Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第20話「魔神柱」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 応酬を繰り広げる、響とロムルス。

 

 振り下ろされる槍の一撃一撃が。巨大な圧力を伴って襲い来る。

 

 対して、

 

 響は敏捷全開で接近。刃を袈裟懸けに繰り出す。

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 視界を両断するように迸る刃。

 

 人知を超える程の速度で放たれた一撃を、

 

 しかしロムルスは槍を返し、柄で受け止めて防御する。

 

 激突する両者。

 

 響の剣は、ロムルスに受け止められる。

 

 次の瞬間、

 

「ぬんっ!!」

 

 膂力任せに繰り出されるロムルスの一閃。

 

 響の小さな体は、まるでボールのように弾き飛ばされる。

 

 だが、

 

「んッ!!」

 

 とっさに空中で宙返りすると、着地。

 

 そのまま、切っ先をロムルスに真っすぐ向けて構える。

 

 次の瞬間、

 

 地を蹴る。

 

「餓狼一閃!!」

 

 一歩ッ

 

 二歩ッ

 

 三歩ッ

 

 音速まで加速した響の刃は、餓狼の牙と化してロムルスへと襲い掛かった。

 

「ぬゥッ」

 

 対して、槍を構えて防御の姿勢を取るロムルス。

 

 次の瞬間、

 

 両者は激突する。

 

 凄まじい突進力でロムルスに襲い掛かる響。

 

 対して、ロムルスも両足を踏ん張って、響の突貫を受け止める。

 

「ぐゥゥゥ!?」

 

 響の凄まじい一撃。

 

 ロムルスは両足を床に着いたまま、大きく後退する。

 

 しかし、

 

 ロムルスは耐えきった。

 

「ッ」

 

 舌打ちする響。

 

 切っ先は、神祖の体には届いていない。

 

 飢えた狼の牙も、神を貫くには能わなかったのだ。

 

 まさか盟約の羽織を纏い身体能力を強化し、本気で放った餓狼一閃を、真正面から受け止められるとは思っていなかった。

 

 間合いを取る響。

 

 対して、ロムルスは槍を構えたまま佇んでいる。

 

 どうやら、追撃を掛ける意思は無いようだ。

 

 その間に、響は刀を構えて体勢を立て直した。

 

 睨み合う、両者。

 

 さすが、建国王と呼ばれる大英雄。ロムルスの戦力は、響には計り知れない物がある。

 

 生半可な攻撃では、対抗できないだろう。

 

 ならば、どうする?

 

 どう攻める?

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 鬼剣

 

 響の思考は自然と、その答えに、たどり着く。

 

 だが、鬼剣は響にとって、最強の切り札である。

 

 他の英霊で言えば宝具に等しい。

 

 響にとって、宝具である「盟約の羽織」は、身体能力を強化し、アサシンでありながらセイバーに等しい戦闘力が発揮可能になる。しかしその本質からして、どちらかと言えば補助武装に当たる。

 

 それを考えれば、少年にとって真の切り札は、直接攻撃手段であり、大英雄ですら一撃で屠る事が可能な鬼剣の方であると言えた。

 

 だが切り札とは往々にして、切り時を間違えれば、逆に危機を呼び込む事に繋がりかねないのだが、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 刀を鞘に納める響。

 

 迷っている時間は、とうに過ぎた。

 

 高まる、両者の魔力。

 

 腰を落とし、刀の柄に手を掛ける響。

 

 対抗するように、槍を構えるロムルス。

 

 次の瞬間、

 

 突如、

 

 天井に亀裂が走り、一気に崩れ落ちた。

 

「なッ!?」

 

 自分の頭の上に落下してくる瓦礫を前に、思わず目を見張る響。

 

 少年の頭上に、身体よりも大きな瓦礫がいくつも落ちてくる。

 

 あんなものに押しつぶされれば、たとえサーヴァントでもひとたまりも無いだろう。

 

「クッ!?」

 

 とっさに飛びのこうとする響。

 

 だが、殆ど天井全てが落ちて来るに等しい状況で、逃げ場などどこにもない。

 

 躊躇う、暗殺者の少年。

 

 その、一瞬の隙を、

 

 突かれた。

 

 突進してくるロムルス。

 

 その腕が、響に向かって伸ばされる。

 

「んッ!?」

 

 とっさに逃げようとするが、もう遅い。

 

 次の瞬間、

 

 響の視界は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 その様子にいち早く気付いたのは、城壁の外で指揮を執っていたブーディカだった。

 

 既に、粗方の戦闘は終了している。

 

 連合ローマ軍の守備隊は壊滅。全ての防御陣地は正統ローマ軍が占拠するところとなり、実質、首都の支配権は完全に正統ローマ軍が掌握するところとなっていた。

 

 既に連合ローマを見限った兵士達にも降伏する者が相次いでいる。

 

 尚もしぶとく抵抗している者達もいるが、そうした連中はごくわずかだ。

 

 ブーディカはそうした残党たちをむやみに攻撃することなく、降伏の使者を送って投降を促す戦術に切り替えている。

 

 もう、戦いは終わったのだ。ならば、無駄に血を流すべきではなかった。

 

 そうした事後処理作業を進めている最中だった。

 

 ふと、違和感を感じて、ブーディカは足を止める。

 

「・・・・・・・・・・・・何だ?」

 

 一瞬、微かに地面が揺れたような気がしたのだ。

 

 足元を見るが、何も無い。

 

 気のせいだろうか?

 

 そう思って、首を傾げる。

 

「どうかしたか?」

「いや、ちょっと変な気が・・・・・・・・・・・・」

 

 傍らに立つ荊軻が、訝るように尋ねるのに対し、怪訝な顔つきで応じる。

 

 いったい、さっきのは何だったのか?

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 ズンッ

 

 

 

 

 

 今度は、はっきりとわかるくらい明確に、地面が震動した。

 

「なッ!?」

「これはッ!?」

 

 驚きの声を上げる、ブーディカと荊軻。

 

 彼女達だけではない。周りの兵士達も異変に気が付いたのか、戸惑う声を上げているのが見える。

 

 その時だった。

 

 突如、

 

 王城のある方角から、巨大な破壊音が響き渡った。

 

 とっさに振り返る。

 

 そこで見た物は、歴戦の英霊達をして、思わず怖気を振るいたくなるような光景だった。

 

 王城の天井を破壊する形で、1本の柱が天に向かって聳え立っている。

 

 その姿は黒い表面に赤い亀裂が何本も走り、その亀裂の中には巨大な眼球がいくつも開いて、こちらを見据えている。

 

 果たして、この世にこれほどおぞましい物が存在していたのか?

 

 そう思いたくなるくらい、醜悪な柱だった。

 

「な、何なのだ、あれはッ!?」

「判らないよッ 判らないけど、まずい状況なのは確かみたいだッ」

 

 言っている間にも「柱」へ成長し続けている。

 

 最早、見上げる事すら困難な程だ。

 

「ともかく、生き残った兵士たちを退かせるよッ どう考えても、近付くとやばいだろうし!!」

「同感だ!!」

 

 ブーディカの指示を受け、荊軻は走り出す。

 

 中堅指揮官達にブーディカの指示を伝達し、各部隊ごとに撤収させるのだ。

 

 走っていく荊軻を見送ると、ブーディカは再び王城へと目を向ける。

 

 あそこにはまだ、彼女の仲間達が戦っているはず。

 

 立香、

 

 凛果、

 

 響、

 

 マシュ、

 

 美遊、

 

 そして、ネロ。

 

「みんな・・・・・・無事でいてよ」

 

 祈りを乗せて呟くブーディカ。

 

 その視界の中で、尚も巨大な柱は成長を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況の変化は、カルデアでも観測されていた。

 

 突如、現れた異常数値。

 

 それが表す状況は、もはやカルデアの想定をも上回っていた。

 

「立香君や、凛果君からの連絡はまだ無いのかい!?」

「ありませんッ 先程から何度も呼びかけているのですが・・・・・・」

 

 問いかけるロマニに、オペレーターのアニー・レイソルが答える。

 

 その他のオペレーターたちも、先程からローマにいる藤丸兄妹に呼びかけている。

 

 しかし、マスター達からの反応が返ってくる様子は無い。

 

「引き続き、呼び出し続けるんだ。とにかく2人の安否確認が最優先。良いね!!」

「はいッ」

 

 ロマニの指示に応え、自身もオペレーター作業に戻るアニー。

 

 その姿を見ながら、ロマニは険しい表情をする。

 

 その脳裏には先程、レフが言い放った言葉が響く。

 

「ソロモン72柱・・・・・・魔神・・・・・・いや、そんな馬鹿な・・・・・・」

 

 うわごとのように呟くロマニ。

 

 レフが言っていた事が正しければ、黒幕の正体は・・・・・・・・・・・・

 

「まさか、そんなはずが無い・・・・・・だって、それじゃあ僕は・・・・・・」

 

 ロマニの脳裏に浮かぶ絶望。

 

 明晰な彼の頭脳は、既にある「答え」を導き出している。

 

 だが、

 

 その「答え」がもたらす結果は、あまりにも恐ろしい物であった。

 

 と、その時だった。

 

「落ち着けよ、ロマン」

「レオナルド・・・・・・・・・・・・」

 

 ロマニの肩に、ダ・ヴィンチが手を添える。

 

 万能の天才たる女性は、狼狽を隠せないでいるロマニに語り掛ける。

 

「『それ』を考えるのは後にしよう。幸いにして、検証する時間はまだあるだろうしね。それに・・・・・・」

「それに?」

 

 問いかけるロマニに、ダ・ヴィンチは笑いかけた。

 

「子供たちを信じてやりなよ。立香君も、凛果ちゃんも、マシュも、響君も、美遊ちゃんも、君が思っているよりずっと強いぜ」

 

 ダ・ヴィンチがそう言った時だった。

 

「立香君と凛果ちゃんのビーコンを確認ッ 2人とも生きてますッ 司令代行!!」

 

 アニーがもたらした報告に、ダ・ヴィンチが顔をほころばせる。

 

「な?」

「・・・・・・そうだね」

 

 釣られて、笑みを浮かべるロマニ。

 

 そうだ。今の自分はカルデアの司令代行だ。自分が彼らを信じずして、いったい誰が信じると言うのか。

 

「直ちに2人の魔術回路にコンタクト。異常が無いかチェックッ 完了次第、魔力供給を再開して!!」

「了解ッ!!」

 

 オペレーターの返事を聞きながら、ロマニは再びモニターの方へと目を向ける。

 

「頼むぞ、立香君、凛果ちゃん・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 その姿を見た瞬間、ブーディカは心の底から安堵のため息を吐いた。

 

 崩れ落ちようとする首都の外壁。

 

 湧き上がる粉塵を越えるようにして、カルデア特殊班の面々が飛び出して来たからだ。

 

 立香はマシュが、凛果は美遊がそれぞれ抱きかかえている。

 

 ネロは原初の火(アエストゥス・エストゥス)を構え、先頭を走ってくる。どうやら、崩れ落ちる瓦礫を斬り払いながら、先頭を突っ切ってきたらしい。

 

「ネロ、無事だったのかいッ!?」

 

 駆けてくる皇帝を出迎えるブーディカ。

 

 その姿を見て、ネロも手を振る。

 

「ブーディカ、よくぞ皆を纏めてくれたッ」

「ああ。異変が起きて、すぐに全軍を後退させた。だから、ローマ軍の死傷者はほとんどいないはずだよ。けど・・・・・・」

 

 言ってから、ブーディカは少し顔を曇らせる。

 

「まだ降伏していなかった連合ローマ兵は結構な数いたみたいだからね。そいつらは、崩壊に巻き込まれちまったよ」

「そうか・・・・・・・・・・・・」

 

 ブーディカの報告に、ネロも顔を曇らせる。

 

 全員を助ける事が出来なかったのは、彼女にとっても無念の極みである。

 

 敵味方に分かれたとはいえ、元は同じローマの民。できれば、全てを助けたかった。

 

 不可能だと言う事は判っていても、そう思わずにはいられなかった。

 

 だが、今はまだ、後悔している時ではなかった。

 

 王城を突き破る形で出現した「柱」。

 

 その眼球から発せられる閃光は、今も尚、破壊と殺戮を齎している。

 

「確かレフ教授は、自分の事を魔神って言ってたよな」

「うん。そう言えば、何とかの魔神って・・・・・・」

 

 兄の言葉に、頷きを返す凛果。

 

 随分と大仰な事を言ったものだが、あの光景を見れば、確かに頷く得る。

 

 天を衝いて聳え立つ「柱」は確かに、おぞましくも不気味な存在感を放っている。

 

 まさしく、「魔神」と言っていいほどの代物だった。

 

「魔神柱、か・・・・・・・・・・・・」

 

 彼方の柱を見て呟く立香。

 

 正直、今まで見た事も無い敵の形である。いったい、どう戦えばいいのか、見当もつかなかった。

 

 と、

 

「諦めるなッ!!」

 

 響き渡る、凛とした声。

 

 サーヴァント一同、振り返る中、

 

 緋の戦装束を靡かせて、ネロ・クラウディウスは、敢然と魔神柱を睨み返していた。

 

「いかな敵が強大であろうとも、恐るるに能わず!! なぜなら、この余がッ ネロ・クラウディウスが健在であり続けるからだ!! 余が健在である限り、決して負ける事はあり得ぬ!!」

 

 ネロの言葉が響き渡り、

 

 その声は、一同の脳裏に澄んだ水のように染み渡る。

 

 まるで酩酊にもにた感覚の中、一同の胸が熱くなる。

 

 何もいらず、

 

 ただそこにいるだけで、全ての人間を魅了する存在。

 

 それこそがネロ・クラウディウスに他ならなかった。

 

「行くぞ皆の者ッ これよりは全てのローマを守る戦いッ いざッ 余に続けェ!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 一足に駆け出すネロ。

 

 その姿を見て、真っ先に反応したのは、

 

「おおッ あれを見よ!! 反逆の皇帝がいよいよ圧制者に牙を剥いたぞッ さあッ 我らも続くのだ!!」

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 スパルタクス、呂布の両バーサーカーだった。

 

 それぞれの武器を振り翳し、ネロに続いて突貫していく。

 

 その様に、ブーディカが割と本気で頭を抱える。

 

「あーもうッ だから、皇帝陛下が真っ先に突撃すんなっての!!」

「言っても無駄よ。だってネロだもの」

「確かに。暴れ牛を素手で押し留めるに等しいな、あれは」

「アハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 慌てて駆け出すブーディカに続き、エリザベート、荊軻、タマモキャットもそれぞれ続く。

 

 その様子を見て、立香はマシュと美遊を見た。

 

「2人とも。ネロ達の援護を。今度こそ、レフ教授・・・・・・いや、レフ・ライノールを討つんだ」

 

 立香は、あえて言い直した。

 

 あの男は、既にカルデアの仲間で、オルガマリーの右腕だっただったレフ教授ではない。倒すべき敵、レフ・ライノール・フラウロスなのだ。

 

 ならば、躊躇うべき理由の、何物も存在しなかった。

 

「判りました。マシュ・キリエライト。これより、レフ・ライノールを討つべく突撃します」

 

 言い放つと同時に、盾を振り翳して駆けだす。

 

 一方、

 

 美遊は剣を持ったまま、立ち尽くしている。

 

 幼い剣士の少女は、どこか落ち着かない雰囲気で、周囲を見回している。

 

 まるで、何かを探しているかのようだ。

 

「どうしたの、美遊ちゃん?」

「あ、いえ・・・・・・」

 

 凛果に声を掛けられ、美遊は我に返る。

 

 心の中にある心配を、首を振って追い払う。

 

 そうだ、何も心配なんていらない。

 

「すみません、凛果さん、立香さん、私も行きます」

「あ、うん、お願いね」

 

 凛果の言葉を背に、剣を翳して駆けだす美遊。

 

 白き少女の向かう先には、尚もおぞましい姿を見せる魔神柱の姿がある。

 

 無数にある眼球は、既に先行したネロたちへ攻撃を開始していた。

 

 躊躇う事無く、飛び込んでいく美遊。

 

 ただ、

 

 その傍らに、いつもいるはずの少年がいない事には、少しだけ寂しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に崩壊する、城の外壁。

 

 そこにいた多くの人々の命を飲み込み、かつて連合の首都だった城は崩壊していく。

 

 その様はまさに、戦争の終結を告げるにふさわしいと言えた。

 

 この戦い、正統ローマ軍の勝利である事は、誰の目から見ても明らかな事だった。

 

 だが、

 

 その城を突き破る形で出現した魔神柱フラウロス。

 

 これを打ち破らない事には、まだ何も終わらないのも事実であった。

 

 そんな中、

 

 崩れ落ちる外壁を飛び越えるようにして、巨大な影が飛び出して来た。

 

 ロムルスだ。

 

 神祖は一足飛びで瓦礫を踏み越えると、安全地帯に着地する。

 

 そして、

 

「・・・・・・・・・・・・無事、か?」

 

 尋ねる声。

 

 それに対し、

 

「ん」

 

 幼い声で返事が返った。

 

 抱えていた腕を開くロムルス。

 

 その腕の中から、

 

 飛び出して来たのは響だった。

 

 地に降り立った響は、ロムルスに向き直る。

 

「ローマ、ありがとう」

「うむ」

 

 素直に礼を言う響に、ロムルスも頷きを返す。

 

 あの時、

 

 2人に向かって崩れ落ちてきた瓦礫。

 

 その下から響を助け出したのは、他ならぬロムルスだった。

 

 退避が一瞬遅れた響を抱き、ロムルスはここまで脱出してきたのだ。

 

 しかし、

 

「何で助けたの、ローマ?」

 

 助けてくれた事には感謝しているが、響にはそこが疑問だった。

 

 ロムルスは、敵対してる響を、なぜ助けたのか? そんなことしても、彼には何のメリットもないはずだが。

 

「愚問なり」

 

 首を傾げる響に対して、ロムルスは事も無げに言い放った。

 

 優し気な双眸が、少年を真っすぐに見る。

 

「良きローマ。ここで滅ぼすわけにはいかぬ」

 

 ロムルスの大きな手が、響の頭を撫でる。

 

 くすぐったそうに目をつぶる響。

 

 ロムルスにとってローマと、そこに住む人々は我が子も同然。

 

 そして、ローマとはすなわち、「全て」に通じている。

 

 ならば、世界中に住む、全ての人々は、彼の子も同然だった。

 

 故に、ロムルスは、「愛しい我が子」である響を守ったのである。

 

「なら・・・・・・・・・・・・」

 

 響は顔を上げてロムルスを見る。

 

「ローマも、ネロに協力すれば良い」

 

 言いながら、背後を振り返り、指を差す。

 

 その指差した先には、そそり立ち猛威を振るう魔神柱フラウロスの姿があった。

 

「ん、あれ、倒すの手伝って」

 

 眼球から閃光を放ち、周囲を薙ぎ払うフラウロス。

 

 更に、「根本」から噴き出る瘴気めいた噴煙も、命を蝕む死の霧だった。

 

 並の人間では、魔神柱に近づく事すらできないのだ。

 

「ローマが手伝ってくれれば、ネロが喜ぶ」

 

 ネロがロムルスを尊敬している事は、彼女のあの態度を見ていたから、響にも判っている。

 

 そのロムルスが助けてくれるとなれば、ネロが歓喜する事は間違いなかった。

 

 と言うか今更だが、響の中でロムルスは「ローマ」で固定されているらしい。

 

 まあ、本人が自分で名乗っているし、否定もしていないから良いのだが。

 

 だが、

 

「それは、できぬ」

「何で?」

 

 まさかの否定の言葉に、響はロムルスに詰め寄る。

 

 ロムルスはこのローマを作った建国王。

 

 ならば、そのローマを滅ぼそうとするレフは、彼にとっても敵のはず。ネロやカルデアに協力してくれても良いと思うのだが?

 

「サーヴァント、だから?」

「そのような事は、些事に過ぎぬ」

 

 レフが召喚したサーヴァントだから、彼に従う事しかできないのか、とも思った。

 

 だが、ロムルスはあっさりと否定した。

 

 ならば、何だろう?

 

 首を傾げる響に、ロムルスは口を開いた。

 

(ローマ)は、試練だ。ネロのローマが、この戦いに打ち勝ち、その先にある繁栄を手にする為には、(ローマ)を、越えていかねばならぬ」

 

 勝利したくば、自分を倒さねばならない。

 

 それができぬ者に、ローマを収める資格は無い。

 

 ロムルスは、そう言っているのだ。

 

「俺の屍を越えて行け、的な?」

「うむ」

 

 重々しく頷くロムルス。

 

 自分を倒し、その先にある勝利を掴み取れ。それができなければ、このローマを収める資格は無い。

 

「・・・・・・・・・・・・判った」

 

 諦めるように響は言いながら、刀の切っ先をロムルスに向ける。

 

 この神祖を、口先で説得する事は出来ない。

 

 ならば後は、全身全霊を掛けて挑むまでだった。

 

 対抗するように、ロムルスも槍を持ち上げて構える。

 

 次の瞬間、

 

 響とロムルスは、同時に仕掛けた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 魔神柱を操るレフは、上機嫌の極みだった。

 

 顕現した魔神柱。

 

 その圧倒的な火力は、全てを蹂躙し、全てを焼き尽くしていく。

 

 既に、つい先刻まで彼の居城であった連合首都は、完全に焼け落ちて瓦礫の山と化している。

 

 そこにいたであろう、連合兵士たちを巻き込んで。

 

 だが、そんな連中の事など、レフは歯牙にもかけていない。否、そもそも存在すら認識していなかった。

 

 所詮は、人数合わせの為に編成した人間の兵士。レフにとってはムシケラと何ら変わらない。

 

 ムシケラ如き、いくら踏みつぶそうが知った事ではなかった。

 

 そして当然の事ながら、そのムシケラが寄り集まってできたローマと言う国を滅ぼしたところで、何も感じる事などありはしなかった。

 

「ハッハッハッ 壮観じゃないかッ 制限付きの召還だったからどうなるかとは思ったが、やつら如きを潰すのに、この程度の力があれば十分なのだッ!!」

 

 言っている間に、魔神柱の周りから炎が噴き出し、周囲一帯を燃やし尽くしていく。

 

 その圧倒的な火力は、大地すら灰にする勢いで燃え盛る。

 

「そうだッ 初めからこうしておけば良かったのだッ サーヴァントなどと言う紛い物の欠陥品に頼らず、私自ら動いていれば簡単な話だった!!」

 

 眼球から放たれる閃光。

 

 不吉な色の光は、彼方にある山を一撃の下に吹き飛ばす。

 

「だが、今からでも遅くは無いッ 私手ずから、このローマを吹き飛ばし、人理焼却を完遂して見せようではないか!!」

 

 高笑いするレフ。

 

 あらゆる物を蹂躙し、あらゆるものを滅ぼす。その快感に酔っているかのようだ。

 

「さあッ 愚かな人類どもよ!! 我が屈辱を僅かでも晴らし、滅び去るがいい!!」

 

 言い放つレフ。

 

 その視界の先で、こちらに向かってくる一団があるのが見える。

 

 言うまでもなく、カルデア特殊班の連中だ。

 

「フンッ 性懲りもない連中め。己の力量も、相手の巨大さも理解できぬか」

 

 吐き捨てるように呟く。

 

 まあ良いだろう。どのみち、このローマを滅ぼせば、共に消滅するだけの連中。

 

 滅びの順番を入れ替えたいと言うのなら、その願いをかなえてやるまでの事だった。

 

「さあ、やれ、魔神柱フラウロスよ!! 我らが偉大なる主に逆らいし愚物共に、裁きを下すのだ!!」

 

 命令を放つレフ。

 

 たちまち、魔神柱から攻撃が開始された。

 

 体表の節から、次々と閃光が放たれる。

 

 次々に放たれる閃光が、サーヴァント達に襲い掛かる。

 

 そんな中、バーサーカーたちは構わずに突っ込んでいく。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮と共に、方天画戟を振り翳す呂布。

 

 だが、

 

 強烈な一撃が叩き込まれる前に、反撃が成された。

 

 放たれた魔力の閃光が、一気に呂布へと殺到した。

 

「■■■■■■■■■■■■ッ!?」

 

 苦悶の声を上げる呂布。

 

 倒れそうになる巨体。

 

 思わず、膝を突く呂布。

 

 そこへ、更なる追撃が殺到してくる。

 

 膝を突いたバーサーカーに向けて放たれる、無数の閃光。

 

 だが、

 

 その前に盾を翳した少女が飛び込む。

 

「やらせません!!」

 

 呂布を守りながら、盾を構えるマシュ。

 

 着弾する閃光に対し、少女は辛うじて耐える。

 

 攻撃を押し返して立ち上がる少女。

 

「あと一息なんですッ 何としても、やり遂げて見せます!!」

 

 マシュは言い放つと同時に、更に攻め込むべく眦を上げた。

 

 その時。

 

「ほうッ 言うようになったじゃないかッ たかがデミ・サーヴァント風情が!!」

 

 頭上から降り注ぐ、悪意に満ちた声。

 

 同時に、急降下してきたレフが、マシュに向けて魔力弾を放つ。

 

「クッ!? レフ教授!?」

 

 その一撃を辛うじて盾で防ぐマシュ。

 

 サーヴァント達が魔神柱に直接攻撃を仕掛ける事を見抜き、レフもまた阻止に動いたのだ。

 

 次々と放たれる魔力弾に、溜まらずマシュは後退を余儀なくされる。

 

「無駄だ、無駄無駄ァ!!」

 

 レフは凶悪な笑い顔を浮かべながら、次々と魔力弾を放ち続ける。

 

 その圧倒的な攻撃力を前に、マシュは手も足も出せない。

 

「言ったはずだッ 貴様ら如き凡百の輩が、この私に敵うはずが無いと!! ましてか・・・・・・」

 

 言いながら、

 

 レフは強烈な魔力砲を放つ。

 

「我が主に刃を向けるなど、不敬を通り越して万死に値する!!」

 

 放たれた閃光。

 

 その強力な一撃が、魔力の奔流となってマシュへと襲い掛かる。

 

「ああッ!?」

 

 吹き飛ばされるマシュ。

 

 どうにか体勢を立て直すも、圧倒的なレフの攻撃を前にして、マシュは反撃のタイミングを掴めないでいた。

 

 見回せば、他のサーヴァント達も、どうにか魔神柱フラウロスに取り付きはしたものの、圧倒的な火力を前に攻めあぐねている様子だった。

 

 その様子を、レフは侮蔑の笑みを浮かべて眺めやる。

 

「身の程を知るがいい、矮小な者どもよッ 蟻がいくら背伸びをしたところで、神に届くはずが無いのだからな!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 レフの、

 

 そして魔神柱の魔力が、高まるのを感じた。

 

 同時に、魔神柱の体が不気味な振動を示し、巨大な眼球が明滅を繰り返す。

 

「圧倒的な力をもって蹂躙してやろうッ 絶望の炎に焼かれ、魂まで朽ち果てるが良い!!」

 

 魔神柱の中で生成された魔力が、最も巨大な眼球の一点に集中される。

 

「まずいッ 奴は何か、切り札を使う気だよ!!」

 

 ブーディカが警告を発する。

 

 警戒する一同。

 

 だが、

 

「もう遅い!!」

 

 勝ち誇ったレフが叫ぶ。

 

「悔いるが良いッ 我が主に逆らった罪を!! 呪うが良いッ 愚かしい自らの運命を!!」

 

 手を翳すレフ。

 

 臨界に達した魔力が解放される。

 

「焼却式『フラウロス』!!」

 

 魔力が溢れ、周囲一帯を薙ぎ払う炎が噴き出した。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、飛来した閃光が、魔神柱の眼球に着弾。抉るように、その周囲一帯を大きく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だとォォォォォォォォォォォォ!?」

 

 驚くレフ。

 

 爆炎が容赦なく踊り、魔神柱を焼き尽くす勢いで燃え広がる。

 

 いったい、何が起きたのか?

 

 強烈な魔力爆発により、魔神柱内で発射寸前だった魔力が暴走。誘爆に近い状況が現出されていた。

 

 そのダメージたるや、魔神柱本体にも影響しているのだろう。攻撃を放つはずだった眼球部分は完全に抉れ、その周囲の体組織もろとも消失。他の部位からの攻撃も一時的に下火になっている。

 

「今だッ よく分からんが好機ぞ!! 余に続くのだ!!」

 

 真っ先に飛び出したのは、原初の火(アエストゥス・エストゥス)を振り翳したネロだった。

 

 緋色の衣装を風に靡かせて駆ける少女。

 

 ネロは魔神柱に駆け寄るととともに、手にした原初の火(アエストゥス・エストゥス)を横なぎに振るう。

 

 迸る緋の一閃。

 

 炎を纏う刀身は、魔神柱の体表を大きく斬り裂く。

 

 皇帝少女の放った剣閃は、魔神柱に対して確実に大ダメージを与えていた。

 

 今度こそ、魔神柱が苦悶するのを感じた。

 

「行けるぞ!!」

 

 叫ぶネロ。

 

 魔神柱と言えども、決してダメージを与えられない相手ではない。

 

「恐れるなッ たとえ魔神であろうとも、今の我らを止める術は無しッ!! さあ、己が存在に誇りを持つ者たちよッ 余と共に進むがいい!!」

 

 高らかに言い放つとネロは再び全員の先頭に立ち、剣を構えて向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 武器を下す。

 

 放った攻撃は、今にも閃光を放とうとしていた魔神柱の眼球を見事に直撃し吹き飛ばしていた。

 

 自身の狙撃による成果を見て、男は安堵する。

 

「悪いな。今はまだ、これくらいしか助ける事が出来ない」

 

 今も最前線で奮闘している特殊班メンバーの事を想いながら、呟きを漏らす。

 

 だが大丈夫。

 

 きっと、彼等ならやってくれる。

 

「頼んだぞ、みんな」

 

 呟きながら再び、狙撃の為に武器を構えた。

 

 

 

 

 

 速い。

 

 自身の槍を振るいながらロムルスは、自身に向かってくる、アサシンの少年を見据えて呟く。

 

 ロムルスからすれば、吹けば飛びそうなくらい小さな少年。

 

 だがその少年が今、果敢にも自分に挑みかかってきている。

 

 全ては、ネロのローマを守る為。

 

 手にした刀を真っすぐに向けて、ロムルスに襲い掛かる。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 鋭く突き込まれる切っ先。

 

 その一撃を、

 

 ロムルスは槍を繰り出し、真っ向から受け止める。

 

「ぬんっ!!」

 

 膂力任せに槍を振り抜くロムルス。

 

 対して、響は抗う事無く跳躍。

 

 後方宙返りをしながら、ロムルスとの距離を取る。

 

 宙に舞う、浅葱色。

 

 着地。

 

 と、

 

 同時に、

 

 響の双眸が鋭く光る。

 

 次の瞬間、

 

 少年は一瞬以下の間に距離を詰め、ロムルスの眼前に出現していた。

 

 速いなどと言う次元の話ではない。

 

 殆ど空間跳躍に近いだろう。

 

 並の英霊は愚か、大英雄と呼ばれる存在ですら、響の速度に追随できる者はそうそう居はしないだろう。

 

 だが、

 

 それでも、ロムルスには届かない。

 

 響の刀を槍で受け止めるロムルス。

 

 反撃として繰り出した槍が、響へと襲い掛かる。

 

 風を打ち砕くような、ロムルスの攻撃。

 

 魔力を孕んだ一撃は、大地をも砕くほどの威力が込められる。

 

 対して、

 

「んッ!?」

 

 手にした刀を鞘に納める響。

 

 前傾姿勢のまま、迫るロムルスを睨む。

 

「疑似・魔力放出・・・・・・」

 

 手元に集中する魔力。

 

 響は一気に駆ける。

 

 迫る、両者の間。

 

 槍を振り上げるロムルス。

 

 懐に飛び込む響。

 

 次の瞬間、

 

「鬼剣・・・・・・・・・・・」

 

 響の手元から輝きが放たれ、刃が鞘走る。

 

蜂閃華(ほうせんか)!!」

 

 駆け抜ける銀の閃光。

 

 ほぼ同時に、ロムルスの槍も打ち下ろされた。

 

 

 

 

 

第20話「魔神柱」      終わり

 

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