山の怪の王   作:鉤森

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少しずつ



第三条

一行が長い獣道を抜けて、木々が避けるようにして出来た空間の開けた視界、そのど真ん中に、その山門は現れた。

 

 

質素にしてかつての偉容を思わす、大きく立派なその山門。しかし所々に老朽化の様子が見られる様は相当な年月を経ている証であり、有り体に言えばみすぼらしく、いっそ不気味で、なんの変哲もない廃墟の門だ。とても知性持つ存在が住んでいるとは思えない有様だ。

ましてやただの世捨て人ならばともかく、曲がりなりにも魔王の友人が住むような場所とは思えなかった。

 

だが、それよりも。

 

何よりも奇妙なのは、その山門が作り出す光景にあった。山門は森の持つ「自然」として、これ以上なく溶け込んで完成しているように映っていた。

 

朽ちて苔むしたから?所々に蔦が絡んでいるから?周囲が木々に満ちているから?

そのどれもが間違っている。如何に苔むそうが山門は山門。木造であれ人工物でしかなく、朽ちて土に還らぬ限りは「自然」とは呼び難い。にも拘わらず、その山門は疑いようもなく「自然」の一部だった。年月を重ねた大樹がたまたま山門の形をとったような、山の土に自然に生えて伸びたかの様な一体感があり、それは間違いなく山の一部と言えた。

 

「自然」である。が、故の「不自然」がまとわりついて離れない。結界など使わなくとも、その空間はすでに一つの「異界」と呼べた。

 

 

 

**********

 

 

「(…これが、魔王様のご友人、イサビ様の住処か。一般的に人の住む家、特に門や玄関などは人柄を表すというが…)」

 

 

木場裕斗は、未知の人物であるイサビの人物像に思いを馳せ、山門付近を観察していた。

 

彼は思考する戦士だ。生来の生真面目さもあるが、得意とする高速戦闘に置ける情報処理能力に加え、数多無数の魔剣を創造して使い分ける器用さ、剣士としての思考の読み取り(トレース)に長けている。無論、責任感の強さからくるグレモリー眷属としての自負も、そこにはあった。

 

それらの長所を正しく把握しているからこそ、少ない情報からイサビという人物像を捉えようと眼を凝らす。些細な情報すら漏らすまいと、観察を続けていた。

 

無論、それが容易ではないと百も承知ではある。そうでなければ、かの魔王サーゼクスが「掴み難い」などとは表現しないだろう。だが難しい事とやらない事は(イコール)ではない。故に五感六感の全てを研ぎ澄ませ、少しでもなにかを掴もうと意気込んでいた。

それは間違った行いではない。実際、彼は洞察力にも長けている。思考に頼るに留まらず、時に自らの直観に選択を委ねられる柔軟さもあり、今回の旅の目的を果たす上では欠かせないキーパーソンと言えた。

 

 

 

だからこそ。小猫に次いで、気付いてしまったのは彼だった(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「…………………?」

 

 

 

はじめ、それは虫の囁きのように聞こえた。

微かに鼓膜を震わす、小さな音。普段であれば早々気にも留めないような、それ。しかし彼は極限の集中状態にあり、少しでも情報を得ようとしていた彼には、そんな小さな音も無視できなかった。瞳を閉じて、その小さな音に耳を澄ます。拾い上げる。

音は止まない。絶えず、絶えず、囁いている。こしょこしょと、ゴニョゴニョと、キーキーと、ブツブツと———。

 

 

「…………!!!?」

 

そして、気付く。それは虫の囁きなどではない(・・・・・・・・・・・・・)。小さく、言葉の意味さえ分からないが———自分たちを取り囲む何者か達の、小さな小さな話声だと気付く(・・・・・・・・・・・・・)

その事実に、全身から冷や汗が噴き出すのを感じた。早く皆に伝えなくては、部長に、一誠君に———そう、強い衝動と危機感に駆られた。囲まれている。一刻の猶予さえない。急げ、急げ、急げ!

 

力強く眼を見開き、そして———

 

 

 

 

 

 

視た(・・)

 

 

 

 

 

 

「ぁ………、—————————ぅ、わああああああああああああああああ!!?」

 

 

 

「それら」は、足元に、頭上の樹に、山門に、木の虚に、地面に、岩の上に、蔦の隙間に、木目に、部員の肩の上に、しがみつくように、絡みつくように、観察するように、警告するように————いた。いた。いた!

 

思わず叫んだ自分に皆が驚いたように視線を向けてくる。が、それどころではなかった。喉が痙攣し、声は出せない。何より、その光景は異常だった。

 

歯を剥き出した土人形の様ななにかがいた。

木々に葉に覆われたなにかがいた。

一つ目の蛇の様ななにかがいた。

空を舞う形容しがたいなにかがいた。

大きな体のなにか、形さえ定かではないなにか。

 

なにか、なにか、なにかが、犇めくように、いた。

 

 

なんで皆気付かないんだ、そう叫びたいのに声は出ない。しかし、よく観察してみると、自分を心配する表情とは違う表情を浮かべる二人に気付いた。

 

 

 

「気付いたんですね」と同情するように、謝罪するように瞳を向ける小猫。

 

「気付いたみたいだね」と楽しむように、懐かしむように笑んだサーゼクス。

 

 

 

その表情から、そして入山直後からの小猫の様子から、最初から見られていたことを察するのに時間はかからなかった。繋がっていく。そうか、そうだったのか、これが、この山が最初から———そう、思うよりも早く。思考が完結し、冷静さを取りもどすよりも早く。

 

 

 

 

 

閉ざされた山門の扉が、ゆっくりと開いていく光景が、眼に飛び込んで来た。

 

 

 

 

 

 

門の向こう。闇に浮かぶ、黒に縁取られた相貌が。

 

 

 

 

自分を見て、嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホラーちっくは楽しい


書き方に安定がないけど
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