ゼノブレイド2 the Novelize 作:natsuki
「ここが、目的地だ」
シンに言われた場所は、周りに他の巨神獣など一切居ない場所――モルスの断崖にほど近い場所だった。
普通のサルベージならこんなところは滅多に来ないね。なんでかって? そりゃ、モルスの地――この雲海の底に沈む死の国へと誘われるという言い伝えがあるからさ。ま、あまり気にしてはいないけれど、だからといって命知らずな人間もあまりいないってわけ。
そういうわけで俺たちサルべージャー軍団はサルベージスーツに全身身を包み、雲海へと潜っていくのだった。
雲海に潜り、暫くすると、やがて一つの船影が見えてきた。
「あれが……サルベージする予定のブツだな」
独りごちり、サルベージするための道具を装着する。
ボタンを押すとバルーンのごとく膨らみはじめ、ゆっくりと浮上し始める。
浮力、というものを利用して船ほどの巨大なものを運ぶのは初めてのことだったが、案外うまく行くものだな、と思いながら俺も船を追いかけるように浮上するのだった。
◇◇◇
「準備ができ次第、内部への調査に向かう」
「いいや。内部へ向かうのは俺たちだけだ」
リーダーの話を遮るように、シンはそう言った。
シンの言葉を聞いて「俺たちは邪魔者扱いかよ」と思ったが、これ以上言ってしまうと契約破棄になりかねないので、言わないでおくことにした。
所詮、俺たちとあいつらは契約によって結ばれている存在に過ぎない。
その契約が終わってしまえば、後はおしまいだ。
「ああ、そうだ。あとおまえも来い」
シンは俺を指さして、そう言った。……え、俺も?
「なんで俺も?」
「おまえはリベラリタス島嶼群のイヤサキ村出身なのだろう」
「あ、ああ。そうだけれど」
「だから、だ」
シンはそれだけを言って、古代船の中へと向かっていった。メツと、そのブレイドもまた彼の後を追いかけていく。
「……ほら、行くよ」
ニアだけは反応が違った。俺をおいていくのではなく、俺を出迎えて、俺とともに行こうとした。
だから、俺はニアの手を握った。
「ああ、行くぞ。……シンとやらにああ言われっぱなしじゃサルべージャーの名が廃るしな」
そうして、俺たちは古代船の中へと入っていった。
◇◇◇
古代船の中には、紋章が描かれた扉があった。
「……おい、シン。あれは、アデルの紋章だな」
「ああ。確かにそうだ。ここまではその通りだな」
二人がひそひそ話をしているが、どんな内容を話しているかは聞こえない。
だから俺は紋章を眺めているだけだった。
その紋章を――ただ懐かしく――眺めているだけだった。
「おい、レックスといったな」
俺を呼びかけたのはメツだった。メツの話は続く。
「これから先は、おまえしか扉を開けることができない。おまえが、扉を開けるんだ」
「俺が?」
「そうだ。おまえが、開けるんだ」
そんなことを言われても――と思い、紋章の扉を調べ始める。
一番気になったのは、その紋章だ。
そして、紋章に触れてみると、ゆっくりと扉は開き始める。
「え……え? ただ、触れただけなのに……!」
「やはり、リベラリタス島嶼群ということは間違いないようだな、シン」
「ああ。そうだな、メツ。……おい、そのまま、先に進め」
シンの言葉を聞いて、言われるがままにすることを少し嫌と思いながらも、歩いて行った。
そして、その先にあったのは――剣だった。
赤い、剣。特徴的な剣の先には、棺が屹立していた。
棺の蓋はガラスのように透明になっており、そこから中身を確認することができる。
棺の中で、女の子が眠るように横たわっている。
両手は神に祈りを捧げるかのごとく結ばれている。
そして、その光景を、俺はただ美しいと思っていた。
ただ、美しいと思ってしまっていた。
次に視線を剣に移す。その剣はただ突き刺さっているだけなのに、あふれ出る力は何かを思わせる。
……抜き取れ。
……抜き取れ。
まるでその剣を抜き取らなければならないような、そんな感じがした。
「おい、小僧!」
メツの言葉も、もう何を言っているのか聞き取れないほど朦朧としていた。
そして、俺は剣を――ゆっくりと抜き取った。
それと同時に、衝撃が走る。
吐き出したその液体を手に取ると、それは、血だった。
そして、俺は、シンの持つ剣に突き刺されているのだと、ようやく理解した。
「悪く思うなよ、少年」
シンは言った。
悪く思うな……?
いったい、どういうことだよ……?
俺の体を刺しておいて、悪く思うな、ってどういうことだよ……?
「この先の未来を見なくてもいいように、せめてもの手向けだ」
意味が分からないよ。分かるわけがないよ。
この先の未来? せめてもの手向け?
疑問がたくさん浮かんでいく。ああ、でも意識が徐々に朦朧としてきた……。血が出すぎたのかな……。
「レックス……!」
ニアの叫ぶ声が聞こえる。ニアは俺のこと、気にかけてくれていたのかな。ニアだけは悪く思えないのも、何故だか納得できてしまう。
ああ……目も霞んできた。
俺、こんなところで…………死ぬのか。
……………………そして、俺の意識は、そこで途絶えた。