山の怪の王   作:鉤森

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魔法律異界法第一条「異世界不法渡航」及び「不正無間転化」及び「呪殺無断行使」の罪により、『無限の龍神の抱擁』の刑に処す。





番外編。もしもオーフィスがイサビの変身を待たずに決着をつけたら?の怪。もとい回。
言うまでもなく、本編には関係ないので悪しからず。捏造、キャラ崩壊マシマシ?注意。イサビ敗北END。


『無限の龍神の抱擁の刑』

その「音」は、酷く濡れて、生々しいものだった。

 

 

「カ……ハッ……。」

 

 

「熱」は「音」に遅れて追い付いてくる。「苦痛」は「熱」に追い縋ってくるように。「理解」は「苦痛」が教えてくれた。

堪えきれず零れた息が、僅かな音を刻んで霧散する。

 

 

「……イサビ。」

 

 

己の名を呼ぶ声が聞こえる。ソレが一体誰かなど、今更答弁するまでもない。命という全ての命が潰えた今、この死地に存在するのは己を除いてただ一柱のみだ。

揺れる視線をすぐ下(・・・)に下げれば、そこには予想通りのヴィジョンがあった。声の発生源、霊峰の襲撃者。「無限」を司る黒き少女。名を、オーフィス。その表情は先程までの高揚の色めきさえナリを潜め、漆黒の相貌にて見上げるように己を見つめていた。

茹だった思考にこびり付いた「理解」が、ヴィジョンを通してより確かな形になって現実へと変わる。

 

 

 

 

己を見上げてくるオーフィス。その右腕は今や龍のソレに変質し。黒く染まった異形の腕は、肘の先まで己の鳩尾付近に埋まっていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

イサビは己が貫かれたのだと、敗北したのだと。秋季の雷鳴の如く遅れて訪れた熱と共に理解した。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

一呼吸ごとに、埋めた腕の隙間から熱い「赤」が零れていく。漆黒の鱗を伝い、流れた「赤」が彼女(オーフィス)の装いを袖口からより黒々したものへと変えていく。ダラリと、力を失った両手がほどけ、柳の枝の如く垂らされ、揺れる。

確実な致命傷。未だ死んではいないが、目の前の存在ならば容易く殺せる。己の「永遠」を破壊できるだろう。イサビはその事を理解し、無念と共に気付けば力なく言葉にしていた。

 

 

「ッは…あ……。よも、や…二度、こうなるとは…のぅ…。」

 

 

脳裏によぎる、在りし日の悪魔の大鎌の一撃。そう、これが「敗北」だ。認めるほかない己の負け。地に縫い留められて以来だが、相変わらず痛いものだとイサビは零す。

そんなイサビの呟きに、オーフィスは…勝者らしからぬ無表情にて、淡々と言葉を投げかけた。右腕は未だその身体に埋まっており、僅かに黒い輝きが脈動している。

 

 

「その「無間」。イサビの本気。本当に、本当に興味深い。見てみたい———だけど我、お前(イサビ)が欲しい。」

 

 

オーフィスの言葉に嘘はない。オーフィスは本当に直前まで、手を出すつもりはなかった。イサビの持つ未知、その「無間」を全て堪能したい気持ちは、高揚は紛れもなく本物だった。イサビ自身、ソレは何となく感じ取れていたからこそ、心のどこかで高を括っていたのかもしれない。

だが微かに漏れ出したイサビの「無間」が、或いはその向こうに存在する気配が(・・・・・・・・・・・・・)。オーフィスにほんの僅かな不安を抱かせた。…その不安こそが、彼女にとって最も忌々しい出来事を思い起こさせたのだった。

そう、あの日。留守にしていた『次元の狭間』に居座っていた「夢幻(グレートレッド)」により、帰る場所を失ったあの瞬間の喪失感。何も持たないオーフィスの胸中に生まれた、虚無よりも空っぽで、煮え立つような感情のうねり。唯一無二の『悲願』の発端(トラウマ)が、最悪のタイミングでオーフィスの中で想起した。

 

 

「手にしたいものが、手に入らなくなる感覚。我、…「アレ」は嫌だ。嫌い、許せない。イサビ、手に入れる。」

 

 

求めてやまない真の『静寂』と同等か、あるいはソレ以上の渇望、欲求。イサビに向けられたソレらの期待(きもち)が、彼女自身が思うよりも遥かに大きくなってしまったが故に。オーフィスにはイサビの「本気」が己を跳ね除けるという未来が、断じて容認できなかった。ほんの僅かな可能性に過ぎないとしても、「イサビを手に入れる」という目的(ねがい)の障害になる可能性があるならばオーフィスは許さない。例えその障害が、己自身の感情であろうとも(・・・・・・・・・・・・)

芽生えてしまった底知れぬ漆黒の感情が、イサビを敗北へと追いやった。そしてその感情こそ理解はできないものの、それでも感じ取れた執念を前にイサビは苦しげに笑う。どの道、決着はついているのだ。足掻くまでもない。

 

 

「フン…どの道、わしの…負けじゃ。勝った、お主の好きに…せい…。」

 

 

「無論。安心していい。我、イサビを苦しませない。絶対に。」

 

 

その言葉と共に、彼女(オーフィス)はその鉄面皮を崩し、イサビに笑みを向けた。蕩けるように美しいのに、どこまでも愛らしい幼さをも残した妖艶な微笑み。しかし、その笑みを見る者が等しく恐怖に震えるであろう事は確実だ。何故ならば、その瞳の奥には混沌よりも黒々とした妄執が、蜷局を巻いて爛々と輝いているのだから。

鮮明に感じ取れる狂気じみた執着。その圧力に、さながら天をも見下ろす破滅の大蛇に絡め取られ、じわじわと締め付けられているような己の姿を、イサビは幻視した。

 

 

そして、気付く。己の異変に(・・・・・)

 

 

「(なん、じゃ…声が出せぬ…いや、違う…声だけではない。痛みさえ…鈍く…痺れて……!?)」

 

 

致命傷により体力がなくなったから?或いは、単に息が詰まったから、声が出せない?そう、平時であったならば考えられもしただろう。だが、その強烈な「違和感」は、当たり前に抱ける想定さえ許さない。

驚愕して眼を見開こうとする…も、叶わない。もう既に、瞼さえ痺れて動かせないのだ。我が身を苛んでいた「苦痛」が、「熱」が、いや「感覚(すべて)」が。悉くの一切が鈍く固まり、例えようのない甘い痺れが包み込んでいる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。にも拘らずハッキリと残された(・・・・)思考が、言いようのない気味の悪さをイサビに与えていた。

 

 

「(蛇毒の類か…?いや、「ナニか」が違う。この感じは覚えがある。———否!当たり前だ(・・・・・)。これは、コレは、よもや「コレ」は……!!)」

 

 

「———そう、「呪詛」。イサビの呪詛(・・・・・・)、マネして。我も作ったてみた。」

 

 

得意げな声で、信じられないような言葉が告げられる。無理もない驚愕であった。あの一撃で完全とは言えずとも、己の扱う異界の呪詛を模倣したというのか。声が出せたならばそう叫んでいたかもしれないほどの衝撃が、イサビを襲った。

オーフィスは笑う。表情が変えられずとも伝わってくる、その驚愕が堪らなく心地よいとばかりに。そして仕上げとばかりにオーフィスは、貫き埋めた右腕を引き抜いた。引き抜かれた右腕、ソレはそのまま文字通りにほどける(・・・・)

 

 

「……!ッ………!!」

 

 

「我、もう随分寝ていない。だからまず(・・)一緒に寝る。今なら眠れる。心から、安心して。」

 

 

ほどけた右腕は既に龍のソレではなく、さりとて人のソレにも戻らなかった。はたしてソコにあったのは———無数の、蛇だ。

それぞれが艶やかな鱗を黒く煌かせた、右腕だった蛇の群れ。根元をオーフィスに繋げたままのソレらが津波の如くイサビへと殺到し、一匹、また一匹とその身体に巻き付き、その身動きを封じていった。同時に、分かたれた蛇は痛々しい風穴へと潜り込み、同化することで傷口を塞いでいく。

 

 

「新しい寝所(せいじゃく)の作り方も分かった。寝て起きたら、まずお話しする。たくさんする。我、色々話したい。」

 

 

言葉と共に無造作に空間を殴りつけ、耳を塞ぎたくなるような不協和音が空間に亀裂が走らせた。砕け、穿たれた亀裂の先には光も闇もない、無間の空間が広がっている。

その空間。あえて名付けるならばそう、「無」だ。この世界に存在する数多無数の神魔人が誰一人見つけることの出来なかった「世界」(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、その狭間にして、深淵(むげん)との境こそが。オーフィスが選び、獲得した第二の「静寂」だった。

 

 

身動き一つ取れなくなったイサビが引き寄せられ、オーフィスがぴったりと身を寄せる。悍ましきその光景、ソレは抱擁と呼べるのかもしれないが、無限に囚われる牢獄の様にも感じられた。事実、その二つにあまり違いはないのかもしれない。

 

 

 

どちらにせよコレで終焉(オワリ)なのだ。イサビという存在は「無限」に囚われたまま、この瞬間より世界から消え失せる。戻ってくる確証などどこにもなく、まして解放される日など永遠に来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

終わってみれば実に呆気なく、かつて伝説とまで称された禁魔法律家の運命は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

「(———嗚呼。)」

 

 

迫る亀裂を、黙して見つめる事しか出来ない。瞼を閉じようにも動かせず、しかし必要もないかとイサビはすぐ諦めた。そしてついに全ての光景が「無」に塗りつぶされ、一切の感覚が閉ざされる。最早自らを捕らえたオーフィスの存在さえ、イサビには感じ取ることは出来なかった。

 

もう亀裂は塞いだのか。彼女(オーフィス)はもう眠ったのか。この空間を脱する日が来たとして、果たして外はどこに通じているのだろうか。様々な考えが浮かぶも、泡沫の如く消えていく。考えるだけ無駄だと悟ったかのように。今のイサビに残された道があるとするならば…それこそ、眠る事のみだろう。

 

途端に、冴えわたっていた思考に微睡みが生まれた。心地よい酩酊にも似たソレ、しかし酷く恐ろしく感じる眠りへの誘い。抗う術もなく、イサビの精神は誘われるがままに夢の底へと落ちていった。

 

 

いつか目覚める日に、願わくば。また美しい光景が見られるように。心躍る未知に出会えるように。

 

 

 

贅沢な望みだと思いながらも、イサビはそう願わずにはいられなかった。

 

 

 

 




なんだこれ。いや、突っ込みどころは多々ありますが。とりあえず番外編終了。

BADEND√。いや、GOODENDともとれるけど。色々アレなので、修正はいるかもしれません。
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