Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第15話「伝説の勇者の船」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大型船は、高速で突っ込んでくると、戦列艦と黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の間に割り込んでくる。

 

 大きい。

 

 その巨体ときたら、戦列艦よりも更に一回り大きいくらいだ。

 

 それでいて、造りは古めかしい。

 

 弓形に反った船体の中央に巨大なマスト。帆は帆走用の物が1枚きり。舷側からは手漕ぎ用の櫂が多数、突き出ている。

 

 大きさはともかく、形的には船と言うより、ヨットのように見える。あるいは、ガレオン船より更に前に、多くの国々で使用されていた「ガレー船」が近いだろうか。

 

 いずれにしても、この大きさは異様だった。

 

「くそッ 突っ込んでくる気かいッ!? 砲撃用意!! 準備出来次第、砲撃開始!!」

 

 殆ど怒鳴るようなドレイクの命令が飛ぶ中、砲撃準備を整えた黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)が、舷側に備えた砲門から一斉に火焔を吹き出す。

 

 あらゆる物をかみ砕くような破壊の炎。

 

 しかし、

 

 放たれた砲弾は、凹型戦に命中すると同時に、けんもほろろに弾き返された。

 

「ダメです姉御!! やっぱり効果がありやせん!!」

「チクショウッ どいつもこいつも、化け物みたいな船持ってきやがって!!」

 

 ボンベからの報告に、舌打ちするドレイク。

 

 その間にも、大型船は急速に接近してくる。

 

 速い。

 

 あれだけの大型船にも関わらず、そのスピードは黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)よりも速い。

 

 既に両者は、指呼の間に迫っている。

 

「面舵ッ!! 減速一杯ッ 急げ!!」

 

 殆ど悲鳴に近いドレイクの命令。

 

 同時に黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は舵を大きく切り、右に旋回を始める。

 

 砲撃が効かないなら、衝突回避の為によけなくてはならない。

 

 だが、風任せの帆船では、急に速度は変えられない。加えて黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は小型とは言え、排水量300トンのガレオン船である。急に止まる事は不可能だった。

 

 謎の船の舷側が、あっという間に迫ってくる。

 

 最早、衝突を回避できる距離ではない。

 

「総員ッ 対ショック姿勢ッ ぶつかるよ!!」

 

 ドレイクの言葉に、全員が何か手近な物に掴まる。

 

 巨大な船同士の激突だ。その衝撃は半端な物ではないだろう。

 

 やがて、

 

 互いの船は、轟音を上げて激突した。

 

 フルスピードに近い形で突っ込んだ黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の甲板では、殆どの人間が甲板上に投げだされている。

 

 それは、立香達も例外ではない。

 

 余りの衝撃に、立っている事も出来ずに甲板を転がる。

 

 立香も、凛果も、それどころか、マシュ、響、美遊と行ったサーヴァント達ですら、立っている事が出来ず、甲板に投げ出される。

 

 そんな中、だた1人、

 

 フランシス・ドレイクだけは微動だにせず、甲板に立ち尽くしていた。

 

 視線は真っすぐに、自分の船に突っ込んで来た敵船を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)と激突した方の巨大船では、船長を務めるイアソン達が、見下ろすような形で眺めていた。

 

 気分が高揚する。

 

 無理も無い。

 

 彼の夢。彼の夢想が、間もなく手に入る所に来ているのだから。

 

「ようしッ 良いぞ良いぞッ ついに非道な悪党どもに、この私が正義の鉄槌を下してやる時が来たのだッ!!」

 

 意気揚々と声を上げるイアソン。

 

 同時に背後を振り返って叫んだ。

 

「挨拶代わりだッ 雑魚共にお前の力を見せつけてやれッ ヘラクレス!!」

 

 颯爽と手を振るイアソン。

 

 次の瞬間、

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)目がけて、巨大な岩が投げつけられた。

 

 信じられないような光景だ。

 

 人間の大きさを遥かに超える巨大な岩が、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)目がけて振ってくるではないかッ

 

「危ないッ 先輩方、下がってください!!」

「マシュ、頼む!!」

 

 頭上から迫りくる巨岩を目にして、とっさに、盾を掲げて防ごうとするマシュ。

 

 同時に、立香が魔術回路を起動させ、マシュに魔力を送り込む。

 

 だが、

 

「どけ、ぼくが、やる!!」

 

 その前に巨大な影が躍り出る。

 

 アステリオスだ。

 

 先の一戦で、キャスターからの奇襲を受けていた彼だが、どうやら動ける程度には回復したらしい。

 

 マシュが盾で防ぐよりも、アステリオスが受け止めた方が安全なのは確かであるが。

 

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 飛んで来る岩を、雄叫びと共に受け止めるアステリオス。

 

 巨体のバネを存分に活かし、落下してきた岩を受け止める。

 

 一瞬、膝がたわむ。

 

 しかし、

 

 アステリオスは見事、投げられた岩を受け止めて見せたのだ。

 

「オォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 そのまま体を思いっきり捻り、大岩を海へと投げ捨てるアステリオス。

 

 巨大な水柱が舷側から上がり、巨岩は海中へと没する。

 

 その様子を甲板から眺めていたイアソンは、不快気に首を傾げる。

 

「何だ、あの変なのは? 獣人?」

「ああ、あの方は、アステリオス様ですね。別名でミノタウロスとも言い、人と神獣との間に生まれた悲劇の子です」

 

 訝るイアソンに、傍らに立ったメディアが解説する。

 

 そこで思い至ったのだろう。イアソンも「ああ」と、納得したように頷く。

 

 だが、

 

 次いで浮かべたのは、明らかな侮蔑の笑みだった。

 

「何だ、人間の出来損ないじゃないかッ 英雄に倒される運命を背負った滑稽な生き物かッ そんな化け物に頼らなきゃいけないとは、どうやら向こうの人材不足は深刻らしいな!!」

 

 アステリオスに対する嘲りを隠そうともせず、高笑いを上げるイアソン。

 

 次いで、戦列艦の方へと目を向けた。

 

「さて、ヘクトール、随分と苦戦しているようだが、助けがいるかい?」

「ええ、キャプテン。お恥ずかしいことながら、手を貸してくれると助かりますなー」

 

 呼びかけるイアソンに対し、飄々とした態度で答えるヘクトール。

 

 戦力的に劣っている訳ではないが、やはりサーヴァントの数が足りない。そこに来て、イアソン達の合流は、ヘクトール達にとっては文字通り渡りに船だった。

 

 大英雄の言葉に、ニヤリと笑うイアソン。

 

 聖杯に女神。

 

 ここには今、彼が求める物が揃っている。

 

 そして、それを手に入れるだけの力もある。

 

 ならば、戦いを躊躇う理由は無かった。

 

「よしッ ならば、ここで決着と行こうじゃないかッ」

 

 どこか芝居掛かった口調と共に、イアソンは黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)を見やって言い放つ。

 

「君達、世界を修正しようとする邪悪な軍団と、我々、世界を正しくあろうとす正義の英雄達ッ 聖杯戦争に相応しい幕引きだッ!!」

 

 勝手な事をのたまうイアソン。

 

 しかし、それに対して言葉を返す余裕は、立香達には無かった。

 

 突如、

 

 巨大船から乗り移ってくる、巨大な影。

 

 轟音と共に甲板に降り立つ。

 

「あッ・・・・・・・・・」

「あれはッ!?」

 

 ゆっくりと、

 

 立ち上がる、

 

 その姿。

 

 あの時の、恐怖が蘇る。

 

 忘れもしない。

 

 あれは、特異点Fでの終盤。

 

 圧倒的な力でもって襲い掛かって来た巨雄。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 咆哮と共に、凶眼が光る。

 

 圧倒的な存在感でもって、全てを圧倒する。

 

「さあ、やれヘラクレスッ 邪悪な連中を皆殺しにするんだ!!」

 

 イアソンの命令と共に、

 

 ヘラクレスは、巨大な斧剣を振り上げた。

 

「来るぞッ マシュ!!」

「了解です先輩!! マシュ・キリエライト、迎撃します!!」

 

 立香の指示を受けて、前に出るマシュ。

 

 目の前に迫る、巨大な英雄。

 

 息を呑むマシュ。

 

 幾度かの旅と、幾多の戦いを経て多くの経験を積んだとはいえ、未だにあの時の記憶はまざまざと残っている。

 

 ギリシャの大英雄ヘラクレス。

 

 その武勇と伝説は比類なく、

 

 大凡「英霊」と言うカテゴリの中に置いて、究極の一角に位置している存在。

 

 響、美遊、マシュの3人で掛かっても倒しきる事は出来ず、最後はアーチャーを犠牲にして、ようやく撤退できたことは、今でも苦い経験として残っている。

 

 しかも、それだけではない。

 

 特異点Fで対峙した時のヘラクレスは、シャドウ・サーヴァント化しており、戦力は大幅にダウンしていたのに対し、今目の前にいるヘラクレスは、英霊として完全に近い姿で目の前に立ちはだかっている。

 

 その戦力たるや、先の戦いの比ではない。

 

「真名、疑似登録ッ 展開します!! 人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 宝具を展開するマシュ。

 

 そこへ、振り下ろされる斧剣。

 

 次の瞬間、

 

 展開された障壁越しに、凄まじい衝撃がマシュに襲い掛かる。

 

「クッ!?」

 

 苦痛に顔を歪めるマシュ。

 

 ヘラクレスは、何か宝具を使ったわけではない。それどころか、ただ斧剣を振り下ろしただけだ。

 

 ただそれだけで、宝具を展開するマシュにダメージを与えてくる。

 

 それでも、

 

 マシュは倒れない。

 

 手にした盾をしっかりと掲げ続ける。

 

 盾持ち(シールダー)である自分は、皆の最後の切り札。自分が落ちれば味方は全滅する。

 

 ならばこそ、マシュは立ち続け、盾を掲げなければならない。

 

 しかし、

 

 一撃でマシュの盾は砕けないと判ったヘラクレスは、更に二撃、三撃と、続けて斧剣を振るってくる。

 

 その度に障壁は歪み、マシュの魔力は削り取られる。

 

 このままでは、障壁が破られるのも時間に問題だった。

 

 次の瞬間、

 

 マシュの頭上を飛び越えるようにして、白い少女が剣を振り翳した。

 

「美遊さんッ!!」

「マシュさんッ あとは私が!!」

 

 マシュが声を上げる中、

 

 美遊は剣を掲げて、ヘラクレスに真っ向から斬りかかる。

 

 同時に、限界を迎えていたマシュの宝具は解除される。

 

 膝を突くマシュ。

 

「マシュ、大丈夫かッ!?」

「は、はい、先輩ッ 私は、まだいけます」

 

 駆け寄って来た立香が回復魔術を掛ける中、マシュは気丈に応える。

 

 とは言え疲労は、少女の全身を容赦なく覆いつくす。

 

 根こそぎ奪われた体力が、全身を苛むようだ。

 

 そんな中でも、戦闘は続いていた。

 

 遮るものの無い中、

 

 美遊は司会に大英雄の巨体を捉え、剣の間合いへと斬り込む。

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 輝きを伴って振り下ろされた剣閃は、

 

 しかし、

 

 一瞬速く、ヘラクレスが後退したため、空振りに終わる。

 

 その様子に、舌打ちする美遊。

 

「やっぱり、速いッ!?」

 

 特異点Fにおける対峙の時も思ったが、ヘラクレスは巨体のわりに素早い。

 

 ヘラクレスは美遊の攻撃を見切り、回避、あるいは防御を行っている。

 

 しかも、先の戦いで、大英雄は肉体自体が宝具である事は判っている。並の攻撃では弾かれてしまうのは目に見えていた。。

 

 厄介

 

 などと言う言葉では語りつくせない。

 

 むしろ「最悪」と言うべきだろう。

 

 美遊の頭の中で、最大級の警報が鳴り響き渡る。

 

 そこに来て更に、事態は悪化の一途を辿る。

 

 ヘラクレスに続くように、敵船から次々と敵の兵士が黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に乗り移ってくる。

 

 否、ただの兵士ではない。

 

 肉も皮も無く、全身が骨によって形成された体。

 

 竜牙兵(りゅうがへい)と呼ばれる、文字通り、竜の牙を触媒にした魔術で作り出した兵士達である。

 

 戦闘力は高くなく、せいぜい人間の兵士と同程度。

 

 しかし、素材さえあれば無限に作り出せ、尚且つ、人間と違い息切れもしない。まさに魔法のような兵士達である。

 

「さあ、行きなさい竜牙兵達。イアソン様に逆らう愚か者たちを、海に沈めるのです」

 

 竜牙兵を創り出したメディアの命令に従い、武器を振り翳して進撃を始める。

 

 彼らの武器もまた、竜の骨を削って作った簡素な剣や槍だが、その殺傷能力については、本物の武器と何ら変わりはない。

 

 何より、続々と数が増えていく状況は、船乗りとしては戦慄せざるを得ない。

 

 このままでは、重みで船が沈むのは必定だった。

 

 更に、それだけではない。

 

 戦列艦の方からも、敵兵が雪崩れ込んでくるのが見えた。

 

「とにかく、迎え撃つしかないね!! 野郎どもッ 一匹残らずたたき出してやんな!!」

 

 銃を構えながら叫ぶドレイク。

 

 同時に、海賊たちもまた、戦闘に突入していく。

 

 たちまち、船上では両陣営が入り乱れての大乱闘に発展する。

 

 しかし、今回はドレイク側の不利は否めなかった。

 

 黒髭海賊団との戦いでは、海賊の数では互角だったものの、サーヴァントの数はドレイク海賊団が勝っていた為、総合的な戦力では勝っていた。

 

 だが、今回は違う。

 

 兵数では劣っており、サーヴァントの数でもほぼ互角。

 

 更に敵にはヘラクレス、ヘクトールと言う二大英雄までいる。

 

 ドレイク海賊団の不利は明白だった。

 

「良いぞッ やれやれェ!! 皆殺しにしろォッ!! 正義は我にありだ!! 圧倒的な力で蹂躙するッ これこそが正義の醍醐味だッ!!」

 

 味方の奮戦を見て、喝采を上げるイアソン。

 

 後方にいる彼には、砲火は全くと言っていいほど飛んでこない。

 

 イアソンはただ、味方のサーヴァントや兵士が、敵を蹂躙する様を見ているだけ。

 

 言うならば、ボクシングやプロレスの試合をテレビで観戦しているような物だった。

 

 意気を上げる敵兵たち。

 

 対抗するように、マスト上に上がったアルテミスが、矢継ぎ早に狙撃を行う。

 

 たちまち、複数の敵兵がアルテミスの矢に貫かれると、悲鳴を上げて甲板に倒れるのが見えた。

 

 正確、かつ素早い狙撃。狩猟の女神の、面目躍如である。

 

 しかし、

 

「ん~・・・・・・」

 

 弓を引き絞りながら、アルテミスは珍しく難しい顔をしている。

 

 矢を放ち、迫ってきた敵兵を撃ち倒しながらも、視線は巨大船へと向けられていた。

 

「どうしたよ?」

「いや、もしかして、だけどね・・・・・・」

 

 相棒であり、想い人でもあるオリオンが怪訝そうに尋ねると、船を指差してアルテミスは言った。

 

「あれって、アルゴー船じゃない?」

「アルゴー船? ・・・・・・ああ、なるほどな」

 

 アルテミスの指摘に、合点がいったように、オリオンも頷く。

 

 アルゴー船とは、ギリシャ神話に記された、船大工アルゴスの手によって建造された巨大船である。

 

 伝説にある、黄金の羊の毛皮を手に入れる為、同船に集った英雄達。

 

 英雄たちは皆、一騎当千の勇士たちであり、その全てが後に伝説に語られるほどの存在となっている。

 

 その大部隊を総称して「アルゴナウタイ」と呼ばれる。

 

「って事は・・・・・・」

 

 オリオンは、船の上から良い気になって命令を飛ばしている若い男に目をやる。

 

「あいつは、船長のイアソンって訳か」

「うん、多分ね」

 

 オリオンの言葉に、頷きを返すアルテミス。

 

 アルゴナウタイは、当時のギリシャ中から勇者を募った部隊。

 

 すなわち、ギリシャ最強の戦闘集団と言っても過言ではない。

 

「何つーか、同じギリシャの英霊として、恥ずかしくなるくらいの屑っぷりだな~ 俺以上の屑は初めて見たよ。世界広いなー そしてギリシャ狭いなー」

「ダーリンはいつだって世界一だよ」

 

 揃って嘆息する、オリオンとアルテミス。

 

 だが、そうしている間にも、敵の流れは止まらない。

 

 仕方なく、再び弓を引き絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドレイク海賊団VS戦列艦・アルゴー船連合軍。

 

 その戦いは当初から、海賊団側の劣勢で始まっていた。

 

 数では敵が圧倒的。更に質においても、大英雄2騎を有する敵の方が勝っている。

 

 加えて現在、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は戦列艦とアルゴー船に挟まれている状態にある。

 

 2方向から攻め込んでくる敵に対応しなければいけない状況は、地の利においても敵が勝っている事を意味している。

 

 正しく、絶対絶命の状況だった。

 

「圧倒的じゃないかッ いや、やっぱり正義と言うのは気持ちが良い物だな!! 悪党が無駄に足掻く様は見ていて気分が晴れると言う物さ!!」

 

 奮戦するドレイク海賊団の様子を見ながら、身勝手な高笑いを上げるイアソン。

 

 確かに、竜牙兵と戦列艦の水兵達は海賊たちを圧倒している。

 

 更に、サーヴァント戦においても、連合軍が優勢だ。

 

 ヘラクレスはマシュと美遊を圧倒し、クロエはヘクトールに抑えられている。

 

 アステリオスは、先のキャスターの攻撃から未だ立ち直れずにいる。

 

 アルテミスはマストの間を飛びあわりながら矢を放ち奮闘しているが、敵の数の多さに苦戦している様子だ。

 

 ドレイクたちも、竜牙兵の対応で手いっぱい。

 

 戦闘開始数分で、既にイアソン側の勝利は確定したような物だった。

 

 だが、とうのイアソンはと言えば、聊か不満げな様子だった。

 

「しかし、ヘラクレスにヘクトール、それに・・・・・・ライダーまでいて、あんなちっぽけな海賊どもを潰せないとは、思ったより不甲斐ないな、連中は」

 

 まったく。

 

 どうして思い通りに事が運ばないのか?

 

 決まっている。連中は馬鹿なのだ。

 

 ヘクトールも、ヘラクレスも、ライダーも、キャスターも、それに、

 

 チラッと、傍らにいるメディアに目を移す。

 

 この女も、みんなみんな、自分以外はどうしようもない馬鹿ばかりなのだ。だから、あんなクズみたいな連中に苦戦する。

 

 まったく、世の中馬鹿ばかりで困る。

 

「仕方ありませんわイアソン様」

 

 不満げな口調のイアソンを宥めるように、傍らのメディアが声を掛ける。

 

「相手は、かの有名なフランシス・ドレイク様。『星の開拓者』としての役割も担った大海賊が相手では、いかに我々アルゴナウタイと言えど、簡単にはいきません」

「フンッ 所詮はごろつきが寄せ集まって粋がっているだけの連中じゃないか。天下無双のアルゴナウタイに敵うはずが無いさッ」

 

 メディアの指摘に対し、余裕の態度で肩を竦めるイアソン。

 

 確かに、海賊団が徐々に押され始めているのは間違いない。

 

 このまま行けば、イアソン側が勝利するのは間違いないだろう。

 

 しかし、

 

 だからこそ、

 

 「暗殺者」が跳梁する余地が生まれると言う物だった。

 

「そこッ!?」

「う、うわァッ!?」

 

 振り向き様に、手にした錫杖を振るうメディア。

 

 その横で、イアソンが頭を抱え、震える目でメディアを見上げている。

 

「な、なな、何するんだ、め、メディアッ この《裏切りの魔女》めッ またしても、この私を裏切ると言うのかッ!?」

 

 いっそ哀れな程に狼狽しながら、口汚く少女を罵るイアソン。

 

 しかし、

 

 メディアは、そのようなイアソンには目もくれず、手にした錫杖を掲げ続けている。

 

「お下がりくださいイアソン様」

 

 硬い口調で告げるメディア。

 

「危険ですッ」

 

 鋭く告げたメディアの視界の先では果たして、

 

 今にもイアソンに刃を振り下ろそうとしている、暗殺者の姿があった。

 

 響は今、羽織を脱ぎ、黒い上衣に黒の短パン姿となっている。

 

 特性をセイバーからアサシンに戻す事で気配遮断を行い、奇襲の効果を上げる事を狙ったのだが、

 

「・・・・・・んッ」

 

 舌打ちする響。

 

 満を持しての奇襲攻撃はしかし、寸前でメディアに阻止されてしまった。

 

 アサシンの気配遮断スキルは、攻撃時には解除されてしまう。

 

 遮断から解除までの一瞬の間を、メディアは見逃さなかったのだ。

 

 奇襲失敗を悟り、後退する響。

 

 それと入れ替わるように、尻餅を突いていたイアソンが立ち上がり、響を指差す。

 

「フ・・・・・フハ・・・・・・フハハハハハハッ 思い知ったか小僧ッ 卑劣な不意打ちなど、正義を奉ずる我々には通用しないのだッ!!」

 

 自分で防いだわけでもないのに、さも得意げに語るイアソン。

 

 その前で、メディアが錫杖を掲げながら告げる。

 

「その通りですイアソン様ッ この私がいる限り、あなた様には指一本、触れさせはしませんッ」

「おお、流石はメディア。我が未来の妻。美しく、気高く、そして愛らしいッ 君ほど頼りになる存在を私は知らない」

「・・・・・・嬉しいです、イアソン様」

 

 頬を朱に染めるメディア。

 

 それにしても、つい先刻、声高に罵った相手に対し、この手のひらの返しようだ。

 

 それを、疑いもせず、受け入れるメディア。

 

 この2人の間にある、異常なまでのズレ。

 

 会話が明らかに噛み合っていないにもかかわらず、互いに関係が成立している異様さ。

 

 まるで、お互いに共に向き合いながら、全く別の方向を見ているような不自然。

 

 傍で見ていて不気味ですらある。

 

「さあ、メディア、奴らを八つ裂きにしてやるんだ。ちょうど、私の兄弟を殺した時のようにね。ああ、気にしなくて良いよ。私はちゃんと反省したからね。もう、君を裏切るような事はしないさ」

 

 笑いながら告げるイアソン。

 

 対して、メディアは不思議そうに小首をかしげる。

 

 だが、すぐに笑顔になる。

 

「はい、イアソン様。お任せください」

 

 そう告げるメディア。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・仕方ない」

 

 響は低く呟くと、再び「盟約の羽織」を呼び出して羽織る。

 

 奇襲が失敗した以上、作戦は正面戦闘に切り替えるしかない。

 

 錫杖を構え、魔力を集中するメディア。

 

 対抗するように、刀の切っ先を向ける響。

 

 次の瞬間、

 

 両者は同時に、攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

第15話「伝説の勇者の船」      終わり

 




闇鍋ガチャ

初鯖で大本命:3
同じく初鯖で本命:11
宝具強化狙い:8
合計22/43

5割強なら、狙わない手は無いかと。

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