山の怪の王   作:鉤森

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微戦闘。少しおっかなびっくり。キャラ崩壊?捏造マシマシ。


※今更ながら沢山の感想とお気に入り、ありがとうございます


第九条

その「龍」の名と絶望的な強さを語る事が出来る者は数いれど、その「龍」そのものについて語れるものはまずいない。

 

当然の話だ。そもそも深く語れることなど何一つ存在しない。恐らく本人さえ、これまでの自分自身の事について語ることは出来ないだろう。そも、その「龍」にはなにもないのだから(・・・・・・・・・)

 

およそ全てを手に入れることが出来る力がある。故にこそ、欲求というものは存在しなかった。

完成された状態で、比喩のない永遠を生きられた。故にこそ、激しく揺さぶられる感情というものが育つことはなかった。

最初がないから終焉(オワリ)がない。終焉がなければ同胞もない。同胞もないから執着もない。

 

「龍」には何もなかったがゆえに。「龍」には失うものさえない「完全」であった。

 

無より生じ、無限を宿す。虚無に生まれた絶対者。その強さゆえに並び立てる者、対立出来る者、心揺さぶれる者は対を成す「夢幻(・・)」の唯一柱を除いて他にない。

 

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』。霊峰の襲撃者である黒き少女・オーフィスとは、そのような孤独の存在だった。

 

 

**********

 

 

 

「まだ終わってない。終わらないハズ。我に見せろ、未知なる無間(・・・・・・)。」

 

 

 

 

吹き上がる、山一つ分では到底足りぬほどの大粉塵。さながら大噴火の直後の様な何一つ見通せぬ質量の土煙を前に、オーフィスは小さくもよく通る声で語りかける。漆黒の眼差しは()の存在への期待から、その生存を疑わず、微動だにしないまま破壊の惨状に向けられている。

 

その問いかけに返答はない。気配も、またない。彼女を知る者が見ればきっと、イサビの生存はあり得ないと断言していただろう。当然と言えば当然、先の魔力砲撃を浴びれば、例え不死であれ容易く消し飛ぶ事は間違いない。世界の無二ならぬ頂点の力が存分に編まれた全力(・・)に正面から抗える…迎え撃てる存在など、この世界には(・・・・・・)「夢幻」を除いて他にいない。それは他ならぬ彼女こそが、最もよく知る事実なのだから。

 

しかし、彼女…オーフィスは「あり得ない」という万人の結論に納得し、理解はするが。断じてそれを否定する。

確信していた。偶然感じ取れたに過ぎないが、『アレは間違いなく(おのれ)に応えてくれる存在だ』と。それは高揚にも似た、彼女自身も感じたことのない強い感情だった。

 

しかして、「あり得ざる確信」は現実となる。

 

 

『オイ。』

 

地の底から響くような、煮え滾る怒気を孕んだ短い返答。それが耳に届くと同時に砂塵の大天幕が強引に引き千切られ、その向こうから、巨大に変身し(かわりはて)たイサビの姿が露となる。大きく見開かれた虹彩のない異形の眼がオーフィスを捉えるのと、その濃く濁った体色に染まった巨腕が破滅の使者たる隕石の如く振り抜かれたのは全くの同時だった。

 

「———……!!!」

 

その拳、それ自体は確かに強力だが大したことはない。しかしその巨腕に籠められ、纏わりついた漆黒の「呪詛(・・)」は別だ。

一瞬にして編まれた「ソレ」。「ソレ」に込められた黒々した(コトワリ)、混ざりに混ざった怨嗟と「なにか」の全てを見通すことはオーフィスをもってしても不可能だったが、それが「無限(おのれ)」にさえ届く埒外の「呪詛」であることは判断できた。食らえば何が起きるか見当もつかないその一撃に、さしものオーフィスも顔色一つ変えず、とはいかない。

 

そう———オーフィスは思わず笑ってしまった(・・・・・・・)

 

まだ片鱗、しかし「期待」は正しかったのだと理解して。あの「無間」は応えたと歓喜して(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

無論、迫る「無間」の一撃に、オーフィスが応じぬはずもなく。迫りくる巨拳に倣うように、背より噴出した無数の「蛇」が絡み合って迎え撃つ巨拳を形作る。ぎちぎちと筋肉と鱗がこすれて軋む音が響き渡り、途方もない「力」がそこに編まれていくのが黒い輝きから見て取れた。

そして黒々と輝く「ソレ」…神さえも屠るであろう「ソレ」を、正面から使い捨てるつもりで(・・・・・・・・・)迫りくる巨拳へ、脅威の「呪詛」へと躊躇なく叩きつけた。

 

 

瞬間、再びの轟音。使い捨ての蛇の巨拳とイサビの巨腕の拳が激突、互いに互いを吹き飛ばし、イサビの巨体が破壊された霊峰の上へと吹き飛ばされる。その際に吹き飛ぶイサビの双角より碧雷———「雷の槍」が刺し貫かんと飛来するが、先程の「無間(きょうい)」を感じぬソレは興味を持てる代物ではない。オーフィスは眉一つ動かさずに軽々と払い除け、空中に霧散する。

 

 

転がる巨体に再び舞い上がる粉塵、視線は再び固定される。追撃に走るわけでもなく、どこかワクワクとした様子で次の手を待っているオーフィス。

夢幻(グレートレッド)」の打倒、『静寂』を再びこの手に。その唯一の悲願さえも、今このひと時だけは高揚の彼方へと忘れ去られていた。

 

 

 

**********

 

 

『ぐッう ううぅッ ぅぅぅぅぅううううううッ!!!』

 

 

吹き飛ばされたイサビは消し飛んだ腕の傷口を抑えながら地面に転がり、苦悶と狂おしいほどの憤怒に唸り声を上げる。腕は既に再生しかけていたが、激痛はやけに長く深く響いている。

 

己の安寧の城、可愛い(やま)()達、美しくも親しき霊峰(ナワバリ)。その全てが、一瞬のうちに奪われた。自称であるとはいえ王を名乗る者なればこそ、その蛮行に怒り狂わぬ道理は存在せず…それ以前の話として、イサビは売られたケンカには死の返礼をくれてやるような気性の持ち主だ。許す気など毛頭ない。

 

だが。力量の差を感じ取れぬイサビではない。その一点が、煮えたぎる思考を冷たくしていた。

 

『よもや、あの一撃を苦も無く返しおるとは…!———見事なだけにハラ立たしい!」

 

腕の再生と共に巨大化がほどけ、憎々し気に中空にて佇む怨敵を仰ぎ見る。流れる冷や汗さえも忌々しいとばかりに、眉間には深い皺が刻まれている。口元から覗く牙は固く噛みしめられ、さながら威嚇のように剥き出されていた。

 

 

その表情はオーフィスと対照的に、焦燥と殺意で満ち満ちている。肌と角にヒシヒシと感じる力の余波さえ、今のイサビには火に油でしかない。

冷静ではあるが怒りが止むはずもなく。無論、イサビはこのままで終わらせるつもりは毛頭ない。

 

 

 

 

ならば(・・・)

 

 

 

 

**********

 

 

先のイサビの戦闘は、以前の世界で用いた『通行証』の使い方とほぼ(・・)同一だ。現世に在りながら己自身の「使者の肉体」を、『通行証』を介することで「道」を作り、絶大なる力を有した「無間地獄」の使者の位まで己を引き上げる。言ってしまえばブースト、存在の転化である。溢れ出る力と作り替わった自らの存在、その力と術はおよそ無敵の力を有した盟友・ティキを相手にして、互角の戦いを繰り広げられるほどに強大である。

 

 

しかし。ソレは強力ではあるものの、不完全な使用法に過ぎない(・・・・・・・・・・・・)

 

 

そもそもイサビが「無間地獄」の使者と本当に(・・・)同じになれたかと言えば、それは「否」だ。

イサビが如何に冥府の「六王」並の力を有していたとしても。その身体が比類なき使者の肉体をしていたとしても。「無間地獄」の使者には近づけれど、遠く及ばないのが事実である。それは同じ六王でありながら「冥王」が「魔王」に遠く及ばない事を例に挙げれば納得できるだろうか。果てなく、されど到達(堕ちる事)さえ手段として皆無な「無間」の底に潜む存在達は、ハッキリ言ってただの地獄や冥府の存在とは、存在の質と格が大きく異なる。イサビとてソレは百も承知であった。

更に言うならば無間地獄の疑似使者化したイサビは、本来の人間の用いるような召喚とはまるで異なる現界の状態にあるため、非常に燃費が悪い。そのため、これまでのイサビは莫大な負担を抱えながら、制御してその効力を引き出していた。

 

つまり要約すると。イサビの使者の肉体では、その程度の手段ではそれほどの力が出せても馴染まないのだ。

完全な形で「無間」を使いこなせていたのならば、ティキを相手に「互角」などあり得ない。そんな無間もどき(・・・・・)のままならば、真に「無限」たるオーフィスには通用するハズもないのが当然の道理だ。

それでもイサビの攻撃がオーフィスに通じるものになっていたのは、ひとえに『通行証』と一体化したことで、以前よりも比べ物にならないほど酷似した形で「無間地獄」の使者に近づけたからだ。だがそれも長時間使えるものではない以上、あの高揚したオーフィス相手ではあまりにも不足している。捨て身の一撃というにも事足りない。

 

 

 

 

 

 

 

ならば現状において、イサビには打つ手はないかと言えば———

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

ゆらりと、イサビが立ち上がる。そして重苦しく、その口を開いた。

 

 

 

「キサマの名を寄越せ。最強にして無礼な小娘よ、何者だ。」

 

 

 

「我、オーフィス。憶えて置いてほしい、未知なる無間。」

 

 

 

「ワシの名はイサビじゃ。フン、そうさな。どうせ忘れられたくても忘れられん。キサマが何処(いずこ)のナニかは知らんが………どうせ許すつもりはないからな(・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

 

淡々と言葉を交わすイサビとオーフィス。音もなく、しかし次第に変化は起こった。

イサビの額に見開く「第三の眼」。悍ましく濁った痣が全身を裂け目の如く走り、その上を細かな呪詛の言葉が術式となり浮かび上がる。呪いと痣の中心を辿れば、一糸まとわぬ身体の中心には禍々しく見開かれた「眼」の様な器官が出現していた。呼応するように足元からは種類も様々な茸が一斉に発生し、それは周囲に夥しく繁殖、イサビを中心にポコポコと止まることなく広がっていく。

 

 

かつて最強の魔法律家として名高きペイジ・クラウスを前にして成った、イサビの本気の姿。しかしこれでは届かない、目の前の存在には遠く及ばないと理解している。故にこれは「下準備」だ。イサビは口元に笑みを作り、祈る様に両手を合わせた。

 

 

リスクはある(・・・・・・)。されど、この数世紀をかけて編み出した「答え」だ。現時点で自分が到達しうる限りの「完成」だ。これで届かないのならば、所詮それまでだったという事。

 

 

 

「オーフィスよ。」

 

 

 

「何?イサビ(・・・)。」

 

 

 

 

「何が目的だ、キサマ。」

 

 

 

 

お前(イサビ)。『静寂』の為…違う。きっと、これは我自身の為(・・・・・)。興味深い、だからお前を貰う(・・・・・)。」

 

 

 

 

「ほっほ…そそらんのぅ。怖気が走るわ。」

 

 

 

その言葉に嗤いながら、ベキベキと身体が、存在が、更なる変化を起こす。黙って見つめるオーフィスの視線を感じるが、どうやら邪魔する気はないらしい。自分でやっておいてなんだが、当たり前の如く舐められている事実に更なる苛立ちを覚えた。

だが待っているならば是非もなし。邪魔もなく。滞りもなく。「打破しうる手立て」が完成していく。

 

 

 

 

そして時は来た(・・・・・・・)

 

 

 

 

ザワリと、空気が変わる———否。空気が死に絶える(・・・・・)。その変化は土地一帯を包むかのように広がりを見せ、ここに来て初めて、オーフィスに警戒と困惑の色が生まれた。イサビという「未知」が至ったその「未知」に、オーフィスをして戸惑いを禁じ得ない。

戸惑いをそのままに、無垢に、素直に。思ったままの「ソレ」を口にする。

 

 

 

 

「———お前、誰?(・・)

 

 

 

 

尋ねられ、イサビらしき(・・・)存在は答える。三日月の様な笑みを浮かべ、太く曲がった角(・・・・・・・)を生やした頭を軽く傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホロアロロウ(やってみろ)ロレアケロソロウ(生きていられるうちにな)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり難しい。

でも次回に続く
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