番外編。もしもオーフィスがイサビの変身を待たずに決着をつけたら?の怪。もとい回。
言うまでもなく、本編には関係ないので悪しからず。捏造、キャラ崩壊マシマシ?注意。イサビ敗北END。
その「音」は、酷く濡れて、生々しいものだった。
「カ……ハッ……。」
「熱」は「音」に遅れて追い付いてくる。「苦痛」は「熱」に追い縋ってくるように。「理解」は「苦痛」が教えてくれた。
堪えきれず零れた息が、僅かな音を刻んで霧散する。
「……イサビ。」
己の名を呼ぶ声が聞こえる。ソレが一体誰かなど、今更答弁するまでもない。命という全ての命が潰えた今、この死地に存在するのは己を除いてただ一柱のみだ。
揺れる視線を
茹だった思考にこびり付いた「理解」が、ヴィジョンを通してより確かな形になって現実へと変わる。
己を見上げてくるオーフィス。その右腕は今や龍のソレに変質し。黒く染まった異形の腕は、
イサビは己が貫かれたのだと、敗北したのだと。秋季の雷鳴の如く遅れて訪れた熱と共に理解した。
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一呼吸ごとに、埋めた腕の隙間から熱い「赤」が零れていく。漆黒の鱗を伝い、流れた「赤」が
確実な致命傷。未だ死んではいないが、目の前の存在ならば容易く殺せる。己の「永遠」を破壊できるだろう。イサビはその事を理解し、無念と共に気付けば力なく言葉にしていた。
「ッは…あ……。よも、や…二度、こうなるとは…のぅ…。」
脳裏によぎる、在りし日の悪魔の大鎌の一撃。そう、これが「敗北」だ。認めるほかない己の負け。地に縫い留められて以来だが、相変わらず痛いものだとイサビは零す。
そんなイサビの呟きに、オーフィスは…勝者らしからぬ無表情にて、淡々と言葉を投げかけた。右腕は未だその身体に埋まっており、僅かに黒い輝きが脈動している。
「その「無間」。イサビの本気。本当に、本当に興味深い。見てみたい———だけど我、
オーフィスの言葉に嘘はない。オーフィスは本当に直前まで、手を出すつもりはなかった。イサビの持つ未知、その「無間」を全て堪能したい気持ちは、高揚は紛れもなく本物だった。イサビ自身、ソレは何となく感じ取れていたからこそ、心のどこかで高を括っていたのかもしれない。
だが微かに漏れ出したイサビの「無間」が、或いは
そう、あの日。留守にしていた『次元の狭間』に居座っていた「
「手にしたいものが、手に入らなくなる感覚。我、…「アレ」は嫌だ。嫌い、許せない。イサビ、手に入れる。」
求めてやまない真の『静寂』と同等か、あるいはソレ以上の渇望、欲求。イサビに向けられたソレらの
芽生えてしまった底知れぬ漆黒の感情が、イサビを敗北へと追いやった。そしてその感情こそ理解はできないものの、それでも感じ取れた執念を前にイサビは苦しげに笑う。どの道、決着はついているのだ。足掻くまでもない。
「フン…どの道、わしの…負けじゃ。勝った、お主の好きに…せい…。」
「無論。安心していい。我、イサビを苦しませない。絶対に。」
その言葉と共に、
鮮明に感じ取れる狂気じみた執着。その圧力に、さながら天をも見下ろす破滅の大蛇に絡め取られ、じわじわと締め付けられているような己の姿を、イサビは幻視した。
そして、気付く。
「(なん、じゃ…声が出せぬ…いや、違う…声だけではない。痛みさえ…鈍く…痺れて……!?)」
致命傷により体力がなくなったから?或いは、単に息が詰まったから、声が出せない?そう、平時であったならば考えられもしただろう。だが、その強烈な「違和感」は、当たり前に抱ける想定さえ許さない。
驚愕して眼を見開こうとする…も、叶わない。もう既に、瞼さえ痺れて動かせないのだ。我が身を苛んでいた「苦痛」が、「熱」が、いや「
「(蛇毒の類か…?いや、「ナニか」が違う。この感じは覚えがある。———否!
「———そう、「呪詛」。
得意げな声で、信じられないような言葉が告げられる。無理もない驚愕であった。あの一撃で完全とは言えずとも、己の扱う異界の呪詛を模倣したというのか。声が出せたならばそう叫んでいたかもしれないほどの衝撃が、イサビを襲った。
オーフィスは笑う。表情が変えられずとも伝わってくる、その驚愕が堪らなく心地よいとばかりに。そして仕上げとばかりにオーフィスは、貫き埋めた右腕を引き抜いた。引き抜かれた右腕、ソレはそのまま文字通りに
「……!ッ………!!」
「我、もう随分寝ていない。だから
ほどけた右腕は既に龍のソレではなく、さりとて人のソレにも戻らなかった。はたしてソコにあったのは———無数の、蛇だ。
それぞれが艶やかな鱗を黒く煌かせた、右腕だった蛇の群れ。根元をオーフィスに繋げたままのソレらが津波の如くイサビへと殺到し、一匹、また一匹とその身体に巻き付き、その身動きを封じていった。同時に、分かたれた蛇は痛々しい風穴へと潜り込み、同化することで傷口を塞いでいく。
「新しい
言葉と共に無造作に空間を殴りつけ、耳を塞ぎたくなるような不協和音が空間に亀裂が走らせた。砕け、穿たれた亀裂の先には光も闇もない、無間の空間が広がっている。
その空間。あえて名付けるならばそう、「無」だ。この世界に存在する数多無数の神魔人が誰一人
身動き一つ取れなくなったイサビが引き寄せられ、オーフィスがぴったりと身を寄せる。悍ましきその光景、ソレは抱擁と呼べるのかもしれないが、無限に囚われる牢獄の様にも感じられた。事実、その二つにあまり違いはないのかもしれない。
どちらにせよコレで
終わってみれば実に呆気なく、かつて伝説とまで称された禁魔法律家の運命は幕を閉じた。
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「(———嗚呼。)」
迫る亀裂を、黙して見つめる事しか出来ない。瞼を閉じようにも動かせず、しかし必要もないかとイサビはすぐ諦めた。そしてついに全ての光景が「無」に塗りつぶされ、一切の感覚が閉ざされる。最早自らを捕らえたオーフィスの存在さえ、イサビには感じ取ることは出来なかった。
もう亀裂は塞いだのか。
途端に、冴えわたっていた思考に微睡みが生まれた。心地よい酩酊にも似たソレ、しかし酷く恐ろしく感じる眠りへの誘い。抗う術もなく、イサビの精神は誘われるがままに夢の底へと落ちていった。
いつか目覚める日に、願わくば。また美しい光景が見られるように。心躍る未知に出会えるように。
贅沢な望みだと思いながらも、イサビはそう願わずにはいられなかった。
なんだこれ。いや、突っ込みどころは多々ありますが。とりあえず番外編終了。
BADEND√。いや、GOODENDともとれるけど。色々アレなので、修正はいるかもしれません。