Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第8話「君が為、秘する想い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術協会は、現代世界における魔術師の総本山であり、あらゆる魔術的事案に対応する組織である。

 

 魔術とは本来、一般社会から秘されるべき物であり、その漏洩は決して許されない。

 

 しかし、時に甘美な夢は、魔術師たちを魅了し、禁忌の破棄へと繋がる事も暫しである。

 

 魔術協会は、魔術師が禁忌を犯さぬよう、管理、監視、運営に務める一方、万が一、事案が発生した場合には、速やかに当該魔術師の捕捉、処刑を行う。

 

 まさに、聖堂教会、アトラス院と並んで、魔術界における代表的な組織である。

 

 しかし、

 

 最強の戦力と言う物は裏を返せば、敵にとって最も厄介な存在であることは間違いない。

 

 真っ先に、狙われたであろうことは想像に難くなかった。

 

「駄目だな」

 

 内部の気配を探ったモードレッドが、苦い表情で首を振る。

 

 どうやら、ここにも既に敵の手が伸びていたらしい。魔術協会は敵の襲撃を受けて全滅した様子だった。

 

「つくづく、後手に回るわね」

「仕方ないさ。俺達は後から来たわけだからな。時間的なアドバンテージは、どうしても敵にある」

 

 口を尖らせて肩を竦めるクロエに対し、立香がそう言って窘める。

 

 弓兵の本分は、敵が手出しできない遠距離から先制攻撃を仕掛ける事にある。

 

 弓兵少女たるクロエからすれば、常に後手に回っている状況に臍を噛みたくなるのも無理からぬことだった。

 

 ジキルのアパートを出て、魔術協会の入り口がある大英帝国博物館へとやって来たカルデア特殊班一同。

 

 そのメンバーは、立香、マシュ、クロエ、モードレッド、アンデルセン、ジャックとなっている。

 

 戦力を二分する形となってしまったが、いずれも一騎当千のサーヴァント達。並の敵では相手にもならない。

 

 事実、この場に来るまで、幾度か敵の襲撃があったが、全て撃退されていた。

 

 しかし、時既に遅く、かつては壮麗を誇ったであろう大英博物館は、瓦礫の山と化していた。

 

 周囲の様子を見まわしながら、立香は嘆息する。

 

 正直、不必要とさえ思える破壊の跡が見て取れる。

 

 このロンドンに来て、魔霧による人的被害は甚大だったものの、建物が破壊された形跡はほとんど見られなかった。

 

 そこに来て、この大英博物館を徹底的に破壊したところを見ると、敵は明らかに、この場所を警戒していた事が伺える。

 

 こうなると、目当ての資料も、果たして残っているかどうか。

 

「無駄足だったか?」

《いや、たぶん問題ないさ》

 

 呟く立香に、通信機越しにロマニが答えた。

 

 今回、特殊班を2つに分ける事になった為、立香率いるチームのナビゲーションは、ロマニが担当する事になったのだ。

 

《ジキル氏も言っていただろう。重要な資料は厳重に保管されているはずだよ》

「成程な」

 

 まあ、入ってみればわかる事だろう。どのみち、ここまで来たからには中を確認しないと帰れないのだから。

 

 と、

 

「フォーウッ」

 

 お馴染みの鳴き声と共に、白い小動物が立香の肩に駆けあがってくる。

 

 基本、気まぐれな性格である為、好きにさせているのだが、フォウは今回、どうやらこちらに着いて来たらしい。

 

「フォウさん、着いて来てしまったんですか?」

「ああ。まあ、どこにいるのか把握できる分、こうして着いて来てくれる方が気が楽だけどな」

 

 立香が優しく撫でてやると、フォウはどこかくすぐったそうに目を閉じる。

 

 そんな微笑ましいやり取りに対し、

 

 モードレッドは、どこか険しい表情で見つめる。

 

 ややあって、叛逆の騎士は、フォウを差して尋ねた。

 

「なあ、そいつって、お前らのペットか何かか?」

「ペット・・・・・・とは違うかな。しいて言えば『友達』だ」

「フォーウ」

 

 立香の言葉を喜ぶように、フォウが体を寄せてくる。

 

「フォウさんが、どうかしたんですか、モードレッド卿?」

「いや、な・・・・・・そいつ、どっかで見覚えがあるんだが・・・・・・どこだったっけ?」

「いや、あたしに聞かれても」

 

 話を振られたクロエが、呆れ気味に肩を竦める。

 

 本人が思い出せない物を、他人に思い出せ、というのもなかなか無茶があった。

 

「おい、いつまでグズグズしている。さっさと行くぞ」

 

 見れば、アンデルセンが焦れたように、さっさと歩きだしている。

 

 その小さな背中を見て、小さく嘆息する立香。

 

 更に、

 

「ねえねえ、マスター(おかあさん)。あたしたち飽きちゃった。早く行こうよ」

 

 ジャックはじゃれつくように、立香の腕へとしがみついてくる。

 

 その様子に、苦笑する立香。

 

「まったく・・・・・・サーヴァントって・・・・・・」

 

 どいつもこいつも自由人ばっかりだな。

 

 言葉の後半部分を、口の中へと引っ込める。

 

 言えばモードレッド辺りに殴られそうだったからだ。

 

 仕方なく、アンデルセンを追って瓦礫の中へと踏み込もうとした。

 

 その時だった。

 

「おい・・・・・・ちょっと待て」

 

 緊張感を孕んだモードレッドの声に、一同は足を止める。

 

 皆が振り返る中、叛逆の騎士は腰の剣に手を当てながら、警戒するように振り返った。

 

「・・・・・・何か、聞こえねえか?」

「何かって?」

「フォウ?」

 

 訝る立香。

 

 耳を澄ますも、霧の中は不気味な静寂に包まれている。少年の耳には、何も聞こえてはこない。

 

 しかし、

 

 モードレッドは油断する事無く、剣を鞘から僅かに抜いて刃を見せる。

 

 ギラリと、輝きを放つ魔剣。

 

 状況は尋常ではない。

 

 モードレッドの行動から察した一同は、戦闘態勢へと移行する。

 

 剣を構えるモードレッドを中心に、ジャックとクロエが、それぞれ刃を持って並ぶ。

 

 更に戦闘能力の退く立香とアンデルセンが後方に下がり、マシュが2人を守れる位置で盾を構える。

 

マスター(おかあさん)、何か来るよ」

「ジャック・・・・・・」

 

 愛娘の警告に、身構える立香。

 

 その時だった。

 

 突如、

 

 霧の中から響き渡る、

 

 甲高い動力音。

 

 およそ、19世紀のロンドンには似つかわしくない、現代的な駆動音が響く。

 

 次の瞬間、

 

 飛び出してきた存在に、一同は目を剥いた。

 

 最も近いイメージは「ロボット」だろうか?

 

 それも「敢えて言えば」という枕詞が付属するが。

 

 樽のような円筒のボディーに、手足が付属している。

 

 材質は明らかに金属。

 

 手には、巨大な剣が握られていた。

 

 これまで何度か戦ってきたオートマタ(マネキン)とも違う。

 

 明らかに、機械めいた印象が。

 

 殺気の有無については、振り上げられた剣を見れば一目瞭然だろう。

 

 今までに見た事のないタイプの敵だった。

 

「来るぞッ!!」

 

 叫ぶと同時に、モードレッドが剣を構えて疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東洋と西洋では、風呂の入り方が違う。

 

 東洋、特に日本では、水を入れた風呂窯で熱して湯を沸かすのに対し、西洋では陶器製のバスタブに、初めから沸かした湯を満たして入る。

 

 もっとも、西洋人にとって入浴はあまり一般的ではなく、人によっては数日間、入らないという人物もいると甲斐ないとか。

 

 とは言え、純東洋人女性にとって、入浴の有無は死活問題な訳で。

 

 ジキルのアパートにある浴室では今、2人の東洋人少女が、入浴を堪能している所だった。

 

「は~い、じゃあ、じっとしてね~」

「り、凛果さん・・・・・・」

 

 背後から声を掛けるマスターに、美遊は上ずった声を上げる。

 

 2人の少女は今、初々しい裸身を見せている。

 

 幸いと言うか何と言うか、ジキルに入浴の習慣はあったらしく、浴室内のバスタブや小物には使い込んだ形跡がある。

 

 その浴室内で、美遊は凛果に、無防備に背中を晒していた。

 

「あ、あの、背中くらい、自分で・・・・・・」

「ダメダメ。折角の機会なんだし、ね」

 

 そう言うと、凛果は石鹸を含ませた洗身用のタオルで、美遊の背中をこすり始める。

 

 小学生らしい小さな背中が、泡にまみれて行く。

 

 くすぐったいのか、時々「んッ」と声を発する美遊。

 

 ローマでの戦い以降、凛果はこうして、美遊と一緒の風呂に入る事が多くなった。

 

 ローマの城でネロ専用の大浴場に入ったことがきっかけだが、マスターとサーヴァント、互いにスキンシップを図ろうという考えもあった。

 

 体を洗った2人は、バスタブの湯に身を沈める。

 

 深く入る程に、温まる身体。

 

「温かいね。クロちゃんもいればよかったのに」

「クロは、ちょっと・・・・・・」

 

 美遊は言葉を濁しつつ以前、クロエと一緒にカルデアの風呂に入った時の事を思い出していた。

 

 あの時は、入った途端、クロエのセクハラまがいのスキンシップに翻弄され、あんな事やこんな事(自主規制)までされてしまった。

 

 あれ以来、美遊はなるべく、クロエとは風呂に入らないようにしていた。

 

「ねね、美遊ちゃん。美遊ちゃんはさ、好きな男の子とかいる?」

「な、何ですか、急に?」

 

 突然、突拍子の無い事を尋ねるマスターに、美遊はいぶかる様に尋ね返す。

 

 対して凛果は、ズイッと顔を寄せて来た。

 

「いやほら、さ。女の子が2人以上集まれば、取りあえず恋バナかな、と思って」

 

 イマイチ、よく分からない理屈を振り翳され、ますます困惑する美遊。

 

 とは言え、

 

「すみません。私は生まれてから、結界の外に出た事が無かったから、そういうのは・・・・・・・」

「あ、そっか」

 

 朔月家の事情により、屋敷内で過ごしてきた美遊。

 

 当然、恋愛経験など、あろうはずも無かった。

 

 ならば、と凛果は話題を切り替える。

 

「じゃあ、さ、今はどう?」

「今、ですか?」

「そう。カルデアには結構、男の人いるし、それに今までの特異点でも、何人か男の人とかいたでしょ。気になる人とかいなかった?」

 

 言われて美遊は、これまでに出会った男性やサーヴァントを思い出す。

 

 ロマニやムニエルと言った、カルデアの職員。更にはジークフリートやエドワード、モーツァルトと言った、味方のサーヴァントから、ヘクトール、カエサル、レオニダス王と言った、敵だったサーヴァントが思い浮かべられる。

 

 某「黒い髭の人」だけは、意図的に思考を避けたが。

 

 そんな中で、

 

 やはりどうしても、心の中に残る1人の少年の姿が、頭から離れなかった。

 

「やっぱり、響?」

「ふえッ!?」

 

 いきなりの事で、思わず変な声を上げてしまった。

 

 まさか、見透かされるとは思っていなかったのだ。

 

「その反応は、図星かな?」

 

 可笑しそうに笑う凛果に対し、美遊は頬を赤くして、口元までお湯に浸かる。

 

 とは言え、

 

「好き、とか、正直、よく判りません。けど・・・・・・」

「けど?」

「私と響。私と彼の間に、何か因縁のような物がある事は、感じる事が出来るんです」

 

 それが何なのか、美遊には判らない。

 

 勿論、美遊は響にあった事など無い。

 

 あるいは、

 

 縁は自分ではなく、響の方にこそあるのではないだろうか?

 

 そんな風に、少女は思うのだった。

 

 

 

 

 

 凛果と美遊が風呂場で「恋バナ」を咲かせている頃。

 

 響は凛果から通信機を借りて、カルデアにいるダ・ヴィンチと話していた。

 

 今回、ロマニが立香班のナビゲーター担当になったので、凛果班のナビゲーターはダ・ヴィンチがする事となったのだ。

 

《なるほど、ではナイフの方は問題無い訳だね?》

「ん。ダ・ヴィンチ、いい仕事した」

 

 手の中でダ・ヴィンチ性のナイフを弄りながら、響は答える。

 

 実際、先のVSジャック戦で、このナイフは大いに活躍してくれた。サブウェポンとしては十分な性能であろう。

 

「もうちょっと言えば、鬼剣も使えるようにしてくれれば、うれしい」

《無茶言うもんじゃないよ。最高級のレアメタルを使ってるが、それでも素材強度に限界はある。宝具級の一撃に耐えられるような素材なんて、それこそ伝説クラスの金属でも持ってこない事にはどうしようもないよ》

 

 伝説の金属と言われるオリハルコンや、魔を払う力を持ったミスリル銀など、中には宝具の素材になったと言われる逸話を持った金属は、現代においても名前だけは伝わっている。

 

 しかし現存する物は少なく、存在が確認されている物も、悪用を防ぐために厳重に秘匿されている。

 

 ましてか人理焼却された現在、入手はほぼ不可能だった。

 

 響の使う鬼剣、特に「蜂閃華(ほうせんか)」は、自身の持つ魔力の大半を、一気に燃焼爆発させることで威力を加速させる性質を持つ。

 

 サーヴァントの持つ武器ならともかく、急造の武器では威力に耐えきれず自壊してしまう事は間違いなかった。

 

《錬金術と言っても基本的に、「無」から「有」を作り出せるわけじゃないからね。今はそれで我慢してくれたまえ》

「・・・・・・ん」

 

 不承不承ながら、響は頷く。

 

 大天才であるレオナルド・ダ・ヴィンチが無理という以上、素人が拘泥しても仕方がなかった。

 

「ん、じゃあ、あっちの方は?」

《ああ。順調さ。間もなく、こちらの準備は完了するよ。うまく行けば、今回のレイシフト中に実証できるはずだよ》

 

 長引く戦いの中で、ダ・ヴィンチは後方のカルデアに合って様々な手を模索している。

 

 そのうちの一つの目途が、そろそろ立ちそうなのだ。

 

《まあ、君だけじゃない。凛果ちゃんや美遊ちゃんとの連携も必要だから、一概にどうなるとは言えないがね》

「ん、期待してる」

 

 実際、これまでカルデア特殊班は様々な敵と戦い、その全てを打ち破って来たが、敵もまた時を追う毎に強大化してきている。

 

 今後の戦いを考え、選択肢は多いに越した事は無かった。

 

《強化と言えば、君だよ。響君?》

「ん?」

 

 突然、話を振られ、響はキョトンとした顔をする。

 

 首を傾げる響に、ダ・ヴィンチは続けた。

 

《率直に言おう。君はまだ、我々に何かを隠しているだろう? 多分、切り札的な何かを》

「・・・・・・・・・・・・ん」

《正直、今の特殊班の中で、一番謎なのは君だ。正直、現段階で、君が何者なのか、全くと言っていいほどわかっていない》

 

 そもそも、「衛宮響」とは、何者なのか?

 

 響の宝具「盟約の羽織」は、かつて日本の幕末と呼ばれた時代に存在した治安維持部隊「新撰組」のシンボルだった物だ。

 

 だがいくら調べても新撰組に「衛宮響」などと言う名前は存在しない。

 

 それどころか姉を名乗るクロエと言う外人少女まで現れた。

 

 そもそもなぜ、あの燃える冬木の街で凛果が響を召喚する事が出来たのか?

 

 能力においても、謎が多い。

 

 特に響が使う、彼独自の剣技「鬼剣」。

 

 英霊の宝具には様々あり、中には生前、達人級まで昇華した「必殺技」を宝具にしている英霊もいる。

 

 しかし、そう言った宝具級にまで昇華された技と言うのは、たいてい1人に1つである。1つ究める事すら困難な魔剣を、2つ以上収める事など、人間の一生では不可能に近い。

 

 だが、響は既に「蜂閃華(ほうせんか)」「魔天狼(まてんろう)」という、2つの鬼剣を披露し、名だたる大英雄すら屠って見せている。

 

《2つあるなら、3つ目もある。特に君は、やたらと自分の事を隠したがっている節があるからね。わざと切り札を隠している可能性は大いにあると、私は見ているのだよ》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 どうかな? と問いかけるダ・ヴィンチに対し、

 

 しかし響は答える事無く、一方的に通信機の電源を落とした。

 

 そのまま、通信機を机の上に放り出す。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 眺める虚空。

 

 ややあって、

 

「・・・・・・ん、流石、ダ・ヴィンチ」

 

 感嘆とも諦念とも取れる呟きを漏らした。

 

 流石に、大天才の目はごまかせないようだ。

 

 確かに、響はまだ、マスターである凛果にすら隠している事がある。

 

 自分と言う存在。

 

 その在り方、更に英霊となった経緯。

 

 だが、それらを語る事はできない。

 

 チラッと、視線を浴室へと向ける響。

 

 中から、少女たちがはしゃぐ声が漏れ聞こえてくる。

 

 どうやら、湯から上がった2人が、脱衣所で何やら戯れている様子だ。

 

「・・・・・・ん、知られる訳には、いかない」

 

 少なくとも、今は。

 

 少年暗殺者の静かな呟きは、誰に聞き咎められる事も無く、部屋の空気に溶けて消えて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫りくる薬缶型のロボに対し、手にした魔剱を大上段に振り翳して斬りかかる叛逆の騎士。

 

 対して、

 

 ロボもまた、右手に装備した剣を振り翳して、モードレッドへ斬りかかる。

 

 霧の中で交錯する刃。

 

 激突する両者。

 

 刃と刃がこすれ合い、火花を散らす。

 

「オォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 雄叫びと共に、構わず剣を一閃するモードレッド。

 

 一撃、

 

 モードレッドの一閃が振りぬかれる。

 

 彼女に数倍する巨体のロボは、蹈鞴を踏んだように後退する。

 

 すかさず、追撃を掛ける騎士。

 

「ハッ その図体は、見掛け倒しかよ!!」

 

 赤雷を纏った刀身を、大上段から振り下ろすモードレッド。

 

 対してロボは、未だに身動きが取れない。

 

 次の瞬間、

 

 一閃は、ロボを真っ二つ両断した。

 

 構造を保てず、崩壊するロボ。

 

 耳障りな音と共に、石畳の地面に崩れ落ちた。

 

「先輩、これを見てくださいッ 中身は機械でいっぱいです!!」

「フォウッ フォウッ」

 

 マシュが指摘した通り、ロボの中身は(ある意味予想通り)機械が詰め込まれていた。

 

マネキン(オートマタ)の時と同じか。けど・・・・・・」

「ええ。かなり精巧に作られています」

 

 例えるなら、オートマタが素人の粘土細工なら、目の前の薬缶ロボは芸術工芸品に近い。

 

 素人の立香から見ても、完成度が高い事が伺えた。

 

《これは、興味深いね》

「ドクター?」

《こいつの中身は確かに機械だけど、どこか魔術的な印象もある。しいて言うなら、両者の性質を上手い具合に繋ぎ合わせたような感じかな》

 

 科学的でもあり、同時に魔術的でもある。

 

 「亡骸」と化したロボの奇妙な二律背反に、却って不気味な物を覚える。

 

 だが、暢気に観察している暇は無かった。

 

 次々と鳴り響く駆動音。

 

 それらが四方八方から迫って来るのが判る。

 

「おい・・・・・・まさか」

 

 イヤな予感がして、モードレッドは口元にひきつった笑みを浮かべる。

 

 できれば、勘違いであってほしいところ。

 

 しかし、

 

 まことに不幸な事に、モードレッドの直感は、この場にあっても正常に機能していた。

 

 大量に湧き出てくるロボ軍団。

 

 先程、モードレッドが倒した薬缶型のロボ。

 

 更にはオートマタやホムンクルスの姿も見える。

 

 ザッと見えるだけで数十体。たちまち、カルデア特殊班は包囲されてしまう。

 

 と、

 

「ああ、やはり来てしまいましたか。予想通りとは言え・・・・・・いえ、ここは素直に喜んでおくべき所でしょうか」

 

 静かに紡がれる声。

 

 特殊班一同が視線を向ける中、

 

 ロボたちの影から、白衣を着た青年が姿を現す。

 

 長い髪に色白で整った顔立ち。

 

 学校の教師でもやっていそうな穏やかな顔つきの青年は、しかし同時に、どこか狂気じみた雰囲気を見せているのが判る。

 

 言ってしまえば「静かに狂っている」。

 

 それが、青年に対して立香が抱いた印象だった。

 

マスター(おかあさん)、きをつけて。あいつ、わるい魔法使い。わたしたちに命令していたの」

「本当か、ジャック?」

 

 ジャックの言葉を聞いて、視線を向ける立香。

 

 彼女の言う事が本当なら、ジャックに大量殺人をやらせていたのは、目の前の男と言う事になる。

 

 険しい視線を、魔術師に向ける。

 

「お前、誰だ?」

 

 問いかける立香。

 

 対して、

 

 青年は静かに頷くと、口を開いた。

 

「そうですね。魔術師同士の対決に名乗りは付き物。果たして私自身、まっとうな魔術師と言えるか疑問の余地は残りますが、ここは流儀に乗っ取らせていただきましょう」

 

 そう前置きすると、青年は一同を見回して言った。

 

「私の名はパラケルスス。一応、キャスターのサーヴァント、と言う事になっております」

 

 その名乗りに、立香達は思わず驚きを隠せなかった。

 

 パラケルススと言えば、一般人である立香達ですら名前くらいは聞いた事がある。

 

 本名はテオフラトゥス・ホーエンハイム。

 

 天才的な医師であり、研究者であり、科学者であり、思想家でもある。

 

 そして、魔術世界においては高度な功績を遺した錬金術師でもある。

 

 一般社会と魔術社会。双方において高い評価を得た、稀有な存在。それがパラケルススと言う人物である。

 

 そして、

 

 ある事に気付き、立香は目を剥く。

 

「パラケルスス・・・・・・そうかッ」

 

 立香は、何かを思いついたように、パラケルススに視線を向けながら告げる。

 

 対して、錬金術師もまた、穏やかな表情を立香へと向ける。

 

 まるで、立香が何を言い出すのか、判っているかのような態度だ。

 

「お前が、魔霧計画の幹部の1人、『P』か」

 

 確信を込めた立香の言葉に、一同の視線がパラケルススに集中する。

 

 果たして、

 

「成程。あなた達は、ヴィクター博士の研究データを入手していましたね。つくづく、彼を同士に得る事が出来なかったことが、我々にとっては痛手でした」

 

 肩を竦めながら、淡々とした調子で告げるパラケルスス。

 

「確かに。私はこのロンドンにて起こっている一連の事件『魔霧計画』。その首謀者の1人です。あなたたち、人理を守るカルデアからすれば、まさしく倒すべき悪の魔術師、と言ったところでしょうね」

 

 否定もせず、穏やかな口調告げるパラケルスス。

 

 緊張を増す一同。

 

 今まで陰に隠れて姿を見せなかった敵の幹部が、こうして堂々と姿を現した。

 

 あるいは、直接出張らなくてはならないほどに追い詰められたか、それとも、既に身を隠す事に意味がないくらい、計画成功の目途が立ったのか。

 

「どっちでも良いさ。敵の親玉がノコノコと姿を現しやがったんだ。ここで一気にケリをつけてやる」

 

 そう言って、剣の切っ先をパラケルススに向けるモードレッド。

 

 対して、

 

 パラケルススもフッと息を吐いて、叛逆の騎士を見据える。

 

「良いでしょう。悪い魔術師は騎士の剣で打たれる事は、物語として当然の流れ。ただし・・・・・・」

 

 さっと、手を掲げるパラケルスス。

 

「魔術師にも魔術師なりの言い分がありますので、ただでやられる訳にはいきません」

 

 その声に合わせるように、次々と現れる異形の者達。

 

 先に戦ったホムンクルスやマネキン。更には先刻、モードレッドが撃破した樽型のロボットもいる。

 

「『彼』が託してくれたヘルタースケルターすら、相手にしないあなた達ですからね。こちらも、総力戦で挑ませてもらいますよ」

 

 言いながら、

 

 パラケルススは、懐に入れた手を抜き放つ。

 

 その指の間に握られた、複数の宝石。

 

 次の瞬間、

 

「行きますッ」

 

 低い声で告げる錬金術師。

 

 同時に、

 

 投擲された宝石が光を発し、炸裂。

 

 周囲一帯を炎で薙ぎ払った。

 

 宝石魔術。

 

 魔力を宿しやすい宝石を刻印に見立てて行使する魔術である。

 

 コストがかかる事を除けば、簡易的でかつ高威力を発揮できる優れた魔術でもある。

 

 視界の中で踊る爆炎。

 

 全てを焼き尽くすような炎が席巻する。

 

 しかし、

 

「おや・・・・・・・・・・・・?」

 

 晴れ始めた視界の中で、パラケルススは眉を顰める。

 

 展開される、半透明な障壁。

 

 盾を掲げたマシュが、一同を守るようにしてパラケルススと対峙している。

 

「宝具、展開完了。間一髪でした」

 

 深い息を吐きながら、マシュが呟く。

 

 あの一瞬、パラケルススが魔術を発動するよりも早く、マシュは「人理の礎(ロード・カルデアス)」を発動し、魔術の炎を防ぎ切ったのだ。

 

 次の瞬間、

 

 サーヴァント達が猟犬のように、一斉に飛び出す。

 

 クロエ、ジャック、モードレッドが剣を構えて、斬り込む。

 

 対抗するように、マネキンが、ホムンクルスが、迎え撃つように飛び出して来た。

 

 だが、

 

「ハッ そんなもん!!」

 

 赤雷を纏った剣が横なぎに振られる。

 

 一閃により、吹き飛ばされる複数のホムンクルス。

 

 叛逆の騎士の一撃が、包囲網に大きな穴を開ける。

 

 そこへ、飛び込む二つの小さな影。

 

 クロエとジャックだ。

 

 弓兵少女(アーチャー)殺人鬼(アサシン)は、目のも止まらぬほどの素早さで、敵陣の中へ斬り込む。

 

 その姿を捉えられた敵は皆無。

 

 たちどころに、数体の敵が情け容赦なく斬り捨てられる。

 

「どんなに数がいたってね!!」

 

 クロエは、手にした黒白の双剣を投擲。

 

 切っ先を突き立てられたホムンクルスが仰向けに倒れる中、弓兵少女は次の双剣を投影。襲い掛かってきたホムンクルスを逆袈裟に斬り捨てる。

 

 その間にも、ジャックは足を止めない。

 

 目の前に立ちはだかる敵のみを集中的に攻撃。ただ、道を開く事のみに専心。

 

 少女の目は、指揮を執る魔術師を射抜く。

 

 狙うは大将首。

 

 パラケルススを倒す。あるいは捕らえる事が出来れば、事件解決に一気に近付く事になる。

 

 ついでに言えばマスター(おかあさん)も褒めてくれる。

 

 その想いを刃に乗せて斬りかかる。

 

「ヤァァァァァァ!!」

 

 迫る、暗殺者の刃。

 

 しかし、

 

 パラケルススは落ち着き払ったまま、

 

「敢えて、言うまでもないとは思いましたが・・・・・・」

 

 静かに告げる。

 

「恥ずかしながら、私は聊か臆病なところがありまして。今も足がすくんでいるのですよ」

 

 構わず、斬りかかるジャック。

 

「だから・・・・・・」

 

 迫る刃。

 

 次の瞬間、

 

「保険は、掛けさせてもらいました」

 

 殺人鬼の刃は、一瞬にして弾き返された。

 

「ッ!?」

「わわッ!?」

 

 蹈鞴を踏む、ジャック。

 

 とっさに後退して距離を取る中、

 

「やれやれ、行動は慎重にしてくださいと言ったはずですが? 我々が着いているとはいえ、どうなるかとヒヤヒヤ物ですよ」

「ああ、すみません。どうにもそこら辺、無頓着で」

 

 どこか非難するような言葉に対し、パラケルススは飄々と言葉を返す。

 

 その視線の先には、

 

 軍服に日本刀を携えた少年が、彼を守るように佇んでいた。

 

「どうも、初めまして、ですね。カルデアのマスター殿。お友達の響君には既に会っているのですが、彼にはアヴェンジャーと名乗らせてもらっている者です。短い付き合いになるかもしれませんが、どうぞ、お見知りおきを」

「アヴェンジャー・・・・・・そうか、お前が響が言っていた・・・・・・・」

 

 かつて、ローマにおいて、響やネロを襲撃した襲撃を仕掛けてきたアヴェンジャーの存在は、少年暗殺者から聞いている。

 

 その因縁とも言える敵が、再び姿を現したのだ。

 

 一方、

 

 群がる敵を斬り続けるクロエ。

 

 小さな少女は、その素早い身のこなしで敵陣を駆け抜けながら手当たり次第に敵を斬り捨てて行く。

 

 だが、

 

 目まぐるしく、戦場を飛び回るクロエ。

 

 その彼女にもまた、刺客の手は伸びていた。

 

 ホムンクルス1体を、黒白の双剣で斬り倒したクロエ。

 

 更に次の標的に向けて振り返った。

 

 少女の眼前に、

 

 1枚の呪符が舞った。

 

「なッ!?」

 

 驚愕に、目を見開く弓兵少女。

 

 殆ど反射的に身を翻す。

 

 次の瞬間、

 

 目の前で爆炎が躍った。

 

「クロッ!!」

 

 見守っていた立香が思わず叫ぶ中、

 

 爆炎を縫うように、少女が後退しながら飛び出して来た。

 

 とっさに回避に成功したのか、傷を負った様子はない。

 

 クロエはそのまあ、立香のすぐ脇に着地する。

 

「あっぶなァ・・・・・・」

「無事だったか、クロ」

「何とかね。けど・・・・・・・・・・・・」

 

 眦を上げる弓兵少女。

 

 その緊張を孕んだ視界の先で、

 

「かわしたの・・・・・・・はあ、面倒」

 

 どこか、気だるげに歩み寄ってくる、巫女服の女性。

 

 その姿に、思わず立香とクロエは目を剥く。

 

「あいつはッ!?」

「まさか・・・・・・こんなに早く再召喚された、とか? ありえないでしょ。それとも、幽霊か何かかしら? 英霊が化けて出るとか、良い得て妙でしょ」

 

 相手はオケアノスでアルゴー船の乗組員として、特殊班の前に立ちはだかったキャスターだった。

 

 あの時、確かに美遊の剣で斬り捨てたはず。

 

 しかしキャスターは、まるで何事も無かったかのように、目の前で立っていた。

 

 無論、サーヴァントである以上、仮に倒しても再召喚される可能性はあり得る。

 

 しかし、

 

「残念・・・・・・2人ともハズレ、ね。まあ、どうでも良い、事だけど」

 

 呟きながら、手には呪符を取り出す巫女服キャスター。

 

 対抗するように、クロエもまた双剣を投影して構える。

 

「クロ、気を付けろ。彼女はたぶん、何か、切り札を隠してる」

「ええ、言われなくても。似非巫女っぽさがにじみ出てるわ」

「心外ね・・・・・・」

 

 低い姿勢で、疾走するクロエ。

 

 対抗するように、キャスターも呪符を投擲した。

 

 

 

 

 

 魔術協会を前にして、予期せぬ遭遇戦を強いられる立香達。

 

 圧倒的な物量を前に、徐々に押し込まれていく。

 

 そして、

 

 残る片割れ。

 

 凛果達にもまた、危機は旦夕に迫りつつあった。

 

 

 

 

 

第8話「君が為、秘する想い」      終わり

 


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