1
響が刀を鞘に収める同時に、ジルの体は前のめりに倒れ伏す気配がした。
その様を響は、浅葱色の羽織を靡かせて見つめている。
「やった?」
「ん・・・・・・手応えは、あった」
尋ねる美遊に、響は頷きを返す。
地に倒れたジル。
その体はピクリとも動かない。
だがそれでも、響と美遊は警戒を解こうとはしない。
一度、倒したと思ったところで再度、聖杯の力で立ち上がって来たほどの妄執を持った相手だ。
三度、立ち上がらないと言う保証はない。
油断している所を背後から襲われでもしたら、目も当てられなかった。
と、
背後で、何かの咆哮が聞こえる。
少し振り返って視線を向けると、海魔が苦悶にのたうっているのが見えた。
どうやら、ジルが倒れ、魔力供給が断たれた事で現界が保てなくなったらしい。
そのまま蛸にも似た巨大な体は、溶けるようにして消えていくのが見えた。
戦場に訪れる静寂。
誰もが、言葉を発することなく立ち尽くしている。
これをもって、カルデア特殊班の一同は実感する。
そう、
紛う事は無い。
「勝った」
「うん。そうだね」
小さく呟く響に、美遊もまた笑顔で応じる。
ジャンヌ・オルタ軍は壊滅。狂化サーヴァント達は全滅し、ファブニールも撃破、首魁であるジャンヌ・オルタ自身は戦意喪失し、今また真の黒幕であったジル・ド・レェも討ち取った。
文句無しで、カルデア特殊班の勝利だった。
その時だった。
「ま・・・・・・まだ、だ・・・・・・」
「「ッ!?」」
突如、背後から聞こえてきた声に、とっさに振り返る響と美遊。
2人が同時に視線を向ける中、
地に倒れ伏していた筈のジルが、ゆっくりと身を起こそうとしていた。
「まだ、生きてる・・・・・・」
響は信じられない面持ちで呟く。
響の剣が致命傷を与えた事は間違いない。
しかもその前に、響と美遊の剣を同時に受けている。そちらも間違いなく致命傷だったはずだ。
起き上がる事は愚か、この場で現界を保つ事すら難しいはずなのに。
しかしそれでも尚、ジルは立ち上がって見せた。
双眸は更に血走り、おぞましい狂相は目を背けたくなるほどに吊り上がっている。
切られた傷痕からは、尚も鮮血が流れ出ている。
しかし、
それでも尚、邪竜百年戦争の黒幕として暗躍を続けた男は、敗北を拒否するように立ち続けていた。
「許さん・・・・・・ここで倒れて成るものか・・・・・・わたしは、わたしのジャンヌを守り、この、フランスを・・・・・・・・・・・・」
うわごとの様に漏れる声。
もはや、自分で何を言っているのかすら判っていない様子だ。
「響、あれ」
「ん?」
美遊が指さした方を見る響。
そこはジルの胸元。
微かに煌めく光が漏れ出ているのが見える。
「また、聖杯?」
「うん、たぶんアレのおかげで、彼は立っていられるんだと思う」
成程。
美遊の説明に、頷きを返す響。
先に立ちあがって見せた時と同じだ。無限の魔力を誇る聖杯なら、瀕死のサーヴァント1騎くらい、現界を保つ事くらいできるだろう。
ジルは今、聖杯の持つ魔力リソースをすべて己の維持に振り向ける事で、辛うじて現界を保っているのだ。
だが、
「ん、たぶんきっと、それだけじゃ、ない」
「え、どういう事?」
響の呟きに、美遊はいぶかる様に首を傾げる。
確かに、ジルが現界を保っていられる魔力リソースは聖杯から得ているだろう。
だが、実際に現界を保ち、この世界に残り続けているのはジルの意思、もっと言えば「執念」なのではないか、と響は考えていた。
ジャンヌ・オルタを守り、彼女と共に、かつてジャンヌを裏切り殺したフランスを滅ぼす。
その願いを成しえるまで、ジルは倒れる事を拒み続けているのだ。
「ん、けど、どっちみちここで終わり」
言いながら、
響は再び刀を抜き、前に出る。
いかに聖杯でも、致命傷を三か所も受けたサーヴァントの現界を保ち続けるのは難しいはず。ここでトドメを刺せば全てが終わるはずだった。
ゆっくりとジルに近づく響。
ジルが血走った眼で、己の傍らに立つ少年を見上げる。
「おのれ・・・・・・このようなところで、私は・・・・・・・・・・・・」
絞り出すように呟くジル。
そのジルを見下ろし、
響は何の感慨も無く、刀を振り下ろした。
次の瞬間、
「待って!!」
背後からの声に、刀を振り下ろそうとした響の手が止まる。
振り返る、視線の先。
そこには、
左右を立香と凛果に支えられて歩いてくる、ジャンヌ・オルタの姿があった。
「お、おお、ジャンヌ!!」
自らの希望の存在を見出し、声を上げるジル。
そんなジルに、ジャンヌは藤丸兄妹に支えられながら歩み寄る。
「ジャンヌ、よく来てくださいました、我が聖女よ。さあ、今こそともに立ち、この不届き者達に鉄槌を下しましょうぞ!!」
「ジル・・・・・・・・・・・・」
活力を取り戻したようにわめきたてるジル。
対して、
ジャンヌは静かな瞳で、ジルを見下ろす。
「どうしたのですかなジャンヌッ 何も恐れる物などありません。この程度の敗北など、あの時に比べれば物の数ではないでしょう!! こちらには聖杯があるのですから、これさえあれば、また軍を立て直し、いや、もっと強力な軍勢を作り上げ、またフランスを蹂躙できますぞ!! それこそが我らの正義であり、あらゆる間違いを正す唯一の方法なのです!!」
捲し立てるジル。
かつて敬愛したジャンヌを祖国の裏切りによって殺されたジル。
晩年を生きた彼の胸の内には常に、死んだジャンヌへの想いと、祖国フランスに対する恩讐があったに違いない。
あるいは、復讐に燃える真のアヴェンジャーは、彼自身だったのかもしれない。
「さあ、ジャンヌ、今こそ・・・・・・・・・・・・」
「もう、良いわ、ジル」
尚も言い募ろうとするジル。
それをジャンヌ・オルタは、静かな声で制した。
一瞬、呆けたように沈黙するジル。
ややあって、恐る恐る口を開く。
「・・・・・・は? ジャンヌ、今、何と?」
「もう良い、て言ったのよ」
もう一度、言い含めるようにゆっくりと告げるジャンヌ・オルタ。
「もう、終わりにしましょう。わたし達の負けよ」
淡々とした調子で告げるジャンヌ・オルタ。
そこには、諦念とも安堵ともつかない雰囲気がある。
だが、ジャンヌ・オルタを聞いた瞬間、
ジルは文字通り、血を吐きながら少女へ詰め寄った。
「何をッ 何をおっしゃるのですかジャンヌ!? 我らの悲願が、あなたの無念が、このような事で潰えて成る物ですか!! お忘れですかッ!? あの敗北をッ コンピエーニュの屈辱を!! 無念を!!」
喚きたてるジル。
ジャンヌ・オルタ。
他ならぬジル自身が作り出した、彼自身の「理想のジャンヌ」が、彼の理想を否定したのだ。
「勿論、忘れてなんか無いわよ。あの時の屈辱と、復讐の念は、変わらず私の中にあり続けているわ」
「ならば、なぜですかジャンヌッ なぜ、そのような偽りを申すのですッ!?」
もはや狂乱したように言い募るジル。
対して、
ジャンヌ・オルタはあくまで、静かな声で告げた。
「・・・・・・確かに、私の中にはこの国を恨む心がある。今となっては、この思いも本当なのか嘘なのか判らない。けど、あなたの言う通り、私は裏切られ、否定され、罵倒され、辱められ、最後には無慈悲に殺された。それは間違いないわ」
「ならばッ」
「けど」
尚も言い募ろうとするジルを制すると、
ジャンヌ・オルタは、彼の目の前に膝を折る。
少女の目が、己を生み出した存在を、真っすぐに見据えた。
「少なくとも、ここの1人、最後まで私を信じて戦ってくれた人がいた」
「ジャンヌ・・・・・・・・・・・・」
「それだけで、私は充分よ」
少女の静かな言葉を聞いた瞬間、
ジルの心の中にあった、最後の蟠りが砕け散った。
「お・・・・・・おおおおおお」
そのまま、泣き崩れるように地に伏すジル。
それはジャンヌと言う希望を失い、狂気の果てに聖杯と言う奇跡に縋り、かつての祖国を滅ぼすために暗躍し続けた男が、
最後の最後で救われた瞬間でもあった。
笑顔を交わす、立香と凛果。
美遊も、響の肩を、優しく労うように叩く。
今、
邪竜百年戦争は、本当の意味で終わったのだ。
と、
複数の足音が、ゆっくりと近付いてくる気配がした。
振り返る立香。
そこには、
共に戦い抜いてくれた仲間たちの姿があった。
エドワード、ジークフリート、清姫、マリー、モーツァルト、ゲオルギウス、ジャンヌ。
勿論、マシュ、響、美遊、フォウ。
そして、凛果。
皆、その表情は晴れやかで、やり遂げた人間の達成感がにじみ出ていた。
その1人1人に、笑顔を返す。
多くの犠牲を出した。
それらの命は、決して戻る事は無い。
だが、それでも、このメンバーで戦い、勝利を得る事が出来た。
それは、紛れもない事実だった。
「みんな、ありがとう」
晴れやかな笑顔で告げる立香。
何はともあれ、それだけは言っておきたかったのだ。
対して、
一同は一瞬、キョトンとした顔をし、次いで互いの顔を見合わせる。
吹き出したのは、全員ほぼ同時だった。
「な、何だよ、俺、何かおかしいこと言った?」
突然笑い出したサーヴァント達に、戸惑って尋ねる立香。
そんな中、一同を代表するようにジャンヌが口を開いた。
「お礼を言うのはこちらですよ立香。あなたがいてくれたおかげで、わたし達は最後まで戦い、勝利する事が出来ました。カルデアのマスター、藤丸立香、本当に、ありがとうございました」
ジャンヌの言葉に、微笑みを返す立香。
辛い事もあった。
だが、仲間たちと共に、このフランスの大地を駆け抜けた事は、決して忘れえぬ思い出となる事だろう。
と、
ジャンヌが言い終わるのと、ほぼ同時に、変化は起こった。
揺れる視界。
突如、大地が震動を始める。
何が起こったのか、考えるまでも無かった。
「始まったな」
エドワードが低く呟くのと、立香の通信機が鳴るのはほぼ同時だった。
《特異点の崩壊が始まったようだ。すぐにレイシフト・シークエンスに入る。立香君たちは、そのままその場を動かないでくれ》
「フォウッ ンキュ!!」
ロマニの説明を聞き、顔を上げる立香。
と、
そこで驚いた。
目の前に立ち並ぶサーヴァント達。
その体から、金色の粒子が立ち上っているのだ。
「みんな、それ・・・・・・」
「驚く事は無いだろ」
エドワードが静かな声で、立香を制する。
その顔つきはいつになく穏やかで、孤狼のように戦っていた頃には見られない表情だった。
「俺達は、この特異点に呼ばれたサーヴァントだ。なら、特異点が崩壊すれば、座に帰るだけ、何も難しい話じゃない」
淡々と説明するエドワード。
その間にもサーヴァント達の体は、金色の粒子にほつれ溶けていく。
初めに変化が訪れたのは、
ジャンヌ・オルタとジル・ド・レェの2人だった。
「カルデアのマスター殿、確か立香、とおっしゃいましたか?」
「あ、ああ・・・・・・・・・・・・」
ジルが崩壊の始まった体を引きずるようにして、立香の前に出てくる。
化け物じみた容姿で、あれだけの猛威を振るったジルだが、今は憑き物が落ちたかのように穏やかな雰囲気になっている。
だから、その見た目にも変化が生じ、
る訳もなく、やっぱり怖いもんは怖かった。
正面に立つジルを、若干引き気味に迎える立香。
と、
ジルは自分の懐にあるものを取り出すと、立香に向かって差し出した。
「これを、お持ちください。我らにはもう、不要な物ゆえ」
「え、こ、これって・・・・・・」
ジルが差しだした物を受け取る立香。
それは、魔力によって光り輝く器だった。
「これって、聖杯か!?」
驚く立香。
それは紛れもなく聖杯。この特異点の基点となったマジックアイテムである。
確かに、これの回収が自分たちの役目だったが、ジルがこんなにあっさりと手放すとは、思ってもみなかったのである。
ニコッと笑う、ジル。
何と言うか、まあ、
その笑顔も怖かったが。
「せめてもの、お詫びでございます」
それだけ告げると、ジルの体は光に溶けて消えていった。
そして、
「・・・・・・・・・・・・フンッ」
不貞腐れたように、そっぽを向いているジャンヌ・オルタ。
何と言うか、負けはしたが、未だに心まで許した覚えはない、とでも言いたげな態度である。
「あ、あの、オルタ?」
「気安く呼ばないでッ」
キッと鋭い視線を立香に向けるジャンヌ・オルタ。
「いい、今回はたまたまよ、たまたま!! たまたま、運が悪かっただけ。次に会った時は、あたしの実力をあんた達に、しっかりと見せつけてやるわ!!」
強気な態度を見せるジャンヌ・オルタ。
対して立香達は、呆れ気味に苦笑するしかない。
いったそれは、何の強がりなんだろう?
と、
そんなやり取りを聞いていたジャンヌが、近づいて来た。
「お喜びください、立香。次に何かあった時は、彼女がいの一番に駆け付けて、力を貸してくれるそうです」
「え、そうなの?」
「んな訳ないでしょッ 今の言葉、どう変換すればそうなるのよ!?」
ずれた解釈をするジャンヌに、噛みつかんばかりの勢いで詰め寄るジャンヌ・オルタ。
「だいたいね、あたしは、って、ちょっと待・・・・・・・・・・・・」
言っている内に、ジャンヌ・オルタの姿が消えていく。
尚も喚きたてているのは判るが、もはやその声を聞き取る事も出来ない。
やがて、少女の体は完全に溶けて消えていった。
「・・・・・・何って言うか、最後の最後で締まらなかったね」
「フォウ・・・・・・」
呆れた様子で告げる凛果。
その腕の中にいるフォウも、心なしか微妙な表情をしているように見える。
と、
「ふむ、次は俺達か」
「の、ようですわね」
自分の体を眺めながら、ジークフリートと清姫が告げた。
その姿は既に半ば以上、消えかかっている。
やがて、
「今回は、あまり役に立てずにすまなかったマスター。またの機会があったなら、今度こそ存分に我が剣を振るわせてもらう」
「それでは安珍様、失礼いたします。今度お会いした時には・・・・・・」
ジークフリートはすまなそうに謝罪しながら、清姫は意味深な言葉を残し、それぞれ消えていった。
次は、ゲオルギウス、マリー、モーツァルトの体が薄れ始めている。
「それではマスター」
ゲオルギウスは立香を真っすぐに向いて告げる。
「あなたの旅路はまだ始まったばかり。この先には尚も多くの困難が待ち受けている事でしょう。しかし、あなたなら、きっとやり遂げると信じています」
そう言って、聖ゲオルギウスは笑顔を浮かべると、そのまま消え去って行った。
一方、
マリーは消えかかっている体で、
そっと、響に歩み寄った。
「がんばってね、響」
「マリー?」
耳打ちするマリーに、訝る響。
対して、マリーの視線は、響の傍らに立つ美遊へと向けられる。
「好きな子の手は、決して放しちゃだめ。何があっても、最後まで一緒にいるのよ」
「ッ!?」
マリーが言わんとしている事を察し、響は息を呑む。
対して、マリーは優しく微笑む。
かつて彼女は、愛する者と最後まで共にする事あできなかった。
だから、なのかもしれない。
響達の存在を、かつての自分と重ね合わせていたのかもしれなかった。
最後まで愛する人を守り、その人と共にある続ける。
そうある事が出来れば、行く先に何が待ち受けていようとも幸せだった。
「マリア、そろそろ僕達も」
「ええ、待たせたわね、アマデウス」
モーツァルトに促され、マリーは立ち上がる。
「それじゃあ、またいつか、どこかで会いましょう。
それが、マリーの最後の言葉となった。
その頃、
立香の目の前には、エドワードが立っていた。
孤狼のように寡黙な男は、
立ち尽くす立香に対し、黙って右手を差し出してきた。
その手を、しっかりと握り返す立香。
「・・・・・・・・・・・・俺は半端者だ」
「え?」
エドワードの口から出てきた言葉に、立香は一瞬、怪訝な顔つきを作る。
半端者。
そんな印象は無い。
黒太子エドワードと言えば、百年戦争初期の英雄。綺羅星の如き大英雄にも匹敵する存在である。
今回の戦いでも常に最前線に立って戦ってくれた。
だが、
エドワードは皮肉気に口の端を釣り上げた。
「俺は生前、結局、王にはなれず、それどころか自分の失策で、却ってイングランドを窮地に追いやってしまった。だから、願ったのさ。『もう一度機会があるなら、今度こそ民の為に戦う』とな」
民の為に戦う。
つまりそれこそが、エドワードが聖杯に賭けた願いだった、と言う訳である。
「お前のおかげで、俺は再び戦う事が出来た。まあ、それがイングランドじゃなく、敵国の民の為だったのは、皮肉だがな」
そう言って、エドワードは笑う。
「ありがとう、マスター」
「こちらこそ、黒太子エドワード」
その言葉を最後に、エドワードもまた消えていく。
握った手の感触が消える中、
寡黙な男は、しかし最後の最後で、満足そうに微笑みを浮かべていた。
そして、
「最後は私ですね」
静かに告げるジャンヌ。
その体も、既に半ば近くまで消えかかっている。
彼女の消滅も、時間に問題だった。
と、その時だった。
「ジャンヌッ!!」
突然の呼び声に、振り返る。
そこには、急いで駆けてきた白銀の騎士が、息を切らせて佇んでいた。
「ジル?」
生前の盟友に、そっと語り掛けるジャンヌ。
そのジャンヌに対し、ジルは足早に歩み寄ってくる。
「お願いですジャンヌ。どうか我々と共にこの国を立て直す為、あなたの力をお貸しください」
「・・・・・・・・・・・・」
「私はかつて、あなたを救う事が出来なかった。あなたが捕まり、処刑されるのを見殺しにしてしまった」
「ジル、それは・・・・・・」
「しかし何の奇跡か、今、あなたはここにいる。私の目の前にッ どうか、この私に贖罪の機会をお与えください」
必死に訴えるジル。
ジルは捕まったジャンヌを助けるために、あらゆる手を尽くした。
ジャンヌを救えなかったのは、彼の落ち度ではない。
だがそれでも、ジルの中に消えようのない後悔が渦巻いていた。
「あなたさえいれば、きっとこのフランスはやり直せますッ いえ、やり直して見せます!! だから、どうか・・・・・・」
「ありがとう、ジル」
ジルの言葉を制するように、ジャンヌは静かに言った。
微笑が、かつての友に向けられる。
「けど、やっぱりそれはできません。この国は、あなた達が立て直してください」
「なぜですかジャンヌ!? やはりあなたは、我々の事を許せないと!?」
ジルの言葉に対し、ジャンヌは首を横に振る。
そうじゃない。
彼女とて、できればここに残りたい。
残ってジルたちと共に、またこの国の人々の為に尽くしたい。
だが、
「そうではないのですジル。先程、あなたが言った通り、私がここにいられたのは、一つの奇跡があったから。そして、奇跡と言う物は、往々にして長くは続かない物です」
「ジャンヌ・・・・・・・・・・・・」
「ありがとうジル。生前、あなた達と共にあれた事は、私の誇りです。だからどうか、この国をお願いします」
そう告げると、
最後にジャンヌは、立香に向き直る。
「お世話になりました、立香。あなたのおかげで、このフランスを救う事が出来た」
「ジャンヌ・・・・・・・・・・・・」
「あの子の言葉ではありませんが、もしこの先、大きな困難があなた達の前に立ち塞がったなら、迷わず私を呼びなさい。たとえ次元の彼方であろうとも馳せ参じ、あなた達の為にこの旗を振るう事を、お約束します」
ジャンヌが告げると同時に、
視界の全てが金色に染め上げられていく。
後には、何も判らなくなっていった。
2
目を覚ます。
どこか、フワフワと浮いているような、落ち着かない感触。
そうだ、
これはあの時、
あの特異点Fから戻ってきた時と同じだった。
「おはようございます先輩。気分はどうですか?」
「マシュ?」
振り返ると、大切な後輩が心配そうにのぞき込んでいるのが見えた。
そこで、理解する。
ここは、カルデアにある立香の部屋。
帰って来た。
フランスでの戦いを終え、立香達はカルデアに戻って来たのだ。
と、
「フォウフォウッ ンキュ!!」
聞きなれた鳴き声と共に、立香の上に飛び乗る白い毛玉の塊。
「ダメですよ、フォウさん。先輩は起きたばかりなんですから」
言いながら、フォウを抱き上げるマシュ。
「それに、あまりうるさくすると、凛果先輩が起きてしまいます?」
「え、凛果?」
訝るように視線をベッドのわきに向ける立香。
そこには、ベッドにもたれかかるようにして眠る妹の姿があった。
立香が起きた気配にも気付かず、眠りこけている。
と、
そこで、立香は気が付いた。
凛果の手が、立香の手をしっかりと握りしめている事に。
妹の手の柔らかい感触が、温もりを伝えてくる。
ああ、
生きてる。
自分も、
そして凛果も。
その感触を、しっかりと確かめる。
今回の戦い、凛果の負担もまた大きかった。彼女がいてくれたからこそ、今回も勝つ事が出来たのだ。
改めて、妹の持つ存在感の大きさを、立香は噛み締めるのだった。
「ありがとうな、凛果」
呟きながら、そっと妹の髪を撫でる立香。
そんな兄の声に答えるように、凛果は眠りながら微笑を浮かべるのだった。
第21話「さらば、フランスの大地」 終わり
邪竜百年戦争オルレアン 定礎復元
黒太子エドワード
【性別】男
【クラス】セイバー
【属性】混沌・中庸
【隠し属性】人
【身長】181センチ
【体重】65キロ
【天敵】ジャンヌ・ダルク ジャンヌ・ダルク・オルタ
【ステータス】
筋力:C 耐久:A 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具:C
【コマンド】:AAQBB
【保有スキル】
〇カリスマ:B
1ターンの間、味方全体の攻撃力アップ。
〇黒の誇り:A
1ターンの間、自身のバスターカードの性能アップ。
〇最前線の矜持:B
1ターンの間、自身に無敵付与。及び、スター発生率アップ。
【クラス別スキル】
〇騎乗:B
自身のクイックカードの性能をアップ。
【宝具】
種別:対人宝具
第1宝具。黒太子エドワードの名を不動の物とした「クレシーの戦い」において、王太子の立場にありながら最前にして武勇を振るい、多くのフランス軍将兵を討ち取ったエドワード。その際の勇猛果敢な戦いぶりが宝具化した物。
自身の宝具威力アップ。敵単体に超強力な防御無視攻撃。及び3ターンの間、防御力大ダウン(オーバーチャージで効果アップ)
種別:対軍宝具
第2宝具。アーチャーとして召喚された場合、宝具はこちらとなる。元となったクレシー、ポワティエ両会戦において、イングランド軍の勝利を決定づけた長弓部隊の一斉射撃に由来する。それまで主流だった重装騎兵部隊による突撃戦法を覆し、イングランド軍は劣勢の状況を跳ね返した。
自身の宝具威力アップ。敵全体に強力な防御無視攻撃。及び、3ターンの間、防御力大ダウン。(オーバーチャージで効果アップ)
【備考】
第1章のフランスに現れたはぐれサーヴァント。全身漆黒の出で立ちをしており、周囲に常に殺気を振舞っている。一見すると好戦的な性格のようにも見えるが、ジャンヌ・オルタに襲われた村人を庇うなど、人道的な面も見られる。カルデア特殊班に対しては、やや非協力的に接している。
真名「黒太子エドワード」
フランス百年戦争が開戦するきっかけを作ったイングランド王エドワード三世の嫡子。
16歳の時に参加したクレシーの戦いにおいては重装歩兵部隊を率いて最前線に立ち、多くの敵将を撃破。およそ3倍の兵力差を覆し、イングランド軍に勝利をもたらしている。この戦いで見事な武勇を示したエドワードは、父から正式に王太子(次期国王)として認められたと言われている。
また25歳の時には「ポワティエの戦い」において、自らイングランド軍を指揮。またしても数的劣勢を覆して勝利を収めると、百年戦争初期におけるイングランド軍の勝利を決定的な物とした。
百年戦争初期の主要な戦いに参加したエドワードは、ほぼ全ての戦いにおいて負け無しだったと言われている。
こうして、戦場においては天才的な戦いぶりを見せたエドワードだが、内政面においては褒められた物ではなく、浪費と増税によって領内の不満を高める結果となってしまった。
45歳で病を得て病没するエドワード。
結局、フランスが反攻を開始するのは、彼の死から53年後の1429年。救国の聖女ジャンヌ・ダルクの登場を待たなくてはならなかった。
もし、エドワードの寿命があと10年長ければ、フランスと言う国家その物が消滅、ないし、現在よりも規模を大幅に縮小されていたかもしれない。
オリジナルサーヴァント紹介
【性別】男
【クラス】アサシン
【属性】中立・中庸
【隠し属性】人
【身長】131センチ
【体重】32キロ
【天敵】??????
【ステータス】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:E 幸運:B 宝具:C
【コマンド】:AAQQB
【宝具】??????
【保有スキル】
〇心眼(真)B
1ターンの間、自身に回避状態付与。
〇無形の剣技
あらゆる剣術流派を収めた者が達する、剣術における一つの極致。無形であるが故に、いかなる戦況であっても対応できる。超実戦型剣術スキル。
1ターンの間、クイック性能を大幅アップ。
〇??????
【クラス別スキル】
〇気配遮断:B
自身のスター発生率アップ。
〇単独行動:C
自身のクリティカル威力をアップ。
【対人剣技】
餓狼一閃
響の元となった英霊が、同僚であった、とある先輩剣士の剣技を模倣して編み出した技。三歩踏み込む間に音速に達した威力を、剣先の一点に集中させて突き穿つ事で、あらゆる存在を粉砕する破壊力を持つ。
??????
??????
【宝具】
盟約の羽織
かつて幕末の京都に名を轟かせた最強の剣客集団である「新撰組」の象徴である羽織。この羽織を響が所持している事について不明な点が多い。
なお、未だに響は、その性能について全てを見せたわけではない。
【備考】
特異点Fにおいて、藤丸凛果の声に応じる形で召喚されたサーヴァント。小柄で表情に乏しく、何を考えているのか判らないところがある。言動にもやや幼さが感じられるが、その戦闘能力は本物。敏捷を活かした戦術を得意とする。英霊化した美遊に対し、何か思うところがある様子。
【性別】女
【クラス】セイバー
【属性】秩序・善
【隠し属性】地
【身長】134センチ
【体重】29キロ
【天敵】??????
【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:A+ 宝具:B
【コマンド】:AAQBB
【宝具】??????
【保有スキル】
〇直感:B
スターを大量獲得。
〇魔力放出(偽)
3ターンの間、自身のバスター性能を大幅にアップ。
〇??????
【クラス別スキル】
〇対魔力:B
自身の弱体耐性をアップ
〇騎乗:C
自身のクイックカードの性能を、少しアップ。
【備考】
元々は冬木市にある旧家出身の少女。朔月家が用意した「小聖杯」として聖杯戦争に参加した彼女は、そこでセイバー「アルトリア・ペンドラゴン」と出会い、共に戦う。特異点の崩壊後も、セイバーの願いによって生かされ続けた彼女は、セイバーの消滅の際、彼女の霊基を受け継ぐ形で英霊化する。その姿は、アルトリア・ペンドラゴンの若き日の姿を模している。