山の怪の王   作:鉤森

7 / 13
妄想つきそう。安定がしない



第七条

さて。ここまで遡った時は漸く、第二条、冒頭の直後に繋がっていく。追い付いた。庵の通路の如く長々とした、濃い会談までの過程もこれにて終了である。

残る経緯を、駆け足で語るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同が通されたイサビの塒。それは、例えるまでもなく巨大な鳥の巣だった(・・・・・・・・・)

 

長く、長く、生々しき庵を進んだその先。天に向かって衝き伸びる直立する大樹の、首が痛くなるほど見上げた天辺付近に、その塒…イサビの私室、本宅とも呼ぶべき「それ」。

放射状に伸びた太い枝の間に、細かく枝や蔦の絡まってできた土台。十畳かそこらほどのスペースを持った、すり鉢状の床。外を見やれば連なる霊峰。幻術満ちる霊山の森臨む、絶景の玉座。

王の私室と言うにはあまりにも簡素で異質なその場所にて、此度の会談は幕を開けた。

 

イサビを前にして扇状に座し。サーゼクス、そしてリアスが中心となり語られる、今回の訪問の理由(ワケ)

 

大戦から続く三竦み。永き睨み合いによって行き着いた各々の限界の状況。露見しつつある「聖書の神」の死。そして、和平の兆し。

和平を不満とする者達の存在によってこの国、果てはこの地さえも戦場になり得るかもしれない事。その騒動には、ここにいる面々が中心に立つ可能性が高い事。イサビには不干渉か、出来るならば協力を願い出たい事。

 

全ては詳細に語られた。たった一つの虚言も些細なぼかし(・・・)、誤魔化しさえもなく、淡々と、明快に。

それは内容からして、イサビという破綻者を前にしての危険な賭けでもあったが…同時に、彼を相手にする上では最適解と言える選択でもあった。

サーゼクスが伝えるまでもなく。下手な嘘や誤魔化しがあったならば、この老獪なる使者(いぎょう)は躊躇わずに、即座にこの場の全員を喰い千切るだろう。否、それでは済まないと一同は確信していた。

この場において、この山で。()(もの)(おう)たる彼を僅かでも欺くことは、最も忌避すべき行為であると。この霊山の全てを敵に回すことになると(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。全員が、肌で、感覚で理解していた。

 

当のイサビは今まで絶やさなかった笑みさえ消し、胡坐をかき、それを聞いていた。終始黙したまま、口一つ挟まない。それは無関心なようにも、悩んでいるようにも、或いは激怒しているようにも見える、ただならぬ沈黙だった。安堵を許さぬ沈黙であった。

数分ほど経ったであろうか。長き沈黙の後にぽんっと膝を叩き、イサビが立ち上がる。思わず身構えそうになる(リアス)とその眷属達をサーゼクスが目線で制する中、座した状態の一同の前に、こんっと重みのある音を立てて、人数分の「なにか」が置かれた。

 

それは大ぶりな「杯」だ。なみなみ(・・・・)と満たされた澄んだ液体からは、強すぎるほどの酒精の匂いが感じられる。疑いようもなく、それが酒である事が伺えた。

一同の視線が、困惑交じりにイサビに向く。彼は既に瓶からその自家製らしき酒を盛大に煽っていた。そして一息ついたかのように大きく息を吐き、その視線が集まった視線とぶつかる。

 

 

「呑めぃ。話はそれからじゃ。」

 

 

にたり、と、イサビは嗤う。それは邪悪で、しかし無邪気な笑みで…逆らうことを許さぬ笑みだった。

 

 

 

**********

 

 

 

 

そして時はこれにて戻り。次々に酒精に倒れた死屍累々の仲間達を周囲に侍らせ(ころがし)ながら、一誠は逆らえぬアルハラに苦しまされることと相成った。

不幸にもタフさが発揮された赤龍帝(いっせい)が屍の山に加わるのは、それから暫くしてのことだった。

 

 

 

 

 

**********

 

 

「最後の小僧は存外持ったのう。フフッ…中々に楽しめたぞ、サーゼクス。良き土産共じゃ。」

 

 

「それは何よりだ。彼らは明日こそ地獄かもしれないが…そこはリーアの『僧侶』が何とかするだろう。」

 

 

二人は現在、塒のその上…平たく伸びた形状の(やま)()に乗って、月見酒と洒落こんでいた。

階下…塒には酒精に倒れた者達が転がる様に眠っており、それを(やま)()達が介抱している。歯を剥き出した土人形の様なそれや、枝葉の塊の様なそれがキーキーと鳴きながら集まって毛布を掛けたり背中をさすっている光景は中々にシュールである。小猫が無意識にそれらを感じているのか、耳と尻尾を出してうなされていた。

二人は、揃って月を見上げる。その形はしなる弓のように弧を描いた見事な三日月だ。言葉もなく、ぐびりと二人の杯が同時に傾いだ。

ほう、と、二人分の吐息が夜風に流れていく。

 

 

「イサビ。僕はね、君がそろそろ(・・・・)退屈していると思っていたんだ。だからこそ、僕はここに来た。」

 

 

「ほう。」

 

 

サーゼクスのそんな呟きに、イサビの声が弾む。面白い事を聞いたというように。

持参したらしい、サーゼクスの赤漆の杯が再び傾く。嚥下する音が、静かに響いた。

 

 

「以前の世界では人間の無意味な追手が煩わしくなって、やりたい事も粗方なくなったから身を隠したらしいが…或いは、それも一つも戯れだったのかもしれないけれど。君は本来、好奇心旺盛でやんちゃな奴だと僕は思っている。人でなくなる程に(・・・・・・・・)、君は君自信の関心に対してはひたむきだ。学ぶときに学び、遊ぶときには遊ぶ。」

 

使者化(ソレ)に至るまでにどんな理由があったのか。かつての酒宴の席でも、それを彼は語りはしなかったが…奇しくも「悪魔の駒(イービルピース)」という、人から人外へと変わる魔具がこの世界にも存在するがために。独力でそれを成し、魔王級(ここまで)に至った彼の行為の困難さは、サーゼクスにも理解できていた。

その努力、才覚の高さも含めてだ。

 

「どこかの勢力に属するのが煩わしい。それはきっと真実(ほんしん)だ、だがソレだけじゃあ足りない気がする。真の永遠を手にしても、いやだからこそ君はきっと…本質までは変われないし、変わろうともしない。永遠(ふへん)を手にしているならば猶更だ。君の性格なら、もう少しこの世界を見て回っても不思議じゃないと僕は思っている。」

 

だから、と…サーゼクスが見つめる。

その視線の先のイサビは月を見たまま、淡い月明かりに照らされていた。

 

 

 

「だから君は…その腹に納まった『関心』にこそ夢中だった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。だから引き籠っていたんじゃないかな。」

 

 

「そしてこればかりは勘だが」と。尚もサーゼクスは続ける。

その相貌には、確かな確信が浮かんでいた。

 

 

「君はもう、「それ」の調べを終えている。そろそろ…遊びに繰り出そうか、考えていたんじゃないか?」

 

 

イサビは、答えなかった。

 

答えはしなかったが。

 

 

 

 

 

 

その口は天の三日月のように弧を描いていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて。続くのか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。