さて。ここまで遡った時は漸く、第二条、冒頭の直後に繋がっていく。追い付いた。庵の通路の如く長々とした、濃い会談までの過程もこれにて終了である。
残る経緯を、駆け足で語るとしよう。
一同が通されたイサビの塒。それは、例えるまでもなく
長く、長く、生々しき庵を進んだその先。天に向かって衝き伸びる直立する大樹の、首が痛くなるほど見上げた天辺付近に、その塒…イサビの私室、本宅とも呼ぶべき「それ」。
放射状に伸びた太い枝の間に、細かく枝や蔦の絡まってできた土台。十畳かそこらほどのスペースを持った、すり鉢状の床。外を見やれば連なる霊峰。幻術満ちる霊山の森臨む、絶景の玉座。
王の私室と言うにはあまりにも簡素で異質なその場所にて、此度の会談は幕を開けた。
イサビを前にして扇状に座し。サーゼクス、そしてリアスが中心となり語られる、今回の訪問の
大戦から続く三竦み。永き睨み合いによって行き着いた各々の限界の状況。露見しつつある「聖書の神」の死。そして、和平の兆し。
和平を不満とする者達の存在によってこの国、果てはこの地さえも戦場になり得るかもしれない事。その騒動には、ここにいる面々が中心に立つ可能性が高い事。イサビには不干渉か、出来るならば協力を願い出たい事。
全ては詳細に語られた。たった一つの虚言も些細な
それは内容からして、イサビという破綻者を前にしての危険な賭けでもあったが…同時に、彼を相手にする上では最適解と言える選択でもあった。
サーゼクスが伝えるまでもなく。下手な嘘や誤魔化しがあったならば、この老獪なる
この場において、この山で。
当のイサビは今まで絶やさなかった笑みさえ消し、胡坐をかき、それを聞いていた。終始黙したまま、口一つ挟まない。それは無関心なようにも、悩んでいるようにも、或いは激怒しているようにも見える、ただならぬ沈黙だった。安堵を許さぬ沈黙であった。
数分ほど経ったであろうか。長き沈黙の後にぽんっと膝を叩き、イサビが立ち上がる。思わず身構えそうになる
それは大ぶりな「杯」だ。
一同の視線が、困惑交じりにイサビに向く。彼は既に瓶からその自家製らしき酒を盛大に煽っていた。そして一息ついたかのように大きく息を吐き、その視線が集まった視線とぶつかる。
「呑めぃ。話はそれからじゃ。」
にたり、と、イサビは嗤う。それは邪悪で、しかし無邪気な笑みで…逆らうことを許さぬ笑みだった。
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そして時はこれにて戻り。次々に酒精に倒れた死屍累々の仲間達を周囲に
不幸にもタフさが発揮された
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「最後の小僧は存外持ったのう。フフッ…中々に楽しめたぞ、サーゼクス。良き土産共じゃ。」
「それは何よりだ。彼らは明日こそ地獄かもしれないが…そこはリーアの『僧侶』が何とかするだろう。」
二人は現在、塒のその上…平たく伸びた形状の
階下…塒には酒精に倒れた者達が転がる様に眠っており、それを
二人は、揃って月を見上げる。その形はしなる弓のように弧を描いた見事な三日月だ。言葉もなく、ぐびりと二人の杯が同時に傾いだ。
ほう、と、二人分の吐息が夜風に流れていく。
「イサビ。僕はね、君が
「ほう。」
サーゼクスのそんな呟きに、イサビの声が弾む。面白い事を聞いたというように。
持参したらしい、サーゼクスの赤漆の杯が再び傾く。嚥下する音が、静かに響いた。
「以前の世界では人間の無意味な追手が煩わしくなって、やりたい事も粗方なくなったから身を隠したらしいが…或いは、それも一つも戯れだったのかもしれないけれど。君は本来、好奇心旺盛でやんちゃな奴だと僕は思っている。
その努力、才覚の高さも含めてだ。
「どこかの勢力に属するのが煩わしい。それはきっと
だから、と…サーゼクスが見つめる。
その視線の先のイサビは月を見たまま、淡い月明かりに照らされていた。
「だから君は…
「そしてこればかりは勘だが」と。尚もサーゼクスは続ける。
その相貌には、確かな確信が浮かんでいた。
「君はもう、「それ」の調べを終えている。そろそろ…遊びに繰り出そうか、考えていたんじゃないか?」
イサビは、答えなかった。
答えはしなかったが。
さて。続くのか。