山の怪の王   作:鉤森

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まあ放っておいてしまったし、グダグダしててもアレなので最終話


「完」

 

「イサビ。アレ、どんな意味がある?」

 

 

「ん~?そうじゃのぉ。」

 

 

オーフィスの問いかけに、陶器の酒瓶を注ぎ口から豪快に煽っていたイサビが間延びした声を上げる。

現在、イサビは黒の着物と下駄、オーフィスはいつものゴシックドレスに、揃いの外套を羽織っている。そしてその視線の先には、狂いに狂った様子で「魔獣創造」にてオーフィスを作るレオナルドの姿があった。

 

酒瓶の口からぷはっと口を離し、イサビは答える。

 

「オマエがわしと来るなら、主を首魁にした組織の追手は面倒じゃからのぉ。替え玉にちょうどいいだろう。」

 

 

「…意外。」

 

 

「うむ?」

 

 

「我の同行を決めた事。興味があると言った「人間」を今使いつぶしてる事。我、わからない。」

 

 

「ふむ。」

 

 

イサビは赤みの増した顔に僅かな笑みを浮かべ、ここに来るまでで多少は親交の深まった相手を愉快そうに観察する。そして龍、或いは龍らしき「なにか」である彼女の純粋さを己を理解しようとする姿勢から再確認し、再び酒を仰いだ。

ぐびぐびと喉が鳴り、酒精が鼻を抜けて外気に溶ける。口を開けば酒臭い返答が躍った。

 

「だってオマエ、確実に追ってくるじゃろ。居を構えて引き籠るにも旅するにも、そう何度も襲撃されては叶わんからの。手元にあった方がマシじゃろ。」

 

「わーい。」

 

「褒めてはおらんのじゃがな…で、だ。」

 

 

無表情にももろ手を挙げて喜ぶしぐさを取る彼女に嘆息し、酒瓶を揺する。

つまみが欲しい。そう思いながら、視線を前に戻した。その先にいる壊れたレオナルドの作業工程を、ぼんやりと眺める。

 

 

「こうも簡単に壊れるならば元より望み薄じゃしな。幻術(まやかし)も気付けず防げぬ様子ではのう…それに…。」

 

 

「?」

 

 

「大層恨まれている様子だったのでな。ただの気まぐれよ。」

 

 

今のイサビはかつての酒の席で語った通り、人間には期待はしている。だがそれでもやはり、この程度の遊び(・・)にも付き合えないならば興味は失せるとイサビは切り捨てた。それはかの盟友・ティキを退けたという人間(ムヒョ)と比べるのは酷だとしても、先日酒盛り(アルハラ)に付き合わせた赤い龍だとかいう悪魔の小僧でもこの程度は跳ね除けるという確信からくる上での判断でもあった。

そしてもう一つ。イサビの目に余ったのはこの場所、即ち、「英雄派」のアジトにあった。視界いっぱいに、「ソレら」は映っていた。

 

 

 

「霊魂の概念が希薄で力を得にくいこの世界で…よくぞここまで「溜まった」ものだ。」

 

 

ソレらが一体かつて誰であった存在なのか、或いは誰に向けられた怨嗟なのかはイサビには解らないし、興味もない。

しかしいっそ感心するほどの量に、恨みの深さに。ソレらを既知の情報として知るイサビには、波長の一致もあって見えていたのだ。レオナルドを明確に狂わせ、今なお聞こえぬ声で呪詛を吐く存在達が。

 

 

 

 

そう。その視界に夥しく浮かぶ、いずれも悪霊化しかけた「怨霊(バケモノ)」の…夥しき群れが。

 

 

 

 

「……?」

 

「ほっほ。見えんかえ?まあワシと共におれば次第に見えるじゃろうて。」

 

「そう。楽しみ?」

 

「何、慣れれば愛いものじゃよ…。」

 

 

 

 

小首を傾げるオーフィスの様子に、楽し気に笑うイサビの脳裏に浮かぶのは…かつて「通行証」を下賜した一体の(バケモノ)だった。

余りにも哀れでちっぽけで、弱弱しい姿に興味は薄かったが…己に縋りついて懇願をし続けるソレをなんとなく放って置けずに、結局は願いを叶えてやった哀れな女の成れの果て。ティキを倒したという事実から鑑みるに、恐らくは地獄に落とされたであろうことは想像に難くはない。

此処に満ちる怨霊(バケモノ)を見て、ふと思い出して懐かしくなった。だからこそ思い立ち、彼らの恨みにささやかな手助けをしたのだ。理由などそれくらいの些細なものだった。

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

「主の「蛇」をふんだんに注ぎ込み、幻術でこさえた亀裂に怨霊をかためて(・・・・)憑かせてやった。神器とやらは持ち主の心に反応するらしいからの、狂った頭と体内の「こさえたい者の一部」があるならば、より高い完成度のオマエが作れるじゃろうて。」

 

 

「ん。我、がんばった。」

 

 

「とくれば…これ以上の長居は不要じゃな。あくまでも主の失踪を遅らせるための手段でしかない、さっさと出発する方がよかろ。」

 

 

空っぽになった酒瓶を逆さにして落ちる雫を、伸ばした舌で受け止めながらイサビは告げる。その言葉にオーフィスはイサビからはぐれないようにか――もしかしたら逃がさないためかもしれないが――イサビの空いている方の手を小さな手で握り、しっかりと繋いだ。

イサビは満足そうに頷き、ほどなくして二人は誰にも気づかれることなく屋外に出ていた。蒼く晴れ渡っていた空は既に満天の星空が煌き、悪魔の支配する時間帯に移り変わっている。

 

 

 

 

 

 

見上げた空を見ながら思う。かつては様々なものを見て、知り尽くしていたと思っていた。そんな常識(うぬぼれ)も三度ほども覆され…今もこうして、想像も出来なかった状況に及んでいる。余りにも大きな未知の未来が、これからも訪れるだろう。

 

 

 

 

引き籠るのはある種の性分で度々繰り返したが、思えば人間だった時からこの好奇心には勝てなかったのだ。だからきっと、この袂にある感情にはこの先も勝てない事だろう。

それは何とも、胸が躍る。

 

 

 

禁魔法に手を染めた在りし日のように。ペイジと悪魔長に敗れた時のように。盟友が滅びて放浪の旅に出た時のように。…そして、この世界に訪れた時のように。イサビは軽い気持ちで、誓いを新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

「まずは楽しもうかの。流れるままに、赴くままに。釣り糸を垂らすような気持ちでな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、これにて御終いにございます。まずは感謝を。

「山の怪の王」を最後までご覧いただき、万感の思いを込めて感謝の意を示させて頂きます。本当にありがとうございました。
拙作は遅い、拙いなどの問題作であったという自負は多大にありましたが、ともかく書きたかったネタを形に出来て満足しています。感想に喜び、お気に入りしてくださった方々に感謝し、時に日刊ランキングに載った時には吐きそうなほど驚いたりもしました。皆様のおかげでかき上げることが出来ました。



本音をいえばぶっちゃけネタ自体はまだありました(サーゼクスとの出会いや後日談、クリスマスにネウロ参戦、小猫ちゃんの弟子入りSAN値直送など)が、どう考えても書き上げる余力も頭もないので、多分書きません。尻切れトンボに感じてしまった方には申し訳ない限りですが。この作品はこれにて完結とさせていただきました。


もしもまた別の作品で会えたならば、その時はどうかよろしくお願いいたします。では。
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