ゼノブレイド2 the Novelize 作:natsuki
「そういや、さっきの娘だがな、ありゃあイオンといって俺の知り合いのところの娘なんだよ。とは言っても、血は繋がっていなかったはずだがな」
ヴァンダムさんはそんなことを言って、俺たちに知識を開け広げてきた。
後方の列しか席が空いていなかったので、俺たちはそこに腰掛ける。
物語は、英雄アデルを主軸として進められ、その生涯が語られる話だった。
「そのとき私は見たのだ! 暗黒にすべてが飲み込まれる様を!」
アデルの弟子――演者が仰々しいポーズを取って、そう言った。
「人も、巨神獣も、暗黒の渦へと飲み込まれる様を!」
結構仕掛けはしっかりとしていて、船に乗っている様子も、雲海の様子も白いベールを使って表現されていた。
「このままでは世界は終わる。終わってしまう!」
そのとき、船に誰かが見えた。
全身を鎧で包んだその姿は、異形にも思えた。
しかし、その人間――実際には演者だけれど――こそが、英雄アデルだった。
「だが、そのとき、満身創痍の姿を起こし、我が師英雄アデルは決断したのだった!」
アデルは言う。
「神よ、我に力を! 暗黒を焼き払い、世界を照らす『光』の力を!」
剣を天に掲げ、そう叫んだ。
すると――、空から翼の生えた天使のような人間――実際には人形が出てきた。
「おお! そなたは天の聖杯、神のしもべ!」
アデルはオーバーなポーズを取りながら、話を続けた。
「どうか、我に力を。この世界を照らす『光』を――!」
すると炎のベールが舞い上がり、闇が消えていった。
あっという間の出来事だった。
アデルの弟子は、語りを再開する。
「こうして、暗黒は払われた。……しかし、その代償は大きかった。多くの大陸が、雲海の底へと、沈んでいったのだ……」
「モルスの地のことじゃな」
じっちゃんは俺のヘルメットの中から呟いた。
「モルスの地って……サルベージャーにとって『死の大地』と言われる、あの?」
「お前さん達がどう言っているかは知らんが、そうじゃな。雲海の底に沈んでいる大陸。かつてはそこに人間が住んでいたとも言われておる」
俺たちは再び演劇に視線を向ける。
アデルは、横たわる天の聖杯に近づいて、言った。
「神のしもべよ。そなたのおかげで、世界は救われた……! その命の代償、我が、償おう……」
そして、客席に向けて手を伸ばし、
「我は語り継ぐ! そなたの伝説を、我の名前とともに……!」
そして、横たわった天の聖杯を抱き上げると、そのままカーテンコールが下りていくのだった。
それは、演劇の終わりを意味していた。