Fate/cross wind   作:ファルクラム

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第17話「絶望への一矢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 猛威を振るった、2騎のサーヴァントが消えて行く。

 

 圧倒的な戦力でカルデア特殊班を蹂躙し、ロンドンを壊滅寸前まで追いやった二コラ・テスラと、アルトリア・ペンドラゴン。

 

 それを打ち破ったのは、世紀の大天才レオナルド・ダヴィンチ監修による、衛宮響、朔月美遊両名が繰り出した新戦術「霊基共鳴(ハイパー・リンク)」による攻撃。そして、叛逆の騎士にして、ブリテンが誇る円卓の騎士の1席モードレッド卿の宝具、「我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)」。

 

 これらの連続攻撃により、圧倒的戦力で戦場を席巻した2騎のサーヴァントは、ついに力尽き、トドメを刺されたのであった。

 

 消滅していく両雄。

 

 そんな中、

 

 最後に、テスラが振り返るのが見えた。

 

 深く、澄んだような瞳。先ほどまでの狂乱振りが嘘のように、狂科学者は表情を穏やかにしている。

 

 自身を打ち破ったカルデア勢を見回すテスラ。

 

 その口元に、フッと笑みが浮かべる。

 

 その顔には、確かな満足が浮かべられている。

 

 考えてみればテスラは人理を破壊する立場にいながら、どこか最後まで協力的だった。

 

 もしかしたら「よくやった」とでも思っていたのかもしれない。

 

 その表情を最後に、テスラは金色の渦に巻き込まれるようにして消えて行った。

 

 そして、

 

 テスラが消えると、今度はアルトリアの番だった。

 

 こちらはテスラと違い、その表情からは何も伺い知る事が出来ない。

 

 自身の敗北ですら、眼中に無いと言った態度だ。

 

 喚ばれたから来て、敗けたから帰る。ただ、それだけの事

 

 そんな、淡々とした感情が伺える。

 

「父上・・・・・・・・・・・・」

 

 そんなアルトリアに、モードレッドが恐る恐ると言った感じに声を掛ける。

 

 生前の叛逆に続き、またしても父を我が手で討ち果たす事になってしまったモードレッド。

 

 美遊と言う、「もう1人の守るべき存在」がいたとはいえ、その複雑な心中は、余人には察する事すら憚られた。

 

 対して、

 

「何度も言わせるな。私は貴女の事など知らぬ」

 

 アルトリアの口から出た言葉は、あまりに冷たく、あまりに素っ気ない物であった。

 

 その言葉に、モードレッドは唇を噛み締める。

 

 結局、生前も、そして死後も、自分は父にはついに認められる事は無かったのだ。

 

 だが、

 

 最後にフッと、アルトリアが笑みを浮かべる。

 

「あなたのような騎士がいると知れたのは実に面白い。またいつか、どこかで見えたい物だな」

 

 その言葉を最後に、アルトリアの姿は金色の粒子となって消えて行った。

 

 後には、立つ力も無く、座り込んでいるモードレッドだけが残される。

 

「・・・・・・・・・・・・ハッ 何を寝言言ってやがる。父上のくせに」

 

 投げやりのような口調。

 

 しかし、どこか嬉しいような、寂しいような、感情のやり場に困っているような響きがあった。

 

 叛逆の騎士として父を憎む心と、アーサー王の息子(むすめ)として父を慕う心。

 

 その2つがモードレッドの中で相反し合い、溶け合う事も出来ずにもがいているように見えた。

 

 とは言え、

 

 勝つには勝った。

 

 だが、

 

 代償は、決して小さな物ではなかった。

 

 凛果が見ている前で、響と美遊が崩れ落ちる。

 

 2人とも、明らかに消耗しきっているのが判る。

 

 未完成の霊基共鳴(ハイパー・リンク)を使用した事で、霊基に負荷がかかりすぎたのだ。

 

 元々、見切り発車に近い実戦投入だった霊基共鳴(ハイパー・リンク)。使用した際の負荷も半端な物ではなかった。

 

「2人とも、大丈夫ッ?」

「ん・・・・・・」

「は、はい、何とか・・・・・・・・・・・・」

 

 問いかける凛果に、気丈に答える響と美遊。

 

 しかし、その顔はひどく蒼褪め、憔悴しきっているのが判る。

 

 零基に負荷がかかり、魔力も枯渇した今、サーヴァントにとっては命にもかかわる。

 

「ん・・・・・・けど」

 

 顔を上げる響。

 

 その視線が刺し貫く先で、静かに佇む魔術師。

 

 この特異点の元凶たる存在。

 

「まだ、終わって・・・・・・ないッ」

 

 マキリ・ゾォルケンは、少年暗殺者の視線を受けて尚、泰然と佇んでいる。

 

 切っ先を真っすぐ向けて、刀を構える響。

 

 既に枯渇した魔力をさらに振り絞る。

 

 そうだ。

 

 ゾォルケンを倒し、聖杯を手に入れない限り、戦いは終わりではない。

 

 駆ける響。

 

 対して、

 

 ゾォルケンは避ける事も無く、その場に立ち尽くす。

 

 まるでそれ自体が運命であるかのように、

 

 己に迫る刃を、真っ向から受け入れた。

 

 響の刀は、ゾォルケンの心臓を刺し貫く。

 

 感じる確かな手応え。

 

 滴り落ちる鮮血が、魔術師に致命傷を与えた事を現している。

 

 口からも血が溢れて迸る。

 

 刃を引き抜く響。

 

 同時に、ゾォルケンはその場に膝を突いた。

 

「・・・・・・・・・・・・やはり、最後にはこうなるか。パラケルススを笑えんな」

 

 明らかな致命傷を受けながらも、ゾォルケンはどこか達観したような口調で、静かに呟く。

 

 あるいは彼自身、こうなる事も予想の内だったのかもしれない。

 

 だからこそ、無様に取り乱す事も無く、事実をありのままに受けれ入れているのだ。

 

「・・・・・・仕方がない。できれば、使わずに済ませたかったのだがな」

 

 そう言って、魔術師が掲げる手に、輝く器。

 

 聖杯がもたらす魔力の輝きが、ゾォルケンを包み込んでいく。

 

 その様子を見て、凛果は奇妙な既視感に捕らわれる。

 

「聖杯・・・・・・・・・・・・まさかッ!?」

 

 それはこれまでに、2度見て来た光景。

 

 追い詰めた敵がとる、最後の手段。

 

「来たれ、偉大なる王に仕えし魔神よ。我が命を糧に現界せよ」

「クッ!?」

 

 とっさに刀を返し、ゾォルケンを斬り捨てようとする響。

 

 だが、間に合わない。

 

 響の刃が届く前に、ゾォルケンは内から膨れ上がった肉の塊に呑み込まれ消えて行く。

 

 その手に持った聖杯ごと。

 

「出でよッ 管制塔バルバトス!!」

 

 次の瞬間、爆発的に膨れ上がる。

 

 肉が盛り上がり、骨が侵食され、贓物がせり上がる。

 

 ヒトとしての形が崩れ、ひび割れ、更に天を目指して突きあがっていく。

 

 姿を見せる、おぞましき存在。

 

 どこか濁りの入った白い柱。体から開いた裂け目からは、巨大な深紅の複眼がのぞく。

 

 見る者に、ひたすらの不快感を呼び起こす。

 

 管制塔バルバトス。

 

 これまで戦ってきた魔神柱と同一の存在。ソロモン王に仕えし魔神の一柱。

 

 圧倒的絶望を撒き散らす存在が、このロンドンの地に顕現していた。

 

「響、一旦戻って!!」

「んッ」

 

 凛果の指示に従い、後退しようとする響。

 

 だが、

 

 その前に、バルバトスの複眼が光を帯びる。

 

 目を見開く響。

 

 その視線が、魔神柱の複眼と重なる。

 

「ッ!?」

 

 息を呑む響。

 

 次の瞬間、

 

 収束した魔力が解放され、巨大なレーザーと化した閃光が、少年暗殺者に降り注いだ。

 

 圧倒的な量の火線。

 

 対して、

 

 既に霊基共鳴(ハイパー・リンク)の使用によって、限界を迎えている響のがた落ちした身体能力では、魔神柱の攻撃圏外まで逃れる事は不可能。

 

 閃光が背後から迫った。

 

 その時、

 

「危ねェ!!」

「わわッ!?」

 

 突如、小さな体をヒョイッと抱え上げられ、驚いた声を上げる響。

 

 間一髪、閃光が迫る直前、金時が助けに入り、響を抱え上げたのだ。

 

 響の小さな体を小脇に抱え、安全圏まで逃れる金時。

 

 魔神柱が追撃するように閃光を放ってくるが、その前に狐姿の女魔術師が立ちはだかる。

 

「ちょーっとうるさいですわね。少し、黙ってくださいまし」

 

 玉藻は呪符を数枚、投擲すると、即席の障壁を展開。魔神柱の攻撃を防ぎ止める。

 

 完全に防ぐことは難しいが、それでも時間稼ぎにはなるだろう。

 

 その間に金時は安全圏まで逃れると、そこで響を降ろした。

 

「ん、金さん、ありがと」

「おうよ。けど、出来ればゴールデンって呼んでくれると嬉しいぜ」

「ん、ゴールデン」

 

 呼ばれて、満更でもない様子の金時。

 

 坂田金時は日本人なら誰でも知っている、童話の主人公「金太郎」が成長した姿。すなわち、古くから日本で最も愛された「ヒーロー」でもある。

 

 それだけに子供が好きな様子だった。

 

 一方、

 

 障壁を維持できなくなった玉藻が、溜まらずに後退して来る。

 

 猛威を振るう魔神を相手に、さしもの日本を代表する大妖怪も、傷ついた身では如何ともしがたかった。

 

「あたたた、駄目です、火力が違います。無理はするものじゃありませんね」

 

 ボロボロになりながら、後退してくる玉藻。

 

 その間にも魔神柱は猛威を振るい続け、ロンドンの街を破壊していく。

 

「・・・・・・まずいね、これ」

 

 凛果が魔神柱の様子を見ながら、苦しげに呟く。

 

 テスラ、アルトリアの両雄を倒し、これでようやく人理焼却は防げたと思った。

 

 その矢先の、魔神柱出現。

 

 振り子は再び、絶望に振り戻された感があった。

 

 その時だった。

 

「凛果ッ!!」

 

 名前を呼ぶ声に振り返ると、その視界の彼方で、こちらに向かって駆けてくる見知った姿があった。

 

 その姿に、凛果は思わず顔をほころばせる。

 

「兄貴ッ!!」

 

 地下に残って戦っていた筈の兄、藤丸立香と、マシュ・キリエライトの両名の姿が見える。

 

 もう1人、クロエ・フォン・アインツベルンは、立香の背に負ぶわれている。

 

 立香は駆け寄ると、妹を見詰めて告げる。

 

「良かった、無事だったか」

「兄貴も」

 

 そう言って、笑いかける凛果。

 

 少女の視線が、兄の背中へと向けられる。

 

「クロちゃん、どうしたの?」

「うう、あたしは恥ずかしいからヤダって言ったんだけど・・・・・・」

 

 尋ねる凛果に、立香の背に負ぶわれたクロエは褐色の頬を赤くして視線を逸らす。

 

 実は、地下での戦闘でアサシンと交戦したクロエは、負傷に加えて魔力の消耗が激しく、ここに来るまでに力尽きてしまったのだ。

 

 そこで、立香が背負ってここまで来たわけである。

 

 とは言え、普段から大人びた言動をする少女すれば、かなり恥ずかしいらしく、その真っ赤になった顔を見れば明らかであった。

 

「ん、クロ、だいじょぶ?」

「あー、うん、何とかね。ていうかリツカ、いい加減降ろして」

 

 リツカが言い募るクロに苦笑しつつ降ろしてやると、響と美遊が駆け寄ってきて支える。

 

 立っているのも辛いらしいクロエは、そのまま壁を背にしてずるずると地面に座り込んでしまう。

 

 褐色少女の消耗ぶりを見るに、地下での戦いもまた激しい物であった事が伺えた。

 

 そんな中、凛果はどうしても無視できない事に言及せざるを得なかった。

 

「・・・・・・ジャックちゃんは?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 この場にいないジャック。

 

 あどけない仕草の殺人鬼の少女がいない事に、どうしても違和感を覚えざるを得ない。

 

 問いかける凛果に、立香は答えられず、無言のまま俯く。

 

 兄のその仕草が、何があったのかを如実に物語っている。

 

 あの、あどけなくも幼き殺人鬼の少女は、大好きな「おかあさん」を守るために命を掛けたのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・そっか」

 

 兄の様子に、凛果はそれ以上何も尋ねずに頷く。

 

 あるいは、この場に少女がいなかった時点で、凛果も察していたのだろう。それ以上、問い詰めるような真似はしなかった。

 

「・・・・・・それにしても」

 

 立香は視界の先を見上げる。

 

 今も体中の複眼から閃光を放ち、猛威を振るい続ける魔神柱。

 

 立香達が見ている目の前で、ロンドンの街が次々と破壊されていく。

 

 ローマ、オケアノスに続いて、立香達にとっては三度目の遭遇となる、魔神柱の顕現。

 

「M・・・・・・ゾォルケンが変身したの。聖杯使って」

 

 凛果の説明を聞き、立香はゾォルケンの事を思い出す。

 

 地下で会った時のゾォルケンは、どこか擦り切れたような、諦念にも似た表情をしていた。

 

 だが、彼の言が正しいのならば、ゾォルケンは最初から人理の焼却を目指していたわけではなく、それを阻止する立場だったはずだ。

 

 かつては世界を憂い、事件解決を願っていたというゾォルケン。

 

 彼が何を想い、なぜ変節に至ってしまったのか? あるいは、誰が彼をそうさせたのか?

 

 立香には判らない。

 

 ただ、事ここに至ってしまった以上、彼を止める以外に、人理を守る手段はない。

 

 だが、

 

 立香は一同を見回す。

 

 皆、ここに至るまでの連戦で、ボロボロに傷尽き果てている。

 

 マシュも、響も、美遊も、クロエも、モードレッドも、そして金時も、玉藻も。

 

 サーヴァント達は皆既に傷つき、戦う力は残されていなかった。

 

 ゾォルケンを、魔神柱を倒す。

 

 それだけで、この特異点が救える。

 

 だと言うのに、もうそれだけの力は残されていなかった。

 

「勝負ありましたね!!」

 

 勝ち誇ったように放たれた言葉が、周囲一帯を圧するように響き渡る。。

 

 一同が振り返った先に立つのは、3騎。

 

 アヴェンジャー、キャスター、アサシンの3人。

 

 今や宿敵とも言える存在となった敵サーヴァント達が、ほぼ無傷のまま立っていた。

 

「お前は・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな中で立香の愕然とした視線は、アヴェンジャーの横に立つキャスターへと向けられる。

 

 ジャックの宝具「解体聖母(マリア・ザ・リッパー)」を喰らい、霊基も体もバラバラになったはずのキャスター。

 

 だが今、巫女服の魔術師は無傷のまま佇んでいる。

 

「そんな・・・・・・ジャック・・・・・・」

 

 愛娘を想い、呟きを漏らす。

 

 ジャックが命を掛けて、キャスターを屠ったと思っていた。

 

 だが、キャスターは健在だ。

 

 ジャックの命がけの戦いが、無駄にされたような気分だった。

 

 と、

 

「・・・・・・・・・・・・あら」

 

 少し、意外そうな声を上げたのは、凛果の傍らに立った玉藻だった。

 

 狐女が向けた視線の先には、怠そうに佇む巫女服女の姿がある。

 

「随分と、懐かしい顔ですわね。まさか、このような異郷の地で出会うとは」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 対して、キャスターは無言のまま視線を逸らす。

 

「それに・・・・・・この気配、まさかとは思いますけど、あなた・・・・・・」

「旧交を温めるのは、それくらいにしてもらいましょうか。こちらも、聊か取り込み中ですので」

 

 無言を貫くキャスターの代わりに、玉藻の言葉を遮ったのはアヴェンジャーだった。

 

 しかし、玉藻と巫女服のキャスター。2人の間に、何か繋がりがある様子だった。

 

「降伏しなさい」

 

 勝ち誇ったように、告げるアヴェンジャー。

 

「そして、潔く滅びを受け入れるのです。それこそが残された最後の人類として相応しい、あるべき姿と言えるでしょう」

 

 勝手な事を吐き出すアヴェンジャー。

 

 次の瞬間、

 

 飛び出した影は、4つ。

 

 金時、玉藻、そして美遊と響だ。

 

 戦斧を振り翳して斬り込む金時。

 

 対抗するようにアヴェンジャーが、腰の鞘から刀をゆっくりと抜き放つ。

 

「やれやれ、絶望を知って尚、無駄に抗いますか」

 

 飽きれ返ったような言葉と共に、鞘奔る刃。

 

 同時に、金時が戦斧を打ち下ろす。

 

 激突する、互いの刃。

 

 坂田金時と言えば言わずもがな、剛力無双で知られる大英雄。

 

 彼を相手に正面から挑むなど、愚の骨頂に等しい。

 

 だが、

 

 大地すら砕ける金時の刃を、アヴェンジャーは余裕をもって受け止める。

 

「惜しいですね」

 

 至近距離で金時と睨み合いながら、薄笑いを浮かべるアヴェンジャー。

 

「全力のあなたなら、私如きは一撃で倒せたでしょうに」

「ハッ 今だってちょろいぜ」

 

 言いながら、腕に力を籠める金時。

 

 雷電がスパークし、腕の筋肉が一回り、盛り上がったような気がする。

 

 徐々に、アヴェンジャーを押し返し始める金時。

 

 だが、

 

「でしょうね・・・・・・けど」

 

 淡々とした口調で言った瞬間、

 

 アヴェンジャーの両眼が、深紅に染まった。

 

 高まる魔力。

 

 双眸から、焔が立ち上るのが見えた。

 

「我が煉獄に、焼かれよ世界!!」

 

 次の瞬間、

 

「しまッ・・・・・・」

 

 気付いて、後退しようとする。

 

 だが、遅かった。

 

 次の瞬間、

 

 金時の全身は、突如発生した炎によって包まれた。

 

 

 

 

 

 呪符を手に、キャスターへと迫る玉藻。

 

 その視線の先に立つのは、彼女にとってどうやら因縁のある相手。

 

 巫女服を着たキャスターが佇む。

 

 狐耳の女は、手にした呪符に魔力を充填。自身の射程に入ると同時に、投擲する。

 

 対して、

 

「はあ・・・・・・あの子の付けられた傷も、まだ癒えてないってのに・・・・・・面倒」

 

 キャスターもまた、呪符を取り出して応じる。

 

 複数の紙片が飛び交い、爆炎と電撃が空中に踊る。

 

 吹き荒れる、魔力の嵐。

 

 一瞬、激しく交錯する両者の攻撃。

 

 立ち上る炎が、両者の視界を一瞬塞ぐ。

 

 やがて、晴れる視界。

 

 玉藻とキャスターは、共に無傷。

 

 否、

 

 キャスターの方は、僅かに負傷したらしく、巫女服の袖下から血が滴っているが見える。

 

 だが、その傷口もすぐに塞がり、流血も消えて行く。

 

 その様子を、玉藻は目を細めて眺める。

 

「・・・・・・どうやら『体質』は健在のようですわね」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 どこか、哀れむような玉藻の言葉に対し、キャスターは無言。

 

 ただ、再び呪符を取り出して構える。

 

「呪いである以上、諦めるしかない、そう思っていたのですが・・・・・・・・・・・・」

 

 同時に、

 

 その口元に初めて、

 

 恍惚とした笑みが、浮かべられた。

 

「希望が見えたら、人は変われると言う物」

「それが、人類を滅ぼす事だ、とでも言うんですの!?」

 

 叫ぶと同時に、呪符を投擲する玉藻。

 

 かつての知己でも、

 

 否、

 

 かつての知己だからこそ、その愚行を止めなくてはならない。

 

 その想いに突き動かされる玉藻。

 

 しかし、

 

 彼女もまた、限界を迎えつつある身。

 

 残された僅かな魔力でできる攻撃は限られていた。

 

 立ち上る爆炎が、キャスターの攻撃によって吹き散らされる。

 

 同時に、

 

 玉藻の迎撃をすり抜けた数枚の呪符が、彼女に向けて殺到してきた。

 

「・・・・・・・・・・・・さようなら」

「待てッ!!」

 

 静かな手向けの言葉と共に背を向けるキャスター。

 

 玉藻は最後の力を振り絞るようにして手を伸ばす。

 

 が、その前に呪符は解放される。

 

「・・・・・・くにィッ!!」

 

 悲痛な玉藻の叫びは、爆炎の中へと消えて行くのだった。

 

 

 

 

 

 正面から、剣を振り翳してアサシンに迫る美遊。

 

 更に、背後に回り込んだ響が、刀を構えて切っ先を突き込む。

 

 2騎の幼いサーヴァントが向かう先に、佇む仮面のアサシン。

 

 対して、響と美遊が踏み込むタイミングは、完全に同一。

 

 息の合った挟撃。

 

 アサシンは成す術も無く、2人の剣に斬られる。

 

 筈だった。

 

 だが、

 

「フフ」

 

 薄く、口元に笑みを見せるアサシン。

 

 その腕が、旋風の如く振るわれる。

 

 2人には一瞬、目の前に細い線が引かれたようにしか見えなかった。

 

 次の瞬間、鋭い痛みと共に、衝撃が襲ってくる。

 

 リーチの長い鞭がしなりを上げて円を描いた瞬間、前後から同時に迫ろうとしていた2人を直撃した。

 

「ぐッ!?」

「アァッ!?」

 

 鞭の直撃を受け、思わず悲鳴を上げる子供達。

 

 響も、そして美遊も、

 

 溜まらず、その場に倒れ込む。

 

 そこへ、アサシンが畳みかける。

 

 手にした鞭を容赦なく連続して振るい、2人を打ち据える。

 

「ほらほら? どうしたの? もっと抵抗してくれても良いのよ? そうじゃないとつまらないじゃない」

「んッ!!」

 

 挑発するようなアサシンの言葉に、舌打ちする響。

 

 軋むような体を引きずって立ち上がると、再び刀を構える。

 

 そのまま、飛んで来る鞭をかわしながら、懐へ飛び込もうとする少年暗殺者。

 

 切っ先がアサシンを捉えかける。

 

 だが、

 

「お馬鹿さん」

 

 アサシンの嘲笑が響く。

 

 次の瞬間、

 

 飛んできた鞭が、響の身体に絡みつく。

 

 鞭は長大な蛇のように、響の腕に絡まり、更にはその小さな体をグルグル巻きにしてしまう。

 

「あッ!?」

 

 まずい。

 

 そう思った瞬間、

 

 響の体は大きく振り回され、頭から地面に叩きつけられた。

 

 響き渡る鈍い音。

 

 少年は、そのまま地面に倒れて動けなくなってしまった。

 

「響ッ!!」

 

 悲痛に叫ぶ美遊。

 

 だが、彼女に相棒を気にする余裕は無かった。

 

 響に気を向けた美遊の、一瞬の隙を突いてアサシンが迫る。

 

「邪魔者は消えたわ。さあ、美遊ちゃん。お姉さんと、とっても楽しいことしましょう」

「クッ」

 

 とっさに振り返り、剣を構え直そうとする美遊。

 

 だが、その動きは鈍い。

 

 彼女もまた、響同様に霊基共鳴(ハイパー・リンク)の関係上、ダメージが蓄積している状態だった。

 

 アサシンが振るう鞭が、少女の手から剣を弾き飛ばす。

 

「あッ!?」

 

 焦る美遊。

 

 その首に、アサシンの鞭が巻き付く。

 

「あッ ぐッ!?」

 

 締まる首。

 

 とっさに抵抗しようと指を掛けるが、鞭はきつく縛られたように、少女の指を拒んでビクともしない。

 

「あらあらそんなに消耗してしまって。もう、剣を持つ事も出来ないのでしょう。かわいそうに」

 

 微笑を浮かべながら、アサシンは美遊の身体を腕の中へと引き寄せる。

 

 美遊は抵抗する事も出来ず、首を絞められたままアサシンの腕の中へと抱きすくめられてしまう。

 

「グッ!?」

 

 息を詰まらせる美遊。

 

 およそ、女の物とは思えない腕力で、アサシンは美遊の身体を締め上げる。

 

「けど、安心して。全てが終わったら、あなたはあたしの下で飼ってあげるから」

 

 そう言うと、長い舌を伸ばし、美遊の頬を味見するように舐めまわす。

 

「あたし好みに徹底的に教育してあげる。ああ、今から楽しみだわ。何も知らない無垢なあなたにに、女の悦びを教えてあげる。あたしの声が聞こえただけで股間を濡らして、姿を見ただけでイッちゃうくらいに躾けてあげるから。四六時中、あたし以外の事は考えられない体にしてあげるわ」

 

 仮面の下で恍惚とした表情を浮かべるアサシン。

 

 次の瞬間、

 

 背後に、小さな影が浮かぶ。

 

「美遊・・・・・・から・・・・・・離れろォッ!!」

 

 響が最後の力を振り絞り、背後からアサシンに斬りかかる。

 

 突き込まれる切っ先。

 

 だが、

 

 そこには既に、往時の鋭さも速さも無く、正に力尽きかけた蠅のような物。

 

 当然、アサシンは身を翻してあっさりと回避すると、美遊を片腕で締め付けたまま、響の顔面をもう片方の手で摑まえる。

 

「まったく。しつこい男は嫌われるわよ。もっとも、あたしなら邪険にされようがどうしようが、相手が音を上げるまで徹底的になぶってやるけど」

 

 言いながら、響の額を掴んだ手に、魔力を流し込む。

 

 同時に、

 

 響は全身から力が抜けるのを感じた。

 

「・・・・・あ・・・・・あァ・・・・・・魔力、が」

 

 残り少ない魔力が、アサシンによって吸収されていくのが判る。

 

 その様を見て、アサシンはニヤリと笑う。

 

「あら、よく聞けば、あなたも良い声で鳴くわね。顔もなかなか好みだし」

 

 言っている内に、響の身体から、完全に力が抜け、手から刀が零れ落ちる。

 

 その様に満足したように、アサシンは頷く。

 

「決めたわ。あなたも美遊ちゃんと一緒に飼ってあげる。どうやら2人は仲良しさんみたいだし。その方が嬉しいでしょ」

 

 アサシンが告げた。

 

 次の瞬間、

 

 腕に抱かれていた美遊の目が、カッと開く。

 

 同時に、少女は全身から魔力を放出する。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちし、思わず子供たちを放してしまうアサシン。

 

 その間に美遊は、響の身体を抱え、アサシンの拘束から逃れて着地する。

 

「響、大丈夫?」

「ん・・・・・・み、ゆ?」

 

 呼びかけに対して、辛うじて答える響。

 

 その姿に、ホッと息をつく美遊。

 

 とっさに全身から魔力放出してアサシンの気を削ぐ事で危地を脱したのだ。

 

 だが、

 

「へェ、見かけによらずお転婆さんなのね、美遊ちゃんは。けど残念、もう、今ので限界でしょ、あなた?」

 

 何事も無かったように、アサシンが歩み寄ってくるのが見える。

 

 その姿は、無傷。

 

 消耗した美遊の魔力放出では、一時的に目晦ましを食らわせるのが精いっぱいであり、ダメージを与える事は出来なかったのだ。

 

 そんな美遊に、アサシンは焦らすように歩み寄る。

 

「さて、それじゃあ、オイタするいけない子には、たっぷりとお仕置きしてあげなくちゃね」

 

 そう言いながら近付いてくるアサシン。

 

 対して、

 

 既に戦う力を無くした少女は、腕の中で動けずにいる少年を守るように抱きかかえることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「みんな・・・・・・・・・・・・」

 

 歯を噛み締める立香。

 

 やはり、勝負にならない。

 

 視界の中で、次々と倒れて行く仲間達。

 

 すでに、響と美遊は戦闘不能で地に倒れ、玉藻と金時に至っては完全に致命傷である。地に倒れたその体からは金色の粒子が立ち上り、消滅現象が始まっていた。

 

 クロエとモードレッドは動く事もままならず、マシュは魔神柱の攻撃から立香達を守るのに精いっぱい。

 

 まともに戦える者は、この場には誰もいない。

 

 詰み(チェックメイト)

 

 僅かにあった勝機は、魔神柱の出現によって、完全に消失していた。

 

「これで判ったでしょう?」

 

 金時を撃破したアヴェンジャーが、再び立香に向き直って告げた。

 

「あなた達に勝ち目はありません。いい加減、諦めなさい」

「クッ・・・・・・・・・・・・」

「ああ、無論、最後まで無駄な抵抗をしてくれても構いませんよ。もっとも、それでも結果は変わりませんがね」

 

 黙り込む立香。

 

 悔しいが、アヴェンジャーの言う事に間違いはない。

 

 特殊班のサーヴァント達は全員、地に倒れ、戦える者は誰もいない。

 

 まだ、アンデルセンたちと合流できれば、フランやナーサリーを戦列に加える事も出来るだろう。

 

 しかし、彼等が今、どこにいるか分からない。

 

 そもそも、無事でいるかどうかすら不明だ。

 

 少なくとも、今この場にあって戦える者は、誰もいないのだ。

 

 敗北。

 

 立香の脳裏に、その言葉が浮かぶ。

 

 ここで自分たちが負ければ、ロンドンが滅ぼされる。

 

 人理が焼却される。

 

 世界が滅びる。

 

 それは判っている。

 

 しかし、最早どうする事も出来ない。

 

 自分達には、何もできない。

 

 悔しいが、戦える者は、もう誰もいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦える者は、誰もいない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 否ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 居るッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如

 

 彼方から飛来した矢が、魔神柱の複眼に突き刺さった。

 

 次の瞬間、

 

 巻き起こる大爆発。

 

 爆発は一瞬にして、魔神柱の巨体の半分以上を呑み込んだ。

 

 やがて晴れる視界。

 

 はたしてそこには、

 

 魔神柱の複眼があった個所は大きくえぐれ、醜悪な苦悶の声を発する姿があった。

 

 物言わぬはずの魔神柱が、のたうち回っているあのようだ。

 

 予期せぬ大ダメージに、攻撃が一瞬止む。

 

 次の瞬間、

 

 カルデア特殊班を制した、アヴェンジャー、キャスター、アサシン3騎。

 

 その頭上から、

 

 無数の刃が降り注いだ。

 

「これはッ!?」

 

 刃は、アヴェンジャー、キャスター、アサシンの3人に正確に襲い掛かり降り注ぐ。

 

 溜まらず、後退する3人。

 

 そこへ、

 

 刃を翳した影が斬りかかる。

 

 手にした黒白の双剣。

 

 頭からすっぽりと覆った外套のせいで、その素顔を伺う事は出来ない。

 

 ただ、

 

 フードの奥から覗く鋭い双眸が、猛禽のように獲物を射抜く

 

 振るわれる黒白の剣閃。

 

 複雑に絡み合う軌跡が、3騎に更なる後退を促す。

 

 だが、

 

 中で1人、アヴェンジャーが不遜な襲撃者に対して反撃に転ずる

 

「あなたですねッ これまで何度も我々の邪魔をしてくれたのは!!」

 

 手にした刀を振るい、双剣を振り払うアヴェンジャー。

 

 対して、襲撃者は卓抜した視線で剣閃を読み切り、自身の刃で弾き飛ばす。

 

 だが、

 

 アヴェンジャーの動きは、そこで止まらない。

 

 その双眸を深紅に迸らせる。

 

「いい加減、その顔を拝ませてもらいましょうか!!」

 

 吹き荒れる炎。

 

 対して、

 

「フッ」

 

 男は短く息を吐くと、外套の縁に手を掛ける。

 

 どうじに魔術回路を起動。

 

 外套の繊維を強化すると、勢い良く振るう事で、湧き上がった炎を振り払う。

 

 着地する両者。

 

「何者です。名乗りなさい?」

 

 緊張を孕む、アヴェンジャーの声。

 

 対して、

 

 振り返る。

 

「・・・・・・・・・・・・あ」

「・・・・・・嘘・・・・・・何で?」

 

 その姿に唯一、驚いた声を上げる衛宮姉弟。

 

 襲撃者の男は、姉弟、そしてもう1人の少女に対して優しく笑いかける。

 

「クロも、響も、美遊も、よく頑張ったな。もう、大丈夫だ」

 

 黒いボディアーマーの上から、赤い外套を羽織った姿

 

 やや細身ながら、引き締まった印象のある肉体は、一振りの日本刀を思わせる。

 

 そして、

 

 額に巻いたバンダナ。

 

「・・・・・・・・・・・・俺が何者か、そしてお前らが何者か、そんな事は関係ない」

 

 その下にある、幼さの残るその顔は、左目を中心に褐色に染まっている。

 

「だがな」

 

 姉弟達とは打って変わって、向けられる冷ややかな視線。

 

「お前等が俺の大切なものを傷付けるなら、俺は俺の持つ全存在を掛けて、お前等を破滅させてやる」

 

 振り返る。

 

 その手に再び黒白の双剣、「干将・莫邪」が創り出される。

 

「行くぞ。覚悟は良いな」

 

 弓兵(アーチャー)衛宮士郎(えみや しろう)は、淡々とした口調で言い放った。

 

 

 

 

 

第17話「絶望への一矢」      終わり

 




はい、と言う訳で、今まで「謎の人物」として扱ってきた「カルデアからの助っ人」。真名解放? です。


2部4章開幕。

が、

これ投稿している時点では、まだ一切、手を付けていません(苦笑

投稿し終えたら始めようと思っています。
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