Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第6話「黒髭危機連発」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香達が慌てて「黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)」の甲板に出た時、その場は既に戦場の様相と化していた。

 

 船員たちはせわしなく駆けずり回り、怒号が飛び交う。

 

 更に、船のすぐそばで突き上げられる水柱。

 

 今まさに、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)が、何者かから攻撃を受けている事を示していた。

 

「落ち着きなッ いったい何事だい!?」

 

 大音声で部下たちを怒鳴りつけるドレイク。

 

 その声に、甲板上にいた船員たちは、一斉に背筋を正し振り返る。

 

 居並ぶ部下達を、見回すドレイク。

 

 その眼光は鋭く、ただそこにいるだけで周囲を圧倒しているのが判る。

 

 彼女がこの黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の船長であり、七つの海を平らげるにふさわしい、海の王者である事を示す、何よりの証左である。

 

 思えば、これまで出会って来た多くの英霊達は皆、人を引き付けるカリスマを備えていた。

 

 フランスで出会ったジャンヌ・ダルク。

 

 ローマで出会ったネロやブーディカ。

 

 しかし、彼女達が「軍勢」と言う巨大な集団を統べる為、一種の「神掛かった」とでも言うべきカリスマを備えていたのに対し、ドレイクのそれは聊か異なる。

 

 彼女は「船」と言う、小さなコミュニティのトップである。それ故に、全ての部下たちが、彼女の挙動を見て着いて行く。

 

 それ故に、ドレイクのような海賊船の船長には何よりまず、いかなることがあろうとも堂々とした態度でいることが求められるのだ。

 

 自ら勇を示してこそ、多くの部下達が彼女に付き従うのだ。

 

「姉御ッ 例の奴等でさッ!!」

 

 船橋の上に立って望遠鏡をのぞいていたボンベが、大声で怒鳴ってくる。

 

 彼の指し示す方角に、1隻の船がいる事に気が付く。

 

 言われて、ドレイクも懐から伸縮式の望遠鏡を取り出して目に当てる。

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の後方から、大砲を撃ちながら猛追してくる、1隻の帆船。

 

 そのマストに翻る旗を見て、ドレイクは舌打ちする。

 

「・・・・・・やっぱりあいつ等かッ しつこい連中だよ」

 

 言いながら、望遠鏡を傍らの立香へと渡す。

 

 促されるまま、慣れない手つきで望遠鏡を操る立香。

 

「・・・・・・・・・・・・あれ、海賊か?」

 

 敵船のマストの頂上には、黒地に白で染め描いた髑髏のマークが、しっかりと描かれている。

 

 すなわち、敵はドレイクと同じ海賊と言う事だ。

 

「あんた達と会う前に一度、あの連中に襲われてね。その時は何とか振り切ったんだけど、まさかしつこく追いかけてくるとは思わなかったよ」

 

 あの海賊は一度、ドレイクたちと交戦した相手。

 

 つまりあれが、エウリュアレを追っていた海賊たちと言う事か。

 

 吐き捨てるように言いながら、ドレイクはボンベへと振り返る。

 

「グズグズするんじゃないよ!! 最大戦速ッ 帆を張りな!!」

 

 武人と違い、海賊にとって「逃走」は恥ではない。つまらない敵と戦って、負ける方がよっぽど割に合わないのだ。

 

 それ故に、ドレイクは迷わず逃げる事を選択したのだ。

 

 

 

 

 

 一方、

 

「デュフフフ、ついに見つけたぞ。BBA、もう、逃がさないでござる。エウリュアレ氏は絶対に拙者が戴くからね。あと、ついでにあんたが持ってるアレもな」

 

 船長、

 

 だと、恐らく思われる男が、やたらと髭を生やした顔を、妙に緩ませた笑顔を浮かべていた。

 

 海の男らしく鍛えられた裸の上半身の上から、軍服の外套を直接羽織り、口の周囲にはもっさりとした黒いひげで覆っている。

 

 正直ちょっと、

 

 いや、かなりむさくるしい印象の男だ。

 

 そして、

 

「デュフ、デュフフフフフフ」

 

 その口元からは、気色悪い笑みがこぼれる。

 

「ああ、エウリュアレ氏、エウリュアレ氏、絶対に欲しいッ 具体的に言うとペロペロしたいッ ああ想像しただけで拙者はもうッ もうッ」

 

 くねくねと、体をくねらせる船長(らしき物)。

 

 そんな様子を、傍らに控えた船員が、呆れを通り越して、ごみを見るような眼差しで見つめていた。

 

「いつも思うんだけどさ、生きてて恥ずかしくないのかな?」

「もう、駄目よメアリー。そんな風に言っちゃ」

 

 真顔で毒を吐く小柄な女性に、その相棒らしき、ライフルを携えた長身の女性が窘めるように告げる。

 

 とは言え、船長(らしき物)をフォローするのかと思いきや、

 

「ミミズだって、ゴキブリだって、ペスト菌を保有したドブネズミだって生きているのよ。船長だって、生きていていいのよ。きっと」

 

 言っている事はもっとひどかった。

 

 しかし、

 

 それで船長(確定)が怒るかと言えば、

 

「ふおォォォォォォ これはキツキツのポイズントークですなッ 拙者、ナイーブですから、そんな事言われたら、お二人をチョメチョメしちゃいますぞ!!」

 

 逆に喜んでいた。

 

「・・・・・・やっぱりこいつ殺そうよアン。それが世の中の為だって」

「だめよ。遠くから見ている分には、単に有害で不快で臭いだけで済むでしょう」

「いや、それもう、充分に嫌だからね」

 

 呆れ気味に会話する女たちを尻目に、男は真面目な顔つきで、逃げる黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)を睨む。

 

「さて、と言う訳で、我らが同胞(はらから)よ、ペロマニア至宝の女神(ミューズ)、エウリュアレたんを頂きにまいりましょう。あ、ついでにBBAが持っている、例のアレもね」

「いや、そっちがメインですよね?」

「ダメだこいつ。完全にエウリュアレの事しか頭にないみたい。しょうがいないから、ぼくたちでしっかりやろう」

 

 船長の欲望丸出しトークに、女性2人は、ため息とともにガックリと肩を落とすのであった。

 

 そんな2人の反応を無視しつつ、船長は背後に立つ人物を見やる。

 

 緑の軍服に身を包んだ中年の男。一見すると、どこにでも居そうな優男のような印象があるが、手には業物と思われる槍を握り、凄みを出しているのが判る。

 

「先生、ここはひとつ、お願いするでござるよ!!」

「いやー 俺は『先生』なんて呼ばれる柄じゃないからね。所詮は負け犬さ」

 

 そう言って、船長に向かって頭を掻く男。

 

 その口元には、照れくさそうな苦笑が張り付いている。

 

「いやいや、何を言っておられるのですかな、トロイアの大英雄殿は」

「いやまあ、そう言われると、悪い気はしないんだけど、まあ事実、俺は負けたしね~」

 

 そう言って、男は肩を竦める。

 

 その間にも船は、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に近づいていくのだった。

 

 

 

 

 

「だめでさァ!! 連中の方が足が速いッ 間もなく追いつかれやす!!」

「泣き言言ってんじゃないよ!! そこを何とかすんのが、あんたらの仕事だろうが!!」

 

 ぐんぐんと追いついてくる敵船。

 

 既に両船の距離は指呼の間に迫っている。

 

 情けない声を上げるボンベに無茶ぶりをするドレイクだが、船の性能差はいかんともしがたい。

 

 船の大きさを考えれば、基本となる速力は黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の方が速いようが、立ち上がりを制されたのは痛い。こちらが加速しきる前に追いつかれるのは目に見えていた。

 

 その時、

 

「いったい何の騒ぎよ?」

 

 喧騒を聞きつけたらしいエウリュアレが、眠そうな目をこすりながら、甲板に上がってくるのが見えた。

 

 どうやら、船室で寝ていたところを、騒音で叩き起こされたらしい。女神の顔には、あからさまな不機嫌が張り付けられていた。

 

「エウリュアレさん、敵です!!」

「敵~?」

 

 面倒くさそうに、船の後方に目を向けるエウリュアレ。

 

 その視界の中に、追いかけてくる敵の船を見つけた瞬間、

 

「・・・・・・ゲッ」

 

 あるまじき呟きを漏らす女神様。

 

 次いで、キョロキョロと周囲を見回すと、すぐそばにいた響の首根っこを捕まえて引っ張り寄せた。

 

「ん? エウエウ、どした?」

「良いから黙ってなさいッ 見付かっちゃうでしょうが!!」

 

 キョトンとする響を叱りつけながら、その背中にコソコソと隠れるエウリュアレ。

 

 その間にも、相手との距離はぐんぐん詰められてくる。

 

 最早、完全に黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)と並走している状態だ。

 

「砲撃、どうしたッ!?」

「ダメですッ 全部弾かれます!!」

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)も、接近する敵船に向けて大砲を放っているが、全て弾かれ、用を成さない。

 

 いったい、如何なるカラクリなのか? 木造の船が至近距離から放たれた砲弾を、悉く弾き返していた。

 

 万事休す。

 

 やがて、並走した敵船から、次々と鍵付きロープが投げ込まれ、舷側に取り付かれる。

 

「総員、戦闘用意!!」

 

 叫ぶと同時にドレイク、自らも腰から拳銃を抜き放つ。

 

 もはや逃走は不可能と判断したドレイクは、戦闘モードにシフトする決断を下したのだ。

 

 船長命令を受け、各人が動き出す。

 

 各々、剣を抜き放つ者、銃に弾を込める者。

 

 勿論、サーヴァント達も戦闘準備を整える。

 

 美遊は剣を抜き放ち、クロは干将、莫邪を投影して構える。マシュも大盾を前面に突き立てた。

 

 そんな中、

 

「エウエウ、戦いにくい」

「良いから、そのまま立ってなさい!!」

 

 エウリュアレにヒシッとしがみつかれて、響は嘆息していた。

 

 その時だった。

 

《立香君ッ 凛果ちゃんッ 敵の正体が判ったぞ!!》

「ドクター?」

 

 立香の腕に付けられた通信機から、ロマニの緊迫した声が響いて来た。

 

 カルデアの方でも、敵船の解析が行われていたのだろう。その結果が出たようだ。

 

《あの海賊旗は、そこにいるフランシス・ドレイクよりも、100年ほど後の時代に現れた海賊の物だ。カリブ海一帯を荒らし回り、抵抗する者全てを皆殺しにした恐るべき海賊艦隊の首領・・・・・・・・・・・・》

 

 ロマニが説明する中、

 

《「黒髭」の異名で襲られられた、おそらく世界で最も有名な海賊にして、「女王アンの復讐号(クイーンアン・オブ・リベンジ)」の船長!!》

 

 敵船の甲板に、1人の男が姿を現す。

 

《奴の真名は、エドワード・ティーチだ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に捕捉され、停船を余儀なくされた黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 その横では、女王アンの復讐号(クイーンアン・オブ・リベンジ)が、砲門を向けている。

 

 流石に、建造年数に100年の違いがあるせいか、船の攻撃力は完全に敵の方が勝っている。

 

 今ここで砲門を開かれたら、確実にこちらが沈められるのは目に見えている。

 

 しかし、

 

 そうして来ないと言う事は、相手にはこちらを沈める以外に、別に目的があると言う事だ。

 

 その目的の一つが、エウリュアレの身柄である事は語るまでもない事だろう。

 

 

 

 

 

「おいッ そこの髭!!」

 

 銃口を向けながら叫ぶドレイク。

 

 その視線の先では、

 

 彼女を無視するようにして立つ、大柄な男の姿があった。

 

 見間違えるはずもない、もっさりとした髭。

 

 あの人物が「黒髭」エドワード・ティーチである事は間違いないだろう。

 

 ある意味、判り易いくらいに分かりやすい。外見的特徴で真名がここまで判るパターンも珍しいだろう。

 

「おいッ 聞いてんのか、この髭野郎ッ!!」

 

 まるで自分の事など眼中に無い、とばかりに無視を決め込むティーチに、ドレイクが苛立ったように叫びをあげる。

 

 次の瞬間、

 

「はあ? BBAの声など、一向に聞こえませぬが?」

 

 わざとらしく耳穴を小指でほじりながら、ティーチは小ばかに仕切った調子で返す。

 

 次の瞬間、

 

 敵も味方も、

 

 思わず凍り付いたのは、言うまでもない事だった。

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 一瞬、呆けたような声を上げるドレイク。

 

 そこへ、ティーチが畳みかける。

 

「だーかーらー!! BBAあお呼びじゃないんですぅ 何その無駄乳? ふざけてるの? まあ傷は良いよね刀傷。そう言う属性アリ。でもね、年齢がね、困るよね。せめて半分くらいなら拙者の許容範囲でござるけどねぇ ドゥルフフフフフフ」

 

 何と言うか、

 

 無駄に苛立ちを煽る言動だった。

 

 流石は海賊と言うべきか、煽りスキルはカンストしているらしい。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言のまま沈黙しているドレイク。

 

 何やら、目の焦点が合っていないようにも見える。

 

「ちょっと、ドレイク、どうしたのよ?」

「ん、返事がない。ただのシカバネのようだ」

 

 衛宮姉弟が目の前でひらひらと手を翳すが、反応が無い。

 

 どうやら、あまりの出来事に、脳が一時的にフリーズしているらしかった。

 

 と、そんなドレイクの様子に、エウリュアレもひょいッと覗き込んで嘆息する。

 

「精神的に死んでしまったようね。まあ、無理も無いわ、私もあれに追いかけられた時はそうだったし。ていうか、良く生きていたわね、私」

 

 と、憐れみの念をドレイクに寄せるエウリュアレ。

 

 次の瞬間、

 

「フオォォォォォォォォォォォォ!?」

 

 突如、敵船から絶叫が響き渡る。

 

 見れば、ティーチは船べりから落ちんばかりに身を乗り出していた。

 

「やっぱりいるじゃないですか、エウリュアレ氏!! ああ、やっぱり可愛い!! かわいい!! Kawaii!! ペロペロしたい!! ペロペロされたい!! 主に脇とか鼠径部を!! あ、踏まれるのも良いよ!! 素足で!! 素足で踏んで!! ゴキブリを見るような眼で蔑んでいただきたい!! そう思いませんか、皆さん!?」

「うう・・・・・・もうイヤ、あいつ・・・・・・・・・・・・」

 

 興奮度MAX。現界突破する黒髭に、完全にドン引きしているエウリュアレ。

 

 まあ、無理も無かろう。

 

 と、

 

 そんなエウリュアレを守るように、ズイッと前に出て、不浄な視線から彼女を守る巨影。

 

 アステリオスだ。

 

 エウリュアレを守るようにして、黒髭の視線の前に立ちはだかる。

 

 無言のまま、ティーチを睨みつけるアステリオス。

 

 途端に、罵詈雑言が巨体の勇士に降り注ぐ。

 

「ああん!? そこのでかいの!! 邪魔でおじゃるよ!! 出せー 出せよー エウリュアレ氏出せよー!!」

 

 さんざん、喚きたてるティーチ。

 

 そこで、ようやく思考が追い付いて来たのだろう。マシュが、再起動するように、体を震わせて動き出す。

 

「あ、あれが、黒髭・・・・・・エドワード・ティーチ・・・・・・」

「ちょっと、想像と違うって言うか・・・・・・」

「ぶっちゃけ、きもいよね」

 

 仮にも英雄と呼ばれた存在の、あまりにもあれな言動に、カルデア特殊班一同も、茫然としている。

 

 と、

 

 今までエウリュアレばかりに視線をやっていたティーチの目が、特殊班の女性陣を捉えた。

 

「ん?」

「な、何・・・・・・?」←凛果

「んん?」

「えっと・・・・・・?」←マシュ

「んんん?」

「あ、あの・・・・・・?」←美遊

「んんんん?」

「・・・・・・何よ?」←クロ

 

 1人1人、吟味するような視線が向けられる。

 

 戸惑う一同。

 

 次の瞬間、

 

「ん~~~ ご、う、か、く!! いや~ 可愛い子ばっかりで、拙者迷っちゃうな~ ここはパラダイスでござるか?」

「うわ、気持ち悪さが8割増しだね。もうほんと、死んでくれないかな」

「言いすぎですよ、メアリー。そこはせめて6割り増しくらいにしときましょう」

 

 体をくねらせるティーチに、傍らの女性海賊2人が、ごみを見るような視線を投げる。

 

 そんな味方の女性陣の蔑みの視線を受けて尚、怯んだ様子もなく、ティーチはもう一度、凛果たちに目を向けて口を開く。

 

「さあさあさあッ ぜひとも、拙者に君達の名前を教るでござる。さもないと・・・・・・・・・・・・」

『さもないと?』

 

 一同が、ごくりと生唾を呑み込んだ。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は拙者、眠る時、君達の夢を見ちゃうぞ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤丸凛果!! 藤丸凛果、だよ!!」

「さ、朔月美遊です!!」

「マシュ・キリエライトッ デミ・サーヴァントをしています!!」

「クロエ・フォン・アインツベルンよッ てかッ 何なのよ、それはッ!?」

 

 効果は覿面だった。

 

 前代未聞の脅迫に、凛果たちは一斉に名乗る。

 

 あの男の夢に強制出演させられる事だけは、是が非でも避けたい。

 

 それが、女性陣一同、共通する想いだった。

 

「ん~ 凛果たん、美遊たん、マシュマロたんにクロエたん。みんな可愛いですな~ はァァァァァァ、ペロペロしたいッ 全員一緒にペロペロしちゃいたいでござる~」

 

 もはや、止める気もなく暴走するティーチ。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 ドォンッ

「のわァァァァァァ!?」

 

 

 

 

 

 突如、飛来した銃弾を、身をくねらせて避けるティーチ。

 

 具体的に言えば、電脳世界での戦いを描いた某ハリウッド映画に出てくる、上半身をのけ反らせるような避け方だ。

 

 驚異的な反応速度だ。

 

 一歩遅ければ、命中コースだったのは間違いない。

 

 この事実だけを見れば、この男もただのおちゃらけた存在でない事が判るだろう。

 

 だが、次の瞬間、

 

「フギャッ!?」

 

 こらえきれずティーチは、ベシャッ と言う音と共に甲板に崩れ落ちた。

 

 その様子を、傍らの女性陣は、もはや疲れ切った目で見つめる。

 

「うわー 今の見た、アン?」

「よけ方も気持ち悪いですね」

 

 一方、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)では、

 

「ドレイク、あいつ撃って良い?」

「・・・・・・気持ちは判るが、撃ってから言うな。あと、その銃はちゃんと返してやんな」

「ん」

 

 ドレイクに言われて、ボンベから掠め取った銃を持ち主に返す響。

 

 と、そんな事をしている内に、視界の先で黒髭が立ち上がるのが見えた。

 

「やるでおじゃるな、そこなショタっ子!! この拙者に奇襲攻撃を仕掛けるとは」

「ん、ただのツッコミ」

「しかーしッ 貴様は拙者の逆鱗に触れたッ その罪、貴様の命で購ってもらうでおじゃる!!」

 

 何と言うか、イチイチ決まらない男である。

 

 とは言え、

 

「来るよッ 戦闘準備!!」

 

 ドレイクの号令の下、戦闘態勢に入る黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 合わせるように、女王アンの復讐号(クイーンアン・オブ・リベンジ)の方でも、船員たちもそれぞれ、武器を手にするのが見えた。

 

 海上に張り詰める、一瞬の緊迫。

 

 次の瞬間、

 

「「掛かれェェェェェェェェェェ!!」」

 

 ドレイクとティーチ。

 

 互いの船長が放つ大音声の号令と共に、両陣営ははじけるように、相手に対して襲い掛かった。

 

 

 

 

 

第6話「黒髭危機連発」      終わり

 


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