Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第24話「聖剣伝説」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数の呪符が、螺旋を描くような軌跡で迫ってくる。

 

 動きが読みづらい。

 

 目前に迫る呪符を手にした剣で切り払いながら、朔月美遊は内心で舌を巻く。

 

 呪符にはそれぞれキャスターの魔力が込められており、効力を発揮すれば、炎、雷、風、水と言った暴虐が美遊を襲う事になる。

 

 原理としては、クロエの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)に近い物がある。

 

 もっとも、アーチャーの矢と違ってスピードが無い為、迎撃する事自体は難しくないのだが、何しろ数が多い。

 

 いったい、どれだけの呪符を所持しているのか?

 

 今も、視界を埋め尽くす勢いで、無数の呪符が襲ってきている。

 

 さながら、誘導ミサイルのようだ。

 

 あるいは、二次元的知識に豊富な者なら「ファンネル」などと称するかもしれない。

 

 生憎、幸いにして美遊には、その手のオタク知識は無いのだが。

 

 ともかく、迎撃に専念する美遊。

 

 切り払い損なえば、即座に爆炎や雷撃が襲う事になる事を考えれば、美遊も必死だった。

 

 対して、

 

 呪符を放つキャスターもまた、苛立ちを見せ始めていた。

 

 矢継ぎ早に呪符を放っていると言うのに、一向に美遊に対し有効打を与える事が出来ない。

 

 美遊は自身に向かってくる呪符は完璧に処理し、影響範囲内にある呪符も、見逃すことなく斬り捨てている。

 

 それでいて、ブラフの為に放った呪符については、あえて見逃したりもするのだから、キャスターとしては憎たらしくなってくる。

 

 対決構図は、キャスターが攻めて美遊が防ぐ形だが、美遊の鉄壁に近い守りを前に、攻撃が用を成していなかった。

 

「・・・・・・ハァ・・・・・・・・・・・・面倒」

 

 嘆息を交えて呟きながら、

 

 しかし腕は鋭く振るい、手の中に5枚の呪符を出現させるキャスター。

 

 対抗するように、剣を正眼に構える美遊。

 

 睨み合う両者。

 

 次の瞬間、

 

 先に動いたのは、

 

 キャスターだった。

 

 手にした美遊に、呪符を投擲。

 

 更に、

 

 間髪入れず、左手にも呪符を抜き放ち投擲する。

 

 都合、10枚の呪符が、美遊へと向かって螺旋を描くようにして飛んで行く。

 

 対して、

 

 美遊はスッと、腰を落とすと、体を半身捻る。

 

 抜き打つように剣を構える美遊。

 

 そこへ、殺到してくる10枚の呪符。

 

 次の瞬間、

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 剣を振り抜く美遊。

 

 同時に、

 

 剣に込められた魔力が解放。

 

 放たれた魔力は、暴風になって叩きつけられる。

 

 吹き散らされる呪符。

 

「ッ!?」

 

 キャスターの顔が一瞬、驚愕に歪むのが見えた。

 

 放った攻撃全て、一撃の下に切り払われるとは思っていなかった様子だ。

 

 美遊とキャスターの間に一瞬、遮る物無く道が開かれる。

 

 その瞬間を逃さず、

 

 美遊は駆けた。

 

「これで決めますッ!!」

 

 再度の魔力放出によって、加速する少女剣士。

 

 その向かう先に、立ち尽くす謎の女魔術師。

 

「クッ 鬱陶、しいッ!!」

 

 とっさに呪符を取り出し、投擲の姿勢を取ろうとするキャスター。

 

 しかし、

 

 彼女よりも美遊の方が、

 

 速い。

 

 キャスターの眼前に迫る美遊。

 

 魔術師はとっさに後退しようと体をのけ反らせるが、

 

 もう、遅い。

 

 次の瞬間、

 

 美遊が振り下ろした剣が、キャスターの体を袈裟懸けに斬り裂いた。

 

「・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・こんな」

 

 苦し気な呟きを零すキャスター。

 

 同時に、前のめりに傾く。

 

 キャスターは音を立てて、砂浜に倒れ込んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 大きく息を吐く美遊。

 

 手応えは、あった。

 

 警戒しつつ振り返ると背後には、倒れているキャスターが見える。

 

 動き出す気配はない。

 

 どうやら、完全に息絶えたらしい。

 

「・・・・・・結局、誰だったんだろう、この人?」

 

 倒れたキャスターを見下ろしながら、呟く美遊。

 

 ついに真名は判らないまま、キャスターは美遊の剣に倒れた。

 

 多少、気がかりではあるが、勝敗がいずれに帰したかは考えるまでも無い事。ならば、これ以上拘泥する必要も無ければ、またその時間も無い。

 

 踵を返す美遊。

 

 その視線の先には、猛威を振るいながらそそり立つ魔神柱の姿がある。

 

 今なお、複眼から閃光を放ち続ける魔神柱。

 

 アタランテ達が抵抗を続けているが、ダメージを与えているようには見えない。

 

 あれを倒すにはもっと、決定的な要因が必要になるだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 眦を上げる美遊。

 

 今の特殊班メンバーは、全体的に火力が足りないサーヴァントが揃っている。

 

 だが、

 

「私なら・・・・・・・・・・・・」

 

 自分の宝具なら、魔神柱を倒す事も不可能ではない筈。

 

 剣を握りしめる美遊。

 

 幼くも可憐な双眸は、魔神柱を睨み据える。

 

「魔神柱は、私が倒すッ」

 

 静かに言い放つと同時に、白百合の剣士はそそり立つ魔神目がけて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激突する響とヘラクレス。

 

 圧倒的な破壊力を伴って攻め込んでくるヘラクレスに対し、「盟約の羽織」を羽織った響は、真っ向から迎え撃つ。

 

 振り下ろされる巨大な斧剣。

 

 先に契約の箱(アーク)に触れた事で、ヘラクレスの左腕は使い物にならなくなっている。

 

 故に、右腕のみで撃ち下される巨大な刃。

 

 しかし、

 

「■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 叩きつけられ、割れる大地。

 

 土壌に亀裂が走り、土砂が舞い上がる。

 

 隻腕になって尚、圧倒的な破壊力は健在。

 

 向かっていく響が、跳ね飛ばされそうな威力が襲い掛かる。

 

 だが、

 

「んッ!!」

 

 空中に跳ね上げられながらも、響は体勢を立て直すと、

 

 巻き上げられた土砂を足場として駆ける。

 

 眼前に迫る大英雄。

 

 そこへ、迷う事無く斬りかかる暗殺者。

 

 すれ違う一瞬、

 

 横一文字に斬り裂かれる、ヘラクレスの胸元。

 

 契約の箱(アーク)の影響で「十二の試練(ゴッドハンド)」が失われたため、先のような防御力は、今の彼にはない。

 

 斬られた傷が、回復する事も無い。

 

 だが、

 

「■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 その程度で、ヘラクレスは怯まない。

 

 切り札を一つ潰された事など、考慮する事すら値しない。そんな物、大英雄にとってはほんのわずかな瑕疵に過ぎない。彼を押し留める理由にならない。

 

 今、ヘラクレスを大地に立たせているのは、友であるイアソンの為。

 

 たとえ姿を失い、魔神柱と化した今でも、彼の為、彼を守る為に戦う事。

 

 ただそれだけの為に、ヘラクレスはこの世界にあり続けていた。

 

「ッ・・・・・・・・・・・・」

 

 響は大きく跳躍して後退。刀の切っ先を向けて構える。

 

 響とヘラクレス。

 

 互いに、譲れぬ物を背負う英霊が2騎。

 

 片や人理守護の為、片や友を守る為、

 

 その存在を賭けるようにぶつかり合う。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 静かに、息を吐く響。

 

 相手はたとえ衰えても大英雄。

 

 その武勇、その実力、その決意。

 

 全てにおいて、響を上回っている。

 

 ならば、

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 こちらも全力で掛からねば。

 

 相手は瀕死の間際において、尚、究極。

 

 なまなかな覚悟では、間違いなく返り討ちにあうだろう。

 

 刀を鞘に納める響。

 

 同時に腰を落とし、抜刀術の構えを見せる。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 響の様子を見ていたヘラクレスもまた、何かを感じたように静かに唸る。

 

 目の前で自分に向かってくる少年が、切り札を使おうとしている。

 

 その事を感じ、斧剣を持つ右腕に力を籠める。

 

 互いに悟る。

 

 次が、最後の一撃になると。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 睨み合う両者。

 

 一瞬、

 

 外界と隔絶したかのように、ただ2人だけの静寂が包み込む。

 

 張り詰める、一瞬。

 

 次の瞬間、

 

 仕掛けた。

 

「疑似、魔力放出ッ」

 

 小さな叫びと共に、響は地を蹴る。

 

 鞘内で放出された魔力が、抜刀を加速させる。

 

 対するように、地面を踏み抜いて突撃するヘラクレス。

 

 巨大な斧剣が、大きく振りかぶられる。

 

 次の瞬間、

 

「■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 響は見た。

 

 視界からあふれ出るほどの閃光。

 

 四方八方から、自身に目がけて迫って来る無数の剣閃。

 

 その全てが、ヘラクレスの放つ斧剣の一撃だと理解する。

 

 生前、大英雄ヘラクレスは、あらゆる武器を使いこなし、究極とも言える技の数々を生み出したと言う。

 

 大英雄は戦うに当たって武器は選ばない。あらゆる武具を使いこなし、あらゆる敵を粉砕する。

 

 故にこそ、英霊の頂点に立つ事を許されているのだ。

 

 そして、これこそが、大英雄ヘラクレスの持つ真の宝具。

 

 武器を択ばず、いかなる得物を手にしたとしても必殺に至る、最強にして究極の武技。

 

 宝具「射殺す百頭(ナイン・ライブス)

 

 伝説に刻まれた、大英雄最強の必殺技が、少年暗殺者に襲い掛かる。

 

 対して、

 

 怯む事無く前に出る響。

 

 その幼い視線が、鋭く大英雄を睨み返す。

 

 次の瞬間、

 

鬼剣(きけん)・・・・・・・・・・・・」

 

 魔力を帯びた剣閃が鞘走る。

 

蜂閃華(ほうせんか)!!」

 

 駆けあがる閃光。

 

 縦横の剣閃とぶつかり合う。

 

 鳴り響く衝撃音。

 

 すれ違う、両雄。

 

 訪れる、静寂。

 

 互いに、武器を振り切った状態で背中を向け合う。

 

 ややあって、

 

「・・・・・・・・・・・・見事だ、少年」

 

 重々しく口を開いたのは、ヘラクレスだった。

 

 振り返る響。

 

 その視界の先で佇むヘラクレス。

 

 大英雄の胸元には、深々と袈裟懸けの傷が出来ている。

 

 蜂閃華によって受けた傷である。

 

 その深さから言って、明らかな致命傷だった。

 

 しかし、

 

「ん、万全だったら、負けてた」

 

 響は静かな口調で告げる。

 

 今回の戦い、響は万全の状態であったのに対し、ヘラクレスは契約の箱(アーク)の影響で、瀕死の状態であった。

 

 その状態で尚、響を圧倒して見せたのだ。

 

 もし、ヘラクレスが万全の状態であったなら、勝敗が逆転していたのは考えるまでも無い事だろう。

 

 それはそれとして、

 

 刀を下した響は、静かに問いかける。

 

「・・・・・・初めから、意識があった?」

 

 響の言葉に対し、

 

 ヘラクレスは、フッと笑みを浮かべた。

 

 響の指摘通り、ヘラクレスは初めから、少なくとも契約の箱(アーク)の致命傷から復活した後は意識があったのだ。

 

「・・・・・・イアソンは・・・・・・あの男は確かに、傲慢で不実な男であるが、それでも私にとっては大切な友でな。奴を裏切る事は、私にはできなかった」

「ん・・・・・・・・・・・・」

 

 友の為に戦う。

 

 たとえ、それが悪だと判っていても。

 

 その考え方は、響にも理解できる。

 

 かつて、悪と知りながらも、大切な人の為に戦い続けた男を知っているから。

 

 故にこそ、ヘラクレスを批判する気にはなれなかった。

 

 と、

 

「少年、一つ問うが?」

「ん?」

 

 キョトンとする響に、ヘラクレスは尋ねた。

 

「あの褐色の、弓兵の少女は、そなたの身内か?」

「ん、姉。ちょっとエロい」

 

 いや、その紹介はどうなんだ?

 

 クロエが聞いたら、間違いなく怒られそうな事を告げる響。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・そうか」

 

 ヘラクレスは、どこか納得したように頷きを返す。

 

 その巨体から、今度こそ、金色の粒子が立ち上り始めた。

 

 消滅現象。

 

 不死身と思われた大英雄も、ついに消滅の時が来たのだ。

 

「姉を、大事にせよ、少年」

 

 その言葉を最後に、ヘラクレスは風に溶けるように消えていった。

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 既に、その姿が見えなくなった大英雄に、響は、静かに頷きを返した。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 ヘラクレスの消滅に、愕然としている人物が1人。

 

 メディアである。

 

 既にヘクトールとキャスター、ネルソンも倒れ、残るは魔神柱を除けば彼女1人だけ。

 

 戦闘開始前、あれだけ有利だった戦況は、今や完全にひっくり返されている。

 

 焦慮に顔を歪める。

 

 折角、「あの御方」から、この世界を任されたと言うのに、これでは役立たずの烙印を押されてしまうではないか。

 

 一瞬、思考を逸らすメディア。

 

 そこへ、盾兵の少女が襲い掛かってきた。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 気合と共に、大盾を一閃するマシュ。

 

 その大ぶりな一撃を、メディアは飛び上がって回避した。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちする魔術師の少女。

 

 状況は彼女にとって圧倒的に不利。

 

 だが、

 

 まだ、逆転の目が無い訳ではない。

 

「カルデアのマスターッ あなた達さえ倒せばッ!!」

 

 マスターの殺害が成れば、彼女にとって収支は黒字となり、失敗は帳消しになる。

 

 空中に複雑な文様の魔術陣を描き、魔力を充填するメディア。

 

 魔術陣に充填される魔力。

 

 開放すれば特大の魔力砲が、立ち尽くす立香と凛果を直撃する事になる。

 

 睨み据えるメディア。

 

 対して、

 

 地上にあって立香もまた、メディアを睨み返す。

 

 切り札を切る。

 

 そのタイミングがあるとすれば、今しかなかった。

 

「やるぞッ マシュ!!」

「はい、先輩ッ お任せします!!」

 

 マシュの返事を受けて、

 

 立香は右手を大きく頭上に翳す。

 

 その手の甲に浮かび上がる、盾と剣を掛け合わせた文様の令呪が光り輝く。

 

「藤丸立香が令呪を持って、シールダー、マシュ・キリエライトに命ずる!!」

 

 叫ぶ立香。

 

 カルデアから送られてきた魔力によって、少年の体が光り輝く。

 

「宝具を全力解放し、メディアの攻撃を防げ!!」

「了解です、マスター!! マシュ・キリエライト、これより全力で防衛行動に入ります!!」

 

 立香の意を受け、マシュの宝具が展開される。

 

 メディアが魔力砲を撃ち放ったのは、ほぼ同時だった。

 

 既にヘラクレス戦で2度、宝具を展開しているマシュ。本来であるなら、3度目の宝具展開など不可能に近い。

 

 しかし、不可能を可能にするのが令呪と言う物。

 

 立香から溢れ出る魔力がマシュへと流れ込み、彼女の宝具をより一層、強固にしていく。

 

 激突する、障壁と魔力砲。

 

 白熱の閃光が撒き散らされ、周囲一帯を薙ぎ払う。

 

 恐るべきはメディアの魔力量。

 

 防がれて尚、莫大な光が視界を灼のが判る。

 

「クッ!?」

 

 必死に盾を支えて耐えるマシュ。

 

 彼女は恐らく、特殊班のメンバーで最も今日一日の消耗が激しいだろう。

 

 ヘラクレス戦で2度の宝具開放。それから立て続けに戦闘をこなしている。

 

 本来なら、倒れてもおかしくは無い。

 

 だが、

 

 それでも尚、

 

 盾兵の少女は、立ち続ける。

 

 己が信じる物。

 

 己を信じる者。

 

 その全てを守り通すために。

 

 次の瞬間、

 

 強烈な衝撃音と共に、視界が晴れる。

 

 魔力を帯びた閃光が吹き散らされ、周囲が元の風景に戻る。

 

 そして、

 

 砂浜には、

 

 代わらず立ち続ける藤丸兄妹と、

 

 2人のマスターを守り切った、マシュ・キリエライトの姿があった。

 

「クッ 防ぎ切りましたかッ けど、まだ!!」

 

 自身の攻撃を防がれた事に焦りを感じながらも、再度の魔術陣構成に入るメディア。

 

 今ならやれる。

 

 攻撃こそ防がれたが、あの盾兵は既に限界のはず。

 

 対してメディアは、消耗こそしているものの、まだ余裕がある。

 

 再度、魔術陣を構成して攻撃すれば、今度こそマシュは防ぎきれないだろう。

 

 それで終わりだ。

 

 そう思った。

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、けど、遅い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低い呟きと共に、魔術師の背後に気配が浮かぶ。

 

 ハッとして振り返るメディア。

 

 そこには、

 

 漆黒の装いをした、少年暗殺者の姿がある。

 

 「盟約の羽織」を脱ぎ、クラス特性をセイバーからアサシンに戻した響は、気配遮断を使ってメディアの背後に回り込み奇襲を敢行したのだ。

 

「クッ!?」

 

 振り返ろうとするメディア。

 

 だが、魔術陣の構築に入っていた為、反応が一瞬遅れる。

 

 奔る剣閃。

 

 響が振り下ろした刀は、

 

 振り返ったメディアの体を、袈裟懸けに切り落とした。

 

「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・」

 

 小さく声を上げる魔術師の少女。

 

 鮮血がメディアの体から舞い散り、霧散していく。

 

 落ちていく少女。

 

 その視界の先には、

 

 尚も、大地に立ち続けている巨大な魔神柱が映る。

 

「ああ・・・・・・イアソン・・・・・様・・・・・・」

 

 呟いた瞬間、

 

 メディアの視界の中で、魔神柱が巨大な閃光に飲み込まれて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、決戦前夜の話だった。

 

 月光の下で、2人の少年と少女が、並んで砂浜に立っていた。

 

 衛宮響(えみや ひびき)朔月美遊(さかつき みゆ)

 

 共に、藤丸凛果(ふじまる りんか)をマスターとするサーヴァント達である。

 

 こんな夜に、サーヴァント2人が砂浜にいる理由は、2人の恰好から推察できるだろう。

 

 共に水着姿。

 

 響は泳げない美遊に、水泳を教えていたのだ。

 

 とは言え、

 

 美遊のカナヅチは、彼女に霊基を提供したアルトリア・ペンドラゴンに由来する物。言わば「朔月美遊は泳げない」と言う事が一種の概念と化しているのだ。その為、いくら練習したところで、美遊のカナヅチは治る事は無いのだが。

 

 美遊としては、自分が泳げるようになれば、明日の決戦では行動範囲が広がり、もっと皆の役に立てるのでは、と考えていただけに、聊か落ち込んでいる様子が見られた。

 

 そんな美遊を見ながら、

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 何かを思いついたらしい響が、ポムッと手を打った。

 

「どうしたの?」

「ん、要するに、泳げなくても、行動範囲が広がれば、それで良い?」

「それは・・・・・・そうだけど」

 

 できれば泳げるようになりたい、と思うのは美遊の偽らざる本音だが、しかしどう考えても明日の決戦には間に合いそうもない。

 

 となると、何かしらの代替案を用意する必要がある。

 

「ん、それなら、何とかなる、かも」

「え?」

 

 怪訝な面持ちになる美遊。

 

 いったい、何をしようとしているのか?

 

 しかし響は、いつになく自信たっぷりに美遊に説明した。

 

 

 

 

 

 そして現在、

 

 キャスターを下した美遊は、海岸線の砂浜に立ちながら、沖にそそり立つ魔神柱を見据える。

 

 今も複眼から破壊の光を放ち続ける醜悪な柱。

 

 イアソンが変貌して出現した魔神柱。

 

 あれさえ倒せば、この特異点は消滅し人理は守られる。

 

 そこまで、あと少しのところまで来ているのだ。

 

 剣を構える美遊。

 

 可憐な双眸が、真っ向から魔神柱を捉えた。

 

「これで、終わらせます!!」

 

 同時に、

 

 少女の体から、魔力の閃光が溢れ出した。

 

 一方、

 

 その様子は、離れた場所から魔神柱に対して攻撃を加えていたアタランテからも見る事が出来た。

 

「美遊、いったい何を・・・・・・・・・・・・」

 

 アタランテが呟いた瞬間だった。

 

 美遊は全開で魔力を放出。砂を蹴って、一気に魔神柱へと向かっていった。

 

「なッ!?」

 

 驚いたのはアタランテであろう。

 

 彼女が見ている前で、少女剣士が海の上へと飛び出したのだから。

 

 しかも、事前に美遊が泳げない事は、立香達から聞いて知っている。

 

 一瞬、少女の気が狂ったのかと思ったほどだった。

 

 だが、

 

「なに・・・・・・・・・・・・」

 

 軽い驚きと共に、アタランテは目を見張った。

 

 なぜなら、

 

 彼女が見ている前で、

 

 美遊は「空中」を蹴って、更に加速したからだった。

 

 

 

 

 

 空中に魔力で足場を作って、疑似的な飛行を可能にする。

 

 昨夜、失敗に終わった水泳練習の後、響が美遊に教えた魔力の活用法である。

 

 確かに、響は時々、このやり方で空中戦を行っている。特に今回の第3特異点は、戦場の大半が海だった事もあり、多用する事になった。

 

 やり方を聞かされた時、正直、美遊は不安があった。今までやった事が無かった為、本当にできるのかどうか自信が無かったのだ。

 

 万が一、失敗すれば海の中に転落する事にもなりかねない。

 

 しかし響は、

 

『ん、大丈夫、簡単。たぶん』

 

 と、請け負ってくれた。

 

 そして、彼の言葉通りとなった。

 

 今、美遊は文字通り、海の上を疾走している。

 

 作り出した足場はしっかりと保持され、美遊が蹴り出しても小動すらしない。

 

 しかも、美遊は同時併用で魔力放出も行っており、その加速力たるや響の比ではない。

 

 まるでジェット噴射をしているかのような光景だ。

 

 魔神柱の方でも、接近してくる美遊に気付いたのだろう。

 

 複眼を開き、一斉射撃を浴びせてくる。

 

 沸き立つ海面。

 

 閃光が着弾し、水柱が立ち上る。

 

 だが、

 

 視界を塞ぐ瀑布を突き破り、白百合の剣士は一気に魔神柱に取り付いた。

 

「やァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 駆け上がりながら、一閃される刃。

 

 その一撃が、魔神柱の複眼を斬り裂く。

 

 しかし無論、その程度で魔神がひるむ事は無い。

 

 すぐさま、他の複眼が美遊を睨むのが見えた。

 

 ただひたすらにグロテスクな様。

 

 だが、

 

 美遊もまた、攻撃の手を緩めない。

 

 腰に構えた剣に魔力を充填。

 

 勢いに任せて振り抜く。

 

 放たれた魔力が、月牙の軌跡を描く。

 

 美遊の一閃は、今にも攻撃を開始しようとしていた魔神柱に、僅かに先んじた。

 

 着弾。

 

 同時に、爆炎が魔神柱の表面を覆った。

 

 莫大な魔力が誘爆を生み、複数の複眼が一緒くたに吹き飛ぶ。

 

 慌てたように、美遊へと砲火を集中させる魔神柱。

 

 だが、美遊は逸それよりも先に身を翻して魔神柱の攻撃を回避。

 

 同時に柱の懐まで斬り込む。

 

「遅いッ」

 

 低い呟きと共に、斬撃が走る。

 

 魔神柱の表面に着地すると、掛けながら剣を振るう美遊。

 

 魔神柱はその巨大さゆえに、火力こそ高いが、逆に密着されると対応が追い付かなくなる。

 

 その事を考え合わせると、懐に飛び込んだ美遊の判断は正しかった。

 

 斬撃が振るわれるたびに、斬り裂かれる魔神柱。

 

 ダメージは、着実に蓄積される。

 

 物言わぬ魔神柱が、苦悶の咆哮を上げているかのようだ。

 

 美遊の剣は、容赦なく魔神を斬り裂いていく。

 

 中天高く、駆け上がる美遊。

 

 眼下に見る魔神柱。

 

 尚も、美遊に対して抵抗しようとしているのか、残った複眼の魔力を充填している様が見える。

 

 対して、

 

「これで・・・・・・決める」

 

 自身に殺到してくる閃光を見詰め、

 

 美遊は、静かに呟く。

 

 剣を翳す少女。

 

 次の瞬間、

 

十三拘束解放(シールサーティーン)円卓議決承認(デシジョン・エンド)!!」

 

 少女の体から魔力の光が一気に溢れ出した。

 

 

 

 

 

 アーサー王の聖剣伝説には、2種類の解釈があるとされている。

 

 すなわち、岩に刺さった選定の剣(カリバーン)を抜き、王となる資格を得たアーサーだったが、戦場で行った騎士道に背く振舞により、剣が折れてしまう。

 

 この事を憂慮した宮廷魔術師のマーリンが、王の為に新たな剣を湖の乙女に求める事になる。

 

 それが、所謂「聖剣エクスカリバー」だとする説。

 

 一般的には、こちらの聖剣伝説が語られるパターンが多い。

 

 そして、もう一つ。

 

 折れた聖剣をあえて鍛え直し、新たなる剣として新生したとする説。

 

 どちらも、後年の剣は「聖剣エクスカリバー」であるとされている。

 

 美遊は、力尽きたアルトリアから霊基を受け継ぐ形で英霊化している。

 

 すなわち、一度折れた聖剣が、美遊と言う担い手を得て新生、復活した事を意味している。

 

 その様は、正に聖剣伝説そのものであると言えるだろう。

 

 

 

 

 

 光が剣その物を包み込む。

 

 同時に、「外装」が剥がれ落ち、眠っていた刀身が露わになる。

 

 飾り気の少ない、極シンプルな刀身。

 

 しかし、そこから発せられる凄みは、周囲の空間すら歪曲するほどの存在感を発している。

 

 まさに伝説に語り継がれる、騎士王アーサーの佩刀に相応しい、絶対的な輝きを放っていた。

 

 空中で剣を振り被る美遊。

 

 少女が、眼下の魔神柱を睨み据える。

 

 魔神柱が放った光が、美遊へと迫った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か遠く、黄金の剣(エクスカリバー・リバイバル)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が振り抜くと同時に迸る閃光。

 

 軌跡は斬撃となり、全てを斬り裂く。

 

 魔神柱が放つ閃光を消し飛ばし、斬撃は魔神柱その物をも斬り裂いていく。

 

 光に侵食される、巨大な柱。

 

 断末魔の叫びを発する魔神。

 

 次の瞬間、

 

 魔神柱は、中央から真っ二つに斬り裂かれて倒れる。

 

 轟音と共に、海へと落下していく魔神柱。

 

 落ちながら、その構造は剥がれ落ちるように崩れていく。

 

 そして、

 

 その崩れ落ちていく柱の中から一瞬、金髪をした男の姿が見えた気がした。

 

 しかし、それも一瞬の事。

 

 すぐさま、男の姿は魔神柱の破片の中に飲み込まれて見えなくなっていく。

 

 残った「根元」の部分も崩壊していく。

 

 その様を見詰め、

 

 美遊は、ゆっくりと剣を下した。

 

 

 

 

 

第24話「聖剣伝説」      終わり

 




SE・RA・PH復刻。

前から一番やりたかったイベントだったので嬉しいです。これで、足りない部分のストーリーを補えます。
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