Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第3話「最古の迷宮」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内されて行った先にある小さな入り江。

 

 そこに設えられた桟橋に、1隻の船が停泊していた。

 

 弓形にしなる高い舷側に、3本の高いマストが特徴的な美しい船だ。その舷側からは、多数の砲門が見て取れる。

 

 いわゆる「ガレオン船」と呼ばれる大航海時代に多用された、最も一般的な帆船であり、後の「戦艦」の基礎となった、「戦列艦」の原型でもある。

 

 もっとも、ガレオン船の中でも、目の前の船はそれほど大きい物ではない。排水量もせいぜい300トンくらいだろう。同時代の大型のガレオン船なら1000トン以上の物もある。それを考えれば、かなりの小型である。

 

 どうやら今は休息中であるらしく、多くの船員は浜辺に降り荷揚げ作業を行う傍ら、一部の船員は船の補修に走り回っている。

 

 「黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 フランシス・ドレイクの乗船であり、元は「ペリカン号」の名称で呼ばれていたが改名。後に、世界一周の栄誉を担う事になる船である。

 

 近付いてくる一団を見つけ、甲板で補修作業の指揮を執っていた男が、慌てて駆けてきた。

 

 副長のボンベである。

 

「お帰りやさい姉御・・・・・・ってか、そいつらは?」

「客人だよ。それから、怪我した奴が何人かいるから、手当てしてやんな」

 

 そう言うとドレイクは、はしごを伝って船へと上がる。

 

 それを見て、立香達も後から続いた。

 

「それにしても・・・・・・・・・・・・」

 

 凛果は背後に立つ2人の子供たちを見ながら、嘆息気味に呟いた。

 

「そっちの・・・・・・クロエちゃん、だっけ? まさか響のお姉さんだったなんて」

「『クロ』で良いわよ」

 

 そう言って、褐色肌の少女は苦笑気味に肩を竦める。

 

 クロエ・フォン・アインツベルン

 

 容姿も、名前も全く持って共通点は無いのだが、どうやら本人たち曰く、響の姉であるらしい。

 

 どう考えても他人にしか見えない2人なのだが。

 

 まあ、そのおかげで、ドレイクとの戦闘は避ける事が出来たのだから、立香達としては結果オーライなのだが。

 

「あんまり・・・・・・ていうか、全然似てないよね。苗字も違うし」

 

 そもそも、どう見ても純粋な日本人の響に対し、クロの方は明らかに西洋人の顔だちをしている。

 

 名前からして「衛宮」と「アインツベルン」である。

 

 はっきり言って、共通点は皆無と言っていい。

 

「ん、親の都合」

 

 そう言うと、響はすたすたと歩いていく。

 

 対して、凛果は不思議そうな眼差しで眺める。

 

 この少年暗殺者は、自分の事をあまり語らない、秘密主義的な部分がある。姉がいると言うのも、今回初めて語った事だ。

 

 クロと苗字が違うのも、どうやらそこら辺の複雑な家庭環境のせいらしかった。

 

「それにしても・・・・・・・・・・・・」

 

 呟きながら振り返ったクロの視線は、傍らに立つ美遊を捉えた。

 

「ミユ、あんたまでいるなんて、驚いたわよ」

「え?」

 

 一方の美遊はと言えば、突然話を振られて驚いている様子だ。

 

「それに何、その恰好? まあ、可愛いから良いけど」

「えっと・・・・・・・・・・・・」

 

 クロの物言いに、どう答えたら良いのか分からず、言い淀む美遊。

 

 いったい、何なのか?

 

 話が分からない美遊は、首を傾げるしかない。

 

 と、

 

「クロ、ちょっと」

「うん、何よ?」

 

 響に腕を引かれ、振り返るクロ。

 

 響はと言えば、戸惑う美遊とクロを見比べるように、ジッと見つめている。

 

 そんな弟の様子に、何かを感じ取ったクロが、頷いた。

 

「ああ、なるほど。世界線が違うって、やつ。そりゃ、話も噛み合わないか」

 

 クロもまた、納得したように頷いた。

 

 一方、

 

 美遊もまた、ある事に思い至っていた。

 

 この、クロエと言う、響の姉を名乗る少女に、見覚えがある事を思い出したのだ。

 

 これまで、何度か見てきた夢。

 

 自分が、どことも知れない小学校の生徒となり、友達と楽し気に会話すると言う、不思議な夢。

 

 その夢に出てくる、双子のように瓜二つな少女たちのうちの1人が、正に目の前にいるクロに他ならなかった。

 

 いったい、どういう事なのか?

 

 意味が分からなかった。

 

「ん、そうだ」

 

 そこでふと、響が何かを思い出したように手を叩くと、クロに向き直った。

 

「クロ、この間、ローマにいた?」

「は? ローマ? 何あんた達、世界旅行でもしてる訳?」

 

 響の質問の意味が分からず、キョトンとするクロ。

 

 対して、そんなクロの態度に、自分の当てが外れた事を悟ったのだろう。響は頷くとそっぽを向く。

 

「判んないなら、いい」

「? 何なのよ?」

 

 謎の行動を取る弟に、クロも意味が分からず首を傾げる。

 

 と、

 

「あんた達、何やってるんだいッ このあたしを待たせるんじゃないよ!!」

 

 船橋のドアが開き、ドレイクが苛立ったように叫ぶ。

 

 どうやら立ち話が長すぎたせいで、怒らせてしまったらしい。

 

 一同は顔を見合わせると、慌てて女船長を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

「は~ カルデアね~ 星見屋がこんな海のど真ん中に、いったい何の用だい? 新しい星図でも売りに来たのかい?」

 

 真昼間からラム酒をあおりながら、ドレイクが一同を見回して尋ねてくる。

 

 それにしても、

 

 海賊などと言うやくざな商売をしている割に、フランシス・ドレイクはなかなかの博識ぶりである。

 

 確かに、古代にはカルデア人と呼ばれる人種が存在し、占星術や天体術を得意としたとされている。どうやら、この時代にはそうした人種がまだ残っているらしい。ならば、ドレイクがそちらのカルデアを思い浮かべたとしても不思議は無かった。

 

「ドレイク船長。我々は、今、この海で起きている異常を調べ、解決する為にやってきました」

「異常、か・・・・・・確かにまあ、変な海であるのは確かだよね」

 

 マシュの説明に、どこか納得したようにドレイクは頷く。

 

 彼女の説明によれば、ある時期から急に、異変が起こり始めたと言う。

 

 曰く、「海の雰囲気が違う」

 

 素人から見れば、海なんぞどこでも同じに思えるかもしれないが、練達の船乗りは風や潮の微妙な違いによって、海を見分ける事ができる。

 

 だが、この海は違った。

 

 北大西洋の荒れた海を航行してたかと思えば、急に地中海の穏やかな海になる。

 

 嵐を抜けたら、それまでと全く違う場所にいた。

 

 そんな事が頻発しているらしい。

 

 ドレイクの説明を聞いて、立香は異常の原因が特異点、すなわち聖杯にある事を確信する。

 

 聖杯によって特異点が発生し、その影響で海の繋がりが出鱈目になっているのだ。

 

 となれば、答えは一つ。聖杯を取り除く事が出来れば、この海で起きている異常も解消できるはずである。

 

「頼む、ドレイク。協力してくれ」

 

 立ち上がって、立香は頭を下げる。

 

「俺達は何としても、この異常事態を解決しなくちゃいけない。その為に、あなたの協力が必要なんだ」

 

 この大海原を移動するには、足となる大型船が必要。

 

 そこに来て、フランシス・ドレイク率いる黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)ならば、この上無い味方となってくれるだろう。

 

 文字通り「渡りに船」である。

 

「・・・・・・・・・・・・確かに、この海は異常だよ」

「だったらッ」

 

 呟くドレイクに、身を乗り出す立香。

 

 判っているなら協力してくれ。

 

 そう告げようとする。

 

 しかし、

 

「けどねッ そいつは海賊にとって、ロマン以外の何物でもないのさッ 知らない海ッ 行った事の無い島ッ 全く読めない潮の流れッ こんなの楽しくて仕方ないに決まっているじゃないか!!」

「んなッ」

 

 思わず、立香は絶句する。

 

 恐るべし、海賊シンキング。

 

 この異常事態に恐れるどころか、むしろ積極的に飛び込もうとするとは。

 

 しかし、立香の驚愕を他所に、ドレイクは口元に笑みを浮かべ、目を輝かせている。

 

 ドレイクは本気で、この異常事態を楽しんでいる様子だ。

 

 考えてみれば、この当時の海賊と言えば冒険者の側面も持っている。多くの海原を船で飛び込み、島々に眠る財宝を探して回る。まさに、ロマン溢れる時代。

 

 ましてかフランシス・ドレイクは間違いなく、その代表格だ。「未知」「未踏」と言った単語に、余計に燃え上がるのは当然の事だった。

 

「なら・・・・・・・・・・・・」

 

 立香は、真っすぐにドレイクを見詰める。

 

 その瞳からは、まるで戦場にいるかのような輝きが放たれていた。

 

 今ここで、ドレイクの協力を得られなければ、特殊班は広い大海原で立ち往生を余儀なくされる。

 

 それだけに、立香は真剣だった。

 

「尚の事、俺達に協力してくれないか」

「あん?」

「俺達は、この海の原因を解明するため、色々な場所に行かなくてはならない。その過程は、決して、あなたを飽きさせる事は無いだろう。何より・・・・・・」

 

 立香は、

 

 決然と言い放った。

 

「海賊がどうとか関係ないッ 俺達にはフランシス・ドレイクが必要なんだ!!」

 

 それは殺し文句だった。

 

 どんな人間だろうと、自分を必要としてくれる人間がいれば悪い気はしない。

 

 まして、

 

 ここまでストレートに言われれば、いっそ清々しいくらいだった。

 

「・・・・・・・・・・・・やるねえ。久々に、響いたよ」

 

 ドレイクはジョッキを置くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 その胸には、確かに熱い物が湧き上がってきている。

 

 目の前の少年は面白い。

 

 こいつに着いて行けば、きっと面白い事になる。

 

 海賊としての勘が、そう告げていた。

 

 船乗りにとって勘は大事である。風を読む勘、潮を読む勘、危険を察知する勘。そうした勘を、常に研ぎ澄ましてこそ、真の船乗りと言える。ドレイクもまた、これまで自らの勘を信じて、ここまでのし上がって来たのだ。

 

 だからこそ、目の前の少年は「本物」だと、直感していた。

 

「良いだろう。あんた達を、あたしの船に乗せてやってもいい」

「本当にッ!?」

「ただしッ」

 

 勢い込む立香を制するように、ドレイクは片手を上げた。

 

「あたし達は海賊だ。そのあたし達が命運を託す相手はきっちりと見定めさせてもらうよ。勿論、海賊流のやり方でね」

 

 そう言って、ドレイクはニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その洞窟を、ドレイクたちが見つけたのは、偶然の事だった。

 

 たまたま、補給の為に立ち寄ったこの島で、周囲を探索していた船員が発見したのだった。

 

 試しに中に入ってみようと言う事になり、数人が内部に入り、

 

 そして出てこなかった。

 

 不審に思い再度、調査と捜索を兼ねて、今度はしっかりとした装備を持った上で人員を投入した。

 

 が、

 

 2度目の捜索隊も、戻らなかった事から、いよいよ事態は尋常ではないと判断したのだった。

 

「そもそも、何でそんなところに入ったりしたんですか?」

 

 マシュが首を傾げる。

 

 最初に入った人達は仕方ないにしても、2回目の時は警戒して入らない、と言う選択肢もあったはずなのだ。

 

 しかし、

 

「愚問だよ、マシュ」

 

 尋ねるマシュに、先を行くドレイクが胸を張って言い放った。

 

「そこに冒険があるなら、取りあえず突撃するのが海賊ってもんさッ」

 

 ものすごい説得力だった。

 

 そんな事をしている内に、一同は森の奥にある岩場までやって来た。

 

 目の前には巨大な岩壁があり、そこかしこに大岩が転がっているのが見える。

 

 もしかしたら、大昔に火山の爆発でもあったのかもしれなかった。

 

「着きやしたぜ。あれでさ」

 

 案内してくれたボンベが、岩壁の方向を指差す。

 

 見れば確かに、岩壁の一角にぽっかりと大きな穴が開いているのが見える。

 

 内部はかなり深いらしく、入り口から覗いて見ても、中まで見通す事が出来なかった。

 

「前に来たときは、こんな所は無かったと思ったんだけどね。あのあと、地震でも起きて崩れたのかもしれないね」

 

 そう言うと、ずんずんと先に入ろうとするドレイク。

 

 仰天したのはボンベである。

 

「チョッ!? まさか、姉御も入るんですかいッ!?」

「当たり前だろ。客人を危険な場所に行かせるんだ。船長のあたしが命張らないでどうするんだい?」

 

 さも当然とばかりに、あっけらかんと言い放つドレイク。そのまま、すたすたと中へと入っていく。

 

 その後から、ぞろぞろと着いて行く、立香達カルデア特殊班一同。

 

「姉御~」

「中をぐるっと見たら戻ってくるから。あんたは船の方を頼むよ」

 

 困惑気味のボンベに背中で答えつつ、ドレイクは迷わず洞窟の中へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

「そう言えばクロ」

「うん、何よ?」

 

 洞窟の中に入って数分。

 

 隣を歩く姉に、響は気になっていた事を尋ねてみた。

 

「何でドレイクと一緒にいるの?」

 

 確かに。

 

 どう考えても、生前に接点があったとは思えない二人が、なぜに一緒にいるのか?

 

「まったく、呆れるよ、そいつには」

 

 話を聞いていたらしいドレイクが、先頭を歩きながら話し始める。

 

 それによると、1人でいたクロを見つけた海賊たちが、例によって生け捕りにしようと襲い掛かったのだとか。

 

 それをあっさりと返り討ちにしたクロ。

 

 だが、話はそこでは終わらなかった。

 

 海賊たちから黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の位置を聞き出したクロは、迷う事無く襲撃を敢行。そこで、居合わせたドレイクと戦闘になったと言う。

 

 両者、激しい応酬を続けたが決着は付かず、そこでドレイクの提案で休戦し、ドレイクがクロを船に乗せる代わりに、クロは戦闘の際にはドレイクたちに協力する、と言う事になったらしかった。

 

「互角って・・・・・・クロちゃん、サーヴァントだよね?」

「そうね。一応、アーチャーよ」

 

 やや呆れ気味に尋ねる凛果に、あっけらかんと答えるクロ。

 

 そんなクロと、互角に戦ったドレイクは、やはりただ者ではないのだろう。

 

 先のローマでも、ネロが人の身でありながら、サーヴァントと同等以上の力を発揮していた。

 

 それを考えれば、英雄と呼ばれる人種は、「人」の尺度では測れないのかもしれなかった。

 

 そんな事を話しているうちに、一同はどんどん中へと入っていく。

 

 内部は、意外にもしっかりとした石造りの構造をしており、壁も床も、切り出した石で舗装されている。

 

「これ・・・・・・明らかに人工物だよな」

 

 かがんで床を撫でながら、立香は訝るように告げる。

 

 整然と敷き詰められた石畳や、大理石製の大きな柱。

 

 どう考えても、自然の物とは思えなかった。

 

「古代の遺跡か何かかな?」

「いや・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねる凛果に、手近な柱を撫でながら、ドレイクが何事かを思案する。

 

 練達の女海賊が感じる、微かな違和感。

 

 その正体に対し、しかし今だ確証と呼べるほどの材料は揃っていなかった。

 

「ドレイク、どうしたんだ?」

「フォウフォウ」

「ああ、いや・・・・・・何でも無いさ。さあ、もう少し、先に進んでみようじゃないか」

 

 そう言うと、再び歩き出すドレイク。

 

 先を行く女海賊の背中を見ながら、一同も怪訝な面持ちで後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 どれくらい、歩いただろうか?

 

 内部の構造は意外としっかりしているようで、崩れてくる心配は無い。

 

 しかし、なかなか最奥部までたどり着く事が出来ないでいた。

 

「ねえ、どれくらい来たのかな?」

「さあな。けどもう、2時間以上は歩いているよな」

 

 やや疲れ気味の凛果の言葉に、立香も嘆息交じりに応える。

 

 正直、サーヴァント達や、体力的に優れているドレイクは問題無いのだが、流石に立香と凛果は、きつくなってきていた。

 

 しかも、

 

「何か、歩いても歩いても同じような景色が続いているし・・・・・・何か無駄に疲れてくる構造だよね、ここ」

 

 周囲を見回しながら、凛果はぼやくように呟く。

 

 確かに。

 

 彼女の言う通り、同じような景色が続いているせいで、一向に先に進んでいる気がしなかった。

 

 肉体的には勿論、精神的にも疲れがたまってくる。

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 いや。

 

 「同じような」景色、

 

 ではなく、

 

 本当に「同じ」景色、

 

 なのだとしたら?

 

「・・・・・・・・・・・・やっぱりか」

 

 立ち止まったドレイクが、柱を見ながら舌打ち交じりに告げる。

 

 歴戦の女海賊が、珍しく苛立ったような声を上げていた。

 

「こいつはちょっと、まずい事になったかもね」

「どうしたんだ、ドレイク?」

 

 尋ねる立香に、ドレイクは背後の柱を指し示す。

 

「こいつを見な」

 

 ドレイクが指し示した柱には3本、横に線が引かれているのが判る。恐らく、ナイフか何かで削って付けたのだろう。

 

「こいつはついさっき、あたしが柱に付けた傷さ。通る毎に1本ずつ増やす形でね」

「えっ じゃあ、それが3本あるって事は・・・・・・」

 

 不吉な考えがよぎり、凛果は声を震わせる。

 

 だが、

 

 そんな彼女の希望を否定するように、ドレイクが頷く。

 

「同じ傷が3本。つまり、あたしたちはここに来るまで、この通路を3回通って、今は4回目って事になる」

 

 戦慄する一同。

 

 奥に進んでいるつもりで、立香達はいつの間にか、同じところをグルグル回っていた事になる。

 

「おかしいと思ったんだよ。古代の遺跡にしちゃ、ずいぶんと構造の石が綺麗すぎるからね。経年劣化も全く見られない事を考えると、この建物は、つい最近になって作られた事を意味している。だが、そんな事はあり得ない」

 

 緊張を増す、ドレイクの声。

 

 その予測が示す答えは、一つ。

 

 この迷宮その物が、何らかの魔術的要因によって形作られている、と言う事に他ならない。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 ズン

 

 

 

 

 

 突如、聞こえてくる低い、地鳴りのような音。

 

 石造りの壁が、一斉に振動するほどの衝撃だ。

 

 それも、一度ではない。

 

 音は連続して聞こえてくるのが判る。

 

 徐々に大きくなる音は、何か巨大な物が近づいてきている事を意味していた。

 

「な、何、これ?」

「ん、凛果、下がって」

 

 警戒心も露わに、響はマスターを下がらせながら、腰の刀に手をやる。

 

 帰らなかった船員。

 

 ループしている迷宮。

 

 そして、この状況。

 

 どう考えても、良好とは思えなかった。

 

「来るぞ、みんな」

 

 立香の声に答え、各々の武器を構える特殊班一同。

 

 ドレイクもまた、フリントロック銃を構えて廊下の奥を凝視する。

 

 やがて、

 

 光を呑んだような闇の中から、

 

 それは姿を露わした。

 

 巨象をも超える巨躯。

 

 両手には戦斧を構え、顔には不気味な牛の骨の仮面を付けている。

 

 頭にはねじくれた角が見える。

 

 怪物。

 

 まさに、怪物としか言いようがない。

 

 

 

 

 

 それは、現代にまで伝わる、恐ろしい「怪談」

 

 遥かな昔、地中海のクレタ島のクノッソスを中心に「ミノス文明」と呼ばれる、一大文明が存在した。

 

 穏やかな地中海の気候と、豊かな実りによって発展したミノス文明は、地中海一帯を支配するほどに発展したと言われる。

 

 そんな中、更なる発展を望む、時のミノス王は、自らが奉じる海神ポセイドンに生贄を捧げる事で祈った。

 

 そんなミノス王の献身を認めたポセイドンは、繁栄を約束する黄金の牡牛を、ミノス王に貸し与えたと言う。

 

 これにより、更なる発展を遂げる事になったミノス文明。

 

 だが、牡牛はあくまで、神からの借り受けた物であり、いずれは返さなくてはならない。

 

 強欲なミノス王は、返す段階になって牡牛が惜しくなってしまい、別の牡牛をポセイドンへと返してしまう。

 

 この事に怒り狂ったポセイドンは、王の妻パシパエ妃に呪いを掛け、牡牛に欲情するように仕向けた。

 

 牡牛と交尾したパシパエは、やがて1人の男の子を産み落とす事になる。

 

 しかし、その男の子は、体は人で、頭は牛という、半人半牛の、何とも醜い姿をしていた。

 

 子供を怪物と呼び、嫌悪するミノス王。

 

 しかし、神に遣わされた神獣と、妻との間に生まれた子供を処分するだけの決意もつかぬまま、数年の月日が流れた。

 

 成長するにつれ、凶暴性を増す子供。

 

 やがて、手に負えなくなったミノス王は、当代随一と言われる伝説の名工ダイダロスを呼び、クノッソスの地下に巨大な迷宮を造らせると、子供をそこに閉じ込めたと言う。

 

 そして当時、ミノスの属国であったギリシャから毎年、男女7人ずつの子供を浚っては、怪物への供物として捧げ続けたとされる。

 

 こうして、恐ろしく巨大で、恐ろしく凶暴に成り果てた怪物。

 

 その名を、

 

 ミノスの牡牛(タウロス)

 

 「ミノタウロス」と呼んだ。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮を上げるミノタウロス。

 

 次の瞬間、

 

 戦斧を振り翳して、襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

第3話「最古の迷宮」      終わり

 

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