Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第16話「鬼剣」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の先に、少女がいる。

 

 その可憐な瞳から、零れ落ちる涙。

 

 ああ・・・・・・

 

 そっか・・・・・・

 

 また、あの子を泣かせちゃった、のか。

 

 もう、これで何度目だろうか?

 

 数える気も、とっくに失せてしまっている。

 

 自分は強くなった。

 

 少なくとも「あの頃」に比べれば。

 

 それでも、

 

 出会う度に、最後には、こうしてあの子を泣かせてしまう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 本当に、嫌になる。

 

 なぜ、こんな想いをしてまで、戦わなくてはならないのか?

 

 いっそ、自分などいない方が良いんじゃないか? その方が、あの子の為なんじゃないのか?

 

 そんな風に思ってしまう。

 

 枯れた瞳からは、もう涙も零れてこない。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 もう一度、少女を見る。

 

 たとえ、

 

 あの子が望まなかったとしても、

 

 あの子に恨まれたとしても、

 

 あの子に否定されたとしても、

 

 あの子を守る為ならば、何度でも立ち上がってやる。

 

 手にした刀を、強く握りしめる。

 

 その為に、

 

 自分は、強くなったのだから。

 

 

 

 

 

 突撃してくるカエサル。

 

 速い。

 

 その巨体に似合わぬ、突撃速度で響に迫るカエサル。

 

 手にした黄金の剣が、大気を斬り裂く。

 

 振り下ろされた一閃を、

 

 響は逆袈裟に斬り上げて迎え撃つ。

 

 激突する互いの刃。

 

 次の瞬間、

 

 迸る衝撃。

 

 響とカエサルは、互いに弾かれたように後退する。

 

「「ッ!?」」

 

 着地。

 

 響は足裏でブレーキを掛けながら体勢を整える。

 

 ほぼ同時に、剣を構え直すカエサル。

 

 斬りかかったのは、

 

 響の方が早い。

 

「んッ!!」

 

 切っ先をカエサルに向け、踏み込む。

 

 加速する少年。

 

 餓狼一閃の構えだ。

 

 鋭い輝きを放つ切っ先。

 

 だが、

 

「甘いわァ!!」

「クッ!?」

 

 響が加速に入る直前、間合いを詰めたカエサルが響の剣先を払う。

 

 バランスを崩す響。

 

「同じ手が二度も通用すると思うなァッ!!」

 

 次の瞬間、

 

 裏拳気味に放ったカエサルの拳が、響の顔面を殴り飛ばした。

 

 そのまま二度、三度と地面をバウンドして吹き飛ばされる暗殺者の少年。

 

 どうにか体勢を立て直す響。

 

 痛みを堪えて、眦を上げる。

 

 だが、

 

 その眼前に、

 

 黄金の切っ先が、

 

 突き込まれた。

 

「ッ!?」

 

 とっさに、首を横に倒して回避する響。

 

 髪が数本、斬られて宙に舞う。

 

 飛び散る鮮血。

 

 額が、僅かに斬られた。

 

 だが、

 

 幼くも鋭い視線は、カエサルを捉え続ける。

 

 同時に、

 

「やあッ!!」

 

 体の回転そのままに、回し蹴りを繰り出す。

 

 狙いは、カエサルのこめかみ。

 

 少年のつま先が、

 

 大英雄の側頭部に、鋭く突き刺さった。

 

「ぐおッ!?」

 

 思わず、数歩よろけるカエサル。

 

 その間に響は、後退して体勢を立て直す。

 

「・・・・・・・・・・・・やってくれるではないか」

 

 刀を構える響。

 

 対してカエサルも体を起こして剣を持ち上げる。

 

 両者、互角。

 

 響は宝具「盟約の羽織」を発動した事で、ステータス的にもカエサルに劣っていない。

 

 互いの戦闘力は、今や完全に伯仲していると言っていいだろう。

 

 だがそれ故に、響とカエサルの戦いは、互いに決め手を欠いたまま消耗戦の様相を見せ始めている。

 

 このまま戦いを繰り返し応酬を続ければ、先に魔力が尽きた方が負けとなる。

 

 となると、

 

 勝負を決めるのは、別の要素が必要となる。

 

 すなわち、英霊の切り札たる宝具に他ならない。

 

 しかし、響は既に宝具である「盟約の羽織」を使用し、更には切り札とも言うべき餓狼一閃を防がれてしまった。

 

 餓狼一閃の威力も、発動のタイミングも、カエサルは既に完璧に把握している。

 

 もう、あの技はカエサルには通用しないだろう。

 

 対して、

 

 カエサルはまだ、切り札を残しているのだ。

 

「それでは、行かせてもらうぞ」

 

 カエサルの中で、魔力が高まる。

 

 輝きを増す黄金の剣。

 

 その怪しい輝きが、響を真っ向から射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響とカエサルが激突している頃、美遊とレオニダスもまた、対峙を続けていた。

 

 黄金の剣を振り翳して斬り込む白百合の剣士。

 

 対して、守護の大英雄は、その悉くを受け止め、小動すらしていない。

 

 基本的に、美遊が攻めてレオニダスが防ぐ、と言う構図が続く戦い。

 

 一見すると、互角の勝負に見える。

 

 しかし、攻める美遊の消耗は、明らかに激しい。

 

 機動力を如何無く発揮した激しい動きに加え、攻撃力自体を底上げする為に魔力放出まで使用している。

 

 いかに大英雄アルトリア・ペンドラゴンの霊基を受け継ぎ、オリジナルの聖杯として莫大な魔力を誇る美遊と言えども、このような戦い方をしていては、あっという間に息切れを起こしてしまうだろう。

 

 事実、

 

 既に何度目かの攻撃を防がれた直後、美遊は疲れ果てたように剣先を地面に落とした。

 

 肩で息をする少女。

 

 対して、

 

 スパルタの大英雄は、余裕を持った態度で、ゆっくりと盾と槍を下した。

 

「愚直ですな」

 

 静かな言葉。

 

 とは言え、内容とは裏腹に、どこか少女を気遣うような響きが感じられる。

 

「そのような戦い方をしていては、いずれこうなる事は、あなたにも判っていた筈でしょう」

 

 仮面の奥から、優し気に声を掛ける。

 

 ああ、そうか・・・・・・

 

 美遊は荒い息を吐きながら顔を上げ、レオニダスを見やる。

 

 スパルタの大英雄、レオニダス王。

 

 「スパルタ教育」の語源にもなったとされる事から、厳しい人物像を想像していた。

 

 実際、厳しい面もあるのだろう。

 

 だがそれ以上に、彼には底知れない優しさがあった。

 

 彼は自分の仲間を、家臣を、そして多くの民を、心から慈しみ、護りたいと願っている。

 

 だからこそ誰もが彼を想い、彼を慕い、彼に着いて行きたいと思った。

 

 それ程の強さと、優しさを兼ね備えた英雄なのだ。

 

 そうでなければ兵士たちが、絶望的なテルモピュライの戦いに身を投じる事は無かっただろう。

 

 レオニダス王は、ただ1人でそこに立っているわけではない。

 

 共に戦った仲間たちの想いを背負い、立ち続けているのだ。

 

 だが、

 

「それでも・・・・・・・・・・・・」

 

 立ち上がる美遊。

 

「負けられない・・・・・・私が、私である限り」

 

 決意と共に眦を上げる。

 

 背負っている物があるのは、美遊とて同じこと。

 

 自分に全てを託して散っていったかつての友。

 

 ブリテンの騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

 

 彼女の想いと、

 

 彼女が託してくれた剣に賭けて、

 

「負ける訳に、いかないッ!!」

 

 溢れ出る魔力。

 

 美遊の体が光り輝く。

 

 同時に、その姿にも変化が訪れた。

 

 胸部や腕を覆っていた甲冑が消失。

 

 少女は、白いドレスを纏っただけの姿となる。

 

 防御を捨て、身軽になった少女は、より一層、可憐な花のような印象となる。

 

 溢れ出る魔力が、少女の手にした剣へと集中する。

 

 レオニダスを真っ向から睨み据える美遊。

 

 可憐な双眸が、大英雄と交錯する。

 

「来ますかッ!?」

 

 対して、盾を掲げて迎え撃つ体制を取るレオニダス。

 

 次の瞬間、

 

「これで、決めるッ」

 

 静かな呟きと共に、

 

 美遊は仕掛けた。

 

 強烈な魔力放出。

 

 加速する、少女剣士。

 

 その様は、さながら白き彗星の如く。

 

 対抗するように、盾を構える守護の大英雄。

 

「来なさいッ!!」

 

 全ての魔力を守護に回すレオニダス。

 

 向かい合う、両者。

 

 互いの信念を掛けて、激突した。

 

 そして、

 

 ザンッ

 

 鳴り響く、甲高い異音。

 

 時が止まったように、制止する両者。

 

 美遊とレオニダス。

 

 互いの視線が、至近距離で交錯する。

 

 次の瞬間、

 

「・・・・・・・・・・・・お見事」

 

 仮面の奥から、レオニダスの賞賛が聞こえる。

 

 同時に、大英雄の体は、金の粒子となって解れていく。

 

 その胸元に、

 

 美遊の剣の切っ先が、深々と突き刺さっていた。

 

 美遊の剣はレオニダスの盾を貫通し、彼を刺し貫いたのだ。

 

 その盾が、真っ二つに割れている。

 

 その様子に、レオニダスは仮面の奥でフッと笑う。

 

「やられました・・・・・・全ては最後の一撃を行う為の布石だったとは・・・・・・」

「あなたが強いのは知っていた。だから、戦う時の為に、作戦を考えておいた」

 

 消え行くレオニダスに、美遊は淡々とした口調で語り掛ける。

 

 高すぎるレオニダスの防御力を打ち破る為に、美遊は賭けに出たのだ。

 

 全ては最後の一撃の為。

 

 前半の猛攻は、全て布石に過ぎなかった。

 

 美遊は初めからレオニダスの盾に集中攻撃を加えてその強度に綻びを作り、最後の一撃でもって一気にトドメを刺したのだ。

 

「それだけ、あなたの防御が強すぎた。まともにやっていたら、たとえ全力で攻撃を仕掛けても打ち破る事は出来なかった」

 

 美遊がそう言っている間に、レオニダスの姿は光となって消えていく。

 

「まったくもって見事としか言いようがない。それに比べて、私ときたら・・・・・・・・・・・・」

 

 レオニダスには自覚できていた。

 

 今の自分が「全力」とは程遠いと言う事を。

 

 本来、レオニダスは守護の英霊。その力は、「護るべき存在」を持つ事によって、はじめて発揮される物だ。

 

 だが、今のレオニダスには、護るべき物は何もない。それどころか、ローマと言う平和に暮らしていた国の人々から、多くの物を「奪う」側に立って戦っている。

 

 この戦いはレオニダスにとって、あまりにも辛い戦いでしかなかったのだ。

 

 これでは、英霊として十全に力を発揮できるはずもなかった。

 

 とは言え、そんな物は何の言い訳にもならないし、そもそもレオニダスにとっては些事に過ぎない。

 

 自分も、そして美遊も全力で戦った。

 

 その結果、自分は敗れた。

 

 その結果を、満足と共に受け入れていた。

 

「ありがとうございました。小さき少女」

「え?」

 

 突然の礼に、顔を上げる美遊。

 

 美遊は自覚していなかった。

 

 自分が、目の前の英霊の心を救った事を。

 

 見つめる美遊。

 

 その視線の先、

 

 仮面の奥で、

 

 レオニダスが笑ったような気がした。

 

「次に会う時は・・・・・・できれば、そう、味方で共にありたいものですな。それまで、どうか壮健で」

 

 その言葉を最後に、消えていくレオニダス。

 

 後には、立ち尽くす美遊だけが残された。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 大きく、息を吐く美遊。

 

 何とか、勝つ事が出来た。

 

 だが、流石は守護の大英雄。その硬さは噂に違わない物だった。

 

 だが、

 

「私も、まだまだ・・・・・・・・・・・・」

 

 手にした剣を見詰めながら、美遊は嘆息気味に呟く。

 

 今回、美遊は奇策を用いてレオニダスを打ち破ったが、本来のアルトリアの実力をもってすれば、レオニダス相手に劣っているはずが無い。

 

 それでも苦戦を強いられたと言う事は、美遊がまだ、アルトリアの霊基を完全には使いこなせてはいない事を意味している。

 

「もっと、頑張らないと」

 

 どこか、思いつめたように呟く。

 

 そうでなければ、自分に全て託して散って行ったアルトリアに申し訳なかった。

 

 と、

 

 その時だった。

 

 突如、視界の先で、魔力が増大する気配を感じて顔を上げる。

 

 尋常じゃないほどの魔力放出。

 

 その方角では確か・・・・・・・・・・・・

 

「響ッ」

 

 相棒たる少年の名を叫ぶ美遊。

 

 その足は、知らずの内に駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地に、倒れ伏す。

 

 体に、力が入らない。

 

 明らかな致命傷。

 

 視界は既に暗くなり、周りをよく見る事すらできない。

 

 ああ、

 

 死ぬんだ。

 

 少年は、漠然とそう思う。

 

 けど・・・・・・・・・・・・

 

 閉ざされかけた視界の中で、

 

 それだけは、一際はっきり見る事ができる。

 

 少女の姿。

 

 目を涙で腫らし、必死に自分に呼びかけているのが判る。

 

 ああ・・・・・・・・・・・・

 

 イヤだな。

 

 もう、少女の声を聴く事もできない。

 

 死ぬ前に、もう一度くらい、聞いておきたかったのに。

 

 けど、

 

 もう、良いや。

 

 だって、

 

 「今度」も守る事が出来たんだから。

 

 だから、もう良い。

 

 やがて、

 

 目の前にいる少女の姿も、掠れて見えなくなっていく。

 

 閉ざされる意識の中で最後に、少女の幸せだけを願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強くならなければ。

 

 

 

 

 

 そう思った。

 

 

 

 

 

 誰よりも強く、

 

 

 

 

 

 あの子を守る為に。

 

 

 

 

 

 誰よりも速く、

 

 

 

 

 

 あの子のピンチに駆け付ける為に。

 

 

 

 

 

 その為だけに、強くなろう。

 

 

 

 

 

 そう、決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カエサルの猛攻は、さらに激しさを増していた。

 

 繰り出される剣閃は、次々と響に襲い掛かる。

 

 対して、

 

 機動力を駆使して、その攻撃を悉く回避していく響。

 

 浅葱色の羽織を靡かせてカエサルの剣を回避する姿は、まるで同色の小動物を見ているかのようだ。

 

「どうしたッ 逃げているだけでは私は倒せぬぞ!!」

 

 挑発するようなカエサルの言葉。

 

 対して、

 

 響は彼が繰り出したカエサルの剣を、辛うじて刀で弾く。

 

 だが、

 

 同時に、手のひらに感じる痺れ。

 

 重い。

 

 カエサルの攻撃が、ここに来て更に重みを増してきている。

 

 より鋭く、

 

 より速く、

 

 カエサルの剣は、響を斬るべく、その輝きを増す。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちする響。

 

 辛うじて相手の剣を弾くと、後方に大きく跳躍。距離を稼ぐ。

 

 一方のカエサルも、響の逆撃を警戒してか、不用意に距離を詰めてはこない。

 

 だが、

 

 響は見た。

 

 カエサルに絡みつくようにして縋る、美女の幻影を。

 

 アサシン、ブルータス。

 

 先に散った女暗殺者が、カエサルに力を与えているのだ。

 

 冗談のような考えだが、そうとしか思えない。

 

 それ程までに、今のカエサルは異様だった。

 

 拮抗しかけた天秤は、再びカエサルの側に傾いている。

 

 次の瞬間、

 

「では、そろそろ終わらせようではないか」

 

 爆発的に高まる魔力。

 

 同時に、響の中で緊張感が増す。

 

 この圧倒的な魔力上昇。

 

 カエサルが、宝具開放に踏み切った事は明らかだった。

 

 

 

 

 

「私は来たッ!!」

 

 

 

 

 

 力強く宣言する大英雄。

 

 

 

 

 

「私は見たッ!!」

 

 

 

 

 

 突撃するカエサル。

 

 

 

 

 

「ならば後は、勝つだけの事!!」

 

 

 

 

 

 それは、彼が持つ伝説の一つ。

 

 ヒスパニア戦役の際、腹心であるマティウスに送った手紙の中で、極シンプルに「来た、見た、勝った」のみ書かれていたと言う。

 

 そのシンプルさもそうだが、「来た、戦った、勝った」ならともかく、真ん中を「見た」にした当たり、どこかカエサルの洒落さを思わせるエピソードとして、現代にも語り継がれている。

 

 そして、

 

 この詠唱こそが、

 

 彼の宝具を解放するキーとなる。

 

 見据える響。

 

 カエサルはついに、宝具使用に踏み切った。

 

 つまり、ここが勝負の決め所と考えたのだ。

 

 ならば、

 

 こちらも相応の手段をもって迎え撃たねば、返り討ちにあうのは火を見るよりも明らかだった。

 

 剣を振り翳し、少年暗殺者を斬り捨てるべく迫るカエサル。

 

黄の死(クロケア・モース)!!」

 

 縦横に振りぬかれる、無数の剣閃。

 

 その一撃一撃が、まさしく必殺。

 

 対して、

 

 響は自身に向かってくる無数の剣閃を静かに見据え、

 

 次の瞬間、

 

 動いた。

 

 地を駆ける響。

 

 同時に、

 

 手にした刀を鞘へ納刀。

 

 前傾姿勢のまま、間合いへと飛び込む。

 

「疑似・魔力放出・・・・・・」

 

 低く呟く響。

 

 視線は、剣を振るうカエサルを捉える。

 

 鯉口を切る。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼剣(きけん)蜂閃華(ほうせんか)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鞘奔る剣閃。

 

 駆け上がる閃光。

 

 その速さ、まさしく神速。

 

 この一撃をもって、

 

 カエサルの放つ、全ての剣閃が斬り飛ばされる。

 

 激突する視線。

 

 交錯する、互いの剣。

 

 すれ違う、両者。

 

 一拍、置いて

 

 背中を向け合う、響とカエサル。

 

 静寂が一瞬、戦場の大地を支配する。

 

 ややあって、

 

「・・・・・・・・・・・・やれやれ、やればできるではないか」

 

 カエサルの口から、苦笑が漏れた。

 

「これほどの物を出し惜しみするな。愚者の所業だぞ、それは」

 

 どこか、楽しげな声で告げるカエサル。

 

 その体には、

 

 斜めに斬線が走っているのが見える。

 

 対して、

 

 振り返った響に傷は無い。

 

 カエサルが放つ宝具よりも一瞬早く、

 

 響の剣が、彼を斬り裂いたのだ。

 

 勝敗は、決した。

 

 金色の粒子となって、解けていくカエサル。

 

 その口元に笑みを浮かべて言った。

 

「良いか小僧。貴様に守りたい物があるのなら、決して躊躇うな。躊躇えばその瞬間、全てが終わると思え」

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 カエサルの言葉に、頷く響。

 

 その様子に満足したのか、カエサルは踵を返す。

 

「では、私は行く。あまり、待たせたくないのでな」

 

 そう言って、手を伸ばすカエサル。

 

 その手が、傍らに立つ美女の肩を抱いた。

 

 見つめ合う2人。

 

 その互いの顔には、本当に幸せそうな笑顔が浮かべられていた。

 

 一瞬、

 

 ほんの一瞬、

 

 羨ましい。

 

 響は、そう思った。

 

 2人は、あんなにも互いを想い合っているのだ。

 

 そう、死した後も。

 

 と、

 

 そんな響に背を向けて歩き出すカエサル達。

 

 同時に、2人の姿は風に吹かれるように消えていくのだった。

 

 その様子を、最後まで見送る響。

 

 手にはまだ、カエサルを斬った時の感触が残っていた。

 

 カエサルに言われるまでもなく、躊躇うつもりなどない。

 

 彼の言う通り、自分には守りたい物があるのだから。

 

 その為に、自分は強くなったのだから。

 

「響ッ!!」

 

 呼び声に導かれて振り返る。

 

 その視界の先で、純白の戦装束を着た少女が駆けてくる姿が見える。

 

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 少女の名を呟く響。

 

 そのまま、少女に向かって静かに手を振った。

 

 

 

 

 

第16話「鬼剣」      終わり

 




響の新設定、ようやく出せた。
もう少し後(3章辺り)でも良いかと思っていたのですが、ここらがちょうど良さそうだったので。

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