杭が、エドワードの体を刺し貫いた。
2
ジャンヌ・オルタの命を受け、カルデア特殊班の背後に回り込んだ2騎のサーヴァント。
シュヴァリエ・デオンとシャルル・アンリ・サンソン。
彼らの任務は、戦線後方で治療に当たっているであろうセイバー、ジークフリートの抹殺。
戦い慣れしている2騎のサーヴァントにとって、それは簡単な任務であるはずだった。
相手は瀕死。
治療に当たっているジャンヌ・ダルクとゲオルギウス以外に護衛のサーヴァントがいる可能性もあるが、それでも狂化サーヴァント2騎で掛かって突破できないとは思えない。
そう、思っていた。
だが、
現実に、地に膝を突いているのはデオンとサンソンの方だった。
「クッ まさか、これほどとは・・・・・・・・・・・・」
苦し気に言いながら、顔を上げるデオン。
その可憐とも言える視線の先では、デオンの生前の知己でもある王妃マリー・アントワネットが、ガラスの馬に座って見下ろしていた。
馬の背に横座りで腰かけた王妃が、視線をデオンと合わせる。
その顔には、どこか悲し気な雰囲気が満たされていた。
花のような印象のある外見のマリー。
とてもではないが、その姿は戦闘向きには見えない。
一部の例外こそあるものの、ライダーのサーヴァントと言うのは単体では実力を発揮しきれない者が多い。
だが、侮る事は許されない。
騎兵の名が示す通り、ライダーとは何らかの乗り物に乗って、初めて力を発揮する存在なのだ。
ライダー、マリー・アントワネットにとっての力の象徴が、あのガラスの馬と言う訳である。
「クッ これ以上は!!」
大ぶりな処刑刀を振り上げて、背後からマリーに斬りかかるサンソン。
罪人の首を一撃でへし折り、叩き切るために作られた処刑刀は、通常の剣よりも遥かに重く作られている。
その処刑刀を軽々と扱うサンソンの技量が、並大抵の物ではない事は想像に難くないだろう。事によるとその剣腕は、本職の
だが、
重々しい一撃は、それだけ動きが大振りになるのは当然だろう。ましてか、今のサンソンは、マリーとの戦闘で傷を負っている。その動きはますます鈍っている。
宝具を解放し、機動力で勝るマリーに、追いつける道理は無かった。
振り下ろされた刃を、マリーの馬はひらりと回避する。
「クッ!!」
舌打ちするサンソン。
マリーの華麗な動きに、サンソンは追随する事が出来ない。
それでも尚、諦めまいと巨大な処刑刀を振り上げようとする。
だが、その動きはあまりにも鈍かった。
その間にガラスの馬を反転させるマリー。
優雅さとは裏腹に、鋭い機動を見せる馬を前に、サンソンの対応が追い付かな。
衝撃と共に、吹き飛ばされるサンソン。
その視線が、馬上のマリーへと向けられる。
「ああ、マリー・・・・・・僕は・・・・・・・君を・・・・・・」
伸ばされる手。
しかし、その手が少女に届く事は無い。
そのまま、金色の粒子にほどけて消滅していくサンソン。
消えゆくサンソンの姿を、マリーは静かな瞳で見送る。
サンソンはマリーにとっても因縁の相手。決して好印象であったわけではないが、それでも、生前知己があった人物をその手に掛けた事には、聊か複雑な思いを禁じえないようだ。
「マリア・・・・・・・・・・・・」
かつての思い人を慮り、声を掛けようとするモーツァルト。
次の瞬間、
馬上のマリーへ、斬り込んでくる影があった。
細剣を手に、斬りかかって来た百合の騎士、デオンだ。
かつて
勿論、心の中に葛藤はある。
かつて敬愛した王妃に刃を向け、あまつさえその命を奪おうなどと。
いっそ、自害したくなるくらいの葛藤が、デオンの心の中で吹き荒れる。
だが、
その葛藤すら、狂化された精神は押し流していく。
ただ、自らの「敵」へ刃を突き立てる欲求のみが、百合の剣士を縛り付ける。
鋭い切っ先が、馬上のマリーへ迫る。
「王妃、お覚悟ッ!!」
突き込むデオン。
白いマントを風に揺らし、軽業のように空中を蹴って斬り込んでくる。
この動きには、流石のマリーも追いつかない。
刃は確実にマリーを貫く。
そう思った。
次の瞬間、
「なッ!?」
突如、自身の体が急激に重くなるのを感じた。
切っ先は力を失い、地に落ちる。
同時に、デオン自身の突撃も、緩やかに力を奪われていく。
同時に、マリーの手から放たれた魔力弾が、真っ向からデオンを貫いた。
突き抜ける衝撃。
デオンは背中から、地に叩きつけられる。
「・・・・・・・・・・・・な、ぜ」
訳が分からない、と言った感じに呟くデオン。
その体から、急速に魔力が失われていくのが判る。
明らかに致命傷だった。
「グッ・・・・・・・・・・・・」
顔を上げるデオン。
その視界の先では、魔力弾を放ったマリーが、哀しげな表情を向けていた。
同時に、
耳元をくすぐる、優雅な調べ。
「僕を忘れてもらっちゃ困るね。これでもサーヴァントだ。援護くらいしかできない出来損ないだが、自分の役目くらいは果たさないと」
どこかおどけたように告げられる言葉。
マリーの傍らに立った稀代の天才音楽家が、険しい表情でデオンを見据えている。
それはモーツァルトによる演奏。
通常のキャスターと異なり、モーツァルトは音楽その物が魔術の代替えとなる。
モーツァルトは魔力を込めた曲を演奏する事で、デオンの身体能力を下げ、攻撃を失敗させたのだ。
「ごめんなさいね、デオン」
ガラスの馬から降り、倒れているデオンに歩み寄るマリー。
王妃の手が、百合の剣士の手を包み込むように握る。
柔らかい感触。
かつて握った時よりも小さく、そして温かい。
そのぬくもりが、デオンの中に残っていた狂気を消していくかのようだった。
「あなた達になら、討たれても良いと思った。けど今はだめ。まだ私の力を必要としてくれている人達がいるから」
静かに告げるマリー。
その脳裏には、立香や凛果、マシュ、響や美遊と行ったカルデア特殊班のメンバーたちが思い浮かべられていた。
かつて、フランスと言う国に必要とされながら、救う事が出来なかったマリー。
だから今こそ、自分を必要としてくれている彼らの為に戦い続けたかった。
せめて、彼等がこの世界を救うその時までは。それまで、倒れる事は許されなかった。
「マリー・・・・・・様・・・・・・」
小さく呟くと、デオンの体は金色の粒子にほどけ、消滅していく。
最後に、
決意を見せた敬愛する主君に対し、
百合の騎士は小さく微笑んだような気がした。
まるで、これで良かったんだ、とでも言いたげに。
やがて、デオンの手のぬくもりも、マリーの中から消失する。
「・・・・・・・・・・・・」
その様子を、静かに見つめるマリー。
少女の背後に立つモーツァルトは、何も告げる事無く立ち尽くしている。
声を掛けようとして、思いとどまる。
少女の肩が、僅かに震えているのが見えたからだ。
この少女は無邪気だが、決して暗愚ではない。むしろ誰にも勝る聡明さと優しさを兼ね備えている。
だからこそ成り行きとは言え、デオンとサンソンを自分の手にかけてしまった事を後悔しているのだ。
それを察したからこそ、モーツァルトも声を掛けないでいた。
どれくらい、そうしていただろうか?
マリーは手で自分の顔を払うと、立ち上がってモーツァルトを見た。
「マリア・・・・・・」
「もう、大丈夫よ」
言ってから、マリーはニッコリとほほ笑む。
「ありがとう。気を使ってくれて」
「何の、君の為ならいくらでも、だよ」
そう言って、肩を竦めるモーツァルト。
彼の仕草が可笑しかったのか、釣られたように笑うマリー。
その時だった。
自分たちの背後に気配を感じ、2人は振り返った。
3
進撃を続けるファブニール。
それを必死に食い止めようと、マシュと清姫が奮戦を続けている。
マシュが盾で攻撃を防ぎ、清姫が後方から炎を噴き上げて邪竜を攻撃するスタイル。
各々の役割分担をしっかりと行った、理想的な陣形である。
マシュが防御に専念しているからこそ、清姫は攻撃に傾注できるのだ。
しかし、それでも尚、ファブニールの進撃速度は一向に収まる気配を見せない。
2人に振り向く事無く、その巨大な脚は大地を踏みしめていく。
まるで自身に纏わり付く羽虫二匹如き、何ほどの物でもない、とでも言いたげな態度だ。
「流石に、ここまでとは・・・・・・・・・・・・」
清姫は荒い息を吐きながら、苦しげに呟く。
再三に渡る彼女の攻撃も、殆ど功を奏していない。
進撃を続ける邪竜に纏わり付く炎は、確かにダメージこそ与えるものの、それは表面のみを焼くに留まり、内部までは及んでいない。
マシュの攻撃も同様だ。
彼女も邪竜の攻撃を防ぎつつ、隙を見て攻撃に転じている。
だが、大盾による質量攻撃は強力だが、それもファブニールの鋼鉄よりも固い表皮によって阻まれている。
巨大な邪竜を留めるには、明らかに火力不足だった。
「清姫さん、一旦下がってください」
ファブニールの詰めによる攻撃を大盾で防ぎながら、マシュが背後を振り返って叫ぶ。
清姫はここまでの戦闘で既に傷を負っている。これ以上の戦いは、彼女の命にもかかわる。
だが、
気遣うマシュに、清姫は首を横に振って見せる。
「何の、まだまだこれからですわ」
「しかしッ」
「もうすぐです。きっと、ここさえ凌げば、逆転できるはずですから!!」
言い放つと同時に扇子を振るい、炎を撃ち放つ清姫。
放たれた炎がファブニールの首に纏わり付き、邪竜の動きを一瞬止める。
しかし、その巨大な首を一振りすると、炎は瞬く間に消え去ってしまう。
「やっぱ、駄目か」
後方で援護していた凛果が、落胆気味に呟く。
ここまで2人を援護してきた凛果もまた、疲労の色が濃い。
このままでは、マシュ達よりも先に、凛果の方が疲労で倒れてしまいそうだった。
「下がってください、凛果先輩。このままじゃ、先輩も巻き込まれてしまいます」
「ありがとマシュ。けど、みんなが頑張ってくれているのに、あたしだけ休んでもいられないでしょ」
気遣うマシュに、凛果は無理やり笑いかける。
正直、苦しいのは確かだ。本音を言えば今すぐにでも休みたい。
だが、
凛果はチラッと、兄の方に目をやる。
立香は今も前線に立ち、マシュや清姫に魔力を供給し続けている。
兄が頑張っているのに、自分が休むわけにはいかなかった。
「ま、何とかなるって」
「凛果先輩?」
軽い口調で笑いかける凛果に、マシュはいぶかる様に首を傾げる。
「あたしも、兄貴も、そして、みんなも、まだ諦めてない。なら、必ず希望はある!!」
凛果が言い放った、
その時だった。
突如、空中を駆けるようにして、ファブニールに迫る小柄な影。
刀の切っ先を邪竜に向けて斬り込んでいく。
響だ。
漆黒の戦装束を身に纏った少年は、何もない空中で三歩踏み込むと、加速によって得た威力を切っ先に集中させ、ファブニールの顔面に叩きつける。
突き込まれる、刀の切っ先。
「
加速によって得られた強力な一撃を、一点集中で加えた一撃。
魔剣の域に達した攻撃は、鋼鉄よりも硬い邪竜の表皮を、一撃の下に貫通する。
その破壊力を前に、ファブニールの顔面が裂け、鮮血がほとばしる。
たちまち咆哮を上げ、苦悶にのたうつ邪竜。
そこへ今度は、白き花の如き戦姿の少女が、地を蹴って斬り込む。
手にした黄金の剣が陽光に反射して眩く煌めいた。
次の瞬間、
「やァァァァァァ!!」
気合と共に手にした剣を、横一線に振り抜く美遊。
剣閃は邪竜の首を横切り、鮮血を噴き出す。
魔力放出まで加えた強烈な一撃が、硬い表皮を斬り裂いてファブニールにダメージを与える。
響と美遊。2人の参戦で、ようやく攻撃を成功した。
地に降り立つ美遊。
やや遅れて、響も少女の横へと立った。
頷き合う2人の幼いサーヴァント達。
その目の前で、邪竜が苦しみの咆哮を上げている。
「やった、これなら!!」
「いえ、まだです」
喝采を上げる凛果に、美遊は冷静に返す。
ダメージは与えられたが、あの程度ではファブニールの巨体からすれば蚊に刺されたような物だろう。
その進撃を止めるには、到底至らない。
事実、ファブニールは響と美遊の攻撃から、既に立ち直りつつあるのが見える。
「んっ 畳み、かける!!」
「判ったッ!!」
刀の切っ先を向けてファブニールへと跳躍する響。
美遊もまた、剣を手に続く。
その姿を見て、すかさず立香の指示が飛ぶ。
「マシュ、清姫、2人の援護を!!」
「了解です、先輩!!」
「お任せください、安珍様!!」
マシュが盾を振るい、清姫は扇を翳して炎を仕掛けた。
まず先に飛び出したのは響だ。
アサシンの少年は、素早さに物を言わせて邪竜の体を駆けあがると、正面から斬り込む。
「んッ これ、でェ!!」
ファブニールの顔面と同高度まで駆け上がり、刀を振り下ろす響。
だが、
ガキンッ
「ッ!?」
手に感じる強烈な痺れと共に、響の刃は弾き返された。
先に響の攻撃で傷を負った顔面だが、表皮の硬さは未だに健在だ。並の攻撃では、やはり傷一つ付けられない。
目を転じれば、眼下で美遊やマシュも苦戦しているのが見える。
流石、ジャンヌ・オルタが切り札として用意しただけあって、そう簡単に致命傷を受けてはくれそうになかった。
その時だった。
目の前の邪竜が、大口を開いて響に向かって凶悪な牙をむき出しにしているのが見える。
そのまま、少年暗殺者に食らい付こうとしているのだ。
「んッ!?」
迫る牙を前に、響はとっさにファブニールの顔面を蹴って跳躍。
間一髪。響は凶悪な
飛びのいた勢いそのままに、距離を置いて地上に降り立った響。
「響ッ!!」
駆け寄ってくる美遊。
その後ろからは、凛果たち特殊班のメンバーも見える。
「ちょっと、厳しい、かも」
ファブニールの巨体を睨みながら、響が険しい表情を見せる。
響達が加わって尚、火力不足の感は否めない。
全員分の攻撃を叩きつけても、ファブニールに有効な打撃を与える事が出来ないのだ。
状況的には、明らかにカルデア特殊班が有利になりつつある。
あと一手、それだけあれば、状況を逆転させることも不可能ではないのだが。
その時だった。
《まずいッ!!》
突如、通信機からロマニの緊迫した声が飛び出して来た。
一同が振り返る中、ロマニは捲し立てるように告げる。
《魔力反応の増大を確認ッ ファブニールは何か、切り札を使う気だ!!》
緊張を増す一同。
と、
「先輩、あれを!!」
マシュに促されるまま、一同が降り仰ぐ。
その視界の先では、巨大な顎を開くファブニール。
口内には滾るような火焔が溢れかえり、吐き出される瞬間を待っている。
その量たるや、初戦でマシュが凌いだ火焔を遥かに上回る規模だ。立香達はおろか、この平原その物を、丸ごと焼き払えるレベルではないだろうか?
あんな物をまともに食らったら、骨すら残らないかもしれない。
対して、マシュの決断は素早かった。
「私が宝具で防ぎますッ 皆さんは後ろへ!!」
言いながら、前へと出るマシュ。
しかし、先の一撃ですら、どうにか凌げたレベルだ。
あの規模の炎を、果たしてマシュの宝具だけで防ぎきれるか分からない。
しかし、やるしかない。
「偽装宝具登録、疑似展開ッ!!」
掲げられる大盾。
魔力が、空中に巨大な障壁を作り出す。
「
展開される疑似宝具。
そこへ、ファブニールが吐き出した、巨大な炎が激突する。
たちまち、周囲全体があふれ出た炎に満たされ灼熱の地獄と化す。
吹き上がる火焔。
一切を燃やし尽くし、呑み込んでいく。
息とし生ける物全てが平等に焼き払われ、後に残るのは灰燼と化した荒野のみとなる。
炎はワイバーンや骸骨兵士たちを飲み込み、その全てを焼き尽くす。
だが、
マシュが必死に展開した宝具のおかげで、カルデア特殊班は無傷を保っていた。
強烈な負荷がかかる中、それでも必死に大盾を構えるマシュ。
「クッ 絶対に・・・・・・絶対に、護ります!!」
叫びながら、更に魔力を上げるマシュ。
大盾は光り輝き、更に強固な壁となってファブニールに立ちはだかる。
だが、ファブニールの方も、自分の攻撃を防ぎ切ろうとしている小癪な連中を今度こそ叩き潰そうと、更に炎を吐き出してくる。
圧倒的なまでの火力。
その熱量は、マシュの盾を通り越して障壁の内側にまで及んでくる。
このままでは炎を防ぎきっても、全員が蒸し焼きにされかねない。
「グッ マシュ、魔力を送る!!」
「先輩ッ!!」
マシュへ送る魔力の量をさらに上げる立香。
しかし既に、マシュの2度目の宝具開放やエドワードとの英霊契約も行っている。立香自身も限界が近い。
「ダメです先輩ッ これ以上は先輩が!!」
「構うもんかッ!!」
言い募るマシュを制するように、立香が叫ぶ。
呼応するように輝きを増す、少年の右手に光る令呪。
「ここで防げなかったら俺達は終わりだッ、 なら、出し惜しみなんてしてられないだろ。それに・・・・・・・・・・・・」
「それに?」
振り返るマシュ。
対して、立香は後輩に笑顔を見せる。
「俺はマシュ達を信じている。きっと、防ぎきってくれるって!!」
立香の言葉に、ハッとなるマシュ。
それは立香自身が先程、エドワードに言われた事。
兵士を信じ、全てを任せるのも指揮官の役目。
だからこそ立香は、信頼すべきサーヴァント達に全てを任せ、委ねているのだ。
盾を持つ、マシュの手に力が籠る。
ここは何としても防ぎきる。
大切な先輩を、
仲間達を、
全体に守り切る!!
その決意のもと、奮い立つマシュ。
その時だった。
「よくがんばりましたねッ あとはお任せください!!」
戦場に響く、涼やかな声。
同時に、
戦場全体が、眩いばかりの光に包まれていくのが判る。
「これはッ!?」
「え、何、これッ!?」
驚いて声を上げる、立香と凛果。
そんな彼らの背後から、
凛とした声が響き渡った。
「我が旗よ、我が同胞を守り給え!!」
声に導かれるように振り返る立香。
その視線の先には、雄々しく旗を持つ聖女の姿がある。
振り翳しされた聖旗。
手にしたジャンヌが、高らかに叫ぶ。
「
ジャンヌが振るう旗から光が迸り、展開した結界が特殊班の全員を包み込む。
立ちはだかる、光の壁。
ファブニールの吐き出す炎は、その壁に弾かれてけんもほろろに四散していくのが判る。
圧倒的と言ってもいい防御力。
これこそが、
その正体は、古今最強クラスの結界型宝具。
聖女が旗を振るいし時、万軍は奮い立ち、あらゆる邪悪は退く。
その伝承の通り、ファブニールの炎は結界に阻まれて消滅する。
「ジャンヌッ 来てくれたのか!!」
「ええ、間に合って何よりです立香」
駆け寄ってくるジャンヌ。
その背後からは、彼女と共にジークフリートの治療に当たったゲオルギウスや、護衛役のマリー、モーツァルトの姿も見える。
そして、
「すまない。俺がふがいないせいで、だいぶ苦戦させてしまったようだな」
彼らの背後から、より強大な魔力の持ち主が歩み出る。
背中に背負った大剣を抜き放ち、前へと出る。
「ここからは、俺に任せてくれ」
重々しい声と共に、復活を果たした大英雄ジークフリートは、漲る戦気を、目の前の邪竜に向けて迸らせた。
第17話「邪竜猛撃」 終わり
今年のぐだぐだイベント。
てっきり斎藤さん(☆4アサシン)が実装されると期待&予想してたんですけど、まさかの展開でした。
まあ、来年に期待します。