分かっている。
ニアの気持ちも。
ホムラの気持ちも。
そして、シンの気持ちも。
少なくとも、分かったつもりではいる。
だからこそ。
「なあ、シン。一つだけ聞かせてくれ」
俺は剣を下ろした。
すると、
「レックスっ!?」
ニアが慌てたような声を上げる。
「何やってるんだよ!」
「戦う前に聞きたいことがあるんだ」
そう言って俺はシンを見る。
シンは少しだけ目を細めた。
「……何だ?」
「あんたは、何を知っているんだ?」
その瞬間だった。
シンの表情が僅かに変わった。
怒りでもない。
敵意でもない。
どちらかと言えば――呆れ。
そんな感情だった。
「知ってどうする」
「知りたいんだ」
「何故だ」
「だって、おかしいじゃないか」
俺は言った。
「俺たちは楽園を目指してる」
「……」
「でも、あんた達も世界樹を目指してる」
「……」
「だったら目的は同じなんじゃないのか?」
沈黙。
しばらくして。
シンは小さく息を吐いた。
「同じではない」
「どうして?」
「俺たちは楽園など信じていない」
「え?」
思わず間の抜けた声が出た。
楽園を信じていない?
じゃあ何で世界樹に向かうんだ。
「……レックス」
シンは静かに言う。
「お前は楽園を見たことがあるか?」
「いや」
「なら何故信じる」
「それは……」
答えようとして。
言葉が止まる。
何故だろう。
考えたこともなかった。
楽園がある。
だから行く。
ずっとそう思っていた。
「ホムラが言ったからか?」
「それは……」
違う。
いや、違わない。
確かにホムラが言った。
楽園へ行きたいと。
だから俺は。
「俺は――」
「それで十分だ」
シンが言った。
まるで会話を打ち切るように。
「誰かを信じること自体は間違いじゃない」
「……だったら!」
「だが」
その声は冷たかった。
「信じることと、何も知らないことは違う」
空気が張り詰める。
その言葉に。
俺だけじゃない。
ホムラも反応した。
「シン……」
「お前はまだ話していないのか」
「……」
「五百年前のことを」
ホムラは答えない。
いや。
答えられないのかもしれない。
シンはそんなホムラを見て、
「変わらないな」
そう呟いた。
「何の話だよ」
「お前には関係ない」
「関係ある!」
思わず叫んでいた。
シンが少しだけ目を見開く。
「ホムラのことなら関係ある!」
「……」
「俺はホムラのドライバーなんだ!」
静寂。
風が吹く。
遠くで巨神獣兵器の駆動音だけが響いている。
やがて。
シンは俺を見た。
真っ直ぐに。
どこか試すような目で。
「なら聞こう」
「え?」
「お前は何のために楽園へ行く」
「何のためって……」
決まっている。
ホムラのためだ。
そう答えようとして。
何故か言葉が止まった。
その瞬間。
シンが僅かに笑った。
初めて見た。
シンが笑うところなんて。
「答えられないか」
「違う!」
「なら答えろ」
「俺は――」
そのときだった。
「そこまでだ、シン」
聞き覚えのある声。
次の瞬間。
紫色の光が空を裂いた。
轟音。
衝撃。
俺たちは反射的に距離を取る。
そして。
巨神獣兵器の中央。
そこに立っていたのは。
「メツ!」
黒いコアクリスタル。
余裕の笑み。
そして。
圧倒的な存在感。
「せっかく面白くなってきたのによ」
メツは肩を竦めた。
「その辺にしとけ」
「……」
シンは黙る。
「レックスだったか?」
メツは笑う。
「お前、本当に何も知らねえんだな」
その言葉に。
俺は拳を握り締めた。
「だったら教えろよ!」
「ははっ」
メツは笑った。
「教えてほしいのか?」
「……」
「なら自分で確かめな」
そして。
メツは世界樹の方角を見た。
遥か彼方。
雲海の向こう。
天を貫く光の柱。
「答えは全部、あそこにある」
その瞬間。
メツの表情から笑みが消える。
「もっとも」
そして。
静かに。
まるで世界そのものを憎むような声で。
「知ったところで、絶望するだけだがな」
その言葉だけが。
妙に胸に引っ掛かった。