Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第23話「招き蕩う黄金劇場」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激突する、ネロとアルテラ。

 

 片や、この時代のローマを象徴し、守護する皇帝である少女。

 

 片や、全ての文明の天敵となる、破壊の大王たる少女。

 

 2人の少女たちは、己の存在意義を剣に掛け、激突を繰り返す。

 

 アルテラの持つ、虹色の剣が刀身をしならせるようにしてネロへと迫る。

 

 対抗するように、ネロは手にした原初の火(アエストゥス・エストゥス)を振るい、破壊の王が振るう剣閃を受け止める。

 

 激突する、互いの刃。

 

 衝撃波が全方位に容赦なく撒き散らされる。

 

 ネロとアルテラ。

 

 共に、至近距離で視線が激突し火花を散らす。

 

「・・・・・・邪魔を、するな」

 

 ネロを睨みながら、アルテラが低い声で呟く。

 

「破壊こそ我が使命ッ 全ての文明は破壊されなくてはならない」

 

 その瞳は変わらず静寂を湛えながら、それでいて鋭い殺気をネロへと放っている。

 

 一方、アルテラの剣を押し返しながら、ネロも強い口調で告げる。

 

「させぬ、と言っているであろう」

 

 同時に、ネロは大きく剣を弾く。

 

 衝撃と共に後退する両者。

 

 ほぼ同時に体勢を立て直し、剣を構える。

 

「貴様がいかなる存在であろうと、余のローマと、そしてそこで暮らす幾多の民を犠牲にはさせぬッ それこそが、余の使命だ!!」

「笑止な」

 

 ネロの言葉を一蹴すると、再び剣を構えて斬りかかるアルテラ。

 

「破壊無くして再生は無く、破壊無くして前進は無く、破壊無くして進化は無い。破壊こそが全ての原点であり、あらゆる文明に定められた運命に他ならない」

 

 間合いが詰まる両者。

 

 真っ向から虹の剣を振るうアルテラ。

 

 迎え撃つネロは、炎の剣を横なぎにして振るう。

 

 互いの剣が激突し、魔力が火花となって飛び散った。

 

 

 

 

 

 ネロとアルテラが激突している中、動けるマスター達はサーヴァント達の救援に奔走していた。

 

 アルテラの圧倒的な攻撃力を前に倒れた、響、美遊、マシュの3人。

 

 このまま放っておけば、命にもかかわる。

 

 特に、デミ・サーヴァントの美遊とマシュは、消滅がそのまま死につながる事を考えれば、早い応急手当てが不可欠だった。

 

 ネロたちの激闘を掻い潜り、凛果は最前線近くで倒れている響と美遊に近づいた。

 

「2人ともッ しっかりして!!」

 

 急いで、子供たちを助け起こす。

 

 美遊の方は大丈夫そうだ。響が庇ったおかげで、殆ど傷を負っているようには見えない。恐らく、一時的に気を失っているだけだろう。

 

 問題は響の方だった。こちらは全身に魔力弾が当たった事による貫通痕が穿たれている。

 

 しかしそれでも、傷は体の末端に集中している為、体の正中付近の傷は少ない。どうやら、美遊を庇いながらも、無意識に回避行動を取っていたのかもしれなかった。

 

 そこへ、マシュに肩を貸しながら、立香が歩いてくるのが見えた。

 

「凛果、頼めるか?」

「オッケー、すぐ準備するね」

 

 妹の返事を聞きながら、立香はマシュを地面に横たえる。

 

 一方のマシュは、苦しそうに呼吸をしながら立香を見た。

 

「申し訳ありません、マスター・・・・・・こんな事に、なってしまって」

「良いんだ。マシュ達は、本当によくやってくれたよ。今は休んで、回復に専念してくれ」

 

 そう言って立香は、後輩の少女に笑いかける。

 

 その間に、凛果が準備を整える。

 

 着ている魔術礼装をチェンジ。黄色のジャケットに短パン。その上から丈の短いローブを羽織った姿になる。

 

 どこかオルガマリーが着ていた服装に似ているその礼装は、魔術協会の制服を模して造られた物である。

 

 この礼装を使えば、複数のサーヴァントの傷を、同時に回復させることができる。

 

「みんな、待ってて。今、助けるから」

 

 そう言って、目をつぶる凛果。

 

 同時に少女の姿は輝きを増す。

 

 体内の魔力が活性され、同時に周囲を温かい光が満たしていくのが判る。

 

 光は、地面に倒れている響、美遊、マシュの3人を包み込む。

 

「おお」

 

 立香が声を上げる中、3人の傷が徐々に塞いでいくのが見えた。

 

 魔術礼装の回復術式では、複数のサーヴァントを回復できる一方、あまり深い傷を癒す事は出来ない。

 

 しかし、取りあえず、応急処置の効果はあったようだ。

 

 3人の顔色が、目に見えて回復していくのが判った。

 

「これで、ひとまず安心、かな」

 

 フッと、重く息を吐く凛果。

 

 礼装に設定された術式を起動するだけなので、本来であるならそれほどの苦労がある訳ではない。

 

 しかし、元々が素人に過ぎない凛果にとっては、それだけでもかなりの疲労感を覚えるのだった。

 

 しかし甲斐はあった。

 

 響も、美遊も、マシュも、見た目の傷は回復している。

 

 勿論、これですぐに戦闘に参加するのは厳しいが、それでも命の危機は遠のいたと、見るべきだった。

 

 と、

 

 顔を上げようとした凛果の袖が突然、小さな手に掴まれた。

 

「え?」

 

 地に倒れたまま、振り返る凛果が見た物は、自分の袖を掴む少年の姿だった。

 

 いつの間に意識を回復したのか、響は必死な双眸で凛果を見ている。

 

「ひ、響?」

「ん・・・・・・りん、か・・・・・・」

 

 苦し気に声を出す響。

 

 瀕死から回復したとは言え、未だに万全とは言えないのだろう。幼い顔は、今も苦悶に歪められている。

 

 しかし、

 

 少年は何かを訴えるように、自らのマスターを見上げる。

 

「・・・・・・お、おねが、い」

 

 絞り出すような、響の言葉。

 

 対して凛果は、自らのサーヴァントたる少年を、困惑した顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 徐々にだが、ネロが押され始めていた。

 

 相変わらず両者の攻防は続いているものの、皇帝少女の剣が精彩を欠き始めている。

 

 アルテラの剣は、相変わらず凄まじい。

 

 一撃毎に重く、鋭く、ネロに襲い掛かっている。

 

 一方、原初の火(アエストゥス・エストゥス)を振るうネロは、防戦一方になりつつある。

 

 剣速はアルテラの攻撃に追いつかず、足元にもふらつきが見られる。

 

 いかにネロがサーヴァントをも上回る、人間離れした戦闘力の持ち主とは言え、アルテラは無限の魔力リソースとして聖杯をその身に取り込んでいる。事実上、枯れ果てる事の無い泉のような物だ。

 

 加えて相性も良くない。

 

 アルテラは文明と言う存在に対して天敵たり得る破壊者であるのに対し、ネロはローマと言う一大文明の頂点に立つ存在。

 

 アルテラからすればネロは、自身の対極に立つ存在だ。それ故に、その戦闘力はスペック以上に上昇しているのかもしれない。

 

「クッ!?」

 

 アルテラの強力な一撃を受け、大きく後退するネロ。

 

 両者の間合いが僅かに開く。

 

 一方、

 

 アルテラの方は虹の剣を構えたまま、その場を動かずにいる。

 

 たとえ有利な状況であっても、敵を侮ったり、油断すると言うような事は無い。

 

 むしろその程度の相手だったら、ネロにも付け入るスキはあるのだが、生憎とアルテラは、その手の軽薄さとは無縁であるらしかった。

 

「・・・・・・・・・・・・ひとつ、尋ねるぞ、アルテラ」

 

 自身も剣を構え直しながら、ネロが尋ねた。

 

 徐々に不利になりつつある状況の中、ネロとしては少しでも勝機を得る為、僅かでも時間が欲しいところだった。

 

 その時間稼ぎ、ではないが、この激突が始まって以来、思っていた事を尋ねてみた。

 

「貴様は自らを破壊の王と名乗り、あらゆる文明を破壊すると言った」

「それこそが我が使命。この身に刻まれた宿命に他ならない」

 

 尋ねるネロに、アルテラは淡々とした調子で答える。

 

 そこに感慨も躊躇いも無い。

 

 ただ事実を述べているだけ、と言う印象だった。

 

 対して、ネロは続ける。

 

「ならば問う。貴様は破壊を成した後、いったい何を望むと言うのか?」

 

 アルテラが何を望み、何を成そうと言うのか?

 

 自らを破壊の権化と名乗るアルテラが、破壊の先に何を見ているのか、ネロにはそれが気になっていたのだ。

 

 対して、

 

 質問をぶつけられたアルテラは、静かに言い放った。

 

「何も」

 

 淡々とした口調。

 

 無機質とさえ思える言葉。

 

 アルテラは眉1つ動かさずに、ネロの質問に返す。

 

「私は破壊の使者。破壊こそが我が使命であり全て。故に、その『後』などあり得ぬ。私はただ破壊し、蹂躙し、全てを無に帰すのみ。破壊した後の事など、他の誰かが考えればいい」

 

 史実によれば確かに、アッティラ大王は、あらゆる文明を破壊するだけ破壊し蹂躙したが、自分が死んだあとは「好きにしろ」と言わんばかりに統治体制もろくに作らず部下たちに丸投げした。その為、彼女の帝国は僅か一代で崩壊したと言う。

 

 正しく、破壊の為だけに生まれ、破壊の為だけに生きた大王だった。

 

「愚かなッ!!」

 

 アルテラの答えに対し、ネロは声を荒げる。

 

「文明とは、国家や国土などの器ばかりを差す物ではない。そこに暮らす幾多の民、その1人1人が寄り集まり、1つの文明を創り出すのだッ そして、全てを破壊した者は、また、全てを作り直さねばならない筈だ!!創造無き破壊など、ただの無秩序な暴力に過ぎん!!」

 

 人間が成長し、安定し、やがて老い、そして朽ちるように、文明もまた、成長し、安定し、最後には腐敗して朽ち果てる時が来る。

 

 そうした中、いかなる形であれ、最後に「破壊」が来るのもまた、文明と言う存在が持つ、1つの「宿命」なのかもしれない。

 

 そして、その破壊を凝縮した存在が、目の前にいるアルテラに他ならなかった。

 

「認めぬぞアルテラッ 余は貴様と言う存在をッ」

 

 言いながら、原初の火(アエストゥス・エストゥス)を持ち上げるネロ。

 

 ローマの為、

 

 愛する民たちの為、

 

 ネロは何としても、アルテラを倒さねばならなかった。

 

「何度も言わせるな」

 

 対して、アルテラは淡々と言い放つと、虹の剣の切っ先をネロへと向ける。

 

 同時に魔力が再び巡り、虹色の閃光が白の少女から放出され始めた。

 

「創造などに興味は無い。私はただ、破壊し尽くすだけだ」

 

 アルテラの言葉に対し、剣を構えて応じるネロ。

 

 だが、既にボロボロに近いネロが、ほぼ無傷のアルテラと、これ以上戦う事は不可能に近い。

 

 あと一撃で、勝負が決するのは誰の目にも明らか。

 

 アルテラがトドメを刺すべく、剣を持つ手に力を込めた。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速で飛び込んで来た浅葱色の影が、銀の刃を突き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ!?」

 

 とっさに、攻撃を中止して弾くアルテラ。

 

 弾かれた相手は、大きく跳躍して距離を置くと、刀を構えてアルテラを睨む。

 

「・・・・・・・・・・・・貴様」

 

 アルテラが冷徹な視線を向けた相手。

 

 それは、先に倒したと思っていた衛宮響だった。

 

「響、そなた・・・・・・」

「ん、凛果に無理させた」

 

 驚くネロに、響はチラッと背後を見やりながら答える。

 

 そこには兄に支えられたまま、地面に座り込んでいる凛果の姿があった。

 

 彼女が着ている魔術協会制服を模した魔術礼装には、自分の魔力を追加でサーヴァントに与える事ができる術式が設定されている。

 

 その術式を使用して凛果は、響の魔力を僅かながら回復させたのだ。

 

 その甲斐あって、響は辛うじて戦線復帰する事に成功したのである。

 

「響よ」

 

 自身の傍らに立つアサシンの少年に、ネロが話しかける。

 

「しばし、時を稼げるか? 余に1つ、考えがある」

「ん」

 

 尋ねるネロに、答える響。

 

 手にした刀の切っ先が、真っすぐにアルテラへと向けられる。

 

 幼さの残る双眸は鋭い光と共に、自身が倒すべき敵を射抜いた。

 

「任せろ」

 

 言いかけた時には既に、

 

 響は間合いを詰め、アルテラへと斬りかかっていた。

 

 

 

 

 

 俊敏な動きで宙を駆けるように接近。アルテラに斬りかかる響。

 

 横なぎに振るわれた一閃を、

 

 アルテラは虹の剣を持ち上げて防御。そのまま弾きにかかる。

 

 だが、

 

「ん、遅いッ」

 

 その前に響は、アルテラの剣を支点にして更に跳躍。その背後へと降り立つ。

 

 背中を見せ合う両者。

 

 振り返ったのは、

 

 同時。

 

 互いの剣が、月牙の軌跡を描いて斬撃を刻む。

 

 激突する互いの刃。

 

 金属音と共に、衝撃波が周囲に撒き散らされる。

 

 響とアルテラは、互いに後退して距離を取る。

 

 着地しながら、相手を見やる両者。

 

 同時に、アルテラは虹の剣を脇に構え、静寂の双眸は小さな暗殺者を睨む。

 

「貴様に構っている暇は、無いッ」

 

 言い放つと同時に、振りぬかれる剣閃。

 

 その剣閃より、魔力が虹の散弾となって放たれる。

 

 先に、響と美遊を同時に仕留めた技だ。

 

 圧倒的な量の弾丸が響へと迫る。

 

 スクリーンの如き弾幕を前にして、

 

 響は、

 

 フッと息を吐く。

 

 次の瞬間、

 

 全ての弾丸が、着弾する。

 

「響ッ!!」

 

 見ていた凛果が声を上げる中、粉塵が舞い上がり、視界が暫しの間塞がれる。

 

 着地するアルテラ。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・なに?」

 

 静かな口調で放たれたのは、疑問。

 

 褐色少女が見据える視線の先。

 

 そこに、

 

 響の姿は無かった。

 

 次の瞬間、

 

 背後から、

 

 音も無く刃が振り下ろされた。

 

「ッ!?」

 

 アルテラをして回避しえたのは、ひとえに彼女が超一流の戦士であったからに他ならない。

 

 しかし、

 

「お前は・・・・・・・・・・・・」

 

 衝撃と共に、言葉を零すアルテラ。

 

 その視界の中で、

 

 少年の姿は一変していた。

 

 後頭部で結んだ長い髪は白に染まり、幼い瞳は朱に染まってアルテラを真っすぐに睨み据えている。

 

 そして何より、着ている羽織。

 

 目にも鮮やかな浅葱色に白の段だら模様が刻まれていた羽織は、

 

 今や漆黒に変化し、段だら模様も不吉な連想を齎す赤に変わっていた。

 

「盟約の羽織・影月(えいげつ)

 

 低く呟く響。

 

 明らかに、それまでとは雰囲気を異にしている。

 

 対して、

 

 アルテラは何の感慨も湧かずに、虹の剣を構え直す。

 

「何が来ようが関係は無い」

 

 同時に、一足飛びに間合いを詰め、響へと斬りかかる。

 

「ただ、破壊するのみ!!」

 

 振り下ろされる剣。

 

 対して、

 

 響は迫るアルテラを見据え、何かを呟く。

 

 次の瞬間、

 

 アルテラの剣は、虚しく空を切った。

 

「何ッ!?」

 

 そこで初めて、アルテラの顔に驚愕が走る。

 

 必殺を込めて放った剣が、まさか回避されるとは思っていなかったのだ。

 

 次の瞬間、

 

 まるで何事も無かったかのように、

 

 アルテラの正面から、斬りかかる響。

 

「ッ!?」

 

 振り下ろされる剣閃に対し、後退するアルテラ。

 

 いったいいつ、響はアルテラの剣を回避したと言うのか? そんなモーションは一切見せていなかったと言うのに。

 

 まったく唐突に、響は「その場を動く事無く、アルテラの攻撃を回避した」事になる。

 

 体勢を立て直すアルテラ。

 

 そこへ、間髪入れず、響は追撃を仕掛ける。

 

 刀の切っ先をアルテラへと向けると、一気に距離を詰めて突き込む。

 

 迫る切っ先。

 

「やらせんッ!!」

 

 対抗するように、横なぎに剣を振るうアルテラ。

 

 だが、

 

 彼女の剣が少年を斬り裂いた、と思った瞬間、

 

 響の姿は、アルテラの前から幻のように消え去った。

 

「ッ!?」

 

 驚愕するアルテラ。

 

 次の瞬間、

 

 気配が、浮かぶ。

 

 少女の、背後に。

 

「鬼剣・・・・・・・・・・・・」

 

 切っ先をアルテラに向けて刀を構えた響が、囁くように告げた。

 

 次の瞬間、

 

 アルテラの体から、無数の傷と共に鮮血が噴き出した。

 

「グッ 馬鹿なッ!?」

 

 思わず、その場で膝を突くアルテラ。

 

 対して、響は手にした刀を血振るいしながら振り返る。

 

「・・・・・・まだ、やるの?」

「愚問・・・・・・だッ!!」

 

 尋ねる響に、アルテラは足に力を入れて立ち上がりながら答える。

 

 すると、

 

 響の攻撃によって負った傷が、みるみる内に消えていくではないか。

 

「・・・・・・・・・・・・聖杯」

 

 響は舌打ち交じりに呟く。

 

 アルテラは身の内に取り込んだ聖杯の魔力を使い、傷まで修復しているのだ。

 

 事実上、無限の魔力を持つ聖杯の力をもってすれば、瀕死の重傷すら、否、死者ですら蘇らせることも不可能ではないだろう。

 

 対して響は、既に回復してもらった魔力も底を突きつつある。

 

 長引けば、不利は明らか。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 漆黒の羽織を靡かせて、切っ先を上げる響。

 

 トドメを刺す。アルテラが完全に復活しきる前に。

 

 そう結論に至った響きが刀を構え直した。

 

 その時だった。

 

「待たせたな響。もう良いぞ」

 

 背後からの声に振り返ると、そこには剣を構えた赤き少女が立っていた。

 

 ネロだ。

 

 どうやら「準備」は整ったらしい。

 

 原初の火(アエストゥス・エストゥス)を構えたネロは、今にも立ち上がらんとしているアルテラの前に出ながら口を開く。

 

「アルテラよ、貴様は自らを破壊の使者と名乗った。その在り様について、余はあえて否定せぬ。繁栄の先に滅びが宿命づけられているのなら、貴様の存在もまた、正しいのだろう。 ・・・・・・だが」

 

 翠色したネロの双眸は、澄んだ光でもって真っすぐにアルテラを射抜く。

 

 それは、たとえどんな困難に突き当たろうとも、決して諦めぬ者のみが放つ事を許された光。

 

 誰もが憧れ、称える輝きに他ならない。

 

「たとえ貴様が何者であろうとも、余のローマを滅ぼさせる訳にはいかぬ」

「何度も、言わせるなッ」

 

 渾身の力で立ち上がるアルテラ。

 

 まだ、響の鬼剣によって受けた傷は塞がっていない。立ち上がるだけでも、体から鮮血が噴き出すのが見える。

 

 だが、

 

 構わずに、アルテラはネロを睨み返す。

 

「私は全ての文明を破壊する者ッ この私を止める事など、誰にもできない!!」

 

 振り払うように言い放つと、虹の剣の切っ先をネロへと向ける。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・良かろう」

 

 ネロは静かに呟くと、剣の切っ先を地へと付ける。

 

「ならば、見せてやろうッ 余の全てッ 誇りあるローマの神髄を!!」

 

 宣言するネロ。

 

 同時に、魔力が高まるのを感じる。

 

 濃密な魔力の充満。

 

 周囲の光景すら、歪んで見える。

 

 その全てが、ネロを中心に螺旋を描いている。

 

 その規模たるや、これまでの比ではない。

 

天国と地獄(レグナム・カエロラム・エト・ジェヘナ)!!」

 

 詠唱を開始するネロ。

 

「築かれよ、我が摩天!!」

 

 地に突き立てられた原初の火(アエストゥス・エストゥス)

 

 その切っ先から、光があふれ出る。

 

「ここに、至高の光を示せ!!」

 

 一変する周囲の光景。

 

 溢れ出した光の中で、

 

 荘厳な風景が形作られていく。

 

「やらせんッ!!」

 

 対抗するように、アルテラもありったけの魔力を虹の剣へと集中させる。

 

 螺旋を描く、虹の魔力。

 

 同時に、ネロも自身の魔力を最大開放する。

 

「出でよッ 招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)!!」

 

 視界が開ける。

 

 そこは、絢爛と輝く劇場だった。

 

 目にも鮮やかな赤と黄金によって彩られた造形。

 

 全て、皇帝ネロ・クラウディウスが作り出した幻想にして、彼女自身が「主役」である為の、一世一代の晴れ舞台。

 

 全てが、ネロ・クラウディウスの、ネロ・クラウディウスによる、ネロ・クラウディウスの為の世界。

 

 剣を構えるネロ。

 

 同時に、アルテラも絶大な魔力放出と共に突進を開始する。

 

 切っ先を真っすぐに向け、螺旋を描く虹を引きながら突撃するアルテラ。

 

 炎を纏う剣を横なぎにするネロ。

 

軍神の剣(フォトン・レイ)!!」

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!!」

 

 次の瞬間、

 

 互いの剣が、光を纏って交錯した。

 

 

 

 

 

第23話「招き蕩う黄金劇場」      終わり

 


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