Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第2話「太陽を落とした女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は走っていた。

 

 華奢な手足。

 

 手折れそうなほどに細い体。

 

 美しい相貌。

 

 流れるように伸ばされた長い髪は頭の両サイドで結ばれて揺れている。

 

 天使、と称しても良い、可憐な容姿をしている少女だ。

 

 その天使のような少女が今、必死の形相で、石畳の上を走っていた。

 

 裸足の足が、ひどく痛む。

 

 息が上がり、心臓の鼓動が嫌が上でも高まるのを感じた。

 

 どれくらい走っただろう?

 

 やがて、力尽きたように速度を緩めると、少女は壁に手を突いて立ち止まった。

 

「こ・・・・・・ここまで来れば・・・・・・あ、安心ね」

 

 上がる息が肩を揺らし、汗が滝のように、額から滲み出る。

 

 まったくもって、慣れない事はするものではなかった。

 

 そもそもからして、少女の体は「走る」ようにはできていない。疲労困憊は無理からぬことだった。

 

「こんなに、走ったのなんて・・・・・・生まれて、初めての事よ・・・・・・それに」

 

 呟きながら、少女は自分の体を眺め渡す。

 

 細い体を、ゆったりとした白い衣装に包まれた少女の姿は、どこか神秘的な印象すらある。

 

 だが、少女は今、自分が置かれている状況に対し、戸惑いと不満を覚えずにはいられなかった。

 

「まったくもうッ 何なのよ、本当にッ いつの間にかサーヴァントになっているしッ (ステンノ)駄妹(メドゥーサ)もいないしッ」

 

 口に出していると、急速に心細さが増してくるのが判る。

 

 異郷の地に一人投げ出され、見知らぬ輩に追いかけまわされる状況に、恐怖を覚えずにはいられない。

 

 それに、

 

 事態はそれだけではない。

 

「この迷宮・・・・・・・・・・・・」

 

 周囲を見回しながら、少女は呟く。

 

 その声音には、僅かな恐怖が入り混じった。

 

 どこまでも続く、石造りの建築物。

 

 追われている内に、無我夢中で飛び込んでしまったのだが、冷静になって周囲を見回せば、ある事に気が付く。

 

 先程から、同じような光景が延々と続いている事に。

 

「ここって・・・・・・多分、『そう』よね」

 

 実際に見た事がある訳ではない。

 

 しかし、あまりにも有名な、その迷宮の存在に行き当たるのは、自然な流れだった。

 

 もし少女の予想が正しければ、迷宮は物理的な迷路構造のみならず「概念」的な閉鎖空間になっているはず。となれば、正しい手順を踏まない限り、脱出はほぼ不可能。

 

 否、

 

 もっと、厄介な事がある。

 

 もし、迷宮の「主」と出くわしたりしたら・・・・・・・・・・・・

 

「と、とにかく、慎重に進みましょう」

 

 足音を立てないように、

 

 ゆっくり、

 

 そっと、

 

 恐る恐る、

 

 進んでいく。

 

 そして、角を曲がった。

 

 そこで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出くわしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見上げるような巨体。

 

 その頭頂は高い天井に着きそうなほど高い。

 

 巨大な四肢は、羆を優に上回るだろう。

 

 爛々と輝く凶悪な双眸。

 

 そして、頭からは曲がりくねった二本の角が生えている。

 

 その威容たるや、華奢な少女など、一飲みにしてしまいそうだ。

 

「キ・・・・・・・・・・・・」

 

 サーッ と、恐怖で顔を青ざめる少女。

 

 怪物の凶眼がギロリと、足元で立ち尽くす少女を睨んだ。

 

 次の瞬間、

 

「キャァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海だ。

 

 見間違いようもなく、海だ。

 

 見るまでもなく、海だ。

 

 カルデア特殊班一同の目の前には今、果てしない大海原が広がっていた。

 

 ロマニからの指示により、第3次レイシフト(特異点Fへのレイシフトは偶発的な事故だった為、カウントから除外された)を敢行した立香達。

 

 だが、

 

「ちょっとロマン君!!」

 

 立ち尽くす立香の傍らで、凛果が通信機に向かって怒鳴っていた。

 

「これのどこが特異点だってのよ!? ただの大海原じゃない!!」

《いや、そう思うのも無理ないかもしれないけど、特異点の反応は間違いなく、その地点から出ているよ》

 

 カルデアでは、ロマニたちがモニタリングしながら、状況の確認を行っているところだった。

 

 今回の特異点。

 

 確かに、前3回とは異なる事が多すぎた。

 

 まず、一つ目は言うまでもなく、海が舞台である点。

 

 今までの特異点は全て、陸上であった事を考えれば、これだけでかなり異質なのは間違いない。

 

 加えて、今回はそれだけではない。

 

《良いかい、目の前に見える海は、普通の海じゃない。世界中のあらゆる海を切り取って、まるでつぎはぎしたような、歪んだ形になっているんだ。それこそが、特異点としての影響だと思う》

「だとしても、だ」

 

 立香は嘆息気味する。

 

 ロマニの説明は理解できた。ここが特異点だと言うのも納得である。

 

 何より、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 見上げれば、そこに存在する巨大な「円環」。

 

 この異常な光景こそが、この場が特異点である何よりの証拠である。

 

「そうなると、具体的な移動手段が無いと、どうしようもないぞ」

 

 途方に暮れた調子で答えると、立香はもう一度海原を見回す。

 

 特殊班が現在いるのは、絶海の孤島だ。

 

 ここから移動するには船がいる。それも簡単に作れるような筏ではなく、それなりに大きな物が。

 

 だが、言うまでもなく、都合よくそんな物が見つかるはずもなかった。

 

 途方に暮れる立香。

 

 気を紛らわせるように、周囲を見回す。

 

「ん、フォウ、カニ」

「フォウフォウッ」

 

 足元で、響がフォウと一緒にカニと戯れている。

 

 何とも、長閑な光景である。

 

 そんな中、

 

 白いドレスを着た剣士少女が、無言のまま、打ち寄せる波の様子を眺めていた。

 

 美遊は既に英霊化した状態で、波打ち際に佇んでいる。

 

 今回、美遊はいつもの軽装甲冑ではなく、ノースリーブのブラウスにミニスカートと言うドレスのみを纏った戦装束でレイシフトしている。

 

 防御力よりも、機動力を重視した形だった。

 

 その美遊は、背後でのやり取りに加わる事無く、ジッと海を見詰めている。

 

「ん、美遊、どうした?」

「フォウ」

「あッ 響、フォウも・・・・・・・・・・・・」

 

 声を掛けられた美遊は、どこか感慨深げに髪をかき上げながら、海へと視線を向ける。

 

 吹き抜ける海風が、少女の髪を優しく揺らしていく。

 

「実はその・・・・・・今まで海を見た事が無くて・・・・・・だから、ちょっとうれしくて」

「・・・・・・・・・・・・あー」

 

 成程。

 

 この年になるまで、朔月家の結界の中で過ごしてきた美遊にとって、見る物全てが新鮮である。

 

 当然、海を見るのもこれが初めての事だった。

 

「・・・・・・そんなところは、同じ」

「え、何か言った?」

 

 首を傾げる美遊に、響は答えずにそっぽを向く。

 

 一体何なのか?

 

 響はそれ以上語る事無く、美遊に背を向けた。

 

 と、

 

 その時だった。

 

《ちょっと待った!!》

「え、何? 何?」

 

 凛果の通信機の向こうで、ロマニが素っ頓狂な声を上げた。

 

 いったい、どうしたと言うのか?

 

 一同が振り返る中、通信機の向こうで、ロマニが緊張した調子で告げる。

 

《生命反応多数。背後にある森の中から接近してきている。これは・・・・・・結構な数だな。反応的にはサーヴァントじゃないね。けど、10人以上は近付いてくるぞ・・・・・・・・・・・・》

 

 いったい何が来るのか?

 

 警戒して身構える一同。

 

 サーヴァント3人が前面に立ち、マスター2人と1匹を守るように身構える。

 

 果たして、

 

 森の中から続々と現れたのは、

 

 一団の男たちだった。

 

 どの男たちも筋骨隆々と言った感じで、着ている物もまちまちである。

 

 いかにも「海の男」と言った風情に日焼けしているのが特徴だった。

 

 そして、

 

 剣に、ナイフに、古めかしい銃。

 

 1人の例外も無く、何らかの武器を携えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・女だ」

 

 中の1人が、声を発する。

 

 それと同時に、一斉に舌なめずりをするような音が次々と聞こえてくる。

 

「ガキも居やがるぜ」

「こいつは高く売れそうだ」

 

 どう考えても、友好的なコンタクトが可能なように見えない。

 

 男たちが特殊班一同を見る目は、完全に獲物を見る野獣のそれだ。

 

 次の瞬間、

 

「捕まえろォォォォォォ!!」

「ヒャッハァァァァァァ!!」

 

 問答無用、とばかりに襲い掛かってくる男たち。

 

 その眼は完全に血走っており、殺気でぎらついているのが判る。

 

「敵襲です先輩ッ 恐らく海賊と思われます!!」

「おー ワンピース」

「響、よく分からないけど違うと思う」

 

 ともかく、話が通じる相手出ない事だけは確かだった。

 

「マシュッ 響ッ 美遊ッ 迎え撃つんだ!! ただし、穏便に!!」

「了解しましたッ 峰打ちで行きます!!」

 

 マシュの返事と共に、サーヴァント達は海賊たちを迎え撃つべく飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 ~だいたい5秒後~

 

 

 

 

 

 砂浜には、見事に海賊たちが上げる呻き声が響き渡っていた。

 

 10数人いた海賊たちは、文字通り全滅。

 

 その場に立っているのは、3人のサーヴァント達だけだった。

 

 と言っても、死んだ者はいない。

 

 マシュは大盾を、なるべくダメージを与えないように振るったし、響は刀を抜かず、鞘と柄のみで当身を食らわし、美遊に至っては徒手空拳のみで敵を制圧してしまった。

 

 人間とサーヴァントの戦力差を、如実に表す光景だった。

 

「さて・・・・・・これで一応、現地の人とは接触できたわけだけど・・・・・・」

 

 果たして、どうした物か?

 

 立香がやれやれとばかりに嘆息する。

 

 取りあえず、話を聞きたいのだが、問答無用で襲い掛かってくるあたり、果たして会話が通じるかどうか、微妙なところであった。

 

 その時だった。

 

「へえ、なかなかやるじゃないのさ。うちの阿呆どもを一蹴するとはね」

 

 突然の声に、振り返る一同。

 

 そこには、砂浜を踏みしめて真っすぐに歩いてくる、1人の女性の姿があった。

 

 鮮烈な印象の女性である。

 

 長身の体躯に海軍服を纏い、顔の中央、右の額から左の頬に掛けて、1本の傷が走っている。

 

 精悍、と言っても良い外見の女性だった。

 

 女性は周りを見回すと、嘆息しながら口を開いた。

 

「・・・・・・どうやら、迷惑をかけたのはこっちみたいだね」

「はあ・・・・・・・・・・・・」

 

 女性の言葉に、生返事を返す立香。

 

 どうやら、この女性が海賊の頭領であるらしい。いきなり襲ってきた男たちよりだったら、話が通じる印象である。

 

「けどね」

 

 女性はじろりと、一同を見回して言った。

 

「こんな奴等でも、可愛い子分どもだ。こいつらをやられて黙っているとあっちゃ、海の魔物(エル・ドラゴ)の名が泣くってもんだよッ」

 

 言い放つと同時に、女性は腰に下げていたクラシカルなフリントロック拳銃を抜き放った。

 

 同時に増す戦機。

 

 周囲一帯の空気が、一気に張り詰めるのが判った。

 

《エル・ドラゴ・・・・・・そうかッ》

「どうしたの、ロマン君?」

 

 通信機から聞こえてきたロマニの声に反応する凛果。

 

 どこか興奮したようなロマニは、説明を続ける。

 

《世界中で、その名前で呼ばれた人物は1人しかいないッ 彼のスペイン無敵艦隊を破った海の英雄・・・・・・》

 

 高まる戦機の中、ロマニは言い放つ。

 

《彼女はフランシス・ドレイクだ。大英帝国が誇る大提督にして、私掠船の船長。別名「太陽を落とした英雄」!!》

 

 フランシス・ドレイク

 

 ロマニの言う通り、イギリス海軍の提督であり、同時に海で恐れられた海賊でもある。

 

 私掠船と言うのは、言わば国家から公認された海賊である。国家が全面的にバックアップする代わりに、自国の商船は襲わない事を契約した海賊の事である。

 

 ドレイクも例に漏れず、イギリスと契約を交わした私掠船の1隻を任され、当時、敵対していたスペインの商船を繰り返し襲撃していた。

 

 当時、スペインは世界中に多数の植民地を持つ世界最大の大国であり、「太陽の沈まない帝国」と呼ばれていた。対して、海を挟んで隣接するイギリスは小さな島国に過ぎず、大国であるスペインからの圧力に、常に怯えて暮らしていたのだ。

 

 そんな状況に風穴を開けたのが、他ならぬフランシス・ドレイクであった。

 

 彼女は自船である「黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)」を駆り、世界中で初めて、世界一周を成し遂げたのだ。

 

 初の世界一周と言えば、ポルトガルのフェルディナンド・マゼランが有名であるが、マゼランは南太平洋において原住民の争いに巻き込まれて命を落としている事を考えれば、「生きて世界一周」を果たしたのは、彼女が初と言える。

 

 これは単に地球を一周したと言う事実だけでは済まない。当時はまだ海には未発見な部分が多く、航路すら確立されていなかった時代である。

 

 そこに来て世界一周を成し遂げたと言う事はすなわち、世界中のどこへでも行く事ができ、尚且つ、その権利と手段をイギリスが独占できると言う事を意味していた。

 

 このドレイクの功績により、イギリスは領土拡大の端緒を掴むと同時に、スペインにも対抗できるだけの財源を確保するに至ったのである。

 

 だが、何と言っても彼女を一躍、英雄にまで押し上げる原因となったのは、スペイン無敵艦隊との一大決戦である「アルマダ海戦」だった。

 

 イギリスの躍進と、自国に対する商船襲撃を苦々しく思っていたスペイン国王はついに、当時、世界最強と言われた無敵艦隊をイギリス攻略に差し向けた。

 

 この未曽有の国難に対し、当時の女王エリザベス一世は、最も信頼する軍人であるフランシス・ドレイクを艦隊副司令官に任じ出撃させた。

 

 両軍の戦力は、イギリス艦隊200に対し、スペイン無敵艦隊は130。

 

 数においてはドレイク側が勝っているが、無敵艦隊側は大半が純粋な軍艦だったのに対し、イギリス艦隊の7割以上は、攻撃力の低い武装商船の寄せ集めに過ぎず、総合火力においてはスペイン無敵艦隊の方がはるかに勝っていた。

 

 だがドレイクは、自軍の勝利に対して聊かの疑いも持っていなかった。

 

 まず、スペイン艦隊は確かに火力は強力だが、大半は機動力の低い大型ガレオン船や、手漕ぎのガレー船が主力となっているのに対し、イギリス艦隊は中・小型で機動力が高い帆船が主力となっている。

 

 また、従来の接弦斬り込みを主戦法としているスペイン艦隊の大砲は、威力は高いが射程が短い旧式砲なのに対し、イギリス艦隊の大砲は、純粋な砲撃戦を意識し、威力を減らす代わりに射程を大幅に伸ばした新型砲に切り替えてある。

 

 そして何より、自分達は長年にわたって海賊活動を行い、潮の流れと風向きを見極め、船を操る事に掛けては絶対的な自信を持っている。

 

 相手がたとえ世界最強の艦隊であったとしても、恐れる物は何もなかった。

 

 そして、決戦の時はやってくる。

 

 従来の戦法に固執するスペイン無敵艦隊に対し、ドレイク率いるイギリス艦隊は、高速で有利な位置取りをしつつ、一方的な砲撃戦を展開して敵を翻弄していく。

 

 更に、停泊中の敵艦隊に対しては火船による襲撃を敢行。多数の敵艦を海の藻屑とした。

 

 結果、

 

 最強を誇ったスペイン無敵艦隊は、兵力の半数を喪失して壊滅。戦いは、イギリス艦隊の勝利に終わった。

 

 この戦いがスペイン凋落の端緒となり、逆にイギリスにとっては、その後の躍進のきっかけになってとも言われている。

 

 また、英雄となったドレイクは、「太陽の沈まない帝国」を破ったと言う事で「太陽を落とした英雄」と呼ばれるようになった。

 

 そのフランシス・ドレイクが、まさか女だった、などと、誰が想像し得ようか?

 

 これまでも前例がいくつかあったとはいえ、驚きなのは確かだった。

 

「気に入らないねェ」

 

 ドレイクは立香達を見ながら、不機嫌そうな声を発した。

 

「さっきから人の事をごちゃごちゃと言いやがって。だいたい、その声だけの奴。あたしが一番嫌いな、弱気で、悲観主義で、根性無しで、そのくせ根っからの善人ぶったチキン野郎の匂いがするよ」

《そんな、ヒドイッ》

 

 ドレイクの評価に対し、通信機の向こうでロマニが悲痛な声を上げる。

 

 だが、対してマシュは大盾を構えながら、背後の立香に告げる。

 

「先輩、気を付けてください。この方、人を見る目も的確です!!」

「マシュ・・・・・・・・・・・・」

 

 苦笑する立香。

 

 マシュも地味にひどかった。

 

 と、

 

「ん、けど、どうする?」

「そう。いくらあなたが強くても、3対1で、勝てるはずが無い」

 

 響と美遊が、それぞれ剣の柄に手をやりながら、ドレイクとの距離を詰める。

 

 先の海賊は瞬く間に一蹴できたが、流石にこっちは、本気で掛からねばなるまい。

 

 だが、

 

「ハッ 甘いんだよッ 誰が、あたし1人で相手するって言った!?」

 

 言い放つと同時に、

 

 ドレイクは自身の背後へと目をやって叫んだ。

 

「出番だよッ 出ておいで!!」

 

 呼び声に応え、

 

 岩陰から飛び出すように、小柄な人物が、ドレイクのすぐ側へと降り立った。

 

「もうッ こんなに早く出番が来るなんて。天下のフランシス・ドレイクは、随分と人使いが荒いじゃないの」

「やかましいよ。生きてるやつはアザラシでもこき使うさ。飯代分は、きっちり働いてもらうからねッ」

 

 叩きつけるようにドレイクが言った相手は、小さな少女だった。

 

 褐色肌に白く長い髪を後頭部で一房だけ纏め、やや露出の多い黒いインナーの上から、赤い外套を纏っている。

 

 やれやれと肩を竦めながら、振り返る少女。

 

 その視線が、

 

 合った。

 

 響と。

 

「「・・・・・・・・・・・・へ?」」

 

 2人して、間抜けな声を上げる。

 

 そして、

 

「・・・・・・ん、クロ、何でいる?」

「ヒビキ・・・・・・よね、あんた?」

 

 

 

 

 

第2話「太陽を落とした女」      終わり

 


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