Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第15話「母娘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下での死闘は続いていた。

 

 テスラとゾォルケンを送り出すために、カルデア特殊班の足止めを行っていたアヴェンジャー、キャスター、アサシンの3騎。

 

 対して、カルデア特殊班からはマシュ・キリエライト、ジャック・ザ・リッパー、クロエ・フォン・アインツベルンの3騎が挑みかかる。

 

 共に3対3の同数対決。

 

 戦いの様相は自然、一騎打ちの形となる。

 

 大盾を振り翳して、アヴェンジャーに攻撃を仕掛けるマシュ。

 

 大降りに振るわれる盾の一閃を、後退して回避するアヴェンジャー。

 

 だが、

 

「まだですッ」

 

 マシュは盾を振り切った勢いを殺す事無く一回転。その勢いのままに鋭い回し蹴りを繰り出す。

 

「ッ!?」

 

 対して、とっさに回避が間に合わず、マシュの蹴りを刀で受けるアヴェンジャー。

 

 繰り出された脚部と刀の刃がこすれ合い、火花が飛び散る。

 

 競り勝ったのは、

 

 マシュだ。

 

 大盾の遠心力を利用した勢いのある回し蹴りは、防御の上からアヴェンジャーにダメージを負わせる。

 

「グッ!?」

 

 呻き声とともに少年の体勢が崩れる。

 

 片膝を突く、軍服の少年。

 

 そこへ、マシュが仕掛けた。

 

「ヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 跳躍と同時に盾を頭上に振り上げて、重量のままに振り下ろすマシュ。

 

 質量兵器であるマシュの盾は、喰らえばそれだけで致命傷を与える事も不可能ではない。

 

 アヴェンジャーは成す術も無く押しつぶされる事になる。

 

 そう思った。

 

 だが、

 

 マシュの攻撃によって衝撃が地下を揺るがす中、

 

 一瞬早く体勢を立て直したアヴェンジャーは、マシュの攻撃を回避。

 

 同時に、腰に構えた刀を水平に一閃、鋭い斬撃を繰り出す。

 

「クッ!?」

 

 鋭い斬撃を、盾を掲げて防ぐマシュ。

 

 だが、

 

「そらッ まだまだ行きますよ!!」

 

 笑みを上げながら斬り返す少年。

 

 斬撃は、右から左から、斬り返しながらマシュへ迫る。

 

 致死の剣閃を前に一転、防御に回らざるを得なくなるマシュ。

 

 アヴェンジャーの斬撃を盾で防ぎながら後退する。

 

 このままでは埒が明かない。一旦、体勢を立て直すのだ。

 

 だが、

 

「どうしました、足元がおぼついてませんよ、盾の少女!!」

「しまったッ!?」

 

 後退するマシュが一瞬見せた隙を突き、距離を詰めるアヴェンジャー。

 

 真っ向から繰り出した刀の切っ先が、盾兵の少女へと迫る。

 

 対して、体勢が崩れているマシュは、防御が追い付かない。

 

 刃が、マシュの胸元に突き込まれた。

 

 次の瞬間、

 

 アヴェンジャーの刀は、マシュに突き立てられる直前の空間で止められそのまま弾かれる。。

 

「・・・・・・これは」

 

 痺れ手首を押さえ、どこか苛立たし気に向けられたアヴェンジャーの瞳は、マシュの背後に立つ少年へと向けられた。

 

 そこには、

 

 眼鏡越しにアヴェンジャーを睨む立香の姿がある。

 

 マシュの危機に際し、立香はとっさに礼装を「アトラス院」にチェンジ。マシュ自身に障壁を展開する事で、アヴェンジャーの攻撃を防ぎ止めたのだ。

 

「すみません、先輩。マスターに防御魔術を使わせるなど、盾兵(シールダー)にあるまじき失態です!!」

「気にするなマシュ、それより、一旦体勢を立て直すんだ!!」

 

 指示に従い、立香の傍らまで後退するマシュ。

 

 その様子を、アヴェンジャーは、どこか感心したように眺めていた。

 

「成程。まだ未熟さはありますが、主従として良い連携です」

 

 伊達にいくつもの特異点を乗り越えてきたわけではない。

 

 立香とマシュは、阿吽とも言える呼吸で、とっさの危機を乗り越えて見せたのだ。

 

 2人の間には、主従の関係を超えた、別の繋がりも芽生えようとしてるように見えた。

 

 目を細めるアヴェンジャー。

 

 藤丸立香とマシュ・キリエライト。あるいはこれからの戦いで、自分達にとって最大の障害になるのは、この2人かもしれないと、漠然と感じていた。

 

「とは言え・・・・・・・・・・・」

 

 アヴェンジャーは状況を見ながら、密かに呟く。

 

 時間的に考えれば、既にテスラとゾォルケンは地上に到着している事だろう。

 

 にも拘らず、何の変化も見られないところを見ると、追撃した凛果達がゾォルケン達に追いつき、戦闘を開始した事が伺える。

 

 テスラが破れる可能性が、万が一にもあるとは思えない。

 

 しかし、万が一にも不安材料は潰しておかなければならない。

 

「これは・・・・・・あまり悠長にしている場合ではないかもしれませんね」

 

 そう呟くと、少年の頭脳は、この状況をいかに納めるか、計算を始めていた。

 

 

 

 

 

 蛇のようにしなりながら迫る鞭。

 

 その動きを見極め、褐色の弓兵少女は暗い地下空間を縦横に駆ける。

 

 既に美遊から、あの女の特性はある程度聞いている。

 

 巧みな鞭捌きと、こちらの魔力を吸収するスキルを持つ。

 

 確かに、美遊のように魔力を放出しながら戦うタイプには、やりにくい相手かもしれない。

 

「けど、あたしは違うわよ!!」

 

 言いながら跳躍。

 

 空中で投影魔術を発動し弓矢を創り出すと、矢を番えて構える。

 

 一呼吸の内に放たれる矢は3本。

 

 だが、

 

「遅いわね。欠伸が出るわ」

 

 クロエが放った矢を、一瞬で払い落とすアサシン。

 

 直線的な軌跡を描く矢は、しなる鞭によって叩き落される。

 

 次の瞬間、

 

「あっそ。じゃあ、こんなのはどうかしら?」

 

 クロエの声が、

 

 意外な程近くから響く。

 

 振り返る、仮面のアサシンが、干将莫邪を構えた弓兵少女を見る。

 

 弓の攻撃を囮にして、クロエは転移魔術を使い、アサシンの背後へと回り込んだのだ。

 

 黒白の剣閃を掲げ、斬りかかるクロエ。

 

 タイミングは必殺。

 

 決してかわせるはずが無い。

 

 だが次の瞬間、

 

 振り向き様に、アサシンの腕が閃く。

 

「なッ!?」

 

 予想を超える反応速度に、驚くクロエ。

 

 その頬が一筋裂け、鮮血がにじみ出る。

 

「フフッ」

 

 驚くクロエの顔に、対し、アサシンは愉悦の微笑を口元に浮かべる。

 

 その手にはいつの間にか、細身のナイフが握られていた。

 

 一瞬、動きを止めるクロエ。

 

 そこへ、アサシンの振るう鞭が、容赦なく襲い掛かった。

 

「あァッ!?」

 

 肌に奔る鋭い痛みに、思わず悲鳴を上げる弓兵少女。

 

 その声を聴きながら、アサシンは笑みを刻みつける。

 

「ああ、良いわ、その悲鳴。とっても可愛くて素敵よ。もっともっと聞かせて頂戴」

「ッ!?」

 

 次々と襲い来る鞭の軌跡。

 

 対して、クロエは避ける事も受ける事も出来ないまま、その褐色の肌に痛みを刻みつけられていった。

 

 

 

 

 

 一方、ジャックとキャスターの戦いは、終盤に差し掛かりつつあった。

 

 二振りのナイフを振り翳して迫るジャックに対し、呪符を投げつけて応戦するキャスター。

 

 白兵戦型のジャックと、遠距離戦型のキャスター。2人の戦いは、基本的に間合いの削り合いに終始する。

 

 次々と呪符を投擲し、ジャックに攻撃を仕掛けるキャスター。

 

 魔力を込められた札は、開放と同時に周囲に炎、雷撃、爆炎を解き放つ。

 

 しかし、それら全て、ジャックを捉える事が出来ない。

 

 ジャックは身軽さと俊敏さを駆使してキャスターが放つ攻撃を悉く回避、あるいはナイフで発動前の呪符を切り刻みつつ、徐々に距離を詰めていく。

 

 自身に迫る殺人鬼の様子を、気だるげに見つめるキャスター。

 

 その体はいかにも脱力した感があり、やる気と言う物が一切感じられない。

 

 そして、その印象は完全に正解だった。

 

「いい加減・・・・・・うざくなって来たわ」

 

 怠そうに言い放つキャスター。

 

 数枚の呪符を同時に握りしめると、空中へ投擲する。

 

 呪符は空中において無造作に展開すると、地を駆けるジャックの頭上で停滞する。

 

 次の瞬間、

 

 駆ける少女を空爆するが如く、呪符が次々と閃光となって、地上へと降り注いだ。

 

 着弾と同時に、地面を抉る爆炎。

 

 たちまち、少女殺人鬼の姿は呑み込まれ、見えなくなる。

 

「・・・・・・・・・・・・やった?」

 

 ジャックの姿が見えなくなり、やれやれとばかりに腕を下すキャスター。

 

 面倒な戦いだったが、これでやっと終わったか。

 

 そう言いたげに、緊張を解いた。

 

 次の瞬間、

 

 濛々と立ち込める霧を突き破り、殺人鬼が姿を現した。

 

 手にした二本のナイフを交差するように構え、ジャックは斬り込む。

 

「しまッ・・・・・・」

「うん、これで、終わりッ!!」

 

 とっさに防御の姿勢を取ろうとするキャスター。

 

 しかし、一度弛緩してしまった戦気を、もう一度張り直す事は難しい。

 

 次の瞬間、

 

 ジャックの持つ二振りのナイフは、

 

 切っ先を真っすぐ、キャスターの胸元に突き込まれた。

 

 少女の手に感じる、確かな感触。

 

「かはッ!?」

 

 口から鮮血を舞わせるキャスター。

 

 ジャックのナイフは、確実に霊基の核である心臓を貫いている。

 

 サーヴァントと言えども、間違いなく致命傷だった。

 

 崩れ落ちるキャスター。

 

 力なく、大地に膝を突く。

 

「よしッ やった」

 

 勝利を確信したジャックが喝采を上げる。

 

 そのあどけない顔に、満面の喜色が浮かぶ。

 

 これで勝った。マスター(おかあさん)に褒めてもらえる。

 

 今のジャックにとって、マスター(おかあさん)である、立香こそが全てであり、がんばって彼に褒めてもらう事だけが、彼女の楽しみなのだ。

 

 だから、またマスター(おかあさん)に褒めてもらえる。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 振り返る、ジャック。

 

 その胸元に、

 

 突き付けられる、呪符。

 

「ジャックッ!!」

 

 立香の緊迫した叫びが、聞こえた。

 

「・・・・・・マスター(おかあさん)?」

 

 キョトンとした顔の少女。

 

 次の瞬間、

 

 少女の胸元で、爆炎がさく裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い。

 

 判っていた事だが、モードレッドは目の前に立ちはだかる「父」の存在に、戦慄せざるを得なかった。

 

 漆黒の鎧を着込み、愛馬「ラムレイ」に跨ったアルトリア。

 

 その手には漆黒に染まった聖槍「ロンゴミニアド」を手にしている。

 

 槍の穂先を見るたびに、モードレッドの脳裏にはチリチリとした苛立ちが霞めて行く。

 

 アーサー王伝説最後の戦いとなった「カムランの丘の戦い」。

 

 王不在の間に王城キャメロットを占拠したモードレッド軍と、王城奪還の為に帰還したアーサー軍との激突。

 

 円卓の騎士をはじめ、名だたる将兵が次々と戦場に倒れて行く中、

 

 モードレッドはほぼ単騎で戦線を突き崩し、ついにはアーサー王の眼前へと迫った。

 

 迎え撃つアーサー王も、聖剣エクスカリバーを抜き放って応じる。

 

 繰り広げられる一騎打ち。

 

 誰もが介入を許されないほどの激しい応酬。

 

 その果てに、ついにモードレッドはアーサー王の手から聖剣を弾き飛ばし、トドメとなる一撃を放つ事に成功した。

 

 勝った。

 

 そう思った直後、

 

 アーサー王はその手の中に聖槍を召喚。モードレッドの胸を刺し貫いた。

 

 つまり、あの槍こそが、モードレッドの命を直接奪った存在なのだ。

 

 モードレッドの心中は、穏やかならざるものとなっていた。

 

 状況は、正にあの時と同じ。

 

 自分はアーサー王()に歯向かい、その父の手には聖槍がある。

 

 だが、

 

「今度は、負ける訳には行かねェなァ!!」

 

 剣を構え直すモードレッド。

 

 そこへ、鋭い刺突が繰り出される。

 

 剣で弾き、距離を詰めるモードレッド。

 

 だが、

 

 モードレッドの剣閃が届く前に、アルトリアは手綱を引き、愛馬を後退させる。

 

 虚しく空を切る、モードレッドの剣閃。

 

「チッ!?」

 

 モードレッドは舌打ちしつつ、再び剣を構え直した。

 

 その時だった。

 

 突如、鳴り響く衝撃音。

 

 思わず振り返るモードレッドの視界に入って来たのは、全てを呑み込むように放たれた、強烈な雷撃だった。

 

 人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)

 

 今まさに、テスラが宝具を放った瞬間だった。

 

「あれはッ!?」

 

 凛果、響、美遊。

 

 叛逆の騎士が見ている目の前で、3人が雷撃に飲み込まれていく。

 

 だが、

 

「ほう、この私を前にしてよそ見をするとは貴様、随分と余裕があるではないか」

「なッ!?」

 

 背後からの声に振り返るモードレッド。

 

 その瞬間、

 

 思わず息を呑む。

 

 高まる魔力。

 

 アルトリアが掲げた槍を中心に渦を巻いている。

 

 さながら、それ自体が一つの嵐のようだ。

 

「しまったッ!?」

 

 とっさに剣を掲げようとするが、

 

 遅い。

 

 アルトリアが、槍の穂先を真っすぐにモードレッドへと向けた。

 

最果てに(ロンゴ)・・・・・・輝ける槍(ミニアド)!!」

 

 モードレッドが最後に見たのは、漆黒に染まった莫大な魔力が、自身に向かって迫る姿だった。

 

 

 

 

 

 立香は見た。

 

 地下世界。

 

 霧に閉ざされた視界の中で、

 

 「愛娘」が、爆炎に包まれて宙に舞う姿が。

 

「ジャック!!」

 

 思わず、叫ぶ立香。

 

 キャスターと交戦していたジャック。

 

 今まさに、キャスターに対してトドメとも言える一撃を放った瞬間、

 

 それは起こった。

 

 ジャックの攻撃を受けて、完全に死に体となったはずのキャスター。

 

 少女の放った切っ先は、確実に巫女女の霊核である心臓を刺し貫いた。

 

 だが、まさにその時、悪夢のような復活を遂げたキャスターの反撃に遭い、ジャックは吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 少女の体はそのまま地面に叩きつけられ、数回バウンドしながら転がる。

 

 居ても立ってもいられずに駆けだす立香。

 

 そこへ、風を切る音と共に、空中を蛇のような軌跡がうねる。

 

「馬鹿な人間ッ 自分から前に出るなんて、死にたいならさっさと死になさい!!」

 

 嘲笑しながら鞭を振るうアサシン。

 

 仮面の下から、立香に対する侮蔑を隠す様子も無く高笑いを浮かべる。

 

 だが、

 

 毒蛇のように立香に迫る鞭は、横合いから旋回してきた刃によって弾かれる。

 

「うちの大将はやらせないわよッ」

 

 再び剣を投影して斬りかかるクロエ。

 

 とは言え、彼女も無傷ではない。仮面アサシンの執拗とも言える甚振りを受け、その身はボロボロとなっている。

 

 アサシンはクロエに対し、一息に殺す事無く、まるでなぶる様に、少女の身を傷付けていたのだ。

 

 自身に迫る弓兵少女に対してアサシンは、口元に笑みを浮かべて応じる。

 

「あらあら子猫ちゃんッ ごめんなさいね、私ってば目移りしやすいたちなのよ。でも構わないでしょ、浮気の一つや二つくらい。あなたの事も、ちゃんとしっかり、泣き喚くくらいに可愛がってあげるから」

「だから、キモいっての!!」

 

 繰り出された剣閃を、鞭で弾くアサシン。

 

 その衝撃に、小柄なクロエは空中に投げ出される。

 

 しかし、

 

 空中で猫のように受け身を取りがら、視線は自らのマスターへと向ける。

 

 視線を交わす、立香とクロエ。

 

「行ってリツカ!! このキモ女はあたしが押さえておくから!!」

「悪いッ 無理するなよ、クロ!!」

 

 互いに頷くマスターと弓兵(アーチャー)

 

 時間を稼ぐべく、アサシンに斬りかかるクロエ。その間に立香は、倒れているジャックに駆け寄って、抱き起した。

 

「ジャックッ!! ジャックしっかりしろ!!」

 

 抱き上げる少女の体は、軽い。

 

 まるで、体の中は伽藍洞になっているかのようだ。

 

 必死になって呼びかける立香。

 

 何度か繰り返した時、

 

 少女は、ゆっくりと目を開けた。

 

マス(おかあ)・・・・・・ター(さん)・・・・・・」

 

 力無く、声を絞り出すジャック。

 

「ごめんなさい・・・・・・わたしたち、負けちゃった・・・・・・」

「良いんだ、そんな事。それより、喋っちゃだめだ」

 

 ジャックの身体をしっかりと抱きしめる立香。

 

 そのぬくもりを感じ、ジャックは口元に微笑みを浮かべる。

 

「あったかい・・・・・・・・・・・・」

 

 ずっと、この人と一緒にいたい。

 

 マスター(おかあさん)と一緒にいたい。

 

 その想いが、ジャックの中で確かに芽生えて行く。

 

 だが、

 

 視界の中で、アサシンと戦うクロエの姿が映る。

 

 今はそこへ、ジャックを撃破したキャスターも加わっている。

 

 いかにクロエと言えど、1対2では分が悪く、連携攻撃を前に押し込まれつつあった。

 

 今もアサシンが振るった鞭が容赦なく少女の肌を打ち、鮮血が舞い散るのが見える。

 

 かと思えば、キャスターの放つ爆炎により、少女が大きく吹き飛ばされる。

 

 クロエも投影魔術と転移魔術を駆使して何とか持ち堪えてはいるが、じり貧は時間の問題だった。

 

 加えて、マシュもアヴェンジャーとの戦いに忙殺されている。

 

 もし、

 

 もし、ここであいつらを倒せなかったら・・・・・・

 

 きっと、マスター(おかあさん)がたいへんな事になる。

 

 それだけは、駄目。

 

 ぜったい。

 

「・・・・・・・・・・・・ジャック?」

 

 訝る立香の腕の中から、ジャックはよろめきながら立ち上がる。

 

 その足元は、明らかにふらふらとしており覚束ない。

 

 今にも倒れそうな中、

 

 ジャックは立香に振り返った。

 

マスター(おかあさん)・・・・・・」

「ジャック?」

 

 儚げな、

 

 どこか、見ていればそのまま消えてしまいそうな、少女の笑顔。

 

 そして、

 

「ありがとう・・・・・・わたしたち、楽しかったよ」

 

 その言葉に、ハッとする立香。

 

 

 

 

 

 一方、クロエはキャスターとアサシンの波状攻撃に悩まされていた。

 

 アサシン1人でも厄介なのに、そこへジャックを倒したキャスターまで加わったのである。

 

 もはや、彼女の勝機は1割にも満たず、ただ逃げながら反撃の機を伺う以外に手は無くなっていた。

 

 さく裂する爆炎を避けながら、キャスターへと接近。

 

 手にした黒白の双剣を振り翳す。

 

 だが、

 

 その腕に、横合いから伸びてきた鞭が絡みつく。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちした瞬間、

 

 少女は引き倒されるように、地面に叩きつけられた。

 

「あぐッ!?」

 

 地面に倒れるクロエ。

 

 その頭上に、

 

 無数の呪符が舞う。

 

「やばッ!?」

 

 目を剥くクロエ。

 

 そこへ、呪符が閃光となって降り注いだ。

 

 吹き上がる爆炎。

 

 弓兵少女の姿は、一瞬でのみ込まれる。

 

「やった?」

「・・・・・・さあ。興味無い」

 

 尋ねるアサシンに、キャスターは面倒くさそうに答える。

 

 やがて晴れる爆炎。

 

 果たして、

 

 そこに、クロエの姿は無かった。

 

 クロエはと言えば、少し離れた場所で片膝を突いて2人を睨んでいる。

 

 あの一瞬、

 

 閃光が自身に命中する直前、転移魔術を使って攻撃から逃れたのだ。

 

 とは言え、

 

 その体は、アサシンの鞭と、キャスターの魔術によって既にボロボロに傷尽き果て、立っているのもやっとの状態だった。

 

「ったく・・・・・・・・・・・・」

 

 荒い息を吐きながら、クロエはキャスターを睨みつける。

 

「この間のオケアノスの時と言い、あんた、いったいどうなってるのよ?」

 

 苛立たし気なクロエの言葉。

 

 これまで何度も致命傷を負っているにも拘らず、その都度復活してくるキャスターの存在は、手ごわさよりも厄介さによって、特殊班メンバーを苦しめていた。

 

 キャスターは嘆息しつつも答える。

 

「・・・・・・呪い、みたいなものね。一種の、だけど」

「呪い?」

「まあ、どうでも良いでしょ」

 

 言いながら、呪符を取り出すキャスター。

 

「どうせあなた、ここで死ぬんだし」

 

 攻撃態勢に入るキャスター。

 

 対して、その横に立つアサシンは、仮面の下で不満そうに口を尖らせる。

 

「ちょっと、この子はあたしのオモチャなんだから。勝手に壊さないでくれる?」

「興味ないし、どうでも良い。私はさっさと終わらせたいだけ」

 

 アサシンの抗議にも、まるで取り合わないキャスター。

 

 その姿に、仮面のアサシンは嘆息する。

 

 この巫女服女が、こんな性格なのは前からの事。既に諦めもついていた。

 

「仕方ないわね。もっと苛めて遊んであげたかったけど、時間も時間だし。あなたの事は諦めるわ。その代わり美遊ちゃん、だっけ? あの子を今度はたっぷりと苛めて遊んであげる。そうね、あの子は、あたし専用の奴隷ちゃんにするのも良いかも」

 

 笑みを浮かべながら、アサシンもまた、鞭を構えてクロエを睨んだ。

 

 クロエにトドメを刺すつもりなのだ。

 

 対して、

 

 どうにか立ち上がるクロエ。

 

 掲げる掌。

 

 その手に莫耶を投影して構える。

 

 既に双剣を創り出すだけの魔力は、少女には残されていない。

 

 だがそれでも、諦めるつもりは無かった。

 

 次の瞬間だった。

 

 突如、莫大な魔力が、膨れ上がるのを感じた。

 

「何?」

「はッ!?」

 

 振り返る、アサシンとキャスター。

 

 果たしてそこには、

 

 満身創痍の身で、両手にナイフを構えた殺人鬼の姿があった。

 

 少女は立つ。

 

 自らのマスター(母親)を守るために。

 

 その命を燃やして。

 

 全身から溢れる魔力を解放し、アサシン、ジャック・ザ・リッパーは叫ぶ。

 

「此よりは地獄!!」

 

 高まる魔力がさらに増大する。

 

「わたしたちは、炎、雨、力!!」

 

 次の瞬間、

 

 ジャックは地を蹴って駆けた。

 

 その速度たるや、目で追う事すら困難だった。

 

 一瞬のまたたきの後、

 

 殺人鬼の姿は、

 

 巫女服キャスターの前に立つ。

 

「殺戮をここにッ!!」

 

 次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 キャスターが対抗すべく、呪符を持つ手がを振り上げるが、既に遅い。

 

 その身より、鮮血が迸る。

 

 振るわれる、ジャックのナイフ。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 それは、現代にまで連綿と語り継がれた、一つの未解決事件。

 

 医者、教師、画家、精肉業者、理髪店員等その正体には様々な説が囁かれたが、多くの謎を残したまま、事件は迷宮入りした。

 

 しかしそんな中、ただ一つ明確な点がある。

 

 それは「切り裂きジャックに殺されたのは、全て女性だけ」という点。

 

 この事実を受け、彼女の宝具は成立する。

 

 「夜である」「霧が出ている」「対象が女性である」。

 

 この3点が揃った時、再現されるのは凄絶な殺人現場。

 

 まず「殺人」と言う行為が最初に成立し、その次に対象が「死亡」したところで、最後に「理屈」が付与される。

 

 ある種の逆転された呪いとも取れる。

 

 其れこそが、暗殺者(アサシン)ジャック・ザ・リッパーの宝具「解体聖母(マリア・ザ・リッパー)」だった。

 

 この宝具が発動されれば、対象の女性は心臓や霊核など、生命維持に必要な器官を根こそぎ破壊される事になる。

 

 つまり、

 

 「殺人現場」と言う状況その物が、ジャックの宝具なのだ。

 

 彼女のナイフが向かった先。

 

 そこに立ち尽くす、巫女服のキャスター。

 

 目を見開いた。

 

 次の瞬間、

 

 その体から、鮮血が噴き出した。

 

 血管が切り刻まれ、はらわたがぶちまけられる。

 

 信じられない。

 

 とでも言いたげな瞳で、目を見開いたキャスター。

 

 そのまま、前のめりに血だまりの中へと倒れる。

 

 勝敗は、決した。

 

 その様子を見て、アヴェンジャーはマシュの攻撃をかわしながら舌打ちする。

 

「分断して足止めしたつもりだったが、深入りしすぎましたか」

 

 これ以上の損害は、彼にとっても本意ではない。何はともあれ、サーヴァント1騎は潰せたのだ。今はそれで良しとしておこう。

 

「退きますよ、アサシン」

「良いけど、彼女は?」

 

 言いながら、血だまりに倒れているキャスターを指差す。

 

 対して、嘆息するアヴェンジャー。

 

 面倒だが、捨て置く訳にも行くまい。

 

 駆け寄って、キャスターを抱えるアヴェンジャー。

 

 ジャックの宝具を受けて体はバラバラに近い状態になっているが、構わず抱え上げると、アサシンを伴って、そのまま駆け去って行くのだった。

 

 一方、

 

 立香は倒れているジャックへと駆け寄ると、その小さな体を抱き起こす。

 

 同時に、少女の身体から、金色の粒子が立ち上り始めた。

 

 瀕死の重傷を負った上に宝具の解放。彼女の体は、もはや限界だったのだ。

 

「ジャックッ ジャック、しっかりしろ!!」

 

 呼びかける立香。

 

 対して、

 

 ジャックはうっすらと目を開ける。

 

()・・・・・・(かあ)・・・・・・ター(さん)

「ジャックッ」

 

 呼びかける立香に、ジャックは笑いかける。

 

「わたしたち・・・・・・がんばった、よ・・・・・・おかあさん、守り、たっかた、から・・・・・・」

「ああ・・・・・・ああ、偉かったよ、ジャック」

 

 少女の身体を、きつく抱きしめる立香。

 

 まるで、そうする事によって、少しでも少女の魂を少しでもとどめておこうとするかのように。

 

 だが、

 

 無情にも、光は少女の命を奪っていく。

 

「ありがとう・・・・・・おかあさん・・・・・・」

 

 それだけ言うと、

 

 ジャックの体は光となってほどけ、立香の腕の中から消失する。

 

 それは即ち、愛しい愛娘が「消滅」した事を意味していた。

 

「ジャック・・・・・・・・・・・・」

 

 手を、握りしめる立香。

 

 そこにはまだ、ジャックのぬくもりが残っている。

 

 あの子の笑顔。

 

 あの子のぬくもり。

 

 あの子の声。

 

 その全てが、記憶となって立香の魂に刻み込まれている。

 

 たった数日の話。

 

 しかし、たった数日とは言え、ジャックは確かに、立香にとって「娘」であり、ジャックにとって立香は「おかあさん」だったのだ。

 

「あの先輩・・・・・・」

「マシュ」

 

 声を掛けようとするマシュを、クロエが制する。

 

 今は、声を掛けるべきではない。

 

 失った物の重みに、心が慣れるまでは人それぞれ相応の時間が掛かるのだから。

 

 その事を、クロエは知っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・ありがとう、クロ。けど、俺は大丈夫だよ」

 

 立香は立ち上がりながら告げる。

 

 ジャックの事は、立香にとっても哀しい。

 

 しかし、今はまだ、彼女の喪失を嘆くべき時ではない。

 

 少なくとも、今はまだ。

 

「行こう、マシュ、クロ。凛果達は、まだ戦っているはずだから」

 

 そう言って歩き出す立香を、慌てて追いかけるマシュとクロエ。

 

 だが、

 

「ありがとう、ジャック・・・・・・さようなら」

 

 そう告げた立香の目に、一筋の輝きが零れた事には、2人とも気付かなかった。

 

 

 

 

 

第15話「母娘」      終わり

 

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