ぽつりぽつり
「木場!?」
空を裂き、森に響き渡るかのような友人の絶叫にいち早く反応したのは、彼のすぐ後ろで山門の作り出す空気に呑まれかけていた一誠だった。
木場とは第一印象こそイケメンで女子にモテることもあり悪かったものの、既に数々の修羅場を共に潜り抜け、その人柄に向き合うことで、同性であることも相まってその信頼関係は強固なものになっている。その折れぬ強さ、常穏やかな平静さには、幾度となく助けられた。既に彼らは親友だった。
そんな親友の聞いたこともないような叫びに、反応しない彼ではない。半ば反射的に駆け寄って崩れそうな身体を後ろから支え、それに続くように、共に『情愛』の名を冠する部員達も駆け寄ってくる。木場は尚も眼を見開いたまま、酸欠にでもなったように口をパクパクと動かしている。
「裕斗!?しっかりなさい!」
木場を必死に呼びかけながら、紅髪を振り乱すほどの焦りを見せるリアス。それを宥める朱乃も冷静とは呼び難く、一誠の後ろから駆け寄ったアーシアも酷く狼狽した様子を見せ、涙目になりながら木場へと呼び掛けている。
自然が作り出す静寂に満ちていた場の空気は、一転して混沌の渦へと呑み込まれた。
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事態の真相を知るサーゼクスと小猫を除いた面々が木場に駆け寄り、呼び掛ける中。最後尾にいたゼノヴィアは一人、リアスと立ち位置を入れ替えるように最前へと踏み出し、
別に彼女が薄情なわけではない。確かにこの面々の中では最も日の浅い間柄、ましてや一度は剣を交えたこともあるが、彼女は既に悪魔として、グレモリー眷属の一員として剣を取ることを決めている。その決意に偽りはなく、彼女もまた木場の身を案じていた。
そう。故にこの行動は、冷静さは、案じているからこそである。
だからこそ、彼女は手にしたデュランダルを離せずにいた。眼前から目を背けずにいた。全身はいつでも飛び出して対応できるように、漲っていた。
彼女の視線の先、そこには、山門があった。
「(…木場は、ちょっとやそっとの事で叫ぶような奴ではない。ならば当然———相応の「なにか」があったと見るべきだ。)」
彼女は元・教会の騎士として、サーゼクスを除いたこの場では最も場数を踏んでいた。如何なる戦場においても想定外の事態など日常茶飯事であり、彼女はその中を生き抜いてきた猛者、木場とは逆に思考よりも直感で動くタイプの剣士だ。その数々の死地を生き抜いた動物的直感が、本能の様な形で彼女に警告する。
「絶対に隙を見せるな。絶対に気を抜くな」と。彼女は、その感覚に従って動いていた。
不測の事態に遭遇した際、冷静さを欠けば待ち受けるのは死である。故にこそ、ここは気が抜けない。
この山門の向こう側が
だが、もしも違ったら。戯れに術をかけてくるような輩なら。或いはそのイサビとやらが、既に敵対していたならば。そう考えるほど、暗い不安は募っていく。
想定する。身構える。その視線の先を睨みつけ、全神経を集中させる。
そうこうしている内に、背後の騒ぎが収まっていく行くのを気配から感じた。木場が落ち着きを取り戻したのか、安堵の空気が背中から伝わってくる。
無意識の内に、彼女も安堵した。杞憂だったかと、構えたデュランダルの剣先が僅かに下がる。
そこに。
からん、と。下駄の音が、やけに大きく響いた。
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———からん。ころり。
一同の視線が、山門へと向く。緊張が、困惑が、警戒が、純粋な驚きが、親しみが、一点へと向けられるそれぞれの視線に彩を与えていた。
———山門の向こうには、見渡せぬ闇が広がっている。黒く、黒く、微かな先さえ見渡せない。それは底の見えない闇のようにも、墨をぶちまけて黒く塗りつぶしたようにも見える。何も見通せない闇があった。だが、そんなことはあり得ないと全員が既に理解している。
だってそうだ。
伴い、辺りの空気がざわめいてくる。そして次第に、他の部員達にも「それら」の姿が見えてきた。小さな悲鳴と、驚きの声が上がっていく。
夥しい数の山の精。不可視のまま、或いは気付かせないまま周囲を取り囲んでいた無数の存在達。今の今まで気づけなかった「それら」がまるで浮かれるように騒ぎ出していた。歯を剥き出し、葉を揺らし、もろ手を挙げて、飛び回りながら。
そして。
見渡せぬ闇に、ぎょろりとした相貌が浮かぶ。
「ほほっ、これはまた随分と騒がしい
声が、響く。中性的で、老獪なそれ。次第に、その面が闇に浮かび上がる様に鮮明に見えてくる。
「して、サーゼクスよ。」
色のない長髪が揺れ、肌にもまた白く、儚げな印象を与える。華奢な体躯を、粗末な和装が包んでいた。
「こりゃどういった趣向かえ?」
黒に縁取られた相貌。小さな麻呂眉。東洋の龍を思わす双角。整った顔立ち。微笑む口元。
きゃーきゃーと囀る様に騒ぐ、数多無数の
『
難産。文章化的意味で。
そろそろ連載にした方がいいのか