1
衝撃が襲い掛かる。
全てを、呑み込むような閃光、轟音、衝撃。
そして爆炎。
戦いも終盤に差し掛かり、ドレイク海賊団は、黒髭海賊団を追い詰めつつあった。
だが、そこで襲い掛かる、思わぬ伏兵。
大英雄ヘクトールの背信と、突如、海中より出現した巨大戦列艦。
その一斉射撃を、至近距離からもろに浴びて、
小型ガレオン船は瞬く間に炎に包まれ、その優美な姿は視界から消え去ってしまう。
海上には煙と水蒸気が立ち込め、視界が暫しの間塞がれる。
沈めたか?
沈めたはずだ。
あの砲撃を至近距離から喰らい、小型のガレオン船が生き残れるはずが無い。
今頃は、塵も残さないほどに消滅しているはず。
誰もがそう思う中、
やがて、
海風に吹かれて煙が散って行く。
晴れる視界の中で、
「・・・・・・・・・・・・ありゃ」
戦列艦の甲板に立ったヘクトールは、彼方の光景を見て、やや気の抜けた声を上げた。
戦列艦の砲撃は確かに命中した。あのタイミングで、
ヘクトール自身、炎に包まれる
しかし、
目の前にある光景が、彼の想像と違ったのは間違いなかった。
嘆息する。
とは言え、それは落胆から来ている物ではない。
心から湧き出るのは、確かな称賛、そして微かな感動だった。
「いやいや・・・・・・・・・・・・」
口から零れたのは、彼の心からの本音だった。
まさか、このような事になろうとは、想像すらできなかった。
大英雄の称賛は、
つい先刻まで、彼の上司だった男へと向けられた。
「流石だよ・・・・・・・・・・・・船長」
一方、
至近距離から数十門の大砲による一斉射撃。
その破壊の嵐をまともに受けたのだ。
如何にワイバーンの鱗で装甲を強化したとは言え、小型のガレオン船に過ぎない
船は沈む。
誰もが、そう思った。
襲い来る衝撃が、船の全てを呑み込む。
しかし、
その後に襲ってくるはずの破壊が、いつまで経っても訪れる事は無い。
「い、いったい、どうしたんだ?」
甲板に倒れ伏した立香は恐る恐る、目を開く。
体に痛みは無い。
それどころか、周囲を見回しても、船が破壊された様子は無い。
黒髭海賊団との戦闘で破壊された箇所はあるが、砲撃による破壊跡は皆無だった。
一体どういうことなのか? あれだけ強烈な砲撃を、無傷で切り抜けたと言うのか?
訳が分からず周囲を見回すと、すぐ傍らに妹が倒れているのを見つけて駆け寄った。
「おいッ 凛果、しっかりしろ」
「あ・・・・・・兄貴?」
呼びかけるとすぐに返事が返り、ホッとする立香。
傷を負った様子は無い。どうやら、衝撃で気を失っていただけのようだ。
見れば、マシュ達もそこかしこで倒れているのが見える。全員、衝撃で吹き飛ばされたようだが、怪我をしている様子は無い。
と、
向けた視線の先では、
甲板に直立不動で立つ、ドレイクの姿があった。
女海賊の視線は、自船のすぐ脇へと向けられている。
どこか複雑そうな、ドレイクの横顔。
立香は凛果を甲板に座らせて休ませると、立ち上がって彼女の下へと歩み寄る。
ドレイクの方でも、近付いてくる立香の足音に気が付いたのだろう。振り返って視線を合わせた。
「ああ、立香、凛果も無事かい?」
「ああ、何とかね。けど、いったい、何がどうしたんだ?」
「フォウッ ンキュッ フォウ」
無事だったらしいフォウが肩に駆けあがってくるのを受け入れながら、立香は首を傾げる。
自分たちは確かに、戦列艦からの砲撃を受けた筈。
圧倒的な火力を前にして、今度ばかりは流石に駄目だと思ったのだが。
しかし、ふたを開けてみれば自分たちは生きており、
いったい、何がどうなっているのか?
戸惑う立香に対し、
「見な」
ドレイクは、自身の傍らを指し示す。
果たしてそこには、
ボロボロに崩れ、今にも燃え尽きんとしている1隻の船が、
炎に包まれた海賊《黒髭》の旗艦は、今や船首から船尾、そしてマストに至るまで炎に包まれている。
一見して、助からないであろうことは明白である。
この光景が意味するところは、一つしか考えられなかった。
「まさか、俺達を守ってくれたのか? 黒髭が?」
驚いて声を上げる立香。
信じられない事だが、それ以外に考えられない。
無傷の
炎上し、今にも沈まんとしている
これらが意味するところは、考えるまでも無かった。
その時だった。
「ハッ 黒髭・・・・・・舐めんな・・・・・・このくらい、朝飯、前、でござるよ」
どこか苦し気な、それでいて威厳を失わない声が聞こえてくる。
振り返る一同。
そこには、
あの一瞬、
自身に残された最後の魔力を使って強引に
その証拠に、燃え尽きんとしている
本来なら、宝具とは言え巨大な船を動かすには、それ相応の人員と手順が必要になる。
驚くべき事にティーチは、それをたった1人でやってのけたのだ。
まさに大海賊の面目躍如、
否、
意地の為せる業であった。
しかし、代償もまた大きかった。
「黒髭、あんた、それッ」
「・・・・・・ああ」
立香が指摘する中、体から金色の輝きを放ち始めるティーチ。
既に美遊との戦いで致命傷を負い、更にヘクトールの裏切りでとどめを刺されたうえでの、今回の無茶である。
彼の中で、とっくに魔力は尽き、限界を超えていたのだ。
「いやいや、今回は流石の拙者もやりすぎたでござるな。ここらが潮時のようだ」
そう言ってティーチは肩を竦めようとした。
が、どうやら既に、その余力も残っていないらしく、ただ口の端を歪めて笑う事しかできなかった。
しかし、決して悪い顔ではない。自分にしかできない仕事をやりきった、男の顔だった。
「ったく。無茶しやがって」
座り込んだティーチの前に立ち、ドレイクは吐き捨てるように言った。
最後の最後で、敵に助けられたことが気に食わないのか?
そう思って聞いていた立香達。
しかし、
ドレイクの顔には、どこか楽し気な笑みが浮かべられていた。
「まあ何だ。流石は海賊《黒髭》だよ。あんた、最初からそれくらいやってくれてたら、良い男なのにな」
そう言って嘆息するドレイクに対し、
ティーチはいつもの緩んだ笑顔で応じた。
「やだッ BBA、今の可愛いッ 可愛いッ 惚れた? ねえ惚れた? 拙者に? う~ん。どうしよっかなー? 拙者、もうちょっと若い子が好みなんだけどなー」
「テメェ・・・・・・・・・・・・」
今わの際にも、相も変わらずの減らず口に、思わず激高しかけるドレイク。
だが、
すぐに深呼吸すると、ティーチに向き直った。
「ほれ、さっさと死にな。『今度』は、首は残しておいてやるから。大事に抱えて行くんだね」
その言葉に、
さしもの大海賊も、キョトンとした顔を浮かべた。
伝説によれば、《黒髭》エドワード・ティーチは、討伐隊に敗れた後首を斬られ、その首はさらし者にされたと言う。
しかし、首を失った胴体がその後、首を探してさ迷い続けたと言う伝説が残っている。
まるで、その事を知っているかのようなドレイクの言葉に、ティーチも意表を突かれた形だった。
「クッ・・・・・・クックックッ そうか・・・・・・そうかッ」
ドレイクの言葉を聞き、笑みを浮かべるティーチ。
その顔には、どこか晴れやかな表情が浮かべられていた。
「フランシス・ドレイクが・・・・・・海賊《黒髭》が、この世で最も尊敬する海賊が、首を残してくれるのか。なら、何も思い残す事は無い。黒髭は死ぬとするか」
そう言っているうちに、金色の粒子にほどけて消えていくティーチ。
その顔には、最後まで不敵な笑みが浮かべられていた。
その様子は戦列艦の甲板からも確認できた。
ボロボロになって崩壊していく
その陰から、無傷の
黒髭最後の意地は、彼が憧れた女性を、完全に守り通したのだ。
「どうする、ヘクトール殿?」
「提督」と呼ばれた隻腕隻眼の男は、傍らに立つヘクトールに尋ねる。
この戦列艦の主であり、ライダーのサーヴァントである彼もまた、あの状況でティーチがドレイクを守り通すとは、思ってもみなかったのだ。
「戻ってトドメを刺す事は可能だが?」
ここでドレイクを討ち果たしておかないと、いずれ禍根を残す事になりかねない。
大英雄であるヘクトールが、その事に気付かない訳がない。
ここで、倒せるときに倒しておくべきだろう。
しかし、
「いや、やめときましょう。こっちも予想外の事で、スケジュール的にきつくなってきているし。さっさと合流場所に向かった方が良い」
そう言って、肩をすくめるヘクトール。
視線は、足元で気を失って眠っているエウリュアレに向けられた。
「最大の目的は達した。今はそれで充分さ」
目的はあくまでエウリュアレのと聖杯の奪取。できれば、ドレイクが持っているもう一つの聖杯も手に入れたかったが、それはどちらかと言えばついでに過ぎない。
今はエウリュアレを手に入れられただけでも十分だった。
「それに・・・・・・・・・・・・」
ヘクトールはもう一度、彼方で燃え続ける炎に目を向ける。
その脳裏には、尊敬すべき海の男の顔が思い浮かべられていた。
「一時とは言え主と仰いだんだし、敬意くらいは払わないとね」
「そんなものかね」
大海賊《黒髭》エドワード・ティーチが、最後に命を掛けて守ったのだ。
一度くらい、その遺志を汲んでやるのも悪くない。そう思ったのだ。
ヘクトールの言葉に、提督は共感するように笑みを浮かべた。
と、
そんな男2人の会話に割って入るように、背後から近づく気配があった。
「そう、なら、私の出番、は、無しって事で良いの、かしら?」
背後からの声に、振り返る2人。
男たちが向ける視線の先では、和装を着た1人の女性が佇んでいた。
薄汚れた白い上衣に、緋色の袴。
恐らくは巫女の類と思われる。
ぼさぼさの長い黒髪を束ねる事も無く振り乱し、どこか気だるげな表情を浮かべた20代中盤程の女性。
面倒そうな視線を男たちに向けると、船縁に近づいて来た。
彼方から姿を現す
「まあ、私としては、出番がない、なら、それに越した事は無いの、だけれど」
「相変わらずのようで何よりだよ、キャスター」
どこか皮肉交じりの笑みを向けるヘクトール。
この女が無精気味な事は、この世界に召喚されてから知っていた。
暫く会っていなかったが、その性格は相変わらずらしかった。
対して、キャスターと呼ばれた女性は、興味なさげに振り返る。
「男どもの、くだらない意地に付き合う気は、ありません。私が必要に、なったら、起こしてください、ライダー」
そう言うと、再び船室へ入っていくキャスター。
その姿を、ヘクトールとライダーは肩を竦めて見送るのだった。
2
一方その頃、
ドレイク海賊団と黒髭海賊団が激突した海域から少し離れた場所を航行する、1隻の巨大船が存在していた。
船首から船尾までが急激な弓形で反り上がり、中央のマストには巨大な帆が1枚張られている。
更には舷側からは幾本もの櫂が突き出し、海面を漕いでいるのが見える。
かなりのスピードだ。
それ程波が無い海面とは言え、船は飛ぶようなスピードで海面を疾駆していた。
その理由は、
船の後方にあった。
船尾付近に立った1人の少女。
歳の頃は10台中盤程に見える。
長い髪をポニーテールにして後頭部で結い、ゆったりと長い衣装に身を包んでいる。
可憐な瞳は閉じられ、口は小声で何かを詠唱している。
掲げた手には魔力の光が宿っているのが判る。
一心不乱に詠唱を続ける少女。
と、
そんな少女をいたわるように、背後に立った男が少女の肩を叩いた。
「ありがとうメディア。よく頑張ってくれているね。君のおかげで、どうにか今日中にライダー達と合流できそうだよ」
「あ、イアソン様」
声を掛けられ、メディアと呼ばれた少女は、詠唱をやめて振り返る。
すると、
それまで帆を張り詰めていた風は緩やかになり、船のスピードも衰える。
少女が魔力で帆に直接風を送る事によって、船は高速を維持していたのだ。
「先程、ライダーから連絡があったよ。ヘクトールが無事、エウリュアレを確保したそうだ」
「本当ですかッ」
イアソンの言葉に、メディアは顔をほころばせる。
それは、待ちに待った朗報であった。
「『あの御方』の言った通り、エウリュアレを捧げれば、私は更なる力を得る事が出来る。誰よりも強く、誰よりも無敵になれるのだ。素晴らしい事だと思わないかいッ!?」
「はい、とても、とても素晴らしい事だと思います、イアソン様」
拳を振るって熱弁を語るイアソンを、メディアはキラキラした目で見つめている。
どこか、年頃の少女が、押しの男性アイドルを見詰めるような瞳だ。
対して、イアソンの方はと言えば、彼女には目もくれず、どこか遠くの海原を見詰めて語っている。
と、
そこで何かを思い出したように、イアソンはメディアに尋ねた。
「そう言えば、顔色が優れないね。大丈夫かい? 何しろ君は長時間、この船の動力源になっているんだ。少しくらい、そう、ほんの少しくらいなら休憩も許可しようじゃないか」
優し気な口調で話しかけるイアソン。
対して、メディアは、健気な笑みを見せる。
「ありがとうございます、心配してくれて。けど、私は大丈夫ですイアソン様。まだまだ頑張れます」
そんなメディアの返事に、イアソンは満足そうな頷きを返す。
「ああ、なんて愛おしいんだ。それでこそ、我が妻となるべき人だよ」
そう言って、メディアの頬を優しく撫でるイアソン。
メディアもまた、うっとりした表情で、イアソンを受け入れる。
「ご安心くださいイアソン様。我らアルゴナウタイは絶対無敵の英雄達。我ら一同、全てはイアソン様の為に、全てを捧げる覚悟です」
「うん、期待しているよ。我がアルゴナウタイは無敵だとね。寄せ集めの連中なんかに負けるはずが無い」
少女の健気な言葉に答えてから、イアソンは露骨に顔をしかめる。
「まあ、中にはどうしようもないロクデナシもいたけどね。まったく、あの女ッ
「イアソン様、どうかなさいました?」
毒づくイアソンに、メディアは不思議そうな眼差しを向けると、イアソンはすぐに取り繕った笑みを浮かべる。
「ああ、何でもないよ。君が気にするような事じゃない。それより、エウリュアレを手に入れたら、早速『アレ』の探索に入る。信託を受ける準備も進めておいてくれたまえ」
「はい、お任せください、イアソン様」
そう言うと、再び帆に風を送る作業に戻るメディア。
その様子を、イアソンは笑み交じりに見つめと、一同を見回して言い放った。
「さあ諸君、『
3
戦列艦は、その巨体とは裏腹に、海面を滑るように進んでいく。
波による揺れはほとんど感じない。
比較的小型だった
「さて、ここまで来れば大丈夫ですかね?」
「うむ。速度性能ではそう変わらないはず。ここまで来れば、まず、追いついてくる心配は無いだろうさ」
ヘクトールの言葉に、ライダーが望遠鏡を覗き込みながら答える。
周囲には広い海原が存在している。その他には、一切の船影は見当たらない。
完全に振り切ったと見て間違いないだろう。
「あとはゆっくり、ティータイムでも楽しんでいれば、放っておいても我らの任務は終了と言う事だ」
そう言って、余裕そうに肩を竦めるライダー。
だが、
「そう、簡単にうまくいくかしらね?」
皮肉交じりの声が足元から聞こえ、ヘクトールとライダーは振り返る。
後ろ手に縛られ、床に転がされたエウリュアレが、鋭い眼差しで2人を見上げていた。
縛っている紐には、どうやら特殊な魔術が掛かっているらしく、神霊とは言え非力なエウリュアレには、自力では解けそうになかった。
「ほほう」
そんなエウリュアレの言葉に興味を持ったのか、ライダーは片膝を突いて話しかける。
「では、追撃は来る、と?」
「ええ、間違いなくね」
強気に答えるエウリュアレ。
とは言え、半分は彼女の願望なのだが。
しかし、ドレイクはあの程度で参るほど、軟な女ではないだろう。
それにアステリオスがいる。自分が攫われたとなれば、あの子が決して黙っていないはずだ。
少しの間、一緒にいただけだが、あの船に乗っている者達は皆、それぞれ信頼できる者達だ。
それに、
エウリュアレは、1人に少年を思い浮かべる。
藤丸立香。
あの中でリーダー格の少年。
何の力もなく、エウリュアレの目から見ても魔術師としては半人前以下で、取り立てて特徴がある訳でもない平凡な少年だ。
しかし、なぜか不思議と、彼の中に惹かれる物を感じるのだった。
いったいなぜ、そう思うのかはエウリュアレにも判っていない。
だが立香なら、無条件で信頼しても良い。
そう思うだけの何かが彼にはあった。
「だいたい、何でわたしなんか狙ったのよ?」
そこで、エウリュアレは当初から疑問に思っていた事をぶつけてみた。
考えてみれば奇妙な話で、サーヴァントとして現界して以来、エウリュアレは常に付け狙われていた。
最初は黒髭に、そして今は目の前の連中に。
だが、その理由が未だに分からないままだった。
「言っとくけど、私、女神としては格落ちよ?」
そう言って、エウリュアレは不機嫌そうにそっぽを向く。
確かに、神霊としてみた場合、エウリュアレはそれほどランクの高い女神ではない。
ゴルゴン三姉妹の次女にして、人々に崇拝され、あがめられる存在。
通り名は「遠く飛ぶ女」。
何の力もなく、最後には人間から辱められる為だけに生み出された
そもそもからして、サーヴァントになるような器ではない。
女神の格で行けば、アルテミスの方がよほど上位である。
あるいは妹である三女メドゥーサならば、まだしも話は分かるのだが、少なくともエウリュアレを苦労して確保するメリットは、普通に考えればそれほど無いのだった。
「いや、そこら辺は俺等も分からないんだけどね」
船縁に寄りかかりながら、ヘクトールは苦笑交じりに応える。
「ま、それは俺らの上役に聞いてよ。たぶん、そろそろ会えると思うからね」
ヘクトールの言葉に、エウリュアレは内心で焦りを覚え始める。
今のヘクトールの言葉から察するに、敵の本隊との合流が近い事を意味している。
もしそうなったらアウトだ。逃げ出す事は不可能に近いだろう。
しかし、現状においても、状況は絶望的に近い。
エウリュアレは囚われ、縛られ、転がされている身。
仮に拘束が無かったとしても、ここは何もない海の上。逃げ場などどこにもない。
戦うのは更に困難だ。
相手はトロイアの大英雄ヘクトールに、この船の主であるライダー、それに、エウリュアレはまだ顔を見ていないが、もう1人、サーヴァントが乗っているらしい。
戦っても、エウリュアレには、万に一つの勝機も無かった。
その時、
「提督ッ 右舷後方に接近する船影あり!!」
見張り員の叫ぶ声が聞こえてきた。
いよいよ、敵の親玉がやって来たのだ。
誰が来るのかは分からない。
しかし、もし合流されてしまえば、いかに立香達でも、エウリュアレの救出は困難となるだろう
いよいよ絶望的になるエウリュアレ。
しかし、
「・・・・・・おかしいな。合流までには、まだ時間があるはず。向こうが急いできたのだろうか?」
懐から取り出した懐中時計を確認しながら、ライダーが首を傾げる。
と、
見張り員の絶叫が、更に続いた。
「船型確認!!
「何だとッ!?」
驚いて身を乗り出すヘクトール。
その視線の先には、こちらに向かって真っすぐ突き進んでくる1隻の船。
そのマストの頂上には、髑髏を染め抜かれた海賊旗が、雄々しくはためいていた。
間違いない。あれなるは、7つの海を制した誇りの証。
ドレイク海賊団は、圧倒的な船の性能差を物ともせず、追撃を駆けてきたのだ。
「追いついて来たのか。流石は、フランシス・ドレイク」
「しかし、いったいどうやって・・・・・・・・・・・・」
感心するライダーの傍らで、ヘクトールはいぶかるように首を傾げる。
戦列艦と
「・・・・・・・・・・・・あれだ」
疑問を呈するヘクトールに、ライダーが彼方を指し示す。
目を凝らすと、指示した先には一群の雷雲がある事に気付く。恐らく、局所的な嵐が起こっているのだろう。
そう言えば先程、嵐を避けるために迂回進路を取ったのを思い出す。
と言う事はつまり、
「何とね。連中、嵐を突っ切って来たのかい。無茶苦茶だな」
「だからこそ、彼女はフランシス・ドレイクなのだよ」
つまり、戦列艦が嵐を避ける為に迂回進路を取っている隙に、
無茶苦茶だが、しかし理に適っている。
ライダーが称賛の言葉を述べた時だった。
突如、唸りを上げて飛来した矢を、ヘクトールは手にした槍で払い落とす。
甲板に転がる矢の残骸を見ながら、ヘクトールは口笛を吹く。
「この距離で、大砲よりも先に正確に狙ってくるか。あの幼女、やるねェ」
自分を攻撃した相手に対し、舌を巻く思いを抱く。
どうやら、本隊との合流前に、一戦交えなくてはならないようだ。
「ヘクトール殿。白兵戦はお願いできるか。船の方は、私が何とかする」
「了解。ま、防衛戦は『生前』から得意でね。任せてくださいよ」
気負った様子もなく、自然体で請け負うヘクトール。
その視界の中で、
一方、
戦列艦を発見した
既に海賊たちは戦闘配備に着き、サーヴァント達も各々の武器を手にしている。
戦闘準備は、既に万端だった。
「チッ やるわね、おじさん」
自身の矢を払い落した相手に対し、クロエは舌打ちを見せる。
クロエが先制攻撃を仕掛けている物の、未だに効果は見られない。
この距離で攻撃を仕掛けるクロエも流石だが、それを完璧に防いで見せるヘクトールも侮れなかった。
とは言え、クロエも遠距離攻撃で相手にダメージを与えられるとは思っていない。
弓による攻撃は、あくまで挨拶代わり。
本命は砲撃戦と、その後に続く移乗白兵戦になるだろう。
その間にも、両者の距離は詰まっていく。
「最大戦速ッ
ドレイクの大音声が響き渡る。
同時に、
やり方は
敵にどの程度のサーヴァントがいるのか、未だに未知数だ。
ヘクトール以外の敵サーヴァントがどれほどの戦力かは分からないが、数ではこちらが勝っているはず。必ず勝てるはずだった。
「響、魔力は?」
「ん、大丈夫」
「フォウッ フォウッ」
尋ねる美遊に、響は短く答える。
実際、礼装を使って魔力は追加補充されている。1回だけなら鬼剣を使う事も出来るだろう。
と、
「■■■■■■■■■■■■!!」
背後からの咆哮に、思わず振り返る響と美遊。
見れば、アステリオスが愛用の戦斧を持ち出し、猛り狂っている。
今にも船を飛び降り、泳いで戦列艦に向かっていきかねない勢いだ。
そのアステリオスの頭に、オリオンが張り付いている。
「待て待て待てアステリオス!! 落ち着け!! どうどう!!」
「ううッ えうりゅあれ、たすける!!」
「判ったから。ステイだ!! ステイ!!」
「じゃま、するなッ!!」
頭の上に乗っかったオリオンに構わず、今にも暴れ出しそうなアステリオス。
無理も無い。
彼にとって、エウリュアレは特別な存在だ。そのエウリュアレを目の前で攫われた事で、怒りに歯止めが効かなくなっているのだ。
今にもオリオンを振り飛ばして、突撃しそうな雰囲気だ。
「判ったッ なら10だッ 10数えるの待て!!」
「うッ!!」
「1・・・・・・」
「うううッ!!」
「10ッ・・・0ッ!!」
子供達からの冷たい視線が、オリオンに突き刺さる。
「プーさん・・・・・・」
「サボった」
「フォウ・・・・・・」
「うるせえぞッ ジャリども!! だいたい、ぬいぐるみにバーサーカーを止められるはずがねーだろ!!」
ジト目で睨んでくる響と美遊に、逆ギレするオリオン。
そうしている内に、両船の距離は一気に縮まっていく。
戦列艦の艦橋ではライダーが、それぞれ腕を大きく振り上げる。
睨み合う両者。
視線が、海上でぶつかり合う。
次の瞬間、
「「撃てェッ!!」」
互いの長が放つ大音声。
次の瞬間、互いの船が砲火を閃かせた。
第13話「追撃戦」 終わり
ライダー
【性別】男
【クラス】ライダー
【属性】秩序・善
【隠し属性】人
【身長】184センチ
【体重】65キロ
【天敵】??????
【ステータス】
筋力:C 耐久:A 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:EX
【コマンド】:AQQBB
【保有スキル】
〇海上のカリスマ:C
味方全体の攻撃力アップおよび防御力アップ(3ターン)
〇ティータイムは船上で:A
味方全体のNPを増やす。及びHPを回復
〇義務を果たしたまえ:B
自身に無敵付与(1ターン)。及び、味方全体の防御力アップ(3ターン)
【クラス別スキル】
〇騎乗:B
自身のクイックカードの性能をアップ。
【宝具】
??????
【備考】
海軍の軍服の上からサーコートを着た長身の男性。余裕を感じさせる態度を崩すことなく、たとえ戦場であっても、3時のお茶を欠かす事は無い。
右腕と右眼を失い、隻腕隻眼となっている。