Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第9話「全ての風呂はローマに通ず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中には往々にして、

 

 やる事成す事全てが大雑把且つ強引で、

 

 周囲の負担も被害も、何もかもほったらかしにしたまま、ゴーイングマイウェイを超全速力で爆走し、

 

 関係者各位に多大な迷惑をおかけしつつ、

 

 一切合切悪びれる事無く、

 

 むしろいい仕事をしたと言わんばかりの笑顔を浮かべ、

 

 だと言うのに、

 

 なぜか最終的に帳尻だけは合ってしまう人間と言うのは、たまに存在するわけだが、

 

 ローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスとは、まさに、そんな感じの人間だった。

 

 

 

 

 

「うむ、なかなかの絶好な航海日和であった。流石は余だな。初めての操船であったにもかかわらず、ここまで見事に大型船を操って見せたのだから。ん? どうした、そなたら? 何をしている?」

 

 うららかな日差しが降り注ぐローマの港町にて、

 

 ネロは小柄な体に不釣り合いに大きな胸を堂々と張りながら、どや顔を晒している。

 

 その一方、

 

 彼女の足元では戦死体さながら、死屍累々とした体を晒しているのは、カルデア特殊班の一同だった。

 

「ああ、陸・・・・・・陸だ・・・・・・本当に、陸だ・・・・・・」

「やっと・・・・・・着いたね」

「はい、先輩方・・・・・・ローマ到着、です。奇跡的に・・・・・・」

「フォ・・・・・・フォウ・・・・・・」

 

 立香と凛果が、人目もはばからずにその場に蹲り、マシュはそんな2人を気遣うようにしている。もっとも、そのマシュも疲労困憊と言った感じなのだが。

 

 響と美遊も、それぞれ荷下ろしされた貨物に寄りかかってぐったりしている。

 

 一人、元気溌剌なのはネロだけだった。

 

 何と言うか、

 

 船なのに、ドリフトはするわ、ジャンプはするわ、スピンターンはするわ、急転落下はするわ・・・・・・・・・・・・

 

 その他、とてもではないが筆舌に尽くしがたい「高機動」を体験させられた一同。

 

 断っておくが、この時代の船の動力はあくまで人力と風だけである。故に、あんな無茶な機動は絶対にできないはずなのだ。

 

 だが、

 

 皇帝ネロ陛下は、不可能を可能にしてしまった。

 

「も・・・・・・ネロの船、やだ」

「同感・・・・・・・・・・・・」

 

 響と美遊も、ガックリした調子で頷く。

 

 サーヴァントですらこの調子である。

 

 同乗した兵士たちに至っては、船から降りてくる事すらできない有様である。

 

 合掌

 

「何で、ネロだけ元気なの?」

「ネロさんだから、じゃない?」

「ん、納得」

「フォォォォォォ」

 

 割とどうでも良い、と言った感じに投げやりな会話を交わす一同。

 

 そんな特殊班の面々を見渡して、ネロは言った。

 

「何をだらけておるか、そなたら。折角の凱旋なのだぞ。もっと胸を張らぬかッ」

「いや、そんなこと言われても・・・・・・」

 

 腕を振り回して抗議するネロに、立香は苦笑するしかない。

 

 サーヴァントですら参るような荒波を越えてケロリとしているネロには、もはや驚嘆するより呆れるしかなかった。

 

「さて、城に戻って戦勝の宴と行きたい所であるが、その前にまず、旅の疲れを落とそうではないか」

「と言うと?」

 

 尋ねる凛果。

 

 正直、何もいらないから休ませてほしいくらいだった。

 

 対して、ネロはニンマリと笑って見せる。

 

「決まっておろう。ローマ人がこよなく愛し、もちろん余も、余程の事が無い限り決して欠かす事が無い、ローマ人必須の文化」

 

 やや大仰に良いながら、ネロは一同を見回す。

 

「湯あみだ!!」

 

 湯あみ、

 

 つまり、風呂と言う訳だ。

 

 確かに古代ローマでは風呂文化が盛んであり、大規模公衆浴場の遺跡が多数発掘されたりもしている。これらの事から、ローマ人が風呂文化をこよなく愛していたと言う研究発表が成されていた。

 

 ネロもそうしたローマ人の例に漏れず、風呂好きであるらしかった。

 

「おお、テルマエ・ロマエ」

「うむ。ローマの風呂は世界一だからな。ローマに来たからには、一度は味合わねば損だぞ」

 

 感心したように手を打つ響に頷くと、ネロは思い出したように言った。

 

「因みに混浴もあるが・・・・・・」

「「「別々でお願いします」」」

 

 とんでもない事を言い出すネロに、凛果、美遊、マシュが異口同音にツッコミを入れる。

 

 確かにローマは性に対して割とおおらかなところがあったらしいが、そこは現代人の少女達。一足飛びに色々と飛び越える訳にも行かないらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネロが自慢するだけの事はあり、城に設置された彼女の専用風呂は超が付くほど豪華な物だった。

 

 浴室の広さは学校の体育館ほどもあり、浴槽はその半分。湯船と言うより、温水プールに近い。

 

 内装も凝った物で、壁と言い床と言い飾られている像と言い、大理石がふんだんに使われ、目を楽しませる色とりどりの花が生けられている。宮殿と言うより神殿と言った風情だ。

 

 湯船にはネロの趣味なのか、バラの花びらが浮かべられ、いい香りが漂って来ていた。

 

 風呂と言う概念だけで見れば、ネロの専用風呂は「極楽」と称しても過言ではなかった。

 

 凛果、美遊、マシュもそれぞれ生まれたままの姿となると、思い思いに湯船へと裸身を沈めて言った。

 

「いやー もう最高ッ まさかローマくんだりまで来て温泉に入れるとは思ってなかったなー」

 

 湯船の中で思いっきり両手足を伸ばしながら、凛果が弛緩しきった表情で言う。

 

 思えばローマを出て以来、主力軍と合流するまで強行軍に次ぐ強行軍。

 

 軍本陣では多少寛げたものの、その後は否応なく戦線投入。

 

 そして、トドメに帰りのジェットコースタークルーズと来た。

 

 まったくもって、心休まる事の出来なかった旅だったが、こうしてゆっくりと湯に浸かる事が出来れば、その苦労も報われると言う物だった。

 

「本当に気持ち良いです。体の疲れが癒されていくのが判るようです」

「そうですね。こうして皆さんと一緒に入るのは、ちょっと恥ずかしいですけど」

 

 傍らにいるマシュと美遊も、そう言って凛果に頷きを返す。

 

 常に最前線で戦ってきた2人である。疲労の度合いも半端な物ではなかっただろう。

 

 少女たちは生まれたままの姿で、存分に心地よい湯加減を堪能していた。

 

「美遊さんは、他の人と入浴した事は無いのですか?」

「家にいたころは、母様とたまに。それ以外には・・・・・・」

 

 元々、朔月家の結界の中で隠されて育てられた美遊である。他人と接する機会その物が極端に少なかった彼女にとって、誰かと一緒に風呂に入る事自体、初めてなのだ。

 

 母に裸を見られるのは慣れているが、同性とは言え他人と一緒に風呂に入る事は、やはり美遊にとっては気恥ずかしい物があった。

 

「そうだね・・・・・・じゃあさッ」

 

 何かを思いついたように、凛果が声を上げた。

 

「カルデアに戻ったら、今度からお風呂は一緒に入ろうよ」

「は・・・・・・はい?」

 

 突然、予想だにしなかった凛果の申し出に、目を丸くする美遊。

 

 いったい、何を言い出すのか?

 

「美遊ちゃんって、今まで友達と遊んだ事とか、無いんでしょ?」

「それは、まあ・・・・・・・・・・・・」

 

 結界の中にいたせいで、友達など作る暇もなかったのだ。

 

「だからさ、これからたくさん、わたし達と一緒に思い出を作っていこうよ、ね。はい決定。あ、これはマスターとしての命令だから。美遊ちゃんに拒否権は無いよ」

「そんな・・・・・・」

 

 横暴な。

 

 いったい、凛果は何を考えてこのような事を言い出したのか。

 

 と、

 

 口を開こうとして、美遊は言葉を止める。

 

 半ば強引に話を進める凛果。

 

 本来なら不快になってもおかしくは無い言動だが、しかし同時に、それが彼女なりの気遣いであると思ったからだ。

 

 今まで友達がいなかった美遊。冬木の戦いで、彼女の家族も全滅してしまっている。

 

 言わば、天涯孤独の身と言っていい。

 

 そんな美遊の為に、凛果は本当の姉のように振舞おうとしているのだ。

 

「あ、もちろん、マシュも協力してくれるよね」

「はい。不詳、マシュ・キリエライト、先輩と美遊さんの為ならば、一肌脱がせていただきます」

 

 よく分からない気合で、充分なマシュ。

 

 そんな年上少女たちの様子に、美遊はクスッと笑う。

 

 聖杯戦争で家族を失い、なし崩し的にカルデアの一員となった美遊。

 

 これまで多くの戦いを経験し、その全てに生き残って来たが、幼い少女の心の中には、常に不安があった。

 

 全てが死に絶えた世界で、自分1人が生き残ってしまったかのような恐怖感。

 

 口にこそ出さなかったが、それは少女の肩に重荷のようにのしかかっていたのだ。

 

 凛果がそれを察したかどうかは判らない。ただマスターとして、否、年上の女として、幼い美遊を支えたいと、そう思ったからこその行動だったのかもしれない。

 

 しかし、そんな凛果の気遣いが、美遊の心を幾分軽くしたのは確かだった。

 

「ありがとうございます、凛果さん、マシュさん」

 

 柔らかく微笑む美遊。

 

 そんな少女の笑顔につられるように、凛果とマシュも共に笑顔を浮かべるのだった。

 

 と、

 

 その時だった。

 

「何を、余を差し置き、3人だけで盛り上がっておるか?」

「ウキャァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 突然のネロの声と共に、素っ頓狂な悲鳴を上げる凛果。

 

 思わず美遊とマシュが肩を震わせてびっくりする中、

 

 いつの間にやって来たのか、

 

 凛果の背後に回ったネロが、彼女の胸を両手で思いっきり揉みしだいていた。

 

「余を無視するでない。寂しいではないか」

「ちょッ ネロッ んッ 胸・・・やめッ あんッ!?」

「ふむ、大きさと言い形と言い、サイズとしては手頃で丁度良い。それでいて、この張り具合、見事と言っても良いだろう」

「あゥっ んッ かいせ、つ・・・しない、でッ んんッ!?」

 

 凛果の胸を揉みまくるネロ。

 

 心なしか、揉まれる凛果の声にも、艶が出始める。

 

 見ている美遊とマシュも、何やら正視しがたい雰囲気に、後じさりする。

 

 しばらく経って、凛果を解放するネロ。

 

 凛果はと言えば、疲れ果てたと言わんばかりに、湯船の中でぐったりとしている。

 

 と、

 

「さて・・・・・・・・・・・・」

「はい?」

 

 突然視線を向けられ、思わず体を退くマシュ。

 

 思いっきり、嫌な予感がした。

 

 次の瞬間、

 

「そぉれ!!」

「キャァァァァァァ!?」

 

 今度はマシュへと襲い掛かるネロ。

 

 マシュも咄嗟に逃げようとしたが、遅かった。

 

「おお、これはこれは、大きさは凛果以上。それでいて見事な張り具合、埋もれた指を押し返すほどの弾力は、もはや極上と言っても差し支えあるまい!!」

「ちょッ ネロさん、やめッ あうッ!?」

 

 悲鳴を上げるマシュ。

 

 確かに、マシュの胸は凛果の物と比べても大きかった。

 

「ふむ。これだけの胸がありながら、あの大盾を振るうとは、流石と言わざるを得んな」

「む、胸は関係、な、ひゃんッ!?」

 

 ひとしきり、マシュの胸を堪能した後、

 

 ネロの目は獲物を狙う獣さながらに、最後の1人へと向けられた。

 

「ひッ!?」

 

 思わず、胸を両手で庇いながら後じさる美遊。

 

 だがネロは、逃がさないとばかりににじり寄る。

 

「ここまで来たのだ。よもや、1人だけ逃げられるとは思っていまい?」

「あ、あの・・・・・・・・・・・・」

「何、案ずるな、痛くはせぬ故な」

「そ、そう言う問題じゃ・・・・・・キャァァァァァァ!?」

 

 逃げようと背を向ける美遊。

 

 その背後から、ネロの両手が覆いかぶさるように掴みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いかん。なぜ、余がこのような扱い受けねばならぬ?」

 

 不満顔の少女が、散々にぶー垂れている。

 

 今現在、ローマ帝国第5代皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスは、

 

 大理石の床に正座させられていた。

 

 その頭には、大きなタンコブがこさえられている。見かねた凛果が、ゲンコツを喰らわせたのだ。

 

 有史以来、ローマ皇帝にグーパンかました一般人は、凛果が初ではなかろうか?

 

「当然でしょッ」

「反省してください、皇帝陛下」

 

 口々に言い募る凛果とマシュ。その体には、体を拭くために借りた大きめの布を巻いている。

 

 美遊はと言えば、涙目で凛果の影に隠れて、両手で自分の胸を庇っている。

 

 11歳女児には、いささか刺激の強すぎる体験であったらしい。

 

 そんな中、

 

「うむ、それにしても、こうして並ぶとやはり良い光景だな」

 

 まったく反省の色を見せないネロは、3人を見比べて、満足そうに頷く。

 

 正確には、3人の胸を見て、だが。

 

「大、中、小と、より取り見取りではないか」

「・・・・・・反省して。お願いだから」

 

 満足げなネロ。

 

 対して凛果は、やや脱力気味に言い募る。

 

 とは言え、

 

 ここで一つ、どうしても気になる事があるので、尋ねてみる事にした。

 

「あのさ・・・・・・まさかと思うけど・・・・・・」

「うん、如何した凛果よ?」

 

 恐る恐ると言った感じの凛果。

 

 対してネロは正座したまま、怪訝な面持ちで凛果を見る。

 

 ややあって凛果は、意を決したように口を開いた。

 

「もしかして・・・・・・ネロって、女の子が好きなの?」

 

 恐る恐る、と言った感じに尋ねる凛果。

 

 聊か突飛な考えではあるが、さっきまで凛果たちの胸を揉みまくっていた事を考えれば、あながち的外れとも思えないところが怖い。

 

 もしそうだとしたら、衝撃の事実である。

 

 まさかローマ帝国の皇帝が同性愛者だった、などと。

 

 下手をしなくても、歴史がひっくり返るレベルである。

 

 対して、

 

「それは違うぞ、凛果」

 

 ネロは、真剣な眼差しで凛果の言葉を否定する。

 

 ホッと、息をつく凛果。

 

 そうだ、そんな事があるはずない。

 

 ローマ皇帝が同性愛者だ、などと言う事にでもなれば、それこそ歴史を揺るがしかねない大事件となるだろう。

 

「そっか、良か・・・・・・」

「余は女が好きなのではない。美しければ男も女も、どっちも好きなのだ!!」

「余計にタチ悪いよ!!」

 

 更にとんでもない事を堂々と宣言してくれちゃった皇帝陛下に、凛果が鋭いツッコミを入れる。

 

 歴史が動いた、どころの騒ぎではない。

 

 いっそ、このままローマの歴史だけ人理焼却させた方が良いのではないか、とさえ思えてくる衝撃だった。

 

「まあ、良いではないか。神代の昔より、美男美女は愛でてこそ、と言う物であろう」

 

 堂々と言い放つネロ。

 

 ここまで言い切れば、いっそすがすがしさすら感じてしまう。

 

 と、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 凛果の背後にいる美遊が、隠れて何やら難しい顔をしている。

 

 自分の胸に手を当てると、ネロ、凛果、マシュのそれと見比べ、また手を当てる。と言う、謎の行動を繰り返していた。

 

「どうかしましたか、美遊さん?」

「あ、い、いや、何でもないです」

 

 尋ねるマシュに、慌てて振り返る美遊。

 

 明らかに、挙動がおかしい。

 

 すると、

 

 近付いて来たネロが、少女の肩をポンと叩く。

 

「あ、あの、ネロさん?」

 

 怪訝な面持ちの美遊。

 

 対して、ネロは真剣な眼差しを向ける。

 

 そして、

 

「奇跡を信じて強く生きよ、美遊」

「ナニがですかッ!?」

 

 意味不明なネロの励ましに、ツッコミを入れる美遊。

 

 言われるまでもなく、美遊の胸が物量的に、他3人に劣っている事は明々白々だろう。

 

 とは言え、彼女はまだ11歳。

 

 その可能性は現在よりも未来にこそ期待できるものがあるのだ。

 

 きっと・・・・・・・・・・・・

 

 たぶん・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 女湯で、女子会トークが花咲いている頃、

 

 一足先に湯から上がった響は、城の廊下を歩いていた。

 

「ん、何か騒がしい」

「フォウッ」

 

 女湯の前を通りかかった時、中から聞こえてきた喧騒に首を傾げる響。

 

 頭の上に乗っかっているフォウも、同意だとばかりに鳴き声を上げた。

 

 女子と違い、男子の入浴は、それほど時間がかからない。

 

 一足先に上がった響は、手持ち無沙汰になったため、城の中を散策していたのだ。

 

 立香も一緒に風呂に入っていたのだが、流石にネロクルーズにグロッキーだったらしく、先に部屋に行って休んでいる。

 

 何気なしに足を進めていると、浮かんでくるのは先の戦いの事だった。

 

 カエサルは強敵だった。

 

 宝具を解放した響でも、互角に持っていくのがやっとな程に。

 

 あのカエサルが、あのまま大人しく引き下がっているとは思えない。必ずまた、次の戦いで出てくる事だろう。

 

『このカエサル相手に「片手間」で戦おうなどと、不敬にも程があろう』

 

 頭の中に響き渡る、カエサルの言葉。

 

「・・・・・・・・・・・・読まれてる」

 

 大英雄をごまかす事はできない、と言う事だろうか。

 

 いずれにせよ、次の対決の時は、お互いに全力を尽くす事になりそうだ。

 

 勿論、負ける気は無い。

 

 だが、相手は仮にも大英雄と呼ばれる存在。一瞬でも気を抜けば、響の敗北はその瞬間に確定するだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・負け、られない」

 

 自分には、成さなければならない事がある。

 

 それ故に、召喚されたのだから。

 

 その為には、

 

「・・・・・・・・・・・・やるしか、ない」

 

 心に秘めた決意と共に呟く。

 

 その時だった。

 

「良い黄昏時ね」

 

 不意に掛けられる声。

 

 振り返る響。

 

 その視線の先には、

 

 1人の少女が佇んでいた。

 

 

 

 

 

第9話「全ての風呂はローマに通ず」      終わり

 


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