Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第3話「人工少女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、遠慮すんな。ゆっくりくつろいで行けって」

 

 実に気安い調子で、円卓の騎士モードレッド卿は、特殊班一同を部屋の中へと招き入れると、いの一番に上等そうなソファーに腰を下ろした。。

 

 街角にあるアパートの一室に通された立香達は戸惑いながらも、室内に足を踏み入れる。

 

 温かい。

 

 入ってすぐに、そう思った。

 

 壁の暖炉には薪がくべられて火が焚かれている。

 

 壁の棚には整頓された本が種類ごとに並んでいるのが見えた。

 

 レトロ、とはまた違うが、異国の下町情緒に溢れた部屋の風景は、それだけで趣があった。

 

 よく掃除も行き届いており、この部屋の持ち主が几帳面な性格である事が伺える。

 

 ここはモードレッドの部屋なのだろうか?

 

 そんな事を考えていると、奥の部屋に続く扉が開き、線の細そうな青年が入ってくるのが見えた。

 

 眼鏡をかけたその青年は、入って来るなり一同を見て驚いた顔を見せる。

 

「やあ、モードレッド、おかえり。驚いたよ。まさか、お客様を連れてくるなんて思わなかったから・・・・・・ていうか、また僕のお気に入りのソファーに座ってるし」

「おう、ちょうどそこで行き合ってな。ほれ、例の殺人鬼とやり合ってるところに出くわしたんだ」

 

 モードレッドの話を聞いて、青年は険しい表情を作る。

 

「ジャック・ザ・リッパー・・・・・・斬り裂きジャック、また、奴が出たんだね」

 

 斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 

 19世紀のロンドンを震撼させた殺人鬼。

 

 イーストエンドやホワイトチャペルと言った地区を中心に、少なくとも5人の娼婦を殺害したとされる。

 

 その殺害方法は残忍で、殺害後、死体を解体して臓器を持ち去った事もあったと言う。

 

 また大胆不敵な犯行予告を手紙に書いて、警察へ直接送りつけた事もあるとか。

 

 その為、大衆を観客に見立てた「劇場型犯罪」のはしりとも言われている。

 

 高度な医学的知識があると見られた事から、切り裂きジャックの正体は医者だとする説が、当時から有力視されたと言う。

 

 尚、被害者は5人と述べたが、それは確実性の高い例のみの事であり、不確実な者や、襲われたが一命を取り留めた者も含めると、実に10人以上の女性がジャックに襲われている。

 

 こうして、ロンドンを恐怖のどん底に陥れたジャック・ザ・リッパーだったが、ある日を境に忽然と消息を絶ち、1世紀以上経過しても尚、その正体は闇に包まれている。

 

 まさに19世紀最大の未解決事件である。

 

「あの、ところで・・・・・・」

 

 やや躊躇いがちに、手を上げる立香。

 

 と、そこで、挨拶もまだだったことを思い出したのだろう。青年は苦笑しつつ振り返った。

 

「ああ、ごめんごめん。折角のお客様にお茶も出さないなんて」

 

 そう言って青年は笑いかけてくる。

 

「僕の名前はヘンリー・ジキル。よろしくね」

 

 しかし、名前を聞いた途端、顔色を変えたのはマシュである。

 

「そ、その名前は・・・・・・」

「うん、どうかしたのかい?」

 

 不思議そうに尋ねるジキルに対し、マシュは驚愕した眼差しで答える。

 

「あの、失礼ですが、ミスター・ジキルは、サーヴァントでいらっしゃいますか?」

「サーヴァント、と言うと、そこにいるモードレッドみたいな存在の事だよね。残念ながら違うよ。僕は人間さ」

 

 その言葉に、マシュは一応納得しつつも、どこか釈然としない。

 

 それもそのはず。

 

 彼が名乗った名前は、レイシフト内の時間軸で、2年前に当たる1886年に刊行された、とある小説の主人公と同一の物だったからだ。

 

 現代風に言えばホラー・サスペンスを題材としたその小説の特性を鑑みれば、そのモデルとなった人物がサーヴァントとして召喚されてもおかしくは無いだろう。

 

 故に、マシュはジキルがサーヴァントではないか、と疑ったのだった。

 

 と、そこでしびれを切らしたように、モードレッドが口を開いた。

 

「おいジキルッ んな事より、さっさと本題に入ろうぜ」

「ん、モーさん、無駄に偉そう」

「『偉そう』なんじゃなくて、『偉い』んだ、俺は」

 

 傍らの響の頭をポコッと叩きつつ、モードレッドは話を本筋へと戻す。

 

 それによると、謎の霧がロンドンの街を覆い始めたのは3日前の事。

 

 ちょうどその頃からだったらしい。ロンドンに住む人々が、次々と姿を消し始めたのは。

 

 まるで霧に飲み込まれるかのように消えていくロンドン市民。

 

 一応、屋外に入れば、ある程度は防げるらしいが、それも根本的な解決には至らず、姿を消す人々は後を絶たないらしい。

 

「既に犠牲者は数万単位で出ていると考えられる。けど、未だにその実態すら判ってない状態だ。僕は仮に、この霧の事を『魔霧(まきり)』と呼ぶことにした」

 

 人を喰らう魔の霧。

 

 まさに、この状況を一言で表すにふさわしい名前と言えた。

 

 ジキルは基本的に一般人であるが、魔術師としての知識も多少は持ち合わせている。その為、事態の解決を図るべく調査を開始したのだ。

 

 しかし、外に出ればジキル自身の身の保証も出来ず、かといって閉じこもっていては検証すらままならない。

 

 行き詰っていた彼の前に現れたのが、サーヴァントとして現界したモードレッドだったわけである。

 

「んで、実働は俺、解析はジキルってな感じに役割分担して動いていたわけさ」

 

 モードレッドが調査に出るようになって判ったのは、街の至る所から湧いて出てくる、得体の知れない怪物の存在だった。

 

 マネキンのような人型人形から、ケモノとも人ともつかないような生物まで。

 

 恐らく消えた住人は、そうした怪物たちの手によって殺されたのだと判断できた。

 

「それに、おまえらが戦った、あの殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーだ」

 

 ジャック・ザ・リッパー。

 

 確かに、あれは強敵だった。

 

 恐らく、再び街に出れば、間違いなく・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

「どうしました、先輩?」

 

 急に頭を抱えた立香に対し、怪訝な面持ちでのぞき込むマシュ。

 

 対して、立香はしばらく唸ってから顔を上げた。

 

「いや・・・・・・実はさっきから、ジャック・ザ・リッパーの事を思い出そうとしてるんだけど、何も思い出せないんだよ」

「え、何? 兄貴、その年で認知症とか、やめてよね」

 

 からかい半分で言う凛果。

 

 だが、

 

「・・・・・・って、あれ? え? ちょ、マジ? あたしも思い出せないんだけど」

 

 必死に思考を走らせるが、ジャック・ザ・リッパーに関する情報が何も出てこない。

 

 言っておくが、先の戦闘からまだ1時間ちょっとしか時間が経っていない。

 

 だと言うのに、ジャック・ザ・リッパーの情報が、藤丸兄妹の脳裏からすっぽりと抜け落ちていた。

 

 どんな容姿で、どんな声で、どんな武器を使い、どんな声で、どのような戦い方をするのか、一切の情報が頭の中から欠落していた。

 

「響達は?」

「ん、さっぱりさっぱり」

「駄目です。思い出せません」

「ちょっと、これ普通じゃない、わよね?」

「フォウッ ファ―ウッ」

 

 響、美遊、クロエも困惑顔で首を傾げる。フォウも、心なしか首を傾げていた。

 

 俄かには信じがたい事だが、この場にいる全員、ジャック・ザ・リッパーについて、何も覚えていなかったのだ。

 

「それが奴のスキルだよ」

 

 答えたのはソファーに座って腕組みをしたモードレッドだった。

 

「戦って、仮に生き延びたとしても、奴に関する情報は完全に頭の中から抹消されちまう。厄介な能力だよ」

「抹消って・・・・・・あッ」

 

 モードレッドの言葉から、ある事に気が付いた立香が声を上げる。

 

 対して、モードレッドも頷きを返す。

 

「気が付いたか。そう言う事だ。俺達が次に奴に会う時、また『初対面』って事になる」

 

 ジャック・ザ・リッパーは暗殺者(アサシン)であり、その最大のアドバンテージは「奇襲」にある。

 

 顔も分からず、一切の情報が欠落した今、次にジャック・ザ・リッパーに会っても、奇襲を防ぐことはできないのだ。

 

「ん、モーさんはどうしてた、今まで?」

「ああ、俺か?」

 

 尋ねる響に対し、モードレッドは宙を仰ぎながら答えた。

 

 先程からの説明を聞く限り、モードレッドがジャック・ザ・リッパーと対峙するのは、今回が初めてではないのだろう。

 

「どういう訳かは知らねえが、俺の中じゃ、奴に関する情報が完全には消えないみたいなんだよ。つっても、ほぼほぼ忘れちまうのはお前らと同じなんだが、若干、うっすらとだが覚えている。そんで気を張り巡らせてりゃ、取りあえず奇襲ぐらいは防げるって訳さ」

 

 まあ、そう簡単でもないがな。

 

 そう言って笑うモードレッド。

 

 となれば、対ジャック・ザ・リッパーにはモードレッド頼みとなる公算が高いだろう。

 

 ただし、それでも完ぺきとは言い難いが、今はそれ以外に方法は無かった。

 

「さて、話が纏まったところで、僕の方から提案がある」

 

 そう告げたのはジキルだった。

 

「実は霧が完全にロンドンを覆う前に、僕は知り合いの学者に今回の事態の解析を依頼していたんだ。彼と連携する形で解析していたんだけど、その彼とも、昨日から連絡が取れなくなっている。そこで、君達に彼の家まで行って確認してきて欲しい」

「学者って、その人も魔術師なのか?」

「ああ。正式な魔術師じゃないけど造詣は深い。だから頼りにしていたんだけど・・・・・・」

 

 言葉を濁すジキル。

 

 連絡が取れなくなって1日。既に、その科学者の生存が絶望的だろう。

 

 しかし、ジキル1人の研究では、この霧の解析が進まないのも事実だ。

 

 可能なら、彼の研究データなりを手に入れたい所だった。

 

「判った。任せてくれ」

「頼むよ。場所はモードレッドが知っているから」

 

 請け負う立香。

 

 とにかく、今はまだレイシフト直後で、あらゆる情報が不足してる。立香達としても、少しでも情報が欲しいところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジキルのアパートから、歩く事1時間弱。

 

 モードレッドに先導される形で、カルデア特殊班一同はロンドンの郊外へとやって来た。

 

 相変わらず霧に閉ざされた視界は、更に鬱蒼とした森に囲まれているせいもあり、周囲を見渡す事は殆ど不可能に近かった。

 

 不気味さに一層の拍車がかかる中、

 

 その洋館は、立香達の目の前に存在していた。

 

「お~ お化け屋敷」

「響、ストレートすぎ」

 

 余りに率直にコメントする響を、美遊がジト目で窘める。

 

 とは言え、響の感想はもっともだった。

 

 薄暗い森の中に建つ、1軒の洋館。

 

 壁や屋根の一部は崩れ、あちこち窓ガラスが割れているのも見える。

 

 周りの垣根や壁にはびっしりと蔦が這い、まるで蛇がまとわりついているような印象がある。

 

 響が「お化け屋敷」と言ったのは、至極まっとうな評価と言えた。

 

「本当に、こんな所に住んでるの?」

「ああ。随分、偏屈な爺さんだよ。人嫌いらしくて、それでこんな場所に住んでるんだと。因みに、この屋敷もやたら罠だとか結界だとかがあるから、あんま下手に触るんじゃねえぞ。俺も初めに来た時はえらい目にあったからな」

 

 凛果の質問に、モードレッドは肩を竦める。

 

 成程。

 

 たとえ霧が無くても、この不気味さだ。人なんて誰も寄り付かない事だろう。

 

 ヴィクター・フランケンシュタイン。

 

 それが、ジキルの協力者の名前だった。

 

 またしても、超有名人の名前が出てきたものである。

 

 いわゆる「人造人間」の元祖を作り上げた科学者にしてマッド・サイエンティスト。

 

 それがまさか、実在していたとは驚きだった。

 

「とは言え・・・・・・・・・・・・」

「フォウ?」

 

 周囲を見回しながら、モードレッドが呟く。

 

「人の気配がしねえ。どうやらやっぱ、遅かったみたいだな」

 

 霧に呑まれたか、あるいは怪物に殺されたか、

 

 いずれにしても既にヴィクター博士は、この世の人ではないと判断すべきだろう。

 

「とにかく入るか。せめて研究の資料なりなんなり、ジキルの奴に持って帰らねえと」

 

 そう言ってモードレッドが、敷地内に足を踏み入れようとした。

 

 その時、

 

「・・・・・・・・・・・・チッ」

「ん、どした、モーさん?」

「フォウ?」

 

 舌打ちするモードレッド。

 

 しかし、

 

 すぐに緊迫した雰囲気が伝わってくるのが判った。

 

 剣の柄に手を掛けるモードレッド。

 

 同時に、

 

 響もまた、警戒するように足を止めた。

 

「響、どうした?」

「ん、何か、いる・・・・・・」

 

 呟きながら、

 

 響は刀の柄に手を掛け、鯉口を切った。

 

 次の瞬間、

 

 轟然たる破壊音と共に、洋館の壁が大きく吹き飛ばされた。

 

 唖然として見つめる立香達。

 

 その視界の中で、

 

 2つの影が、飛び出すのが見えた。

 

 1人は、奇妙な出で立ちの少女だ。

 

 すらりと華奢な体を、まるでウェディングドレスのような純白な衣装で包んでいる。

 

 可憐な装いとは裏腹に、手には巨大な戦槌を構えていた。

 

 そして、

 

 もう1人は更に奇抜だった。

 

 一言で言えば「ピエロ」だった。

 

 ことさらに派手な衣装を着込んでいる。しかも、上はベストにマントを羽織っているのに対し、下はタイツのようにピッタリとしたズボン。その両者とも、極彩色を思わせている。

 

 手にした巨大な鋏が、ことさらに凶悪な印象を与えていた。

 

「ウゥゥゥッ」

 

 少女は戦槌を構えたまま唸り声を発する。

 

 前髪に隠れた双眸は、真っすぐにピエロ男を睨みつけていた。

 

 一方、

 

「おやァ? おやおやおやァ?」

 

 立ち尽くす立香達に気付いたピエロ男は、首を傾げるようにして笑いながら向き直る。

 

 だが、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 立香は警戒するように身構える。

 

 ピエロ男は口こそ笑っているが、目は一切笑っていない。と言うか、表情はころころ変わるくせに、見開いた目はピクリとも動かないのだ。それがまた、この男の不気味さに拍車をかけていた。

 

「ん~ 察するに皆さんはカルデアのご一行ですかね。いや~ちょうどよかった。実は、そこな女が、この家の家主を殺害しましてね。たまたま通りかかった、善良で正義感溢れるワタクシは義憤に駆られ、討伐に乗り出した次第です。はい」

 

 捲し立てるように告げるピエロ男。

 

 対して、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ドレス姿の少女の方は、一言もしゃべる事無く、戦槌を構えている。

 

 それに調子に乗ったように、ピエロ男は更に口を開く。

 

「ほーらッ 何も言えないって事は、ワタクシの言うとーり、と言う事でしょう? そうでしょう? ねえ、そうでしょう?」

 

 楽しそうに下を動かすピエロ男。

 

 確かに、

 

 この場にあって、明確な判断を下せるほどの材料は少ない。

 

 ピエロ男が少女が犯人だと言うならば、それが真実な気さえする。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 正直、怪しさで言えばピエロ男の方が100倍怪しい。

 

 しかし、見た目だけで判断してはいけない事は、これまでの戦いを経験して、立香も学んでいる。

 

 もし、本当に少女が犯人だとしたら?

 

 油断して背を向けた瞬間、攻撃を受けたりしたらひとたまりもない。

 

 どっちだ?

 

 少女とピエロ男、果たしてどっちが正しい?

 

 その時だった。

 

「何を下らんことで迷っている。こんな単純な事も分からんのか?」

 

 妙にハスキーで通る声が、一同を圧倒するように響き渡る。

 

 視線が集中する中、

 

 崩れた外壁をまたぐように、小さな影が出てくるのが見えた。

 

「子供? 何で、こんな所に・・・・・・」

 

 茫然として呟く立香。

 

 出てきたのは立香の行った通り、小さな男の子だった。

 

 背は響と同じくらいか、少し高いくらい。西洋風の整った顔立ちをしている。外見に似合わず、妙に険しい目付きの少年である。

 

 それにしても、

 

 先程の声は、本当に、この少年が発したものだったのだろうか? 随分と大人びた、渋い声だったのだが。

 

 そんな立香の疑問を察したのか、少年はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「どうした? サインが欲しいなら後でくれてやる。死にたくなければ今は、目の前の事に集中すべきだろう」

 

 やはり、ハスキーな声が響く。

 

 あまりにアンバランス。見た目と声が、ここまで合っていない子供も珍しかった。

 

 しかし、彼の言う通りだ。彼の正体よりも今は、現在の状況の方が優先だった。

 

「さあさあさあ、迷う必要はないでしょう。彼女は凶悪な殺人犯。正義の為に、一緒に戦いましょう」

 

 煽るピエロ男。

 

「そもそも、迷うような事か?」

 

 ハスキーボイスの少年は、小ばかにしたように肩を竦めながら言った。

 

「得体の知れない霧の中、戦う美少女と怪しいピエロ男。この上ないくらい、単純明快なキャラ配置だ。貴様ら蒙昧な大衆が好みそうな、正しく雛型(テンプレ)としか言いようがないシチュエーションじゃないか?」

「そういうテメェは何なんだよ? 怪しさで言えば、おまえもピエロの仲間ッてか?」

 

 尋ねながら、モードレッドが、剣の切っ先を少年に向ける。

 

 そもそも、後から出て来てしたり顔で語っているが、この場にこんな子供がいると言う時点で、彼も充分怪しかった。

 

 対して、

 

「ハッ 俺が、その道化と仲間か、だと? 馬鹿め。そう見えるんだったら、貴様は母親の腹の中からやり直すべきだな」

 

 言ってから少年は、口元の笑みを強める。

 

「とは言え、貴様は母親がアレ過ぎだったな、モードレッド卿」

「テメェッ」

 

 剣を持つ手に力を籠めるモードレッド。

 

 その瞳からはスパークのように殺気が迸る。

 

 半瞬、

 

 その刹那の間に、少年に斬りかかりそうな勢いだ。

 

「お、落ち着いてくださいッ」

「ん、モーさん、どうどうどう」

 

 今にも暴発しそうな叛逆の騎士を、必死になだめる美遊と響。

 

 とは言え、

 

 この少年は、初対面のはずのモードレッドが何者であるか知っている。

 

 つまり、この少年もただ者でない事は間違いなかった。

 

 そんな中、

 

「・・・・・・うゥ」

 

 少女が一瞬、立香と目を合わせた。

 

 重なる、視線と視線。

 

 モノ言わぬ少女はただ、何かを訴えるように立香を見詰めてきている。

 

 そこに込められた感情。

 

 悔しさ、切実、そして悲哀。

 

 信じて・・・・・・

 

 言葉少ない少女が、そう訴えかけた気がした。

 

 意を決する。

 

 信じるべきは誰か。

 

 確証なんてない。

 

 だが、

 

 立香の直感が告げて居る。

 

 信じるべきは、

 

 味方すべきは、果たして、

 

「信じるよ・・・・・・・・・・・・」

 

 立香の視線は、

 

「君を」

 

 少女へと向けられた。

 

 瞬間、

 

「イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ 成程成程、そー来ましたかー まあまあまあ、賢明な判断ですねー!!」

 

 けたたましい笑いを上げるピエロ男。

 

 特殊班一同が警戒を増す。

 

「そのとーりッ 家主の博士を殺したのは、何を隠そうッ このわたしでーすッ いやー 衝撃の真実ですねーッ まさしく涙無しには語れませんッ 小説なら100万部売り上げ達成ですよ」

「御託は良い、道化野郎ッ 要はテメェを叩き斬れば良いってこったろ」

 

 焦れたように言いながら、剣を抜き放つモードレッド。

 

 同時に、響、美遊、クロエ、マシュもそれぞれの武器を構え、ピエロ男を取り囲む場所に移動する。

 

 だが、

 

「ん~? んんん~?」

 

 自身が包囲された様子を見ても、ピエロ男は動じた様子無く、笑みを浮かべる。

 

「これはこれは、メッフィー大ピーンチ。しかし、ここから華麗な逆転劇が始まるのであった~」

「ごちゃごちゃうるせえんだよッ!!」

 

 迸るような叫びと共に、ピエロ男へと斬りかかるモードレッド。

 

 赤雷を纏った剣閃は、横なぎにピエロ男へと襲い掛かる。

 

 だが、

 

 反逆の騎士が放った一閃は、それよりも早くピエロ男が宙返りしながら身を翻したため空振りに終わる。

 

「いや~ 危ない危ない。いくら悪魔でも、斬られちゃったら死にますからね~ 斬られちゃ痛いですし、ちょっと、それは嫌ですね~」

「悪魔、だと?」

 

 不吉な名乗りに、声を上げる立香。

 

 対して、ピエロ男はニヤリと笑う。

 

「は~い、ワタクシ、悪魔のメフィストフェレスと申します。どうぞ、お気軽に『メッフィー』とお呼びください。

 

 メフィストフェレス。

 

 ファウスト伝説にも登場する、真正な悪魔の名前である。

 

 願いを叶える事と引き換えに、相手の魂を奪う事で有名である。

 

「テメェ・・・・・・」

「いやいや、ワタクシこう見えて人見知りなんですから、そう皆さんに言い寄られると困ってしまいます」

 

 あくまでおどけた調子を崩さないメフィスト。

 

 だが、

 

「しかし、逃げるのも、難しそうですね~」

 

 周囲を見回しながら、メフィストは肩を竦める。

 

 既に周囲は、カルデア特殊班によって包囲されている。逃げ場は無かった。

 

「仕方ありませんね~」

 

 軽く、告げるメフィスト。

 

 しかし、

 

 その体から、吹き上がるような魔力が迸った。

 

「それでは及ばずながら、悪魔と呼ばれたほどの力、お見せするとしましょう!!」

 

 言い放つと同時に、メフィストの放つ魔力が増大した。

 

 

 

 

 

第3話「人工少女」     終わり

 


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