ゼノブレイド2 the Novelize 作:natsuki
「破滅に向かっていく一方……? 予言官、いや、アルヴィースよ! お前はいったいどちらの味方をしているのだ。イーラか、それとも我が国か」
ラゲルト女王陛下は激昂する。
しかし、それを流すようにして、アルヴィースは笑みを浮かべる。
「嫌だなあ、女王陛下。僕はずっと人間の観測者であり予言官として勤めを全うするまでですよ」
◇◇◇
謁見も終わった俺たちは、しばしの自由時間が与えられた。
とはいえ、ここから直行でアーケディアに向かう船はないらしく、一度アヴァリティアを経由する必要があるらしい。
「本来なら、じっちゃんを使って一気に行きたかったんだけどな……」
テーブルにちょこんと座るじっちゃんを見ながら、俺は嘯く。
「何じゃ、レックス。何が言いたい」
「別にぃ。ちょっと、気になっただけ」
「何じゃ、レックス。言いたいことがあるなら面と向かって言うが良い」
「まあまあ、二人とも……。ところで、これ、どうしますか?」
ホムラが俺たちに見せつけてきたのは、チケットだった。
ただのチケットじゃない。演劇のチケットだ。そのチケットにはこう書かれていた。
「……確か『英雄アデルの物語』、だったっけ? あの女王陛下も面白いもの渡してくれるよな」
そう。
ラゲルト女王は、俺たちに時間が余っているなら、という理由で演劇のチケットを差し出してくれたのだ。
演劇のタイトルは『英雄と天の聖杯』。かつて英雄アデルが天の聖杯と……つまりホムラと、この世界、アルストを救った話だ。このアルストに住む人間なら誰だって大筋の話を知っている、非常に有名な話。
それを演劇にしたのが、フォンス・マイム劇団というわけだ。
「それにしても、こんな有名な話をずっと演劇し続けるってのも面白い話だけどね」
ニアの言葉に首を傾げる。
「だって、こんな物語、誰だって知っているじゃないか。英雄アデルが世界を救った話は。あまりに多すぎて脚色と実際の事実がどこまですりあわせられているか分からないくらいに。その結果、多くの人間が英雄アデルを称え、多くの人間が英雄アデルを憎んだ。前者がルクスリアなら、後者はスペルビア……ってところかな?」
「ここが、その劇場っちゅうわけやな」
会話を割り入れたように入ってきたジークの言葉を聞いて、俺は上を見上げる。
そこには立派な劇場があり、こう書かれていた。
――フォンス・マイム劇場、と。
「立派な劇場だな……」
「英雄アデルの演劇、十三時の回、まもなく始まりますよー! 空席も多いので、今のうちですよー!」
客引きをしている女の子の言葉を聞いて、俺たちはお互い目配せした。
「……ま、女王陛下から頂いたものは使わせて貰った方がええんちゃうか」
結局は、ジークの鶴の一声で、演劇を見ることになるのだった。