Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第6話「弓兵の想い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き上げる炎。

 

 文字通り、街の全てを焼き尽くす焔に煽られながら、

 

 2騎のサーヴァントは刃を翳して駆ける。

 

 小柄なアサシンは、手にした刀の切っ先を向け、真っ向から挑みかかる。

 

 対して、

 

 迎え撃つアーチャーは、双剣を羽のように広げて構える。

 

 両者、1秒を待たずに、詰まる間合い。

 

「んッ!!」

 

 先制して仕掛けたのはアサシン。

 

 突き込まれる刀の切っ先。

 

 その一閃を、

 

 しかしアーチャーは、手にした干将で受け止める。

 

 刃を逸らされ、アサシンの体勢は僅かに前のめり気味に崩れた。

 

 その瞬間を見逃さずアーチャーが動く。

 

 右手に装備した莫邪を、素早く斬り上げるように振るう。

 

 斜めに走る斬線。

 

 しかし、

 

 白き刃が、幼いアサシンを捉える事は無かった。

 

 斬撃が届く前に、アサシンはバックステップで後退。アーチャーの攻撃は虚しく空を切った。

 

「見た目通り、良く動く」

「ん、それが取り柄」

 

 感心したようなアーチャーの言葉に、アサシンは刀を構えなおしながら答える。

 

 体格的な面から考えてもアサシンの力ではアーチャーに敵わないだろう。

 

 何より、

 

 アサシンにとっては面白くない事だが、アーチャーやオルガマリーに言われた通り、アサシンは直接的な戦闘に向いているクラスとは言い難い。

 

 本来なら「気配遮断」と呼ばれるスキルを用い、奇襲攻撃を行うのが主な戦い方だ。

 

 「最弱のサーヴァント」という評価は、決して間違いではない。

 

 だが、

 

「例外は、ある」

 

 言い放つと、

 

 アサシンの姿は、視界から消え去る。

 

「ぬッ!?」

 

 いぶかる様に警戒するアーチャー。

 

 次の瞬間、

 

 振り向き様に、莫邪を横なぎに振るうアーチャー。

 

 その一閃が、

 

 背後から奇襲を仕掛けようとしていたアサシンの刃とぶつかり、激しく火花を散らす。

 

「んッ!?」

 

 舌打ちしながら後退するアサシン。

 

 そこへ、アーチャーが仕掛ける。

 

 アサシンを追って前進。両手の刃を縦横に振るう。

 

 的確に急所を狙って仕掛けてくるアーチャー。

 

 2本の剣を自在に振るう為、対処するのは至難である。

 

「ハッ!!」

 

 アーチャーが放った攻撃。

 

 上段と横薙ぎの複合斬撃を前に、防御は不可能。

 

 とっさにそう判断したアサシンは、後方に宙返りしながら跳躍。距離を取る事で回避を選択する。

 

 アーチャーの方も、敏捷では敵わないと判断したのだろう。追撃は掛けず、反撃に備えて双剣を構えなおす。

 

 対峙する両雄。

 

「・・・・・・解せないな」

 

 口を開いたのは、アーチャーだった。

 

「なぜ、本気を出さない? 貴様の実力は、そんな物ではないはずだろう」

「・・・・・・別に」

 

 対して、アサシンは少し躊躇ってから応じた。

 

「これで充分、だから」

 

 どこか、後ろめたさを感じさせるような少年の言葉。

 

 それに対し、アーチャーはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「見くびられたものだな。その程度の感傷を戦いの場に持ち込むなど」

「ッ」

 

 アーチャーの言葉に対し、アサシンは息を呑む。

 

 それは少年にとって、予想外の言葉だったからだ。

 

 まるで、心の内を見透かされたようなアーチャーの言葉に、アサシンの心に動揺が走る。

 

「まさか・・・・・・記憶、が?」

「見くびるなと言った」

 

 次の瞬間、

 

 今度はアーチャーの方から仕掛ける。

 

 地を蹴って疾走。双剣を構えてアサシンに斬りかかる。

 

 対して、動揺で初動が遅れたアサシンは、刀を正眼に構えて正面から迎え撃つ。

 

 双剣を自在に操り、連続攻撃を仕掛けるアーチャー。

 

 対してアサシンは、自身の敏捷を活かしながら回避し、反撃を試みる。

 

 しかし、

 

 やはり立ち上がりを制されたのは大きい。

 

 アーチャーの連続攻撃を前に、アサシンは防戦一方になっていた。

 

「どうしたッ 足元がおぼつかないか!?」

「ん・・・・・・クッ!?」

 

 アーチャーが繰り出す剣戟を、刀で辛うじて防いでいくアサシン。

 

 どうにかして態勢を立て直そうとするが、アーチャーがそれを許さない。

 

 迫りくる斬撃。

 

 振り下ろされる剣は、十字を描いてアサシンに迫る。

 

「まだッ!?」

 

 対して、刀を繰り出して弾こうとするアサシン。

 

 その一閃が、アーチャーの手から双剣を弾き飛ばす。

 

 無手になったアーチャー。

 

「今ッ!!」

 

 素早く刀を返し、斬りかかるアサシン。

 

 だが、次の瞬間、

 

「ガッ!?」

 

 強烈な前蹴りを食らい、アサシンの身体は大きく吹き飛ばされた。

 

 蹴り飛ばしたのは、言うまでもなくアーチャーである。

 

 アサシンの小さな体は、大きく宙を舞う。

 

 相手が武器を手放した事で、一瞬油断した事は否めなかった。

 

 吹き飛ばされながらも、どうにか体勢を立て直し、立ち上がろうとする少年。

 

 だが、

 

「見くびるなと言ったぞ」

 

 顔を上げたアサシンの視界の先では、弓を構えるアーチャーの姿。

 

 矢には刀身が捻じ曲がった剣がつがえられている。

 

「しまっ・・・・・・」

「これで終わりだ」

 

 矢を放つアーチャー。

 

 その一撃が着弾した瞬間、

 

 周囲を圧する巨大な爆炎が舞い踊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンがアーチャーとの戦闘を繰り広げている頃、

 

 先行した立香達は、円蔵山の麓までたどり着いていた。

 

 途中、何度か骸骨兵士に遭遇する事態になったが、それらは全て、マシュとクー・フーリンの活躍によって事なきを得ていた。

 

 カルデアにいるロマニの的確な誘導もあり、戦闘回数が最低限で済んだ事も功を奏していた。

 

 後は目の前にある石段。これを上り柳洞寺まで行けば、目指す大空洞は目の前である。

 

「ちょ、ちょっと待ってッ す、少し休ませて・・・・・・・・・・・・」

 

 今にも地面にへばりそうな勢いで告げるオルガマリー。

 

 普段、あまり鍛えていない彼女からすれば、それなりに広い街中を走り回るのは苦痛以外の何物でもなかった。

 

 その一方で、藤丸兄妹は割と平気な顔をしていた。

 

「ほら所長ッ 立ってくださいッ 時間が無いんですから!!」

「フォウッ フォウッ」

「ちょ、ちょとーッ!?」

 

 凛果に腕を引っ張られ、無理やり歩かされるオルガマリー。

 

 フォウも急かすように吠えている。

 

 とは言え、こんな所でへばって、1人で追いていかれたらそれこそ命にかかわると言う物である。

 

 いやいやながら、オルガマリーは凛果に背を押されて石段を登り始めた。

 

 そんな中、立香はクー・フーリンやマシュと並びながら、周囲を見回していた。

 

「どうだ、様子は?」

「フォウ」

 

 駆け寄って来たフォウを肩に乗せながら尋ねる立香。

 

 対して、クー・フーリンは慎重に気配を探ってから答える。

 

「ああ、間違いねえ。完全に無人みたいだ。あの坊主がアーチャーの野郎を引き付けてくれたおかげだな」

 

 大空洞を守る最後の盾だったアーチャーが打って出た事で、この周辺の守りは手薄になっていた。

 

 攻め込むなら、今がチャンスだろう。

 

「急ぎましょう、先輩」

 

 マシュが緊張した面持ちで告げる。

 

「アサシンさんがアーチャーを押さえてくれていますが、万が一と言う事もあります」

「同感だ。立ち止まっている余裕はねえぞ」

 

 考えたくは無いが、もしアサシンが敗れれば、自分たちは追撃してきたアーチャーに背後を突かれる事になりかねなかった。

 

「待って・・・・・・お願いだから、ちょっと・・・・・・」

 

 先に行こうとする立香達が振り返ると、息も絶え絶えに登ってくるオルガマリーの姿があった。

 

 その様子に、クー・フーリンが嘆息する。

 

「ったく、情けねえな。鍛え方が足んないんだよ」

「う、うるさ・・・・・・い」

 

 息を切らしながらも、反論は忘れない辺り、根性はそこそこありそうだった。

 

 そうしている内に、一同は頂上にある山門をくぐり、寺の境内へ入る。

 

 内部は静まり返っており、人の気配はしない。

 

 どうやらここも、無人であるらしかった。

 

「あっちだ。行くぞ」

「フォウ」

 

 クー・フーリンの誘導に従い、立香達は境内の裏手、更にその奥の森へと分け入っていく。

 

 やがて、

 

 目指す大空洞の入り口が、目の前にぽっかりと口を開けて出現した。

 

 地の底まで続く、暗い穴。

 

 まるで地獄の入り口を連想させるその光景は、人が持つ根源的な恐怖を映し出している。

 

「・・・・・・・・・・・・行こう」

「フォウッ ファッ」

 

 固唾を飲む一同の中、率先して歩き出す一同。

 

 怖いのは皆、一緒だ。

 

 ならば、誰かが先頭を歩かなければならない。

 

 そう考えて立香は、一歩を踏み出したのだ。

 

 マシュや凛果たちも、立香の後に続いて大空洞内部へと足を踏み入れていく。

 

 内部は巨大な地下迷宮になっており、中まで見通す事が出来ない。

 

 しかし、不思議と迷う事無く、一同は進んでいく。

 

 流石に、ここまで来れば骸骨兵士の姿も見当たらず、一同は妨害を受ける事無く進む事が出来た。

 

 やがて、

 

 最奥部と思われる場所に達した時、誰もが息を呑んだ。

 

 目の前にある、祭壇の様に盛り上がった台地。

 

 その上から、巨大な光が放たれている。

 

 神々しいまでの光は、それだけで大空洞全体を明るく照らし出していた。

 

「何・・・・・・あれ?」

 

 凛果が茫然と呟く。

 

 あんな光景、見た事も無い。明らかに、自然の物ではない光だった。

 

 しかし、

 

 不思議と恐ろしさは感じない。むしろ、全てを包んでくれる安心感があった。

 

「あれが大聖杯だよ」

 

 クー・フーリンがそう言って指し示す。

 

 つまり予想が正しければ、あれが特異点の発生原因と言う事になる。

 

「なら、あれを回収すれば良いのね」

 

 そう言って、オルガマリーが前へと出ようとした。

 

 と、

 

「待ちな」

 

 クー・フーリンは杖を翳して、オルガマリーの行く手を遮る。

 

「ちょっとッ 何を・・・・・・」

「先に片付けなくちゃなんねえ事があるだろ」

 

 クー・フーリンがそう言った時だった。

 

「不遜な輩が」

 

 低く、響き渡る声。

 

 一同が振り仰ぐ中、

 

 彼女は現れた。

 

 漆黒の甲冑に身を包んだ少女。

 

 これまで戦ってきたシャドウ・サーヴァントとは、明らかに次元の異なる強大な存在感。

 

 何より、

 

 その手にある漆黒の刀身を持つ聖剣が、その存在が何者であるかを明確に物語っていた。

 

「・・・・・・出やがったな、セイバー」

 

 緊張交じりに告げるクー・フーリン。

 

 これまで飄々とした態度を取り続けてきた魔術師が、ここに来て最大限の緊張を見せている。

 

 それだけ、予断の許されない相手と言う事だ。

 

「え? セイバー? あれが? 女の子じゃんッ 何でアーサー王が女の子なの!?」

 

 セイバーとクー・フーリンを見ながら、凛果が混乱したように告げる。

 

 確かに、

 

 アーサー王と言えば普通に男性を想像するだろう。様々な書籍や映像作品などでも、男として描かれている。それがまさか、どう見ても自分達と同じくらいの年齢の少女だとは、思いもよらない事だった。

 

 そんな凛果に一瞥してから、セイバーはクー・フーリンに向き直った。

 

「どんな心境の変化だキャスター? 一匹狼を気取っていた貴様が、他の誰かと手を組むなどと」

「ハッ お前さんほどの奴と戦おうってんだ。これくらいの仕込みは当然だろ」

 

 そう言って肩を竦めるクー・フーリン。

 

 足して、セイバーは鼻を鳴らして一同を見回す。

 

「・・・・・・カルデアか。人理継続などと、大層な大義を掲げた物だな。身の程をわきまえて星だけを見ていればよかったものを」

「なッ」

 

 セイバーの物言いに、オルガマリーが反応する。

 

 彼女にとってカルデアは誇りその物と言って良い。その誇りを侮辱されて、黙っていられるはずが無かった。

 

「あなたねえ・・・・・・」

 

 苛立ち紛れに、前へと出ようとするオルガマリー。

 

 そんな彼女を守るように、マシュが盾を翳して前へと出る。

 

「下がってください所長。危険です」

 

 言いながら、台地の上に立つセイバーを見上げるマシュ。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・その盾は」

 

 セイバーはどこか、驚いたようにマシュを見やった。

 

 その時だった。

 

「・・・・・・・・・・・・あれは?」

 

 驚いたように声を上げたのは、立香だった。

 

 その視線の先。

 

 立ちはだかるセイバーのすぐ背後に、小さな人影が見えたからだ。

 

「・・・・・・女の子?」

 

 それは確かに女の子だった。

 

 年齢は10台前半くらい。立香達と比べてもだいぶ幼い印象がある。

 

「驚いたな・・・・・・」

 

 声を上げたのはクー・フーリンだった。

 

 少女の姿を見ながら、どこか感心したように頷く。

 

「何がだ?」

「ありゃ、セイバーのマスターだよ。まさか、生きていたとはな」

 

 クー・フーリンの言葉に、一同は驚きの声を上げる。

 

 まさか、ここに来て生存者に会えるとは思っていなかったのだ。

 

「あんな小さな子が・・・・・・・・・・・・」

 

 茫然として呟きを漏らす立香。

 

 あんな子が、聖杯戦争に参加して殺し合いをしていた、などとは思いもよらなかった。

 

 と、

 

「おしゃべりはそこまでだ」

 

 冷たい声で言いながら、セイバーは手にした聖剣の切っ先を向ける。

 

「キャスター、そしてカルデアのマスター達よ。聖杯が欲しくばこの私を倒し、それにふさわしい証を見せて見ろッ」

 

 言い放った瞬間、

 

 セイバーは疾走と同時に台地から飛び降りる。

 

 掲げられる聖剣。

 

 対して、

 

「迎え撃ちますッ!!」

 

 マシュが大盾を掲げて、セイバーの正面に躍り出る。

 

 振り下ろされる聖剣の一撃。

 

 対して、マシュは手にした盾で防ぐ。

 

 だが、

 

「あァっ!?」

 

 迸る剣閃を前に、盾を構えたマシュの身体は大きく後退を余儀なくされる。

 

 何という豪剣。

 

 防いだ方のマシュが後退させられるなど、誰が想像できよう。

 

 そこへ、更に斬り込むセイバー。

 

 漆黒の剣閃が次々と踊り、少女を容赦なく追い詰める。

 

「どうした娘ッ!? その程度の実力では、その宝具が泣くぞ!!」

「クッ!?」

 

 挑発するようなセイバーの言葉に、唇を噛み占めるマシュ。

 

 このままでは、追い込まれるのも時間の問題である。

 

 と、

 

Ansuz(アンサズ)!!」

 

 詠唱と共に、迸る爆炎。

 

 マシュの苦戦を見て取ったクー・フーリンが、援護射撃を行ったのだ。

 

 セイバーに向かい、真っすぐに伸びる爆炎。

 

 だが、

 

 次の瞬間、セイバーが無造作に横一閃した聖剣が、向かってきた炎を一撃のもとに斬り裂いてしまった。

 

「・・・・・・ハンパねえな」

 

 冷汗交じりに呟くクー・フーリン。

 

 剣士(セイバー)の剣士が持つ対魔力はトップクラスとも言われているが、それにしてもキャスターである自分の魔術を一薙ぎで蹴散らすとは。

 

 セイバー「アルトリア・ペンドラゴン」

 

 その力は、通常のサーヴァントとは一線を画していると言ってよかった。

 

 次の瞬間、

 

 セイバーはクー・フーリンへ矛先を変えて向かってきた。

 

「チッ!!」

 

 舌打ちしながら、更に魔術を起動して爆炎を放つクー・フーリン。

 

 しかし、

 

「無駄だ」

 

 セイバーの低い呟きと共に、炎は呆気なく斬り裂かれる。

 

「貴様の魔術如きでは、私に傷一つ負わせることもできんッ」

 

 振り翳される聖剣。

 

 対して、

 

 魔術を放った直後のクー・フーリンは身動きする事ができない。

 

「クッ!?」

 

 甘んじて、セイバーの一太刀を受ける以外に無いか?

 

 そう思った瞬間、

 

「やらせませんッ!!」

 

 飛び込んで来たマシュが大盾を掲げ、辛うじてセイバーの剣閃を逸らす事に成功した。

 

 しかし、マシュもタダでは済まない。

 

 強烈な一撃を前に、少女は大きく後退を余儀なくされる。

 

「嬢ちゃんッ」

「まだ・・・・・・大丈夫です」

 

 歯を食いしばりながら答えるマシュ。

 

 だが、

 

「どうした? 2人掛かりでもそんな物か?」

 

 聖剣の切っ先を無造作に下げながら、セイバーが挑発するように尋ねてくる。

 

 戦慄が走る。

 

 当初の作戦では、マシュがセイバーの攻撃を防いでいる内に、クー・フーリンが宝具を展開する手はずだった。

 

 しかし今、予想をはるかに上回るセイバーの戦闘力を前に、作戦は崩壊しつつあった。

 

「まじぃな、こりゃ・・・・・・・・・・・・」

 

 舌打ち交じりに呟くクー・フーリン。

 

 このままでは、こちらの敗北は時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 爆炎が晴れる。

 

 その様を見ながら、

 

 アーチャーは手にした弓を下す。

 

 立ち込める煙。

 

 その視界の先に、

 

「・・・・・・・・・・・・ほう」

 

 立ち上がる少年の姿を見て、感心したような声を上げた。

 

 アサシンは無事だった。

 

 多少のダメージは負っている様子だが、未だに戦闘続行に支障は見られない。

 

「耐えきったか」

「当然」

 

 アーチャーの言葉に、刀を構え直しながら答えるアサシン。

 

 とは言え、聊か際どいタイミングであったのも確かだ。

 

 あとコンマ一秒、回避のタイミングが遅かったら、アサシンの体は木っ端みじんに吹き飛ばされていただろう。

 

 疑うべくもない。

 

 アーチャーは強い。

 

 今の自分では、まともに戦っても勝てる見込みは少ないだろう。

 

「なら・・・・・・仕方ない」

 

 呟くように言いながら、

 

 アサシンは刀を両手で構えると、切っ先をアーチャーに向け、肩口に引き絞る様に構える。

 

「・・・・・・成程」

 

 そんなアサシンの様子を見て、アーチャーは皮肉気な笑みを浮かべた。

 

「追い詰められて本気を出す、か。子供の所業だな」

「うるさい」

 

 余計なお世話だ。

 

 言外にそう言いながら、アサシンは自身の中にある魔力を活性化させる。

 

 長引かせるのは不利だ。戦闘経験では、圧倒的にアーチャーの方が高い。

 

 ならば、有無を言わさぬ一撃で、勝負を決するしかなかった。

 

「良いだろう」

 

 そんなアサシンの様子に、アーチャーは頷きを返すと、投影魔術を展開。両手に干将・莫邪を創り出す。

 

 ただし、今度は2対、4本の剣を握りしめる。

 

「その力、示して見せろ!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 アーチャーは、手にした黒白の双剣を投擲する。

 

 明後日の方向に飛んで行く、合計4本の干将と莫邪。

 

 だが、その飛翔が頂点に達した瞬間、突如、進路を変更して、アサシンの背後から襲い掛かって来た。

 

 雌雄一対の夫婦剣である干将・莫邪は、たとえ引き離しても引かれ合う性質を持つ。

 

 その特性を最大限に使用した、アーチャーの絶技。

 

 鶴翼三連。

 

 同時に、アーチャーは更に、もう一対の干将・莫邪を創り出して構えると、真っ向からアサシンに斬りかかる。

 

 包囲網完成。

 

 こうなると、回避も防御も不可能となる。

 

 まさに、必勝の体勢。

 

 ならば、

 

「これでッ」

 

 地を蹴るアサシン。

 

 一歩、

 

 その体は加速する。

 

 二歩、

 

 少年は音速を超える。

 

 そして三歩、

 

 刃は獰猛な狼の牙となって、襲い掛かった。

 

「餓狼、一閃!!」

 

 繰り出される刃の切っ先。

 

 ほぼ同時に、返って来た双剣の刃が、アサシンの身体を斬り裂く。

 

 そして、

 

 切っ先は、真っ向からア―チャーの胸板を刺し貫いた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 静寂が、辺り一帯を満たす。

 

 アサシンの身体は斬り裂かれ、ボロボロになっている。

 

 重傷には違いない。が、まだ戦う事ができる。

 

 だが、

 

 アーチャーの方は、致命傷だった。

 

 間違いなく、アサシンの勝利。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・何で?」

 

 アサシンは咎めるように、アーチャーを見て言った。

 

「何で、最後に手を抜いた?」

 

 そう。

 

 最後の一瞬、アーチャーは攻撃の手を緩めた。それが無かったら、あるいは戦いはアーチャーの勝ちに終わっていたかもしれない。

 

「そんなの・・・・・・・・・・・・決まっている」

 

 言いながら、

 

 アーチャーは剣を捨てると、手を伸ばし、

 

 アサシンの頭を、優しく撫でた。

 

「何だかんだ言っても、兄貴が弟をいじめるのは、格好悪いだろ?」

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言って笑うアーチャーの顔を、アサシンは茫然として見つめる。

 

 そんなアサシンに、アーチャーは更に言った。

 

「それに、お前が来たなら、託しても良い。そう思ってな」

「何を・・・・・・・・・・・・」

 

 尋ねるアサシン。

 

 だが、

 

 それには答えずに、アーチャーの身体が消えていく。

 

 他の英霊達と同様、敗北したアーチャーもまた、英霊の座へと還るのだ。

 

「頼んだぞ・・・・・・を、守ってやってくれ」

 

 それだけ告げると、アーチャーの姿は完全に消え去ってしまった。

 

 後には、辛うじて勝利したアサシンだけが残される。

 

「・・・・・・・・・・・・士郎」

 

 そっと、囁かれる呟きが、「兄」への切なる思いを現している。

 

 だが、あまり感傷に浸っている暇もない。こうしている間にも、立香達は残るセイバーと死闘を繰り広げているのだ。

 

 それに、アーチャーが最後に言っていた言葉も気になる。

 

 果たして、円蔵山には何が待っているのか。

 

 逸る思いを胸に、アサシンは地を蹴って、次なる戦場へと急いだ。

 

 

 

 

 

第6話「弓兵の想い」      終わり

 




アガルタ、クリア。

久々のノーコンテクリアでしたね。

後は石を回収したら、次の下総に向かいます。

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