1
やがて、崩れ落ちる視界。
砂上の楼閣の如く、泡沫の迷宮は消え去っていく。
後に残るは、ただ献身の末に散った、勇敢なる戦士への想いのみ。
そして、
取り込まれてた2隻の船が、再び海上に姿を現した。
「くそッ 奴らはどうしたッ!?」
だが、
周囲に浮かぶ船は、アルゴー船と戦列艦のみ。
イアソン達が船ごと迷宮に閉じ込められている隙に、彼等は撤退する事に成功したらしい。
アステリオスは、己の魂を燃やし尽くす事で、自分の大切な人たちを守り通したのだ。
戦列艦の方に視線を向ける。
しかし、ライダーが肩を竦めて首を横に振るのみ。どうやら向こうも、
状況を理解したイアソンは文字通り、地団太を踏んで悔しがる。
「クソッ クソッ クソクソクソクソクソォッ!! ミノタウロスめッ あの出来損ないの人間モドキがッ!! 化け物は化け物らしく、さっさと惨めにくたばってればいい物をッ 無駄な足掻きをしやがってッ おかげで私の計画が狂ったじゃないかッ!!」
怒りで顔を歪め、手あたり次第、周囲の物に当たり散らすイアソン。
圧倒的戦力で悪の軍勢であるカルデア勢力と、それに組する愚かな海賊どもを撃ち滅ぼし、奴らの手にある女神エウリュアレを手に入れる。
その後
その、はずだったのだ。
「それをッ それをッ あのクズ共が、邪魔しやがってェ!! この俺をッ 世界の王となるべきこのイアソンをコケにしやがって!!」
敵を殲滅できず、エウリュアレの奪取にも失敗した。
イアソンの計画が大きく狂ったのは間違いない。
とても、アステリオス1人の消滅程度で、つり合いが取れるはずも無かった。
「メディアッ!!」
「はい、ここに」
呼ばれて、メディアは恭しくイアソンに傅く。
先の戦闘では響の奇襲を防いで見事にイアソンを守り、その後も竜牙兵を操ってドレイク海賊団を圧倒したメディア。
彼女は先の戦いにおける功労者と言っても良いだろう。
しかし、そんなメディアの功績など眼中に無い、とばかりにイアソンは己の要件を彼女にぶつける。
「奴らを追えるんだろうなッ!?」
「はい。既に彼らの霊基は記録してあります。彼らがこの世界にいる限り、たとえどこに逃げようとも追いかける事は可能です」
言うならば、追跡用のマーキングのような物だろう。
ただ目先の物を追い求めていたイアソンと違い、メディアはエウリュアレ達に逃げられる事も見越し、既に次の手を打っていたのだ。
メディアの返事に、イアソンは満足げに笑みを見せる。
「よーし、良いぞッ 流石は我が未来の妻ッ いや、英雄の賢妻となるべき女性だよ、君は!!」
「はい、イアソン様。嬉しいです」
一転、上機嫌で褒め称えるイアソンに対し、頬を染めて俯くメディア。
気をよくしたイアソンは、高笑いを浮かべて船室へと下がっていく。
だが、
「なあ、お姫様よ」
高笑いを上げながら去って行くイアソンの背中を見ながら、そっと話しかけてきたのはヘクトールだった。
事実上、アステリオスにトドメを刺した大英雄は、複雑な表情のまま、メディアに話しかける。
「あんた、いつまでキャプテンに黙っているつもりなんだい?」
「あら、真実を話す必要があるの? そんな事に何の意味もないのに」
憂いを口にするヘクトールに対し、メディアはあっけらかんとした調子で答える。
まるで、大英雄の危惧する事柄など、意に介する必要すらない、とでも言いたげな態度だ。
対して、ヘクトールも、頭を掻きながら答える。
「まあ、あんたがそれで良いっていうなら、おじさんとしても特に言う事は無いんだけどね」
と、
そこで今度は、メディアが声を潜めるようにして告げた。
「そんな事より、ヘラクレスに気を付けてください」
「ヘラクレスに? そりゃまたどうして?」
ヘラクレスは、アステリオスと共に沈んだまま、まだ浮かんできていない。
まあ、あの大英雄が死ぬ事は無いだろうが。
先の戦いで魂を1つ失ったとは言え、未だに11個もの魂が残っているのだ。ヘラクレス1人だけで、カルデアもドレイク海賊団も殲滅できそうである。
しかし、
「彼、やはり理性があるみたいです。真っ先にエウリュアレを殺そうとする当たり、どうやら、わたし達の計画の危険性に、気付いている節があります」
「はてさて、あの様子で、果たして本当に理性があるのかは大いに疑問ですが、まあ、判りました。警戒はしておきましょう」
果たして、どこまで本気か分からない大英雄の言葉に、嘆息するメディア。
どうあれ、戦いはまだ終わっていない。
エウリュアレを奪い、
その目的が達せられない限り、自分たちの旅は終わらないのだ。
もっとも・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・」
チラッと、視線を向けるメディア。
相変わらず、上機嫌に笑うイアソンの姿。
たまらなく愛おしく、
そして、呆れるほどに愚かな、我がマスター。
そう、
誰だって、良い夢は長く見ていたい物なのだ。
ならば、
無理に起こしてやる必要を、少なくともメディアは感じなかった。
2
目を開ける。
微かに揺れる感覚が、心地よく感じる。
まるで、揺り籠に揺られているかのようだ。
「・・・・・・・・・・・・ん」
僅かに声を出す響。
どうやら、ベッドに寝かされているらしい、と言うのはすぐに判った。
喧騒は聞こえない。
外は少なくとも、戦闘中ではないのだろう。
と、言う事は、脱出に成功したのだ。
大きすぎる、犠牲と共に。
「起きたの、響?」
声を掛けられて、振り返る響。
少年の視線の先には、白いドレス姿の少女が、椅子に腰かけていた。
「美遊・・・・・・・・・・・・」
どうやら、彼女がずっと、傍らで見てくれていたらしい。
先の戦闘後、すぐに倒れて意識を失った響を、凛果と美遊が船室に運んで寝かしつけたのだ。
ちょっと、腕を出して動かしてみる。
問題ない。
どうやら、寝ている間に少し、魔力が回復したらしい。戦闘はまだ無理そうだが、動くくらいなら問題なさそうだった。
「美遊・・・・・・・・・・・・」
そこで、響は一番気になっていた事を、少女に尋ねる。
「アステリオス、は?」
「・・・・・・・・・・・・」
対して、
少女は静かに目をつぶり、
首を横に振った。
その意味がもたらす物は、一つしかない。
あるいは、もしかしたら、と期待していた面も否めない。
しかし、彼は既に致命傷を負っていた身。その状況から、更に宝具解放まで行っては、助かる見込みは皆無だった。
「・・・・・・・・・・・・そっか」
腕で目を覆う響。
美遊も、顔を伏せて俯く。
戦っている以上、犠牲が皆無などと言う事はあり得ない。
しかしそれでもやはり、失った者への悲しみは、尽きる事が無かった。
一心にひた走り、わき目も降らずに駆け続けた。
アステリオスと言う大きすぎる犠牲の下、辛くも窮地を脱する事が出た
風に吹かれるまま、どうにか逃げ延びる事に成功していた。
とは言え、
船内が重苦しい空気に包まれるのも、無理からぬことだった。
アステリオス。
その身を犠牲にして、皆を逃がした大きすぎる仲間。
彼を失った喪失感が、否応なく船全体を押しつぶさんとしていた。
海賊たちは勿論、凛果やマシュ達、カルデア特殊班の面々も、一言も発する事無く、それぞれめいめいに、甲板に座り込んでいた。
流石に、舵輪を握るドレイクだけは、しっかりと立ち続けていたが、
しかし、稀代の女海賊もまた、やりきれない想いに、沈黙を貫いていた。
近付いてくる足音に、嘆息する。
「エウリュアレの様子はどうだい?」
「ああ、落ち着いてる。けど、やっぱりショックだったみたいだ。今は部屋で休んでいるよ」
ドレイクの傍らに立ち、立香は静かな口調で答える。
無理も無い。アステリオスと一番仲が良かったのはエウリュアレだ。そのアステリオスが、自分を助ける為に命を落としたとなれば、エウリュアレのショックは余りあるだろう。
正直なところを言えば、立香のショックも決して小さくない。
しかし、リーダーである自分が落ち込んでいるところを見せれば、その空気は特殊班全体に伝播してしまう。
故に立香は、たとえ空元気でも立ち続けなくてはならなかった。
「それで、これからどうするんだい? エウリュアレは取り返したけど、アステリオスは失った。加えて、向こうは船も将も化け物揃いと来た。正直、もう一回戦っても、勝つ見込みはないねえ」
海賊としては、情けない限りだけどね。
ドレイクは、ため息交じりで告げる。
敵の船は戦列艦にアルゴー船と、どちらも性能的に
加えてギリシャ最強の英雄ヘラクレス、同じくギリシャ最強の魔女メディア、そしてトロイア最強の英雄ヘクトールと、正しく綺羅星の如き将星が揃っている。
もう一度戦えば負ける。
それは火を見るよりも明らかであった。
「戦うにしても、作戦が必要だと思う」
「作戦、ねえ・・・・・・」
立香の言葉を、舵輪を回しながら反芻するドレイク。
どうにも、気乗りがしない、と言った調子である。
「具体的には?」
「それは・・・・・・・・・・・・」
言葉を詰まらせる立香。
言ってはみたものの、立香にだって具体策がある訳じゃない。
だが、このまま何もせずに、再度の激突を迎える事だけは、絶対に避けなければならなかった。
「ああ、それで良いと思うよ」
「え?」
ドレイクの言葉に、立香は驚いて顔を上げる。
対して、
ドレイクは振り返り、少年に笑いかけていた。
「取りあえずやってみる。方法は後から考える。そう言うのもありさ」
「ドレイク・・・・・・・・・・・・」
「こいつは海賊に限らず、何だって当てはまると思うけどね、あたしらはとりあえず生きてる。生きていれば明日がある、明日があれば、まあ、たいていの事は何とかなるもんさ」
ドレイクの言葉に、思わず吹き出す立香。
それじゃあ、何の解決にもなっていないではないか。
「おッ 少しは元気出たかい?」
「ああ、ありがとう」
そうだ。思い悩んでいても仕方がない。
ここで立ち止まるより、次に何をすべきか考えなくては。
幸い、自分には頼れる仲間達がいる。彼等と力を合わせる事が出来れば、どんな困難でも乗り越えていける気がした。
と、その時だった。
「あのー、姉御、ボウズも、ちょいと良いですかい?」
「あん? どうしたんだい、ボンベ?」
背後から近づいて来た副官に、舵輪を操る手を止めて振り返るドレイク。
その彼女に、ボンベは手にした物を差し出した。
「実は、甲板にこんな物が刺さってやした」
そう言ってボンベが差し出した物は、
「矢?」
「何だい? 女神様達か、クロエの落とし物じゃないのかい?」
確かに、この船には今、アーチャーが3人も乗っている。その誰かの物、とも考えられるのだが。
「いえ、ここを見てくだせえ」
そう言ってボンベが指示した場所には、一枚の小さな紙が括りつけられていた。
つまり、この矢は矢文と言う訳だ。
ボンベから矢を受け取り、中を開いてみるドレイク。
黙って一読すると、顔を上げた。
「・・・・・・ボンベ、この矢、どっから飛んできた?」
「へえ。あの島でさあ」
そう言ってボンベが指示した先には、
何も無かった。
「いや・・・・・・・・・・・・」
目を凝らすドレイク。
その視線の先。
ほんの僅か、水平線に芥子粒以下の大きさの影がある。あれが島だ。
「面舵一杯ッ 進路変更!!」
ドレイクの号令の下、進路を大きく変える
果たして、そこに何が待っているのか?
頬を叩く海風を感じながら、立香は前方を注視し続けるのだった。
3
そこは、それなりに大きな島だった。
中央には火山らしき山があり、その周囲には鬱蒼とした森が取り巻いているのが見える。
浜辺の沖に船を停泊させたドレイクは、立香達、カルデア特殊班を伴って、島へと上陸していた。
その中には、ようやく動けるようになった、響やエウリュアレの姿もあった。
ドレイクが受け取った矢文の主が、この島にいるはずなのだ。
「ここなのか、ドレイク?」
「ああ、間違いないね」
立香に答えながら、ドレイクは手元の手紙に目をやる。
『我に、アルゴー船を破る秘策あり。我が下へと来られたし』
手紙には、そう書かれていた。
しかも、
あの時、
すなわち、あの矢文の主は、サーヴァントである可能性が高いと言う事だ。
「果たして、鬼が出るか、蛇が出るか、と言ったところだけど」
ドレイクが、楽しそうにう呟いく。
このような緊張した状況でも、海賊である彼女からすれば、心ドル瞬間なのだろう。
と、
「見て、あれッ」
凛果が声を上げて指を指す。
響と美遊が、それぞれ前に出て警戒する中、
1人の女性が、砂浜を歩いてくるのが見えた。
美しい女性だった。
翠色の衣装に身を包んだ女性は、すらりとした印象をしている。
驚いた事に、女性の頭には獣を思わせる耳があり、更にお尻からは長い尻尾が揺れている。
見た目通り、ネコ科の猛獣を連想させる出で立ちだ。
「カルデアか・・・・・・」
歩み寄って来た女性は、立香達を見回すと、何かの感慨を感じたように呟く。
「汝らとは、何かと縁があるようだな」
「えっと・・・・・・・・・・・・」
言われて、立香と凛果は顔を見合わせる。
目の前の女性は、いったい何を言っているのか、2人にはピンとこなかったのだ。
そんな2人の様子に、女性も苦笑を返す。
「ああ、すまない。先の時は、あまり縁を結べなかったからな。あまり気にしないでくれ」
そう言うと、女性は居住まいを正す。
「我が名はアタランテ。アーチャーのサーヴァントとして現界した。よろしく頼む」
凛とした佇まいで名乗る女性。
アタランテと言えば、ギリシャ神話に登場する狩人の女性だ。アルカディアの王女として産まれながらも父王に疎まれ、森に捨てられた悲劇の女性。しかし、女神アルテミスに見いだされた彼女は、やがて比類なき狩人として成長する事になる。
そして、あのアルゴナウタイにも参加していた事で有名である。
「それで、本当にあるのかい? あいつらを倒す策ってのは?」
「ああ、それについてだが・・・・・・」
矢文に掛かれていた事を尋ねるドレイクに対し、アタランテが頷きながら説明をしようとした。
その時だった。
「お~~~~~~い」
どこか間延びしたような声が、森の方から聞こえてくる。
一同が振り返ると、
その視線の先には、何やら妙に色白の顔をした優男が、手を振りながら走ってくるのが見えた。
「知り合いか?」
「ああ・・・・・・不本意ながらな」
尋ねる立香に、アタランテは頭痛がする頭を押さえて頷く。
やがて、青年は走って近づいてくると、実にさわやかな笑顔で言った。
「やあ、ひどいな。相棒を置いて行くなんて。僕は君ほど俊敏じゃないんだから、少しはいたわってほしいよ」
「汝と相棒になった覚えはない。それに、随分と余裕そうではないか」
へらへらとした調子で抗議する青年に、アタランテはすげなく返す。
どう見ても拒絶の態度。
しかし、
「やあ、ツンツンしている君も素敵だね」
青年の方は、全く堪えている様子は無かった。
とは言え、本人も話が進まないと持ったのだろう。
「僕の名前はダビデ。一応、王様って事になっているけど、ここでは一介のアーチャーに過ぎない。よろしく頼むよ」
ダビデと言えば、イスラエルの伝説にある建国王の名前だ。
元々は羊飼いであり、堅琴弾の少年だったダビデ。
当時、イスラエル人は、ペリシテ人と激しい争いを繰り広げていた。
特にペレシテ最強の戦士であった巨人ゴリアテには、誰もが恐れを成し、戦おうとはしなかった。
そんな中、名乗りを上げたダビデは、投石を用いてこれを討ち取る事に成功したと言う。
その後、紆余曲折を経て、イスラエルを建国、初代玉座に着いたのが、このダビデと言う訳だ。
「ん、すっぽんぽんの人」
「響、その表現はちょっと・・・・・・」
響のずれた言葉に、美遊は少し顔を赤くしてツッコミを入れる。
確かに、ミケランジェロ・ブオナローティ作による、世界で最も有名なダビデ像は衣服を一切着ておらず、男の象徴たる「アレ」も丸出しの状態だ。
もっとも、ダビデの名誉の為に言わせてもらえば、あの像はダビデが生きた時代よりはるか後に作られた物である。裸で作られたのは、ミケランジェロたちルネサンス期の芸術家が「究極の肉体美」を追求した結果であり、そのうえで服を着せるのは邪道と考えた為である。
決して、ダビデが露出狂であったわけではない。
と、思う・・・・・・・
多分・・・・・・
きっと・・・・・・
そう、信じたい。
更に余談だが、後年「流石に破廉恥」と言う思想が広まり、裸の石像は破壊されたり、裸が描かれている絵には、腰布が書き加えられたりする中、ミケランジェロの像はそのままの姿で残されている辺り、その芸術性の高さが伺えるだろう。(因みに近年、今度は「やはり原型の保持は大事」と言う考えが広まり、絵や像は復元されている)
そんなダビデとアタランテに向き、マシュが口を開く。
「初めまして、で、良いでしょうか。カルデアのデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトと申します。こちらは我がマスターの、藤丸立香と、凛果の兄妹。そして
「フォウッ フォウッ」
「ちょっと待てマシュちゃん。何で俺をフォウ君と同列にしたのかな?」
オリオンの抗議を無視して、全員を紹介するマシュ。
だが、
「ちょっと待ってくれ、マシュ」
手を上げて制したのはアタランテだった。
どうしても、彼女の中で聞き捨てならない名前が出てきたのだ。
「いやいや、何を冗談を言っているのだ。アルテミス様がこんな所にいるはずが無いだろう。女神である彼女がサーヴァントとして召喚されるなど、あるはずが無い」
狩人であるアタランテは、同じく狩猟の神であるアルテミスとアポロンを信仰している。
それだけに、目の前にアタランテがいると言う事実が信じられない様子だった。
だが、
「やあん。ダーリン、アタランテが信じてくれないよー」
「いや、そりゃ、お前、仕方ないだろ。彼女からすれば、女神がこんなところほっつい歩いているとは思わないだろうし。それに、処女神の看板立ててるお前が、まさかこんなだったりしたら、そりゃ驚くだろ」
「何よー 処女神が恋をしちゃいけないっていうのッ!?」
皆をそっちのけで、痴話げんかを始めるアルテミスとオリオン。
そんな2人の様子を見ながら、アタランテは恐る恐る振り返る。
「・・・・・・本当? ・・・・・・マジで?」
尋ねるアタランテに、頷きを返すしかない立香。
事実として、あれがアルテミス本人である以上、否定しても意味は無かった。
「・・・・・・・・・・・・馬鹿な」
そうとうショックだったのだろう。アタランテは、がっくりと膝を突く。
そんな彼女に、
立香と凛果が、ポンと、優しく肩を叩く。
そして、
「傷は深いぞ。がっかりしろ」
「がんばれ乙女ー」
「馬鹿にしてるのか貴様らーッ!!」
アタランテの絶叫が、青い空に響き渡った。
第18話「彼を失って」 終わり