Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第6話「ガリア攻防戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正統ローマ軍と連合ローマ軍の激突は、一進一退の様相を呈していた。

 

 本来なら、数で勝る正統ローマ軍は、積極的に攻勢に出て戦火拡大を図りたい所である。

 

 しかし既に先述した通り、連合ローマ軍には、まだ本隊とも言うべき大軍が後方に控えている。よって、ここで戦力を無駄に消耗する事は避けなくてはならない。

 

 そこでネロは、一計を案じる。

 

 ブーディカ、スパルタクス両将が率いる本隊が敵の軍勢を引き付けている間に、少数の精鋭部隊が敵本陣を突く。

 

 首尾良く敵将を討と取れれば、連合ローマ軍は烏合の衆と化す。

 

 そこへ本隊が追撃を仕掛け、壊滅に追いやるのだ。

 

 作戦は、今のところ順調に推移している。

 

 ネロの意を汲んだブーディカは危険な戦闘を避け、守りに徹しつつ前線を維持している。

 

 守りに徹してさえいれば、数に勝る正統ローマ軍が負ける道理はない。

 

 あとは、

 

「申し上げます!!」

 

 そこで、ネロの思考を中断するように、伝令の兵士が本陣に駆けこんで来た。

 

「立香将軍率いる部隊が、敵本陣突入に成功しました!! 敵将との交戦状態に入ったとの事です!!」

「やってくれたかッ」

 

 報告を聞いて、ネロも奮い立つ。

 

 これで勝利の為の第2の条件。「敵本陣への突入」が揃った。

 

「ご苦労、下がって休むが良い」

「はッ」

 

 ネロに一礼して下がっていく伝令兵。

 

 その姿を見送りながら、ネロは思案する。

 

 このガリアを奪還できれば、そこを足掛かりにしてより深く、連合ローマ領に踏み入る事ができる。

 

 現在のところ、連合ローマの首都がどこにあるのか、確認されていない。

 

 多く放った偵察兵士も、そのほとんどが帰還しなかったためだ。

 

 故に、今回のガリア会戦は、ネロ率いる正統ローマにとっては天王山とも言うべき、重要な戦いである。

 

 逆に負ければ、軍は壊滅。首都ローマまで一気に攻め込まれる可能性がある。

 

 絶対に負ける事は許されない。

 

「皆、頼むぞ」

 

 ネロは祈るような気持ちで呟きを漏らす。

 

 その視線の彼方では、尚も彼女の大切な将兵たちが、死闘を繰り広げていた。

 

 と、その時だった。

 

「大変ですッ 皇帝陛下!?」

「何事かッ!?」

 

 突然、本陣に駆けこんで来た兵士に怒鳴り返すネロ。

 

 ひどく慌てた様子の塀は、ネロの前まで来ると、膝を突くのも難儀とばかりに座り込む。

 

「右翼より、敵の新たな攻勢ですッ 既に防御陣は突破ッ 敵は間もなくここへやってきます!!」

「何とッ!?」

 

 報告を聞き、流石のネロも仰天する。

 

 しかし、考えてみれば当然かもしれない。

 

 味方が考える事は、同じような事を敵が考えていてもおかしくは無いだろう。まして、この場にあっては連合ローマ軍の方が劣勢なのだ。ならば、勝つために策を講じてくると考えるのは、初めから考え得る事だった。

 

 つまり今回、敵味方双方、「敵将撃破による戦局の逆転」と言う、同じ手段を考えていたわけだ。

 

 その時だった。

 

 突如、轟音と共に本陣の壁が吹き飛ばされる。

 

 濛々と立ち上る土煙。

 

 動揺する兵士達が、慌てて剣を構える。

 

 そんな中、ネロは1人、落ち着き払った様子で、傍らにある原初の火(アエストゥス・エストゥス)を抜き放つ。

 

「・・・・・・やはり、あなたが来たか」

 

 徐々に晴れる視界の中、

 

 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる大柄な人影に、ネロは静かに言い放つ。

 

「伯父上」

 

 ネロが見つめる先。

 

 そこには、

 

 月の女神に魅入られたが故に狂気に取り憑かれ、暴虐の限りを尽くした先々代の皇帝。

 

 カリギュラの姿があった。

 

「ネ・・・・・・ロォォォォォォ」

 

 奥底から吐き出すような声に、居並ぶ兵士たちは戦慄する。

 

 後続の敵兵は来ない。

 

 この場にいる敵はカリギュラただ1人。

 

 だが、

 

 其れは即ち、ここに至るまで敷かれていた正統ローマ軍の防衛ラインを、カリギュラはたった1人で突破してきたことになる。

 

「下がれ、皆の者」

 

 原初の火(アエストゥス・エストゥス)を手に、前へと出るネロ。

 

 この場にあってカリギュラの相手をできるのは、彼女1人。ならば、兵士たちは下がらせた方が得策である。

 

「陛下・・・・・・・・・・・・」

「この者の相手は余がいたす。皆を下がらせよ」

 

 言いながら、

 

 ネロは切っ先をカリギュラへと向ける。

 

「皇帝に歯向かう者には余自ら裁きを下す。それが先々代の皇帝・・・・・・否」

 

 自らの胸の内にある葛藤。

 

 それを吐き出すように、ネロは言い放った。

 

「たとえ、我が伯父であろうと、容赦はせぬ!!」

「ネロォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 同時に、地を蹴って迫るカリギュラ。

 

 迎え撃つように、ネロも剣を振り翳した。

 

 

 

 

 

 駆け抜ける響。

 

 口元を覆い隠すように巻いたマフラーが、風を巻いて靡く中。

 

 目指す先には大英雄が剣を構えて待ち構える。

 

 ガイウス・ユリウス・カエサル。

 

 連合ローマに名を連ねる皇帝の1人であり、セイバーのサーヴァントでもある。

 

 疾風の如く迫る響に対し、

 

 カエサルは剣を構えて迎え撃つ。

 

「来るかねッ!!」

 

 手にした黄金の剣を、真っ向から振り下ろす。

 

 迫る刃。

 

 次の瞬間、

 

 響の姿は、カエサルの前から消え去った。

 

「なにッ」

 

 驚くカエサル。

 

 その背後に、

 

 少年暗殺者は姿を現す。

 

「ん、こっち」

 

 構えた刀。

 

 その切っ先が、真っ向からカエサルに向けられている。

 

 次の瞬間、

 

 矢のように迸る剣閃。

 

 カエサルの巨体を目がけて繰り出される切っ先。

 

 銀の閃光が、巨漢を貫く。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

「そう来ると・・・・・・」

 

 振り向くカエサル。

 

「思っていたよ!!」

 

 鋭い横なぎが、響の刀を払いのける。

 

「なッ!?」

 

 思わず驚き、蹈鞴を踏む響。

 

 奇襲は完全に成功したと思った。

 

 カエサルが、自分の動きに追随できるとは思っていなかった。

 

 だが、

 

「やれやれ・・・・・・・・・・・・」

 

 カエサルは嘆息交じりに呟く。

 

「ふざけた話だ」

「ん、何が?」

 

 刀を構えなおしながら訪ねる響。

 

 対して、カエサルは億劫そうに顔を上げる。

 

「考えても見たまえ、この私がサーヴァント、それも、よりにもよってセイバーなどとは。ミスキャストにも程があるだろう?」

「ん?」

 

 愚痴るようなカエサルの言葉に、響は意味が分からず首を傾げる。

 

 どうやらカエサル的には、セイバーである事がお気に召さない様子だった。

 

「おかげで、私自ら、剣を振るう羽目になったではないか!!」

 

 言うと同時に、響めがけて真っ向から剣を振り下ろすカエサル。

 

 対して、とっさに後退する事で回避する響。

 

 だが、

 

「それで逃げているつもりかね!?」

 

 突進するカエサル。

 

 その勢いたるや、

 

 開いた距離が、一瞬にしてゼロになる。

 

「速いッ!?」

 

 その巨体に似合わぬ機動力に、思わず息を呑む響。

 

 対して、

 

「呆けるな。終わるぞ、一瞬でな」

 

 低い呟きと共に、

 

 カエサルは剣を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 こちらは一見すると、一方的な戦いが展開されていた。

 

 激しく攻め立てる、マシュと美遊。

 

 対して、レオニダスはひたすら盾を掲げて、2人の攻撃を防ぎ続けている。

 

 手にした槍で時折反撃するも、それはあくまで牽制の為の攻撃に過ぎない。

 

「はッ!!」

 

 飛び出ると同時に、両手で構えた剣を横なぎに振るう美遊。

 

 フルスイングに近い斬撃は、レオニダスの胴目がけて奔る。

 

 銀の剣閃。

 

 だが、

 

「ぬんっ!!」

 

 盾を構え、腰をグッと落とすレオニダス。

 

 真っ向からぶつかり合う刃と盾。

 

 次の瞬間、

 

「なッ!?」

 

 驚いた事に、斬りかかった美遊の方が押し返された。

 

 吹き飛ばされ、体勢を崩す美遊。

 

 その美遊を守るように、マシュが前へと出た。

 

「行きますッ!!」

 

 手にした大盾を振るうマシュ。

 

 その一撃に、流石のレオニダスも後退を余儀なくされる。

 

 質量のあるマシュの盾は、当たるだけで相手の体を叩き潰す事ができる。それはたとえ、サーヴァントであっても例外ではない。

 

 相手が防御力に秀でているなら、あるいは美遊の剣よりも効果が期待できる。

 

 だが、

 

「もう一度!!」

 

 再度、盾を振り上げて、振り下ろすマシュ。

 

 その一撃を、

 

 レオニダスは、真っ向から受け止めて見せた。

 

 ぶつかり合う盾と盾。

 

 こうなると、戦いは筋力勝負になる。

 

「クッ 重いッ!?」

 

 細い腕にかかる荷重に、思わず顔をしかめるマシュ。

 

 次の瞬間、

 

「甘いですぞ!!」

 

 そのままマシュを押し返すレオニダス。

 

「クッ!?」

 

 押し返され、後退するマシュ。

 

 そこへ、

 

 跳躍によって、上空に跳び上がった白い影が、頭上に掲げた剣で斬りかかった。

 

 美遊だ。

 

「ハッ!?」

 

 マシュの背から飛び出すようにして現れた美遊。

 

 眼下にて見上げるレオニダス。

 

「貰った!!」

 

 そこへ美遊は、真っ向から剣を振り下ろす。

 

 奇襲に近い攻撃。

 

 だが、

 

「まだまだァ!!」

 

 とっさに盾を頭上に掲げ、美遊の一撃を防ぐ。

 

 レオニダスは、そのまま美遊の小さな体を放り投げるようにして弾き飛ばした。

 

「クッ!?」

 

 地面に膝を着きながらも、辛うじて着地する美遊。

 

 そこへ、マシュが駆けてきた。

 

「大丈夫ですか、美遊さん?」

「何とか、それにしても・・・・・・・・・・・・」

 

 顔を上げる美遊。

 

 その視線の先では、

 

 盾と槍を構え、ゆっくりとこちらに歩いてくるレオニダスの姿がある。

 

「硬すぎる」

「ええ、こちらの攻撃が殆ど通っていません」

 

 嘆息気味に、頷く美遊とマシュ。

 

 流石は「守り」の逸話を持った英霊。その防御力は並の物ではない。

 

 美遊とマシュが猛攻を仕掛けて、未だにかすり傷を負わせる事もできないとは。

 

 と、

 

「ふむ、お二人とも、なかなか筋が良いですな」

 

 どこか感心したように、レオニダスが告げる。

 

「盾の少女、あなたの動きにはまだ斑が見られますが、それでもそちらの女の子を守りながら戦う事を常に意識してらっしゃる。盾持ちのサーヴァントは、『何かを守る』事で最大の力を発揮する。故に、あなたの行動は正しい」

 

 次いでレオニダスは、美遊の方を見る。

 

「小さな少女、あなたもです。真っ向から私に挑み続けるその姿勢は、正に堂々たる英霊の如き姿です」

 

 2人の戦いぶりを誉めながら、

 

 レオニダスは手にした槍と盾を構えなおす。

 

「しかし、この私もまた、歴史に名を刻んだ英霊の1人。あなた達2人を相手に引けを取るつもりはありませんぞ」

 

 合わせるように、美遊とマシュもそれぞれの武器を構える。

 

 それは戦闘再開の合図。

 

 張り詰めた空気が、両者の間を満たす。

 

 次の瞬間、

 

 3人のサーヴァントは、同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 

 速い。

 

 カエサルの攻撃を回避しながら、響は舌を巻く思いだった。

 

 あの巨体からは想像もできないほど、カエサルの動きは素早く、響に距離を取らせようとしなかった。

 

「甘いなッ」

 

 呟くように言いながら、距離を詰めてくるカエサル。

 

 真っ向から振り下ろされる剣を、

 

 響は刀を斬り上げるようにして迎え討つ。

 

 激突する互いの刃。

 

 次の瞬間、

 

 響が押し負ける。

 

「んぐッ!?」

 

 吹き飛ばされ、地面に転がる響。

 

 単純な力勝負では、アサシンの響は、セイバーのカエサルに敵わない。

 

「そら、まだ行くぞ!!」

 

 言いながら、剣を振り翳して距離を詰めてくるカエサル。

 

 振り下ろされる剣。

 

 次の瞬間、

 

 カエサルの視界から響の姿が消え失せる。

 

 空を切る剣。

 

 響の姿は、

 

 カエサルの背後に出現する。

 

「んッ!!」

 

 突き込まれる切っ先。

 

 疾風の如き一閃は、

 

「甘いッ!!」

 

 しかし、振り向きと共に放ったカエサルの、強烈な一閃によって弾かれた。

 

「クッ」

 

 舌打ちしながら交代する響。

 

 眦を上げる。

 

「・・・・・・・・・・・・ん、強い」

 

 戦慄と共に、呟きを漏らす響。

 

 流石はローマが誇る大英雄カエサル。その戦闘力は並の物ではない。

 

 単にアサシンとセイバーの差だけではない。英霊としての根幹に、絶対的とも言える差があった。

 

 戦闘中に見せた気だるさが、こうなると冗談にしか聞こえない。

 

「どうしたカルデア? その程度の実力で人理守護などと大義を掲げたところで、ただのお笑い種にしか聞こえないぞ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 挑発するようなカエサルの言葉に、響は無言のまま立ち上がると、手にした刀の切っ先を真っすぐに向ける。

 

 戦う姿勢を諦めない少年の姿に、カエサルは笑みを返す。

 

 どこか、この状況を楽しんでいるかのようなカエサルの様子に、響はムッと眉根を寄せる。

 

 現状、響の不利は否めない。

 

 戦闘力は確実にカエサルが上回っており、英霊の格に至っては比べるべくもない。

 

 スピードだけは響が僅かに上回っているが、状況を覆す決定的な要因に至る物ではない。

 

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

 眦を上げる響。

 

 今のままでは、響はカエサルに勝てない。そう自覚せざるを得なかった。

 

 ならば、

 

 勝てるだけの要因を、揃えればいい。

 

「凛果」

 

 背後に立つ、自分のマスターに話しかける響。

 

「宝具、使う」

「まあ、そうだよね」

 

 響の言葉を聞いて、凛果は嘆息交じりに返事をする。

 

 どうにも、乗り気じゃない雰囲気を見せる凛果。

 

 とは言え、凛果も状況は判っている。このままでは響に勝ち目が薄い事も。

 

 故に、躊躇いは見せなかった。

 

「言っとくけど、無茶だけはしないでよね」

「ん」

 

 マスターの言葉に頷きを返す響。

 

 実のところ、前回のフランスの時、響は勝手に宝具を使って凛果に負担を掛けたせいで、カルデアに帰ってから、凛果にこってりと叱られてしまったのだ。

 

 承諾なしで、いきなり魔力を引き出される行為は、マスターにとっても負担が大きい。

 

 散々お説教された後、「慣れるまで、宝具を使う時は凛果の承諾を得てから」と言う事を約束させられたのだった。

 

 刀を目の前に掲げ、スッと目を閉じる。

 

 己の内にある魔術回路を起動。

 

 体内にある魔力を活性化させる。

 

 光に包まれる、響の姿。

 

 同時に、

 

「うッ・・・・・・」

 

 凛果が、令呪のある右手を押さえて呻きを漏らす。

 

 前回の時のように突然ではない為、強烈な刺激に驚くような事は無かったが、それでもかなり苦しいようだ。

 

 それでも、凛果は痛みに耐えた。

 

 そして、

 

 顔を上げた先では、

 

 響の姿は一変していた。

 

 いつもの黒装束の上から、浅葱色の羽織を着込んだ姿。

 

 静かな瞳は、真っすぐにカエサルを見据える。

 

 宝具「盟約の羽織」。

 

 響が持つ宝具であり、先のフランスにおいて狂乱したジル・ド・レェを討ち果たした切り札。

 

「・・・・・・・・・・・・ほう」

 

 感心したように呟きを漏らすカエサル。

 

 響が宝具を解放した事で、どうやら警戒するレベルを上げたらしい。

 

 睨み合う、響とカエサル。

 

 互いに、剣を構え直す。

 

「では、仕切り直しと行くかね?」

「ん」

 

 頷く両者。

 

 次の瞬間、

 

 両者は同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 

第6話「ガリア攻防戦」     終わり

 




FATE要素抜きで、単純に「歴史上の人物」として見た場合、ネロよりもむしろカエサルの方が好きなんですよね。ほんと型月スタッフは、何であんな風にしたんだろ。
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