Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第18話「彼を失って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、崩れ落ちる視界。

 

 砂上の楼閣の如く、泡沫の迷宮は消え去っていく。

 

 後に残るは、ただ献身の末に散った、勇敢なる戦士への想いのみ。

 

 そして、

 

 取り込まれてた2隻の船が、再び海上に姿を現した。

 

「くそッ 奴らはどうしたッ!?」

 

 万古不易の迷宮(ケイオス・ラヴィリントス)が消滅すると同時に、イアソンは身を乗り出すようにして周囲に視線を走らせる。

 

 だが、

 

 周囲に浮かぶ船は、アルゴー船と戦列艦のみ。黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の姿は、周囲四方、水平線の彼方まで凝らしても見つける事が出来ない。

 

 イアソン達が船ごと迷宮に閉じ込められている隙に、彼等は撤退する事に成功したらしい。

 

 アステリオスは、己の魂を燃やし尽くす事で、自分の大切な人たちを守り通したのだ。

 

 戦列艦の方に視線を向ける。

 

 しかし、ライダーが肩を竦めて首を横に振るのみ。どうやら向こうも、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の行方を見失ったらしい。

 

 状況を理解したイアソンは文字通り、地団太を踏んで悔しがる。

 

「クソッ クソッ クソクソクソクソクソォッ!! ミノタウロスめッ あの出来損ないの人間モドキがッ!! 化け物は化け物らしく、さっさと惨めにくたばってればいい物をッ 無駄な足掻きをしやがってッ おかげで私の計画が狂ったじゃないかッ!!」

 

 怒りで顔を歪め、手あたり次第、周囲の物に当たり散らすイアソン。

 

 圧倒的戦力で悪の軍勢であるカルデア勢力と、それに組する愚かな海賊どもを撃ち滅ぼし、奴らの手にある女神エウリュアレを手に入れる。

 

 その後契約の箱(アーク)を入手し、そこにエウリュアレを捧げれば、イアソンは絶対的な力を持つ存在となり、以後はこの世界の王として君臨する事が出来る。

 

 その、はずだったのだ。

 

「それをッ それをッ あのクズ共が、邪魔しやがってェ!! この俺をッ 世界の王となるべきこのイアソンをコケにしやがって!!」

 

 敵を殲滅できず、エウリュアレの奪取にも失敗した。

 

 イアソンの計画が大きく狂ったのは間違いない。

 

 とても、アステリオス1人の消滅程度で、つり合いが取れるはずも無かった。

 

「メディアッ!!」

「はい、ここに」

 

 呼ばれて、メディアは恭しくイアソンに傅く。

 

 先の戦闘では響の奇襲を防いで見事にイアソンを守り、その後も竜牙兵を操ってドレイク海賊団を圧倒したメディア。

 

 彼女は先の戦いにおける功労者と言っても良いだろう。

 

 しかし、そんなメディアの功績など眼中に無い、とばかりにイアソンは己の要件を彼女にぶつける。

 

「奴らを追えるんだろうなッ!?」

「はい。既に彼らの霊基は記録してあります。彼らがこの世界にいる限り、たとえどこに逃げようとも追いかける事は可能です」

 

 言うならば、追跡用のマーキングのような物だろう。

 

 ただ目先の物を追い求めていたイアソンと違い、メディアはエウリュアレ達に逃げられる事も見越し、既に次の手を打っていたのだ。

 

 メディアの返事に、イアソンは満足げに笑みを見せる。

 

「よーし、良いぞッ 流石は我が未来の妻ッ いや、英雄の賢妻となるべき女性だよ、君は!!」

「はい、イアソン様。嬉しいです」

 

 一転、上機嫌で褒め称えるイアソンに対し、頬を染めて俯くメディア。

 

 気をよくしたイアソンは、高笑いを浮かべて船室へと下がっていく。

 

 だが、

 

「なあ、お姫様よ」

 

 高笑いを上げながら去って行くイアソンの背中を見ながら、そっと話しかけてきたのはヘクトールだった。

 

 事実上、アステリオスにトドメを刺した大英雄は、複雑な表情のまま、メディアに話しかける。

 

「あんた、いつまでキャプテンに黙っているつもりなんだい?」

「あら、真実を話す必要があるの? そんな事に何の意味もないのに」

 

 憂いを口にするヘクトールに対し、メディアはあっけらかんとした調子で答える。

 

 まるで、大英雄の危惧する事柄など、意に介する必要すらない、とでも言いたげな態度だ。

 

 対して、ヘクトールも、頭を掻きながら答える。

 

「まあ、あんたがそれで良いっていうなら、おじさんとしても特に言う事は無いんだけどね」

 

 と、

 

 そこで今度は、メディアが声を潜めるようにして告げた。

 

「そんな事より、ヘラクレスに気を付けてください」

「ヘラクレスに? そりゃまたどうして?」

 

 ヘラクレスは、アステリオスと共に沈んだまま、まだ浮かんできていない。

 

 まあ、あの大英雄が死ぬ事は無いだろうが。

 

 先の戦いで魂を1つ失ったとは言え、未だに11個もの魂が残っているのだ。ヘラクレス1人だけで、カルデアもドレイク海賊団も殲滅できそうである。

 

 しかし、

 

「彼、やはり理性があるみたいです。真っ先にエウリュアレを殺そうとする当たり、どうやら、わたし達の計画の危険性に、気付いている節があります」

「はてさて、あの様子で、果たして本当に理性があるのかは大いに疑問ですが、まあ、判りました。警戒はしておきましょう」

 

 果たして、どこまで本気か分からない大英雄の言葉に、嘆息するメディア。

 

 どうあれ、戦いはまだ終わっていない。

 

 エウリュアレを奪い、契約の箱(アーク)を手に入れる。

 

 その目的が達せられない限り、自分たちの旅は終わらないのだ。

 

 もっとも・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 チラッと、視線を向けるメディア。

 

 相変わらず、上機嫌に笑うイアソンの姿。

 

 たまらなく愛おしく、

 

 そして、呆れるほどに愚かな、我がマスター。

 

 そう、

 

 誰だって、良い夢は長く見ていたい物なのだ。

 

 ならば、

 

 無理に起こしてやる必要を、少なくともメディアは感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。

 

 微かに揺れる感覚が、心地よく感じる。

 

 まるで、揺り籠に揺られているかのようだ。

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 僅かに声を出す響。

 

 どうやら、ベッドに寝かされているらしい、と言うのはすぐに判った。

 

 喧騒は聞こえない。

 

 外は少なくとも、戦闘中ではないのだろう。

 

 と、言う事は、脱出に成功したのだ。

 

 大きすぎる、犠牲と共に。

 

「起きたの、響?」

 

 声を掛けられて、振り返る響。

 

 少年の視線の先には、白いドレス姿の少女が、椅子に腰かけていた。

 

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 どうやら、彼女がずっと、傍らで見てくれていたらしい。

 

 先の戦闘後、すぐに倒れて意識を失った響を、凛果と美遊が船室に運んで寝かしつけたのだ。

 

 ちょっと、腕を出して動かしてみる。

 

 問題ない。

 

 どうやら、寝ている間に少し、魔力が回復したらしい。戦闘はまだ無理そうだが、動くくらいなら問題なさそうだった。

 

「美遊・・・・・・・・・・・・」

 

 そこで、響は一番気になっていた事を、少女に尋ねる。

 

「アステリオス、は?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 対して、

 

 少女は静かに目をつぶり、

 

 首を横に振った。

 

 その意味がもたらす物は、一つしかない。

 

 あるいは、もしかしたら、と期待していた面も否めない。

 

 しかし、彼は既に致命傷を負っていた身。その状況から、更に宝具解放まで行っては、助かる見込みは皆無だった。

 

「・・・・・・・・・・・・そっか」

 

 腕で目を覆う響。

 

 美遊も、顔を伏せて俯く。

 

 戦っている以上、犠牲が皆無などと言う事はあり得ない。

 

 しかしそれでもやはり、失った者への悲しみは、尽きる事が無かった。

 

 

 

 

 

 一心にひた走り、わき目も降らずに駆け続けた。

 

 アステリオスと言う大きすぎる犠牲の下、辛くも窮地を脱する事が出た黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 風に吹かれるまま、どうにか逃げ延びる事に成功していた。

 

 とは言え、

 

 船内が重苦しい空気に包まれるのも、無理からぬことだった。

 

 アステリオス。

 

 その身を犠牲にして、皆を逃がした大きすぎる仲間。

 

 彼を失った喪失感が、否応なく船全体を押しつぶさんとしていた。

 

 海賊たちは勿論、凛果やマシュ達、カルデア特殊班の面々も、一言も発する事無く、それぞれめいめいに、甲板に座り込んでいた。

 

 流石に、舵輪を握るドレイクだけは、しっかりと立ち続けていたが、

 

 しかし、稀代の女海賊もまた、やりきれない想いに、沈黙を貫いていた。

 

 近付いてくる足音に、嘆息する。

 

「エウリュアレの様子はどうだい?」

「ああ、落ち着いてる。けど、やっぱりショックだったみたいだ。今は部屋で休んでいるよ」

 

 ドレイクの傍らに立ち、立香は静かな口調で答える。

 

 無理も無い。アステリオスと一番仲が良かったのはエウリュアレだ。そのアステリオスが、自分を助ける為に命を落としたとなれば、エウリュアレのショックは余りあるだろう。

 

 正直なところを言えば、立香のショックも決して小さくない。

 

 しかし、リーダーである自分が落ち込んでいるところを見せれば、その空気は特殊班全体に伝播してしまう。

 

 故に立香は、たとえ空元気でも立ち続けなくてはならなかった。

 

「それで、これからどうするんだい? エウリュアレは取り返したけど、アステリオスは失った。加えて、向こうは船も将も化け物揃いと来た。正直、もう一回戦っても、勝つ見込みはないねえ」

 

 海賊としては、情けない限りだけどね。

 

 ドレイクは、ため息交じりで告げる。

 

 敵の船は戦列艦にアルゴー船と、どちらも性能的に黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)を上回っている。

 

 加えてギリシャ最強の英雄ヘラクレス、同じくギリシャ最強の魔女メディア、そしてトロイア最強の英雄ヘクトールと、正しく綺羅星の如き将星が揃っている。

 

 もう一度戦えば負ける。

 

 それは火を見るよりも明らかであった。

 

「戦うにしても、作戦が必要だと思う」

「作戦、ねえ・・・・・・」

 

 立香の言葉を、舵輪を回しながら反芻するドレイク。

 

 どうにも、気乗りがしない、と言った調子である。

 

「具体的には?」

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 言葉を詰まらせる立香。

 

 言ってはみたものの、立香にだって具体策がある訳じゃない。

 

 だが、このまま何もせずに、再度の激突を迎える事だけは、絶対に避けなければならなかった。

 

「ああ、それで良いと思うよ」

「え?」

 

 ドレイクの言葉に、立香は驚いて顔を上げる。

 

 対して、

 

 ドレイクは振り返り、少年に笑いかけていた。

 

「取りあえずやってみる。方法は後から考える。そう言うのもありさ」

「ドレイク・・・・・・・・・・・・」

「こいつは海賊に限らず、何だって当てはまると思うけどね、あたしらはとりあえず生きてる。生きていれば明日がある、明日があれば、まあ、たいていの事は何とかなるもんさ」

 

 ドレイクの言葉に、思わず吹き出す立香。

 

 それじゃあ、何の解決にもなっていないではないか。

 

「おッ 少しは元気出たかい?」

「ああ、ありがとう」

 

 そうだ。思い悩んでいても仕方がない。

 

 ここで立ち止まるより、次に何をすべきか考えなくては。

 

 幸い、自分には頼れる仲間達がいる。彼等と力を合わせる事が出来れば、どんな困難でも乗り越えていける気がした。

 

 と、その時だった。

 

「あのー、姉御、ボウズも、ちょいと良いですかい?」

「あん? どうしたんだい、ボンベ?」

 

 背後から近づいて来た副官に、舵輪を操る手を止めて振り返るドレイク。

 

 その彼女に、ボンベは手にした物を差し出した。

 

「実は、甲板にこんな物が刺さってやした」

 

 そう言ってボンベが差し出した物は、

 

「矢?」

「何だい? 女神様達か、クロエの落とし物じゃないのかい?」

 

 確かに、この船には今、アーチャーが3人も乗っている。その誰かの物、とも考えられるのだが。

 

「いえ、ここを見てくだせえ」

 

 そう言ってボンベが指示した場所には、一枚の小さな紙が括りつけられていた。

 

 つまり、この矢は矢文と言う訳だ。

 

 ボンベから矢を受け取り、中を開いてみるドレイク。

 

 黙って一読すると、顔を上げた。

 

「・・・・・・ボンベ、この矢、どっから飛んできた?」

「へえ。あの島でさあ」

 

 そう言ってボンベが指示した先には、

 

 何も無かった。

 

「いや・・・・・・・・・・・・」

 

 目を凝らすドレイク。

 

 その視線の先。

 

 ほんの僅か、水平線に芥子粒以下の大きさの影がある。あれが島だ。

 

「面舵一杯ッ 進路変更!!」

 

 ドレイクの号令の下、進路を大きく変える黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)

 

 果たして、そこに何が待っているのか?

 

 頬を叩く海風を感じながら、立香は前方を注視し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、それなりに大きな島だった。

 

 中央には火山らしき山があり、その周囲には鬱蒼とした森が取り巻いているのが見える。

 

 浜辺の沖に船を停泊させたドレイクは、立香達、カルデア特殊班を伴って、島へと上陸していた。

 

 その中には、ようやく動けるようになった、響やエウリュアレの姿もあった。

 

 ドレイクが受け取った矢文の主が、この島にいるはずなのだ。

 

「ここなのか、ドレイク?」

「ああ、間違いないね」

 

 立香に答えながら、ドレイクは手元の手紙に目をやる。

 

 『我に、アルゴー船を破る秘策あり。我が下へと来られたし』

 

 手紙には、そう書かれていた。

 

 しかも、

 

 あの時、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は島からかなり離れていた。通常の弓なら、船に当てるどころか、矢を届かせる事すら不可能な距離だったのは間違いない。

 

 すなわち、あの矢文の主は、サーヴァントである可能性が高いと言う事だ。

 

「果たして、鬼が出るか、蛇が出るか、と言ったところだけど」

 

 ドレイクが、楽しそうにう呟いく。

 

 このような緊張した状況でも、海賊である彼女からすれば、心踊る瞬間なのだろう。

 

 と、

 

「見て、あれッ」

 

 凛果が声を上げて指を指す。

 

 響と美遊が、それぞれ前に出て警戒する中、

 

 1人の女性が、砂浜を歩いてくるのが見えた。

 

 美しい女性だった。

 

 翠色の衣装に身を包んだ女性は、すらりとした印象をしている。

 

 驚いた事に、女性の頭には獣を思わせる耳があり、更にお尻からは長い尻尾が揺れている。

 

 見た目通り、ネコ科の猛獣を連想させる出で立ちだ。

 

「カルデアか・・・・・・」

 

 歩み寄って来た女性は、立香達を見回すと、何かの感慨を感じたように呟く。

 

「汝らとは、何かと縁があるようだな」

「えっと・・・・・・・・・・・・」

 

 言われて、立香と凛果は顔を見合わせる。

 

 目の前の女性は、いったい何を言っているのか、2人にはピンとこなかったのだ。

 

 そんな2人の様子に、女性も苦笑を返す。

 

「ああ、すまない。先の時は、あまり縁を結べなかったからな。あまり気にしないでくれ」

 

 そう言うと、女性は居住まいを正す。

 

「我が名はアタランテ。アーチャーのサーヴァントとして現界した。よろしく頼む」

 

 凛とした佇まいで名乗る女性。

 

 アタランテと言えば、ギリシャ神話に登場する狩人の女性だ。アルカディアの王女として産まれながらも父王に疎まれ、森に捨てられた悲劇の女性。しかし、女神アルテミスに見いだされた彼女は、やがて比類なき狩人として成長する事になる。

 

 そして、あのアルゴナウタイにも参加していた事で有名である。

 

「それで、本当にあるのかい? あいつらを倒す策ってのは?」

「ああ、それについてだが・・・・・・」

 

 矢文に掛かれていた事を尋ねるドレイクに対し、アタランテが頷きながら説明をしようとした。

 

 その時だった。

 

「お~~~~~~い」

 

 どこか間延びしたような声が、森の方から聞こえてくる。

 

 一同が振り返ると、

 

 その視線の先には、何やら妙に色白の顔をした優男が、手を振りながら走ってくるのが見えた。

 

「知り合いか?」

「ああ・・・・・・不本意ながらな」

 

 尋ねる立香に、アタランテは頭痛がする頭を押さえて頷く。

 

 やがて、青年は走って近づいてくると、実にさわやかな笑顔で言った。

 

「やあ、ひどいな。相棒を置いて行くなんて。僕は君ほど俊敏じゃないんだから、少しはいたわってほしいよ」

「汝と相棒になった覚えはない。それに、随分と余裕そうではないか」

 

 へらへらとした調子で抗議する青年に、アタランテはすげなく返す。

 

 どう見ても拒絶の態度。

 

 しかし、

 

「やあ、ツンツンしている君も素敵だね」

 

 青年の方は、全く堪えている様子は無かった。

 

 とは言え、本人も話が進まないと持ったのだろう。

 

「僕の名前はダビデ。一応、王様って事になっているけど、ここでは一介のアーチャーに過ぎない。よろしく頼むよ」

 

 ダビデと言えば、イスラエルの伝説にある建国王の名前だ。

 

 元々は羊飼いであり、堅琴弾の少年だったダビデ。

 

 当時、イスラエル人は、ペリシテ人と激しい争いを繰り広げていた。

 

 特にペレシテ最強の戦士であった巨人ゴリアテには、誰もが恐れを成し、戦おうとはしなかった。

 

 そんな中、名乗りを上げたダビデは、投石を用いてこれを討ち取る事に成功したと言う。

 

 その後、紆余曲折を経て、イスラエルを建国、初代玉座に着いたのが、このダビデと言う訳だ。

 

「ん、すっぽんぽんの人」

「響、その表現はちょっと・・・・・・」

 

 響のずれた言葉に、美遊は少し顔を赤くしてツッコミを入れる。

 

 確かに、ミケランジェロ・ブオナローティ作による、世界で最も有名なダビデ像は衣服を一切着ておらず、男の象徴たる「アレ」も丸出しの状態だ。

 

 もっとも、ダビデの名誉の為に言わせてもらえば、あの像はダビデが生きた時代よりはるか後に作られた物である。裸で作られたのは、ミケランジェロたちルネサンス期の芸術家が「究極の肉体美」を追求した結果であり、そのうえで服を着せるのは邪道と考えた為である。

 

 決して、ダビデが露出狂であったわけではない。

 

 と、思う・・・・・・・

 

 多分・・・・・・

 

 きっと・・・・・・

 

 そう、信じたい。

 

 更に余談だが、後年「流石に破廉恥」と言う思想が広まり、裸の石像は破壊されたり、裸が描かれている絵には、腰布が書き加えられたりする中、ミケランジェロの像はそのままの姿で残されている辺り、その芸術性の高さが伺えるだろう。(因みに近年、今度は「やはり原型の保持は大事」と言う考えが広まり、絵や像は復元されている)

 

 そんなダビデとアタランテに向き、マシュが口を開く。

 

「初めまして、で、良いでしょうか。カルデアのデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトと申します。こちらは我がマスターの、藤丸立香と、凛果の兄妹。そして黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)の船長である、キャプテン・ドレイク、更にサーヴァントの響、美遊、クロエ、エウリュアレ、アルテミス。それからフォウとオリオンです」

「フォウッ フォウッ」

「ちょっと待てマシュちゃん。何で俺をフォウ君と同列にしたのかな?」

 

 オリオンの抗議を無視して、全員を紹介するマシュ。

 

 だが、

 

「ちょっと待ってくれ、マシュ」

 

 手を上げて制したのはアタランテだった。

 

 どうしても、彼女の中で聞き捨てならない名前が出てきたのだ。

 

「いやいや、何を冗談を言っているのだ。アルテミス様がこんな所にいるはずが無いだろう。女神である彼女がサーヴァントとして召喚されるなど、あるはずが無い」

 

 狩人であるアタランテは、同じく狩猟の神であるアルテミスとアポロンを信仰している。

 

 それだけに、目の前にアルテミスがいると言う事実が信じられない様子だった。

 

 だが、

 

「やあん。ダーリン、アタランテが信じてくれないよー」

「いや、そりゃ、お前、仕方ないだろ。彼女からすれば、女神がこんなところほっつい歩いているとは思わないだろうし。それに、処女神の看板立ててるお前が、まさかこんなだったりしたら、そりゃ驚くだろ」

「何よー 処女神が恋をしちゃいけないっていうのッ!?」

 

 皆をそっちのけで、痴話げんかを始めるアルテミスとオリオン。

 

 そんな2人の様子を見ながら、アタランテは恐る恐る振り返る。

 

「・・・・・・本当? ・・・・・・マジで?」

 

 尋ねるアタランテに、頷きを返すしかない立香。

 

 事実として、あれがアルテミス本人である以上、否定しても意味は無かった。

 

「・・・・・・・・・・・・馬鹿な」

 

 そうとうショックだったのだろう。アタランテは、がっくりと膝を突く。

 

 そんな彼女に、

 

 立香と凛果が、ポンと、優しく肩を叩く。

 

 そして、

 

「傷は深いぞ。がっかりしろ」

「がんばれ乙女ー」

「馬鹿にしてるのか貴様らーッ!!」

 

 アタランテの絶叫が、青い空に響き渡った。

 

 

 

 

 

第18話「彼を失って」      終わり

 

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