Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第16話「霊基共鳴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは確か、叛逆を決める、ほんの少し前の事だったはず。

 

 モードレッドはそれまで隠していた素顔を晒し、父であり、王でもあるアーサーに息子である事を名乗り出た。

 

 正直、今にして思えば、あの時の自分は父にどうしてほしかったのか想像できない。

 

 息子(むすめ)として認めてほしかったのか?

 

 後継者にしてほしかったのか?

 

 確かに、それらもあった。

 

 だが、その根底にあった物は、もっと別の何かだった気がする。

 

 しかし、

 

 名乗り出たモードレッドに、アーサーが示した態度は冷たく素っ気ない物だった。

 

 王はモードレッドを息子と認めず、また王位を譲る事すらしなかった。

 

 王は王であり続ける限り孤独であり、また王自身もそうである事を望み続けた。

 

 王に否定され、拒絶されたモードレッドの心中は如何ばかりであったか?

 

 今となっては思い出す事も出来ない。

 

 ただ、あの時、

 

 自分の中で何かが変わった事だけは認識できた。

 

 良いだろう。

 

 王が自分に振り向かないのなら、無理やりにでも振り向かせてやる。

 

 その為なら何だってやってやる。

 

 そう、たとえ後世に、どんな悪し様に言われようとも構いはしない。

 

 きっと、あの時だったのだろう。

 

 モードレッドが、「叛逆の騎士」となる事を決意したのは。

 

 

 

 

 

 軽い呻き声と共に、モードレッドが目を覚ました。

 

 全身に奔る痛みが、意識の覚醒を促す。

 

 ここは、どこだ?

 

 自分は、どうしたんだ?

 

 確か、カムランの丘で、父上と刺し違えて・・・・・・

 

 イヤ、違う。

 

 直前に見ていた夢のせいか、記憶が混乱している。

 

 ここは19世紀のロンドン。

 

 自分は人理の崩壊を防ぐためにカルデアの連中と協力し戦っていた筈だ。

 

 そして、

 

 召喚され、現れた父、アーサー王(アルトリア)と交戦。

 

 彼女の宝具である「最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)」をまともに食らってしまったのだ。

 

 だが、

 

 本来の最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)は、世界を繋ぎ留める錨であり、全力解放すれば、それこそロンドンどころか世界すら滅ぼしかねない威力を誇っている。

 

 それが曲りなりにも直撃を喰らい、五体満足で生き延びているのが、モードレッドには不思議でならなかった。

 

 とは言えそれが、父が自分を慮って手加減してくれたから、などと考えるほど彼女も暢気ではない。

 

 恐らく、あの槍には本来の力を抑え込むための封印が掛かっており、現状ではアルトリア自身でも封印解除ができないのであろう。

 

 とは言え、だからと言ってその威力は馬鹿にはできない。

 

 体を動かそうにも思うに任せない事に気付き嘆息する。

 

 あの時、

 

 最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)が直撃する寸前、モードレッドはとっさに最大限に魔力放出する事で相殺を試みた。

 

 宝具解放から直撃までの一瞬で判断を下し、尚且つ実行してのける当たり、モードレッドの持つ天性の戦闘センスを証明している。他の英霊では、そうは行かなかった事だろう。

 

 とは言え、真名解放した宝具とただの魔力放出では、その出力に天地以上の開きがある。完全に相殺しきることは不可能だったのだ。

 

 と、

 

「ん、モーさん、起きた」

「ひどい怪我です。まだ動かないで」

 

 自分を覗き込むようにしている、2つの幼い顔に気付き苦笑する。

 

「響、美遊・・・・・・お前ら、無事だったか」

「モードレッドさんの方が重傷ですから動かないでください」

 

 どこか叱りつけるような美遊の言葉に、モードレッドは内心で苦笑する。

 

 生前はついぞ経験が無かった事だが、父親に叱られるというのはこんな感じかもしれない。

 

 などと言ったら、目の前の幼女に怒られることは間違いないので黙っているが。

 

「・・・・・・変なこと考えてませんかモードレッドさん?」

「気のせいだ」

 

 ジト目の美遊から逃げるように視線を逸らす。

 

 そこへ、凛果が近づいてくるのが見えた。

 

「大丈夫、モードレッド?」

 

 覗き込む凛果。

 

 その背後に、金時と玉藻の姿があるのに気づく。

 

「危なかったですね、あなた。もう一歩遅かったら強制送還待った無しでしたよ」

「ああ。まさに間一髪だったぜ」

 

 嘆息気味に告げたのは、チビッ子2人の背後から覗き込んでいる玉藻と金時だった。

 

 あの時、

 

 最果てに輝く槍(ロンゴミニアド)がさく裂する一瞬前、ほぼ死に体となったモードレッドを寸前で金時が回収し、退避する事に成功したのだという。

 

 同様に響達も金時たちに救われ、危地を脱していた。

 

「鎧、壊れちゃったから脱がしたよ。あと、剣は回収しといたから」

「ああ・・・・・・道理で腹が寒ィと思ったぜ」

 

 モードレッドの服装は、鎧を外しても赤いインナーが残る。

 

 腰回りには軽装の鎧パーツが残っているが、上半身は腕を覆うアームカバーと胸を隠すチューブトップ状のインナーが残るのみだった。

 

 防御力は大幅に陥ちるが、この際仕方がなかった。身軽になったと思う事にする。

 

 しかし、

 

「あなたは、もう少し安静にしていてくださいまし。その傷では、戦う事などできませんわよ」

 

 玉藻が押し留めるようにモードレッドに告げる。

 

 今、モードレッドの胸の上には、玉藻の呪符が貼られている。恐らく回復用の物だろう。

 

 今のモードレッドは戦う事は愚か、剣を持つ事すら満足に出来そうになかった。

 

「それにしても、これからどうしよう?」

 

 思案するように凛果が呟く。

 

 こちらのサーヴァントは5人全員が健在。しかし、全員が満身創痍となっている。

 

 立香達と合流しようにも、向こうは今、地の底で戦闘中(さらに言えばジャックが脱落した事を凛果達は知らない)。

 

 対して、敵はアルトリア、テスラと強力な2人の英霊が、ほぼ無傷で健在と来た。

 

 このまま全員で戦っても勝てるとは思えなかった。

 

 その時だった。

 

《ちょっと良いかい、凛果ちゃん》

「ダ・ヴィンチちゃん? どうしたの?」

 

 通信機からの声に、反応する凛果。

 

 初めてその光景を見る金時と玉藻が珍しそうにしている中、ダ・ヴィンチは続けた。

 

《状況は、どうやら思った以上に絶望的なようだね》

 

 言ってから、ダ・ヴィンチは少し思案して告げた。

 

《仕方がない。まだ準備不足の感は否めないが、そんな事を言っている状態ではないようだ。それに、戦いはいつだって待ってはくれないからね》

 

 意味ありげなダ・ヴィンチの言葉。

 

 しかし、

 

 この天才が、いざという時に頼りになる事は皆、知っている。

 

 何か逆転の一手を刻む妙案が、天才の頭の中には入っている。

 

《さて諸君。我々の前には未だ強大な英霊2騎二コラ・テスラとアルトリア・ペンドラゴン、更には謎の魔術師にして本特異点における黒幕、マキリ・ゾォルケンまで控えている。翻って我々は全員が満身創痍と来た。そんな中で危険な賭けになるが、こいつは今ある手札の中では最上の部類に入ると、この天才は考える訳だがね》

「御託は良い。さっさと本題を言えや」

 

 倒れたまま、モードレッドが苦し気な声を発する。

 

 この中で最も重症な彼女としては、ダ・ヴィンチの物言いからして、苛立つ事この上なかった。

 

 そんなモードレッドの言葉に対し、ダ・ヴィンチは聊かも悪びれた様子は無かった。

 

《では言おう。ぶっちゃけて言えば響君に美遊ちゃん》

「ん」

「はい」

 

 呼びかけれられて返事をする、チビッ子2人。

 

 だが、

 

 次いでダ・ヴィンチが言ったのは、予想の範疇から溢れ出した、とんでもない事だった。

 

《君達の「愛」を確かめさせてもらうとしよう》

「ん?」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妨害に現れた金時、玉藻、そしてカルデア特殊班をも退けたゾォルケン達は、再びバッキンガム宮殿上空を目指そうとしていた。

 

 彼らの目的はあくまで、魔霧を活性化させ、このロンドンを人理焼却の端緒とする事。カルデアの排除など、その為の一段階でしかない。

 

 ゾォルケンは手の中にある聖杯を眺める。

 

 万能の願望機。

 

 多くの英雄たちが欲し、ついには手に入れられなかった遠き存在。

 

 自分は今から、この聖杯を使い、このロンドンを壊滅へと導く事になるのだ。

 

「それでは参ろう。無念だが、このロンドンを滅ぼしてしまおうではないか」

 

 テスラの言葉に、頷きを返すゾォルケン。

 

 そのまま歩き出そうとした時だった。

 

「待ちなさいッ まだ、終わってないわよ!!」

 

 凛とした声が、霧のロンドンに響き渡る。

 

 振り返るゾォルケン。

 

 その彼が目にしたのは、

 

 2騎のサーヴァントを従えたカルデアのマスター、藤丸凛果の姿だった。

 

「ほう、生きていたか」

「仕留めたのではなかったのか?」

 

 尋ねるアルトリアに、テスラは肩を竦めて見せる。

 

「如何にも、私は全力をもって宝具を放ち、彼等を呑み込んだ。しかし、いささか甘かった事も否めまい」

 

 テスラの言葉を聞きながら、ゾォルケンが前へと出る。

 

「生きていた事は褒めてやろう。だが、その有様では、もはや戦う事すら叶うまい。無駄に命を散らすより、諦めを覚える事が賢い選択肢だと思うがね」

「生憎だけど・・・・・・」

 

 実質的には降伏勧告に近いゾォルケンの言葉。

 

 対して、凛果は苦笑しながら肩を竦めて見せる。

 

「あたしも結構、諦め悪い方でさ。兄貴とゲームとかやれば、勝つまでは絶対にやめたくないんだよね。それに・・・・・・」

 

 言いながら、

 

 凛果は掲げた。

 

 自身の右手を。

 

「勝機なら、ここにあるわよ!!」

 

 言い放った凛果の右手に、光り輝く令呪。

 

 その輝きを前に、ゾォルケン達が一瞬怯んだ。

 

 対して、凛果は響と美遊に声を掛ける。

 

「2人とも、準備は良い?」

「ん、行ける」

「大丈夫です」

 

 2人の返事を受けて、

 

 凛果は動いた。

 

藤丸凛果(ふじまる りんか)が令呪二画をもって、アサシン、衛宮響(えみや ひびき)、並びにセイバー、朔月美遊(さかつき みゆ)の命ずる!!」

 

 輝きを増す令呪。

 

 その文様が、魔力を放って消える。

 

 それも、二画。

 

 凛果から放たれる魔力も、莫大な物となる。

 

 だが、

 

 それでも凛果は、耐えた。

 

 己の内から絞り出される魔力の奔流に耐え、少女は叫ぶ。

 

「2人とも、霊基共鳴せよ!!」

 

 次の瞬間、

 

 響、

 

 そして、

 

 美遊、

 

 2人の視界が、白色に閉ざされた。

 

 何も見えない。

 

 何も聞こえない。

 

 何も感じない。

 

 ただ、世界の己達のみが存在しているかのように、

 

 響は美遊を、

 

 美遊は響を、

 

 手を取り、

 

 ただ、それだけを感じ続ける。

 

 刻む鼓動が、2人をより、深く結びつける。

 

 目を開き、

 

 自分たちの存在を、刻みつけるように叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「霊基共鳴(ハイパー・リンク)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 響と美遊。

 

 2人の鼓動が、完全に一定のリズムを刻んで同調し、あふれ出る魔力が2人を包み込んだ。

 

「ぬッ!?」

 

 召喚以来初めて、テスラの顔に警戒色が浮かぶ。

 

 それ程までに、今の響と美遊は異様だった。

 

 次の瞬間、

 

「ん、行く」

 

 呟く響。

 

 同時に、

 

 少年は駆け抜けた。

 

 テスラの、すぐ脇を。

 

「グッ!?」

 

 呻く天才科学者。

 

 舞う鮮血。

 

 銀の閃光が走ったと思った瞬間、

 

 テスラの脇腹は、響の刃によって切り裂かれていた。

 

 斬線は浅い。

 

 が、

 

 響の一撃が、テスラに確実にダメージを与えたのは確かだった。

 

 それにしても速い。

 

 今の響の速度を、目で追う事は不可能。テスラが初撃をかわせたのは、ほとんど奇跡に近かった。

 

「そこかねッ!?」

 

 体勢を立て直しつつ、振り向き様に雷撃を放つテスラ。

 

 普段の響なら、ここでいったん回避を選択するところだろう。

 

 だが、

 

 少年は、敢えて踏み込む。

 

 逆袈裟に奔る銀閃。

 

 激突する雷撃。

 

 次の瞬間、

 

 雷撃は斜めに切り裂かれ霧散した。

 

 のみならず、剣圧が空気を割ってテスラの肉体を斬る。

 

「ぐッ!?」

 

 苦悶の声を漏らす天才科学者。

 

 だが、やられたテスラも黙ってはいない。

 

 すぐさま、莫大な量の雷撃を発生させ、響に向けて撃ち放つ。

 

 視界全てを染める程の雷撃。

 

 回避も、防御も不可能。

 

 今度こそ、叩き潰せる。

 

 テスラが、そう確信した瞬間。

 

 立ち塞がる雷撃の壁を突き破り、

 

 幼き狼が、牙を突き立てた。

 

餓狼(がろう)・・・・・・一閃(いっせん)!!」

 

 響が放った切っ先が、

 

 テスラの肩を刺し貫いた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 美遊はアルトリアと、激しい応酬を繰り広げていた。

 

 馬上から槍を振るい、美遊に襲い掛かるアルトリア。

 

 強烈な穂先が突き出される中、

 

 少女は致死の切っ先を、真っ向から受ける。

 

「はァァァァァァ!!」

 

 振るわれる聖剣が、聖槍の穂先を弾く。

 

「むっ!?」

 

 蹈鞴を踏むように、その場に停止するアルトリア。

 

 とっさにラムレイの手綱を引いてバランスを取る。

 

 馬上で片手に槍を持ち、片手で手綱を操る様は、まさに英雄の名にふさわしい卓抜した姿であると言える。

 

 だが、

 

 その間に美遊は攻める。

 

 跳躍。

 

 アルトリアの視線の高さまで飛び上がると同時に、聖剣を横なぎに振るう少女。

 

 だが、

 

「フンッ」

 

 アルトリアはとっさに手綱を引き後退。美遊の剣閃は空を切る。

 

 同時に、アルトリアは馬首を返しながら槍を横なぎに振るう。

 

 ほぼ、人馬一体と称すべき技量。

 

 馬上と言う戦いにくい環境にあって、アルトリアはそれを感じさせないほど巧みに馬と槍を扱う。

 

 だが、

 

「まだッ!!」

 

 美遊はとっさに、魔力で空中に足場を作ると、蹴り込んで跳躍。

 

 アルトリアの背後に回り込み、剣を振るう。

 

 少女の予想外の動きに一瞬、虚を突かれるアルトリア。

 

「やるなッ だが!!」

 

 アルトリアは巧みに馬首を返し、槍を横なぎにして迎え撃つ。

 

 空中の美遊と、馬上のアルトリア。

 

 互いの刃が激突する。

 

 衝撃。

 

 同時に、

 

 「2人のアルトリア」は、互いに後退する。

 

 着地する美遊。

 

 同時に、アルトリアも馬上でバランスを取る。

 

 交錯する視線。

 

 切っ先が、互いに相手を貫くべく向けられる。

 

 次の瞬間、

 

「「ハァァァァァァァァァァァァ!!」」

 

 美遊とアルトリアは同時に魔力放出。

 

 互いの魔力が、中間点で激突した。

 

 

 

 

 

 霊基共鳴(ハイパー・リンク)

 

 これこそが世紀の大天才、レオナルド・ダヴィンチが用意した切り札だった。

 

 きっかけは、先の第三特異点「オケアノス」での事。

 

 あの大海原で出会い、敵として対峙した2人の女海賊、アン・ボニーとメアリー・リードの戦いぶりを見て、ダヴィンチの脳裏に天啓めいたひらめきが発せられた。

 

 アンとメアリーは、共に名の知れた海賊でありながら、その霊基は決して強固ではない。もし、彼女達がそれぞれ単独で現界したとしたら、それ程の脅威にはなり得なかった事だろう。

 

 しかしアンとメアリーは、統合し互いに一つの霊基を共有する事で、その存在を本来の数倍、数十倍にも膨れ上がらせ、その戦闘力は大英雄すら凌駕しうる程だった。

 

 これに目を付けたダヴィンチは、英霊同士の霊基を結合、乃至、それに近い状態にする事で、潜在能力を超えた力を引き出せるのではないか、と考えたのだ。

 

 そこで特異点修復後に研究を重ね、どうにか今回のレイシフトに間に合わせる形でギリギリ実用に漕ぎつけたのが霊基共鳴(ハイパー・リンク)だった。

 

 大天才の不眠不休の研究の末、実戦に間に合った霊基共鳴(ハイパー・リンク)は成果を上げ、響と美遊は圧倒的な戦力差を押し返し、五分の勝負に持ち込むことに成功している。

 

 とは言え、問題が無い訳じゃない。

 

 まず、そもそもからして、この霊基共鳴(ハイパー・リンク)は未完成であると言う事。

 

 英霊同士の霊基を結びつける、と言う時点でかなりの反則技である事はうかがい知れることだろう。

 

 ダヴィンチとしては、もっと自由に発動できるようにしたかったのだが、研究の時間があまり取れず、中途半端な形での実践投入となってしまった。

 

 まず、サーヴァント同士のみでの発動では、どうしても霊基を共鳴させるほどの出力を得る事は出来ず、マスターの力を借りなくてはならない。

 

 更に、貴重な令呪を消費しなくてはならない。それも二画も。

 

 令呪はマスターにとって最後の切り札である事は言うまでもない。カルデアに戻れば補充できるとは言え、1度のレイシフトで3回しか行使できない令呪の内、二画を一気に使ってしまうのは致命的だった。

 

 当然、そのマスターと契約した英霊同士でなければ、霊基共鳴させることはできない。

 

 時間も限られており、発動から3分が限界だった。それ以上やると、英霊達の霊基が保たない。

 

 まさに課題山積と言えるだろう。

 

 だが、ダヴィンチが言った通り、今切れるカードの中では、最強なのは間違いない。

 

 現に響と美遊は、テスラとアルトリア相手に戦況有利と言って良い戦いを演じていた。

 

 霊基共鳴(ハイパー・リンク)は、どんな英霊同士でもできると言う訳ではない。

 

 その第1条件として「相性の良さ」が上げられる。

 

 現在、カルデア特殊班に所属している4騎のサーヴァントの中で、響と美遊が最も条件に合致していると判断された為、ダヴィンチは2人に白羽の矢を立てたのである。

 

 

 

 

 

 後退するテスラ。

 

 傷口を押さえ、片膝を突く。

 

 肩に受けた傷から鮮血が噴き出し、スーツを染め上げていた。

 

 しかし、未だに戦闘力は失われてはいない。傷も辛うじてだが「軽傷」と呼べるレベルだった。

 

 響の餓狼一閃(がろういっせん)が直撃する一瞬。テスラは身の内から最大限の電撃を放出する事で響の動きを掣肘しダメージを最小限にとどめたのだ。

 

「やるな、少年。幼子と言えどその牙は鋭く研ぎ澄まされているか。成程な、あるいは貴様ならば、この私にも勝てるかもな」

 

 賞賛の言葉を継げるテスラ。

 

 その脇に、アルトリアが馬を寄せる。

 

「やるな、あの2人」

「うむ。なかなかどうして、侮れぬ」

 

 視線を交わし、頷く。

 

 手を抜けば返り討ちに遭う。

 

 ならば、

 

 最大出力の攻撃でもって、一気に勝負を決する以外に無い。

 

 騎士王と天才科学者は期せずして、同じ結論に達する。

 

 対して、

 

「ん、美遊」

「うん、合わせる」

 

 剣を構える子供達。

 

 睨み合う、合計4騎のサーヴァント。

 

 魔力が一気に膨張する。

 

 光が迸り、雷光が吹きすさぶ。

 

 複雑に絡み合う視線。

 

 次の瞬間、

 

 同時に、弾けた。

 

最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!」

 

 迫る、雷光の嵐。

 

 対抗するように、少女が剣を振り翳す。

 

十三拘束解放(シールサーティーン)円卓議決承認(デシジョンエンド)!!」

 

 可憐な双眸からスパークが弾ける。

 

 同時に、

 

 溢れ出る魔力を解放する。

 

遥か遠く黄金の剣(エクスカリバー・リバイバル)!!」

 

 振り下ろされた刀身から、閃光が迸る。

 

 激突する、互いの魔力。

 

 拮抗する、一瞬。

 

 しかし、

 

 すぐに美遊が、押され始める。

 

「クッ!?」

 

 苦悶を浮かべる少女剣士。

 

 無理も無い。

 

 いかに霊基共鳴(ハイパー・リンク)によって戦闘力を高めたとはいえ、基本的に1対2。出力において、美遊が押し負けるのは仕方がない事。

 

 少女の体はジリッ ジリッ と押されて後退する。

 

 このままだと、あと数秒を待たず、美遊の体は雷光の渦に飲み込まれる事になる。

 

 勝利を確信する、アルトリアとテスラ。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疑似・魔力放出(ぎじ・まりょくほうしゅつ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 低い声と共に、急降下するように上空を駆ける、浅葱色の影。

 

 狂奔する魔力の上を駆け抜け、腰の刀に手をやる少年。

 

 眼前に迫ったテスラ目がけて、

 

 刃が鞘奔る。

 

 白刃が唸りを上げて襲い掛かった。

 

鬼剣(きけん)蜂閃華(ほうせんか)!!」

 

 鳴り響く、刃の閃光。

 

 斬線が一瞬にして大天才の身体を切り裂いた。

 

「グッ 無念・・・・・・だが、見事!!」

 

 苦しみに耐えながら、称賛を送るテスラ。

 

 その姿を見て、アルトリアは馬首を翻す。

 

 先に響を片付けようというのだろう。

 

 槍を振り上げた。

 

 次の瞬間、

 

 新たな魔力の奔流が一同の視線を焼き尽くす。

 

 見える先。

 

 そこには、金時と玉藻に支えられるようにして剣を構える叛逆の騎士の姿がある。

 

「モーさんッ!!」

「待たせたなッ あとは任せなッ ケリは俺が着ける!!」

 

 血を吐くように、モードレッドは叫ぶ。

 

 これだけは、

 

 この役目だけは、他の誰にも譲る気はない。

 

 絶対に、自分が果たさなければならない。

 

 モードレッドの視線は馬上のアルトリア、

 

 そして離れたところで剣を振り切った美遊へと向けられる。

 

 狂乱し、このロンドンを滅ぼすべく現れたアルトリア。

 

 だが、父が、そのような事を望むはずが無い事を、モードレッドは誰よりも理解している。

 

 だから、救ってやるのだ。その歪んだ役割から。

 

 そして、

 

 美遊。

 

 あの少女は嫌がるだろうが、やはりあれは自分の父上だ。

 

 ならば、美遊()を守り戦う事こそ、自分の、円卓の騎士の、アーサー王の息子(むすめ)の使命だった。

 

「我は王に非ず、その後ろを歩く者なり!! 彼の王の安らぎの為、あらゆる敵を駆逐する!!」

 

 言い放つと同時に、

 

 爆発的に増大する赤雷。

 

 奔流が巨大な刃を創り出し、霧夜を朱に染め上げる。

 

 剣を振り下ろすモードレッド。

 

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 次の瞬間、

 

 赤雷が奔流となって駆け抜けた。

 

 

 

 

 

第16話「霊基共鳴」      終わり

 


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