Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第2話「薔薇の皇帝」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渦を巻くように、螺旋を描く光。

 

 狂う視界が三半規管を刺激し、あらゆる感覚を惑わせる。

 

 レイシフトの度に起こる現象は、何度体験しても慣れる物ではなかった。

 

 やがて、視界は晴れる。

 

 酩酊状態にも似た感覚のまま降り立った場所は、見渡す限り広がる平原だった。

 

 何となく、フランスの時と似ている。

 

 ロマニもバカではない。出現する場所に関しては、必ず人がいなさそうな場所を選んでレイシフトしてくれているのだろう。

 

「みんな、いるな?」

「はい先輩。隊長、藤丸立香以下5名、カルデア特殊班、全員のレイシフトを確認しました」

 

 立香の問いかけに、マシュが答える。

 

 見回せば彼女の他に、妹の凛果、それに響や美遊の姿もある。

 

 勿論、サーヴァント達は、普段着にしているカルデア制服ではなく、それぞれ英霊としての戦装束に着替えを終えている。

 

 響は黒装束に短パン、首には白いマフラーを巻き、手には鞘に収まった日本刀を下げている。

 

 美遊は白いミニスカートドレスの上から銀の甲冑を纏い、長剣を腰に差している。

 

 マシュは黒のインナーの上から軽装の甲冑を纏い、手には大ぶりな盾を構える。

 

 既に臨戦態勢。

 

 仮に今すぐ敵が襲ってきても、特殊班は逆撃で返り討ちにできるだろう。

 

 と、

 

「フォウッ フォウッ!!」

 

 足元から、何かを抗議するような鳴き声が響き渡り、マシュは改めて立香に向き直った。

 

「失礼しました、訂正します。カルデア特殊班、隊長、藤丸立香以下、5名+1匹、全員のレイシフトを確認しました」

「フォウッ!! ンキュ!!」

 

 今回も勝手に着いて来たらしいフォウは「忘れるな」とばかりに鳴き声を上げると、そのままマシュの肩へと駆けあがった。

 

 それにしても、

 

「・・・・・・やっぱり、あるのか?」

 

 空を仰ぎ見た立香が、嘆息気味に呟く。

 

 その視界の先では、天を覆う円環が浮いているのが見える。

 

 あるいはと思わなくもなかったが、やはりフランスの時と同じだった。

 

 あれが何を意味するのか、現時点では推測すら立てられない。

 

 しかし、これではっきりした事が一つある。

 

 あの円環は、特異点の発生と密接な関係がある。それは確かだった。

 

《やあ、無事にレイシフトできたようだね》

 

 立香の腕に装着した通信機から、カルデアにいるロマニの声が聞こえてきたのはその時だった。

 

《取りあえず、その場所から南に少し行ったところに、首都のローマがあるはずだから、まずは、そこを目指すと良いだろう。記録によれば、今のローマは5代皇帝ネロ・クラウディスの治世が続いているおかげで戦乱期ではないようだし、移動に関しては問題なく・・・・・・・・・・・・》

 

 ロマニが説明を続けていた。

 

 その時だった。

 

 突如、響が手にした刀に手を掛けて、遥か先に視線をやる。

 

 それよりも僅かに遅れて、美遊とマシュも反応して振り返る。

 

「ど、どうしたの、みんな?」

「ん、音が、する」

 

 響が指し示す方向に目をやる凛果。

 

 と、

 

「複数の金属音、それに叫び声・・・・・・人数も多いようです」

 

 美遊が耳を澄ませながら告げる。

 

 立香と凛果も、言われた方角に注意を向ける。

 

 確かに、ほんの僅かだが、金属がぶつかり合う音や、大人数の叫び声が聞こえてくるのが分かった。

 

《そんな筈はない。その時代のローマに戦闘が起こるなんて・・・・・・》

「詮索は後です、ドクター。まずは確認を!!」

 

 訝るように言い募るロマニを、マシュがぴしゃりと制する。

 

 もし、ロマニが言う事が本当だとすれば、この時期に戦闘が起こる可能性は低い。となれば、今行われている戦闘も、もしかすると特異点発生の一端かもしれないのだ。

 

 そこを確認する必要がある。

 

「響、美遊ちゃん、お願い!!」

「ん!!」

「判りました!!」

 

 凛果(マスター)の指示を受け、響と美遊は飛び出していく。

 

 機動力の高い2人が威力偵察もかねて先行し、防御力の高いマシュは、マスター2人の護衛として残留する形だ。

 

 このローマにおける、カルデア特殊班の戦いは、こうして唐突に幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧巻。

 

 その少女を見た印象は、正にそれだった。

 

 偉丈夫と言う訳ではない。

 

 どちらかと言えば小柄で可憐、花のように美しい印象がある。

 

 だが、

 

 花は花でも、その身に鋭い棘を宿した薔薇が似合うだろう。

 

 迫りくる敵の部隊。

 

 多人数の兵士を前にして、

 

 少女は味方を守るようにして最前線に立つと、押し寄せる敵を次々と斬り伏せていく。

 

 手にしているのは、その身に余るほどの刀身を持つ大剣。

 

 岩を直接、剣の形に削り出したような印象を持つその大剣は、しかし武骨さとは裏腹に、どこか優美な印象すらある。

 

 少女の着ている服もまた、常識の範疇に収まらない。

 

 少女の趣味なのか、目が覚めるような赤い布地をふんだんに使い、所々に施された金の装飾が引き締まるような印象を見せる。

 

 上半身は凛とした軍服のような出で立ちをしている。

 

 しかし下半身に関しては末広がりのスカートを穿き、しかも前面は半透明の布でシースルーになっている。中の下着が見えているくらいである。

 

 聊か、

 

 否、

 

 かなり、目のやり場に困る恰好なのは、確かだった。

 

 だが、

 

 彼女の恰好と、彼女の武力はまったくもって関係ない。

 

 今も、近づこうとした敵兵を、手にした剣で一閃し斬り捨てている。

 

「負傷した者は優先して後方に下がらせよ。無理はせず、戦線の維持に注力するのだッ 案ずるな、余の指示に従えば問題は無い!!」

「はい、陛下!!」

 

 少女に鼓舞されて、士気を上げる兵士達。

 

 迫る大軍を前にして、しかし少女に指揮された兵士たちは、一歩も引く事無く戦い続けていた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 戦場を見渡せる場所までやって来た響と美遊は、戦いの様子を見て感嘆を禁じえなかった。

 

「ん、あの赤いの、すごい」

「うん。殆ど1人で敵を押し返している」

 

 響の呟きに、美遊も頷きを返す。

 

 その視線の先では、尚も赤い少女の大剣が縦横無尽に振るわれているのが見える。

 

 あるいは、あの少女もサーヴァントなのだろうか? だとすれば、接触する価値もあるのだが。

 

「それで、どうする?」

 

 美遊が尋ねる。

 

 マシュに護衛された立香と凛果が戦場に到着するのは、もう少し時間がかかる。

 

 ならば、今のうちに自分たちで行動しておくのも手だった。

 

 対して、

 

「ん、あの赤いのの味方する」

 

 言いながら、腰の刀をすらりと抜き放つ響。

 

 その姿を見ながら、美遊は首を傾げる。

 

「どうして、そう思うの?」

 

 状況だけ見れば、どちらが味方か判断はつかない。

 

 響は、何をもって赤い少女を援護すると判断したのか?

 

「んー・・・・・・?」

 

 刀を持ったまましばし考える響。

 

 ややあって、顔を上げる。

 

「何となく?」

「あ、そう」

 

 嘆息する美遊。

 

 どうやら相棒は、何も考えていなかったらしい。

 

 とは言え実際のところ、赤い少女が率いている部隊の方が明らかに少数である。

 

 劣勢な方を助けておいた方が、あとあと恩を売れて協力を取り付けやすい、と言う利点もある。

 

 響はそこまで考えていなかっただろうが。

 

 やれやれとばかりに肩を竦めると、美遊も剣を抜いて斬り込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 突如、

 

 自分達に向かって攻めかかろうとしていた兵士たちが複数、視界の中で吹き飛ばされる光景を目にし、赤い少女は思わず目を剥いた。

 

「い、いきなり何だ?」

 

 驚きを隠せない中、

 

 敵も、味方も、

 

 思わず一瞬、動きを止める。

 

 晴れる視界

 

 その中心に、

 

 見慣れぬ子供たちがいた。

 

 漆黒の着物を着た少年と、純白のドレスを着た少女。

 

 背中合わせに立った2人は、それぞれ手には剣を構えている。

 

「ん、やる」

「うん」

 

 頷きをかわす、響と美遊。

 

 次の瞬間、

 

 2人は同時に動いた。

 

 突然の事態に、動きを止めていた敵陣へと飛び込む。

 

「んッ!!」

 

 響は手にした刀を一閃。

 

 敵が武器を構える前に斬り捨てる。

 

 1人の兵士が、剣を振り翳し、響へ目がけて斬りかかる。

 

 だが、次の瞬間、

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 兵士は、呆けたように、己の体を見下ろす。

 

 響はいつの間にか、彼の背後にいる。

 

 そして兵士の胸には、

 

 逆袈裟に斬られた斬線が、しっかりと刻まれていた。

 

 次の瞬間、噴き出す鮮血。

 

 そのまま、地面に倒れ伏した。

 

 一方、

 

 美遊も最前線で剣を振るう。

 

 美麗な剣が旋回するたびに、確実に敵兵の数が減っていく。

 

「一気に決める」

 

 低く呟く美遊。

 

 同時に、自身の魔術回路を起動。

 

 加速する魔力を、手にした剣へと流し込む。

 

 刀身が光を放つ。

 

「おおッ!!」

 

 背後で、赤い少女が喝采にも似た声を発するのが聞こえた。

 

 次の瞬間、

 

 美遊は剣を振り抜いた。

 

「はァァァァァァ!!」

 

 炸裂する魔力放出。

 

 その一閃が、敵の先頭集団を薙ぎ払った。

 

 美遊の一撃により、敵の前線に大穴が空く。

 

 同時に、響が乱れた戦線の中を駆け抜ける。

 

 敵の数は尚も多いが、美遊の攻撃による動揺が全軍に伝播し、大いに混乱を来している。

 

 ならば、今のうちに勝負を決するのだ。

 

 少数をもって多数を制する方法はただ一つ。敵の指揮官を討ち取る事だ。

 

 目指す、敵の中枢。

 

 敵の刃が響を捉えようと迫るが、その悉くが虚しく空を切る。

 

 たかが人間の兵士に、敏捷メインのサーヴァントに追随できるはずもなかった。

 

 瞬く間に防衛線をすり抜ける響。

 

 目指す指揮官は、すぐに見つかった。

 

 馬上で剣を振るう、一際目立つ甲冑を着た男。あれが、指揮官に間違いあるまい。

 

「んッ!!」

 

 更に速度を上げて駆け抜ける響。

 

 次の瞬間、

 

 少年の姿は、馬上の指揮官のすぐ目の前に現れた。

 

「ヒィ!?」

 

 驚いて悲鳴を上げる指揮官。

 

 慌てて剣を振り翳そうとするが、もう遅い。

 

 袈裟懸けに、刀を振り下ろす響。

 

 その一撃が、指揮官の体を容赦なく斬り裂いた。

 

 音を立てて、馬上から崩れ落ちる指揮官。

 

 地上に降り立った響は、威嚇するように刀を構えなおす。

 

「まだ、やる?」

 

 幼い双眸が、鋭い輝きを放つ。

 

 小さな少年が発するには、あまりにも不釣り合いな殺気。

 

 しかし、大の大人たる兵士たちは、それだけで圧倒されてしまった。

 

「退けッ 退けェ!!」

 

 次席指揮官の悲鳴交じりの声が伝播し、兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行く。

 

 撤退していく敵軍の兵士達。

 

 その姿を眺めながら、響と美遊は剣を鞘に納めた。

 

 と、

 

「大儀である」

 

 2人の背後から、掛けられる言葉。

 

 振り返れば、先程の赤い少女が2人の前に進み出て、胸を反らすようにして立っていた。

 

 挙動の一つ一つが、いちいち尊大な少女。

 

 しかし、その態度が不思議と不快にはならない。むしろ「様になっている」感すらあった。

 

「何か、無駄に偉そう・・・・・・」

「シッ 響、聞こえる」

 

 失礼な物言いの相棒を、慌てて窘める美遊。

 

 だが、赤い少女は気にした風もなく笑って見せる。

 

「良い良い、余は寛大だからな。幼子の繰り言をいちいち気にしたりはせぬ」

 

 どうやら、細かい事にはあまり拘らない性格らしい。

 

 と、そこで少女は、訝るように2人を見ながら言った。

 

「ところで、お前たちはどこから来たのだ? 助けてくれたからてっきり、ブーディカあたりが援軍をよこしたのかとも思ったが・・・・・・」

「いえ、わたし達は・・・・・・」

 

 美遊が口を開こうとした時だった。

 

「あれ、もう終わったのか、意外と早かったな」

 

 ようやく追いついて来たらしい立香が、息を切らしながら告げる。

 

 その後ろからは、走ってくる凛果とマシュの姿もある。

 

 そんなカルデア特殊班の様子に、赤い少女は、ますます不思議そうな表情を作る。

 

「うーむ、判らぬ。まるでチグハグとしか言いようがない組み合わせに見えるのだが、いったいそなたらは、どういう集まりなのだ?」

「えっと・・・・・・」

 

 赤い少女の質問に、立香は苦笑を返す。

 

 何はともあれ、自分たちの身分と事情を明かし、納得してもらわない事には何も始まらない。

 

 そう考えた立香は、もろもろの事情について語り始めるのだった。

 

 

 

 

 

「成程、『かるであ』とはな・・・・・・・・・・・・」

 

 立香から説明を受けた少女は、納得したように頷きを返す。

 

「美麗ながら面妖な格好をしているとは思っていたが、まさか未来からの来訪者だったとはな」

「いや、あの・・・・・・・・・・・・」

 

 1人でうんうんと頷く少女に対し、立香は恐る恐ると言った感じに声を掛けた。

 

「俺が言うのも何なんだけど、そんなあっさりと納得しちゃって良いの?」

 

 普通、未来から来た、とか異世界から来た、などと言われれば、驚かれるか怪しまれるかのどちらかだと思う。

 

 しかし、目の前の赤い少女は、ひどくあっさりと立香の説明に納得してしまっていた。

 

「うん? 何か問題でもあるのか? そなたたちはウソは言っていないのだろう?」

「それは、まあ・・・・・・」

「ならば問題あるまい」

 

 どうやら、見た目の美しさとは裏腹に、少女は頭の中もかなり豪快な性格らしかった。

 

 まさか、こんなにあっさりと自分たちの話を信じてもらえるとは思っていなかった。

 

「うむ、そちらが名乗ってくれた以上、余も名乗らぬわけにはいくまい」

 

 少女は立ち上がると、腕を鋭く振るって一同に向き直る。

 

 その立ち居振る舞いたるや、一部の隙も無く堂に入っている。

 

 一瞬、周囲にバラの花びらが舞う幻想が、一同の前に現れる。

 

 否、現実に舞っていない事の方が、不思議なくらいだった。

 

「余はローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスである。以後、よろしく頼む」

 

 その言葉に、

 

 特殊班一同は、衝撃を受けた思いであった。

 

 まさかのまさか、いきなり大物中の大物が登場したものである。

 

 だが、

 

「ん? 暴君ハバ・・・・・・ネロ?」

「響、それ違う」

 

 約一名、ピンと来ていない者もいるようだが。

 

 それにしても、

 

 まさかのネロ・クラウディウスと来たものだ。

 

 ローマ帝国第5代皇帝にして、あらゆる美をこよなく愛した芸術皇帝。

 

 その治世において、民から絶大な人気を誇った名君。

 

 華やかなオリンピア文化を代表する存在。

 

 一方で、己の生涯を謀略と粛清で彩った暴君でもある。

 

 自身の権力を強化する為に、実母、妻、義弟、師など、多くの人々を死に追いやった事はあまりにも有名である。

 

 だが、

 

 目の前で爛漫な笑顔を浮かべる少女からは、そのような陰惨な印象は聊かも感じ取る事が出来ない。

 

 ただ薔薇のように可憐に咲き誇る少女がいるのみである。

 

 まあ、それはそれとして、

 

 一同、どうしても気になっている事があった。

 

 否、

 

 それについてはあまりに微妙な問題である。

 

 果たして、触れても良いのか?

 

 あるいは、触れずに放置すべき所なのか?

 

 まことにもって、判断が迷・・・・・・

 

「ん、ネロ、パンツ丸見え」

「ちょッ!? 響!!」

「す、すいませんすいません、うちの子がとんだ粗相を!!」

「フォウッ!! フォウッ!!」

 

 皆が気にしつつも躊躇っていた事を、あっさりと口にする響。

 

 美遊と凛果が、慌てて少年暗殺者を引っ張り、後ろへ引っ込める。

 

 確かに、ネロの衣装はスカートの前部分が完全なシースルーになっており、彼女の白いおみ足や下着が見えている。

 

 だが、それが如何なる意図による物なのか不明な以上、慎重に対処しなくてはいけないというのに。

 

 対して、

 

「甘いな、少年よ」

 

 なろが何やらフッと、どや顔を作り一同を見回す。

 

 そして次の瞬間、

 

「これは『見えて』いるのではない!! 『見せて』いるのだ!!」

 

 少女の背後で、巨大な稲光が迸った(ような気がした)。

 

 これには特殊班一同、二の句も告げられずに立ち尽くす。

 

 さすが、

 

 全てに通じるローマ。

 

 服装一つとっても、現代の常識では測り切れなかった。

 

 などと立香達が多大な誤解を深めている中、ネロは改めて手を差し伸べる。

 

「さて、事情はどうあれ、こうして出会ったのも何かの縁であろう。余としても、せっかくの恩人に何がしかの礼がしたい。そこでどうだろう? ぜひとも余の居城にて、そなたらを歓待したい。ぜひ同道してほしい」

 

 ネロの誘いは、特殊班の面々としても願ったりな申し出だった。

 

 この世界に来たばかりの立香達にとって、活動の拠点となる、いわば「橋頭堡」的な場所はあるに越した事は無い。前回のフランスでは、拠点の確保がままならなかったせいで苦労した面もある事を考えれば猶更だった。

 

「それはこちらからもお願いしたい。頼めるだろうか」

「うむ。では、余に着いてくるがいい」

 

 そう言って、ネロが踵を返そうとした。

 

 まさにその時、

 

「陛下ッ お気を付けください!! 新手です!!」

 

 悲鳴に近い兵士の叫び。

 

 次の瞬間、

 

 複数の兵士が吹き飛ばされ、宙に舞うのが見えた。

 

「なッ!?」

 

 誰もが目を疑う中、

 

 「それ」は姿を現した。

 

 黄色を基調とした甲冑を纏い、露出した四肢は逞しく膨れ上がっている。

 

 短く切った髪の下からは、端正な顔立ちが見て取れる。

 

 だが、

 

 その血走った双眸に光は宿らず、ただ只管に殺気のみが撒き散らされていた。

 

「そなたはッ!?」

 

 驚愕するネロ。

 

 その間にも、男は雄たけびを上げて殴りかかってくる。

 

 武器を一切持たず、素手にて向かってくる。

 

《気を付けろ、みんなッ!!》

 

 通信機から響く、悲鳴交じりのロマニの声。

 

《そいつはサーヴァントだ!!》

 

 対して、

 

 いち早く飛び出す小柄な影。

 

 響だ。

 

 距離を詰めると同時に抜刀。真っ向から男に斬りかかる。

 

 迸る白銀の刃。

 

 降りぬかれた一閃は甲冑を断ち割り、男の体を斬り裂く。

 

 飛び散る鮮血。

 

 手応えは、あった。

 

 だが、

 

 男は止まらない。

 

 まるで自身の傷など、まったく意に介していないような突撃だ。

 

「■■■■■■!!」

 

 咆哮と共に、響へ殴りかかる男。

 

 対して、響はとっさに跳躍。宙返りしつつ、相手の拳を回避する。

 

 だが、

 

 響が避けたことで、ネロまでの道が開いてしまった。

 

「■■■■■■!!」

 

 再度の咆哮を上げ、殴りかかってくる男。

 

 対して、ネロは未だに呆然と立ち尽くしている。

 

 先程まで、最前線で勇壮に戦っていた姿が嘘のようである。

 

 迫る拳。

 

 次の瞬間、

 

「やらせません!!」

 

 盾の騎士が、ネロを守るように立ちはだかる。

 

 弾かれ、蹈鞴を踏む。

 

 そこへ、美遊が剣を振り翳して斬りかかった。

 

「やあッ!!」

 

 短い掛け声と共に、剣を振り下ろす美遊。

 

 斬線は斜めに走り、男の体を斬り裂く。

 

「■■■■■■!?」

 

 苦悶と共に、叫び声を上げる男。

 

 美遊は更に斬り込むべく、剣を振り翳す。

 

 振るわれる剣閃。

 

 しかし、少女の刃が届くより前に、男の姿は空気に溶けるようにして消えていく。

 

 空を切る、美遊の剣。

 

「これは・・・・・・・・・・・・」

 

 手応えの無さに、舌打ちする美遊。

 

 どうやら消滅したのではなく、何らかの理由で撤退したらしかった。

 

 そんな中、

 

 ネロは1人、茫然と呟いた。

 

「そんな・・・・・・あなたまで出てきたと言うのか、伯父上」

 

 

 

 

 

第2話「薔薇の皇帝」      終わり

 

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