Fate/cross wind   作:ファルクラム

30 / 120
第18話「黄昏の終幕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進撃を続ける巨大な邪竜。

 

 しかしフランスの全てを踏み抜かんとするかのような、傍若無人とも言えるその進行は、今や完全に停止していた。

 

 その視界の先に立つのは、ただ1人の剣士。

 

 天をも衝くような巨体を誇る邪竜からすれば、蟻にも等しい。

 

 だが、

 

 大剣を構え、その全身より黄昏色の魔力を放出する姿は、万夫不当の英雄に相応しい、威風堂々とした戦姿であった。

 

 ニーベルゲンの歌に登場するネーデルラントの大英雄ジークフリート。

 

 先の砦の戦いにおいてジャンヌ・オルタから致命傷とも言える呪いを受けながらも、聖処女ジャンヌ・ダルクと聖ゲオルギウスと言う2大聖人の献身的な治療により復活。この最終決戦の場に間に合っていた。

 

 眦を上げるジークフリート。

 

 その鋭い双眸が、迫りくる邪竜の視線と激突する。

 

「・・・・・・我が古き友よ」

 

 厳かな口調で、邪竜へと語り掛けるジークフリート。

 

「よもや、この異郷の地で、再び貴様とまみえる事になろうとはな。運命とは判らない物だ。いや、あるいはこれこそが、俺と貴様の宿命なのかもしれんな」

 

 静かに紡がれる言葉。

 

 その声には、戦意と共に、どこか懐古の念が含まれているように見える。

 

「なあ、ファブニール、我が生涯、最大の宿敵よ」

 

 言い放つジークフリート。

 

 その言葉に呼応するように、邪竜もまた咆哮を上げる。

 

 神話の時代。英雄ジークフリートは、邪竜として知られたファブニールと対峙。死闘の末にこれを討ち取っている。

 

 言わば、戦う事を宿命づけられた者達と言える。

 

 かつての仇敵、

 

 己が運命を決した相手に再び見え、ファブニールもまた、歓喜の声を上げているかのようだ。

 

 その口腔より、迸る炎。

 

「まずいッ」

 

 とっさに防御の術式を掛けようとする立香。

 

 ファブニールの攻撃のすさまじさは、身をもって知っている。

 

 とっさに、防御の指示を出そうとする。

 

 だが、

 

「いや、問題ない」

 

 静かに言い放つジークフリート。

 

 同時に跳躍。大剣を振り被る。

 

 対して、迎え撃つように、ファブニールも攻撃を開始する。

 

 吐き出される炎が、大剣を振り翳して斬り込んでいく大英雄を包み込む。

 

 空中で燃え盛る炎。

 

 次の瞬間、

 

 炎を突き破るようにして、ジークフリートが無傷の姿を現した。

 

 その身には、かすり傷一つ見られない。

 

 一瞬、邪竜が驚いたような顔をしたような気がした。

 

 まさか、真っ向から炎を受けて無傷だとは思わなかったのだろう。

 

「ハァッ!!」

 

 振り抜かれる大剣。

 

 その剣閃がファブニールの首を斬りつける。

 

 奔る銀の閃光。

 

 次の瞬間、

 

 鮮血が迸り、邪竜は苦悶の声を上げた。

 

 マシュ達があれだけ必死に攻撃を仕掛けて、怯ませる事すらできなかったファブニール。

 

 その邪竜に初めて、まともに攻撃が極まった。

 

 ジークフリートはファブニールが体勢を立て直す前に空中で魔力を放出。強引に方向転換する。

 

 再び斬り込んでくる仇敵を前に、敵愾心を露わにするファブニール。

 

 対抗するように、炎を吐き出す。

 

 だが、

 

「無駄だッ!!」

 

 叫ぶと同時にジークフリートは、ファブニールが吐き出した炎を左手を振り抜き、一撃で払ってしまう。

 

 晴れる視界。

 

 大剣は、鋭い輝きを見せる。

 

 突き込まれる大剣の刃。

 

 切っ先は鋼鉄よりも固いファブニールの表皮を、まるで寒天のように貫通し、内部の筋をも斬り裂く。

 

 激痛が、邪竜を襲う。

 

 苦悶にのたうつファブニール。

 

 その姿を見ながら、大剣を引き抜き地に降り立つジークフリート。

 

「すまないが・・・・・・・・・・・・」

 

 大剣の切っ先を真っすぐに向けながら、ジークフリートは宿敵に対して静かに言い放つ。

 

「俺はかつて、お前と戦った頃の俺ではない。今のお前では、俺を倒す事は不可能だ」

 

 伝説によれば、邪竜ファブニールを倒したジークフリートは、背中の一点のみを除いて、あらゆる攻撃を防ぐ無敵の肉体となった。

 

 「悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファブニール)」。

 

 ジークフリート自信を英雄たらしめている宝具の一つで、一定以下の威力の攻撃は、全て貫く事叶わず無力化される。

 

 ファブニールを倒して初めて手に入れた宝具。当然だが、ファブニールと戦った時のジークフリートは、まだ持っていなかった物だ。

 

 ジークフリートはかつてファブニールと戦った時を遥かに上回る存在となって、かつての仇敵の前に立ちはだかっているのだ。

 

 咆哮を上げるファブニール。

 

 まるで怒り狂ったように襲い掛かってくる。

 

 対抗するように、ジークフリートも再び剣を振り翳して斬り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジークフリートがファブニールと交戦を開始。

 

 既にジャンヌ・オルタ軍の主力である狂化サーヴァントも、大半が撃破、消滅している。

 

 ここに来て、戦況は完全にカルデア特殊班側に傾きつつあった。

 

 フリーハンドを得た特殊班メンバーは、各戦線に散開。残っているワイバーンや骸骨兵士たちを撃破していく。

 

 状況は既に「残敵掃討」の段階に入っていた。

 

 ジャンヌ・オルタ軍もどうにか反撃しようとしている。

 

 しかし、もともとが統率など皆無の骸骨兵士とワイバーンの群れである。それが狂化サーヴァントと言う存在があって、初めて軍として機能していた。

 

 その狂化サーヴァントが悉く打ち取られた今、連携など取れるはずもない。

 

 こうなると、たとえ何万匹で襲ってこようが、地力で勝るサーヴァント達に敵う道理は無かった。

 

 骸骨兵士もワイバーンも、次々と数を減らしていくのが判る。

 

 たかが雑兵如きが数千、数万より集まったところで、一騎当千の英霊達に敵うはずもなかった。

 

 変化は更に起こる。

 

 不規則ながらも、どうにか反撃しようとワイバーンや骸骨兵士達。

 

 その攻勢を圧倒的な力で押し返すカルデア特殊班。

 

 今や攻守は、完全に逆転していた。

 

 そして、

 

 突如、嵐の如く飛来する無数の矢。

 

 それらが、進撃しようとする骸骨兵士に降り注ぎ、次々と撃ち抜いていくのが見える。

 

「味方ッ!?」

 

 この上、いったい誰が来たと言うのか?

 

 振り返る立香。

 

 その視界に飛び込んで来たのは、

 

 丘の上に整然と列を成し、手にした旗を雄々しく掲げる大軍勢だった。

 

 現れた兵士たちは一斉に弓を放ち、カルデア特殊班を援護していく。

 

 たちまち撃ち抜かれ、地に倒れる骸骨兵士。

 

 ワイバーンも、集中攻撃を受けて撃墜されていく。

 

 そんな中、

 

「お待たせしました、ジャンヌ!!」

 

 軍勢の先頭に進み出た、白銀の甲冑を着た男が駆け寄ってくるのが見えた。

 

 その姿に、ジャンヌは歓喜の声を上げた。

 

「ジル、来てくれたのですね!!」

 

 進み出てくる騎士は、ジャンヌの盟友ジル・ド・レェ元帥だ。

 

 つまり、このタイミングで援軍として現れたのは、ジルが率いるフランス残党軍だったのだ。

 

 先の砦の戦いで壊滅的被害を受けたフランス残党軍だったが、ジルが指揮を執って再編成し、何とかこの最終決戦の場に間に合ったのだ。

 

「お待たせして申し訳ありません。これより我らも戦線に加わりますッ 雑魚の掃討は我らに任せ、ジャンヌ達は、あの巨大な竜の相手に専念してください!!」

「ありがとうジル。けど・・・・・・・・・・・・」

 

 言いながら、ジャンヌはファブニールの方に目を向ける。

 

「もう、その必要もないかもしれません」

 

 視線の先では、ファブニールと単騎で渡り合うジークフリートの姿がある。

 

 流石はネーデルラントの誇る竜殺しの大英雄。小山の如き邪竜を相手に、一歩も退く事無く挑みかかっている。

 

 あちらはジークフリートに任せておけば問題無いだろう。

 

 そう思った、

 

 その時だった。

 

 突如、大気を裂く風切り音。

 

 その異音を、サーヴァントの知覚は鋭く察知する。

 

「危ない、ジル!!」

 

 気付いたジャンヌは、とっさに手にした聖旗を振るう。

 

 衝撃。

 

 打ち払われた矢が、地面に突き刺さる。

 

「ジャンヌ、これはッ!?」

「狙撃ですッ ジル、下がって!!」

 

 次々と飛来する矢を、更に払いながらジルを庇うように立つジャンヌ。

 

 聖旗を振るい、ジャンヌは一歩も引かずに迎撃を続ける。

 

 しかし、いかにジャンヌでも戦線全域をカバーする事は出来ない。

 

 折り重なる悲鳴。

 

 骸骨兵士たちに向けて攻撃を放つフランス残党軍兵士たちが、次々と撃ち抜かれていくのが判る。

 

 その圧倒的な速射能力と、正確無比な狙撃を前に、さしものカルデア特殊班も、手も足も出ない状態である。

 

「クソッ」

 

 マシュの盾に守られながら、立香が舌打ちを漏らす。

 

 これがジャンヌ・オルタ軍に残っている、狂化サーヴァントによる攻撃だと言う事は判っている。

 

 クラスは恐らくアーチャー。この成果無比な狙撃能力を見れば、一目瞭然である。

 

 対して、カルデア特殊班は無力に近かった。

 

「せめて、こっちにもアーチャーが1人いてくれたら、もう少し何とかなるんだけど」

 

 悔し気に呟く立香。

 

 アーチャーによる遠距離からの狙撃が厄介なのは、特異点Fでの戦いで既に分かっている。

 

 しかし、判っていても何もできないのが現状だった。

 

 せめて味方にも、アーチャー、もしくはキャスターがいてくれたら・・・・・・

 

 無い物ねだりとは判っていても、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 戦場端にある林の中に身を隠したアタランテは、伝説に違わぬ弓捌きで、次々とフランス軍兵士たちを屠っていく。

 

 弓を放つ速度も尋常ではない。殆どマシンガン並みの勢いである。

 

 矢はアタランテ自身の魔力によって構成されている。その魔力はジャンヌ・オルタを通して聖杯から注がれている訳だから、実質的に無尽蔵と言っていい。

 

 そこにアタランテの狙撃能力が加わるのである。

 

 絶対無敵のスナイパーが、そこに誕生していた。

 

 このまま撃ち続ければ、カルデア特殊班とフランス残党軍を、アタランテ1人で全滅させることも不可能ではないだろう。

 

 だが、

 

 そんな中で、アタランテは憎悪にも似た視線を、戦場の一角に向けて放ち続けていた。

 

 その視界の中に佇む聖女。

 

 ルーラー、ジャンヌ・ダルクが、今も聖旗を振るって、味方であるフランス残党軍を守護し続けている。

 

 聖女の姿を見た瞬間、アタランテは己の中で言いようのない負の感情が湧き上がるのを、止める事が出来なかった。

 

「聖女・・・・・・ジャンヌ・ダルク・・・・・・貴様がッ」

 

 胸を満たす憎悪の念。

 

 とめどなく溢れ、女狩人の心を焼き尽くしていくのが判る。

 

 正直、それが何を意味しているのか、アタランテ自身にもよく分かっていない。

 

 これが狂化された影響なのか、あるいはもっと別の何かなのか?

 

 だが、今はそんな事は関係なかった。

 

 あの憎き聖女を含め、全ての敵を討ち果たす。

 

 その黒く歪んだ想いが、アタランテを突き動かした。

 

「我が矢をもって、貴様を無間地獄へといざなってやろうッ!!」

 

 言い放つと同時に、つがえられた矢は2本。

 

 その弓を、天高く振り上げる。

 

「この矢をもって、アポロンとアルテミスの二大神に願い奉る!!」

 

 宝具「訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)

 

 アタランテが奉じる太陽神アポロンと処女神アルテミスに願い、天空から嵐の如く、無数の矢を降らせる対軍宝具。

 

 先の砦の戦いにおいても、フランス残党軍に大打撃を与えたアタランテの切り札である。

 

 これを放てば、新たに現れた敵の大軍を一掃する事も容易いだろう。

 

「いかに貴様が全てを守ろうと足掻いても無駄な事。偽りの聖女に過ぎない貴様は、何も守る事などできはしないのだ!!」

 

 言い放つと同時に、天に向けて矢を放った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トスッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 思わず、目を見開くアタランテ。

 

 その視線の中、

 

 自分の胸の中央に、

 

 1本の矢が、突き刺さっていた。

 

 矢はアタランテの胸深く突き刺さり、霊核である心臓を貫いていた。

 

 明らかに、致命傷である。

 

 驚愕と動揺で、目を見開くアタランテ。

 

「ば・・・・・・馬鹿な・・・・・・いったい、なぜ・・・・・・・・・・・・」

 

 敵にアーチャーはいなかったはず。

 

 人間の弓兵如きに、自分を撃ち抜けるはずが無い。

 

 ならばなぜ?

 

 いったい誰が?

 

 それを考える間もなく、

 

 アタランテの体は金色の粒子となって消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 目標の消滅を確認し、頷きを示す。

 

 アタランテの敗因は、自分以外のアーチャーがいないと誤断した事。そして、不用意に自分の位置をさらけ出しすぎた事だった。

 

 位置の割れたスナイパーなど、ただの「標的(まと)」に過ぎない。

 

 だからこそ、奇襲は完璧に近い形で成功した。

 

 アタランテを排除した事で、味方が一方的に狙撃される事態は防げるだろう。

 

 視界を戦場へと向ければ、カルデア特殊班とフランス残党の連合軍が、反攻に転じているのが見える。

 

 これで、戦いは味方の有利に転じる筈。

 

 だが・・・・・・・・・・・・

 

 一抹の不安が、拭えない。

 

 まだ、何かが起こる。

 

 そんな気がしてならないのだ。

 

 しかし、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 どんなことが起きようとも、自分のやるべき事は変わらない。

 

 大切な人々を守るために戦い続ける。それだけの事だ。

 

 そう考え、再び武器を構えた。

 

 

 

 

 

「馬鹿な・・・・・・・・・・・・」

 

 ジャンヌ・オルタは、信じられない面持ちをする。

 

 戦況は既に、見てわかるほど完全に逆転されている。

 

 狂化サーヴァント達は悉く打ち取られ、ワイバーンや骸骨兵士達も次々と撃破されて行っている。

 

 ファブニールは健在だが、それも復活したジークフリートを前に完全に抑え込まれ、もはや満身創痍の様相となっている。

 

 理性の無いワイバーンや骸骨兵士は未だに抵抗を続けているが、それらが駆逐されるのも時間の問題だろう。

 

 既にジャンヌ・オルタ軍の戦線は崩壊していると言ってよかった。

 

 そして、それより何より、

 

 ジャンヌ・オルタが最も信じられない光景が、目の前で起こっていた。

 

 ジャンヌ・オルタの宝具「吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)」によって貫かれたはずのエドワード。

 

 燃え盛る炎に焼かれ、崩れ落ちたはずのセイバー。

 

 そのエドワードが、

 

 恩讐の炎を踏み越え、ゆっくりとジャンヌ・オルタに向かって歩いて来ているのだ。

 

「な、何なのよ、あんたは!? なぜ、私の宝具を喰らって、平気でいられるのよッ!?」

 

 常の余裕をかなぐり捨てるように叫ぶジャンヌ・オルタ。

 

 対して、

 

 黒衣のセイバーは、足元で燃え盛る炎を踏みつけ、口元に笑みを浮かべる。

 

「判らんか? ・・・・・・まあ、判らんだろうな、貴様には」

「何ッ!?」

 

 どこか嘲るようなエドワードの言葉に、ジャンヌ・オルタは憤ったように歯を剥き出す。

 

 対して、エドワードは静かな口調で語る。

 

「これが、多くの人々の想いを背負うと言う事だ」

 

 人々の想いを背負う者は、簡単に倒れる事は許されない。

 

 生前、一軍の将として仲間たちの想いを背負って戦ったエドワード。その双肩には共に戦う仲間達や、彼を信じる多くの民が寄せる思いがあった。

 

 だからこそ、彼は決して負ける事は許されなかった。

 

 勝って、勝って、勝ち続ける。

 

 それだけが黒太子エドワードの使命だったのだ。

 

 言いながら、エドワードはチラッと立香の方に目をやる。

 

「我がマスターも同じ・・・・・・否、その想いはもっと強いだろう。何しろ、背負っている物は、人類史に刻まれた全ての人間の想いなのだからな。その想いは、俺などとは比べ物にならんだろう」

 

 そう告げると、剣の切っ先をジャンヌ・オルタに向けるエドワード。

 

「だが貴様は何だッ!? 貴様はただ、生前の怨みを無辜の民にぶつけて晴らそうとしている殺戮者に過ぎんッ!! そこには民への想いも、仲間達との絆も存在しない!! そんな貴様の攻撃が、我らに届くはずも無かろう!!」

「クッ!!」

 

 苦し紛れに炎を放つジャンヌ・オルタ。

 

 しかし、大気をも燃やし尽くす恩讐の炎は、エドワードを焼く事も叶わない。

 

 一閃された剣が炎を斬り裂き、エドワードは無傷のままその場に佇む。

 

「貴様が辿った末路について一片の同情も無い、などとは言わん・・・・・・」

 

 言い放つと同時に、

 

 エドワードの体から、魔力が放出される。

 

「だがッ!!」

 

 可視できる程の輝きを見せるエドワード。

 

 その魔力がすべて、手にした長剣へと集まる。

 

「復讐におぼれ、多くの民に犠牲を強いた貴様を、俺は許さんッ!!」

 

 言い放つエドワード。

 

 勝負を掛ける。

 

 不敗の名将として轟く黒太子エドワードは、自身の勝負所を決して見逃さなかった。

 

 同時に、

 

 彼の背後に立つ少年もまた、エドワードの意を感じて動く。

 

「マスター!!」

「ああ!!」

 

 エドワードの求めに応じる立香。

 

 掲げた右手の令呪が、まばゆい光を発する。

 

「藤丸立香が令呪をもって、セイバー、黒太子エドワードに命じる!!」

 

 放出される莫大な魔力。

 

 一気に、エドワードへ流れ込む。

 

「今こそ宝具を解放し、ジャンヌ・ダルク・オルタナティブを倒せ!!」

「承知ッ!!」

 

 力強く答えると同時に、

 

 地を蹴るエドワード。

 

 漆黒の騎士が、真っ向からジャンヌ・オルタへと迫る。

 

 対して焦ったように、炎を噴き出すジャンヌ・オルタ。

 

 しかし、その全てを弾き、エドワードは駆ける。

 

 彼が「黒太子」の異名で呼ばれるようになった由縁。

 

 父王の指揮の下で参戦したクレシーの戦いで、エドワードは最前線において歩兵部隊を指揮。自ら多くの敵将兵を討ち取り、その勇猛振りを示した。

 

 クレシーの戦いにおけるエドワードの戦いぶりは、フランス軍将兵にとって恐怖の対象となり刻まれる事になる。

 

 その勇猛無比な戦いぶりが、このフランスの地において再び再現される。

 

 振り下ろされる長剣の一撃。

 

 その攻撃を、呪旗を振り翳して防ぎ止めるジャンヌ・オルタ。

 

 だが、

 

 エドワードは止まらない。

 

 すかさず剣を返し、再度斬りつける。

 

 二撃!!

 

 三撃!!

 

 四撃!!

 

 エドワードの剣閃は止まらない。

 

「このッ 調子に、乗るな!!」

 

 苦し紛れに、呪旗を繰り出すジャンヌ・オルタ。

 

 だが

 

 次の瞬間、

 

黒に染まれ汝が悪夢(ナイトメア・オブ・ダークネス)!!」

 

 振り下ろされる、漆黒の剣閃。

 

 その一撃が、

 

 真っ向からジャンヌ・オルタの呪旗を叩き斬る。

 

 剣はそのまま袈裟懸けに振り下ろされ、

 

 ジャンヌ・オルタの体を斬り裂く。

 

「あ・・・・・・あ・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・」

 

 自身の体から、力が急速に抜けていくのを感じる。

 

 崩れ落ちるジャンヌ・オルタ。

 

「あるいは・・・・・・・・・・・・」

 

 手にした長剣を血振るいしながら、エドワードは振り返らずに告げる。

 

 その視線は、遥か先で味方を守るために旗を振るうジャンヌを見据える。

 

「貴様に、あの忌々しい聖女ほどの気概と想いがあったなら、自ずと結果は変わっていたかもな」

 

 地に伏すジャンヌ・オルタ。

 

 その双眸が最後に捉えた物は、

 

 迸る黄昏色の閃光が、ファブニールの巨大な体を包み込んでいく光景だった。

 

 

 

 

 

第18話「黄昏の終幕」      終わり

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。